ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第12話 アルスは うっとりしている……

 

 

 

 

 ヘファイトスファミリアは下の下の構成員にも鍛冶をさせ、主神と幹部に認められなければヘファイトスの名は刻まれないが店で売りに出すことができている。しかし、百人を超える構成員の鍛冶品を一つの店で全て売り出せるはずもなく、オラリオ内でもバベル内を始めとして幾店もの支店を各ストリートに出店している。

 ヘファイトスファミリアの主神ヘファイトスの執務室は北西のメインストリートにある支店にあった。

 

「…………遅かったわね、ヘスティア」

 

 約束の時間を超過して到着した神友に、右目部分に眼帯をした赤毛の女神は諦めと怒りを滲ませて呟く。

 ジトリとした目を向けられたヘスティアはここまで抱えてきてもらったアルスの背より降りて、腰を低くして頭を下げる。

 

「す、すまない、ヘファイトス。ちょっと気絶が長引いてしまってね」

「気絶?」

「いや、こっちの話」

 

 怪しげな物言いをするヘスティアにヘファイトスは追及したそうな空気を出すが、まさか自分の眷属が初の同時レベルアップにメンタルオーバーになって気絶して回復に時間がかかったなどと言えるはずもなく。

 まごついているヘスティアに疑問符を浮かべるも、大派閥らしく仕事の多いヘファイトスは神友が寝坊でもしたのだろうと考えることを止めて傍に立つ二人の冒険者に視線を移す。

 

「そっちの二人がヘスティアの眷属の子ね」

「ベル・クラネルとアルス・クラネルです。今日はわざわざありがとうございます、ヘファイトス様」

 

 ヘスティアファミリア団長として、アルスが粗相をしない内に纏めて挨拶して頭を下げる。アルスは片手を上げて、やっほーとばかりに笑っているので色々と台無しだったが。

 ヘファイトスはクラネル兄弟を見比べ、納得するように小さく頷いた。

 

「面白い子たちね。確か双子だったかしら」

 

 白髪に赤い眼、体格に若干の差異はあれど良く似ており、ヘスティアから話を聞いていたヘファイトスの確認に二人は揃って首肯する。

 

「団長のベル君が兄貴なんだぜ!」

「こっちの団長も紹介したいのだけど、ちょっと待ってね。今、手が離せないようだから」

「いえ、そんな。こちらがお願いしている立場なので幾らでも待ちます!」

 

 大派閥の団長を急かすなど、零細ファミリアがしていいことではない。

 ヘファイトスの言葉に慌てて答えるベルだが、アルスは壁に飾られている武具を興味津々で見ている。実に対照的な兄弟の姿に微笑ましさを覚えながら椅子から立ち上がる。

 

「連絡してあったのに遅れているのかい?」

「そもそも遅れたあなたに言う資格はないけど…………ロキ・ファミリアから次の遠征の協力要請があってね。その準備とかが色々とあるのよ」

「ロキ・ファミリア!? 遠征っ!?」

 

 またもやのビッグネームに、ベルからすれば心躍る協力関係など驚きばかりの情報が出てくた。

 チクリとヘスティアに言い返しながら、素直に反応してくれるベルに面白みを覚える。

 

「待っているのも退屈だから工房を見学してみる? 駆け出しというなら鍛冶の現場は見たことないんじゃない?」

「有難いですけど、迷惑じゃないですか?」

 

 流石にただでさえ多忙であろうヘファイトスの手を煩わせるわけにはいかない。そう考えるベルであったが、ヘファイトスはクスリと笑って首を横に振った。

 この場で待たせるよりも案内することで時間を潰してもらった方が遥かに良いと判断したその時、入り口のドアがバンと外から開かれた。

 

「来たぞ、主神様!」

 

 現れたのは、黒髪と褐色の肌をしたヘファイトスとは逆の目に眼帯をした長身の女。

 

「…………椿。思ったより早く来てくれたのは良いけど客人の前よ。ちゃんと服を来なさい」

「鍛冶場は熱いのだ」

 

 ヘファイトスファミリア団長、椿・コルブランドは下半身は真っ赤な袴で、上半身に至ってはなんと豊満な胸のみを隠すさらしのみである。

 

「だとしても、工房の外に出る時は上に何か羽織りなさい。あれほどさらし姿で歩き回るなと言っているのに」

「涼しくて気持ちよくて、つい! 次からは気を付けよう」

「そう言って、直した試しかないじゃないの……」

 

 カンラカンラと快活に笑う椿に頭が痛そうなヘフェイトスを、二人の目を隠しながら団員(主にアルス)に振り回されるのが自分だけではないことにヘスティアは安堵を覚えていた。

 

「だが、確かに少し冷えて来たな。工房に籠りきりで人肌の温もりが恋しいな――――そこな少年! 抱きしめさせてくれ!」

 

 椿はベルを見るなり、ずんずんと歩み寄ってくる。

 

「だ、駄目だベル君は!?」

「じゃあ、そっちの少年」

 

 ヘスティアは椿の意味不明な行動に驚きながらも反射的にベルを背中に隠す。椿はむぅっと頬を膨らませて次にヘスティアから解放されたアルスを見た。

 バッチコーイ、とばかりにアルスは腕を広げて待ちの姿勢を見せていたので遠慮なく近づく。

 

――――――――――椿は アルスに ぱふぱふを してあげた!

――――――――――椿「ぱふぱふ ぱふぱふ……

――――――――――アルスは きもちが よさそうだ!

――――――――――アルスは うっとりしている……

 

「ア、ア、ア、アルスくぅぅぅぅぅんんんんんんんんっっ!!」

 

 スッキリした様子の椿と腰から崩れ落ちたアルス。

 処女神である為、椿が色事に関係なく本当に人肌が恋しかっただけなのが分かってしまった。怒るに怒れないヘスティアは行き場を失った感情を崩れ落ちたアルスを揺り動かすことで晴らす。

 ぱふぱふにちょっと羨ましそうなベルと、四人のカオスな状況にヘファイトスは困ったように眉尻を下げる。

 

「…………えっと、いいのかしら」

 

 誰に対して、何に対してかは聞かぬが花というもの。

 

 

 

 

 

 暫くして復活した面々で執務室から会議室へと移動し、向かい合う四人掛けのソファに座って上に一枚服を羽織った椿の紹介が終わった後、ヘファイトスが口を開く。

 

「ヘスティア、鍛冶師を紹介してほしいという話だったわね」

 

 少し前に開催されたガネーシャ・ファミリアの主神ガネーシャが開催した神の宴で、とある事情でヘファイトスに頼みごとをした。

 

「うん、ロキから防具のレシピを貰ったんだけど、僕らのファミリアには鍛冶師がいないし、ヘファイトス以外に伝手がなかったんだ」

「そのレシピは?」

「持ってきてるよ。これだ」

 

 ヘスティアはアルスが取り出した『よろい作り入門』のレシピを受け取り、それを向かいのソファに座るヘファイトスに手渡す。

 天界のトリックスターの異名を持つロキは、特にヘスティア相手に大人げない行動に出ることが多いので悪戯をしかねないところがある。レシピを受け取ったヘファイトスは目を通し、本物のレシピであることを確認する。

 

「本物のようね。ロキのことだから偽物を渡すなんてこともあるかもって思ってたけど」

「ロキも詫びの品でふざけるほど馬鹿じゃなかったってことだよ」

「ということは、あの噂は本当だったのね」

「どういう噂なのか、気になるけど聞かないでおくよ」

 

 神達の間での噂など、大抵は禄でもないものなので聞かないでいる方が精神衛生上良いと判断したヘスティア。

 

「椿、あなたは誰がいいと思う?」

 

 受け取ったレシピを隣に座る椿に渡す。

 団長として意見を聞かれた椿は考えるまでもないと、一度アルス達が着ている『くさりかたびら』を見て首を横に振る。

 

「主神様よ。分かっていることを聞くのは野暮というものよ」

「ああ、やっぱり? 二人とも同じ物を着ているし、こういうのも縁というのかしら」

「うむ、こういうのを逆指名というのだったか」

「それは、ちょっと違うんじゃないかしら」

 

 椿がどこからそのような知識を得たのか、逆に気になってしまった様子のヘファイトス。

 ヘファイトスと椿が何に納得しているのか分からないベル達が首を捻っていると、同じように蚊帳の外に置かれた形のヘスティアが眉を顰める。

 

「どういうことだい?」

 

 内輪の話になりかけていたのを自覚し、ヘファイトスは苦笑してベルの『くさりかたびら』を指さす。

 

「あなたの団員が着ている『くさりかたびら』(それ)ヘファイトスファミリア支店(うちの店)で買った物でしょ?」

「はい、バベルの支店で。僕が一目惚れして買わせてもらいました」

「なら、丁度良かったのかもしれないわね、色々と」

 

 ベル達が色々の意味が分からないでいる間にもヘファイトスは隣に座る椿を見る。

 

「椿、悪いけどそろそろあの子が来るはずだから連れてきてくれるかしら」

「噂をすればなんとやらだ。もう来たようだぞ」

 

 椿の言葉で入り口方向を見たアルスが気づき、少し遅れてベルが近づく気配を感じ取った。

 

(これが第一級冒険者……)

 

 気配に気づくのが早すぎる。

 鍛冶師という必ずしも戦闘を専門としていない職業なのにも関わらず、アルスですら言われなければ気づくことが出来ていなかった。

 

(椿・コルプランド…………単眼の巨師(キュクロプス)の二つ名を持つ、オラリオの中で随一の腕を持つ最上級鍛冶師(マスター・スミス))

 

 ベルはヘスティアからヘファイトスファミリアを訪問し、鍛冶師を紹介してもらうと聞いてからギルドで照会した情報を思い出す。

 鍛冶ファミリアでありながらLv.3以上の冒険者を二十人以上抱え、大派閥を維持し得る求心力を持つ団長であり鍛冶師でありながらLv.5という第一級冒険者級の戦闘力を誇る奇人であり、鬼人。

 

(アイズさんと同じ強さを持つ人)

 

 その強さの一端を垣間見た思いで、一度会議室を出た椿の帰りを待ちながらベルは目指すべき目標の高さを改めて実感する。だが、同時期に冒険者になったアルスがアイズの歴代最短Lv.2へのランクアップを大幅に更新し、自身もまたそれに続く道を進んでいるとなれば臆するよりも熱意が湧いてくる。 

 確かな希望の熱にベルが胸を高鳴らせていると、椿が赤毛の青年を連れて会議室に戻ってきた。

 

「ヘファイトス様、自分に用があるとのことですが」

 

 赤毛の青年は明らかにヘファイトスファミリアでない三人をチラリと見た。

 客だとしても団長である椿がわざわざ自分を出迎えて連れてきたのだから、何か関係があるのだろうと訊ねる。

 

「ええ、ヴェルフ。こっちに」

 

 呼ばれた赤毛の青年(ヴェルフ)はヘファイトスの隣に移動し、促されて四人掛けのソファに座る。ヘファイトスを挟んでヴェルフの反対側に椿が座り、これで三人ずつが向かい合う形になった。

 

「まずは紹介といきましょうか。この子はヴェルフ・クロッゾ。言うまでもないけど私のファミリアの鍛冶師よ。ヴェルフ、彼らはヘスティアファミリア。ヘスティアは私の同郷で神友よ」

「ヘスティアファミリア? 聞いたことないな……」

「まだ出来て一カ月も経ってない新興のファミリアだからね。これから大きくなっていくのさ!」

 

 ロキ・ファミリアから賠償をせしめたことで一部で有名だが、嫌な有名な成り方なので知らないならばそれ以外では無名なのは事実なのでそのまま押し通そうとヘスティアは決めた。

 団長としてヘスティアに大きく同意のベルはヴェルフの家名に引っ掛かりを覚えた。

 

「クロッゾ……?」

「っ!?」

「『アルゴノゥト』に出てくる武器職人と同じ家名ですよね。不思議な偶然もあるもんだなぁ」

「はぁ?」

 

 身構えたヴェルフは想像の埒外の関心を見せるベルに肩透かしを食らったように座ったままコけかけた。

 

「ははは! ヴェル吉の名前を聞いてそのような反応を見せる者は初めてだのう!」

 

 大口を開けて笑う椿と手を口に当てて忍び笑いを漏らすヘファイトス。

 

「あ、あの、何か間違っていましたか?」

「生憎と喜劇の登場人物を祖先に持ったことはねぇよ」

 

 膝に置いた肘で頬杖を突きながら、困惑するベルをふてくされた様子で言い捨てたヴェルフは未だ笑い続ける二人を睨みつける。

 一早く笑みを収めたヘファイトスがコホンと咳ばらいをして居住まいを正す。

 

「『クロッゾ』とは、一昔前にラキア王国に『魔剣』を献上することで貴族の地位を得た名門鍛冶一族の名前で、ヴェルフはその一族の末裔なの」

「こと魔剣に関しては、手前よりも全くもって上だぞ」

「それは凄いですね…」

 

 自分の来歴を他者の口から語られているヴェルフは不愉快そうにそっぽを向く。

 団長でLv.5である椿よりも魔剣に関しては上だと彼女自身が認めたことにベルは素直に感心していた。

 

「俺は魔剣を造らねぇ。その話なら俺は帰らせてもらうぜ」

「ヴェル吉よ。まだ魔剣を打ちたくないなどと戯言を抜かしておるのか?」

 

 不愉快そうに立ち上がったヴェルフを、椿が責めるようにように冷え冷えとした声音を発する。

 

「才能だろうが、『血』であろうが、あるもの全てを注ぎ込まねば子供(我々)は至高の武器に至れん。お前が惚れ込んでいる主神様(化け物)の領域など、夢のまた夢だ」

 

 冷然とした女鍛冶師の迫力にベル達が息を飲む中、顔を見ていればヴェルフの頭に血が登っていくのが分かった。

 

「止めなさい、椿。魔剣を造るも造らないもヴェルフの自由よ。客人の前でする話題ではないわ。ヴェルフも座りなさい。今回は魔剣の話じゃないから」

 

 団長とその部下の一触即発の空気を主神であるヘファイトスが和らげ、魔剣関係ではないと言われたヴェルフも不承不承の様子でソファに座る。

 子供達(椿とヴェルフ)が互いを見ないようにそっぽを向いていて、ヘファイトスは溜息を漏らす。

 

「ごめんなさいね、ヘスティア。変なところを見せて」

「いいや、ヘファイトス。気にしないでくれ。君も、大変なんだな」

「どこのファミリアでも大なり小なり似たようなものじゃない? 逆に子供達が苦労しているファミリアもあるだろうけど」

 

 ヘスティアはアルスとベルの異端のステータスに思いを馳せて遠い目をして、オラリオ歴が長いヘファイトスは欲望に素直すぎる神に振り回される子供達を知っているので同じように遠い目をするのだった。

 

 

 

 

 







 ぱふぱふはドラクエの様式美。

 ヴェルフ・クロッゾのフライング登場。


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