今話は短め、ヘスティア様のお話です。
ベル達がダンジョンに潜った翌朝、バイトに精を出していたヘスティアの下にタケミカヅチが眷属を連れて現れた。
「すまん、ヘスティア! うちの連中が中層でお前の子供達らしき者達にモンスターを押し付け、救援に戻ったうちの子と一緒に行方が分からなくなった!」
ヘファイトストスにも連絡を取り、場所をヘファイトストスの執務室に代えて事情を話したタケミカヅチは最後に深々と頭を下げた。
「――――――事情は分かった。それで、タケ。キミはどうしたいんだい?」
頭を下げたまま顔を上げないタケミカヅチにヘスティアは問う。
「無論、命とヘスティアの子達を助けに行きたい。そこでヘファイトストスに頼みたい。可能であれば力を貸してほしい」
「…………私は無理よ。ロキのところの遠征に腕利きの団員を預けていて、今すぐ動ける子じゃあ中層に留まらせるには頼りないもの」
タケミカヅチの決意の言葉にヘファイストスが答えて、第一と続ける。
「子が行方不明になって焦る気持ちは分かるけど、ヘスティアの子らにはLv.4が複数いる。行方不明になったとしても直ぐに助けが必要とは思えないわ」
強さだけでなく、『どうぐぶくろ』と『ふしぎな鍛冶台』があるからアイテムや装備についても何ら問題ないと知っているヘファイトストスとしては、彼らにとっては未体験の階層ということだけが不安要素でしかなく、すぐさま救助が必要とは思えなかった。
「ヘファイトストスの言う通りだ、タケ。ベル君達に授けた
「あ、ああ、感じるが命はLv.2だ。中層に留まるには頼りない」
「ベル君達の性格的に君の子を見捨てるなんてことはしないと思うから、きっと大丈夫だ。一緒に地上に戻ってきてくれるさ」
ヘスティアがそう言って笑いかけると、焦燥に支配されていたタケミカヅチも少し頭が冷えたのか表情に冷静さが戻ってきた。
「でも、14階層で行方不明ってのは確かに心配ね」
同調するヘファイストスにタケミカヅチは深く頷く。
「あそこは海の階層だから留まるのは向いていないし、不測の事態が起きたのだとしたら一時的に下の階層に避難するとしても、朝になっても戻ってこなかったのは気になるわね」
「単純にタイミングの問題とかじゃないのかい? 元々、ベル君達は15階層でダンジョンで泊まることを経験することが目的だったから、メンバーも増えたからゆっくりと今この瞬間に地上に向かっているかもしれない」
「元アポロンファミリアの子がいるのだから、そういう時は当初の予定を変更してでも地上への帰還を優先するはず。
「すぐ戻れない普通じゃない何かがあったってことかい?」
「可能性としてはね」
普通ならば何かのトラブルが起こったのならば地上を目指すはずで、反対に殆ど交流の無い別派閥の冒険者を連れて下に向かうとは考え難い。そうは出来ない理由があったと考えるのが自然だった。
「Lv.帯で考えればモンスター関連よりも、ダンジョンギミックの方かしら」
14階層の攻略推奨Lv.は2。Lv.4が複数いるヘスティアファミリアのパーティーが
「ベル君から聞いたような、中層から出現するという縦穴とかに落ちたってことかい?」
「
海がある階層はどこから海水が流れ込む、もしくは汲み上げているかは不明だが、各階層が独立しているかよりも縦穴などで繋がっていると考えるのが自然。冒険者が感知しえないエリアで各階層が縦穴などで繋がっていることは否定しえない。
「仮に14階層で縦穴から21階層に落ちたとして、幾ら冒険者であっても7階層分の高さを落ちて無事に済むはずがない」
命の恩恵が感じられるタケミカヅチはヘファイトストスの推測をありえないと否定する。
「いや、大丈夫だ」
「言い切るわね、ヘスティア。何か秘策があるのかしら?」
「企業秘密ってやつだよ。ただまあ、21階層にまで落ちたのなら一晩じゃあ帰って来れないはずだ」
ヘファイトストスの推測ならば辻褄があってしまい、
「あまり心配していないようだが……」
「心配はしてるよ。でも、同時に信頼もしてるんだ、みんなを」
アルス達の各種多彩な魔法やスキルを知るヘスティアも最早、トラブルに愛されているとしか思えないベル達を心配する思いはあれど、同時に負けるはずがないと強さを信じている。
当然、アルス達のことをアポロンが主催した神の宴が初対面で、
「ですが、俺達は今直ぐにでも命を助けに行きたいのです!」
今まで黙って神同士の話を黙ってみていたカシマ・桜花が強い目で訴える。
「痛いほど気持ちは理解出来るけど…………タケ、君の子達は中層で活動できるのかい?」
「難しいな。今回のことで分かった。Lv.2の桜花は良いとしても、後は千草ぐらいだろう。それでも中層の上部までだ。たった二人で中層まで潜るなど、とても認められない」
「かといって半端な人員を増やしても意味がないしね」
「その話、俺も混ぜてほしいな!」
現れたのは、眷属であるアスフィ・アル・アンドロメダを従えたヘルメスと、ナァーザ・エリスイスとその主神ミアハの姿もあった。
「すまんな、ヘスティア。俺はあまり手助けになれそうにない」
「ミアハ、来てくれたその気持ちだけで十分だよ」
申し訳なさげなミアハに、唯一の眷属であるナァーザがダンジョンに潜れない事情を知っているヘスティアは気にする必要はないと伝える。
「ヘルメス!? なんであなたがここに……」
「タケミカヅチの子が助力を願えないかとオレとミアハのところに来たのさ。事情は聞いている。オレの派閥から人を出そうじゃないか」
別派閥であっても神相手に力尽くでは止められなかった自眷属に下がるように指示を出したヘファイトストスはヘルメスの提案に目を丸くする。
「ヘルメス、人を出すということだけど、あなたの派閥は確かLv.2の構成員が殆どだったはずだけど」
ギルドに記録されているヘルメスファミリアの到達階層は19。派閥ランクもFで、現在ではDに上がったヘスティアファミリアよりも下。最悪、21階層まで捜索の手を伸ばす必要があるかもしれないのに、Lv.2の団員が多いヘルメスファミリアの団員には荷が重い。
眷族達に本来のレベルを隠させているヘルメスも、ヘファイトストスの懸念は最もだと頷く。
「分かっているとも。だから、うちのエースのアスフィを
「
「ああ、オレも一緒に行く」
「はぁっ!? なにを言っているのですか、ヘルメス様!? 神がダンジョンに潜るのは禁止事項ではないのですかっ!?」
話の流れ的に自分が行かなければならないのだろうと達観していたアスフィは、まさか主神たるヘルメスまで同行するとは予測しておらず詰め寄る。
「迂闊な真似をするのが不味いってだけさ。なあに、ギルドに気づかれない内に行って、さっさと戻ってくればいい」
知られなければ違反は違反にならないと、平然と言い切ったヘルメスにヘファイトストスは呆れた。
「それを聞かされた私がギルドに黙っているとでも?」
「行方不明の中に
渋い顔をするヘファイストスにヘルメスはニヤリと厭らしく笑う。
「オレが行けないのならアスフィも出さない。タケミカヅチの子だけじゃ無理なのだろう? そうなると困るのはお前達だと思うが」
「ぬぅ……」
これには最も救助隊を求めるタケミカヅチとしてはヘルメスに抜けられると困ったことになる。縋るようなタケミカヅチの目に、ヘファイトストスが根負けするのは時間の問題だった。
完全に自分だけでなくヘルメスまで行く流れになっている状況に、苦労人アスフィはため息を漏らす。
「はぁ、ヘルメス様。仮に私達が行くとしても、Lv.2の
「なに?」
「主神の命がかかっているとなれば、私も無責任なことは言えませんので」
侮られていると思った桜花がキツい視線を向けるも、アスフィの言うように足手纏いになる可能性が高い。
命を助けに行くにはアスフィの力は必要不可欠。爆発でもしてくれれば反故に出来ると期待したアスフィの予想を裏切って、桜花は反論の言葉を奥底に押し込んで耐えた。
「待て、ヘルメス。僕も連れて行け!」
纏まりかけた空気を破ったのはヘスティア。
この流れをヘファイトストスの執務室前に組み上げていたのに、完全に予想外のヘスティアの要求にさしものヘルメスは目を見開く。
「は? 落ち着いてくれ、ヘスティア。ダンジョンは危険だ。『力』が使えないオレ達なんて、襲われれば一溜りもない。何よりバレたら不味い」
「分かっているさ。それでも自分は何もしないまま、あの子達のことを任せることなんて僕には出来ない!」
ヘスティアは強い言葉で己の意思を伝える。それは幼い見た目の幼女ではなく、ヘスティアファミリアの主神としての言葉だった。
「勇ましいのは結構だが、戦力的な問題もあってな。これ以上、足手纏いを増やすとアスフィの手が回らなくなる」
「なら、足手纏いが増えても戦力が増えれば問題ないんだね?」
なにしろ神がダンジョンに入っていけないという決まりも自分が先に破るのだから、理屈の上ではヘスティアの言うことをヘルメスも否定出来ない。
「あ、ああ……だが、当てがないからオレ達に白羽の矢を立てたんじゃないのか?」
「当てはあるが連絡手段が無い! 第一、僕としてはベル君達を信じたいが、ヘルメス達が向かうというのなら座して待つわけにはいかない。この手だけは使いたくなかったが――」
ヘスティアは身を乗り出し、その瞳には今までに見たことがないほどに強い意思が宿っていた。勢いに押されて、ヘルメスが二歩ほど下がるほどに。
「ヘルメス、
「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 水と光のフルランド」の制作を発表されたそうで。
コンシューマで出るらしいので楽しみです。