ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第35話 さっさと逃げようぜ、ベル

 

 

 

 

 

 アポロンファミリアの襲撃を受けたヘスティアファミリア一行は闇夜の中を疾走する。

 

「大丈夫ですか、神様?」

「ああ、僕は平気だ」

 

 一般人と変わらないヘスティアの体は冒険者のように丈夫に出来ていない。

 先程は少し勢いが強過ぎたが、可能な限り揺らさないように走るベル・クラネルにお姫様抱っこではなく肩で抱えられている現状にちょっと不満を抱く。

 

(この持ち方の方が片手が空くから良いのだというのは分かってはいるんだ。分かってはいるんだけど!)

 

 お荷物なのは事実なので文句を言う資格はないが、文字通り荷物のように抱えられているのはヘスティアの乙女な部分が内心だけに叫ぶことを許した。

 

「襲撃者はアポロンファミリアの徽章の入った服を身に着けていました。間違いありません。ソーマファミリアと同じくファミリアぐるみでの襲撃です。ですが、まさか街中で仕掛けてくるとは」

「おのれ、アポロンめ! いきなり強硬手段で来たか」

「新手が来ます!」

 

 リリルカ・アーデの叫びにヘスティアが顔を上げれば、逃げている方向の建物の屋根から待ち構えていたらしい二人の冒険者が飛び降りてくるのが見えた。

 ヘスティアを抱えているベルに代わって前に出るのは『ウダイオスの黒剣』を抜き放ったアルス・クラネル。

 

「はっ!」

 

――――――――――アルスは、剣を ぶんまわした!

 

 二人の獣人冒険者は持っていた短剣で防御しようとするが『ウダイオスの黒剣』は、まるで最初から何も無かったかのように打ち砕く。

 大剣の側面で弾き飛ばされた二人は横の建物の壁を粉砕しながら一瞬でヘスティアの視界から消えた。

 

――――――――――アポロンファミリア冒険者たちに ダメージ!

――――――――――アポロンファミリア冒険者たちを やっつけた!

――――――――――アルスたちは180ポイントの経験値を かくとく!

 

「すごっ……生きてるのかい、あの二人?」

 

 止まることなく直ぐに走り抜けたので二人が生きているかもわからない。

 

「敵のことなど、どうでもいいです! このルートは待ち伏せされている可能性が高いです!」

「こっちにいたぞ!」

 

 リリルカが言った直後、屋根の上から弓を持った冒険者が叫び、連鎖するように冒険者達の声が響く。無数の足音が左右前後から響き、襲撃の気配は途切れる様子を見せない。

 ベル達を見つけた弓を持った冒険者が矢を射かけてくる。

 

「うわぁああああっ!?」

 

 矢はヘスティアを掠りもしなかったが、視界に映った自分を傷つける武器に悲鳴を上げる。

 

「メラ!」

 

――――――――――リリルカは メラを となえた!

 

 リリルカが『まどうしの杖』だけを追いかけてくる屋根の上の射手に向けて火の玉を放った。

 

「ぎゃああああっ!?」

 

――――――――――アポロンファミリア冒険者に ダメージ!

――――――――――アポロンファミリア冒険者を やっつけた!

――――――――――アルスたちは86ポイントの経験値を かくとく!

 

 大して狙ったように見えないのに着弾したことは射手の悲鳴が伝えてくれた。ヘスティアは振り返る気にもなれず、ベルの肩の上で固まる。

 

「みんな、とにかく今はギルドへ向かうんだ! 奴らもギルド(あそこ)なら手が出せないはずだ…………って、行き止まり!?」

「神様、しっかりと口を閉じていて下さい! 舌を噛みますよ!」

「え、まさか、うわぁあああああああああ!?」

 

 目の前には袋小路になった通路。数メートルはある建物の壁が迫って来てもベルは速度を緩めることなく、一度深く踏み込んで飛んだ。後に続いてリリルカ、アルスも飛び上がり、抱えられているヘスティアも含めて四人は道を塞いでいた建物の屋根に着地した。

 しかし、ベルは走り出すことなく足を止めている。同じ屋根の上の先に数人の人がいたからだ。

 

「先回り…………いえ、行動を呼んでの待ち伏せですか」

 

 実はやってから自分が建物を飛び越えられるほどステータスが上がっていることに内心で飛び跳ねたいリリルカは、表にはおくびにも出さないまま進路を塞ぐ二人の少女――――――ダフネ・ラウロスとカサンドラ・イリオンを見据える。

 周囲には二人だけでなく、最低でも五人以上のアポロンファミリア冒険者がいて、気配が次々とこの場に向かって来ている。

 

「お察しの通り、何せ数が違うんだから早々に諦めた方がいいよ」

 

 ダフネはベル達の抵抗は無駄な徒労でしかないと憐れむ目を向ける。

 

「アポロン様は気に入った子供を地の果てまでも追いかける。ウチやカサンドラもそうだった」

 

 忠告すると同時に自分達も同様の境遇だったと告白したダフネは風に揺れる前髪を抑える。

 

「都市から都市、国から国まで、観念するまでどこまでも…………さっさと投降してくれない? 仲間になる子に手荒なことはしたくないんだけど」

 

 ベル達の返事は決まっていた。

 

「あなた達も一度は逃げたのなら、リリ達がどのような返事をするのか分かっているのでしょう?」

「リリの言う通りです。僕達の返事は決まっています」

「まあ、そうだよね。じゃあ、かかれ!」

 

 予想して通りの流れになって一度嘆息したダフネが号令をかける。

 号令に従って五人が一斉に周囲の建物からベル達の方へとそれぞれの武器を持って襲い掛かってきた。

 

「ベギラマ」

 

――――――――――アルスは ベギラマを となえた!

 

 アルスが一歩前に出て閃光系魔法(ベギラマ)を、大きく手を振り回しながら放った。

 

「くっ!?」

 

 ベル達がいる側を中心にして半円を描くように閃光系魔法(ベギラマ)によって生み出された炎の壁が立ち上がり、ダフネが慌てて距離を取る。空中にいて襲い掛かってきた五人は回避などできず、まともに炎の壁に突っ込み、突破できずに焼かれて屋根から落ちていく。

 

――――――――――アポロンファミリア冒険者たちに ダメージ!

――――――――――アポロンファミリア冒険者たちを やっつけた!

――――――――――アルスたちは438ポイントの経験値を かくとく!

 

→ここは食い止める。先に行け

  ここは任せた。先に行かせてもらう

 

「いいんだね?」

 

→任せろ。別にあいつらを倒してしまってもいいんだろ?

  やっぱり無理かも。みんなで倒そう

 

「頼んだよ、アルス! 行くよ、リリ!」

「はい!」

 

 アルスにこの場を任せ、一度背後の別の建物に飛んでさっきとは別の路地にベル達が降りたところで炎の壁が横合いから吹き消された。

 ダフネから視線を外さないまま、アルスがチラリと発生源を見れば次々と現れた冒険者の内の獣人の一人が短剣型の魔剣を向けている。

 

「仲間を逃がしたって、こっちはファミリア総出で追い立ててるんだから無駄無駄。どうせ仲間になるんだから諦めればいいのに」

 

 続々と集まってくる仲間の中で、ただ一人だけ残ったアルスが戦意も高らかに『ウダイオスの黒剣』を軽く振るうと風圧だけで屋根の一部が吹き飛んだ。

 恐るべき威力を感じさせる行為に、しかしアポロンへの愛に忠心しているアポロンファミリア冒険者に臆する者はいない。

 

「ダフネちゃん、やっぱりヘスティアファミリアを刺激するのは良くない気がする」

 

 何かきっかけがあれば爆発しそうな緊張感の中で、それまで黙っていたカサンドラが突然ダフネに向かって話しかける。

 

「なに、またいつもの予知夢?」

 

 炎の壁に突っ込んだ中にはかなりの重傷者もいる様子なので、治癒術師のカサンドラには早く治療に向かってほしい時に何時もの戯言を繰り出されて溜息も一緒に漏れる。

 

「うん、兎の群れが次々に月を飛び越えて太陽を砕いちゃうの。きっと、このまま行くと取り返しのつかないことに……」

「はいはい、馬鹿なこと言ってないでアンタは怪我人の治療に向かいなさい」

 

 これだから良いところの育ちは厄介だと、適当にあしらいながらカサンドラを屋根から下ろさせて怪我人の下に押し出し、ダフネは集まってきた仲間にジェスチャーで指示を出す。

 

「相手は魔法を使ってくるから気を付けなさい!」

「へい、ダフネの姉御!」

「誰だ、姉御って呼んだのは!?」

「じゃあ、女王様!」

「もっと悪いわ!」

 

 叫んだダフネが取り出した『ビーストウィップ』を振るって屋根の一部を欠損させる。

 

「馬鹿言ってないで、さっさとかかりなさい!」

 

 やっぱり女王様だ、と対峙するアルスが思ったかどうかは定かではない。

 

「もう、どうして信じてくれないの……」

 

 爆発音などの相次ぐ戦闘音が遠くに聞こえる程度には離れた路地を走るベル達。時折現れる襲撃者を撃退しながらも、方向転換を強いられて中々ギルドに近づけないでいた。

 

「アルス君は派手にやってるようだね。すまない、二人とも。僕が足を引っ張ってしまって」

 

 アルスがいない状況でヘスティアを抱えてベルの片手が塞がるのはデメリットでしかなく、自分の足で走ってもらったことで一行の移動速度が激減していた。

 

「神様の所為じゃないです」

 

 言ったように一般人と変わらない強度しかないヘスティアがいるからこそ、下界最大の大罪である『神殺し』を恐れてアポロンファミリアの冒険者も威力を抑えた攻撃にしなければならない制限がある。

 とはいえ、早くも息が上がっているヘスティアをチラリと見てベルが方策を考えていると、殿を務めるベルの代わりに先頭を走っていたリリルカが何かに気づいた。

 

「ベル様!」

 

 一人の男が進行方向の壁に寄りかかって立っていた。

 ベル達の姿を見咎めると、男――――ヒュアキントス・クリオは壁から離れてベル達の進行方向を塞ぐように立つ。

 

「ヒュアキントスさん……」

「ここまで逃げるとは上出来だ。喜べ、私自ら相手をしてやる」

 

 ヒュアキントスが腰に差している鞘から『太陽のフランベルジュ』を引き抜く。

 戦闘態勢を整えるヒュアキントスを前にして、『てつのつるぎ+2』を抜いたベルの脳裏を過るのは火鉢亭での一件。まだLv.2の頃で今よりもレベルが3つも下だったとはいえ、一撃で地に叩きつけられた記憶はまだ新しい。

 

「アポロン様を寵愛を向ける貴様が憎くてしょうがないが、これも主の望み。栄えある我がファミリアの一員にしてやる!」

「世迷言を――やっ!」

 

――――――――――ベルの こうげき!

――――――――――ヒュアキントスは ひらりと みをかわした!

 

「遅い。兎風情が吠えるな!」

 

――――――――――ヒュアキントスの こうげき!

――――――――――ベルに ダメージ!

 

「ぐぅっ!?」

 

 ヒュアキントスの速度はベルよりも圧倒的に早い。アイズの薫陶で咄嗟に防御しなければ今の一撃でやられていたことだろう。

 しかし、ヒュアキントスの攻撃はまだ終わっていない。

 

「ボミエ!」

 

――――――――――リリルカは ボミエを となえた!

――――――――――ヒュアキントスの すばやさを かなり さげた!

 

 更にベルに向かって踏み込んだところで、リリルカの敵速度低下魔法(ボミエ)が発動してヒュアキントスの動きが遅くなった。お蔭でベルが一歩下がってヒュアキントスの攻撃を避ける余裕が出来た。

 

「体が……速度減退の魔法か」

「やっ!」

「ぬぅっ!?」

 

――――――――――ベルの こうげき!

――――――――――ヒュアキントスは 攻撃を武器で はじいた!

 

「だが、まだ私の方が早い!」

「ボミエ!」

 

――――――――――リリルカは ボミエを となえた!

――――――――――ヒュアキントスの すばやさを かなり さげた!

 

「ジバリア」

 

――――――――――ベルは ジバリアを となえた!

――――――――――ヒュアキントスに ジバリアを しかけた!

 

 リリルカの敵速度低下魔法(ボミエ)に合わせて、ベルも地雷系魔法(ジバリア)を仕掛けておく。発動はまだしない。

 

「減退魔法の重ね掛けだと、厄介な!」

 

 思う動きよりも二段階は遅くなった速度にクラネル兄弟にばかり注目していたヒュアキントスは魔導師成り立てと見くびっていたリリルカに初めて注目し、先に倒すべしと定めた。

 

「我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ!我が名は罪、風の悋気――」

「魔法は使わせない! マホトーン!」

 

 睨み合うベルの隙を縫ってリリルカを攻撃するのは難しいと魔法の詠唱を始めたが、それよりも超短文詠唱で敵魔法封印魔法(マホトーン)を放つリリルカの方が圧倒的に早かった。

 紫色の光がヒュアキントスを一瞬覆いつくし、詠唱を封じられた魔法の魔力が拡散する。

 

「――――ハッ、馬鹿な詠唱を封じる魔法だと!?」

「隙あり!」

 

――――――――――ベルは かえん斬りを はなった!

――――――――――ヒュアキントスに ダメージ!

 

 今まで聞いたこともない魔法にヒュアキントスが驚愕してベルから意識が外れた。その一瞬に『てつのつるぎ+2』に炎を纏わせたベルの一撃がヒュアキントスに命中する。

 

「ぬぅっ!? Lv.2に成り立ての小僧がこの私にき、傷をつけるなど…………許さんぞ!」

「ぐあっ!?」

 

――――――――――ヒュアキントスの こうげき!

――――――――――ベルに ダメージ!

 

 速度が同じになろうとも真正面からの単純な力の差は大きい。武器ごとベルを弾き飛ばしたヒュアキントスが『連理の短剣』を抜き、リリルカに向けて投げた。

 

「きゃっ!?」

 

 『連理の短剣』を『まどうしの杖』で受けたがリリルカの体勢が崩れる。

 魔法を受けて落ちたといっても、まだベル並みの早さでヒュアキントスがリリルカに近づき、『太陽のフランベルジュ』を振り上げる。

 

「リリルカ君!?」

「トドメ――ぬぅっ!?」

 

――――――――――ベルの ジバリアが 発動!

――――――――――ヒュアキントスに ダメージ!

 

 足元に設置してあった魔法陣から巨大な岩が突如として盛り上がってヒュアキントスを傷つけ、体勢が崩れる。

 

「足元がお留守ですよ!」

 

――――――――――ベルの こうげき!

――――――――――ヒュアキントスに ダメージ!

 

 迫ったベルの斬撃を受けたヒュアキントスが一歩、二歩と後退する。その時にはもうリリルカも崩れた体勢を整えていた。

 攻撃を加えたベルはリリルカと間近で見る怪物祭とは桁違いの戦闘に固まっているヘスティアの前に移動する。

 ポタ、ポタとヒュアキントスの頬から垂れた血が顎を伝って地面に落ちる。

 

「ち、血だと……っ!? この、わ、私の顔に傷を!?」

 

 頬を流れる汗とは違う感覚に手をやったヒュアキントスは、先のベルの斬撃が防御をすり抜けて浅く切り付けて裂けた傷から血が流れていることに気づいて激昂する。

 

「許さん! 貴様らはもはや生かしてはおけん!」

「きゃっ!?」

 

 唯一持っていた『太陽のフランベルジュ』を投擲して、リリルカが咄嗟に構えた『まどうしの杖』を貫き飛ばす。

 

「リリ!? ぐぅっ!?」

 

 一秒にも見たない間、リリルカに気を取られたベルに向かって、ヒュアキントスが途中で落ちていた『連理の短剣』を拾って攻撃を仕掛ける。

 

「うぉおおおおおおっ!」

「っ!?」

 

 上回る力でベルの『てつのつるぎ+2』を弾き飛ばし、一気呵成の連撃を放つ。

 『太陽のフランベルジュ』に腹を貫かれたリリルカにヘスティアが駆け寄っている間に、短剣やブーメランに装備を切り替える間も与えない連撃にベルの体が血に塗れていく。

 

「ベル君!」

「神ヘスティア! 送還されたくなければ、そこから動くな!」

「うっ」

 

 なにも出来なくても本能的に助けに動こうとしたヘスティアを狂相で封じるヒュアキントス。

 

「死ね死ね死ね死ね――!」

 

 ヒュアキントスが息の続く限りの連撃を放ち切り、ベルがその場に崩れ落ちる。

 はぁはぁ、と息を乱したヒュアキントスが地に落ちたベルの髪を掴み、引き上がればその瞳にはまだ意志の光があった。

 

「――――まだ意識があるのか。しかし、醜い顔だ。品もない。何故、アポロン様はこのような輩に執着されるのか!」

 

 髪を持った手を振ってベルを壁に叩きつけ、『連理の短剣』を投げつけて『くさりかたびら』を貫いて肩に突き刺したヒュアキントスが歩み寄る。

 足を振り上げ、ベルの肩を貫いた『連理の短剣』の鍔を踏みつける。

 

「ぐああああああ!」

「私も身も心もあの方に捧げている。私だけがあの方の全てを受け止められる。その私の顔に傷をつけた報いがこの程度ではとても釣り合わん!」

 

 痛みの叫びを汚いものとして顔を歪めたヒュアキントスは、表情を変えたことで走った頬の痛みに傷つけられた怒りを再燃させる。

 

「どうせ後で治すのだ。腕や足の一本、斬っても構うまい」

 

 踏みつけている『連理の短剣』を上から下へと一気に踏み抜こうするヒュアキントスにヘスティアが飛び出そうとしたその時。

 

「――――よう、色男。面白そうなことやってるな、俺も混ぜてくれよ」

「ヴェルフ君!?」

 

 ベル達がやってきたのとは反対方向から、着流しに『はがねのオノ』を持ったヴェルフ・クロッゾが息を乱しながら現れた。

 

「ヘファイトスファミリアの鍛冶師…………他派閥の者が口を出してくるな」

「おいおい、俺はヘスティアファミリアとパーティーを組んでるんだ。部外者扱いされちゃあ困るぜ。今日も中々待ち合わせの時間に現れないんで、態々四方探してようやく見つけたんだぞ」

「知ったことか。貴様の行動、神ヘファイトスの神意ではあるまい。個人でアポロンファミリアに盾突く気か?」

 

 一度傷だらけのベルや腹を波状剣(フランベルジュ)に貫かれているリリルカに目をやったヴェルフに迷いの色は無かった。

 

「仲間の危機を無視できるほど、薄情じゃないつもりなんでね」

「Lv.2程度で私に敵うとでも思っているのならば、その思い上がりが命取りとなるぞ」

「ああ、傷を負っていてもお前さんの相手は俺一人じゃあ、まず無理だわな」

 

 瞬間、ヒュアキントスは何かを感じ取ったようにその場から飛び退いた。

 ヒュアキントスが飛び退く前にいた足元にどこからか放たれた三本の矢が突き刺さる。

 

射手(スナイパー)か」

 

 ヒュアキントスが睨んだ通り、この場所を見ることが出来る高い尖塔の上にいたミアハファミリア所属ナァーザ・エリスイスが次の矢を取り出す。

 

「避けられた。これだから上級冒険者は嫌い。ベル達、早く逃げて」

「2対1なら倒せなくても、時間稼ぎぐらいは出来るはずだ」

 

 『はがねのオノ』を肩に担ぎ、他の装備は何一つ持っていないし纏っていないヴェルフはそう言ってベル達を見る。

 

「行けよ、お前ら。ここは俺達に任せろ」

「でも……」

 

 リリルカは動かせず、ベルも重症だ。なにより助けに来てくれたヴェルフを置いていくことが出来ないヘスティアの下に、遅れて息を切らせたミアハがやってきた。

 

「無事か、ヘスティア」

「ミアハ、君まで。どうして……」

「騒ぎを聞いて駆け付けたが、間に合って良かった。アルスの方も派手にやっているようで大立ち回りを演じているよ」

 

 二人の下に屈んだミアハが刺さっている刃物を躊躇いなく次々に抜き、ポケットから取り出したハイポーションをかけて癒す。

 ベルの傷は全身に及んでいるので全回復とまではいかなかったが、動ける程度には回復している。刃物が刺さっていた腹部を摩っているリリルカよりも先に立ち上がってミアハを見る。

 

「ありがとうございます、ミアハ様。ありがとう、ヴェルフ」

「礼は良い。早く行け」

「…………ごめん、ミアハ!」

 

 ミアハによって押し出されるように再び走り出した三人。

 立ち塞がるように立つヴェルフを見据えたヒュアキントスは、ミアハがまだ回復薬を持っている可能性に思い至って大きな舌打ちを漏らす。

 

「ちっ、邪魔者達が…………まあ、いい。ギルドへの道は封じている。もう逃げられん」

 

――――――――――ベルたちは1000ポイントの経験値を かくとく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃を避けてギルドを目指そうとも包囲網に穴はなく、神経を休ませる必要があったベル達を連れたヘスティアはレンガ造りの橋の下に身を隠す。

 

「大丈夫かい、二人とも」

「はい、なんとか」

「リリは平気です」

 

 壁に身を預けてはいても、何時でも動ける姿勢のままで応えた二人の顔には疲労の色が濃い。

 傷は癒えても守られるだけだったヘスティアと違って今も緊張の糸は張りっぱなしで、特にベルはその目をアポロンファミリア冒険者と見られる足音や声が聞こえる度に落ち着きなく左右に揺り動かしている。

 

「アルス君の安否は分からず、ギルドはまだ先だ。追っ手も沢山いるだろう」

 

 半ばから折れた『まどうしの杖』から『ビオラの杖』に持ち替えたリリルカがヘスティアの言葉に反応する。

 

「ヘスティア様、本当にギルドに行って大丈夫なのでしょうか? 街中で仕掛けてきたということは、アポロンファミリアもギルドの処罰は覚悟の上のはず。直接的な武力を持たないギルドに出来ることは精々がガネーシャファミリアに事態の鎮圧を頼むことだけ。ギルドには出来ることに限界があります」

「ああ、分かっている。だけど、僕達には他に方法がない」

「そうだよ、リリ。これだけの事態だからガネーシャファミリアも動くはず。アポロンファミリアもトップ派閥のガネーシャファミリアに敵うはずがないから、時間をかければかけるだけ僕達の有利になるはず――」

 

 時間こそが自分達に有利に働くはずだというベルの推測は、外から大音声で響いてきた声によって消し飛ばされる。

 

『聞こえているか、ヘスティアファミリア!』

 

 広大なオラリオの街全てに響きそうなヒュアキントスの大声。

 

『どこに隠れようと我々は貴様らを追い続ける! この一時を凌ごうが無駄だぞ! 地上でもダンジョンでも同じことだ! この先、貴様達に安息の日々はないと思え!』

「どこにも……」

「これでは逃げ場など……」

 

 皮肉にも先程のヒュアキントスの狂気ともいうべきアポロンへの狂信が、言葉に説得力を持たせてベル達に覆いかぶさってきた。儚い希望を打ち砕くヒュアキントスの宣言に二人の心が折れかける。

 

「くっ、二人とも聞いてくれ。このままじゃあ僕達に未来はない。打開策は二つ。勝ち目の薄い戦いに挑むか、このオラリオから逃げるか」

 

 残された選択肢に歯噛みしながらヘスティアは精一杯の笑ってみせる。

 

「僕は君達がいてくれるならどこに行こうとへっちゃらだ。アポロンが諦めるまで、ずっと逃避行を続けてやる」

「神様とずっと」

「ヘスティア様」

 

 英雄になる夢を捨て、憧憬を忘れて暮らす生活に心を揺らしたベルの背後に、橋の上から降り立った傷だらけのアルスが問いかける。

 

→それでいいのか、ベル

  さっさと逃げようぜ、ベル

 

「アルス……」

 

 ボロボロになって最早、意味を為していない『くさりかたびら』を着ているアルスの問いかけに、ベルは観念したように肩から力を抜く。

 

「そうだね、アルス君。決めたんだ、もう逃げないって」

 

 一度自らの立脚点を振り返るように足元を見下ろしたベルが顔を上げてヘスティアを見る。その目には一度は消えかけた意志の輝きがあった。

 

「神様、僕は戦います。どれだけ勝ち目が薄くても、逃げたくありません」

「ベル様……」

 

 他者に意志を伝播させるほどの輝きはリリルカにも及ぶ。

 立ち上がった二人に、フッと笑ったアルスが口を暗く。

 

→逃げてたら、ハーレムを作るベルの夢が叶えられないもんな

  逃げてたら、英雄になるなんてそれこそベルの夢物語になる

 

「人聞きの悪いことを言わないで!」

「べ~る~く~ん!」

「ひぃっ、誤解です神様!」

 

 今まで小声だったのに、目をひっくり返したヘスティアに迫られたベルから大きな声が出てしまった。

 

「いたぞ、水路だ!」

「あ~あ、ベル様が大声を出すから気づかれてしまいました」

「僕が悪いの!?」

 

 放たれた魔法が着弾した橋下から逃げ出したベル達に、先程まであった悲壮感はない。

 アルスが合流して、一気にらしくなったパーティーに再びベルの肩に背負われたまま笑みを浮かべたヘスティアは覚悟を決めた。

 

「立ち向かうと決めたのなら、北じゃなくて南西を目指すんだ」

「え、南西ってまさか」

 

 これまでとは真逆の方向を指し示したヘスティアに真っ先にリリルカが気づいた。

 

 

 

 

 

 南西の方角、大した妨害もなくヘスティアが指し示した目的地に辿り着いた。

 

「敵の本拠地。アポロンファミリアのホーム。灯台下暗しとはよく言ったものですね。逆に警戒が手薄でした」

「理由があって警戒を手薄にしてるんだろうけどね。アポロン、いるんだろ! 直ぐに門を開けろ!」

 

 表門の前から大きな声でヘスティアが呼びかけると、広い前庭にいたアポロンファミリア冒険者が大きな門を開けた。

 

「ほらね」

「待ち構えていた、ということですか」

「さあ、行くよ」

 

 中央通路の両側にはまだ二十人以上のアポロンファミリア冒険者が並んでいて、ベル達は彼らに見られながら進む。

 列の端でヘスティアが足を止めると、見計らったように館の扉が開いてアポロンが姿を見せる。

 数歩前に出て玄関の階段の上からアポロンがヘスティアを嫌らしい顔で見下ろす。

 

「いやぁ、ヘスティア。こんなところまで乗り込んできて、どうしたというのかな? 街中が騒がしいようだが」

「白々しい」

 

 唾でも吐き捨てるような様子のヘスティアをますます楽しそうに笑顔を深めるアポロン。

 

「ふふ、折角来たのだ。タダで帰してもらえると思ったら、そうは問屋が下ろさないことは分かるだろう。なんだったら、一番大切なモノを譲ってくれるのであればヘスティアだけは帰れるようにしてやるのも吝かではないぞ。悪い話ではないと思うが、如何かな」

 

 選択を与えているようで実のところ全く選択の余地が無いアポロンの言葉に答えることなく、ヘスティアは列の端にいた小人族(パルゥム)のルアン・エスペルを見る。

 

「そこの小人族(パルゥム)君、君の手袋を貸してくれ。アルス君は『どうぐぶくろ』を」

「え、あ、はい」

 

 奉じていない神とはいえ神の命令である。戸惑いながらもルアンは自分がしていた白い手袋を外して差し出す。

 受け取った白い手袋を右手に嵌めて、次いでヘスティアはアルスから『どうぐぶくろ』を受け取って両方を後ろ手に回しながら玄関の階段を登る。

 

「アポロン、君に渡したい物がある。受け取ってくれるかい?」

「いいだろう。我がホームに来たバカげた勇気を評して、寛大に受け取ってやろう」

 

 初めは手袋を投げつけるのかと思ったアポロンは訝し気ながらも、アルスが渡した『どうぐぶくろ』は大した厚みもなく大きさも巾着袋程度なので大して心配はしなかった。

 

「物分かりが良くて助かるよ。ずっとずっとアタタメてきた、とっても、とっっっても大切なモノだ。大事にしてくれ。返品は受け付けていないよ」

 

 背後から出された物はヘスティアの手に隠れて見えない。

 ヘスティアに何も出来るはずがないと侮っているアポロンは何か分からないまま、手の中に隠れる程度なら宝石かと思いながら受け取ってしまった。

 

「? どれどれ……お、おおっ、なんとかぐわしい香り……っ!こ、これは……っ!」

 

 自分の手の上に乗せられたソレ(・・)から漂ってきた香ばしい匂いに見る前に正体を悟り、目でも視界の中に入れた。

 

「……って、『うまのふん』じゃないかァ!!」

「ふん!」

 

 アポロンが地面に叩きつけるよりも早く、飛び上がったヘスティアの拳が『うまのふん』が載せられたアポロンの手を下から殴り上げた。

 階段の途中で飛び上がったりするものだから体勢を崩したヘスティアを咄嗟にベルが支える。

 

「あがっ!?」

 

 手の位置が悪く、殴り上げられた手から飛んだ『うまのふん』がアポロンの顔にベチャリと音を立ててぶつかった。

 

「はっはぁっ! 君なんか『うまのふん』がお似合いだよ!」

 

 ベルに支えられながらルアンの手袋を外して地面に叩きつけたヘスティアが中指を立てた直後、ズルッとアポロンの顔から『うまのふん』が落ちて足の間に落ちる。

 

「――――――こ、この私を怒らせたな、ヘスティア! ここまで私を虚仮にしてタダでスむと思っているのか!!」

「はっ、ようやく化けの皮が外れたじゃないか、アポロン。君が言った事だろう。ああ、受けてやろうじゃないか、戦争遊戯(ウォーゲーム)を!」

 

 眷属に怒りのままに皆殺しを指示しようとしたアポロンの口が止まる。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の合意が為されたことで、この場でヘスティアファミリアに手を出すことが出来なくなったからだ。

 

「ぐぐぐ、これで神双方の合意は成った。私を怒らせた報いだ! ヘスティア、お前の全てを力尽くで奪ってやろう!」

 

 クラネル兄弟を奪うだけでは足りない。ヘスティアの持つ全てを奪い尽くさなければアポロンの気が済まない。

 

「やってみろ、アポロン! 泣いて詫びようが君を絶対に許さないからな!」

 

 言い返すヘスティアもツインテールが踊り狂うほどの気炎で、本気の怒りが両者の間で火花を散らす。

 

「諸君、戦争遊戯(ウォーゲーム)だ!」「よっしゃー!」「ギルドに戦争遊戯(ウォーゲーム)を申請しろ」「臨時の神会(デナトゥス)も招集だ」「漲ってきた!」「久々の祭りだ!」

 

 途端に敷地内から神々が次々に姿を現し、周囲は一気に慌ただしくなった。

 

「暇な神々……」

 

 一緒に盛り上がって両手を上げて叫んでいるアルスの横で、なんとなく波に乗り切れなかったリリルカが深い溜息を吐くのだった。 

 

 

 

 

 





 うまのふん第二弾。


 取得経験値について、
 アポロンファミリアのLv.2は90、Lv.1は86と想定しました。Lv.1の86はダーハルネでのデルカダール兵の経験値から。

 ヒュアキントス戦の1000は、DQ11 ダーハルネの町でホメロスに勝利したら2000の経験値を獲得できるので、ほぼ敗北とはいえ戦闘したので取り敢えず半分ということで。

 その他の分はアルスが倒した分を計上します。
 ステータスは次回で。
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