ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第28話 蹴り殺された仲だ!

 

 

 

 

 

 まだ夜も明けきっていないオラリオの街。

 流石に騒がしいオラリオの街も静まり返っていて、夜を徹して酒を浴びていた者達も眠りについている中、早朝というにもまだ早過ぎる時間にヘスティアファミリアの三人が歩いていた。

 

「アルス、本当に大丈夫?」

 

 先頭を歩くアルス・クラネルの周りを衛星のようについて回りながら双子の兄は心配げに見やる。

 鬱陶し気にベル・クラネルを見つつ、そのうち前を通る際に足でも引っかけそうなアルスの性格を知っているリリルカ・アーデは二人の後をついて歩きながら口を開く。

 

「心配し過ぎです、ベル様。アルス様は今日も朝から誰よりも朝食を食べておられたのをお忘れですか?」

「でも、昨日は息もしてなかったから本当に死んだかと思ったんだよ」

「寧ろ昨日より元気ですが」

「ああ、うん。そこは僕も不思議なんだ。ダンジョンに潜ってないのに、何故かレベルは上がってるし」

 

 当初は他派閥の冒険者に訓練をつけてもらうのはマズいとヘスティアどころかリリルカにも秘密にしていたのだが、アルスが死にかけというか死んだというか、そんなことがあったのでベルが心配しまくり、不審に思っていたところにヘスティアが恒例のステータス更新を行ったら何故か上がっているレベル。

 ダンジョンに潜っていないはずなのに何故かと問い詰めたら真実が明らかになり、リリルカが今ここにいることに繋がっている。

 

「もしかして一人でダンジョンに行ったりした?」

 

→行ってない。冥府で修行したんだ

  行ってない。アイズのお父さんに会ってた

 

「冥府って……」

「本当に死んでいたら冒険者とはいえ、翌日でこんなに元気なのは不自然です。このようにボケるぐらいですからベル様達も慌て過ぎて気絶と間違えたんですよ」

 

 普段の行いというか言動というか、本当のことを言っているのに信じてもらえないアルス。

 

「そうなのかな……」

 

 しかし、そこは双子の関係性で本当なのではないかとベルは感じているが、流石に冥府で修行していたという話は素直に呑み込めていなかった。深く突っ込めば、アルスもより詳細に話して真実と分かっただろうが、端から信じてないリリルカはアルスがそうなった原因にこそ注目していた。

 

「本来ならば別派閥の幹部と修行するなどありえませんが、上級冒険者の指導を受けるなど私達にとって得にしかなりません。これからはリリがヘスティア様の代理として監督させて頂きます」

 

 本当ならば主神たるヘスティアが乗り込むつもりだったのだが、アルバイトの関係で同行が難しくリリルカが代わりを申し出たという流れだった。

 

「回復薬も用意しているので、ご安心下さい」

「よろしく頼む――」

 

 よ、と横を歩いるリリルカに言い切ろうとしたベルは、建物の影から走ってきた人物と出会い頭とぶつかりそうになった。

 そこは冒険者であり、Lv.2となって超人的な反応を見せて避けようとしたところに相手も同じ方向に避けていた。

 

「きゃっ!?」

「うわっ!?」

 

 相手も同じ方向に動くと予測していなかった二人は正面から額同士で激突してしまった。

 よろけたベルの背中をアルスが支えたが、走っていた相手はぶつかった反動で尻もちをついてしまう。

 

「いたっ!?」

 

 頭部への衝撃の直後だけに受け身も上手く取れず、尻もちをついた衝撃に声が出てしまった様子のエルフの少女。

 自分が余所見をしながら走っていた所為でぶつかってしまったのだから、非は自分にあると考えた。

 

「ごめんなさ――」

「すっ、すいません! 大丈夫ですか?」

 

 謝罪の言葉は相手の声に遮られて、エルフの少女――――レフィーヤ・ウィリディスは尻もちをついた姿勢のまま、自分に向けて差し出されたベルの手を見上げる。

 

→出会い頭の衝突、差し伸ばされる手。これが恋が始まる予感か……

  金髪エルフ、ベルの好みのタイプだな

 

 アルスの言葉にギョッとした表情になったレフィーヤは慌てる。

 

「な、なにを言っているのですか!?」

「この人の冗談を真に受けないで下さい。それよりも大丈夫ですか? お怪我などは?」

 

 失礼な、とアルスが文句を言っている横で手を差し出した状態のベルがエルフが肌の触れ合いを基本嫌がることを思い出して引っ込め良いものかと迷っている。

 二人が似た容姿なので兄弟かなとレフィーヤは考えながらベルの手を取って立ち上がる。

 

「ありがとうございます、平気です。こちらが余所見をしながら出てきてしまってごめんなさい」

 

 普通のエルフと違うレフィーヤはベルと手を触れ合わせても不快さを感じさせることなく、笑顔を浮かべて自らの不手際を詫びたところで目的を思い出した。

 

「ところで、この近くで『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインさんを見かけませんでしたか?」

「アイズさん!?」

 

 尻もちをついて汚れただろうからハンカチでも渡そうとしていたベルが露骨に反応した。

 リリルカはレフィーヤにファミリアのエンブレムなどの所属を示す徽章を探すも見当たらないが、早過ぎる時間帯に探しているということから同じファミリアの眷属ではないかと推測する。

 

「…………もしかして、あなたはロキ・ファミリアの方でしょうか?」

「そうですけど、その反応からしてあなた達はアイズさんのことを何か知っているんですか?」

 

 自派閥では団長以外小人族(パルゥム)がいないので少し新鮮な気持ちになりながら、情報があるのならば藁にも縋るつもりで訊ねる。

 

「え、あ、その、えっと……」

 

 嘘をつけないベルはまごつくばかりで明確な言葉を返していない。

 リリルカはベルは使い物にならないと判断して、どうしたのものかとアルスを見る。

 判断を仰がれたアルスは、ここは頼りになるところを見せるべきだと思って灰色の脳細胞が選択肢を作り上げる。

 

→昨日から修行をつけてくれてる

  蹴り殺された仲だ!

 

「アイズさんがあなた達に修行!? なんて羨ましい!」

「羨ましい?」

「もとい図々しい人達ですね! あなた達は他所のファミリアでしょう! なんの理由があってアイズさんに無償奉仕させているんですか!」

「無償奉仕って……」

 

 妄想込みの本音が駄々洩れになっているレフィーヤにベルの目が点になり、数多の冒険者と関わってきたリリルカですら予測できない反応を返されて対応に困った。

 ヘスティアファミリアがロキファミリアと関わり合いを持ってしまったのはリリルカがパーティーに参加する前。両ファミリアの関わりのお蔭でリリルカがヘスティアファミリアを知ることが出来たので、ある意味でロキファミリアは恩人に近いのだが、今は感謝している時ではない。

 相手が大派閥の眷属であることから、誤解を与えないように慎重に対応することが求められる。

 

「修行はアイズ・ヴァレンシュタイン様からの提案です。私達ヘスティアファミリアが望んだわけではありません」

「ヘスティアファミリア……? ミノタウロスの件などでロキ・ファミリア(うち)から武器を巻き上げた、あの?」

「傍から聞くとヘスティアファミリアの醜聞が悪いので止めて下さい。また(・・)侮辱されたと同じ目に合いたいのなら別ですが」

 

 相手も零細ファミリアに詫びを入れさせられたことは知っているようなので、リリルカも事を大きくしたいわけではないので高圧的にならないように注意する。

 リリルカが神経に注意を払っている間、アルスは丁度近くに樽があったので静かに破壊する。

 

――――――――――アルスは レシピブック 『おしゃれガール特集』を 手に入れた!

――――――――――プリティキャップの レシピを 覚えた!

――――――――――プリティエプロンの レシピを 覚えた!

――――――――――ラブリーバンドの レシピを 覚えた!

――――――――――ラブリーエプロンの レシピを 覚えた!

 

「そんなつもりはありません。しかし、本当にアイズさんが新興ファミリアの下級冒険者に修行をつけるなんて自分から言うとは思えないです」

 

 相手の身になって考えればレフィーヤの言は正しいと、横目でアルスの所業を確認して後で怒ると決めたリリルカも認める。

 

「お疑いならば、共に行かれますか? 市壁の上でヴァレンシュタイン様が待っておられるはずですから」

 

 聊か伝聞系なのはリリルカ自身もベル達から聞いただけであり、何よりも直接アイズ・ヴァレンシュタインと接したことがない。

 初対面の仲でどんなに言葉を尽くすよりも、待ち合わせ場所にいるアイズに直接説明してもらった方が簡単に納得してくれるだろうと考えた。

 

「…………分かりました。ですが、虚偽であった場合は」

「ギルドなりガネーシャ・ファミリアなり、なんなりと為さって下さい。お待たせしているので急ぎましょう」

 

 レフィーヤの脅しを軽く受け流しながら、リリルカの先導で目的地に向かって歩き出す。

 先に進む三人の背中をレフィーヤは睨みつけながら後をついて行く。

 

「アルス、どうしよう……」

 

 背後から睨みつけるようなレフィーヤの視線の圧を感じながらベルは困ったように隣を歩く双子の弟に助けを求めた。

 

→成るようになるさ

  ベルの好みの子なんだから、いてこましたれ

 

「うぅ、頼りにならない」

 

 助けを求めておいてなんて言い草だと、アルスがもう知らんとばかりに歩く速度を上げると、「ご、ごめんて」と謝りながら後を追うベル。

 しまいには二人で駆けっこでもしそうになったのをリリルカが叱責して止めさせる。そんな三人をレフィーヤは先程までの緊張感はどこに行ったのかと、拍子抜けの気分を味わっていた。

 

「…………変な人達」

 

 面白い人達なのは間違いないと思っている間に、北西の市壁を見上げる位置に来ていた。

 ベル達はさっさと市壁の上に上がる螺旋階段に足をかけていて、おいて行かれないようにレフィーヤも足を早めて登る。

 

「おはようございます、アイズさん」

 

 先を進んでいたベルの声が聞こえ、数秒でレフィーヤも同じ視点へと登っていく。

 

「おはよう――」

 

 やがて見えてきた市壁の上には、先に来て待っていたアイズ・ヴァレンシュタインがベル達に続いて姿を見せたレフィーヤを認識して挨拶が止まった。

 

「れ、レフィーヤ!?」

 

 いるはずのない者がここにいて、人形姫などと噂されるほど無表情が多いと言われるアイズの目が見開かれる。

 

「どうして、レフィーヤがここに?」

 

 まさか他の者もここに来ているのかとレフィーヤの後ろを気にしながら聞いてきたアイズから後ろめたさを感じ取る。

 キョドキョドとしている珍しいアイズの姿に新鮮さを覚えながら、疑いは晴れたが同じ派閥同士での話し合いを優先させようと距離を取ったヘスティアファミリア達に疑って申し訳ないと目礼する。

 

「朝早くから出かけるアイズさんが気になって後を追いかけて来たんです。途中でヘスティアファミリア(彼ら)に会って、アイズさんに修行をつけてもらっていると言っていたので真偽を確かめようと」

 

 見られていたのかと動揺も露わにする、これまた珍しいアイズの姿に逆にレフィーヤは冷静になっていた。

 

「先にこちらにおられたということは、彼らの言うことは本当だったんですね。あの、このことはロキや団長達は……?」

「うっ、お願い、レフィーヤ。ロキやフィン達には黙ってて!」

「やっぱり秘密にしていたんですね……」

 

 アイズの戦闘技術はフィン・ガレス・リヴェリアが教えたもので、ロキファミリアが積み上げた財産とも言うべき経験の蓄積。それを幹部とはいえ、主神や団長の許可なく他派閥の冒険者に無断で教えるなどあってはならないこと。

 

「『遠征』が始まるまでの期限付きで戦い方を教えてるの。私は彼らの強さの秘密が知りたい」

「強さの秘密、ですか?」

 

 話が長くなりそうだからと、アルスとベルの二人がウォーミングアップ代わりに持ってきた『どうのつるぎ』で模擬戦を始めていて、徐々に速度を上げていくその動きにレフィーヤは目を見張る。

 

「…………私の記憶では、ヘスティアファミリアは出来て1ヶ月ばかりのファミリアで、彼らはミノタウロスに追い詰められた駆け出しの冒険者だったはずです」

 

 お互いの癖を知り尽くした動きとはいえ、キレや速度はミノタウロスどころか、魔導師で前衛職ではないとはいえLv.3のレフィーヤでは太刀打ち出来ないかもしれない。

 

「うん、彼らは1ヶ月でLv.2になってる」

「1ヶ月!? Lv.2!?」

 

 有り得ない、とレフィーヤは断言する。

 

「そんな馬鹿な!? アイズさんの1年が最短記録なのに、それをたった1ヶ月で!?」

 

 誰の目で見ても才能の塊であるアイズでさえランクアップするのに一年かかったというのに、1ヶ月や2カ月どころか12分の1にまで縮めるのは異常を通り越して物理的に有り得ないと断言する。

 不可能であるのならば、考えられるのは尋常ではない方法でランクアップしたと想像する。

 

「何らかの不正を」

「それはないと思う」

 

 アイズもレフィーヤと同じことを考えなかったわけではない。

 

「少ししか話してないけど、彼らはそんなことはしないと思う。第一、不正をするにしてもこんなあからさま過ぎるやり方だと疑ってほしいと言っているようなもの。普通なら疑われないように慎重を期すものだから」

「じゃ、じゃあ、ギルドに冒険者登録以前から経験値(エクセリア)を貯めこんでいたとか!」

 

 駆け出しというのは、虚偽の自己報告だった。例えば、神の力――――アルカナムを使ったり、ランクアップの所要日数を偽ったり、やろうと思えばイカサマの方法は多々ある。

 

「冒険者になる前はただの農民だったって」

 

 レフィーヤが思いついたことはアイズも既に探りを入れていた。

 

「なら、やっぱりおかしいです。アイズさんでも最初のランクアップに1年かかったのに、私達の恩恵は1ヶ月そこそこで昇華できるほど簡単なものでないからこそ、多くの人達が苦労しているんですよ!」

「うん、そうだね。だけど、彼らは現実としてランクアップしている」

 

 模擬戦に熱中している二人の動きは、アイズの目から見てもLv.2どころかLv.3の領域に足を踏み入れているほど。しかし、その動きとは裏腹に技や駆け引きが見合っていない。

 

「ステータスに振り回されてるわけじゃない。でも、動きの所々に稚拙さがある。技術が追いつくよりも早く急速に成長している証」

 

 短期間での成長を示す傍証ではあるが故に、そう至るに足る何か(・・)があるはずだとアイズは見た。

 

「1週間程度だと何も分からないかもしれないけど、何かが掴めるかもしれない。誰も失わずにすむほどの更なる強さを得る為に、私は彼らの強さの秘密を知りたい」

「アイズさん……」

 

 アイズの気持ちが分からないはずがない。つい先日の事件で、レフィーヤだってもっと力があればエリリーというドワーフが身を呈することもなかったはずだ。

 強くなりたい、力が欲しい。

 今度こそ守れるように、何も失わないように、後悔しない為に、やれることを全てやりたいと。

 

「お願い、レフィーヤ。みんなには黙っててほしい」

「…………条件があります」

 

 アイズの言うことを聞いて黙っておくことも出来る。しかし、それでレフィーヤの何が変わるのか。

 

「失いたくないのは私だって同じ気持ちです! 私にも彼らと同じように特訓をつけて下さい!」

 

 Lv.6に至ったアイズが貪欲に強くなろうとしているのに、未だLv.3のレフィーヤが足踏みをしていられるはずがなかった。

 

「いいよ、私でいいなら…………あ、彼らにも聞いてみないと」

 

 黙っていてくれるのならアイズにレフィーヤの提案を断る理由はない。そうなると修行が重なってしまうベル達に確認する必要が生まれる。

 なんかこのまま模擬戦で終わりそうな空気を醸し出している二人を観戦しているリリルカにまずは話を通すことにした。

 

「成程、そちらの方も参加したいと…………こちらからも条件をつけて構いませんか?」

 

 イマイチ止め時が見つからなくて模擬戦を惰性で続けている二人ではなく、消去法で話を聞かされたリリルカはレフィーヤが魔法種族(マジックユーザー)であるエルフであることに注目した。

 

「はい、なんでしょう」

 

 話を持ち掛けたアイズではなくレフィーヤを見ての条件付け。レフィーヤは心構えをして待った。

 

「その前に、そちらの方は魔導師とお見受けしますが間違いないですか?」

「ええ、私はこれでも『千の妖精(サウザンド・エルフ)』という二つ名を持つ魔導師です」

 

 胸をトンと叩くレフィーヤの二つ名はリリルカも耳にしたことがあるほど有名なモノ。

 彼女の二つ名の由来にもなっている、エルフの魔法に限って詠唱とその効果を完全把握していれば他者の魔法を使用できるという前代未聞のレア魔法を持つことで、オラリオで最も使える魔法が多い魔導師。

 現段階で9つの魔法を使えるようになってしまったリリルカにとって、今最も欲しい魔導師の先達。

 

「レフィーヤ・ウィリディス様にお願いがあります。リリに魔導師としての戦い方を教えて下さい!」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮の真上に大穴に蓋をするように築かれたバベル、その最上階には絶世の女神がいた。銀髪の女神は豪奢な椅子に身を預けながら北西の市壁で行われている訓練を見下ろしている。

 ワイングラスを傾けながら口をつけるでもなく、部屋の隅で直立する猪人の男へと視線を向ける。

 

「オッタル、どうかしらあの子達は」

「どう、とは?」

 

 問われた猪人の男オッタルは簡潔に過ぎる主神の問いの具体性を求めた。

 

「器が洗練され、あの子達の輝きは日に日に色鮮やかさを増している。いっそ、不可解なほどの速さでね」

 

 神々には下界の子供達の魂が見えるという。

 今も北西の市壁で訓練を続ける兄弟の魂の輝きに魅了されながらも、予想を遥かに超える速度に女神は口を笑みの形に細めている。

 

「ギルドの情報では、剣姫と静寂の最短記録を大幅に更新したランクアップ者が二人も出たと聞いています」

「別に不正を疑っているわけじゃないのよ。あの(・・)ヘスティアの子なのだから、そういうことはしないだろうし」

 

 この前のガネーシャ・ファミリアでの神の宴で会ったヘスティアの姿を思い出す。

 天界でのヘスティアは良くも悪くも平等であり、誰も差別しないし区別もしなかった。怠け癖はあったが正義感の強い神格者であったことに疑いはない。不変である神は下界に下りても変われないのだから、眷属可愛さに不正を行う神ではないと女神も確信している。

 では、何が気になるかといえば、魂の輝きにこそあった。

 

「強くはなってる。けど、片方には輝きを邪魔する淀みがあり、もう片方には輝きが安定せず違う色に染まりかねない不安定さがあるの」

 

 より輝きを増すにはどうしたらいいか。

 

「何かが邪魔をしているのか、何かが欠けているのか…………オッタルには分からない?」

 

 問われたオッタルは一考して口を開く。

 

「因縁かと」

「因縁?」

「はい、フレイヤ様がお話してくださった、ミノタウロスとの一件が片方は本人にも与り知らない場所で棘となり苛んでいるのでしょう。もう片方には逆にその因縁がないことで、どこへ進むべきなのかと定まっていない……」

「つまりは、トラウマと目標ということね」

 

 簡潔に要約した女神は、不変たる自らとは真逆の有り様に愛おしさを感じつつも、ワイングラスの中身をゆっくりと揺らす。

 

「本当に子供達は繊細なのね。私達は執着することはあっても過去にも未来にも縛られない。下界の貴方達から見れば私達神々が能天気なだけ?」

「滅相もありません」

 

 らしい返答に退屈を覚えつつ、話を進める。

 

「因縁の解消と成立…………あの子達をより輝かせるには、どうしたらいいのかしら?」

 

 話の帰結はそこ(・・)へと行き着く。

 方策を問われたオッタルは自らの経験でその答えを知っていた。 

 

「己の手で棘の象徴を打ち破ることと、今の己の全てを賭けても届かない高みを知ることが必要かと」

「それは貴方の経験から出た言葉?」

「…………」

 

 珍しく女神の問いに答えることなくオッタルは沈黙を返した。

 

「ふふ、言いたく無いのかしら?」

「…………男は昔のことを語りたくないものです」

 

 瞼を伏せたオッタルが何を想起しているのか、ある程度の推測が浮かんでいたが敢えて女神は問わなかった。

 

「可愛い子」

 

 静かに笑みを浮かべる女神に妙案が浮かんだ。

 

「オッタル、今後のあの子達への働きかけ、貴方に任せるわ」

 

 予想外の提案にオッタルもこの時ばかりは訝し気な顔を隠そうとしなかった。

 

「どのような風の吹き回しですか?」

「だって貴方の方があの子達のことを分かってるんだもの。いっそ、嫉妬しちゃうぐらいに」

 

 だからお願いね、と美の女神らしく、接する機会の多い眷属ですら魅了せずにはいられない妖艶な声にオッタルは否とは言えなかった。

 

 

 

 

 






 ヘスティアはアイズ達との修行は一回限りで、リリルカが同行したのは今後の修行を断りに行ったと思っています。

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