中層13階層 デルカダール地方・南の島
14 内海
15 バンデルフォン地方
16 ユグノア地方
17 ユグノア地方
18 グロッタの闘技場
19 グロッタ地下遺構
20 ユグノア城下町跡
21 ソルティアナ海岸
22 外海
23 メダチャット地方
24 怪鳥の幽谷
波がさざめく
『プ……プギ』
――――――――――アルスは 覇王斬を はなった!
――――――――――かいしんの いちげき!
――――――――――クラーゴンに ダメージ!
体の内側から生じた破壊的な衝撃に『クラーゴン』は水中でその体をのたうち回らせる。
『プ……プシャァァ――!?』
――――――――――アルスは 全身全霊切りを はなった!
続いた体内からの衝撃は、左右の目の中心から『ゾンビキラー+3』と『はじゃのつるぎ』の剣先が生えるという結果を生み出し、その刃先が一気に上下へと振り別けられる。
――――――――――かいしんの いちげき!
――――――――――クラーゴンに ダメージ!
――――――――――クラーゴンを たおした!
――――――――――アルスたちは 2700ポイントの経験値を かくとく!
『全身全霊斬り』が魔石を貫いて『クラーゴン』が消滅したことで、その内部にいたアルス達は突如として海の中に放り出された。
「――っ!?」
特に重装備を纏うヴェルフ・クロッゾは沈む。沈み続ける。落ちる。落ち続ける。
「ぷあっ!」
水中で上下の区別すらつかない中、鎧ではないので軽装備なベル・クラネルは海面から差す光の方向を目指して藻掻くと、直ぐに水面に出られた。立ち泳ぎを続けながら慌てて見回すと、仲間達が相次いで顔を出す。
「みんな、無事!」
「はい、ベル様」
まずはリリルカ・アーデが、続いてカサンドラ・イリオンを抱えたダフネ・ラウロス、重装備なアルスは浮かんでいるのも大変そうであった。申し訳なそうなヤマト・命もいる。
「そこに陸地があるからみんな上がって」
ベルが指差した方には、海面からこんもりとしたず陸地が顔を出していた。
泳いで陸地まで行って、ずぶ濡れの体を陸に上げて、ようやくリリルカは大きく息を吐く。
「大変な目に合いました」
「まさかモンスターに食われるなんてね。嫌な経験だよ」
リリルカの呟きに濡れた服の気持ち悪さに顔を顰めながら、ダフネはげっそりとした面持ちで答える。
「あ、アルスさんの魔法のお蔭で助かったね……」
「本当にね。いきなり体が鋼鉄になった時はどうなるかと思ったけど、お蔭で『クラーゴン』の胃袋の中で消化されずに済んだ」
「『
『クラーゴン』に全員が呑み込まれる直前、アルスが使った『
『
「あれ、ヴェルフは?」
周りに遠慮しないアルスが濡れた『ユグノアのかぶと』 『やすらぎのローブ』『ユグノアのよろい』を脱いで早々に身軽になっている間に、ふと気になったベルの疑問によって辺りを見渡した全員がヴェルフの姿を見つけられず、沈黙が彼らの間に広がる。
ヴェルフは一行の中で最も重装備に身を包んでいる。大慌てでベルは再び海の中に飛び込んで行った。
「ゼー、ゼー、ゼー、ゼー…………死ぬかと思った」
ベルによって辛くも救助されたヴェルフは、まだ半分水死人のような顔で荒い呼吸を繰り返す。
「無事でよかったですね、ヴェルフ様。カサンドラ様、回復を」
「一度は拒みし天の光。浅ましき我が身を救う慈悲の腕。届かぬ我が言の葉の代わりに、哀れな輩を救え。陽光よ、願わくば破滅を退けよ ソールライト!」
――――――――――カサンドラは ソールライトを となえた!
――――――――――ヴェルフの キズが かいふくした!
ヴェルフの存在を忘れていたリリルカは誤魔化しの笑みを浮かべる横でカサンドラが
「せめて盾なり斧なり兜なり外せば良かったのに」
「それが出来てたら鍛冶師やれねぇよ。はあ、助かったカサンドラ。もう大丈夫だ」
鍛冶師としての
ダフネの最もな指摘に、ヴェルフがようやく静まり出した息の中で答えつつ、回復魔法をかけてくれたカサンドラに礼を伝える。
「みんな、ずぶ濡れだな。って、アルス。手際良過ぎね?」
精々が上着の裾を絞るぐらいしかなかった中で、アルスが『どうぐぶくろ』から木材を取り出して『
「濡れた装備も乾かせそうだけど、パンツ一枚は問題だから他の装備を着ようね、アルス」
「あっ、そうか。『どうぐぶくろ』には前の装備入れてたっけ。ベル、俺のも頼む――」
→宝箱、発見!
へいへい
「なんだって!?」
焚き火を囲んで一行に弛緩した空気が漂い始めた頃、アルスがふと別の方向を見た瞬間に叫んだ。全員がそちらを見ると、確かに海面に宝箱がぷかぷかと浮いている。
「なんで海面に浮いてるのでしょうか?」
「さあ? 取り敢えずインパス!」
――――――――――ベルは インパスを となえた!
――――――――――宝箱の中は 青く 光っている!
「アイテムだ! 取ってくる!」
「あっ、待って下さい、ベル様!」
言うが早いか海に再び飛び込むベルに、モンスターが近づいても直ぐに対応できるようにリリルカが慌てて海面ギリギリまで追いかける。
特にモンスターが近づくこともなく宝箱を抱えて戻ってきたベルがまだ脱いでいなかった装備をあくせく外している間に、双子の兄の代わりにアルスが開けた。
――――――――――なんと! アルスは ゾンビメイルを 見つけた!
アルスが宝箱から取り出したのは、まとわりつく亡者を模したような禍々しいデザインの鎧。
「へぇ、『ゾンビメイル』じゃないか」
アルスを真似して自身の装備一式を乾かしていたヴェルフが鎧を一目見て感嘆混じりに呟く。
「知っているのですか、この今にも呪われそうな不気味な鎧を」
「見た目はアレだが、闇や呪いに対して非常に強い耐性を誇る超有能装備で上等品なんだぜ」
「えっ、そうなんですか!?」
リリルカの疑問にヴェルフが答えると、それを聞いてカサンドラが驚く。
「単純な守備力なら『はがねのよろい』以上、アルスの『ユグノアのよろい』以下ってところだが、着ているだけで闇属性のダメージ軽減と呪いガードの効果がついているんだ、『ゾンビメイル』は」
説明を聞いたアルスは『ゾンビメイル』を上から下まで舐めるように見る。確かに禍々しいデザインだが、見慣れれば愛着も湧いてくるかもしれない。
「お前らには悪いが『
まだ装備を乾かしていたベル達にヴェルフは声をかける。それにアルス達は顔を見合わせたが、答えは決まっていた。
「重鎧を着れるのはヴェルフとアルスぐらいだから、アルスが良いって言うんならいいんじゃない?」
「そうですね、ベル様。アルス様には『ユグノアのよろい』がありますし、ヴェルフ様持ちでいいと思います」
ベルとリリルカの言葉に全員が頷いたことで、『ゾンビメイル』はヴェルフの装備になることが決定した。
「別に誰が装備してもいいんだけどさ。それよりもウチらはこのままだと装備が乾くのに時間がかかるから何かいい方法はないの?」
女性陣は男性陣のように羞恥心を捨てていないので簡単に服を脱ぐことが出来ない。焚き火に当たってはいるが、このままでは時間がかかってしまう。
『おしゃれなスーツ』の上着を脱ぎ、叩いて水気を切ってから焚き火に当てているダフネの申し出に、確かにと男性陣は頷いた。
「アルス、確か『どうぐぶくろ』にはテントも入れてたよね。出してもらっていい?」
頼まれたアルスが『どうぐぶくろ』に手を入れると、明らかにサイズが合わない大きさの組み立てられているテントが出てきた。
「本当に便利だね、『どうぐぶくろ』……」
命が不思議現象に目を剥いている横で、ダフネが『どうぐぶくろ』の利便性の高さに感心していると、テントの入り口を開けて外から内部の様子を見れないことを確認したリリルカが振り返る。
「まずはリリとカサンドラ様が着替えてきます。アルス様、『どうぐぶくろ』をお借りしてもよろしいですか?」
→いいよー
俺も一緒に行こう
「この機会だ。カサンドラの装備も別の物に代えておくか。リリ助、『ぎんのかみかざり』と『やすらぎのローブ』を出しといてくれ」
「分かりました」
アルスから『どうぐぶくろ』を借り受けたリリルカがカサンドラと一緒にテントに入って入り口を閉める。
「さて、と。いい加減にアンタからも話を聞かないとね」
「……あ、あの、その」
借りてきた猫のように大人しく小さくなっている極東の少女はダフネの厳しい視線に、怯えて縮こまり何故か正座を始めた。
哀れそうな少女の姿を見ても、ダフネには手心を加えてやろうという優しさは湧いてこない。彼らの所為で自分達がどれほど面倒な事態に陥ったのか、骨の髄まで思い知らせてやると意気込んだところでベルが口を開く。
「タケミカヅチファミリアのヤマト・命さんで合っていますよね、確か」
確認を取ってくるベルに命は無言で頷いた。
「
ベルの確認に命は釈明も言い訳もせず、もう一度無言で頷いた。
「言い訳もなしかい。いい度胸だね」
「お怒りは御尤もです。幾らでも糾弾して頂いて構いません。私達は自分達の命可愛さに最低のことをしたのですから」
潔くきっぱりとダフネの怒りを受け入れた命は正座をしたまま両手を付き、頭を地面に下げて付けた。
「申し訳ありませんでした!」
「…………」
命の謝罪にベルは困った顔で頬を搔いた。
「どうする、ベル」
「ダフネさんはどうしたらいいと思いますか?」
「聞いたのはウチだよ、
敢えて『
「僕は、許してもいいと思います」
モンスターの押し付けは迷宮内では日常茶飯事だとベルも聞いていた。というよりそれを上手く利用することがダンジョンで生き残れる一つの技術でもある。彼らの立場になってみれば、生き残るために必死になるのは当然であり、責めることなどできはしない。自分が同じ立場になったら同じことをすると理解している。
何時、加害者側に回るか分からない冒険者は、そこに悪意が無い限り、
「…………ふーん。まあ、団長がそう言うなら別にいいけど」
ベルの答えにダフネは面白そうに薄い笑み浮かべた。
「はい。この件に関してはリリ達も納得してくれると思いますから大丈夫です」
「ベル様が決めたことなら、副団長としてリリも追認します」
話が聞こえていたのだろう。テントの入り口を開けて、一つ前の装備である『まじょの服』に身を包んだリリルカと『やすらぎのローブ』を着たカサンドラが出てきた。
「正式な抗議は地上に戻ってからさせて頂きますが、助けにはなりませんでしたが助けに戻ってきてくれた心意気は買うということで」
「殆ど何もしてないもんな」
「はうっ!?」
一応、『おばけパラソル』のモンスター連携『大かまいたち』を防ぎはしたが、Lv.を考えれば戦力になったとは言い難く。本音を漏らしたヴェルフに自覚のあった命が胸を抑える。その間にリリルカ達の脱いだ装備を木の棒で吊るして焚き火で乾燥させる。
「次はダフネ様と、えっと命様の番ですよ」
リリルカの言葉にダフネはやれやれと腰を上げ、命もそれに倣い立ち上がったところで固まった。
「あの、私は着替えなど持ち合わせていないのですが……」
「あ、そっか。普通は代えの装備なんてないよね。ヴェルフ、どうにか出来る?」
何でも物が入る『どうぐぶくろ』を持っている方が異常で、割と異常に毒されていたベルは解決法をヴェルフに求めた。
頼まれたヴェルフはマジマジと命を頭から足先までジロジロと観察する。
「…………『布の服』に『てつのむねあて』で、武器は『てつのやり』だけか。タケミカヅチファミリアってのは、金が無いのか?」
大派閥のヘファイトスファミリアと、レシピと素材が潤っているヘスティアファミリアしか知らないヴェルフの基準は超高かった。
「うう、確かに
「Lv.2に成り立ての装備なんてこんなもんだよ。金のあるファミリアなら別だけど」
ダフネがフォローしているのか、してないのか微妙なフォローに、否定できる要素が無かった命は項垂れるしかなかった。
「こうしてみるとヘスティアファミリアは装備は充実しているよね。しかも頻繁に更新するし」
「俺が鍛冶師なのと、アルスがどこからかレシピを手に入れてくるからな。う~ん…………なあ、ベル。どこまで揃える?」
端的過ぎるヴェルフの問いにベルは直ぐに意味を察した。
「命さん、こちらで用意した装備は地上に戻ったら返してもらえますか?」
「それは勿論!」
「なら、出来る最大限を、だね」
「分かった。となると…………リリ助、『どうぐぶくろ』を貸してくれ」
団長から指示を受けたヴェルフは命に装備させる武具を選定し、リリルカから『どうぐぶくろ』を受け取って取り出していく。
「武器は『いなずまのやり』で、装備は『バニースーツ』と『サンゴのかみかざり』、アクセサリで『あみタイツ』『氷のイヤリング』ってとこだな。ついでにダフネのも最新のしとくか。『ぎんのむねあて』と『やすらぎのローブ』に」
まず取り出されたのは穂先が雷を模した形をした槍。最初に『いなずまのやり』が出てきた時は不相応すぎるほどに上等過ぎて命は目を見開き、次に『バニースーツ』と『あみタイツ』を出されると別の意味で見開いた。
余りに卑猥な衣装にリリルカのヴェルフを見る目が氷点下の温度になった。ベルですら目を逸らす。
「…………ヴェルフ様、最低です」
「なんだよ、いきなり!?」
「なんだはこちらのセリフです! 幾ら
「俺は大マジだ!」
「余計に悪いです!」
鍛冶師として本気で命のことを考えて装備を選んだヴェルフと、一般常識からすれば誤解して当たり前のリリルカの口喧嘩にダフネが片手で頭を抑える。
「あ~、リリルカ。冒険者用の『バニースーツ』は信じられないことに、下手な鎧よりも頑丈な構造なのよ」
ダフネの言葉にリリルカは改めて『バニースーツ』を見る。鎧よりも圧倒的に露出度が高いのに防御力が高いと言われても信じられない。
「あれで『はがねのよろい』と同等の守備力なんだぞ、本当に何故か!」
「本当なんですか?」
ヴェルフの太鼓判にリリルカが半信半疑でダフネを見る。確かにヴェルフが嘘を言うとも思えないがやはり信じられなかったからだ。
「マジなんだよ、これが。信じられないことに。しかも神時代の初期に出来たレシピらしい」
「作った奴は余程の執念を注いだんだろうね」
「執念を注ぐところが間違っているでしょうに……」
リリルカの呟きはもっともだとベルとダフネも思った。
「
元々の装備と14階層の動きからして命の戦闘スタイルは素早さを活かしたベルに近い戦闘スタイルと予想。命に対して手持ちのレシピから作れる最高の装備が『バニースーツ』なのはヴェルフの意図ではない。
「というわけらしいので、よろしいでしょうか、命様」
「…………」
「固まってるね、こりゃ」
「普通、こんなの渡されたら固まりますよ」
露出の高い衣装を身に着ける羞恥心は、同じ女としてリリルカもダフネも良く理解できる。特に『あみタイツ』を既に装備しているカサンドラは自分に『バニースーツ』が回って来なくて少し安心しながら、命に同情の目を向けていた。
「わ、私は本当にこれを身につけねばならないのですか?」
自分に対する視線の意味も理解している命は、『バニースーツ』と『あみタイツ』を手に羞恥に身悶える。
「『布の服』が乾いた後に上から着たらいいんじゃ……」
「そ、それならまあなんとか……」
命は恥ずかしそうに頷いた。
『布の服』を上に着てしまえば、見た目的には『あみタイツ』は目立つが『バニースーツ』は殆ど見えなくなる。折角、善意で今使っている装備よりも数段上の物を貸してくれるというのだから、恥ずかしいからと駄々をコネられる立場にはなかった。
諦めたように差し出された新しい装備を受け取ると、ダフネと共に重い足取りでテントに入って行った。
「見えないというのも、またいい」
ポツリとヴェルフの感慨が籠り捲った呟きにベルは呆れた。
「やっぱりヴェルフの性癖出てない?」
「服の下に『バニースーツ』だぞ。ベルは萌えないってのか?」
「僕はちょっと」
ベルの好みは金髪お姉さん系エルフなので、ちょっと特殊過ぎるヴェルフの萌えポイントは理解できなかったらしい。
「けっ、お子様め。お前はどうなんだアルスって、寝てるし」
ヴェルフが聞こうと横を向くと、アルスは寝袋に包まって眠っていた。
「結構前から寝てたよ。大分、魔法を使ったから回復しようとしてるんだよ」
「寝れば回復するもんな、
「止めておきます。こんな気分で寝れそうにありません」
モンスターに食われ、14階層から22階層に移動してしまったばかりの状況では幾ら安全と分かっていても神経がささくれ立っている。リリルカには回復が必要だからとアルスのように簡単には眠れない。
ヴェルフも体に若干の疲労を感じていても、精神が興奮状態よりなのは同じなので強制はしなかった。
「装備といえば、今回渡されたこの『氷のイヤリング』はもう外してもいいのですか?」
「この階層を抜けるまでは着けておいた方がいいんじゃないかな。氷とあるけど、水にも耐性があるんでしょ?」
「ああ、『
それぞれ装備の一つを外してまで全員の耳に等しく付いている『氷のイヤリング』。
このイヤリングは、豊穣の女主人の女将からアルスが貰った『属性アクセのしおり』のレシピから作られており、その特性は氷属性に対して耐性を付与するというもの。属性として性質が近い水にも一定の耐性がつく。
「用意してくれたのは豊穣の女主人の女将なので、お礼するなら女将に言うべきですよ」
「無事に地上に戻れたらいの一番に礼を言いに行くさ」
リリルカの忠言に、九死に一生を得たヴェルフは素直に頷いた。
「しかし、『クラーゴン』に飲み込まれている時、浮遊感があったがここは14階層なのか?」
「いえ、恐らくは――」
――――――――――だいおうイカが あらわれた!
リリルカの声を遮るように海面から現れたモンスターに、ヴェルフは即座に『カルサドラアックス』を持って立ち上がり構える。
「シャァアアァァァァァッ!」
10本の触手を持つ巨大なイカのモンスターに向かってヴェルフが走る。
自分からやってきた獲物に『だいおうイカ』が足を振り上げようとしたところで、リリルカが『いかずちの杖』を向けていた。
「メラミ!」
――――――――――リリルカは メラミを となえた!
――――――――――だいおうイカに ダメージ!
頭部に巨大な火の玉を食らった『だいおうイカ』が衝撃で体を傾けたところにヴェルフが踏み込む。
「おらぁっ!」
――――――――――ヴェルフは 蒼天魔斬を はなった!
――――――――――だいおうイカに ダメージ!
――――――――――だいおうイカは からだがしびれ うごけない!
ヴェルフの『カルサドラアックス』の刃が『だいおうイカ』の足を切り裂き、胴体を深く斬り裂いて大量の血液が噴き上がる。
下がるヴェルフと入れ替わるように『はやぶさの剣』に炎を纏わせたベルが切り込んでいく。
「やっ!」
――――――――――ベルは かえん斬りを はなった!
――――――――――だいおうイカに ダメージ!
『はやぶさの剣』による炎を纏った二連撃を無防備に受けてしまい、ベルのスキル『タナトスハント』の効果によって痺れ状態にある『だいおうイカ』は6.2倍の大ダメージを受けて体が大きく揺らぐ。
この階層でも屈指の強モンスターである海の怪物は、たった三人の人間の攻撃に傷つけられ瀕死へと陥っていた。だが、まだ生きている。死にたくないと足掻いている。だが、その願いも虚しく力尽きる時が来た。
「イオラ!」
――――――――――リリルカは イオラを となえた!
――――――――――だいおうイカに ダメージ!
――――――――――だいおうイカを たおした!
――――――――――アルスたちは 960ポイントの経験値を かくとく!
――――――――――だいおうイカは 魔石を 落としていった!
――――――――――だいおうイカは ピンクパールを 落としていった!
『
ヘスティアファミリアをこの状況に追いやってしまった負い目、装備も無償で借りるとい二重苦を背負っていた命はモンスターとの遭遇時には自分が真っ先にアタックしようと心に決めていたので焦り過ぎていた。
「モンスターが現れたのですか!?」
「あ」
声に振り返ったベルが見たのは、バニースーツの胸部分を上げていない命の姿だった。
純情なベルは女性の裸の胸の見てしまった経験が無い。即座に顔を両手で覆って背を向けて耳まで真っ赤にして硬直する。全員の視線が自分の胸に向けられていることに気が付いて、命はベルが何を見たのか理解して顔を一気に真っ赤にした。
「きゃ、きゃぁああああああああああああっっ!?」
羞恥の叫び声を上げてテントに逆走していった。
「ご、ごめんなさい!」
「ヒュー」
「ヴェルフ様、茶化さないで下さい」
姿が見えなくなったのに頭を下げて見てしまったことに謝るベル、茶化すヴェルフとなんとも対照的な二人に、頭が痛いとばかりにリリルカが苦言を呈する。大丈夫だろうかとカサンドラがテントの方へと向かって行った。
「へいへい、モンスターの足が残ったし、ゲソ焼きにして食うか」
切り落とされた『だいおうイカ』の足を回収していたヴェルフに、ようやく頭を上げたベルがその青色の足を観察する。
「この足、僕らが吸い込まれたモンスターのとは体表面の色が違うね」
「今のは色からして『だいおうイカ』でしょう。リリ達を吸い込んだのは紫系統だったので、恐らく『クラーゴン』と思われます」
「く、『クラーゴン』? 22階層の階層主の?」
「14階層で何度か目撃例があったとの話ですので事実と思われます。恐らく14階層で生まれ、今回のように22階層に下る階層移動する特殊なモンスターなのかもしれません」
「ラムトンのようなモンスターが他にもいたってことか。エイナさんに報告することが増えちゃったよ……」
ベルは、またエイナに迷惑をかけると思って溜息を吐いた。
深層の37階層に生息している全高5M、全長10Mという並のドラゴンをも遥かに上回る体躯をした巨大蛇で『
階層を跨いで同種類が出現するモンスターはいても、階層間を移動するモンスターは『ワーム・ウェール』など極少数に限られる。
「ここは22階層ってことか。まったく厄介なことになった」
焚き火で炙ったゲソ焼きを頬張るヴェルフの言葉をタイミング悪くテントから身を縮めながら出てきたバニースーツを着た命が聞いてしまった。
「すみません……」
「謝ったって状況は良くなるわけじゃないんだから辛気臭い顔は止めてよね」
「わ、分かりました。努力します」
『やすらぎのローブ』の上に『ぎんのむねあて』を纏ったダフネから厳しい叱咤を受けて、命は肩を落としたまま姿勢を正す。
「生真面目か。ったく、調子が狂うよ」
そういう性格だからこそ
「まあ、今回のことはあんまり気にすんなよ。生き残れただけ儲けもんってなもんだ」
「そうそう。ヴェルフの言う通りだよ命さん」
「でも……」
自分の失態を恥じて言葉も出ない命は、申し訳なさそうに口を噤む。
「遠征前だったから物資は備えて買い込んでいたから不足はないよ。というか、アルスが無駄に買い込んでくれた所為で、一人増えても無駄に余裕がある」
「『どうぐぶくろ』には素材や装備、『ふしぎな鍛冶台』も入ってるから装備の問題もないぞ」
「不幸中の幸いというべきか、こういうこともあるかと思い中層の
「うん、何も焦る必要はないね。最終目標は勿論、地上に戻ることだけど、まずは安全地帯がある18階層を目指そうか」
団長であるベルの提案に全員が頷いた。
「…………皆さん、逞しいですね」
もしもタケミカヅチファミリアが同じ状況に陥ればパニックになるか、或いは絶望するか。
実に落ち着いたヘスティアファミリアの態度に、単純なLv.差以上の強さを感じて命は感嘆する。
「異常事態にはなれてますから」
「慣れちゃったんだよなぁ」
リリルカの場合は
「ウチらはこれに慣れないといけないのか……」
「慣れるのかな……」
最近加入したばかりのダフネとカサンドラにとっては自分達の到達階層を2階層も更新している状況に焦りを覚えていないのは、それだけ戦力が充実しているから。物資は過剰なほどで、この程度の苦境が苦境に感じないようにならないことに二人は遠い目をする。
「なんか、ごめんなさい」
四者四様の反応を見せる四人に申し訳なくてベルが謝っていると、寝袋に包まっていたアルスがスクッと立ち上がった。
→俺様、完全復活!
天上天下唯我独尊!
「はぁ、アルスの能天気さが羨ましいよ」
自分だけ気負っていることが馬鹿みたいで、ベルの愚痴に命も含めた全員がドッと湧いた。
そうして、ヘスティアファミリアに命を加えた一行は地上を目指して進むのだった。
というわけで、本作では中層14階層から22階層に落ちての展開となります。
クラーゴンが14階層(内海)と22階層(外海ナギムラー村周辺イベント)で登場することから、こういう展開となりました。
またドラクエ11で『バニースーツ 守備力38、魅力31』『はがねのよろい 守備力39』とマジで殆ど守備力が変わりません、本当にマジで。