ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第33話 今夜と言わずに何度でも!

 

 

 

 

 

 主催者であるアポロンの挨拶もあって、たちまち騒がしくなった大広間。

 

「僕達はどうしますか、神様?」

「アポロンとは話しておきたいけど、後の方がいいだろうね。主催者だから忙しいようだし」

 

 ベル・クラネルに次を問われたヘスティアは招待客に囲まれているアポロンを見て、あの場に突撃する気も強い理由もないので話をするのは後回しにすることにした。その目は白いテーブルクロースの上で彩られている多種多彩な料理に釘付けになっている。

 

「折角来たんだから料金分の食事をしっかりと食べようぜ、ベル君。行くぞ、アルス君!」

 

 ガッテンだ、とどこでそんな言葉を覚えたのかと問い質したくなる合いの手を入れて、アルス・クラネルを引き連れたヘスティアが衣装代と箱馬車代の元を取ろうと料理に突撃していく。

 なんとなく二人の勢いに乗れきれなくて、ベルは一人で取り残された。

 

「君は行かないのかい、ベル君」

「ヘルメス様」

 

 どうしたものかとベルが悩んでいると、ようやくアスフィから受けたダメージが回復した様子のヘルメスが話しかけてきた。

 

「宴の雰囲気にまだ慣れてなくて」

 

 元はただの農民でしかないベルに貴族が開くような夜会に参加した経験はなく、アルスのように図太くもなれなくて立ち位置に迷ってしまうことをヘルメスに吐露する。

 

「それはいけない。上級冒険者に成れば主神と共に社交界に出ることもある。上に上がる気概があるなら、どんなことでも学びの姿勢を持つのが大事だ」

「ありがとうございます、勉強になります」

 

 慣れないままではすましてはいけないと自覚して頷くと、ヘルメスは壁の花になっているベルの横に移動する。

 

「ところで、ベル君はどうしてオラリオに来て冒険者になったんだい?」

 

 唐突とも取れる質問だが、こちらの緊張を解そうとしているのだろうと察して口を開く。

 

「祖父が、育ての親が言ってたんです。オラリオにはお金も名誉も、可愛い女の子との出会いも何でもあるって。なんなら英雄にも成れる。覚悟があれば行けって」

「ははっ、本当かいそれ?」

「はい、それで祖父が探しに来た祖母から逃げ出して行方不明になったので、アルスと二人きりになっちゃったから夢だったオラリオに行こうってことになって、ここに来たんです」

「ゆ、行方不明って、本当に愉快な人だねぇ…………あの女神を祖母なんて命知らずな」

「僕もそう思います」

 

 後半の慄きと共に吐かれた呟きはベルの耳には入らなかった。

 まさか『モンスターに襲われて死んだことにしようかと思ったけど多分、アルスなら気づくだろうから本当のことを言っちゃえ』などと祖父が考えたこともベルは知らない。

 

「オラリオに来たはいいけど、色んなファミリアの門戸を叩いたけど弱そう・ぼうっとしているからって断られちゃって、路銀も底を尽きかけている時に神様と出会えたんです。実はヘルメスファミリアの面接も受けたんですけど落ちちゃって、もし入団出来ていたらもしかしたらヘルメス様を神様って呼んでたかもしれませんね」

 

 今なら笑い話に出るが当時は割と深刻に受け止めていた話題を口にすると、途端に飄々としていたヘルメスの表情がガラリと変わる。

 

「なに? 俺は初耳だぞ」

「試験のコイン当てゲームで当てられなくて、直ぐに不合格になっちゃったから言う必要が無かったんじゃないですか?」

 

 二人で同じファミリアに入るつもりだったから、ベルがダメってなった時点でアルスは試験も受けていない。後でアレはイカサマだってアルスが言ってたなとベルが回想していると、右手の平で眉間を抑えて顔を俯かせたヘルメスが喉の奥で唸る。

 

「…………試験をしたのが誰か分かるかい?」

 

 押し殺したようなヘルメスの問いに、ベルは試験官の種族と容姿を思い出す。

 

犬人(シアンスロープ)の女性でしたけど……」

「ルルネ、後で覚えてろよ」

 

 小声で呟かれた憎々し気な言葉は幸運にもベルの耳には届かなかったが、何かを言っているのは分かった。

 

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ。それよりさっきから向こうを見てるけど、アポロンが気になるのかな?」

 

 明らかな話題転換だったが、まだ微妙に傷口が疼く話題だったのでベルも乗っかることにした。

 

「招待して頂いたお礼をしたいので、出来れば話をしたいんですけどお忙しそうで」

 

 チラチラと中々人や神が掃ける様子のないアポロンの方を見ていたのは事実なので正直に答える。

 同じ方を見たヘルメスは持っていたワイングラスを傾けて口に含む。

 

「主催者だからね。まあ、面白い奴だよアポロンは。オレは天界の頃から付き合いがあるけど、見ていて飽きない。特に色恋沙汰の話題が尽きなくてね。例えば、君の所の主神ヘスティアにも求婚したことがあるんだぜ。ヘスティアは速攻で袖にしてたが」

「ほ、本当ですか?」

「本当だぜ。なあ、ヘスティア」

 

 食い溜めをしていたヘスティアがいらないことを言わないように聞き耳を立てていたことにヘルメスは気づいていた。

 

「知らないよっ! というか、ベル君に余計なことを言うな、ヘルメス!」

「という感じで振られることも多いから、冒険者でもないのに【悲恋(ファルス)】なんて渾名をつけられている程さ」

「は、はぁ……」

 

 まるで親の昔の恋愛遍歴を聞かされた子供のようなベルの反応に、ヘスティアを怒らせないギリギリのラインを攻めていたヘルメスは笑みを浮かべる。

 

「後はそうだな。とてつもなく執念深い」

「え? それってどういう意味――」

 

 詳しく尋ねようとしたベルの言葉は大広間にざわぁっと広がった大きなどよめきに掻き消された。

 

「おおっ、これはまた大物の登場だ!」

 

 興奮した様子のヘルメスが騒めきの元を辿り、弾んだ声を上げる。

 視線を追ったベルが目にしたのは、見上げるような高さの獣人と会場中の視線を集める銀髪の女神。

 

「あの女神様は?」

「ロキファミリアと並ぶ最強勢力の派閥。フレイヤファミリアの主神フレイヤ様だ。君も冒険者なら一度は聞いたことがあるだろう?」

「フレイヤ様……」

 

 神々は総じて整った容姿をしているが、フレイヤという女神はその中にあっても群を抜いて美しい。

 ベルが見惚れていると、頬にナポリタンのカケラをつけたヘスティアが近づいてくる。

 

「ベル君、あまりフレイヤを見ない方がいい。下界の子達が美の女神を見つめると、たちまち虜になって【魅了】されてしまう…………アルス君のようにね」

「アルス?」

 

――――――――――アルスは フレイヤに みりょうされた!

――――――――――アルスは うっとりとしている……。

 

 魅了されているのはアルスだけではなかった。

 フレイヤに魅了されている人たちに性別は関係なく、魂が抜けたかのように立ち尽くしている人すらもいる。女性陣ですら魅了されたようで、直視してしまった人は首を振ったり呻いたり、フレイヤのことを知っていたアスフィのように最初から視界に入れないように努めているいる人もいた。

 

「大丈夫なんでしょうか?」

「放っておけば直に【魅了】も解けるよ。それこそ間近で接したら危ない――」

「あら、ヘスティア」

 

 叩けば直るかな、とベルが振り上げた手でアルスの首の後ろを狙っているのを見たヘスティアが止めつつ説明していると、天の調べのような声が耳から入って脳を侵す。

 ベルが振り返れば、獣人を従えた銀髪の女神フレイヤがにこやかに微笑んで近づいてきた。

 

「ガネーシャのところでの宴以来ね。ミアハ、タケミカヅチもお元気かしら」

「あ、ああ、まあね」

「よ、よう」

「其方は今宵も美しいな」

 

 同じ女神であっても魅了されかねない微笑みにヘスティアが頬を引き攣らせ、男神であるタケミカヅチは頬を染めながら返し、あまり魅了が効いた様子がないのにミアハは口説くような言葉を発した。

 それぞれの男神を想っているナァーザ・エリスイスとヤマト・命、アルスと同じようにフレイヤに魅了されている桜花にヒタチ・千草の三人はムッとして主神と団長の尻を後ろから抓る。

 

「「「うぐっ!?」」」

 

 尻をつねられる男神と男が苦鳴を漏らしている近くでザマァしていたヘルメスは自分だけ名前を呼ばれてなくて人差し指を自分に向ける。

 

「あれ、俺は?」

「ヘルメスは私の所に良く顔を見せに来るじゃない。私達の関係で今更、挨拶が必要?」

「いや、全く必要じゃないな、うん。必要ない」

 

 特別扱いと察して途端に機嫌が良くなったヘルメスの足をゲシゲシとアスフィ・アル・アンドロメダが蹴る。

 それぞれの主神と眷属とその他の関係性が垣間見えたヘスティアはフレイヤが連れている眷属が巨大な獣人が一人であることに気づく。

 

「フレイヤ、君の所は連れてきたのは一人なのかい?」

「ええ、後二人誰か連れてきたかったけど、みんな来たいって喧嘩しちゃって。収まりがつかないからオッタルだけ連れてきたの」

 

 フレイヤファミリアの眷属で【オッタル】といえば、ベルが憧れる【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインを超える都市最高のLv.7の『猛者(おうじゃ)』の二つ名を冠する最強の冒険者の名。

 

(オッタル!? アイズさんを超えるオラリオ最強の冒険者!)

 

 見上げるほどの巨体の獣人オッタルは、驚愕の視線を向けるベルなど存在していないように主神だけを静かに見つめている。

 美貌の女神は自分を目の前にしてオッタルに注視しているベルに微笑む。

 

「この私を目の前にして男が気になるの?」

「え?」

 

 まさか自分に声をかけられるとは思っていなかったベルは突如視界に入り込んできたフレイヤに面食らう。

 フレイヤは狼狽えているベルと自分に見惚れているアルスからヘスティアに次々に視線を移す。

 

「ヘスティア、この白兎みたいな子達はあなたの子?」

「ああ、そうだよ。僕の自慢の眷属()達さ!」

 

 答えを聞いたフレイヤは並んで立つ白兎二匹に、左右の手でそれぞれの頬に触れる。

 

「――――今夜、二人で私に夢を見させてくれないかしら?」

 

→喜んで!

  今夜と言わずに何度でも!

 

「見させるかっ!」

 

 ベルの側からヘスティアがフレイヤの両手を叩き落とす。

 

「君は何を言ってるんだ、アルス君!? ベル君も赤くならない!」

 

 フレイヤが叩き落とされた両手を痛そうに摩っている間に、ヘスティアはアルスの襟元をガクンガクンと力の限りに揺すって正気に戻させ、女性に迫られる免疫の無いベルを叱責する。

 

「フレイヤは男と見れば手当たり次第食べてしまう女神なんだ! 君達みたいな子は簡単に取って食べられてしまうんだぞ!」

「ごっ、ごめんなさい!」

 

 魅了が解けた様子のアルスがキョロキョロと辺りを見渡し、ヘスティアに叱責されて頭を下げて謝るベル。

 二人の姿を一通り見たフレイヤが身を翻して背を向ける。

 

「残念だけど、ヘスティアの機嫌を損ねてしまったようだし、もう行くわね」

 

 オッタルを従えて去っていくフレイヤの姿が他の神や眷属の中に埋もれて見えなくなるまで見送ったヘスティアは大きなため息を吐く。

 

「嵐を司っていないのに嵐のような女神だったねぇ。はぁ、どっと疲れた」

 

 ドレス姿なのに今にも床にへたり込みそうなヘスティアの横でアルスが口を開く。

 

→笑ってなかったな、フレイヤ様

  フレイヤ様…………カムバッァアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!

 

「そうなの?」

 

 叱責されていたのでフレイヤの去り際の表情を見ていなかったベルが詳細を聞こうとしてたところで見知った気配を感じて視線を向ける。

 

「ベル」

「アイズさん……」

 

 こちらに向かってくる薄い緑の肩だしドレスを着たアイズ・ヴァレンシュタインにベルは見惚れてしまった。

 自分に見惚れているとは考えもしていないアイズは、どうしたのかとベルを心配そうに見つめる後ろからレフィーヤ・ウィリディスが現れた。

 

「む、私もいますよ」

「レフィーヤも、ということは」

 

 レフィーヤを見てベルが平常を取り戻したことにアイズが一人ショックを受けていると、その横ではロキファミリアの主神であるロキとヘスティアが睨み合っていた。

 

「ここにおったんか、どチビ」

「何時の間に来たんだよ、ロキ! 音もなく現れて地味なことこの上ないな!」

「うっさい、ボケ! 登場のタイミングが色ボケ女神と重なってしもうてんからしゃあないやろ!」

 

 その内に掴み合いの喧嘩でもしそうな主神達とは裏腹に、この機会にレフィーヤはベルに確認しておきたいことがあった。

 

「ところで朝の修行のことはそちらの神は?」

「言ってません。自主練とだけで」

 

 真顔で散々練習した嘘を吐くベル。

 喧嘩を続けるロキの様子からして朝の修行を知っている様子はなく、仮に知れば相手のホームに乗り込む勢いなのは間違いない。

 

「こちらも一緒です。明日で修行は終わりなのですから、このまま秘密の内に終わらせましょう」

「…………はい」

 

 憧れの人に近づける機会が終わろうとしていて名残惜しそうなベルにレフィーヤは良い修行だったのでちょっと目を逸らす。

 それはそれとして、衣装のことに関してベルはレフィーヤに礼を言わなければならないことがあった。

 

「あ、衣装が借りられるお店を教えてくれてありがとうございます。お蔭で助かりました」

「誰もがお金を持っているわけではないですから、気にする必要はありませんよ。こういうことは伝えていくものです」

 

 レフィーヤの目が誰かを探すように動く。

 

「ところでリリは? 眷属が三人まで同行となればあなた達がいるならリリもいると思ったのですが」

「ちょっと用事があって来れなかったんですよ」

「むう、それは残念です」

 

 世間が抱くエルフらしい清く美しく慎み深い――――要は全身を覆うシックで殆ど露出のないドレスを着たレフィーヤばかりがベルと話しているのをアイズは見させられていた。

 

「…………レフィーヤばっかりベルと話してる。ベルはレフィーヤみたいな子が良いの?」

 

 ポツリと零されたアイズの疑問に、アルスの脳裏に二つの選択肢が浮かび上がる。

 

→気にしなくていい。アイズは今のままでいい

  仕方ない。ベルはレフィーヤみたいな金髪エルフが好きなんだ

 

「そう? ありがとう。私もアルスと良く話してるからお相子なのかも」

 

 アイズは薄っすらと微笑み、自分より少し上にあるアルスの目を見上げる。

 

「私もアルスとしているみたいに、ベルやリリともっとお話ししたい。どうしたらいいかな?」

 

 ベルの憧れを知っているので早々簡単なことではなかった。アルスがどうしたものかと考えていると、どこからか流麗な音楽が鳴り始めた。

 アポロンファミリアの眷属達が広間の中央を開けて、男女が次々に舞踏を踊り始めていく。視界の中では相変わらず仲良さそうにベルとレフィーヤが話しており、隅では遂に取っ組み合いの喧嘩を始めた主神達の姿がある。

 見える全てがアルスの中で纏まり、脳裏に選択肢を浮かび上がらせる。

 

→良い方法がある――――踊ろう、アイズ

  良い方法がある――――ご飯を食べよう、アイズ

 

「アルスと踊ったらベルとお話しできる?」

 

 自信を持って首肯するアルスにアイズは僅かに考える。

 

「…………分かった」

 

 差し出された手を取ったアイズと手を繋いだアルスが広間の中央に向かう。

 

「あぁっ!? アイズさんと踊るなんて、なんて羨ましい……っ!」

「アルス……」

 

 レフィーヤが気づいた時には二人は広間で踊っており、憧れの人と双子の弟の姿に目を見張るベル。

 

「オッタル、ここにミノタウロスの群れを連れて来れないかしら」

「不可能です、フレイヤ様」

 

 周りで踊っている人を観察しながら真似て踊っていたアルス達がベル達の下へとやってきた。

 踊っている二人の邪魔をしないように離れようとしたベルの手を、踊りの流れで一瞬で接近したアルスが掴む。

 

「え? わぁっ!」

 

 アルスに腕を引っ張られたベルが体勢を崩して蹈鞴を踏むも、そこは冒険者。直ぐに体勢を立て直したが直ぐ傍には踊りを続けているアイズがいて、パートナーだったアルスはレフィーヤの隣で我関せずの顔をしている。

 一瞬の内にアルスが望むことを看破したベルは、このままではアイズに恥を搔かせてしまうと踊りに参加する。この間の思考は僅か1秒で行われた。

 

「あ、あなたはなんてことを……っ!?」

 

 まるで最初から定められたようにパートナーを代えて踊りを続けているアイズの踊り姿に見惚れながらも、そもそも最初にダンスパートナーになってベルを引き込んだアルスの意図を察したレフィーヤが詰め寄る。

 このまま放っておいたら碌なことにならないのは間違いないと、アルスの灰色の脳細胞が選択肢を作り上げる。

 

→アイズと間接キスならぬ間接踊り、する?

  私と一曲踊って頂けますか、淑女(レディ)

 

「喜んで!」

 

 ちょろいエルフの追及を躱して踊りを始めて一安心しているアルスの耳に、もう一組の面倒な大声が入ってきた。

 

「うおおおおおおおっ!? アイズたーん!、レフィーヤたーん! 何やっとるんやー!? おいっ、コラッ、ドチビッッ、離せえーっ!!」

「はぁ? 何を言ってうわぁああああああああああ!? 二人とも何をやってるんだぁっ!!」

 

 これは追及が面倒だと思ったアルスは決断した。

 

→面倒だから全員巻き込んでしまえっ!

  面倒だから無視しとけ!

 

 レフィーヤをロキに押し付け、ヘスティアを引き込んだアルスが次々にパートナーを変えながら踊りに参加していなかった者たちを巻き込んでいく。

 自分から輪に入って行ったミアハとナァーザ、命に背を押された千草と踊る桜花、ヘスティアに言われて命を誘ったタケミカヅチ等々…………。

 やがて誰ともなく次々と踊りに参加していく中で、渦に入れなかった者たちもいる――――――オラリオ最強の冒険者オッタルの傍にいるフレイヤのように。

 そこだけエアポケットのように誘いの手が伸びない中に、勇気を持って踏み込む神がいた。

 

「――――――フレイヤ様、俺と一曲踊って頂けますか?」

 

 早々にアスフィと踊りに参加したはずのヘルメスが輪から外れていたフレイヤに近づき、片膝をつく。

 

「そうね、最初(・・)は貴方で我慢してあげましょう」

「では、お手を拝借」

 

 オッタルは踊りの輪の中に入っていく主神を、ただただ静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 フレイヤがヘルメスと一曲分を踊り、次に目当ての内の一人であるアルスが近くにいたので手を伸ばしたところで音楽が急に止まった。

 

「諸君、宴は存分に楽しんで頂けただろうか!」

 

 本当に後少しで触れるというところで、音楽の代わりに大広間に響くアポロンの声。

 ダンスの雰囲気ではなくなり、アルスと手を伸ばし合っていたフレイヤの手がピタリと止まる。

 

「盛り上がっているようで何より。こちらとしても、開いた甲斐があるというものだ」

 

 なにか凄い圧を放ち始めたフレイヤからそそくさとアルスが離れたところで、ホールの照明が消されてアポロンに光が当てられた。

 

「此度の宴に関して眷属同伴を条件に出したことを疑問に思った者達も多いだろう。その理由は君にあるヘスティア」

 

 次に丁度ベルと踊っていたヘスティアにスポットライトが当たる。

 アポロンが前に出て両者のライトが一つになったところで、「んふふふ」と思わずベルが怯んでしまう気持ち悪い笑みを浮かべる。

 

「ヘスティアよ、遅くなったが先日は私の眷属(子供達)が世話になった」

「ああ、お互いさまでね」

 

 アポロンの意図が読めず、ベルを庇うように前に出たヘスティアは頭二つ分は高いアポロンを見上げる。

 

「しかし、君の眷属は至極元気だというのに、私の眷属(子供)は重傷を負わされた。それなりの代償を要求したい」

「はぁ? どういう意味だい。あの場でそんな怪我を負った者はいなかった。第一喧嘩両成敗で解決した問題を今更蒸し返す気かい?」

「喧嘩両成敗? 君はこれを見てもそう言えるのか?」

 

 左手を上げたアポロンが言いながら後ろを指し示すと、ライトが当たり全身に包帯とギプスだらけのルアン・エスペルの松葉杖を付いた姿を露わにした。

 

「痛ぇええええっ!! 超痛ぇえええええええええええっ!!」

「待てぇっ!」

 

 明らかに演技過剰な小人族(パルゥム)にヘスティアが声を上げる。

 

「あの小人族(パルゥム)君は喧嘩に参加すらしていないじゃないか! アルス君に、その、アレを、に、握られたまま、振り回されてただけじゃないか!」

 

 現場にいたヘスティアはルアンがアルスにどうされたかを見ているが、処女神としてその握られた名称を口にすることは出来ず、曖昧な表現で伝えるしかなかった。

 

「アレとはなんだい?」

「アレとは、ソレだよ!」

「だから、なんだと?」

 

 しつこく聞いてくるアポロンは明らかに分かった上でヘスティアに言わせようとしている。

 言えないヘスティアに代わって、当事者であるアルスが代行する。

 

→金〇だ!

  銀魂だ!

 

「そうそう、って合ってけるけど言い方!?」

 

 間違ってはいないが認めたくはないヘスティアに、アポロンは悲し気に首を振る。

 

「あっちの方も残念ながら…………ルアンは犠牲になったのだ。これからはルアンちゃんと、呼んであげてくれ」

「ぐっ、い、痛い、痛いぞぉっ!?」

「あの人、何故か胸を押さえてますが」

 

 何故かさっきより真に迫った声を上げているので主神同士の話し合いに思わずベルも口に出してしまったが、誰もそこにを気にしてはくれなかった。

 アポロンは慚愧に耐えんときつく握った右拳を胸に当てて左手を斜めに高く上げる。 

 

「ヘスティアに暴言を吐いたルアンが確かに悪い。だが、暴力で事態を解決しようとも、ここまでされねばならない道理はないはずだ!」

「全部出鱈目だ!」

「出鱈目なモノか! こちらには複数人の証人もいるのだ! 言い逃れは出来ないぞ!」

 

 次いで未だ胸を抑えるルアンの背後にライトが当てられ、アポロン曰く証人の三人の男達が照らされる。

 

「嵌められたな」

「証人を金で買収したか」

 

 即座にタケミカヅチとミアハはアポロンの手管を理解したが、弱小と零細ファミリアである彼らには何も出来ない。

 

「くっ、冗談じゃない。こんな茶番に付き合う義理はない! 帰るぞ、二人とも!」

「ほう、どうあっても罪を認める気はないと」

 

 偽物であっても証人を用意されては分が悪いと判断したヘスティアが、クラネル兄弟の手を持って会場を去ろうとするのを見てアポロンは呷るように続けて、反論の言葉がないことを確認して両手を広げる。

 

「ならば、仕方ない! 我がアポロンファミリアは君のヘスティアファミリアに戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込む。我々が勝ったら、君の眷属であるクラネル兄弟を貰い受ける!」

「はぁっ!?」

 

 突然の戦争遊戯(ウォーゲーム)の宣言に大広間が沸き立つ。

 娯楽に飢えている神々が囃し立て、この見世物を見逃すまいと人と神の輪がヘスティア達を逃がさない檻となった。

 

「ダメじゃないか、ヘスティア。こんな可愛い子達を独り占めしちゃあ」

「最初からそれが狙いか、この変態(ホモショタ)め!」

「酷い言い草だ」

「なんとでも言え! 戦争遊戯(ウォーゲーム)を僕らが受けなけれればならない道理はない。帰らせてもらう!」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)は両者が受諾して始めて成立する。ヘスティアが受け入れなければ、戦争遊戯(ウォーゲーム)は決して始まらないと規則で定められていた。

 中堅のアポロンファミリアに対して、ヘスティアファミリアはようやく零細を脱した弱小ファミリアに過ぎない。普通ならば勝負にもならないと誰もが考えるからこそ、ヘスティアはなんとしても申し込みを拒否するしかなかった。

 

「後悔することになるぞ、ヘスティア」

 

 背を向けたヘスティアに意味深な言葉をかけるアポロン。

 

「するものか! 行くよ、二人とも!」

「は、はい!」

「ほら、アルス君もって、なんで『どうぐぶくろ』を出しているんだい? というか持ってきてたのか」

 

 まずはこの大広間を出ようとしたヘスティアは、アルスが懐から取り出した『どうぐぶくろ』に手を入れているのにようやく気が付いた。

 ヘスティアに向かってニヤリと笑ったアルスが『どうぐぶくろ』からとある物を取り出して、勢いよく投げつけた――――松葉杖を付いているルアンの顔面に向かって。

 

→食らえ、うまのふん!

  食らえ、銅の短剣!

 

 Lv.3へと至った身体能力で投げられた『うまのふん』は、Lv.1でギブスや包帯をして怪我人の振りをする必要があったルアンに避けられるはずが無かった。

 

「へ? うわっ!? って、くっさあああああっ!!」

 

 顔面に当たってグチャッと砕けた『うまのふん』の勢いで倒れ込んだが、強烈な匂いが鼻を支配してルアンは思わず飛び跳ねた。

 ギブスや包帯がついた手で必死に顔面にへばりついている『うまのふん』を取ろうとしているルアンに、ヘスティアは一抹の哀れみを抱きながらアポロンに視線を移す。

 

「アポロン、君の眷属は重傷だというのに随分と元気に飛び跳ねられるね」

「…………」

 

 手袋に染み付いた『うまのふん』の匂いに顔を顰めたアルスが慎重に手袋を脱いで、アポロンの前の床に放り投げる。

 

「まあ、なんだっていい。君の顔に泥ならぬ糞を塗ったんだ。一つ以外は、何も言うまい――――――――――これ以上、僕達に関わるな」

 

 じゃあね、と言い捨てて、良くやったとバンバンとアルスの背中を叩きながらベルの手を引いて去って行くヘスティアの背中を見送るしかなかったアポロン。

 

「…………ヘスティア、これで済むと思うなよ」

 

 面白い余興だったと盛り上がる神々とは裏腹に、アポロンは忌々し気に吐き捨てる。

 まだ何も終わってはいなかった。

 

 

 

 

 






主人公、簡単にフレイヤに魅了されるの巻。

うまのふん、第一弾。




ひっそりと新作短編『乙骨憂太=碇シンジ』を投稿しています。

原作:呪術廻戦で畑違い?ですがよろしければどうぞ。
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