17階層へと続く連絡路に近い南端部にある森林にロキ・ファミリアの野営地はあった。
無数にある天幕の中で一回り大きな幕屋にアルス・クラネルの姿がある。
「良く来てくれた、ヘスティアファミリアの諸君」
アルス達を出迎えたロキファミリアの団長フィン・ディムナは樽に腰を預けながら歓迎の意を示した。その両脇にはリヴェリア・リヨス・アールヴとガレス・ランドロックが並んで立っている。
オラリオでもトップクラスの有名人達を前にして、リリルカ・アーデは『ウィッチローブ』の下で気づかれないように足を震わせながら答える。
「来てくれたも何も、私達は殆ど何の事情も知らぬまま来たのですが」
「? 君達の目撃情報が入ったと聞いてアイズが一緒に行ったはずだが」
「アイズ様ならカサンドラ様を抱えて、私達には一緒に来てとだけ言い残して文字通り風のように去って行きました。後を追いながらヘスティア様から搔い摘んだ内容しか聞いていません」
アイズ・ヴァレンシュタインに一定の信頼はあったので連れて行かれたカサンドラ・イリオンがどうこうなるという心配はなかったが、それはそれとして放っておくわけにいかないので冒険者基準で急ぐ必要があった。
全知零能の神であるヘスティアとヘルメスはベル・クラネルとアスフィ・アル・アンドロメダが抱えてやってきたわけだが、気を付けていても体への負担が大きく今は天幕の外で揃ってグロッキーになってアスフィに看病されている。
「…………だから、神達がグロッキーだったのか。アイズの気持ちは分かるが、人選を間違えたかな」
足の速さとヘスティアファミリアとの関わりの多さから優先して選んだ自分の人選にフィンは渋い顔をする。
「ヘスティア様からロキファミリアに世話になっていると聞きましたが、まだ遠征途中のはずです。どうして18階層に留まっているのか、お聞きしても?」
「遠征の帰りにポイズン・ウェルミスの
「ポイズン・ウェルミスの毒は専用の特効薬以外、完治が難しいと聞いたことがあります。それこそディアンケヒトファミリアのアミッド・テアサナーレ様の高位治療魔法だけと。カサンドラ様も解毒魔法を扱えますが恐らく気休めにしかならないかと思いますが」
同ファミリアになってからカサンドラの魔法について知ったリリルカも彼女の
ある程度の効果はあれども過度に期待されて失望されてもリリルカ達の方が困る。
「ロキファミリアでも解毒系の治療魔法を扱える魔導師や治癒師は少ない。気休めであったとしても、解毒用のアイテムも底をついた今、症状の重い者にとっては大きなものだよ」
ランクアップ時に『毒』などへの耐性がつく『耐異常』のアビリティを取得を選択する冒険者が多い中で、解毒系の治癒魔法に目覚める魔導師や治癒師は多くない。ロキファミリアもその例外に漏れない。
『
「足の速い者に地上に向かって特効薬を調達させているが今暫く時間がかかる。彼らの苦痛が少しでも和らげば、看病している者達にとっても心の重しが軽くなる。改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」
フィンが礼を言い、リヴェリアやガレスも神妙な顔で軽く頭を下げた。
嘗ての自分ならば天上人同然の人達に頭を下げられては、慌てるのはリリルカの方だった。
「礼を言うのはこちらの方ですよ、フィン様。現れるか分からない私達を待つ為に、物資が少ない中でヘスティア様達を逗留させて頂き、感謝します」
「そこも持ちつ持たれつというやつだよ。同行した神ヘルメスが幾らか用立ててくれたから、逗留による負担は無きに等しい。寧ろこちらがプラスなぐらいだ」
成程、とリリルカは得心した。
得心した様子のリリルカを見たフィンは見た目にはやや不釣り合いな大人びた笑みを浮かべる。
「僕達の現状はこんな感じだ。次は14階層で行方不明になったという君達がどうして18階層に現れたのか、聞かせてらえるかい?」
経緯を尋ねられたリリルカは、地上に戻ればギルドに報告しようと思っていた内容なので特に隠す必要もなく包み隠すことなく伝えた。
すると、ドワーフは大口を開けて笑い出した。
「がはははっ、モンスターに食われて14階層から22階層に落とされたのか! 成程、フィン、リヴェリア、確かにこやつらは波乱に愛されておるな!」
「ガレス、この場は内輪だけではないんだ。抑えてくれ」
本来ならば中層に進出して間もないパーティーが中層の下位に落とされたとなれば確実に生きて帰れない。ガレスが大笑しているのは、ヘスティアファミリアパーティーが命かながら18階層に辿り着いたというわけではないことを平然としているアルスの様子から察してのこと。
リヴェリアもそのことは分かっているが、世の中には笑って流せることと流せないことがある。仲間内なら機微を理解できるが、別ファミリアとならばどこに琴線があるか分からない。迂闊な言動や行動は信頼関係に罅を入れかねない故の注意だった。
「ふふ、ガレスではないが、本当に君達は僕達を飽きさせないね」
「放っておいてください」
波乱に愛されているのは、リリルカも内心では同意だったのでフィンの言葉に拗ねたようにそっぽを向く。
ゴメンゴメン、とフィンは謝りながら、この場にヘスティアファミリアの面々がリリルカとアルスの二人だけなことに注目する。
「ところで、ベル・クラネルはどうしたんだい? 彼が団長だと聞いていたから、こういう話は彼とするものだと思っていたのだけど」
「ベル様ならティオネ・ヒリュテ様がお話ししようと言って連れて行かれました。ヴェルフ様も会って早々に目の色を変えた椿・コルブランド様に連れて行かれてしまいましたし。まさか真っ先にいなくなると思っていたアルス様しか残らないとは」
ダフネ・ラウロスはカサンドラが他派閥の中で治癒行為を行っているから念の為に付いてもらっていた。
「いや、なんか、ごめんね」
「皆さんが自由なのは今に始まったことではないので同情は結構です」
この自由は果たして
「ま、まあ、治癒に協力してくれた恩がある。こちらに出来る便宜は可能な限り図るつもりだ。何ならこの野営地に滞在してもらってもいい。何かあるかい?」
「う~ん、物資も不足してませんし、特にはありません。宿も決まっているので、ヘスティア様をこちらに入れて命様をタケミカヅチファミリア側に戻せば数の帳尻は合います。タケミカヅチファミリアが負う分は彼ら自身に負担してもらえばいいわけですし…………アルス様、何かありますか?」
→高ランク武具のレシピ頂戴!
俺と戦おうぜ!
「ちょっ、何を要求しているのですか!?」
何も思いつかなかったリリルカがアルスに問うと、あまりにも吹っ掛けすぎな要求に目を剥く。
「うん、どれでもというわけにはいかないが、なんとか都合しよう」
なんとか撤回させようとリリルカが高速で思考を回していると、フィンはアルスの無茶ともいえる要求をあっさりと受け入れた。
「い、いいのですか?」
「なに、僕達がここにいれるのは君達のお蔭でもある。君達の冒険は僕達に勇気をくれた。ただ、それだけさ」
「はあ」
理解できない様子のリリルカを見て、無理はないとフィンは内心で苦笑して敢えて本人達に語る必要もないと理由を告げはしなかった。
「フィン、話は終わりだな?」
「ああ」
ロキファミリアとしてヘスティアファミリアと話すべきことは話したと、フィンに確認を取ったリヴェリアが一歩前に出てリリルカだけを注視する。
何も生まれ持たない
「リリルカ・アーデといったか」
「はい」
「お前がレフィーヤから指導を受けたいうのは本当か?」
リリルカの口から汚い悲鳴が漏れかけた。
恐る恐るリヴェリアの表情を伺うと、リリルカに対する興味はあれど怒りは感じない。
「…………はい。少しの間だけですが」
「責めているわけではない。レフィーヤの師としては聊か気になった物でな」
ほっと一息つくリリルカだったが、次の瞬間、リヴェリアから飛び出した言葉に彼女は猛烈な嫌な予感を覚えることになる。
「それに神ヘルメスから気になる話も聞いた」
「ヘルメス様からですか?」
「ああ、なんでもアポロンファミリアとの
リリルカの瞳に動揺が走る。
こうなると分かっていたのでヘスティアには、神会で魔法を反射したのはヘファイストスより借り受けた神創武具相当のアイテムであると噂を流してもらっていた。リリルカが魔法として使えるよりも信憑性はあって、ヘファイストスの店を訪れる神やファミリアが絶えないらしく、ヘファイストスは商魂逞しく巧みに別商品を買わせているとバイトしているヘスティア情報を得ていた。
「そ、それはどういう意味での気になる、なのでしょうか?」
声が震える。目線が下がる。
しかし、彼我の力関係が黙秘も退避も許さない。
「反射できる範囲、効果など色々だな。それにその魔法を反射する魔法をレフィーヤは知らなかった。もしや他にも特異な魔法があるのではないかと興味は尽きない」
ヘルメスに見破られたのか、或いは別経由、もしくはヘスティアが口を滑らせたのか。
即座に嘘で誤魔化すことも出来なくはないが、相手がエルフの王族だけに下手な対応は死を招く。
「偶々、有用な魔法に目覚めただけで、リリなどリヴェリア様のお目汚しにしかならない卑賎な
エルフの王族という明らかに自分よりもヒエラルキーの高い逆らい難い存在を前にして、アルス達と出会うことで小さくなり心の奥底に押し込められた卑屈な気持ちが口から出た。
当然、
「あまり自分を謙遜することはないよ、リリルカ・アーデ」
「フィン様……」
敢えて卑屈さを謙遜と言い換え、真剣な表情のフィンがリリルカを見据える。
「謙遜も行き過ぎれば卑下となる。そうなってしまった背景は容易に想像できるが、同じ
「…………」
リリルカは何も言えず顔を伏せる。
「何より今の君はヘスティアファミリアの副団長なのだろう? 横柄になれとは言わないが、
「…………それは経験談ですか?」
「そうであるとも言えるし、違うとも言える」
含みのある言い方に、リリルカは訝しげにフィンを見上げる。
フィンは後ろにいるリヴェリアと、アルスとコソコソと二人で何か話し合っているガレスを見やってからリリルカに視線を戻すと、不敵に微笑んだ。
「僕は同族達の旗頭足らんと自らを規定して、この身は一族の再興の為だけに捧げると決めた。だからこそ、常に周りから見られることを意識して振舞っている…………内心はどうであれね」
フィンの言葉はリリルカにまるで新たな価値観をインストールする様にすんなりと頭の中に入ってくる。
「ベル・クラネルとあの強化ミノタウロスの戦いで、僕達と共にいて安全圏にいた君には何もしないという選択肢があった。にも関わらず、君は動いた。その一歩を踏み出す勇気こそが最も尊いものだ」
「あの時は無我夢中でしたので、フィン様はリリを買いかぶりです」
あの時のリリルカは意識が朦朧としていて何か助けにならなければと行動したが、フィンが言うように安全圏だからこそ動いたとも言える。
「行動に移す意志が無ければ、出来る力だけがあっても意味はない。君は偉大な
「…………御高名なフィン・ディムナ様にこれだけ仰って頂いてしまっては、何時までも俯いてはいられませんね」
自分のことは何一つ信じられないリリルカであっても、
ならば、自分の得意分野で問題に立ち向かって行こうと、腹に力を入れて何を見せてくれるのかと楽し気に待っているリヴェリアを見上げる。
「リヴェリア様、興味を持って頂けるのは有り難いですが、今のリリはヘスティアファミリアの貴重な戦力であると自負しています。扱う魔法を他所のファミリアの方に対価もなしにお教えすることは出来ません」
「例え相手が私であってもか?」
楽しそうな顔で試すように言ってくるリヴェリアに怯みそうな心と体に活を入れる。
「ええ、幾ら師匠の師匠であろうとも、です。立場も実力も関係ありません。例え我が師レフィーヤ様であろうとも例外ではありません」
「…………ふむ、対価か」
求められる物を思案しながらリヴェリアの目がリリルカの全身を見る。
「余程の激戦を潜り抜けてきたのだろう。着ている『ウィッチローブ』が随分とくたびれている」
リヴェリアの視線はリリルカの服に止まった。
「私の手持ちレシピに『王子と姫のヒミツ』というものがある。『王子と姫のヒミツ』で作れる『プリンセスローブ』は『ウィッチローブ』の上位互換に当たる。このレシピと素材を提供しよう。ヘスティアファミリアには元ヘファイストスファミリアの鍛冶師がいると聞いている。これで作れるだろう」
「装備の現物はなく、作成はこちらでやるというのなら手落ちが過ぎますね。手札の一枚、それも大したことのない内容になってしまいますよ?」
魔導師にとってみれば魔法とはスキルやアビリティ以上に秘するもの。手札を明かさせるのだから、誰であっても納得させる提案でなければならない。知りたいのならば、もっと寄こせとリリルカはリヴェリアに暗に伝える。
「む、ならば私の予備の杖である『せいれいの杖』も付けよう。これならどうだ?」
「もう一声」
普通の交渉ならば、ブチ切れて打ち切られてもリリルカは別に困らない。受けるかどうかはリリルカの匙加減。心理的負荷が無くなったリリルカには無理に手札を明かす必要はないのだから。
「ぐぅ、『マジカルハット』も出してやろう! これ以上は流石に出せんぞ!」
しかし、ロキファミリアの幹部、それもエルフの王族に睨まれては未だ中派閥に過ぎないヘスティアファミリアはオラリオでやり難くなってしまう。リリルカにはどこかで妥協が必要だった。
「いいでしょう。リヴェリア様の奮発にリリも誠心誠意お答えします。まず、一つ目は『マホトラ』と言いまして、その名の通りに魔法をかけた相手の
尚、『
リヴェリアも本当の奥の手は秘するだろうと分かっているから、教えることでレフィーヤを成長させたリリルカへの恩返しを兼ねてフィンに付き合って先達の冒険者として後輩の育成を行っていた。
「これは発破をかけすぎたかな?」
イキイキとした様子で交渉をしていたリリルカに苦笑したフィンの目が直ぐ近くで両足を開いて中腰になって相対しているガレスとアルスに向けられる。
「で、君達は何をやろうとしているんだい?」
「何って、相撲じゃが」
→相撲だよね
男同士くんずほぐれず?
「いや、だからなんで相撲?」
二人で何やら話に熱中していたのは視界の端に入っていたが、どうして相撲をすることになったのか話の流れが分からなかった。
ガレスが髭を撫でつけながら中腰を止める。
「
ガレスの目が好戦的な色を帯びる。
ヘスティアファミリアの力量が気になるのは同じなのでフィンも理解できる。多数のアポロンファミリアに勝てるはずがないのに勝利し、それから殆ど間も開けずに22階層まで落ちて自力で18階層まで上がって来たのだ。
強化ミノタウロスに勝利してから、たった二週間前後でこの躍進はフィンでも信じ難い。
「ガレスがそこまで言うなんて珍しい。アルス、今の君のLv.は?」
→4
4か、ヘスティア様に更新して貰ったら5かも
「ちなみにリリルカ・アーデは?」
→4
4か、ヘスティア様に更新して貰ったら5かも
「…………君達が組打ちなんてしたら他の団員に隠しようがない。腕相撲ならいいよ」
Lv.を聞いたフィンが目の色を変え、但しと付け加える。
「ガレスの次は僕とやろうか、アルス。僕も君達に興味が出てきた」
結果は勿論、アルスの全敗になるのだが、それでもフィンとガレスの見る目が変わることはなく、逆に気に入ったとばかりに『メタスラ装備のレシピ』を渡してくれた。
――――――――――アルスは レシピブック 『メタスラ装備のレシピ』を 手に入れた!
――――――――――メタスラの剣の レシピを 覚えた!
――――――――――メタスラの大剣の レシピを 覚えた!
――――――――――メタスラブーメランの レシピを 覚えた!
――――――――――メタスラのやりの レシピを 覚えた!
――――――――――メタスラの盾の レシピを 覚えた!
――――――――――メタスラヘルムの レシピを 覚えた!
――――――――――メタスラよろいの レシピを 覚えた!