ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第4話 アルスは 魔女っ子バイブルを 手に入れた!

 

 

 

 

 

 太陽が完全に西の空へと消えて空が暗闇に覆われても、冒険者が暮らすオラリオの街は騒がしい。日中に比べれば減りはしたがまだまだ人の多いメインストリートを歩く三人の影。

 

「まだなのかい、ベル君。誘われた店というのは」

「朝、シルさんに会ったのは、この辺りのはずなんですけど……」

 

 一向に見つけられない店を探し、辺りをキョロキョロと見渡すベルにヘスティアは優しく微笑む。

 

「責めているわけではないよ。日中と夜では風景も違って見えるからね。焦らずに行こう」

「はい」

「アルス君も、美味しそうな匂いに釣られてどっかに行かないようにね。ほら、手を繋ごう」

 

 恐縮しているベルを慰め、フラフラとタレ肉の焼ける良い匂いの発生源である店に吸い寄せられているアルスを引き戻したりとヘスティアは忙しい。

 まだ人が起き出していなかった早朝とはまったく違う風景を見せるストリートを暫く歩き、ようやく見覚えのあるカフェテラスを見つけたベルはホッと息を吐く。

 

「アルス、確かここだったよね?」

 

 それでも少し自信が無かったのでヘスティアに手を引かれたアルスに確認すると、親指を立てて返事が帰ってきた。

 

「覚えてないんだね、やっぱり」

 

 無駄に笑顔なアルスの内心を読み取ったヘスティアは、この子は一人で街に出して大丈夫なのだろうかと心配になってきた。

 取り敢えず今は腹ごしらえが優先と、目の前の建物にかけられている看板を見上げる。

 

「豊穣の女主人――――凄い名前だね。周りの建物より一回りは大きいし、もしかして騙されていないかい?」

「少しそんな気がしてきました」

「案外、中は普通かもしれないから取り合えず覗いてみようか」

「あ、僕が見てみます」

 

 もしも危険があったら大変だと、率先したベルがこっそりと入り口から中を窺ってみる。

 まず目に入ったのは、入り口から見た奥のカウンターの向こうで料理を作っているドワーフの中年女性。恐らく彼女が店名になっている女主人だろう。

 テーブル席やカウンター席で冒険者や労働者達が酒や料理を酌み交わし、その間を給仕服を着た女性達が料理を運んだり片づけたりで行き来している。酒場としては規模はデカいが掃除は行き届いているので、ベル達の心配は杞憂で終わりそうだった。

 こっそりと店を覗くベルに気づいた銀髪のウエイトレスが入り口まで出てくる。

 

「冒険者さん、来てくれたんですね」

「あ、はい。シルさん」

「どうぞ、豊穣の女主人へ。歓迎します」

「お、お手柔らかにお願いします……」

「ふふ、よろしくお願いします」

 

 知り合いを見つけたベルは一安心してシル・フローヴァを前にして、後頭部を掻く。

 見方によっては女の子にデレデレしていると取られてもおかしくはない状況に、当然ながら意中のベルがそんな状態になっているのを見せつけられて、ヘスティアは面白くないわけで。

 

「むぅ」

 

 頬を膨らませて不満を露わにし、アルスを引っ張りベルの前に立つ。

 

「ぼ! く! のベル君が世話になったようだね。主神のヘスティアだよ。神だけどお邪魔してもいいかな?」

 

 対抗心をむき出しにして小柄な体を大きく見せるように胸を張るヘスティアを、身長差の関係で微笑まし気に見下ろしたシルはにっこりを微笑む。

 

「当店は神様方もよく利用していただいていますので、遠慮なくどうぞ。お客様三名入ります!」

 

 シルは開きっぱなしの入り口を示し、案内されたヘスティアは相手にもされていない敗北感に打ちのめされた。そんな彼女の肩をドンマイとばかりにアルスが二度軽く叩く。

 

「うぅ、気遣いが辛い」

 

 初めて入った酒場にオドオドするベルと、欠片も気にした様子のないアルスの後に続く肩を落とすヘスティアの三人が案内されたのは、入り口から見て奥にあるカウンター席のコの字の左側。

 後ろには壁があって、奥に座ったアルスの左側には壁があって間にヘスティアを挟んだベル達がいるのは正しく隅っこの席だった。

 

「招いておいて、こんな席なのかい?」

 

 少しでもやり返そうとチクリとヘスティア。

 

「すみません、本当ならテーブル席にご案内するんですけど、今日は大手ファミリアの宴会の予約があって」

「いや、そんな。酒場って初めてなので僕はこういう隅っこの方が安心するので、ここで良かったです」

「ほら、お待ち!」

 

 ドンドンドン、と頭を下げるシルとベルのやり取りの間に三人の前に置かれたのは、皿に大盛りにされたパスタの山と飲み物。

 ベルがカウンターの中に顔を向けると、ドワーフの女将が恰幅の良い笑みを浮かべて座る三人を見下ろしていた。

 

「冒険者のくせに可愛い顔をしてるね。迷惑かけた詫びに大盛り分はサービスしたげるよ。一杯食べてゴツくなりな!」

 

 豪快に笑って去っていく女将に、勝手に出てきた料理の値段が気になったベルは壁にかけられたメニューの立札を見るために背後を振り返る。

 

「パスタで300ヴァリス!? 飲み物だけで100ヴァリス!?」

「そんなにするのかい!?」

 

 今にもフォークでパスタを口に入れようとしていたヘスティアが、隣のベルの叫びを聞いてメニューがかかった壁を振り返る。

 壁に木札で並べられたメニュー一覧の中で運ばれたパスタはまだ安い方で、例えば今日のおすすめメニューなどは850ヴァリスとかなり高額。

 

「今日のおすすめメニューだけで、一週間は食べていけるよ……」

「1人当たり1食50ヴァリスもあれば十分にお腹を満たせますもんね、僕達」

「…………ベル君、今手持ちは?」

「過去最高のモンスター撃破スコアと、ドロップアイテムが割かし多かったので8000ヴァリス強はあります」

「それだけあれば今日の支払いは大丈夫そうだね。安心した」

「ええ、まあ」

「安いパスタにしてくれたのは気を使ってくれたのかもしれないね。大盛りのサービスまでしてくれたんだ。有難く食べよう」

「はい、神様」

 

 飲み物とパスタで十分にお腹は満たせるので、もう出されてしまったものは仕方ないと食べ始めたヘスティアに隠れてベルはこっそり計算する。

 

(支給装備の返済金の支払いは終わっているけど、ギルドの徴税金の用意や万が一の為の貯蓄に、教会の修繕費の為の積み立て、装備の整備費やポーションとかのアイテム購入費用…………)

 

 他にも新しい武器の調達費用等々、お金は可能な限り手元に残しておきたいベルはパスタを見ているだけで、腹ならぬ胸が一杯になってきた。何も気にせずに勢いよく食べているアルスが羨ましくて仕方ない。

 

「食べないんですか?」

 

 虚ろな目をしてパスタを見下ろすベルを、他の配膳を終えたシルが近づいて訊ねる。

 

「ちょっと、胸がいっぱいで」

「はあ」

 

 まさかファミリア内の金事情を外部の人に打ち明けられるはずもなく、なんのこっちゃとばかりに首を傾げているシルに癒されるベルだった。

 ようやく食欲が湧いてきたベルはパスタを一口口にする。

 

「あ、おいしい」

「でしょう。このお店は、冒険者さん達においしいって人気があって繁盛してるんですよ。お給金もいいですし」

「シルさんって、もしかしてお金が好きな人なんですか?」

「嫌いな人はいないと思いますよ。どうせ貰えるならより多く貰えた方が嬉しいじゃないですか」

「確かに……」

「でも、お給金を多く貰えるとしても楽しくない仕事は出来る限りしたくないですし、ここには沢山の人が集まるから毎日が楽しいんですよ」

 

 ギルドの換金所でソーマ・ファミリアの醜聞を目にしたのもあって敏感になっていたベルは、楽しそうに仕事をしているシル以外のウエイトレスを見れば自分の考え違いを悟る。よく考えれば金勘定をしている自分の方がソーマ・ファミリアに近いので反省して食事を続ける。

 

「ニャア! ご予約のロキ・ファミリア様御一行のご来店にゃ!」

 

 入り口近くにいたウエイトレスの言葉に酒場内がシンと静まり返る。

 その直後に入り口を通って統一性のない一団が先のウエイトレスに案内されて、酒場内に入ってきた。

 

「げっ、ロキ」

 

 先頭を歩く朱色の髪をした人物を見たヘスティアが嫌な物を見たとばかりに表情を歪める。

 ファミリアの名を冠することから、神の一柱なのだと悟ったベルは集団を注視する。

 ヘスティアがロキと呼んだ神物の後に統一性のない集団が続き、彼らは酒場中から注視されながらも慣れた様子で右側の誰も座っていないテーブル席とテラス席に別れていく。

 

(アイズさんっ!?)

 

 最後尾に現れた金髪の軽装をした美少女をベルが見間違うはずがない。

 ベルが気づいたように、他の客達もコソコソと注文をしているロキ・ファミリアを見ながら話していた。

 

「あれが巨人殺しのファミリア」

「第一級冒険者のオールスターじゃねぇか」

「えらい別嬪もいるぞ。口説くか?」

「止めとけ止めとけ。お前程度じゃ相手にもされねぇって」

「なにおう!」

「どれだけ美人でもロキ・ファミリアの幹部だぞ。万が一でも怒らせたらファミリアごと潰される羽目になる」

「関わらない方がいいな」

「くわばらくわばら」

 

 熟練の冒険者の風情の者達も畏怖を込めてロキ・ファミリアの視線に入らないように体を縮める中、ベルは物理的に見られないようにカウンターの影に隠れていた。

 

「ベルさーん?」

 

 なにをしているのかと聞いてくるシルに、アイズがいて混乱したベルはこの先の行動を決められずに隠れ続ける。

 助けてもらったお礼を言えばいいのか、アルスが勝手に武器を貰った謝罪をすればいいのか。

 当のアルスは何をしているのかと見てみれば、挨拶でもする気なのか、カウンターの椅子から降りてヘスティアとベルの後ろを通ってロキ・ファミリアの方へと向かおうとしていた。

 

「ちょっと待った! 僕のパスタあげるからこっちに!」

 

 カウンターの端から出る前に引っ張って、まだ殆ど食べていないパスタを餌にしてロキ・ファミリアから隠れさせる。

 食欲に負けたアルスが大人しく隠れて座って食べ始めてくれたのに安心して、再度ロキ・ファミリアの様子を窺う。そのベルを見るヘスティアの目は暗く淀んでいた。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征ごくろうさん! 今日は宴や! 飲んで食って騒げ! か・ん・ぱぁーい!!」

「「「「「「「「「「「乾っ杯」」」」」」」」」」」

 

 ロキが音頭を取り、テーブルを横つなぎに並べた席についた冒険者達がジョッキをぶつけ合って騒ぎ出す。

 ロキ・ファミリアが宴会に突入すると、他の客達も彼らを刺激しないように幾分か静かになりながら飲食に戻った。

 

「予約していた大手ファミリアってロキ・ファミリアだったんだね」

「ええ、彼らの主神ロキ様が私達のお店を気に入って頂いてます」

「…………ロキが来るならもう二度と来ないぞ、この店に」

 

 なにかロキと確執でもあるのか、真後ろにいて一人だけヘスティアの呟きが聞こえたアルスは考えたが、食欲に負けて考えることを放棄した。

 

「?」

 

 ふと、アルスが顔を上げるとカウンター席の荷物置きに紙が置いてあるのが見えたので、フォークを口に含んで空いた手を伸ばす。

 

――――――――――アルスは レシピブック 『魔女っ子バイブル』を 手に入れた!

――――――――――ランタンステッキの レシピを 覚えた!

――――――――――まどうしの杖の レシピを 覚えた!

――――――――――まじょのターバンの レシピを 覚えた!

――――――――――まじょの服の レシピを 覚えた!

――――――――――まじょのてぶくろの レシピを 覚えた!

 

 アルスがラッキーとばかりにレシピを懐に入れている間に、ベルはロキ・ファミリアの楽しそうな宴会に自分が水を差すのは良くないよなと思いながらも観察を止められない。

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

「あの話……?」

「あれだって、帰る途中で逃がしたミノタウロスの最後の奴を仕留めた時にいたトマト野郎の話!」

 

 ドクン、と酒を飲んで顔を真っ赤にした狼人が言う人物が自分だと直感したベルの心臓が嫌な音を立てる。

 

「ミノタウロスって17階層で襲い掛かってきて返り討ちにしたら、直ぐ集団で逃げ出したやつ?」

「それそれ! 5階層で如何にも駆け出しって感じのひょろくせえ冒険者(ガキ)が兎みたいに震えあがって壁際に追い込まれてたのを、アイズが間一髪で細切れにしてやったんだけどよぉ。あのくっせえ牛の血を浴びて真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

 

 バンバンと机を叩いてその時を思い出して笑う狼人と違ってアイズは膝の上に置いた手を強く握って目を伏せていたが、その時のことを思い出していたベルは屈辱に震えていて見ていなかった。

 

「それでだぜ、そのトマト野郎、叫びながらどっかに行っちまって、うちのお姫様は助けた相手に逃げられてやんの! しかも傷ついた仲間を置き去りにしてだぜ。情けねぇってたらねぇぜ。野郎のくせに泣くわ、仲間を置き去りにするわ。久々にあんな情けねぇ奴を目にしちまって胸糞悪い」

「いい加減にその口を閉じろ、ベート」

 

凛とした声が遮る。

 ベルが顔を上げれば、長い耳をした明らかに高貴と分かるエルフが狼人に柳眉を逆立てていた。

 

「ミノタウロスを上層にまで逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利はない。恥を知れ」

 

 それまで笑っていた者達も気まずそうに顔を逸らす中で、ベートと呼ばれた狼人だけは気にした風もなく、持っていた持っていたジョッキを傾けて酒を喉に流し込み、ドンとテーブルに叩きつけた。

 

「あん? ゴミをゴミって言ってなにが悪い!」

「ベート、もう止めい。せっかく向こうで飲み比べしてたのに酒がマズうなってしゃあないわ」

 

 離れたテーブルで飲み比べ勝負をしていたロキが顔を顰めながら注意するも、ベートにとっては火に油を注ぐ行為でしかなかった。

 

「うるせぇ、ロキ! なあ、アイズ。お前はどう思うよ。例えばだ、俺とあのトマト野郎ならどっちを選ぶってんだ、おい!」

「…………今のベートさんだけは嫌です」

「じゃあ、あのトマト野郎の手を取るってのか? 自分よりも弱くて仲間を見捨てる最低の野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありゃしねぇ。他ならないお前自身がそれを認めねぇ! 雑魚には釣り合わねぇんだよ、アイズ・ヴァレンシュタインにはな!!」

 

 ミノタウロスの前で震えて泣くことしか出来なかったベル・クラネルはアイズ・ヴァレンシュタインに助けられた、その事実。

 片や二大派閥の幹部で、片や零細ファミリアの底辺冒険者。

 ベートの言うことが最もでありアイズから否定の言葉が上がらなかったことで、何か(・・)を期待していたベルはもうその場にはいられなかった。

 

「ベルさん!?」

「ベル君!?」

 

 ベルは走り出した、店外に向かって。

 

「え、なに食い逃げ?」

「アイズさん?」

 

 仲間達の声を耳にしながら、シルとヘスティアの後を追って店外へと出たアイズは左手のダンジョンの中心部がある方角を見るが、既に少年の姿は見えなくなっていた。

 追おうと思えばレベル差もあるので不可能ではなかった。しかし、敢えてしなかった。追ったところで何を言えばいいのか、そもそもどうしたいのかもアイズ自身にも判然としない。

 それでもすぐに店内に戻らず、背中を届く仲間達の呼び声よりも少年が去った方角を見つめていると、ヘべれけのロキが近づいてきた。

 

「ほいほい、アーイズたーん。急に外出てどない――」

「ろ~~き~~ィッ!!」

「げっ、ドチビっ!?」

 

 アイズに抱き着こうとしたロキは、彼女の背に隠れて見えなかった向こう側から発せられた呪いが混じっていそうな自分の名を呼ぶ声に、ようやくヘスティアの存在に気が付いた。

 

「なんで、ドチビがここに」

「君達と同じく、ファミリアの宴でね」

 

 バッ、とロキが振り返ると、手に皿を持ってパスタを口に含んだアルスが呑気な足取りで店外に出てくるところだった。

 よっ、とばかりにフォークを持った手を上げているが、ロキの頬が状況を理解してヒクついた。

 

「もしかして今の食い逃げ…………んんっ、走り去ったんは」

 

 全然誤魔化せていなかったが、それだけロキも動揺していていた証だった。

 

「僕の団員だよ。君のところのファミリアが! 逃がしたミノタウロスで被害を被ったのに嘲笑われた! トマト野郎だよ」

「あ~、それは酒の席のことで」

「逆に言えば本音とも言えるんじゃないかい?」

 

 状況は明らかにロキに分が悪い。

 店内にいたロキ・ファミリアの面々も二人の会話を聞いて状況を悟り、やべっとばかりに醜聞を笑っていた者同士で顔を見合わせる。

 ここは団長の出番だと、金髪の小人族(パルゥム)のフィン・ディムナは急いで水を飲んで酔いを醒まそうとしていた。

 

「まだ冒険者になって半月程度の駆け出しの彼らがミノタウロスに遭遇した恐怖が君達に分かるかい? 治してもらったとはいえ、アルス君は怪我までしたんだ。下手をすれば死んでもおかしくない状況……」

 

 主神同士の場に口を出せず、オロオロとしていたアイズが回収されている間に状況はロキの不利へと傾いていく。

 

「それを反省もせず、全ての冒険者の規範足らなければならない第一級冒険者の君達があまつさえも嘲笑う!? 子供達にどういう教育をしているんだい、君は!!」

「ぐぅ、なんも言い返せへん……っ!」

 

 気圧されたように後退るロキの代わりに、これ以上はマズいとまだ顔が赤いフィンが前に出る。

 

「神ヘスティア、あなたの言うことは最もです。そしてそれは同時にロキだけではなく僕の責任でもある」

「君は?」

「フィン・ディムナ、ロキ・ファミリアの団長です」

 

 自分よりも小柄な金髪の少年と、ここは任せるとばかりに後ろに下がったロキの二人をギロッとヘスティアが睨む。

 

「非は全て我らにあり、ロキ・ファミリアとして再度の謝罪をさせて頂きたい」

 

 フィンが深々と頭を下げても、ヘスティアの怒りは収まらない。

 

「そうやって上辺だけ取り繕って、また知らないところで嗤うんじゃないのかい?」

「信じてもらえないのも無理はありませんが、今後はこのようなことがないよう団員達の指導を徹底します」

「…………嘘はついていないようだね」

「神を前にして、嘘をつく無意味さはよく理解しているつもりです」

 

 下界に降りてきた神々は全知零能となって神の力(アルカナム)さえ使用を禁じられ、身体能力に限っていえば一般人と変わらないが共通して下界の者の嘘を見抜く能力を持っている。

 しかし、嘘はついていなくても騙す方法は幾らでもある。一辺たりとも信用を置けないロキ・ファミリアに、更に言い募ろうとしたヘスティアは己を引っ張っる者に気が付いた。

 

「ん、なんだいアルス君?」

 

 ちょいちょい、と怒り心頭なままのヘスティアの紐を引っ張ったのはアルス。

 手招きをして二人で後ろを向いてヘスティアに耳打ちする。

 

「――――え、でも、このままじゃ僕の怒りが…………うーん、君がそう言うなら」

 

 こちょこちょ、とアルスの耳打ちにひと悩みしてヘスティアは納得した。

 

「待たせたね」

「いえ」

 

 ハラハラとしているロキと違って、第一級冒険者ともなればこの近距離でのひそひそ話は聞こえるのでフィンは落ち着いていた。

 

「ロキ・ファミリアの謝罪を受け入れるには条件がある」

 

 そう言ってヘスティアは人差し指を立てる。

 

「一つ、ここの支払いを代わりに払ってもらう。二つ、前回貰った武具のワンランク上の物を貰う。掛かった費用の全てをあの狼人に支払わせてくれ。僕らからの条件は以上だ。条件を飲んでもらえるならこれ以上、事を荒立てないと約束しよう」

「寛大な処置をありがとうございます。神意のままに、滞りなく行わせて頂きます」

「頼むよ。アルス君も何時までも食べてないでベル君を向かいに行って来ておくれ!」

 

 えー折角の奢りなのに、と不満顔のアルスの尻を蹴っ飛ばして後を追わせたヘスティアに、話の纏まりを見届けたロキが唖然としていた。

 

「…………それだけなんか?」

「なんだい、ロキ。不満なのかい」

「いや、そんなことないで。でも、本当にええんか?」

 

 ヘスティアとの確執があるだけにロキはもっと大きな条件を課されるかとも思ったが、出てきたのは嘲笑した当人だけが実害を被ってロキ・ファミリアにはなんの被害もない破格ともいえるもの。

 

「僕としてはもっと吹っ掛けてやろうと思ったけど、アルス君がほどほどで良いって言うんだ。ベル君の双子の弟のアルス君がこれで良いって言ったんだ。子供(ファミリア)がそう言っているのに、僕の怒りを叩きつけても誰の得にもならないからね」

「ほぅ……」

 

 ロキとしてもこの程度の条件ならば、悪いのは悪口を言ったベートだと内外に示すことが出来て、後で主神として追加で罰則を与えれば団の規律も保てる。

 ファミリアとして何も損のない提案に、追加で贈り物を足そうと心に決める。

 

「僕は君達のファミリアが嫌いだ。出来れば、もう二度と関わり合いになりたくないもんだね」

 

 そう言って去ったヘスティアだが嫌でもロキ・ファミリアと何度も関わることになることを、この時の彼女は知らなかった。

 

 

 

 

 







 ヘスティアがシル・フローヴァの正体に気づかないのはスルーしてください。

 朝は■■イヤだったけど、ベルが「神様含めたみんなで行きます」って言っちゃったから夜は■■ンに代わったのかもしれません。

 夜にはロキも来てるし。


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