ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第16話

 

 

 

 

 

 ガヤガヤとダンジョン帰りの冒険者で賑やかな豊穣の女主人にクラネル兄弟とリリルカ・アーデの姿があった。

 今日は三人でテーブルを囲み、配膳された食事に舌鼓を打つ中でベル・クラネルの表情は暗い。

 ガツガツと全く気にせず食事を進めているアルス・クラネルと違って、雇用主(クライアント)に対面で暗い顔をされたらご機嫌を窺わなければならない立場のリリルカが口を開く。

 

「ベル様、まだ気にされておられるのですか?」

「やっぱり『ぬすっとのグローブ』は売った方がいいと思うんだ」

 

 日中のダンジョン探索で遭遇したぬすっとウサギのドロップアイテム『ぬすっとのグローブ』。

 普段ならば冒険で得た魔石やドロップアイテムはギルドの換金所で現金化している。換金額は状況によって変動するので想定値を下回った場合は売らない時もあったが、『ぬすっとのグローブ』は査定すら出さずに今はベルの手に嵌められている。

 

「話し合ってベル様の装備となったのです。諦めて下さい」

「でも、売ったら15000ヴァリスになるんだよ」

 

 15000ヴァリスで買い取られるレアアイテムは上層ではかなり希少で、同じ冒険で獲得したドロップアイテム『まどうしの杖』で6500ヴァリス。魔法を使える者がアルスだけで戦士系なので杖を持っても鈍器としてしか使いそうにないので、『まどうしの杖』は売却されていた。

 

「リリも目先の利益を取るなら賛成ですが、『ぬすっとのグローブ』はレアアイテムの部類だけあって効果は確かです。ダンジョンに潜るなら装備の充実を図るのは必要なことです」

「なら、アルスに装備させたらいいんじゃ」

「アルス様は盾を持っていますし、明日にはヴェルフ様次第で『くさりかたびら』より守備力の高い『せいどうのよろい』に代わります。ベル様の身軽さを優先しつつも守備力を上げられる『ぬすっとグローブ』は適任です」

 

 今日のダンジョン探索で『せいどうのよろい』作成のアイテムは揃い、別れ際に明日持ってくることを宣言したヴェルフはスキップでもしそうな元気振りで自分の工房に帰って行った能天気な姿がリリルカの脳裏に浮かび上がる。

 『ぬすっとのグローブ』は装備するだけで守備力を向上させる(+3する)効果を持つ。盾持ちで鎧もワンランク上の防具に代わり、守備力が向上するアルスに更に『ぬすっとのグローブ』を装備させるよりもベルに持たせた方が良いと考えるのは自然の流れ。

 盾のように重量のあるアイテムではないので、ベルの戦闘スタイルを阻害するものでもないのは主な理由だった。

 

「うう、でも『ぬすっと』のグローブなんて名前の装備を持つのは……」

「名前に拘ってどうするのですか」

 

 ベルとしてはアイテム名が問題なのだが、英雄願望のことなど知る由もないリリルカは呆れるばかり。

 

「そうだ! リリかヴェルフが持てば」

「リリではサイズが合いません。ヴェルフ様は十分な装備があるので必要はないでしょう」

 

 思い付きは簡単に否定される。

 肩を落とすベルに、パスタをかき混ぜたリリルカは横目で我関せずに食事を続けているアルスを見て、ある種能天気な性格が妬ましくなる。

 

「諦めるべきです。多数で決めたことは少数ではひっくり返せませんよ」

 

 気持ちの問題を理性的に論理で纏めれば、子供ではないのでベルも何時までも駄々を捏ねてはいられない。

 

「分かったよ。お金に見合う活躍をしてみる」

「ほどほどでお願いします。完全な補填は出来ませんが、ヴェルフ様が補修される『くさりかたびら』には殆ど元手がかからないのですから気負うことはないと思います」

 

 気合いを入れるベルにリリルカは釘を刺しておくことを忘れない。

 半ば機先を制されたベルは一度頷いてみせて、フォークに巻き付けたパスタを口に運んだ。

 

「そのヴェルフが今日初めてパーティーに入ったけど、どうだった?」

「内容が抽象的ですが…………そうですね、恵まれていながら活かそうとしない奇特な人だとは思います」

「つまり?」

「サポーターへの偏見もありませんし、パーティーの一員として実際に守ってくれたので頼りにはなります。今のヘスティアファミリアには得難い人材であることは間違いないでしょう」

「そこまでなんだ」

「はい」

 

 今まで一緒に行動してきた冒険者の中で最もサポーターであるリリルカを守ってくれた相手でもあったので素直に答える。

 

「ベル様達の特異性に神創武具並のアイテムの存在が、ヘスティアファミリアを規模は最小なのに特異に特異を重ねたファミリアにしています」

「だよね。お蔭で新規団員の獲得も慎重にならざるをえないし、他のファミリアとの協力にも躊躇う。ヴェルフがパーティーに入ってくれたのも、神様同士の仲が良かったからで、普通はありえないと思う」

 

 創設・冒険歴共にまだ一ヶ月も経っていない零細ファミリアと、外部ファミリア所属の小人族(パルゥム)のサポーター三人のパーティー。

 スキルによるステータス表記変化による早くなった強くなる速度と、『ふしぎな鍛冶台』と『どうぐぶくろ』の存在によってヘスティアファミリアは閉鎖的ならざるをえず、仮に新規団員希望が現れても容易に受け入れ難い状況にあった。

 

「経緯はなんにせよ、ヴェルフ様のパーティー入りは間違いなくプラスに働くのは間違いありません」

「ヴェルフが入ったことで出来ることは増えたもんね」

「単純に手数が増えただけではなく、役割分担が出来るようになったのは大きいです。後ろから見ているだけのリリにもパーティーに安定感が増したのが分かります」

 

 装備の質が上がったりアルスが盾を持った影響もあるにせよ、リリルカの守りをヴェルフと分担出来るようになったアルスの行動の選択肢が増えたのは大きい。

 

「他にも、普通のパーティーならまずいない鍛冶職なので、両ファミリアの関係性を考えるなら今後とも長く付き合いを続けていけるでしょう」

 

 ヴェルフが『ふしぎな鍛冶』を使っているが、所有権は変わらずヘスティアファミリアにあり、主神同士の関係性もあって易々と切れる状況にはない。

 

「懸念点としてはアルス様とベル様が早く強くなりすぎて、Lv.差が広がってパーティーを組めなくなる時が来ることでしょうが、ヴェルフ様のパーティーへの志望理由を考えればLv.2になりさえすればパーティーを組む必要はなくなるので問題はありません。パーティーを組まなくても鍛冶師なので関係は続けていけますし」

 

 そこら辺はサポーターであるリリルカも似たようなもの。

 アルス達が順調にレベルアップを重ねて適正階層が中層や下層になれば、Lv.1のサポーターであるリリルカでは共に行動することは出来なくなるのだから。

 

「ヴェルフがパーティーから抜けた後の考えると、アルスがLv.2の内に新規団員が入ってくれるのが望ましいけど難しいところだよね。それこそ秘密を既に知っている人に入ってもらうのが最も手間が無い」

 

 チラリとベルが意味ありげにリリルカを見る。

 

「ならば、ヴェルフ様を誘うのが如何でしょうか。全ての条件に当てはまります」

 

 その視線の意味を理解しながらもリリルカは敢えてとぼけてみせる。

 

「ヴェルフにも勧誘はしたよ。ヘファイトス様の下で学びたいって袖にされちゃったけど」

 

 鍛冶師として今の環境を手放してまでヘスティアファミリアに入団する気はないのは当然のこと。あっさりと断られたことを思い出し、ベルは苦笑して肩を落とす。

 ベルとしても無理強いするつもりはなく、悔しい気持ちはある。

 

「勧誘は続けるけど、前にも言ったけどリリはどうかな? 僕はリリにこそヘスティアファミリアに来てほしいと思っている」

 

 来た、とリリルカは膝の上に置いた手をギュッと握る。

 

「…………条件があります」

「聞くよ」

 

 即答する迷いのないベルの返事に一瞬言葉を失うが、直ぐに気を取り直して口を開く。

 

「ソーマファミリアには幾つかの決まりがあります。その中にファミリアを抜けたい場合、脱退金1000万ヴァリスを支払うこととあります」

「1000万ヴァリス!?」

 

 及び腰になるはずだと予測していたリリルカの期待を裏切って、ベルは徐々に心を落ち着けていた。

 

「そうか、1000万ヴァリスか。今すぐは無理だけど、払えない金額ではないね」

「え? 1000万ヴァリスですよ」

「確かに高いよ。でも、第一級冒険者の武具よりは安い」

 

 ベルの脳裏を過るのは、エイナと共に行ったギルドにあるヘファイトスファミリア支部にあった『ケイオスブレード』の値段4500万ヴァリス。

 

「階層を潜るほどに、魔石やドロップアイテムの質が上がって換金額が確実に上がっている。今の僕達なら順調に到達階層を伸ばせると思うんだ。流石に下に行けば速度は鈍るだろうけど、今の面子なら中層にも進出できるし、装備更新の問題はアルスが持っていたレシピ集で解決したから1000万ヴァリスを貯めることは決して不可能じゃないよ」

 

 それほど厳しい金額ではないと判断出来た根拠の理由。

 今まで問題になっていたヘスティアファミリアの懸案事項だった強くなる速度がここで活きてくる。今でも階層を潜るほどに獲得金額は段階的に増えているのだから、1000万ヴァリスは決して届かない金額ではないとベルには思えた。

 

「リリのLv.とステータスでは中層にはお供できません」

「それこそヘスティアファミリア(うち)に改宗すればリリのステータス表記も変わる可能性は高いから、僕達と同じように劇的に強くなるかもしれないよ。これに関しては試してみないと分からないけど」

 

 サポーターがパーティーにいるのは当たり前のことなので、Lv.1であっても中層に行くことは珍しいことではないことをベルは知っている。

 スキルの目覚めによるステータス表記変更は最初に目覚めたアルスを別にして、前例がベルしかいないので確実とは言えない。逆に目覚めないことが分かることも十分に収穫となる。

 

小人族(パルゥム)にそんな奇跡など得られるはずがありません」

 

 小人族(パルゥム)はヒューマンや他の亜人と比べ、その可愛らしくも小さな外見も相まって種族としての潜在能力は最も劣っていると言われている。事実、遥か昔日から現代にかけて小人族(パルゥム)が世界に轟かせた武勇伝は他の種族と比べて圧倒的に少ない。

 そんな小人族《パルゥム》の一人として、物凄い速さで強くなっているベル達に憧憬を抱いていたリリルカには魔性の誘惑であったが、自分にそのような奇跡が起こるとは決して思えない。

 

「前例がないのですから、何も変わらない可能性の方が高いです」

「仮に何も変わらなかったとしても、ダンジョンに入らなくても、リリの頭脳は十二分に僕らの助けになってくれるはずだ」

 

 リリには副団長の立場を用意している、とベルは褒め殺しに来ているのではないかと思えてしまうほどだった。

 

「何故、そこまでリリに拘るのですか」

「最初は僕達に都合の良い存在だったからかな」

 

 新規団員獲得の為、最もリリルカが良い立場にいたから。

 自分からサポーターとして売り込んで来て、流れもあったとはいえベル達の秘密を共有しても誰に言うでもなく関係が続いている。

 

怪物祭(モンスターフィリア)で必ずしも必要ないのに一緒に戦ってくれたこと、とても感謝してるんだ」

「逃げるタイミングを逃しただけです」

「そう言うリリだから同じファミリアでやっていきたいと僕は思っている」

 

 始まりがなんであっても、一緒に接して性格・能力共に申し分なしとなれば誘わない理由はない。

 

「…………リリは生まれた時からソーマファミリアの団員です」

 

 ファミリアからはぞんざいな扱いをされ続け、逃げ出して善良な老夫婦の家に住まわせてもらったこともある。

 しかし、これもファミリアの冒険者のせいで台無しになってしまい、巻き込まれた老夫婦から罵倒され追い出されてしまった過去がリリルカを卑屈にさせていた。

 

「ソーマファミリアがどんな過酷な場所でも、環境を変える勇気が、踏ん切りがつきません」

 

 ベルの善意は本物だろう(また騙されるに決まっている)

 ベルを信じたい(冒険者はみな同じだ)

 

「今暫く考える時間を下さい」

「何時までも待つよ。1000万ヴァリスを稼ぐ必要もあるからね」

「脱退金に関しては、リリルカにも貯えがあるので1000万ヴァリス全額は必要ないです」

 

 今の状況が心地よいと感じているから、結論の先送りしかリリルカには出来ない。

 

「だとしても、そのお金はヘスティアファミリアが支払わせてほしい。リリにはそれだけの価値があると向こうにも知らせたいから」

「…………泣かせるようなことを言わないで下さい」

「え、そんな泣かせるようなこと言った?」

 

 なんでもないように言うベルを信じたいけど信じられない。

 

(冒険者は敵なんです。敵、なんです)

 

 涙が浮かびそうになるのを必死に堪えて、リリルカは心の中で呪文のように同じ文言を繰り返す。でなければベルに絆されてしまいだった。

 

「ベルさんは天然ジゴロ……」

 

 と、給仕の仕事をしながら通る時に断片的に二人の話を聞いていたシル・フローヴァがそんなことを言っていたりしていた。

 

 

 

 

 

 

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