ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第43話 その糸、物理的に切っとこうか? お前の首で

 

 

 

 

 

 オラリオ南西部、元アポロンファミリアのホーム前は狂騒の坩堝と化していた。

 

「アポロン様、行かないでぇえええええええええええ!」

「ぉおおおおおおおおお、アポロン様ぁああああああああ!!」

 

 オラリオからの永久追放が決まったアポロンに向かって留まってもらおうと押しかけた市民が集団と化し、泣き叫んでいる者まで異様な光景を作りだしている。その最中に来てしまったベル・クラネルはあまりに異様な光景に立ち竦む。

 

「こうなってると思ったから来たくなかったのよ」

 

 元アポロンファミリア眷属ダフネ・ラウロスは予想通りの光景に、頭を抑えて深く重い溜息を漏らす。

 

「追放日って今日だったんだ……」

 

 ヘスティアからアポロンをオラリオから永久追放すると聞いて、そこまでしなくても思いはしたが主神が決めたことならばと飲み込んでいたベルは、集団が作り出す異様な光景に圧倒されていた。

 ベルにとってアポロンは自分達兄弟に気持ち悪い感情を向けてくる変な神という印象だったが、重たい感情を向けるヒュアキントスは例外に過ぎず、これほどに市民達に好かれる神なのだと初めて知った。

 

「アポロン様って、あんなに神望があったんですね」

「恋に狂いさえしなければまともな神だからね。身内になれば真摯だけど、本当に恋狂い(あれ)さえなければ」

 

 愉快神が圧倒的多数を占める神の中においてアポロンはある一点を除けば、オラリオの中でも数少ない善神であるとダフネは常々思っていた。その恋狂い(欠点)があまりにも致命的過ぎたのだが。

 

「後、プレゼントが理解不能(ハイセンス)なのも」

 

 そう言ってダフネはカサンドラ・イリオンに目を向ける。

 

「カサンドラは前に『陽光のクイーンメイス』を貰ったけど、自分で『神聖のクリスタルロッド』を買ってたものね。確かにあれは形容し難い武器だった」

「わ、私には、つ、使えない武器だったから……」

 

 メイスは打撲武器。治癒術師のカサンドラが打撲武器を使っても使い様に困るだけだった。

 

「へぇ、でもカサンドラさんの『神聖のクリスタルロッド』って結構良いものですよね。高かったんじゃ?」

「…………120万ヴァリス、です」

 

 何度か見たことのある『神聖のクリスタルロッド』は一目見ただけでも高価な物だと分かったので、自腹と聞いて何の気なしに放たれたベルの問いにカサンドラは重苦しく返した。

 

「100―ッ!? え? ほ、本当に?」

 

 カサンドラが口にした法外な金額に、ベルは信じられないとばかりにダフネに確認する。

 

「本当も本当。アポロン様は自分が送った『陽光のクイーンメイス』と同等の物じゃないと納得しなかったのよ」

借金(ローン)を組んで、頑張りました……」

 

 当時のことを思い出したカサンドラは遠い目をして萎れている。

 団長のヒュアキントス・クリオの様子を見れば、アポロンの我儘はある程度叶えようとするのは想像に難くなく。それが同じ眷属に対する武具の購入ならば心理的ハードルは更に下がるだろう。

 中堅派閥のファミリアからすれば100万ヴァリスはそこまで大きな額ではないのだろう。だが、一冒険者にとっては間違いなく大金であるし、武具が自身の特性に合っていればカサンドラも喜んだであろうが、ダンジョンで命を預けるに等しい武具は当たり前の話であるが特性に合ったものでなければならない。

 結果的にせよ、主神の我儘で借金(ローン)を抱えていたのだからその心理的負担は想像に余りあるものがある。

 

「ウチも流石にカサンドラが哀れで、あの頃は頻りにダンジョンに潜ったものだわ」

「ダフネちゃんがいなかったら、きっとまだ借金(ローン)を返せてなかったと思う……」

「ということは、借金(ローン)はもう返せたんですね」

「はい、なんとか……」

 

 ハハハ、と乾いた笑みが漏れているカサンドラを慰めるようにダフネが肩を軽く叩いている。

 そんな二人の様子にベルは仲の良さを改めて知って、ほのぼのとしていると集団が突如としてワッと湧いた。

 

「フハハハハハハハ!! ベルきゅぅ――――――ん!! アルスきゅぅ――――――ん!!」

 

 元アポロンファミリアホームの窓がバッと開いて、月桂樹の冠を被った金髪の美男子がその顔に似合わない呼び方で集団の最後尾にいるクラネル兄弟に呼びかける。

 

「あ、気づかれた」

 

 今話題のアポロンはベル達の姿を確認すると、身を翻して窓の向こうに消えた。

 

「今の内に逃げとく?」

「………………………………カサンドラさんの枕を探しに来たので逃げません」

「すみませんすみません!」

 

 物凄く迷った末に留まることを選択したベルに、そうさせてしまったカサンドラは平謝りである。

 そうこうしている間に玄関扉が開き、走ってくるアポロンの前を開けるように集団がサッと左右に開く。

 開いた道を全速力で駆けてきたアポロンはベル達の数歩前で止まり、両手を重ねて胸に当てる。

 

「嗚呼、ベルきゅん!やはりアルスきゅん! 私の巣立ちを見送ってくれるとは、我らは赤い糸で繋がっているのだな!」

 

 クネクネと体を揺らしながら大仰に両手を開いて上げるアポロンに、アルスは背中に背負っている『ゾンビキラー』の柄を握る。

 

→まだ言ってるのか。懲りないな

  その糸、物理的に切っとこうか? お前の首で

 

「一度や二度の失敗で挫けた程度で、このアポロンが懲りるものか!」

「それ自分で言っちゃう?」

「おお、ダフネ、カサンドラも来てくれるとは私は嬉しいぞ!」

 

 何を言っても無敵状態アポロンはそこでようやくクラネル兄弟だけでなく、自身の元眷属であるダフネとカサンドラも共にいることに気づいて破顔する。

 元眷属二人に向ける笑顔はクラネル兄弟に向ける気持ち悪いソレ(・・)ではなく、慈愛に満ちたものでベルを驚かせた。何時も気持ち悪い笑顔しか見たことが無かったのでアポロンに対する印象も、ダフネ達の話もあって大分変わっていた。

 

「無敵か。これでも別ファミリアに移籍したから気兼ねしてたのに」

 

 ファミリア移籍にダフネ達の意志が介在していないとしても、解散を命じられた古巣を離れて別ファミリアの眷属になったことに後ろめたい思いがあった。

 アポロンには恨みもあったが何不自由なく尽くしてくれた彼に一応の感謝もあり、長い時間を共にした仲間と顔を合わせづらかったというのに、その心配は杞憂だったと変わらぬ様子にダフネも釣られて微笑んだ。

 

「どこに行こうともお前達が我が愛し子であることは変わらぬよ。行く先がヘスティアならば何の心配もいらぬ。壮健であることは見れば分かるからな」

「一日程度で何も変わるはずがないでしょう」

「最もだ。しかし、接してみてヘスティアを主神とすることに不満を感じていないのであろう?」

「ええ、まあ」

「ならば良し! 一度は愛を交わし合ったヘスティアならばお前達を託すに値する相手だ」

 

 自信満々に言い切ったアポロンに異を唱えるように、君と愛なんて交わし合った覚えはないとバベルの上からヘスティアの声が聞こえた気がした。

 きっと幻聴だろうと、アルスはバベルの方に向かってパンパンと柏手を打って拝んでおいた。そんなアルスをゆっくりとやってきたヒュアキントス・クリオとリッソスが何やってんのコイツ的な目で見ていた。

 

「お前達がヘスティアの下に行ったのも、これもまた天命であろう。私に何も気負うことはない。ベルきゅんとアルスきゅんと共に励むと良い!」

 

 そこまで言い切ってようやく少し落ち着いてきたのか、アポロンは目の下の隈が濃い顔で改めてクラネル兄弟を見据える。

 

「ベルきゅんとアルスきゅんも、昔日の英雄のように、成長し続け、進み続けるんだ。時には私のような神なんてものにも逆らって。私が見初めた君達は、それくらいが丁度いい」

 

 自分が見初めた相手だからこそ変わらずにいてほしいという思いなのだろう。同時に彼が言っていることはベル達の力を認めていることでもある。

 ただ気持ち悪いだけの変態神かと思ってたけど、結構いい神さまなんじゃないかとアルスの彼に対する印象が少し変わった時だった。

 

「…………アポロン様、もしかして寝てないんですか?」

「やはり、お前達には分かるか」

「何時もより少しテンションが高いので」

 

 これで少しなのか、とベルは思ったが懸命にも口に出さなかった。

 アポロンに対して下手なことを言うと、彼の後ろにいるヒュアキントスがどのような行動に出るか分からない。勝ったとはいえ、好き好んでヒュアキントスと再戦する気はベルには更々ないが、今もクラネル兄弟をひっそりと見る目には殺気が滲んでいるし、元眷属であるダフネ達に向ける目にも親愛度も半分程度というのだから恐ろしい。

 

「眷属全員分のステイタス・ロックを外して改宗可能な状態にする必要があったのだ。これが徹夜明けのハイテンションというやつだな!」

 

 ワハハハハハハ、と大口を開けるアポロンに、そろそろとヒュアキントスが近づく。

 

「アポロン様、申し訳ありませんがそろそろお時間です」

 

 ヒュアキントスに話しかけられたアポロンは彼を当たり前の存在として驚くことなく頷く。

 

「そうか、名残惜しいが仕方あるまい。ロイマン、お前にも世話になった。礼を言うぞ」

「いえ、私如きに勿体ないお言葉です」

 

 集団の中から現れたギルド長ロイマン・マルディールが答える。

 容姿端麗の美形が多いとされるエルフとは思えない程でっぷりと太った体格のロイマンは、アポロンに対して恭しく頭を下げながら口を開く。

 

「ええ、ですので元眷属をオラリオから連れ出すのは止めて頂きたい。戦力流出は看過できません」

 

 既に既出の話題なのか、アポロンは困ったように背後にいるヒュアキントスやリッソスらをチラリと見てロイマンに視線を戻す。

 

「私が望んだわけではないのだがな」

「そこは疑ってはいません。ですので、御身から元眷属達に着いてくるなと厳命して頂きたい」

 

 アポロンが他の愉快神と違って恋狂いさえなければまともな神であると信頼し、下界の者達に慕われるに値する神であるので彼の言葉をロイマンは疑わない。しかし、だからこそ慕われ過ぎて困ったことになっている現状を自らの言葉で変えてほしいと嘆願する。

 ロイマンの言葉は正しいと認めたアポロンは背後を振り返る。

 

「というわけだ、ヒュアキントスよ。私はお前達に着いてくるなと言わねばならんらしい」

「なんのことやら。我らがどこに行こうとギルド如きに命令される筋合いはありません。我が身はアポロン様の右腕なれば、共にあるのが必定でございましょう」

「ふふ、そうだな。そういうわけだ、ロイマン。子らは私の制止にも聞く耳を持たんのだ。仕方あるまい?」

「仕方ありますよ! もっと強い言葉をかけなければ意味がないでしょう!」

「フハハハハハハ!! 愛を持って行動する者を私が強く制止出来るならば、最初からこんなことになっていまいよ」

「それはそうですが……! グゥッ!? い、胃が……!?」

 

 ヒュアキントスの意志を翻させることが出来るアポロンの言葉で止まらないのならば、本人の意思を無視して力尽くで止めたところでずっとオラリオに縛り続けることは現実的ではない。

 数少ないLv.4やLv.2のオラリオからの離脱が避けられないとあって、ロイマンはストレスから来る胃痛に苛まれて崩れ落ちた。

 彼らの話でアポロンのオラリオ追放が避けられぬと知って、集まっていた市民達の群れがアポロンに殺到する。尚、ロイマンは市民達に蹴飛ばされて踏まれたりしたが誰も気にしていなかった。

 共に来ていたギルド職員も、ロイマンは普段の行いが悪いからと仕方なさげに助け出していた。

 

「アポロン様、行かないで下さい!」

「こんなのは間違っている! アポロン様が追放だなどと!」

「我らにはアポロン様が必要なのです!」

 

 ヒュアキントスとリッソスが武器に手をかけるほど迫りくる狂騒する市民達にアポロンが右手を高く上げる。

 市民達はその動きを敏感に察知し、ピタッと動きを止めてアポロンの言葉を待つ。

 

「我愛す。故に我在り」

 

 アポロンはたった一言だけを呟く。

 神威を纏うことなく神威に満ちている。故に誰もが次の言葉を待つ。

 

「どこであろうと我が愛は不変。お前達よ、俯いてはダメだ。顔を上げるんだ」

 

 言葉通りに顔を上げた市民達にアポロンはニコリと微笑む。それだけで市民達は歓喜で爆発する。

 

「諦めなければ、希望の光は必ず降り注ぐ! そう、希望の光は降り注ぐ――――この太陽の化身、アポロンのように!!」

 

 自分に向かって指を指すアポロンの体を、まるでタイミングを計ったかのように太陽の光が背後から照らし、その輝きを民衆の心の深奥に植え付ける。

 太陽神に相応しい光景に誰もが涙ぐむ中、アポロンは自分の言葉に感動したように体を震わせながら続ける。

 

「永久追放もヘスティアの心次第で変わる。ベルきゅんとアルスきゅんの為なら私は地の果て天の果てでも現れるぞ」

 

 アポロンの言葉に、取り敢えず理由はともかく帰ってくるならば何でも良しと判断して群衆のボルテージが更に上がる。

 

「私はここに宣言しよう! オラリオよ、何時か私は必ず帰ってくる! その日までサラバだ!」

 

 市民達に宣言したアポロンは歩を進める。

 神威に従って見送ることにした市民達は我先にとアポロンの名を叫び、感謝や別れを惜しむ声、新たな門出を祝すもの、と様々な言葉がかけられる。アポロンはその全てに手を振って答えて歩く。その後ろをヒュアキントスとリッソスを筆頭に、元眷属で者達が幾人もついていく。

 

「いやはや、最後までなんともアポロン様らしい結末で」

 

 同じく元眷属であるダフネの少しばかりの郷愁を滲ませた言葉に、カサンドラが同意するようにコクコクと何度も頷く。

 アポロンを讃える声は彼がオラリオを出て暫くしてからも続き、こうしてオラリオを揺るがす大騒動を起こしたアポロンファミリアの主神が遂に追放されたのであった。

 

「…………ええぇぇ――――」

 

 なんとも言えない声を上げるベルの横でアルスが天を仰げば、そこには雲一つ無い晴れ渡った青空の中で燦燦と輝く太陽があった。

 

『ベルきゅんとアルスきゅんも、昔日の英雄のように、成長し続け、進み続けるんだ。時には私のような神なんてものにも逆らって。私が見初めた君達は、それくらいが丁度いい』

 

 きっとあの太陽がある限り、アポロンの言葉を忘れることはないだろう。今はそれで良いとアルスには思えた。

 

 

 

 

 

 

「ベルきゅぅ――――ん! アルスきゅぅ――――ん! 次こそは必ず我が愛を受け入れさせてみせるぞ! 私は必ずその為にオラリオに戻ってくる!! アイルビーバッーーク!!」

 

 速攻で忘れようと、アルスは心に決めた。

 

 

 

 

 




一部アポロンの台詞はダンメモでアポロンが言ったセリフです。
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