ブラック・ブレット〜Perfect Answer〜 作:哉識
短いですが、キリが良いので載せます。
「ただいま」
玄関からドアの開く音がし、希の声がした。希が小学校から帰ってきたのだ。望は勉学で疲れているであろう希を全力で迎える。そう、いつも通りに。
「のっぞみー!!待ってたよー!!愛してるぅぅぅぅ」
希に抱きつこうとする望。望の普段の人の悪い顔は何処へやら、最高の笑顔でせまってくる。しかし希はウザい父親をあしらうかのように華麗によけた。
「ぶべっ」
案の定、望は壁に激突。それはもうコントのように勢いよく。希は崩れ落ちた望を見て、自分の居場所に帰ってきたんだと改めて思う。希が帰ってくるたびにこのような茶番が行われるのだが、希はバカみたいに平和な日常のこの一コマが好きだった。
「兄さん、ただいま」
「おかえり、希」
希が笑い、望も笑顔になる。これだけで、たったこれだけで二人はホッとする。心が安らぐ。幸せだと感じる。
「お仕事の方はいいの?」
「まだ連絡きてないから、自宅待機だな。でも、春香さん今日中に見つけ出すって言ってたからもうそろそろのはず」
「やっぱり私も行った方がいい?」
「明日も学校だろ?別にたいした任務じゃないし、気にすんな」
「そっか……必要ないか」
どことなく残念そうな顔をする希。別に要らないと言われた訳ではないが、必要とされたいと思ってしまうのが乙女心。自分のために言ってくれていることは希も重々理解しているけれども、不機嫌さを隠すことが出来る程、希は大人ではない。乙女心とはどうしたって理不尽なものである。
一方、望はどうしたものかと首をひねっていた。希が不機嫌そうにしているのを察したが、何にたいして不満なのか理解出来ない。
「えっと、今日はいっしょに飯は食えないと思う……多分。今日中に帰って来れるかも怪しいし。だから、俺の分は要らないから」
とりあえず、望は思いつくだけの懸念事項を並べてみる。だが、一向に希の機嫌は治らない。まぁ、全くの検討はずれなので治るはずもないのだが。
そもそも今回の任務はイレギュラーなのだ。東京エリアが壊滅する可能性があるから今回は仕方なく依頼を受けた。平常ならば土日祝日、つまり希の休日にしか任務をすることはほとんどない。
それも賢い希なら言うまでもなく理解してくれていると思っていたのだが、どうやら違うらしい。望がどうにかして希の機嫌を取ろうと考えているとある事を閃いた。
「……ね、寝るとき寂しくないか?」
「兄さん、私のこと一体何歳だと思ってるんですか?」
「いや、あのですね。別に子ども扱いしてる訳では……兄としては『お兄ちゃんと寝るっ!!』と言ってくれた方が嬉しいんですけど」
「そんな妹は千葉にもいないよ、兄さん。とりあえず、気持ち悪いから二度とそういうこと言わないでね」
さらりと毒を吐く希。しかも目元しか笑ってない。久々にご立腹の希さん。年頃の女の子はやはり気難しいものだと世のお父さんの気持ちが少し分かった望であった。
そんな感慨にひたっていると携帯が振動し、液晶パネルに「哀川春香」と映し出される。
春香は哀川民間警備会社の社長の娘で、訳ありの望を拾ってくれた恩人である。理由を知らない者から見たら望は怠惰の限りを尽くす怠け者のため、会社に所属したばかりの頃は他のプロモーターたちと軋轢を産んでしまったりと人間関係で多々問題があったのだが、全て春香に仲介してもらい、事を収めてもらっている。
だから望は二度、命を救われていると思っている。そのため望にとって春香は希の次に頭が上がらない相手でもある。手をかけてもらっている分、無理難題の任務をまわされることもあるが、恩返しだと思って完璧にこなしている。そこは望もギブアンドテイクだと割り切っていた。
「はい、夢見です」
「望くん?やっとあのクモ見つけたわ!木更ちゃんのところに一歩遅れてるから急いで行くわよ。今すぐ迎えに行くから準備しておいて!!」
春香は望の返事を聞かずに通話を切る。きっと次から次へと引っ切り無しにプロモーターへと電話をかけていることだろう。春香はとてもパワフルな女性であり、望の同い年ながら会社の人事を任されるほど人を扱うのが上手く、人柄、容姿ともに魅力的な人だ。社内でも惹かれている者も少ないないと聴いた事がある。でも、父親もとい社長が色んな意味で怖いんですよ、ほんとに。
そして、最近自分の扱いが親子共々少し雑になってきている気がすると望はひそかに思っているのだが、口にする事は未来永劫ないだろう。
「兄さん、こっちでいいですか?」
人知れず溜息をついてるとパタパタと階段を降りてきた希に真っ白いコートと目と鼻を隠す仮面を手渡される。
ありがとう、とコートと仮面を受け取るといつもと変わら
ない重みが腕にかかる。今までもこれからも刈り取るであろう命の重みがこのコートには染み付いている。今更、誰かから命を奪い取ることにためらいなんぞ微塵にも感じないが、自分が生きてる限り決して忘れてはならないのだろうと朧げながら望は理解していた。
ガバメントが入っているホルスター付きジャケットを着て、その上からコートを広げて羽織ると金属同士がぶつかり合う音がする。このコートにも動きを妨げないギリギリまで武器が仕込まれているのだ。脚用のホルスターにMAC11を両脚に1丁ずつ入れ、安全靴を履く。望が靴を履いたのを確認すると希は仮面を手渡す。
「キャラ被ってんだよなぁ」
望は影胤を思い浮かべながら、仮面以外で顔を隠せる物を新しく考えるべきかどうか思案しる。そして、しっかりと仮面を付けた。この姿はプロモーターとして仕事をする時の望のコスチュームだ。ちなみに「完璧の答」の時はこれとはまた違うコスチュームを使う。
「行くわよ望くん!!」
準備が完了し玄関のドアを開けるとタイミングよく、輸送ヘリに乗った春香が現れる。あのヘリの中には他のプロモーターたちも乗っているようだ。望はいきなりのお出迎えに驚くと同時にこの短時間で輸送ヘリを手配する春香の手際の良さに感心してしまった。しかし、望の耳はその言葉を一つとして聴き逃すことはない。
「いってらっしゃい、兄さん!!」
すぐ近くにヘリコプターが爆音を発しているというのに、望は希の声をしっかり聴き取ることができる。“あの時”望は決意した。例えどんなにこの手を汚そうと希だけは絶対に守ると。約束は決意に。決意は想いに。想いは絶対に揺らぐことのない覚悟に。
望は希にしか見せない一切の裏表を感じさせない笑顔をする。
「いってきます」
望が後ろ手に閉めたドアは静かに閉められた。そこに残された希が呟く。
「希は無事のお帰りをお待ちしています」
自分の女神の願いを叶えるべく望は輸送ヘリに乗り込んだ。
キャラを動かすっての難しい……