ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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お気に入り1000件に到達しました。ようやくの18階層です。




第52話 俺の胸にようこそ、神様

 

 

 

 

 

 19階層から上の階層に上がる階段を登りきると、大草原の向こうに緑の木々が生い茂る森が目に入ってくる。

 頭上を見上げると、今出てきた大きな大樹から生える枝と沢山の緑葉のドームが作り上げる葉の隙間から差し込むのは木漏れ日だった。

 

「凄い……」

 

 ギルドで仕入れた知識として、18階層がどういうものかを理解していながらも薄暗いのが当たり前のダンジョンでの常識がベル・クラネルの口から感嘆の言葉を漏らせた。

 ベルの隣で、ヴェルフ・クロッゾも照らされた面頬が地上で太陽を浴びたかのような温かさを感じていた。

 

「ここは本当に18階層なのか? 地上みたいに明るいぞ」

「天井のクリスタルのお蔭なのでしょう。噂には聞いていましたが、これは……」

 

 二人の一歩前を歩くリリルカ・アーデが少し移動すると木漏れ日を直視してしまい、暗さに慣れた目が一瞬眩むほどの光に足を止める。

 適応が早い冒険者の目はすぐさま慣れた。手を翳さなくても18階層の天井にびっしりと生えている光を発するクリスタルを直視できるようになった。

 

「………………迷宮の楽園(アンダーリゾート)とは、良く言ったものです」

「見ての通り、18階層(ここ)水晶(クリスタル)と大自然に満たされた地下世界。時間が経つとクリスタルの光は消えていって、ここには『夜』がやってくる。そして『朝』になればまた光を発し始める」

 

 感嘆するリリルカの横に並んだダフネ・ラウロスが、ようやく傷ついた冒険者達に一時の休息を与える安全階層(セーフティポイント)に辿り着いた安心から、頬を緩ませて歩みを再開する。

 

「この感じだと昼過ぎって感じか」

「分かるのですか?」

「自分の体内時計とクリスタルの光量からの推測だよ」

 

 ヤマト・命はダフネの推測に成程と納得する。

 

「で、これからどうする? まずは宿を探すか?」

 

 昼過ぎだというのなら宿探しはそこまで急ぐ必要は無い。元アポロンファミリア組のダフネとカサンドラ・イリオンを除いて、18階層は初めての面々ばかり。ベル達と出会うまではソロで活動していたヴェルフもダンジョン内にあるという街に興味があった。

 

「まともな宿に泊まりたいなら早めに探しておいた方がいいと思う」

「リヴィラの街は物価が高いと聞きますが、宿もですか?」

 

 リリルカの質問にダフネが頷く。

 

「ダンジョン内だから補給が難しいし、何を買うにしても金がかかるんだ。宿も相応にかかるんだ」

「…………ある程度は、必要経費と割り切るしかありません。いい加減、フカフカのベッドで休みたいです」

 

 14階層から22階層に落とされ、ダンジョンに潜って四回の夜をテントの寝袋で過ごすとは思いもしなかったリリルカにすれば、出来るならばベッドで何の不安もなく眠りたい気持ちが強かった。

 節約志向が強いリリルカが浪費になったとしてもベッドを求める気持ちは、同じように初ダンジョン泊を経験させらたヴェルフも同感だった。

 

「まあ、リリ助じゃないが気持ちは良く分かる。三交代で休みを取っても、あんま寝れた気がしない」

「そうはいうけど、最初のダンジョン泊でテントに寝袋付きなんて相当な贅沢だよ。第一、同じ初めてでもアルスを見てみなよ。一番、疲れが取れない二番目の休憩時間だったのに、元気じゃないか」

 

 ダンジョンで睡眠を取る時は順番に見張りを立てる。

 ヘスティアファミリアパーティー+命の見張りの順番は一番目が『ベル・命・カサンドラ』、二番目が『アルス・ダフネ』、三番目が『ヴェルフ・リリルカ』となっていた。

 一番目に見張りをすれば二番目・三番目の時間丸々休める。三番目はその逆。だが、二番目は一番目と三番目に休憩時間が分散され、一番休めない。ダフネは慣れているので適応しているが、同じく初ダンジョン泊のアルスは他の面々と比べても元気だった。

 

「アルスは休憩(レスト)の度に寝てるから……」

 

 冒険者であっても起きている間、ずっと動き続けることは出来ない。合間合間、酷い時には連続で戦闘を続けることもあり、食事を取る必要もあるので一定時間の休憩(レスト)を必ず取る。

 アルスは見張りと食事の以外は休憩(レスト)の時、何時も寝ていたことはベルだけでなく全員が知っていた。

 

「遠征では必ずダンジョンで一日中過ごす必要がある。何時、どんな時でも直ぐに寝て起きれるってのは立派な才能だと思うけど?」

「む、否定できませんね」

 

 いざという時に疲れ果てて寝ていて動けませんでした、では話にならない。特にリリルカ達は休めば休むだけHPとMPが回復するのだから、アルスに習うべきですらあると考えていた。

 

「あの、アルス殿とカサンドラ殿が行っちゃいますけど……」

 

 足を止めて話し込んでいる面々に恐る恐る命が声をかける。言われてみれば、アルスとカサンドラが草原を大分進んでいる。

 

「ここで足を止めていても仕方ない。僕達も行こう」

「ったく、カサンドラの奴、最近アルスにくっつき過ぎじゃない?」

「へぇ、自分よりも懐かれて嫉妬か?」

「誰が」

 

 ベルが歩き出し、ヴェルフとダフネが軽い調子で言い合いながら続く。

 

「確かに妙でありますよね。今回の冒険から矢鱈とアルス様の後を付いて回るというか」

「かといって恋だ愛だって感じはしないのよね。あれはなんというか――」

「子供が迷子にならないように親に必死についていく感じだな」

 

 歩幅が狭いリリルカがシャカシャカと歩き、カサンドラを良く知るダフネの感じた物をヴェルフが継いで口に出す。

 

「まあ、治癒師のカサンドラさんは自衛手段に乏しいし、一番強いアルスに付いていくのはおかしくはない、のかな。おっと、このままじゃ二人の姿を見失ってしまうから急ごう」

 

 カサンドラの行動について答えは出ていないものの、離れた距離を詰める方が先決とベルは皆を促して歩みを早めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 19階層の入り口である18階層中央にある大樹から大草原に移動し、西部方面にある湖と呼べるサイズの湖沼の中心に島が浮かんでいた。

 木を切り倒して繋げた橋を渡り、山と言うより崖の中を登っては下りを繰り返すと、やがて目的地へと到着した。

 

「これがリヴィラの街か」

 

 木の柱と旗で作られたアーチ門の向こうに、20階層の成れの果てとは違うしっかりとした建物が見えてベルは感動していた。

 

「なあ、門に書かれている335って数字ってどういう意味なんだ?」

「335代目リヴィラの街ってことさ。つまり、334回も壊滅しては再築してる」

「え? 18階層はモンスターが生まれないんじゃ」

 

 モンスターが生まれないのならば何度も壊滅するはずがないと考えたベルの疑問に、ダフネは思い込んでも仕方ないと苦笑しながら話を続ける。

 

「この階層では生まれなくても、上から降りてきたり、下から上がって来たりすることは十分にあるさ。それ以外にも何がしかの異常事態(イレギュラー)が起こる度に、この街の冒険者は街を放棄して地上に帰還するんだ。そしてほとぼりが冷めた頃に、また戻ってきて街を作り直してきた」

「た、逞しいですね、皆さん……」

 

 孤児として一拠点に居住するだけでも大変であることを思い知っている命としては、リヴィラの街の住人の太々(ふてぶて)しさに呆れるやら感心するやら。

 

「モンスターが生まれない階層ってのは、それだけ重要視されている。20階層が良い例じゃない? 冒険者のしぶとさと意地汚さを象徴するこの街を、世界で最も美しいならず者の街(ローグ・タウン)って呼ぶぐらいだからね」

「見た目は確かに水晶と岩に囲まれた宿場街という噂そのままですが、街にも歴史があるというわけですね」

 

 オラリオの街とはまた違った幻想的な世界にも現実に裏打ちされた重みを感じ取って、リリルカが深々と頷いている間にアルスが門を潜ろうとしてカサンドラに止められていた。

 いい加減に歯止めが利かなそうなので、ベルが仲間の方に振り返る。

 

「宿を探しに行きたいところだけど、アルスは街の方を見たそうだし、どうしようか」

「二手に別れるしかないな。宿を探す班と街を見て回る班に」

 

→俺は街を回るぞ!

  俺は宿でしっぽりするぞ!

 

「はいはい、アルスは街を回る班だね」

 

 ヴェルフの提案でパーティーを二つの班に別けるとして、真っ先に街回り班になることをアルスが主張することは分かり切っていたのでベルも軽く流す。

 

「18階層経験者のダフネ様とカサンドラ様も別れて頂くとして、物資は困っていないので高いところで買う必要もありませんし、宿捜索をダフネ様にお任せしたいのですが」

「カサンドラにも道案内ぐらいは出来るだろうか順当だろう。残りの宿探索班はウチが指名してもいい?」

「一々希望を取っていたらアルス様が焦れてしまいますからお願いします」

 

 宿捜索のリーダーを任されたダフネはアルスとカサンドラを除いた仲間の顔を順に見渡す。

 

「…………ベルとヴェルフで。余程有名な冒険者じゃない限り、女が多いと足元を見られるから男手が多い方が助かる」

 

 ヴェルフは全身鎧に大楯と斧を装備しているので、まず舐められることはない。ベルは見た目は幼いものの、身のこなしはこなれているので二人が揃っていれば安心だろうというダフネの選択は順当と言える。

 

「納得です。では、街探索組はカサンドラ様をリーダーとして、残るリリと命様が入るということで」

 

 こちらはこちらでヴェルフと同じ全身鎧のアルスがいるので、残りのリリルカと命が入っても実力の面から言っても申し分ない。

 

「宿が決まったら、どこで合流しますか?」

 

 命は聞きつつ、ここにいるのが同じタケミカヅチファミリアの眷属ならば、探知系スキル『八咫白鳥』を使えば位置情報を確認できるので合流場所を決めなくてもいいのにと内心で考えた。戦闘では単純にLv.とステータスが低すぎて殆ど戦力になれていないので、こういう面で役に立ちたかった。

 命の懊悩に気づいた風もなく、ヴェルフがリヴィラの街の方を見る。

 

「俺も街を見てみたいし、宿を決めるのにそこまで時間はかからんだろ。適当にブラついていたら会えるんじゃないか」

「そんな適当な」

「適当だけど街で出会えたならそれで良し。もしも『夜』になるまでに合流できなかったら、この門のところで合流ってことなら問題ないと思うよ」

 

 適当過ぎるとヴェルフに文句を言おうとしたリリルカはベルの語る理由に納得した。

 

「それなら。アルス様、『どうぐぶくろ』を」

「金は泊まりに行った時に支払うから後でいいよ。じゃないと貰ってないと後でしらばっくれられるから」

「成程、勉強になります」

 

 お金の支払い一つをとっても地上とは違うのだと学べたリリルカは『どうぐぶくろ』を渡そうとするアルスに謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヴィラの街はその性質上、設けられた即席の小屋の殆どが商店だったから直ぐに見飽きるということはなかった。

 武器屋や道具屋、酒場に宿屋と区分がはっきりと分かるものはまだいい。大半が武器の間に酒が売られていたり酒場で素材の買取が行われていたりと、言い方は悪いが節操がない店の方が多い。そして全ての店に共通していることは品質が一定ではないということだった。

 とある商店の一つで足を止めたアルス達の目は、濁りが見える『ポーション』や所々が錆びている『てつのやり』が地上の10倍の値段で売られていたのに止まった。

 

「信じられません! こんな低品質なポーションが5000ヴァリスもするだなんて…………法外もいいところです!」

「この『てつのやり』が75万ヴァリスもなどと、地上で買った時は7万5千ヴァリスだったというのに」

 

 買う必要がないと分かっていても相場には五月蠅いリリルカはぷりぷりと怒り、ギリギリ実用には耐えそうな『てつのやり』と自分が持っていた『てつのやり』の値段を思い起こした命が嘆きで震えていた。

 

「実質10倍なんてぼったくりにも程があります!」

 

 リリルカが雑然と商品が置かれた台の向こうにいるドワーフの店主に向かって吠える。

 ドワーフの店主はつぎはぎだらけのクッションを背にして、薄汚れてボロボロなランニングシャツを着ており、吠えるリリルカに向かって傍の木箱に頬杖をついて面倒そうに片目だけを開けて見る。

 

「嫌なら買わなきゃいいんだ。俺はどっちでもいいんだぜ」

 

→買うわけねーだろ、バーカバーカ!

  そのドラゴンキラー(2200万ヴァリス)を貰おうか

 

「買わねーなら一昨日きやがれ。シッシッ、商売の邪魔だ」

「こっちこそお断りですよ!」

 

 手で振り払う仕草をするドワーフの店主に吐き捨てて離れようとするリリルカに付いていこうとしたアルスは近くの木の樽を壊していた。

 

――――――――――アルスは レシピブック 『盗賊の仕事道具集』を 手に入れた!

――――――――――ブラッドピックの レシピを 覚えた!

――――――――――ソードブレイカーの レシピを 覚えた!

――――――――――ぬすっとのグローブの レシピを 覚えた!

――――――――――くらやみのミトンの レシピを 覚えた!

 

 しめしめと、手に入れたレシピを懐に入れて先を進むリリルカ達に追いつく。

 

「まさかここまでぼったくり価格とは…………だから冒険者は嫌なんです! お金のことになるとがめつくて、平気で人の足元を見て!」

 

→案外、この街で適正価格で売りに出せる店を作ったら一儲け出来そうな気がする

 鏡を見ような、リリ

 

「あ、アルス様がまともなことを言っている……っ!?」

「リリルカさんも結構、失礼なことを言っているような……」

 

 ガチョーン、と驚いているリリルカはカサンドラの言葉を聞かなかったことにした。

 

「しかし、アルス様の言うことは一考の価値ありです。我々には『どうぐぶくろ』があり、地上で買った高品質な物をちょっと水増しして売りに出すだけでも稼げそうです」

「え!?」

 

 アルスの言うことを真に受けたリリルカが真剣に考えているのを、自派閥の到達階層が14階層の命がマジかとばかりに見た。

 

「地上に戻れば『瞬間移動魔法(ルーラ)』で直ぐに来れますし、商売として成り立ちます」

「あ、あの、リリルカさん、冒険者の趣旨が変わってきてしまいます」

 

 一応、リヴィラの街の住人も立派な冒険者なのだが命はカサンドラにそれは違うとは言えなかった。

 

「嫌ですね、カサンドラ様。ちょっとした冗談です」

「…………目が本気だったような」

「気の所為です。ここは換金所もやりたい放題ですし、私達には『どうぐぶくろ』があるので宿以外はお世話にならない方が良さそうですね」

 

 換金所にいた棍棒を担いだ眼帯の大男が素材を売りに来た冒険者の足元を見ていたのを見物したリリルカの率直な気持ちだった。

 

「ええ、まさか地上の半値とは思いませんでした」

 

 リリルカと同じ気持ちではあるが自派閥ではアルスが持つ『どうぐぶくろ』のような便利な物が無いので、例え18階層まで到達しても苦労するだろうなと未来予想図を描く命は一つの謎にぶち当たった。 

 

「疑問に思ったのですが、これだけ金にがめついならお金を店に置いておくのは危険ではないのですか? 冒険者側も換金して直ぐ使うならともかく、大量のヴァリスを持っていたら戦闘の邪魔になりますし」

「…………物々交換か、証文を作って冒険者本人の名前とファミリアのエンブレムを契約書に記入させて、地上で後で請求するんです。換金所はその逆です」

 

 長い説明になると、カサンドラは一度そこで言葉を切った。

 

「なので、ギルドから常にファミリアの情報を仕入れていて、他所のファミリアを騙ったりして詐欺をしようとすれば、リヴィラの街を出禁になると前にダフネちゃんが言ってました……」

「より下の階層に行くファミリアにとっても、中層で活動するファミリアにとっても、リヴィラの街(安全階層)は必須ですから出禁になれば立ち行かなくなる。その重要性をここの住人も理解しているから、あそこまでアコギになれると」

 

 一時の富を求めるよりも、恒久的にリヴィラの街を利用できるメリットが上回ることはまずない。

 

「リリ!」

 

 リヴィラの街の仕組みに感心しているリリルカの名を呼ぶのはベルの声。

 振り返れば、宿捜索に行った三人がこちらに向かってきている。

 

「ベル殿、お二人方も」

「随分と早かったですね。別れてからそれほど時間が経っていませんが」

 

 何件か宿を回って値段交渉などもしていれば、もう少し時間がかかったはず。

 

「割と早く宿が見つかったんだ。多分、訳ありだけど」

 

 苦笑したベルの言い方に、リリルカの眉がピクリと動く。

 

「訳ありですか?」

「妙に安くてね。何かあって、この街の冒険者が寄り付かないらしい」

「曰くつきというやつですか。ちなみお値段は?」

「こんだけ」

 

 ダフネが掲示した金額は、物価が高いと事前に聞いて想定していた宿代よりも大分安い。

 

「この人数でですか?」

「安いだろ。街の奴に聞いてみたら、少し前に殺しがあったんだと。殺人犯は要注意人物一覧(ブラックリスト)に入ったけどまだ捕まってはいないってさ」

「宿で殺しですか。だから、安くなっていると」

 

 何もないと分かっていても、誰だって人が死んだばかりの場所の近くで過ごしたくはない。訳ありの理由と値下げしていることに命は納得する。

 人殺しが起こった宿で泊まることが既定路線になっていることに、リリルカは少し及び腰になる。

 

「え、そんな宿に泊まるんですか?」

「値段の割にこの街の中ではランクが高い。安全の為に全員が一緒に泊まれる大部屋にしたから問題ないよ」

「問題ないって、人殺しが起きた宿なんて問題しかないじゃないですか」

「人殺しが起きたのは個室で大分離れているし、大部屋を見たけど良い部屋だったよ。元の部屋も今は物置になっているらしいから、そこまで気にしなくもいいんじゃないかな」

 

 ベルも最初は及び腰だったが部屋の位置を確認して、後は掲示された金額を見て自分を納得させた。

 

「…………ここは値段を取りますか。こういうことにも慣れていかないといけません」

「で、出来れば慣れたくないです」

 

 金に負けたリリルカと違って心情的に受け入れ難い様子のカサンドラも、皆が泊まるのに自分だけ別というのは無理だったので肩を落とす。

 重くなった空気を変える為にベルがパンと手を叩く。

 

「夕食はどうしましょう。街で何か買いますか?」

「一応、18階層名物『ダンジョンサンド』が売っている店はあるね」

「どんな料理なのですか? 名前からするとサンドイッチのようにパンで何かを挟んだような名称ですが」

「正解。ここ産の果物をふんだんに使ったパン料理だよ」

 

 果物を使う時点で甘い味になると見たベルの判断は迅速だった。

 

「よし、どこかで落ち着いて調理して食べましょう! 僕、命さんの極東の味付けも、カサンドラさんが作る料理も両方食べたいな!」

「そ、そんなことを言われたら照れます……」

「熱烈に望まれるのなら作るのは吝かではないですが」

 

 お願いにカサンドラは顔が赤いのを誤魔化すように頬に手を当てて熱を冷ます。命も満更でもないという表情になる。

 ベルの魂胆などお見通しなリリルカが呆れる。

 

「ベル様は甘い物が苦手ですからね。まあ、ここは口車に乗ってあげましょう。アルス様の分の『ダンジョンサンド』は買って良いですから、そんな残念そうな顔をしないで下さい」

「なんだ、ベルは甘い物が苦手か?」

「昔、ちょっとね」

 

 それまで話に入らず商店の商品を見ていたヴェルフの揶揄い混じりの揶揄にベルはそっと目を逸らす。

 アルスが『ダンジョンサンド』を買いに行くのに付いていこうとしたベルの肩が、反対方向から来た冒険者とすれ違いざまに互いに避けようとして同じ方向に動いてしまってぶつかってしまった。

 

「あ、すみません」

「ああん! テメェ、どこ見て――」

 

 咄嗟の反応で人の性格が出る。

 軽く頭を下げて謝ったベルとは対照的に相手は怒鳴ってきたが途中で怒声が止まったので、相手の顔を見ると極最近に会ったばかりの見覚えのある顔だった。

 

「げっ、テメェらはあの酒場の――」

 

→なんだ、人生をやり直しに来たのか?

  どこのどちら様でしょう?

 

「…………………………ちっ、もう18階層(ここ)まで来やがったのか。行くぞ、お前ら」

 

 『ダンジョンサンド』を食べるのに邪魔だったので『プラチナヘッド』を片手に抱えたアルスの挑発にやり返すことなく、モルド・ラトローは仲間を引き連れて去って行った。

 

「何だったんでしょう、一体」

 

 因縁を付けてくるかと思ったら吐き捨てて去って行くモルド達の背中を見送ったリリルカは小首を傾げる。尚、当然ながら地上での豊穣の女主人での一件を知らない命の頭上に疑問符が乱立していた。

 

「あの時よりウチらの装備が上等になってて、戦闘したっていうのは汚れ具合で分かるから怖気付いたんじゃない」

「全員の装備は俺が整えた」

 

 ヴェルフが全員の装備を見渡して自慢げに頷く。

 

「命!」

 

 事情を誰かに聞くべきかと命が思考していると、離れた場所から良く知る声が名前を呼んだ。

 ハッと命が声の聞こえた方に振り返ると、たった数日前のことなのにもう何カ月も見ていないような懐かしい顔達があった。

 

「…………千草殿、桜花殿!?」

 

 自派閥であるタケミカヅチファミリアの団長であるカシマ・桜花とヒタチ・千草の二人。

 

「良かった、無事で!」

 

 命の親友である千草は、猛ダッシュで走ってきてそのまま胸に飛び込んだ。危なげなく千草を受け止めた命も、再会の喜びに眦に涙を浮かべる。

 

「二人とも、どうしてここに?」

「どうしても何も、お前が戻って来なかったから探しに来たんだ。本当に、無事で良かった」

「桜花殿……ッ!」

 

 千草のように抱き着いては来なかったが、肩に手を置いた桜花の言葉に思い至らなかった命はハッとなる。

 命達が再会を喜び合う仲睦まじい様子に、ヴェルフは14階層でほぼ一瞬だけ見ただけだったが見覚えのある二人の姿に顎に手を当てる。

 

「おい、ダフネ。あれって」

「ウチらに怪物進呈(パス・パレード)を仕掛けてきたファミリアだね」

 

 再会の喜びを邪魔しないよう配慮する小声で話しながら思い至ったダフネが眉を顰めている。

 

「――――ベル君!」

「神様?」

 

 桜花達がやってきた方向から、息を切らせてヘロヘロだったヘスティアが現れ、ベルの姿を認識すると復活して突撃してきた。

 

「ベッルゥ君んんんんんん!!」

 

 その突撃はモンスターの攻撃のようで、神厳禁のダンジョン内で現れたヘスティアの存在に認識が追いつかなかったベルは、飛びついてきたのを咄嗟にひょいっと避けてしまった。

 まさか避けられるとは思いもしなかったヘスティアは、そのままベルの背後で『ダンジョンサンド』を食べていたアルスの『シルバーメイル』に頭から突っ込んだ。

 

「アギャッ」

 

 ゴチン、と大きな音と共に『シルバーメイル』に激突したヘスティアの口から悲鳴が漏れる。

 

→なんか、すまん

  俺の胸にようこそ、神様

 

 『ダンジョンサンド』に当たらないように上げた手を下ろし、崩れ落ちかけたヘスティアを支えるアルス。

 

「えっと、神様、僕もすみません。つい、モンスターの攻撃を避ける癖が出ちゃって」

「二人とも謝らないでくれ! 謝られたらボクが情けなくなる……」

 

 アルスの腕に抱えられたヘスティアは痛みとは別の理由で泣きたくなった。

 

「ホイミ」

 

――――――――――アルスは ホイミを となえた!

――――――――――ヘスティアの キズが かいふくした!

 

「ああ、癒される……」

 

 初めて『治癒系魔法(ホイミ)』を受けたヘスティアは顔面の痛みと同時に心の痛みも消えてなくなるように祈りつつ、自分の足で立つ。

 

「あの、どうしてヘスティア様がダンジョンに?」

「それは勿論、君達を助ける為さ!」

 

 自身の質問に一番ありえざる返答が返って来て、リリルカはヴェルフと顔を見合わせる。

 

「俺達のLv.は御存じでしょうに」

「突然、行方不明になれば心配もするさ。大丈夫だとは思っていたけど、無事で何よりだ。ボクの予想通り、タケの子も一緒であの子達も安心しただろう」

 

 良かった良かったと口にするヘスティア。

 皆の目が今までどうやって過ごしてきたかを仲間に熱く語っている命に向いたところで、覆面の冒険者がベルに近づく。

 冒険者の街だからと気を抜き過ぎていたベルは周りに気を配るようにしていたので、近づいて来る覆面の冒険者に直ぐに気づいた。

 

「ベルさん、無事でしたか」

「リューさん……? ああ、リューさんが神様を道中守ってくれたんですね」

 

 誰だろうかと思ったが口元を隠していたケープを下ろしたリュー・リオンの顔を見て、直ぐにヘスティアが18階層まで来れた理由を察する。

 

「ええ、神ヘスティアに捜索隊に加わってほしいと頼まれまして。アンドロメダも同行するということでしたので、私もここに用事があったので丁度良かった」

 

 同行者としてまさかの人物の名前が出てベルは瞠目する。

 

「アンドロメダって……」

「やあ、ベル君。アポロンの神の宴以来だね」

 

 桜花達やヘスティアと違ってゆっくりとこの場に現れた神ヘルメスが笑みを纏ったまま、後ろにアスフィ・アル・アンドロメダを従えてやってきた。

 

「やっぱりヘルメス様まで。ありがとうございます、助けに来て頂いて」

「なあに、オレはヘスティアの心友(マブダチ)だから協力したまでさ」

 

 ダフネやカサンドラを労わっているヘスティアを見遣ったヘルメスは次いで自身の背後を指差す。

 

「それより君達に客だよ」

「客?」

 

 客と言われても思い当たる節が無かったベルがヘルメスの指差した方を見ると、そこには金色があった。

 

「え、アイズさん!?」

 

 頭上のクリスタルの光に照らされた金髪をしたアイズ・ヴァレンシュタインはスタスタと歩き――――――――――ベルの横を通り過ぎていった。

 

「あなた、一緒に来て」

「えっ!?」

 

 ベルをスルーして、アイズに手を掴まれたのはカサンドラだった。

 

 

 

 

 

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