幼馴染からツノ生えたんだけど 作:口フェチ
「鍵閉めた?」
「うん」
「レッツゴー」
「ちょ、急に引っ張るな……」
家の鍵を締めたこと確認し、ルリの手を取って走り出す。
通学用のバスが出るまで時間があまりない。俺たち二人だけなら良いのだが友達との待ち合わせがあるので、急いでいる。
階段を下りきって、マンションを出る。まず向かうのは、コンビニ。俺たちの昼飯を買うためだ。ちなみに今日は俺がルリのパンを勝手に食っちゃったから俺の奢り。くぅ、金欠まっしぐら……!
ルリの手を引きながら住宅街を全力疾走する最中、ふと思いついたかのようにルリが口を開いた。
「そういや、ドラゴンと龍って何か違いあんのかな」
「え?んー……ドラゴンは翼があるやつで、龍は細長い奴……的な」
「また随分と適当な……まぁでも、そんなもんか」
「龍って、中国の生き物だよね。じゃあ、日本における龍とかドラゴンポジの生き物ってなに?」
「え、うーん……確か、鯉?」
「鯉?鯉かぁ……」
「……」
「……」
「この話題やめない?」
「完全同意」
正確な情報が一つも出てこない非生産的な話は早いところで打ち切るべし。
コンビニで焼きそばパンを2つ買って、次はバス停に向かう。
今のところ、奇跡的に信号が全て青なのでなんとか間に合いそうだ。
◆
「おーい……!ユカー……!」
「床ー」
バス停になんとか間に合った。鞄を2つ掛けていたせいで両肩が痛い。
待ち合わせをしている友達の名を息も絶え絶えのルリが呼んだので俺も合わせて呼んでおく。イントネーションを微妙に間違えた気がするが気にしないことにする。
「あ!!二人共おっ……え何そのツノ」
「ふぅ。全部青信号でギリ間に合ったぜ」
「おお、ナイス。……どうしたのソレ」
「いやなんか、朝起きたらこうなってた」
「うそぉ、大丈夫なの?」
「うん、まぁ」
「サンゴくん」
「うん、多分平気」
「じゃあいっか」
「なんでそっちにも確認を取ったの?」
そんな事を話しているうちにバスが出発しそうなので、乗り込みながら話を続ける。
「これ本当に生えてるんだよ。すげーだろ」
「なんでサンゴが自慢げなの……」
「へぇー」
「…なんか私、人間じゃないらしいよ」
「え……?」
何いってんだコイツ、という顔のユカ。まぁその反応が普通ですわな。
これ以上人が乗ってこないことを確認し、バス中間部の座席にふたりを座らせ俺はその横に立つ。
着席した瞬間、二人の口から気が抜けるように息が漏れる。
「「ふう」」
仲いいなコイツら。俺もふうって言ってやろうか。立ってるけど。
「ユカ、ルリのお父さんはドラゴンらしい」
「えぇ、どゆこと?」
「海さんいわく、ルリは人と龍のハーフなんだとか」
「えぇ……まぁでも、ツノ生えてるもんね」
「そうなんだよね」
「触るとひんやりしてて気持ちいいよ」
俺が言い切る前に、ユカの指先はルリのツノへと着地していた。
「ホントだ。つめたーい。マジで生えてるし」
「俺ももっかい触っとこ」
「なんでそんな触りたがんの」
そんな感じでわちゃわちゃしつつ、バスでの通学時間を過ごした。
◆
「視線を感じる」
「今更だね」
「ごめんそれ多分俺がルリのことガン見してるだけ」
「んなわけあるか……もう休めば良かったかも」
学校の校舎の中、教室の手前でため息をつくルリ。ツノ生えただけだから大丈夫って言ったのはあんたでしょうに。
「まぁ目立つよね」
「エスパーかあんたは」
ルリがなんかすごいへにゃへにゃした表情になったので、多分、目立ちたくないなぁとか考えてるだろうと思ったのだが、どうやらビンゴだったみたいだ。青木ルリ検定一級保持者ですどうも。
ユカのあとに続いてルリが死んだ目で教室に入っていくのに更に続いて俺も教室に入る。
「おはよー」
と、ユカが言うと、手前の席の女子が
「おはー」
と返す。
うむ、これぞ日常ビバ青春って感じ。いいね〜〜〜。
「おい青木ツノ生えてるわ」
「やめて見ないでください」
「ほんとだ」「えっ」「うお」
「お前何そのツノ」
「生えてたの。お前って言うな」
「ごめん」
「なんでツノ生えてんの?」
「知らない」
俺が感慨深げにうんうん頷いているうちに、ルリは速攻で皆の注目の的になっていた。その人集り蟻のごとし。大人気でねぇか。これはマズイ。
「ぴぴー。SP赤石でーす。へいへいへーい。みんなさがったさがった」
「お、赤石おはよー」
「おはよう吉岡。略しておはよし」
この、今ルリへ真っ先に絡んでいった男の名を吉岡という。こいつはルリの一つ前の席に座っていて*1、俺が今最も警戒している人物である。吉岡とルリの間に、微かながらラブコメの波動を感じる。要注意だ。
「なんで青木ツノ生えてんの?」
「おそらく遺伝」
「遺伝でツノって生えんの?」
「生えないだろ」
「赤石うそつくなよー」
「嘘じゃねーしー」
わいわいがやがや、やいのやいのと、やはり高校1年生は騒がしい。だがまぁ、好きな空気だ、この教室の空気は。
しばらくして、担任の先生が教室に入って来た。
「やば、先生来たわ」
立って雑談していた生徒たちが急いで席に戻っていく。
「はいおはよ、みんな居る?」
「おあーす」「おはざーす」
教卓の前まで移動する最中でルリと目があったらしい。当たり前の疑念が先生の口から飛び出る。
「……え。何だそれ青木」
「起きたら生えてたんです」
「何それ、ファッション?」
「ファッションでツノはつけないでしょ」
「いやつける人もいる」
「なんで食い下がってくんの……」
M◯Mちょバカにすんのかお前。ツノだって立派なファッションだろ。
「えー……マジで生えたの?」
「はい」
「大丈夫なの?」
「多分」
「赤石」
「おそらく平気かとー」
「じゃあいいけど」
「なんでいちいちサンゴに聞くんですか?」
なんでだろーねー。
◆
「青木さん青木さん」
「ん?」
「それどうなってんの?触っても良い?」
「え゛」
二時間目終わりの休み時間、皆より少し遅れて俺が板書をノートに纏め終わった頃、クラスの女子(たしか神なんちゃらとかいう名字だった気がする)がルリのことを口説こうとしていた。
ルリは多分今、まぁユカも俺も触ってたし別にいいか、みたいなこと考えてる。
あ、ほら触らせた。
「これほんとに生えてんの?」
「まあ……一応」
「えー、ヤバくなーい?」
「そうだねヤバいね」
JKだ。神なんちゃら、めっちゃJKだ。そしてルリの応答能力の高さよ。彼女、人が苦手というだけであって実際、人付き合いはめちゃくちゃ上手いのである。天性のコミュ強〜。
「うわ〜、ホントにカタイ。人殺せそう」
「物騒」
「やっぱそれ刺し殺せるよね」
「うわ、びっくりした」
ルリの隣にニョキッと現れてみたら、神なんちゃらさんを驚かせてしまったみたいだ。 いやはや、神なんちゃらさんがデジャブな事を言うもんでつい……毎回毎回神なんちゃらさんっていうのめんどいな。次から神様って呼ぼ。
「なんか生えてきた……」
「なんとなく生えてみました」
「ふふふ、仲いいね〜」
「まあな」
「ドヤ顔しながらツノ触んな」
「なんか無性に触りたくなる。はっ、これは……魔力のツノ……!?」
「なにそれ」
「わからん」
「自分で言っといて分かんないのかいっ。あはは、ウケるんだけどー」
キャッキャッと笑う神様に、ギャル味を感じた。なんかすごい、今どきって感じ。
……と、ギャル味の深い神様に感心していると、どこからともなく新たなる刺客がやって来た。
「俺も触っていい?」
「え゛」
「えじゃあおれも!」
またお前か吉岡。なんなんだ吉岡。何を企んでいるんだ吉岡。
俺が動くより先に神様が、ルリにぎゅっと抱きつきながら吉岡共を威嚇した。
「男子はダメに決まってるでしょ」
「なんでお前が決めんだよ。なあ青木」
不服そうに吉岡が食い下がってきたので、俺からもビシッと言ってやろうじゃないか。
「そうだそうだー。男子はダメに決まってるー」
神様に援護射撃を送りつつルリのツノを撫でていたら、ルリからあんたも男子だろというツッコミが飛んで来た。うるせーやい。
「赤石に言われちゃしょうがねぇな……」
吉岡が諦めるように息を吐いた。ルリはそれに対して、なぜだ、なぜサンゴに言われたら諦めるんだ、みたいな表情を浮かべている。
今のやり取りでルリと俺の関係がどう思われてるのかなんとなくわかった。俺は鈍感じゃないからな。しかし、ルリは結構鈍ちんなので気付いていないご様子。とりあえず、俺は吉岡のことを警戒対象から外すことにした。仲良くしようぜ、吉岡。
その後、神様、吉岡に続いて他のクラスメイトがぞろぞろとルリのもとに寄って集って、最終的には先生までルリ遊びに参戦することになるほどの大盛況だった。やっぱ、目新しい物は人々の興味を惹くんだな。
次回、吉岡の毛に危機が迫ります。
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