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というわけで第三章開始です。やはり色々と順番が狂ってます。
第24話 アルスは『邪を破るつるぎの書』を手に入れた!
「昨日、聞いた話と齟齬はなさそう。ごめんね、レポート作りに付き合わせちゃって」
つい二週間前と同じ構図に既視感を覚えながら、エイナは纏め終わったレポートのファイルの上に羽ペンを置く。
「いえいえ、寧ろ僕達の騒動に巻き込んじゃって申し訳ないぐらいです」
「悪運に悪運が重なっているから、今回の件でベル君達に非はないよ」
目の前の二人が再び元気な姿を見せてくれただけで十分なので、エイナもギルドの仕事を増やしてくれた文句は心の中で留める。
「本当に、パーティーに犠牲者が出なかったことが奇跡みたい」
「ファミリア単位の闇討ちに
何か選択を間違えていたらパーティーの誰かが欠けてもおかしくないことの出来事の連続を想起し、思い出したくもないとベルは首を振って思考を頭から追い出す。
「それでもベル君達は生きている。生きて帰ってこれた」
「…………やっぱりソーマファミリア冒険者の中には亡くなった人も?」
「うん。中立のギルドの者として言うのは良くないのかもしれないけど、因果応報ってことなんだと思う」
エイナも明確に人数を口にすることはなかったが、多くのソーマファミリア冒険者が亡くなったことを察したベルは数秒瞼を伏せて黙祷を捧げた。例え彼らに襲われたとしても、死んでほしいと思わなかったから。
(ベル君は、優しいね)
瞼を開けたベルの目に、死者を悼む色を読み取ったエイナは薄っすらと微笑む。尚、ベルの横でアルスは大きな欠伸をしていて、なんとも対照的な兄弟にエイナは真顔になってしまった。
「それで、ソーマファミリアはどうなるでんすか?」
「え? あ、そうだね。まだ伝えてなかったね」
コホン、とエイナは一度咳ばらいをしてから続ける。
「神酒を褒美として資金を集めさせておきながら、団長に管理を放り投げて独裁・暴走を許した主神ソーマには管理能力なしと判断。大半の団員が襲撃に関わったことから、本来なら闇派閥認定を受けてファミリアの取り潰しも有り得るという意見もあったんだ」
未だ暗黒時代と言われた7年前の痛みを払拭できていない中で起こった一連の事件。闇派閥認定が適当だという意見も古株の職員から上がるほど。
「あった、ということは主流にはならなかった?」
「被害者であるアーデ氏やベル君達の嘆願があったのと、神ソーマが襲撃を主導したわけではないということを考慮すれば、そこまでするのはやり過ぎだって」
「でも、何もしないわけにいかないですよね。前に訓告が出されてますし。後、神様からヘファイトス様が大層お怒りでギルドに乗り込んだとも聞きましたけど」
「神ヘファイトスはギルドが潰さないなら自分達が潰してやるって言ってて、対応したあのギルド長がやせ細るぐらい凄い剣幕だったよ」
ヘファイトスファミリア所属のヴェルフ・クロッゾの負った傷は、ポーション類やアルスの治癒魔法によって癒えても破壊された防具はそのまま。
一連の事件を隠すことは出来ないと、ベル達から事情を聞いたヘスティアが神友として直接謝罪と説明に赴くも、目をかけていた眷属を闇討ちされたと聞いたヘファイトスの怒りは強かった。
怒髪天を突く勢いだったヘスティアが糾弾仲間を求めて行ったのに逆に冷静になってしまうほどで、抑えに回らなければならないほどヘファイトスの怒りは大きすぎたのだと後でベルは聞いた。
「最終的に呼び出した神ソーマを含めた神達の話し合いで、神ヘファイトスもソーマファミリアに懲罰的損害賠償を課すことで矛を収めてくれたよ」
「神様に聞いた感じだと生半可な額ではないんじゃ……」
煤けた様子で帰ってきたヘスティアの姿を思い出しているベルに、エイナはなんとも言えない表情を浮かべる。
(言えないよ。まさかソーマファミリアが
ギルドは団員だけは多かった割に貢献度が高くなかったソーマよりも、有力派閥であるヘファイトスの機嫌を損ねない方を選択した。口実も十分にあっただけに、ソーマファミリアに課される懲罰金はオラリオの歴史に残る物になるだろう。
「ソーマファミリアが懲罰金と賠償金を支払う為に資産を売却しても尚残る負債予想額は…………約2億ヴァリス」
「にお、く?」
「うん、二億ヴァリス。資産を売却した上でもまだ足りずに残る負債だから、神ソーマは借金してでもファミリアを存続させることにしたみたい。直にベル君達の所にも賠償金代わりの物が届くと思うよ」
想像の二桁上の金額にベルは目を丸くする。
気持ちが分からないでもないエイナは苦笑を浮かべたところで、賠償金という単語が自分達にも払われる可能性のある類のものだと悟ったベルは手で口を覆った。
「え、待って下さい。賠償金って神様からお金を貰うなんて話は聞いてないです」
使用したアイテムや壊れたアルスの武具など、その分の賠償の話が出る良いとしても話の流れ的に賠償金を得るなんてことはヘスティアは口にしていなかった。疲れた様子だったので忘れていただけの可能性は否定できないが。
「ベル君達の下へ行くのはお金じゃなくて賠償金
ヘスティアらしい優しさにホロリとするべきか、貰う物はしっかりと貰う辺りちゃかりとしているべきか。もしくはそれだけヘファイトスの圧が強かったのか。
ソーマファミリアがどれだけの武具のレシピ・素材を貰えるかは分からないが、既に持っていて被ってしまった分は売却すれば資金が得られる。
あれだけの事件があっても、ヴェルフはパーティー契約の継続を申し出てくれたので、鍛冶の問題はない。例えば低レベルの武具しか作れないレシピでも、長期的に見ればこれから入る新人冒険者に持たせることが出来るので得とベルの中で計算が働く。
「もう資産売却の手続きが始まっていて、ソーマファミリアが所有していた武具のレシピ・素材の一覧がこれなんだけど、どうだろう」
「見させてもらいます」
エイナから受け取った目録に記されているレシピは16種。
団長ザニス・ルストラがLv.2だったから、ソーマファミリアにあったレシピもおおよそLv.2中位以下の武具レシピで、16種の内の半数は既に持っているレシピだった。
「はい、これでお願いします」
ベルにもソーマファミリアに対する怒りが無いわけではないので、貰える物は貰っておくと決めてエイナに目録を返す。
「伝えておくよ。じゃあ、次はデスコピオンについてだけど」
目録を受け取ったエイナは、人の頭を砕けそうなほど分厚い本と下手糞なエビのような物が書かれた絵の紙を間の机に置く。
「ギルドのモンスター図鑑では砂漠の殺し屋と記載されているモンスターで、最後に目撃されたのが百数十年前。その時は上級冒険者のパーティーによって討伐されるまで何十人も死傷者を出していたみたい」
「リリも似たようなことを言ってました」
「再出現まで短くても数十年、長ければ数百年は現れないこともあるのに良く知っていたね」
「上層11階層までの過去出現したモンスターは一通り頭に入れているみたいです」
凄いね、と言ったエイナに仲間が褒められて少し鼻高々になるベル。
「目撃例が極端に少なかったからギルドにもおおまかな形状しか記録は残っていなかったたけど、アルス君が書いてくれた絵のお蔭で大分詳細な姿を残せそうだよ」
「え? あの下手糞な絵でですか?」
下手糞な絵とは失礼な、と隣でアルスが怒っているが、机に置かれた辛うじて特徴は分かる程度のデスコピオンの絵を見たら誰もが同じことを考えるだろう。
「特徴は捉えていたから」
言い換えれば特徴以外は微妙と暗に言いつつも、エイナは分厚いモンスター図鑑を捲っていく。
前半より少し先というところでページを捲っていた手を止め、モンスター図鑑をベル達が見やすいように向きを変えて差し出す。
受け取ったモンスター図鑑の開かれたページに図鑑№と系統と写真があり、攻撃方法や注意すべきこと、落とす主なドロップアイテムなど詳細に書かれていた。
「『むつでエビ』?」
「中層の下の方にいるモンスターで、二対のハサミと一対鎌の特徴は一致していると思うけど、どうかな?」
「そっくりです……。『むつでエビ』は緑色ですけど『デスコピオン』は黄色というか、もっと明るめの色合いなだけで姿形はそのものです」
写真の『むつでエビ』の姿は、記憶の中にあるデスコピオンと姿形に差異はなく、違いは体の色だけ。
「えび、エビだったのか……」
なんとなくサソリと勝手に思っていたが名前にエビとしっかりと書いてあった。
「データが少なすぎて出現条件が不明だったけど、百数十年に現れた前回も10階層奥の行き止まり
ギルドは今回のことを例に挙げて注意喚起を行っている、とも続けた。
「当該の行き止まり
「僕達のような例外を別にすれば、ですか」
ベル達の場合はエイナの指示でギルドの
「注意喚起をしたって話ですけど、前回と今回の二回だけあそこに出現したってことも考えられるんじゃ……」
「二度も同じ場所に現れたんだから三度目も現れるかもしれない。上層で中層相当のモンスターがいる可能性があるだけで注意喚起をするには十分だよ」
何かが起こってからでは遅いからと言われれば納得できてしまう。
「ギルドがクエストを出して調査したけど、あの行き止まり
そもそも、冒険者はダンジョンに潜る上で起こったことは全て自己責任であるが、ギルドも冒険者が起こしたトラブルに対して一切の責任は負わない。しかし、だからといって見て見ぬ振りをしていいわけもなく、発生した問題に対処しなければならない義務もある。
「本当に良く倒せたよ。上層で中層に出現してもおかしくないモンスターを倒せたってたのは、ランクアップしてもおかしくない偉業じゃないかな。ベル君、この機会にランクアップ申請したらどうだろう」
「予定だと
アルスがアイズの最速ランクアップ記録である一年をたった二週間に大幅に縮めてしまったので、なんとかギリギリまで時間がかかったように見せかけようと話は纏まっていたはずだった。
「直前にランクアップに値する偉業を達成できる保証がないし、それならある程度の説得力がある今が望ましいと思って」
「説得力? デスコピオンを倒したことが?」
「ついさっき、ヘファイトスファミリアからヴェルフ・クロッゾ氏のランクアップ申請が出されたんだ。同じ冒険をしたパーティーメンバーが同時にランクアップするのはない話じゃないから」
「ヴェルフがLv.2に!? そっか! そっかぁ! お祝いをしないと!」
降って湧いたような吉報に立ち上がって喜ぶベルに、エイナは本題に戻る為に両手で抑えるよう仕草する。
少しして落ちついたベルははしゃぎ過ぎたとチョコンと座る。、エイナは咳払いしてから説明を続けた。
「一ヶ月と期間が短すぎるのはどうしようもないけど、到達階層の更新速度、怪物祭での『いたずらデビル』・『イビルビースト』の討伐、ソーマファミリアの闇討ちの撃退、そして今回の『デスコピオン』。偉業には違いないはず」
「他の人の偉業はどんなのがあるんですか?」
エイナの言葉に、ふと気になったベルは質問を投げかける。
聞かれたエイナは答えて良いものかと思案し、ギルドの情報公開があるので黙っていてもいずれは知ってしまうと判断して口を開く。
「例えばベル君の知る『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン氏もつい先日、Lv.6にランクアップしたけど下層域より更に下の深層の階層主を単独撃破したそうだよ」
「アイズさんがLv.6!?」
「そりゃあ、驚くよね。階層主を一人で撃破しちゃうなんて、私も聞いたことがないもん」
「階層主って、特定の階層に出現する特に強いモンスターのことですよね?」
「うん、17階層の『ゴライアス』、
驚きに目を剥くベルに、無理もないとエイナは苦笑する。
階層主、またの名を『
階層で最も強いモンスターを階層主と称するのは別次元に、中層以下に出現する特定階層に出現する強力な固有モンスター。大規模なパーティーで攻略しにかからなければならない謂わばモンスターの親玉。
その巨大さと強さは他のモンスターの追随を許さず、ダンジョンで到達階層を増やしていく上での最難関の障害。
「ヴァレンシュタイン氏が倒したのは37階層の『ウダイオス』。推定能力値はLv.6とされる
深層と呼ばれる37階層のウダイオスともなれば、パーティーで当たっても倒すことが出来るのはオラリオの中でも一気に絞られる。それほどのモンスターを一人で撃破したとなれば、偉業であることに疑う余地はない。
「そう、普通は偉業を果たすということは難しいことなんだよ、ベル君。君達みたいに、普通にダンジョンに潜って普通にランクアップするなんてことは今までなかったんだ」
「そんな
圧を感じさせるエイナの綺麗な笑顔にベルは顔を逸らす。
「じゃあ、ベル君がランクアップした時のことを振り返ってみようか…………なにか偉業があった?」
「…………普通にモンスターと戦って、普通にランクアップしました」
「普通じゃねぇだろうが!」
「ひゃう!?」
モンスター図鑑を天井に向かって放り投げたエイナの剣幕に、ベルの口からウサギが狩られる前のような悲鳴が出た。
落ちてきたモンスター図鑑を受け止めたアルスがパラパラと捲っていくと、挟まっていたレシピを二枚見つけてしまった。
――――――――――アルスは レシピブック 『邪を破るつるぎの書』を 手に入れた!
――――――――――はじゃのつるぎの レシピを 覚えた!
――――――――――アルスは レシピブック 『やすらげる衣装作り』を 手に入れた!
――――――――――やすらぎのローブの レシピを 覚えた!
「確かにヴァレンシュタイン氏は凄いよ! 深層階層主単独撃破なんてありえないけど、まあランクアップも納得できるよねって思える。けどベル君、君は何!? 8階層でモンスターに囲まれたとか変わったことはなかったって言ってたのになに普通にランクアップしてるの! 偉業は、偉業はどこに行ったの!!」
ベルがLv.2に上がったのはソーマファミリアの襲撃前、8階層の落とし穴がないルートを中々見つからずに彷徨っていただけで偉業に値するような何かは確実になかった。
「…………
「自分も騙せないことは言わない方がいいよ」
「はい……」
「このことから判断すると、ベル君達のランクアップには偉業を果たす必要がないということ」
ヘスティア曰く、
「ランクアップの偉業はLv.が上がるほどに厳しくなっていき、特別なヴァレンシュタイン氏でもLv.5からLv.6には三年をかけている。けど、ベル君達は偉業を果たさずともランクアップしてしまえる。敢えて聞くけど、今回の件でLv.3へのランクアップしたなんてことはないよね?」
「流石はそこまではいきませんでした。レベルから考えると今でLv.2の中頃ぐらいだと思います」
「…………ベル君がLv.2になったのは何時だっけ?」
「えっと…………一週間ちょっと前です」
指折りで数えてしまえる程度の日数しか経っていないのに、既にLv.2の中盤に差し掛かっていると聞いて一瞬エイナの意識は遠くなった。
なんとかアドバイザーとしての矜持で繋ぎ止めたが、一週間と口の中で繰り返す。
「数日前にアーデ氏がヘスティアファミリアに改宗したけど、まさかアーデ氏もランクアップしたなんてことは」
恐る恐るの問いかけに、気持ちは分かるベルも苦笑を浮かべてリリルカ・アーデの
「昨日、ステイタスを更新してようやく表記が僕達と同じになったところです。レベルは3なので、ランクアップはまだまだ先ですね」
「そっかぁ、変わっちゃったか」
まだランクアップしていないことに安堵は覚えるも、ステイタス表記が変わったのならばリリルカもまたエイナの胃にダメージを与える存在になったことを示していて泣きたくなった。
「ランクアップは先ですけど、リリは早くも魔法を三つも発現したんですよ」
「え?」
凄いですよね、となんの衒いもなく笑顔を浮かべているベルにエイナはピシリと固まった。
「『ちから』とかのステータスを見る限り僕やアルスのような前衛職じゃなくて、三つの魔法を使えることから考えて魔導士向きじゃないかと思って、早速ヴェルフに魔導士向けの装備を頼みました」
ニコニコなベルに、もう現実を受け入れるしかないと悟ったエイナは遠い目をする。
「三人目も同類かぁ…………ヘスティアファミリアは一体なんなんだろうね」
「何もかも諦めて、現実を受けれてしまえば楽ですよ」
自分事なので現実逃避も許されないベルは未だ抗っているエイナにアドバイスを送る。
「確かに強くなる速度は速いですけど、デメリットもありますから」
「デメリット?」
「ランクアップしても発展アビリティを取得できていないんですよ、僕達」
発展アビリティとは、Lv.が上がる度に基本アビリティに加えて都度ステイタスに追加される可能性がある能力。基本アビリティとは毛色が異なり特殊的、或いは専門職の能力を開花・強化される。
発展アビリティが発現するか否かもまた、積み重ねてきた経験値によって反映される。
「単純に発現するだけの経験値が積み重なっていないとかは? 最短でも一年積み重ねた経験値でようやく発展アビリティが生まれると考えることも出来るよ」
「仮にそうだとして、これだけの早さでランクアップを重ねるとしたら、他の人のようにはいかないと思います」
もうそういう仕様だと思うことにしています、と続けたベルにエイナは確かにデメリットだと頷かざるをえなかった。
ほんの僅かな違いが生死を分けるダンジョンにおいて、発展アビリティは大きな役割を果たす。発展アビリティを得られずにダンジョンに潜って、紙一重で命を落としてしまう可能性は十分に有り得る。
「経験値を積み重ねる前にランクアップをしてしまう、か。早く強くなれるかもしれないけど、もしかしたら同Lv.の人に劣ってしまう可能性もある。難しいところだね」
Lv.1のままで生涯を終えてしまう冒険者からすれば垂涎ものだが、上級冒険者からすれば発展アビリティを得ることが出来ないとなれば望むものではないかもしれない。
「発展アビリティ分の足りない分は装備やアイテムで補うとしても、冒険者歴が長く経験値を積み重ねてきたリリがランクアップをしても発展アビリティを得られなかったとしたら、新規の団員獲得にはより慎重にならざるえないかもしれません」
発展アビリティを得られないと事前に伝えてしまったら、場合によってはファミリアの内情を明かすことにも繋がってしまう。
「まずはアーデ氏のランクアップ次第か。その前にベル君達の問題も解決しておかないね。多分、またそう遠くない内にランクアップをしちゃうだろうから、アドバイザーとしては申請する時期は今しかないと思う」
「色々と疑われません?」
「そりゃあ、疑われるよ。そこら辺は神ヘスティアに頑張ってもらうしかないよ。ベル君達がまだと思うなら止めておくけど」
「…………次の
「じゃあ、申請の準備をしておくね」
「お願いします」
アルス共々、苦労をかけている自覚があるので頭を下げてお願いする。
直後、コンコンと躊躇いがちに感じられる弱々しいノックが背後のドアから聞こえてアルスが振り返る。釣られて反応したベルに大分遅れてエイナが「どうぞ」と外で反応を待っている者に呼びかけた。
「しつれーいしまーす」
入ってきたのはエイナの同僚であるミィシャ・フロット。
少し疲れた様子なのは、都市最大派閥のロキ・ファミリアの担当を半ば任せられておりアイズ・ヴァレンシュタインがLv.6にランクアップしたことで、受付嬢の仕事と並行してランクアップ申請を行わなければならないから。
口達者ではないアイズから聞き取りをして三年分の冒険を纏めるのは、決して要領が良いと言えないミィシャには手間のかかる作業だった。
「エイナ、お連れしたよ」
「お客さんですか? お邪魔になるので僕達はこれで」
誰かを連れて来たらしいミィシャの様子から、エイナに自分達の後に会う用があるのだと考えたベルがお暇する為に立ち上がる。
「何を言っているの? 私の客じゃなくてベル君達のお客さんだよ」
「え?」
座ったまま動かないアルスを急かそうとしたところでのエイナの発言に首を傾げたところで、ドアの影とミィシャに遮られて見えなかった客の姿が目に入った。
「アイズ……ヴァレン……シュタインさん……!?」
細い剣だけを腰の剣帯に差した初めて見る私服姿のアイズ・ヴァレンシュタインばかりに注目して、ローブ姿のリヴェリア・リヨス・アールヴの姿は目に入っていなかった。
ドラクエ式ステータスにおけるランクアップの弊害として発展アビリティを獲得できず。
恐らく本作ベルは原作ベルと比べて最終的な強さは劣るかも。
代わりにヘスティアファミリア全体の標準強さは勝るはず。
尚、本作では都合上、階層主アンフィス・パエナは27階層ではなく29階層で出現することになります。