ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第30話 アルスは イオを となえた!

 

 

 11階層から階段を下りきると、進路の光景に変化が訪れる。

 薄緑色の壁面が、燐光を灯す天井が、足元の地面が、でこぼことした表面を作っている。前進するにつれて規則正しい迷路の形が失われていき、まるで洞くつの中に迷い込んだような錯覚を受ける。

 

「ようやく湿原エリアを抜けたか」

 

 駆け足で12階層にまで辿り着いた為、泥だらけになった足元を見下ろしたヴェルフ・クロッゾが嘆息する。

 

「ここからは12階層、霊水の洞くつと呼ばれているんだっけ?」 

「はい、ご覧の通り綺麗な水が流れている階層なのと、まるで洞窟のような作りからそう呼ばれています」

 

 11階層の湿原と同じように12階層にも水はあるが十分に避けて通れる規模しかない。

 先頭でベル・クラネルがモンスターの警戒をして、中衛にリリルカ・アーデ、その斜め前にアルス・クラネル、最後尾に重装備のヴェルフが背後を気にしながら続く。

 

「12階層に来れたので、改めて冒険者依頼(クエスト)の内容の復唱しておきます。まず一つ目(・・・・・)は、ミアハ・ファミリアのナァーザ様より頂いた冒険者依頼(クエスト)です」

 

 冒険者依頼(クエスト)とは簡単に言ってしまえば冒険者に対する依頼の総称で、内容とはずばり依頼人と呼ばれる者達が抱える様々な問題を報酬と引き換えに冒険者に解決してもらうこと。

 今回の例に当てはめるならば、依頼人がナァーザ・エリスイスで、冒険者側はベル達になる。

 

「ナァーザって、あの犬人(シアンスロープ)の姉ちゃんだったか」

 

 冒険者依頼(クエスト)を受注時にはいなかったヴェルフは一度だけ会ったことがあるナァーザのことを思い出す。

 

「ナンパなどしないで下さいよ、ヴェルフ様」

「しねぇよ」

 

 そこまで軟派なつもりはないヴェルフはリリルカの釘差しを、心外だと雄弁に表情で語りながら否定する。

 

「コホン、依頼内容は『この階層の深部にある清き泉と呼ばれる場所の湧き水を汲んでくること』です」

 

 流石に邪推が過ぎたと自覚したリリルカはバツが悪そうに続けたので、仲間としてベルも話を合わせることにした。

 

「『さえずりのみつ』って言うアイテムを作るのに必要なんだよね」

「はい、元はエルフに伝わっていた、喉を痛めた吟遊詩人がこれを飲むとたちまち美しい声を取り戻したとされる薬をナァーザ様がアレンジしたものと聞いています」

 

 エルフは魔法に優れた適性を持つ種族と知られているが、長命種として古来から多くの物を現代にまで伝えてきている。今回、ナァーザが作る『さえずりのみつ』も原型はエルフが伝えたモノだとリリルカは聞いていた。

 

「湧き水と薬を調合して『さえずりのみつ』を作るのはナァーザ様が行うので、私達が行うのは湧き水を汲んで帰るところまでです」

 

 冒険者依頼(クエスト)としては至極単純な内容に、依頼内容までは詳しく聞いていなかったヴェルフは拍子抜けしていた。

 

「結構簡単だな。報酬はポーションの割引だったか?」

「ミアハ・ファミリアで購入する商品を割引して購入させて頂いているので、その割引を継続する為に定期的にクエストを熟す契約になっているので、今回のクエストだけの報酬は正確にはありません」

「報酬なしなんて、よくそんな冒険者依頼(クエスト)受けたな。ギルドを通してないんだろ?」

 

 いくら派閥繋がりで懇意にしているとはいえ、 冒険者依頼(クエスト)の多くがギルドを介しているので下級冒険者がギルドを介さずに受注するのはかなり珍しい。

 

「神様とミアハ様の仲が良いから贔屓にさせてもらってるんだ」

 

 ヘスティアファミリアとミアハファミリアは主神同士の仲が良く、その関係でベル達もナァーザからポーション類を買うことが多い。

 

「一時期はナァーザ様に体良く利用されていましたけどね」

「そうなのか?」

 

 親愛を感じさせたベルの語り口とは真反対のリリルカの言葉に、驚いたヴェルフがベルに確認する。

 

「うん、まあ……昔の話だよ」

 

 リリルカの言うことも嘘ではないので、ベルは言い方に困りながら過去のことだと誤魔化す。

 

「発覚したのは、リリがヘスティアファミリアに入ってソーマファミリアの問題が片付いた翌日のことなので、まだ一週間も経っていないですね」

「思いっきり最近の話じゃねぇか!?」

 

 ベルが昔だと言うから最低でも一ヶ月以上は過去のことだと思ったら、最近も最近な話だったので叫んでしまった。

 

「い、今は違うんだよ! 」

「前はナァーザ様に無理矢理に品々を買わされていたのです。しかも、買わされたポーションにしても、溶液を薄めて効能は半分以下しかなかった物を定価や割引だと偽ってベル様達に売っていました」

「…………そこまで分かっているのに、冒険者依頼(クエスト)を受けたのか?」

「この問題は解決済みで、遺恨はもうありませんから」

 

 ソーマファミリアの問題が解決し、心機一転してヘスティアファミリアの副団長の仕事を開始したリリルカが真っ先にしたのが、ミアハ・ファミリアから購入し過ぎている商品について新規購入の停止だった。

 ヘスティアファミリアはアルスに治癒魔法(ホイミ)があるから、あまりポーションを使わない。在庫が溜まり過ぎていたので、その整理をしていた際に質が悪いポーションが幾つもあることが分かり、ベルから購入時の割り引きの話を聞いたリリルカがナァーザを糾弾。

 そこでナァーザがそうした理由(ディアンケヒトへの借金)を聞いて、既に救われたリリルカは彼女をそれ以上糾弾できなかった。

 ナァーザが不正を働いてまで金銭を稼ぎたかった気持ちが理解できたので、新商品である二属性回復薬(デュアルポーション)の開発に協力し、今後の関係を続くことで両者は合意した。

 

「詫びとして頂いた二属性回復薬(デュアルポーション)と、今後購入する品々を一定期間ごとに発注する冒険者依頼(クエスト)を熟すこと約束して関係は修復されています」

「外様の俺が言えた台詞じゃないが、本当にそれで良かったのか?」

 

 一方的に利用されたのに、今も関係を続けることはヴェルフには出来ない。

 今もある意味で体良く利用されているのではないかと懸念が沸き上がり、弟分達(ベル達)のことが心配になってしまう。

 

「これでいいんだよ。もっと先を見ればポーションに頼ることは増えていくだろうし、二属性回復薬(デュアルポーション)の効果は大きい。長期的に見れば十分に採算は取れるよ」

「という、団長の判断ですのでリリも大人しく従っているです」

 

 ベルが過去の遺恨を水に流しているのであればリリルカが拘る理由もなく、彼らが気にしないのであれば外様のヴェルフが気にするのも変な話なので、この件に関しては口にしないことを決める。

 

「今回は冒険のついでに 冒険者依頼(クエスト)も熟せるので、敢えてナァーザ様から依頼を断る理由もなかったのが大きいですが」

 

 一度騙していた引け目もあるのか、ついでで冒険者依頼(クエスト)を熟せるようにナァーザもその辺りを考えて依頼を出していることは想像に固くない。お人好しのベルだけでなく、リリルカも断りにくい冒険者依頼(クエスト)だった。

 

「もう一つの冒険者依頼(クエスト)がその理由か」

大賭博場区域(カジノ・エリア)に観光に訪れた、どこかの国の侯爵からの依頼です。こちらはギルドを介した正式な冒険者依頼(クエスト)になります」

 

 国の名前は聞いたが聞き覚えのない名称だったので直ぐに忘れてしまった。

 

「内容は侯爵夫人が欲しがっている『ももいろサンゴ』を至急手に入れてほしいというものです」

 

 侯爵はいつも仕事で忙しくしていたので、迷惑をかけている妻の為に久しぶりに休みを取ってオラリオの大賭博場区域(カジノ・エリア)に来たのだが、帰る直前になって『ももいろサンゴ』がどうしても欲しいと突然言い出した。

 仕事があるので国に帰らないといけないのに、帰る日の朝になって突然言い出した侯爵夫人の無茶な我儘を侯爵は何時も迷惑をかけている分、妻の為に出来るだけのことはしようとギルドに依頼を出したのだ。

 

「『ももいろサンゴ』は主に中層に出現するシーゴーレムから取れるドロップアイテムですが、12階層の清き泉の前に守護者のように立ち塞がっている個体が確認されています」

 

 依頼期限は侯爵がオラリオを発たないといけない今日の夕方まで。

 期限が短すぎる割に報酬が低く、その割には労力と速度を優先させる依頼にギルド職員達は困っていた。

 

「清き泉は食糧庫(パントリー)の近くにあるので、モンスターとの遭遇率が高くなり訪れる者が少ないので、対象モンスターはまだいるはずです。中層目前の階層なのと、夕方までの時間制限つきなので避けられることが多い依頼だったようです」

 

 冒険前にナァーザから個人的に冒険者依頼(クエスト)を請け負ったことを報告しにギルドを訪れたベル達にエイナ・チュールは助けを求めた。

 

「ナァーザさんの冒険者依頼(クエスト)をクリアするには、どっちにしてもシーゴーレムを倒す必要があったし、エイナさんも困ってたからどうせなら受けてみようと思って」

「と、受けてしまったものは仕方ないので、一挙両得を狙っていきましょう」

 

 事前に12階層の攻略をエイナ・チュールに伝えていたので、ベル達ならば至急を要する依頼を熟せる実力と信頼を見込んで依頼してきたのだ。ベルはエイナの期待に応えたい。

 

「ところで、この冒険者依頼(クエスト)の報酬は何なんだ?」

「…………獣のムチのレシピです」

「は?」

「仰りたいことは分かっています。ですが、アルス様が受けると言ってしまったのです」

 

 ブイ、と二本指を立てるアルス。

 

「ああ、アルスだな」

「ええ、アルス様です」

「ごめんね、こんなアルスで」

 

 アルスが貰える物ならば何でも貰う主義であることを三人は良く知っていた。

 

「『うまのふん』までどこからか貰ってくるんだから困ったものだよ」

「意外に『デメテル・ファミリア』で重宝してくれるので馬鹿に出来ないのが困りものです」

「どんな物でも使い道はあるもんだなぁ」

 

――――――――――まもののむれが あらわれた!

 

 スライムにくらげのような足がついたホイミスライムの色違いのしびれくらげが三体に、物凄く大きな毒蛙のポイズントードが二体。

 

「アルス様、続いてください! イオ!」

 

――――――――――リリルカは イオを となえた!

――――――――――まもののむれに ダメージ!

 

「イオ」

 

――――――――――アルスは イオを となえた!

――――――――――まもののむれに ダメージ!

――――――――――まもののむれを やっつけた!

――――――――――アルスたちは 440ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――まもののむれは 魔石を 落としていった!

――――――――――ポイズントードは ガマのあぶらを 落としていった!

 

「う~ん、瞬殺!」

「僕達の出番が……」

 

 何かする前にリリルカとアルスの爆発魔法(イオ)であっという間に戦闘が終了してしまい、ヴェルフが振り上げた『はがねの斧』を振り回し、ベルは取り外した『やいばのブーメラン』を元に戻す。

 

「しびれくらげとポイズントードはその名の通り、麻痺と毒を使います。『まんげつ草』と『どくけし草』を使わないですむなら、それに越したことはありません」

 

 負けはしなくても、モンスターの方がこちらよりも多かったので状態異常になれば相応の消耗を強いられかねない。MPの消耗はあれど、最速最善の行動だったとリリルカは自負している。

 

――――――――――マタンゴたちは こちらが みがまえるまえに おそいかかってきた!

――――――――――マタンゴAは あまい いきを はいた!

 

 振り返ったところで迫りくるマタンゴが放った【甘い息】に、アルスは射程外にも関わらず抜き放ったウダイオスの黒剣の柄を半回転させる。

 

「はっ!」

 

――――――――――アルスは、剣を ぶんまわした!

――――――――――ミス! マタンゴたちは ダメージを 受けない!

 

 射程外の状態で攻撃したところで攻撃は届いていない。アルスの目的は別にあった。

 

――――――――――アルスたちは ねむらなかった!

 

 ウダイオスの黒剣の刀身を寝かせず、幅広部分で大きく空気抵抗を受けながら振り回したことで生まれた突風が大半の【甘い息】を押し返した。

 【甘い息】を発したマタンゴには当然ながら自らの技に耐性があり、眠ることはなかったが突風に耐えていて次の攻撃への優先権を失った。

 

「やっ!」

 

――――――――――ベルは、デュアルカッターを はなった!

――――――――――マタンゴたちに ダメージ!

 

 短い手足と強烈な顔を持ち、紫色の傘に黄緑色の体といった色合いが毒々しいマタンゴはベルの『デュアルカッター』で大きなダメージを負った。

 

「おらぁっ!」

 

――――――――――ヴェルフの こうげき!

――――――――――マタンゴAに ダメージ!

――――――――――マタンゴAを たおした!

 

「えいっ!」

 

――――――――――リリルカの こうげき!

――――――――――マタンゴBに ダメージ!

――――――――――マタンゴBを たおした!

――――――――――マタンゴたちを やっつけた!

――――――――――アルスたちは154ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――マタンゴたちは 魔石を 落としていった!

――――――――――マタンゴは うるわしのキノコを 落としていった!

 

「油断大敵だったな。アルスの機転で助かった」

「アルス様も良く反応出来ましたね」

「流石はアルスだよ。って、そのキノコも回収するの?」

 

 魔石を手早く回収した中で、マタンゴが落としていったドロップアイテムである紫色をしたどこか卑猥な感じがするキノコにベルが眉を顰める。

 

「これでも殆ど市場に出回らないレアドロップアイテムの一つなんですよ」

 

 特定装備に必要な素材ではあるが、必要になる装備がそれほど多くないこともあってあまり市場に出回らない。

 

「そうそう、これで素材が揃ったからリリ助の『ウィッチローブ』が作れるようになるんだ」

「え、このキノコを使ってですか?」

 

 どこか卑猥な感じがするキノコを使って自分が纏う装備が作られるかと思うと、ちょっと年頃の乙女として嫌な気分を覚えたリリルカだった。

 

「出来上がった装備に素材は関係ねぇって。『ウィッチローブ』は今リリ助が着てる『まじょの服』と比べて倍以上の性能があるんだ。素直に喜んどけ」

 

 『まじょの服』は守備力+21・こうげき魔力+8の性能に呪文封印ガード30%の効果がつく。対して、『ウィッチローブ』は守備力+43・こうげき魔力+18に呪文封印ガード40%の効果。

 

「流石はヴェルフ様。ヘファイトスファミリアが誇る天才鍛冶師です!」

「そうだろうそうだろう」

 

――――――――――まもののむれが あらわれた!

 

 装備性能が倍以上になると聞かされて手の平を返したリリルカにベルが苦笑していると、食糧庫(パントリー)が近いのか、そう間断を開けずに前方から新手のモンスター集団が現れる。

 先頭を飛ぶのは紫色の女性コウモリ鳥人のくらやみハーピーが二体、地面ではサザエのような巻貝を背負い持つスライムのスライムつむりが一体、近づいてきたところで泥まみれの巨大な手(マドハンド)も地中から出てきた。

 

「イオ」

 

――――――――――アルスは イオを となえた!

――――――――――まもののむれに ダメージ!

 

「イオ!」

 

――――――――――リリルカは イオを となえた!

――――――――――まもののむれに ダメージ!

――――――――――まもののむれに ダメージ!

――――――――――まもののむれを やっつけた!

――――――――――アルスたちは283ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――まもののむれは 魔石を 落としていった!

――――――――――くらやみハーピーAは パープルアイを 落としていった!

――――――――――くらやみハーピーBは パープルアイを 落としていった!

――――――――――スライムつむりは ホワイトパールを 落としていった!

 

「…………広範囲魔法が便利過ぎるね」

「一人じゃなくて二人だもんな」

 

 リリルカが魔導師としてやっていくのに過不足無くなったので、分担してサポーター役を行って進みを再開したところでヴェルフは先程の戦闘を思い出す。

 

「リリ助がアルスと同じ魔法が使えるようになって、大体のモンスターを二人だけで倒せるんだもんな。やっぱりパーティーに魔導師がいると全然違う」

 

 超短文詠唱なのでヴェルフの魔法『ウィル・オ・ウィスプ』も詠唱しきる前に発動が可能という始末。

 絶対に敵対はしないと心に決めているヴェルフは知らないことだが、アルス達はレベルが上がるごとに【こうげき魔力】のステータスの上昇に合わせて威力が上がっているので、まだまだこの程度では収まらない。

 

「うぅ、僕も同じ魔法が使いたい」

「贅沢を言わないで下さい、ベル様。ベル様の魔法も大変便利ですよ」

設置型の罠(ジバリア)眠り覚醒(ザメハ)宝箱の鑑定(インパス)が?」

 

 自分の魔法が地味なことを気にして羨望を滲ませるベルに、リリルカが目をカッと開く。

 

「設置型は退却時やモンスターに追われた時に有効ですし、眠りを素早く安全に覚ますなんて他に類を見ません。宝箱を開ける前に鑑定出来るなんて有用以外の何があるんですか!」

「う、うん、褒めてくれてありがとう……」

 

 リリルカの勢いが強過ぎて、なんだ自分の魔法って実は凄かったという気になったベルが照れる。

 ベルは単純だなとヴェルフが思っている間に、天井の燐光はいつの間にか薄れていき、明るさが失われていく。

 

「光が……」

 

 代わりに、先の通路の曲がり角の奥からぼんやりとした緑光が溢れている。

 

「この先が食料(パントリー)になります。別に用は無いので通り過ぎましょう」

 

 

 

 

 







 12階層は霊水の洞くつとなります。


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