ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第15話 盗んだ

 

 

 

 

 

 攻撃を仕掛けてきたガルーダを倒した後、リリルカ・アーデが自分を庇ったヴェルフ・クロッゾの下へ駆け寄る。

 

「大丈夫ですか、クロッゾ様?」

 

 ヴェルフを気にしているリリルカの代わりにアルス・クラネルが魔石を回収する。

 

「その名前で呼ぶなって。おいちち……」

「アルス様、クロッゾ…………ヴェルフ様に治癒魔法を」

「『てつの盾』のお蔭で平気だって、これぐらい。『てつのよろい』も着てるんだ。殆どダメージはねぇよ」

 

 痛みはあるだろうが動くことに支障はなさそうで、腕を回すヴェルフに庇われたリリルカはホッと安堵の息をつく。

 

「いいなぁ、『てつのよろい』」

 

 ヴェルフが装備している『てつのよろい』は『くさりかたびら』よりも二段階はランクが上の装備なので、ベル・クラネルは羨まし気に見る。

 

「速度を重視するベルにはあまり合わんだろ」

「だよねぇ」

 

 鍛冶師として見抜いていたヴェルフの言うように自覚のあったベルは肩を落とす。『てつのむねあて』ならともかく、全身鎧はベルの戦闘スタイルに合わない。

 

「俺の場合、ソロだったから身の守りは死活問題だからな。鍛冶師の特権で自分専用に良い物を誂えたが、7階層になると良い装備でも限界があるがパーティーを組んだのなら別だ。これからはお前達の装備は手に入れた素材でどんどん良い物にしていくぜ」

「うん、頑張るよ」

「その意気だ。『せいどうのよろい』に必要な素材は後一つだけだ。『ホカホカストーン』はこの階層のどっかにあるはずだから探そうぜ」

 

 歩き出したところで、リリルカは前を歩くヴェルフの背中を見上げて眉を顰める。

 

「造るなら『せいどうのよろい』よりも、ヴェルフ様が着ている『てつのよろい』の方がいいのでは? ベル様には合わなくてもアルス様なら問題ないでしょうし」

「装備する分には問題ないんだけどね……」

 

 他の部分で問題があるのだとベルは続ける。

 

「問題、ですか?」

「金がかかる」

「え? ヴェルフ様が造るのであれば足りない素材分だけで良いのでは?」

「同じヘファイトスファミリア内ならな」

「まさか……」

 

 本来、製法を記した手法(レシピ)はファミリア内だけで共有されるもので、外部の者の為に使うことはご法度とされている。

 門外不出のレシピを閲覧可能になると、制約の魔道具と契約を行い、破ると呪い等の罰則(ペナルティ)がかかるようにしているファミリアもあるほど重要という証拠。

 

「申し訳ありません。リリの早とちりでした……」

「外部の鍛冶系ファミリアとパーティーを組むなんてことは殆どないから仕方ないさ。俺もヘファイトス様に教えられて初めて知ったぐらいだ」

 

 考えてみれば当たり前のことを失念していたリリルカの謝罪を、ヴェルフは気にしていないと笑い飛ばす。

 

「つうわけで、ヘファイトスファミリアのレシピで装備を造るなら別途金が必要になってくる。それが嫌なら一からレシピを作るか、どこからかレシピを得るしかない」

「ヘファイトスファミリアのレシピを使う場合でも、素材さえ集めれば作業代だけだから少しは安くなるみたいだよ」

「苦労に見合うとは限りませんね。新品を買うのとほぼ変わらないのでは?」

 

 ベルが擁護するがリリルカはヴェルフへの疑いを消せない。

 

「そうだな。例えば今、俺が装備している『てつのよろい』は新品で18000ヴァリスする」

「ええ、そのぐらいですね」

 

 武器・防具の値段には詳しいリリルカも同意の値段。

 

「必要な素材は『てっこうせき』3個、『みがきずな』2個、『けもののホネ』の合計6個あればいい。『てっこうせき』が一つ1200ヴァリス、『みがきずな』が一つ2500ヴァリス、『けもののホネ』が1000ヴァリスぐらいだったか」

「今の相場は大体その辺ですが…………残り8400ヴァリスが作業代ですか」

「後は鍛冶に使う物の備品代も含んでいるぞ」

 

 薪に樽、鉄製の作り付けられた棚に始まり、大小複数の槌、鋏、鉄床など鍛冶道具といっても千差万別で、『ふしぎな鍛冶台』のようにハンマーさえあれば良いというものではない。

 かといってレシピを得ようにも、高ランク用のレシピは下手をすれば第一級冒険者が使う武器防具よりも高い価格で設定されている物もある。

 

「仮に素材を集めて装備を鉄製品で揃えようとしても、今のヘスティアファミリア(僕ら)じゃあ払えないよ。レシピを買う方が高くつくしね」

 

 防具を揃えるのに資金のかなりを費やしたので、無理をすれば買えないこともないが後々の資金計画に響く。

 

「良く使う物でないのなら損が多すぎますね。普通は鍛冶系ファミリア以外は武器防具系のレシピなんて持ってませんし、ぼったくりでは?」

「俺達も慈善事業をやってるわけじゃないからな。じゃなきゃあ、鍛冶師も育たねぇ」

 

 道理で昨日の帰り際にヘファイトスが申し訳なさげに『どうぐぶくろ』を無償で渡してくるはずだとベルは納得した。

 ベルも知らないことだが、ヘファイトスもまさかアルスが既に複数のレシピを得ているとは予想だにしていなかったのだろう。ようやく点と点が線で繋がったアルスは納得して、肩から下げている『どうぐぶくろ』に手を伸ばす。

 

「理屈は分かりますが……」

「だから、俺ばっかり貰い過ぎだから少しでも返せたらって、『ちからのゆびわ+3』を渡したんだ。俺の私物を渡す分には金はかからねぇからな」

 

 トントンとヴェルフの肩が叩かれた。

 

「ん? どうしたアルス――」

 

 振り向いたヴェルフの視界を埋める紙の束。

 アルスが突きつけている紙の束がレシピであることに気づいたヴェルフは絶句する。

 

「お、おま、こ、これ、どこで!?」

 

 →拾った

   盗んだ

 

「拾ったって、どこにこれだけのレシピが落ちてんだよ…………うわぁ、これって俺も見たことのないやつだぞ」

 

 紙の束を受け取って次々とレシピを捲っていくヴェルフは、ヘファイトスファミリアの上級鍛冶師の中でも団長の椿などの幹部レベルしか閲覧出来ないようなレシピに目が釘付けだった。

 

「アルス、まさか……」

「やったな、ベル! これで素材さえ集めれば良い武具を幾らでも作ってやれるぞ!」

「う、うん」

 

 双子の弟の悪癖を良く知っているベルは限りなく正解に近い答えに瞬時に辿り着いたが、喜色を露わにして肩をバンバンと叩いてくるヴェルフの勢いに飲まれて追及することが出来なくなった。

 ヴェルフが負い目に感じていたのは、半ば無理やりに『ちからのゆびわ+3』を謝罪と共に押し付けてきた時にベルも分かっていたから喜びに水を差すことが出来ない。

 10枚を超えるレシピを数日の短期間でアルス一人で手に入れられたはずもなく、事件や噂になった話を他の人やギルドのエイナ・チュールから聞いたことがないので口を閉じておくことにした。

 

(売れば一財産築けまずが……) 

 

 チラリと見ただけでも第一級冒険者が持つ武具のレシピだったので、最低でもリリルカがソーマファミリアを脱退できるだけの金を得ることが出来るだろう。但し、鍛冶師でもないリリルカでは手にする動機がなく、何よりも今の心地よい関係を崩すことに躊躇いを覚えていた。

 

――――――――――まもののむれが あらわれた!

 

 即座にベル達三人は武器を抜いて戦闘態勢に入り、リリルカは下がって自身の身の安全を確保する。

 

――――――――――くさった死体は どくのねんえきを はなった!

――――――――――アルスは どくのねんえきを はらいとばした!

 

 くさった死体が口から吐き出した粘液を、『せいどうの盾』で受けたアルスは気持ち悪そうに『どくのねんえき』を振り払う。

 アルスの後ろで備えていたベルがガルーダに放った後、持ったままのクロスブーメランを投げた。

 

「やっ!」

 

――――――――――ベルの こうげき!

――――――――――まものむれに ダメージ!

 

 最初にくさった死体、ドロル、ぬすっとウサギにと順番に命中するが、ブーメランによる攻撃は敵に当たる度に威力を落としていく。それでも攻撃を受けたモンスター達の行動を遅らせる効果は確かにあった。

 

「おらぁっ!」

「はっ!」

「やっ!」

 

――――――――――ヴェルフの こうげき!

――――――――――ドロルに ダメージ!

――――――――――アルスの こうげき!

――――――――――くさった死体に ダメージ!

――――――――――くさった死体を たおした!

――――――――――ベルは かえん斬りを はなった!

――――――――――ドロルに ダメージ!

――――――――――ドロルを たおした!

 

 『せいどうのつるぎ+3』に持ち替え、ドロルにかえん斬りを放った直後のベルに向かってぬすっとウサギが踏み込んだ。

 

――――――――――ぬすっとウサギは ドロップキックを はなった!

――――――――――ベルに ダメージ!

 

「うわっ!?」

 

 ぬすっとウサギは勢いをつけて高く飛び上がり、揃えた両足で思いきり蹴り飛ばされたベルがもんどりうって倒れる。

 

「この野郎! おらぁっ!」

 

――――――――――ヴェルフの こうげき!

――――――――――ぬすっとウサギに ダメージ!

 

「か、固ぇっ!?」

 

 これまでの階層どころか同階層のモンスターと比べても明らかに固いぬすっとウサギの守備力を、ヴェルフは放った『てつのオノ』による攻撃の手応えから感じ取った。

 ヴェルフの様子から即座に相手モンスターの能力を読み取ったアルスが『せいどうの盾』を捨て、『てつのつるぎ+3』を両手で持った。すると『てつのつるぎ+3』が光を放つ。

 

「はっ!」

 

――――――――――アルスは、渾身切りを はなった!

――――――――――ぬすっとウサギに ダメージ!

――――――――――ぬすっとウサギを たおした!

――――――――――まもののむれを やっつけた!

――――――――――アルスたちは 93ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――まもののむれは 魔石を 落としていった!

――――――――――くさった死体は くさりかたびらを 落としていった!

――――――――――ぬすっとウサギは ぬすっとグローブを 落としていった!

 

 ふぅ、とアルスは息を吐きつつ、『てつのつるぎ+3』を一度軽く振って背中の鞘に直す。

 

「アルス様、ベル様に治癒魔法を!」

 

 ぬすっとウサギにドロップキックを受けたベルは地面に伏せたまま苦悶に呻いており、これは治療の必要があると判断したリリルカがアルスを呼ぶ。

 

「ホイミ」

 

――――――――――アルスは ホイミを となえた!

――――――――――ベルの キズが かいふくした!

 

 アルスの治癒魔法の光を受けたベルの表情から苦悶の色が消える。

 

「ありがとう、アルス。助かったよ」

 

 光が消えた後、礼を言いながら攻撃など受けなかったかのように立ち上がるベルにヴェルフが感心したようにアルスを見る。

 

「話には聞いていたがアルスは本当に治癒魔法も使えるんだな。駆け出しで前衛なのに三つも魔法に目覚めて、一つは治癒魔法なんて大したもんだ」

 

 7階層に来るまでの間に多数のモンスターに対して爆発呪文(イオ)を、ガルーダのように上空を飛ぶモンスターを落とすのに火炎魔法(メラ)をそれぞれ一回ずつヴェルフの見ている前で放っていた。

 ざっくりと攻撃と治癒魔法を使えると事前に説明していたが、まさかもう一つ魔法(ギラ)を使えるとは魔法スロットは3つまでと先入観があるので思いつきもしないだろう。

 

「そうだよね、はは」

「ふふん」

 

 パーティーを組んでいればその内に披露する機会もあるだろうが、問い詰められる苦労を先延ばしにしたベルは本当のことが言えず苦笑し、リリルカは閃光魔法(ギラ)のことを知っているので勝ち誇った顔をしていた。

 二人の反応にヴェルフは奇妙な物を感じていたようだがモンスターのドロップアイテムの方に気を取られた。

 

「『くさりかたびら』と『ぬすっとグローブ』がドロップアイテムか。運が良いぞ、これは」

 

 少し汚れている『ぬすっとグローブ』はともかくとして、『くさりかたびら』はところどころ穴が開いている上に、くさった死体の肉等は消滅と共に消えたので付いていないが腐臭だけは消しようがない。

 サポーターの役目を果たす前にドロップアイテムを回収してしまったヴェルフにリリルカの目は厳しい。

 

「『くさりかたびら』はくさった死体の匂い付きな上にボロボロですけどね」

「洗って補修すれば、また使えるんだ。新品を買うより安上がりだろ」

「そうですが……」

 

 ヴェルフの言うことは最もだが、生理的に死体が纏っていた物を使うことに忌避感は拭えない。

 むむ、と眉間に皺を寄せるリリルカにベルは良いことを思いついたとばかりに表情を輝かせる。

 

「直したらリリが使ってみたら?」

「…………申し出は有難いのですがリリにはサイズが合いそうにありません。これだけサイズが違うと調整も出来ないのでは?」

「そうだな。流石に無理だ。俺は『てつのよろい』の下に着てるし、二人は言わずもがな。リリ助も無理となると、予備としておいておくか、使わないのならいっそ売ってしまうって選択肢もあるな」

「『くさりかたびら』は売れば2500ヴァリスになります」

「じゃあ、売った方がいいかな」

 

 置いていても使い道がないということで、満場一致で補修して売却するということになった。

 

「やっぱり7階層になるとモンスターの強さは違うな。ソロだったら間違いなく死んでた。パーティーを組んで良かったぜ」

 

 飛行能力を持つガルーダや特に防御能力の高いぬすっとウサギなど、複数で遭遇(エンカウント)すればヴェルフ一人では対処しきれなかっただろう。

 

「僕達も同じ思いだよ」

「大分、ヴェルフ様は厚かましいとリリは思いますがね。Lv.2になって鍛冶のアビリティを取得するまでの期限付きなんて、完璧に臨時のパーティー要因じゃないですか」

「取り敢えずの、だぞ。『ふしぎな鍛冶台』がある以上は長い付き合いになるのは確実なんだ。一回の冒険での取り分は、幾つかの素材とその日の冒険で得た金額の一割で良いんだ。アルスが持ってたレシピがあるんだから俺とベル達は悪い関係じゃないと思うぞ」

 

 同じように外部ファミリア参加のリリルカには口を出す権利は本来ないとも続ける。

 

「むぅ、それはそうですが……」

 

 それを言われてしまうとリリルカは何も言えなくなってしまう。

 

「安心して、リリ。ヴェルフがパーティーに入ってもリリの取り分を減らすなんてことはしないから」

「そうなるとヘスティアファミリアが損をしませんか?」

「ヴェルフがいてくれるから、武器購入の為の貯蓄の必要性が減ったから実質的には変わらないよ。それにヘファイトス様からそれ以上の物を頂いているからね」

「ああ、『どうぐぶくろ』ですか」

 

 リリルカの目がアルスの肩に斜め掛けされている道具袋に向けられる。

 

「収納限界が無く、どれだけ物が入っても大きさも重さも変わらない神造アイテム。まさかそんな物が実在するなんて、サポーター泣かせのアイテムです」

「ヴェルフに『ふしぎな鍛冶台』を使わせてもらう礼にってアルスが勝手に貰っちゃったんだ。こんな凄い物貰えないから返そうと思ったら受け取ってくれないし」

「レシピがないと思ってたから、ヘファイトス様も詫びの気持ちだっただろうからな。仕方ないさ」

 

 ヘスティアは『どうぐぶくろ』の効果を聞いて、「四次元ポケット……」なんて呟いていたがベルには意味が分からなかった。

 

「お蔭で『どうのこうせき』として使えるメソコボルトが持っていた『どうのつるぎ』を大量に入れても余裕があるんだ。使える物は使わないとな」

「神話に登場するような神創武器に匹敵するアイテムを軽くなんて考えられません。リリは絶対に持ちませんからね!」

 

 当初はサポーターであるリリルカに『どうぐぶくろ』を持ってもらうつもりだったのだが、この調子で断固として拒否。

 実際は売り払うか迷うに決まっているので持てなかったのだが、結論としては一緒なのでリリルカは敢えて言わなかった。

 

「あっ、ホカホカストーンを見つけたんだ、アルス」

 

 大事な物ということで、一番生存能力が高いアルスが持つことになったのだが、当人は『せいどうのよろい』の素材を見つけて拾っていた。

 

「『せいどうのよろい』よりもっと上のレシピもあるが造るのか?」

「…………素材はこれで全部そろってたよね?」

「ああ、麻の糸は工房にあるからな」

「じゃあ、頼んでおこうかな。ランク上の防具が今すぐ作れないなら目先の戦力向上を計っておくよ」

 

 ベルも怪物祭(モンスターフィリア)での戦いでアルスがLv.2になっていれば死ぬような思いをしなかったはずと、ヘスティア同様に出来る備えは早めにしておこうと常々考えていた。

 買ったばかりで一回しか実戦で『くさりかたびら』を使っていないことになるが、少しの守備力の差が戦局を左右する可能性があるなら教訓から学んだベルに迷いはない。

 

「正しい判断だと思います。ダンジョンは何があるか分かりませんから。備えは万全にしておくべきです」

「よし、分かった。帰ったら早速造るぜ」

 

 今後の方針が決まったところで8階層に降りれる階段の近くまで来ていた。

 

――――――――――ごうけつぐまが あらわれた!

 

 階段前には大きな熊型のモンスターが座って眠り込んでいる。

 

「7階層の実質的な階層主と言われる『ごうけつぐま』です。先程の『ぬすっとウサギ』よりも強敵ですよ」

 

 ごうけつぐまはある程度の距離に近づいたら目覚めるということで、気づかれないようにリリルカが小声で話す。

 

「そろそろ時間だし、このモンスターを倒したら地上に戻ろうか。みんなで帰りに豊穣の女主人でご飯食べない?」

「リリは構いません」

「悪いが俺は止めとく。今は早く帰って『せいどうのよろい』を造りたい」

 

 この後の行動も決まり、最大火力で倒そうと三人はごうけつぐまに迫った。

 

 

 

 

 

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