ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第55話 悪いのはヘルメス様だ。俺達は悪くねぇ!

 

 

 

 

 

 ティオナ・ヒュリテの呼びかけに集まったのは、ロキファミリアを始めとしてヘスティア・タケミカヅチファミリア+アスフィ・アル・アンドロメダを含めて女性陣二十人ほどの数に上った。

 ロキファミリアは発起人のティオナを始め、彼女の双子の姉のティオネとアイズ・ヴァレンシュタインにレフィーヤ・ウィリディスの他には下位団員が目立っており、ヴェルフ・クロッゾに造らせた武具の試し切りついでに狩りに出かけた椿・コルプランドはいない。

 

「じゃーん、ここ!」

 

 ティオナの案内で辿り着いた滝の水が溜まった泉で、野営地もほど近い絶好の位置関係。

 暇さえあれば何度も通っているロキファミリア組だけでなく、ヘスティアやアスフィにヒタチ・千草まで物怖じも遠慮せずに服を脱ぎ始めた中、ダフネ・ラウロスやカサンドラ・イリオンとヤマト・命の初見組は躊躇いを覚えていた。

 

「こっ、こんな所で水浴びして大丈夫なのですか!?」

「私達が交代で警護しますので大丈夫ですよ」

「ロキファミリアの護衛付きなら心配いらないね」

 

 道化の魔書(ロモワール)の二つ名を持つエルフィ・コレットの言葉に安心してダフネとカサンドラまで服を脱ぎだしてしまったので、千草に説得された命も恐る恐る衣服に手をかける。

 

「まさかダンジョンで、このような機会を得るとは」

 

 貰った装備類は既にヘスティアファミリアに返却しているので、命が纏っているのは『てつのむねあて』と『布の服』のみ。最後に胸を固定していたさらし布を解く命の言葉を近くにいた千草が聞き取った。

 

「もっと下の階層では水浴びはしなかったの?」

 

 アルス・クラネル達は『どうぐぶくろ』で持ち込んだ木の樽に水を注ぎこんで『火炎魔法(メラ)』で温めた即席の風呂を使ったらいいと勧めてくれたが、一人一人交代制の都合上、足手纏いでしかなかった自分が入浴中に守ってもらうことに申し訳なさが勝った所為で固辞したことを悔いていたので、水浴びは本当に嬉しい命だった。

 

「勧めてくれたのですがそこまで甘えるわけにはいかなくて…………毎日濡らしたタオルで体を拭けただけも有難かったです。しかし、この広さ、露天風呂を思い起こします。うう、もうずっと入れてないですね……」

「大丈夫! 頑張って稼げば何時か入れるよ!」

 

 劣等感から最も心と体がリラックス出来る時間が欲しくなった命を慰める千草。

 水浴びの度にアイズと自分の胸を比べて優越感を覚えていたヘスティアが二人のそんな会話が聞こえて顔を向ける。 

 

「なんだ、命君は露天風呂に入りたいのかい?」

「え、あ、はい、ヘスティア様。命ちゃんは大のお風呂好きでして……」

 

 突入組でロキファミリアの野営地には近寄らない覆面エルフと、ヘルメスの抑え役として彼に傍に付いていることの多いアスフィ以外で女がいなかったので、必然的にヘスティアの世話をすることが多い千草は彼女の質問に気安く答える。

 

「じゃあ、地上に戻ったらうちの新ホームに来るといい。アルス君の希望でゴブニュに極東風の檜風呂を作ってもらっているから、極東出身で風呂好きならきっと気に入ってもらえると思うよ」

「檜風呂って…………なんでアルスはそんなものを?」

 

 ヘスティアファミリアの新ホームはダフネにも関わりのあることだったので、珍しい種類の風呂をアルスが希望したと聞いて首を傾げる。

 

「さあ、ベル君も土下座を多用するぐらいだから、あの兄弟は極東に縁でもあるのかな。しかし、カサンドラ君も中々の物を持っているね」

 

 ダフネに顔を向けたヘスティアは彼女の背に隠れるようにして水浴びをするカサンドラに気づき、全裸になったことで自己主張の激しい胸に嘴を向ける。

 

「へぁっ!?」

「大きさで語るならヘスティア様の方が大きく見えますよ」

 

 注目を集めたカサンドラが変な声を上げて自身の背中に隠れたことで、ダフネは柔らかく大きな胸を背中に感じながらヘスティアにボールを返す。

 

「僕は背が小っちゃいからね。小さいと言えば」

 

 胸の話題になってから、己の薄い胸を押さえ精神的損傷を負って呻いているティオナがいたりするが、彼女がいたのは背面方向だったので気づかずにヘスティアは泉の外で新装備を纏ったままで脱衣していないリリルカ・アーデへと顔を巡らせる。

 

「リリルカ君は水浴びしないのかい?」

「ロキファミリアの方々だけに警護を任せるのは申し訳ないので、リリは後で入らせてもらいます」

「う~ん、僕の眷属(ファミリア)は気が利くな!」

 

 頼る時は頼りっぱなしなところがあるヘスティアは全くそんなことを考えていなかったので素直にリリルカを尊敬していた。

 主神に尊敬されて手を振っているリリルカの隣で、同じように警護に付いているレフィーヤが微笑んでいた。

 

「本当に良かったのですか、リリ?」

「はい、その代わりリリが入っている時はダフネ様達が警護に入るので、急いで入らなくてもいいですから」

 

 人数比率を考えれば少なすぎるとしても、これ以上はロキファミリアに借りを作るわけにはいかないと、ダフネと簡単に話し合って交代で水浴びすると決めていた。尚、カサンドラでは警護役には向かないと除外されている。

 

「レフィーヤ様こそ、リリを気にしてご遠慮されておられるならお気になさらず、入って頂いただければ」

「師よりLv.が高くなってしまった弟子と話がしたいと思うのはいけないことでしょうか?」

「…………いえ」

 

 返しに物凄く微笑みながら毒が入った問いを放たれ、リリルカの目が助けを求めて急速に泳ぎ出す。

 ヘスティアは全く気付いていない。ダフネは気付いたが触らぬ神に祟りなしとばかりにカサンドラを連れて離れていく。命は水に顔だけで出すほど全身を使ってダレている。結論、リリルカに助けの手はない。

 

「短い期間ながらも教えを施した者として、弟子の栄達は嬉しいものです。ちょっと腸が煮えくり返って、早くランクアップする秘策を教えやがれこんちくしょーがだなんて思ってません。本当ですよ?」

「あの、レフィーヤ様。凄い圧が……!?」

 

 にじり寄るようにして近づいて来るレフィーヤに慄くリリルカ。

 敵地の中で味方のいないリリルカが逃げようとしてうっかり泉に落ちてレフィーヤが謝ることになる光景が広がる頃、野営地と泉から離れた場所で警護と毒で苦しんでいる者と看病者以外の男連中が集まっていた。

 

「諸君、これは聖戦である!」

 

 男達の前に立ったヘルメスは片手を上げて高らかに宣言した。

 

「いいか、良く聞け。この奥に広がるのは乙女が舞い踊る男の楽園だ。ヒリュテ姉妹を始めとしたロキファミリアの綺麗所を始めとして、あの剣姫アイズ・ヴァレンシュタインまでもが一糸纏わぬ生まれたままの姿で身を清めている……」

 

 野営地から離れているとはいえ、大きな声を出せば五感が優れている冒険者に気づかれる。小さな声で集まった者達に声を響かせるという器用なことをするヘルメスの言葉に、男達は水浴びしている女性陣の裸を想起する。

 

「ゼウスは女神のみが入浴される事を許された『神聖浴場』を、歴史上唯一覗いたことのある神物だ。この偉業は今でもオラリオで伝説として語り継がれている。そして諸君らもまた今日、伝説となるのだ!」

 

 ヘルメスの演説に、集まった男達は拳を振り上げて小声ながらも気勢を上げる。

 

「ゼウスの後を追おうとしたオレの夢は一度敗れた。だけど、俺の心が言ってるんだ、諦めたくないって。そして今、オレには君達が、志を同じくする仲間がいる!」

 

 仲間たる男達を見渡すヘルメスの顔に一切の憂いはない。

 

「我々の眼前に立ち塞がるは困難の頂だ。だが、これを乗り越えた時、君達は後世に名を残すだろう。立ち上がれ、若者達。真の英雄となる為に!」

 

 ヘルメスは彼等の興奮が最高潮に達していることを確認すると、大袈裟に手を振り下ろして力強く宣言した。

 

「さあ、諸君。聖戦を始めよう!!」

『うぉおおおおおおおおおお!!』

 

 盛り上がる男達の近くで、木に全身を縄で縛られたラウル・ノールドが体を揺らす。

 主神ロキの趣味でファミリアには圧倒的に女性陣が多い中で、幹部のガレス・ランドロックとベート・ローガ以外の男性陣の纏め役にされるラウルは真っ先にヘルメスの提案を拒否した為、野営地に置いておくとバラされる危険があると拘束を受けることとなった。

 

「止めるっすよ、みんな! バレたらぶち殺されるっすよ!」

 

 男の聖戦を前にして目が滾っている男衆達は、一人いい子ちゃんを続けるラウルを前にして一人がペッと地面に唾を吐き出す。

 

「うっせえ、勝ち組が!」

 

 一人の罵倒をきっかけに不満が次々に溢れ出す。

 

「自分だけアナキティさんと上手くいっているからってよ」

「けっ、この超凡夫(ハイ・ノービス)が!」

「二つ名で罵倒された……!? っていうか、アキとは何でもないっすよ!」

 

 持たざる者は持つ者を妬む。悲しきかな、ラウルの必死な叫びは情欲に染まった仲間達に耳には届かなかった。それどころか大声を出されては敵わないと、口轡を噛まされる始末。

 とんだ身内騒ぎを起こしている彼らとは距離を取りつつも、その場にはヴェルフ・クロッゾとカシマ・桜花の姿もあった。

 

「堅物そうなお前がここにいるとは意外だったな、大男」

「仕方あるまい。身を寄させて貰っている立場では迎合するしかない」

 

 ロキファミリアの男衆が纏まっている中で弱小ファミリアの男が一人だけ別行動をすれば裏切りを疑われる。だから仕方ないのだと嘯く桜花の澄ました顔に隠された裏側こそをヴェルフは知りたかった。

 

「ほう、で、本音は?」

 

 追及に、桜花は心持ち顔を背けるもこの場を離れようとはしない。

 

「…………俺とて男だ。興味がないわけではない」

 

 真に反対ならば、野営地にいる者達や水浴びに行っている者達に、これから行われようとしている蛮行を大声で知らせればいい。そうしていない時点で桜花の意志は明らか。

 うんうん、と二度大きく頷いたヴェルフは仲間と認めた桜花の肩に手をかける。

 

「だよな。それで誰が好みなんだ?」

 

 馴れ馴れしいヴェルフの態度であるが、振り払うほどの理由はないので桜花も好きにさせた。

 

「人に聞くならまず自分から語るのが筋だろう」

「道理だな」

 

 ニヤリと笑ったヴェルフは自分に親指を向けて胸を張りながら言い放つ。

 

「好みというなら、俺はスレンダーよりも豊満なスタイルが良いな。今、水浴びしている連中の中なら姉御肌な性格も加味すればティオネ・ヒュリテとかな」

「…………まさか、そこまで言うとは。ならば、俺も答えないわけにはいくまい」

 

 桜花はヴェルフの堂々とした宣言に感服した。

 これに答えなければ男が廃ると考え、覚悟を決めて頷く。

 

「俺はあまり胸が大きいのは好みではない。動き難そうだからな。性格は元気でいてくれるなら言うことはない」

「ほう、スレンダーで元気となると、ティオナ・ヒュリテとかか?」

「否定はせん」

 

 奇しくもヒュリテ姉妹が好みだと判明した男二人は肩を組み合い、互いの拳をぶつけ合って理解を深めた。

 そこで先にロキファミリアに合流していた桜花は、ヴェルフの元所属とその団長が遠征に同行していたことを思い出し、彼女と直接言葉を交わすことはなかったが話している姿を見ているだけに不思議に思った。

 

「鍛冶師、お前は確か元ヘファイストスファミリアだったな。豊満で姉御肌というならば単眼の巨師(キュクロプス)はどうなんだ?」

 

 ヴェルフが上げた全ての条件に当て嵌まり、元所属ならば交流もあったはずだからこその問いだった。

 

「椿な…………アイツは絡み方が面倒なんだ。後、女としての自覚が足りない」

 

 酷い時には上半身に胸だけさらし布を巻いただけでの格好でウザ絡みしてくる椿を思い出したヴェルフがげんなりとして答える。

 ヴェルフは自身の好きな人が元主神ヘファイストスであることは卑怯にも口にしないまま、ロキファミリアの男連中と一緒に盛り上がっていたアルスが戻ってきたのを見た。

 

「好みといえば、ベルが年上長髪金髪エルフが好みってのは聞いたが、アルスの好みは聞いたことないな。そこら辺、どうなんだアルス? お前は大きい方か小さい方、どっちが好みだ?」

 

→女体とは神秘である。胸もまた神秘の一つに過ぎず、大小に拘るのは無粋の極み。

  特に好みというのはないな。敢えて言うなら好きになった子が好みかも

 

「深いな……」

「確かに大小に拘るのは無粋か」

 

 何故か男三人で通じ合ったヴェルフと桜花は神妙に頷く。

 

「天よ、ご照覧あれ! 誇り高き勇者達に必勝の加護を!!」

 

 ヘルメスの号令を合図に、拘束されたラウルを置き去りにして男衆は泉に繰り出す。

 

「さあ、俺達も行こうぜ。男の楽園(パラダイス)へ」

「おう!」

「うう、帰りたい」

 

 意気揚々と泉へと行進する三人に続き、逃げたら実家での隠し事をバラすとアルスに脅されたベルが最後尾で項垂れて続く。

 

「――――――ヘルメス様が妙に水浴びを勧めるから、どうせこんなことだろうと思っていました」

 

 ヘルメスの行動に疑問を覚えたアスフィによって早めに切り上げられた水浴び場に現れた男衆は、即落ち二コマの如く待ち構えていた女性陣によってあっという間に捕縛されて地に転がされた。

 

「まさかあなたまで参加するとは見損ないました、桜花殿」

「ち、違うんだ命。これは、そう、仕方なくで!」

 

 わざわざ18階層まで救援に来たと聞いて、それはそれは感動していた命が団長(桜花)を軽蔑の眼差しで見下ろしている中、幹が太い大樹の枝の上にヘルメスは退避していた。

 

「くっ、流石はアスフィ。オレの行動を読んでいたか。行くぞ、ベル君。みんなの屍を超えて生存を掴むんだって、あれベル君?」

 

 自分をここまで担ぎ上げてくれたベルの方を振り向いたはずなのに背後には誰もおらず、ヘルメスは枝の上で取り残されていた。その幹にはベルが去り際に大きな傷をつけていることにヘルメスは気づていない。

 どうやって女性陣に気づかれずに退避しようか模索しているヘルメスが頭上にいるとは思いもしないヘスティアは、ベルと並んで自分の第一の眷属である縛られたアルスを豊満な胸の下で腕を組んで見下ろす。

 

「アルス君、君まで一体何をやっているんだよ」

 

→この醜態を笑うがいい。だが、例え俺達を捕まえたとて、第二第三の刺客が現れるだろう!

  悪いのはヘルメスだ。俺達は悪くねぇ!

 

「どこの三下のセリフですか。というか覗きに刺客って……」

「男は馬鹿ばっかりだね」

「…………みなさんのエッチ」

 

 頭が痛いとばかりに手で押さえるリリルカ、呆れるダフネ、もしもを考えて恥ずかしがっているカサンドラの近くに立っていたティオナが地面に落ちている木屑に気が付いて顔を上げた。

 見上げた先の大樹の幹には目立つ傷があり、ティオナがヘルメスの姿に気づくのは簡単だった。

 

「あ、ヘルメス様だ」

「げ」

 

 目がばっちりと合ったヘルメスが黙っているようにジェスチャーを送るも単純なティオナが名前を出してしまった。

 名前が出てしまってはアスフィが頭上に顔を向けるのも当然で、主神の数々の行動が何を意味するのか分からないほど彼女は愚鈍ではなかった。

 

「ヘ~ル~メ~ス~さ~ま~!」

「オレ、死んだ」

 

 男神の未来が確定してしまった頃、一応神様への礼儀としてヘルメスだけは助けて一人で離脱したベルは森を彷徨っていた。

 

「やっぱり出来るわけないよ、覗きなんて」

 

 止めようとしたが男たちの熱気は強く、寧ろ脅されて黙る羽目になったベルはほとぼりが冷めた頃に謝罪行脚をしようと決めたところで森が開けた場所に出た。

 森の狭間にあった泉の中心でクリスタルの光を浴びる金髪のエルフがベルに背中を向ける形で水浴びをしていた。

 

(妖精が水浴びしてる? 僕は何時の間にお伽噺の中に迷い込んでしまったんだろう――)

 

 荘厳な光景にベルが現実感を失っていると、接近に気づいたエルフが振り返る。

 

「何者だっ!?」

 

 鋭い一声と共にエルフが一人で入浴する為に護身用に持っていた白刃が煌めき、鼻目掛けて飛んできたのをベルは咄嗟に顔を傾けて避ける。

 完全には避け切れずに頬に一筋の赤い線が走ったが、その程度の傷は些事に過ぎなかった。放たれた小太刀はベルの顔の後ろにあった大樹の幹を貫き、その向こうの大樹に刃部分が完全に突き刺さっていた。

 

(よ、避けなかったら死んでいた)

 

 仮にベルの耐久力が大樹の幹以上だとしても、あの威力では顔面に突き刺さるのは確実で、その場合は確実に死んでいただろう。

 回避出来なかった末路を想像してベルの顔色が真っ青になっている間に、小太刀を投げた直後に泉の中心から自身の荷物がある場所まで飛んで即座にケープで裸身を隠しつつ、大聖樹の枝を素材にした木刀『アルヴス・ルミナ』を持ったエルフも下手人の顔を確認していた。

 

「ベルさん?」

「りゅ、リューさん……!?」

 

 接近した強者の気配に過激な行動を取ってしまったリュー・リオンはベルを見て怪訝そうに眉を顰めた。

 

「弁明を聞きましょう。内容によっては――」

「ひっ、ひぃ、誤解なんです……!」

 

 凄むリューにベルは即座に五体投地して全面降伏し、洗いざらい事情を話した。

 

「――――――成程、神ヘルメスの主導した覗きから逃げてきて、ここに来てしまったと」

「は、はい……」

 

 リューが戦闘衣を纏う間も事情を説明したベルの頭は地面につけたまま。

 

「事情は分かりました。もう頭を上げて下さい。貴方に非はない」

 

 近寄って頭を上げるのを待っていたリューは恥じ入るように小さく自らの体を抱く。

 

「貴方を知らずに殺しかけるほど、私は恥知らずで横暴なエルフです。見苦しい物を見せてしまって申し訳ありません」

「い、いえ、見苦しいなんてとんでもない! とても幻想的で、物語の一幕みたいに綺麗でした!」

 

 立ち上がったベルの手が伸びて、リューの華奢な肩をガシッと掴んで情欲など欠片もないキラキラとした眩い目を向ける。

 

「べ、ベルさん、その、困ります…………そう言うことは、私ではなくシルにしてもらわなくては……」

 

 褒められたリューは彼女らしくないほど狼狽して目を逸らす。

 

「どうしてそこでシルさんが出てくるんですか? この気持ちはリューさんだからこそ生まれたものなのに」

 

 シルの名前が出てくる理由が分からず首を傾げるベルにリューは激しい頭痛を覚えそうだった。

 

(……本当にこの人はっ!)

 

 意図したものならベルが恥じらったり照れたりするレベルの言葉だと知っているからこそ、先程のが彼の素の言葉だと理解できてしまったリューは頭を振る。

 

「いや、その……ああ、もう! これ以上は聞きません!」

「あ、リューさん!? 何処に行くんですか、僕はまだ伝え足りません!」

 

 リューの予想外の反応にベルは呆気に取られたが、身を翻して逃げようとした彼女の手を掴む。

 他人に手を掴まれたら何時もならば嫌悪感が湧くか、認めた相手でなければ肌の接触を許さないエルフの習性が無意識に打ち払うはず。

 

「あ」

 

 なのに、出たのはどこにでもいるような小娘のような声だけだった。

 

「すいません、痛かったですか?」

「い、いえ。大丈夫です……」

 

 振り払わない自らの手を困惑するように見下ろすリューの視線を追って、ようやくベルも手を握ったままであることに気づいた。

 

「えっ? あ! 手、握ったまますみません!」

「あ、いえ……」

 

 ベルはリューの手を無意識に掴んだままでいたようで慌てて離した。その間もリューはベルの顔に目を向けられないでいる。

 

「リューさん、あの」

 

 離れた手を惜しむように見つめていたリューは、話しかけられて猛烈な羞恥心が心の奥から湧き上がってきて頭を下げる。

 

「ベルさん、この醜態のことは忘れてください。そしてこの事についてもどうか他言無用でお願いします……」

「わ、分かりましたから顔を上げてください」

「…………ありがとうございます」

 

 顔を上げたリューを見てベルはようやく気が付いた。彼女が顔を真っ赤に染めていることに。

 自分よりも年下の少女のような反応を見せるリューに、ベルは思わず口を滑らせてしまった。

 

「綺麗だって言いましたけど、今のリューさんはとっても可愛いですよ」

「っっっ!!」

 

 真っ赤な顔で口をパクパクと開いたり閉じたりしているリューは感情の振り幅が大きすぎるからか、涙目になっていた。

 

「――――何をしているのですか、ベル・クラネル」

 

 ベルの不運はたった一つ、アルスによってあっさりと同行していたベルの不在をゲロって捜索していたレフィーヤがタイミング悪く現れてしまったこと。

 涙目のエルフと、笑顔だったベル。

 たった今、この場に現れたレフィーヤに状況は分からない。しかし、この状況でたった一つの真実は明らかだった。

 

「え、あ、レフィーヤさん?」

「覗きに飽き足らず、私の同胞を泣かせるなんて……っ!」

 

 レフィーヤが持つ『森のティアードロップ』が迸る感情の向け先となって持ち手部分が軋みを上げる。

 

「アナタという人はぁあああああああああああああああああああッ!!」

「誤解なんですぅううううううううううううううううううううううううううッ!!」

 

 完全には誤解とはいえない誤解で、徐々に光量を減らしていくクリスタルの真下で二人の追いかけっこが始まった。

 

 

 

 

 






ヘルメスの台詞の一部は映画オリオンの矢で実際に言っていたものです。

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