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オラリオの東端にある巨大な闘技場施設に続く東のメインストリートは大勢の人でごった返していた。
一般人はもとより、この日はダンジョンに潜るのを止めて祭りを謳歌しようと軽装の冒険者達も祭りに参加し、数え切れない出店を冷やかしている。
「…………遅いですね」
「遅いね、神様。どうしたんだろう? シルさんを探しに行かないといけないんだけどな」
「シルという方も闘技場におられると思いますし、先に行った方がいいのでは? 随分と待たされていますよ」
「人の多さに迷ったのかな。だから、一緒に行こうって言ったのに」
先日の約束通り、ヘスティア・ファミリアのホームにまで来てもらったリリルカ・アーデと
ベル・クラネルとしては事前に多くの人が集まると聞いていたので共に行くことを求めたのだが、「デートの気分を味わいたい」と固辞したヘスティアだけ現地集合と相なった。
「…………リリも女なので気持ちは分からなくはないですが、待たされる側としては文句の一つも言いたくなるのです」
「ごめんね、リリ。アルス、ちょっとそこでクレープ買ってきて。うん、三つね。はい、お金」
ガッテンダ、とばかりに良い笑顔を浮かべたアルス・クラネルが親指を立て、先程から良い匂いをさせていたクレープ店に向かって人ごみをスルスルとすり抜けて向かった。
「埋め合わせはして頂けるのであれば、リリとしては何も言うことはないです」
スルスルと戻ってきたアルスからクレープを受け取ったリリルカは、ホクホク顔で白いクリームの詰まった焼き菓子を食べ始めた。
「おーい、みんな!」
「神様?」
どこからかヘスティアの声が聞こえたが、辺りを見渡しても人人人……で、姿は見えない。
「こっちだよぉーっ!」
人ごみを掻き分けて、時に体の小ささもあって人の流れに飲まれたりして、揉みくちゃにされながらヘスティアが駆け寄ってきた。
「お待たせ――――って、僕がいなかったのに何を食べてるんだ君達はっ!?」
「神様が遅いからですよ……」
「僕も食べたい!」
「じゃあ、僕のをどうぞ。まだ手を付けていませんので」
「む、そこは食べさせ合うところだろ!」
「知りませんよぉ…………いらないんですか?」
「いる!」
予定が全部パーだ、とモソモソとベルから受け取ったクレープを食べ始めたヘスティア。
半分ほど食べたところで、残っているクレープをベルへと差し出した。
「さあ、ベル君も食べるんだ!」
「神様、一体何をっ!?」
「神が
「っ!?」
ベルはヘスティアの食べ痕が残っているクレープを見下ろして固まる。
食べさしのクレープを差し出すヘスティア(ちょっと鼻息が荒い)と、固まっているベル(無礼を働く申し訳なさと照れ臭さに顔が真っ赤)の二人の様子を、クレープを食べながらリリルカとアルスは見ていた。
「私たちは一体、何を見させられているのでしょうか? え、なんですかアルス様…………はぁ、なるほど分かりました」
クレープを食べ終えたアルスの耳打ちにリリルカは頷いた。
「ヘスティア様、ベル様は甘いものが苦手だそうですよ」
「え、そうなのかい?」
「はい、実はそうなんです……」
申し訳なさそうなベルに事実と悟り、ヘスティアはクレープを下げた。
「小さい頃、行商人からアルスが有り金全部使って甘い物ばっかり買って、何日か食べ続ける羽目になってそれ以来苦手になってしまって」
ヘスティアの下げたクレープを狙っていたアルスは視線を向けられ、少し罰が悪くなったようで顔を逸らした。
「そっか……でも、ジャガ丸くんなら大丈夫だもんね。ジャガ丸くんを買って食べさせておくれ!」
「懲りませんね、この女神様は…………リリは奢って頂けるならなんでもいいのですが」
「ま、待って下さい神様!? 僕、実はお使いを頼まれているんです!」
「そうなのかい?」
あーんに執着していたヘスティアも、流石に頼まれごとをしているベルを引っ張っていくのはよくないと自制した。
「はい、ここに来る前に豊穣の女主人を通りかかった時に、祭りを見に行ったシルさんが財布を忘れたので届けてほしいと頼まれまして」
「途中で財布を忘れたことに気づいて、行き違いになったりしそうじゃないか?」
「一応、そうならないように気をつけてはいましたけど。アルスに外周部を見てもらって、環境整備をしていたエイナさんも見ていないそうですし」
「エイナってベル君達のアドバイザー…………ああ、
「闘技場に入るには入場料を取るので、流石にもう気づいて戻ったかもしれません」
ベル達が財布を持っていくように頼まれたのは、すぐに向かえば追いつけるからということだったので、ヘスティアをそこそこ待っていたのでリリルカが言うようにシルが闘技場に入る際に財布を忘れたことに気づいた可能性は高い。
そうこう話している間に祭りの開始が近くなってきたみたいで、ストリートの人はだいぶまばらになってきた。
「一度戻ったのなら私たちが財布を持っていることは聞いているでしょうし、再度の行き違いにならないようにここで待ちますか?」
「うーん、どうしようか……」
闘技場の入り口が一つだけならそこで待てばいいのだが、何か所か出入口があるのでベルは即断出来ず悩んだ。
と、ジャリとアルスが鳴らした石畳の砂利を擦った靴音に、意識が向いたベルの耳に微かな声が聞こえた。
「悲鳴?」
ベルの呟きを重ねるように、通りの向こうから複数人の大音声が響いた。
「モンスターだぁあああっ!!」「に、逃げろぉおおおっ!!」「いやぁああああああっ!!」
闘技場方面の通りの奥から聞こえた声に、アルスが一目散に駆け出し、一拍遅れてベルが続く。
厄介事に慣れたオラリオの人達が逃げる間を縫い、ステータスの差もあってみるみる離されていくアルスの背中を追っていると、その向こう側で光が瞬いた。
「ワンワンワンッ!!」
「ヒャヒャヒャヒャッッ!」
そこそこいた人達が蜘蛛の子を散らすように瞬く間にいなくなった後に残っていたのは、荷車に繋がれたまま暴れ狂う
「あれは、インプ?」
5、6階層に現れる小悪魔型のモンスター。
この前の豊穣の女主人での宴以来、どこに行くにも完全武装をしているアルスも同じなのか、背中の「どうの大剣」の柄を持ったまま抜いていない。
「はぁはぁ……い、いいえ、あれは
「ぜぇぜぇぜぇぜぇ…………い、いたずら、ぜぇぜぇ…………デビル?」
遅れて息を乱したリリルカが到着し、最後に大きく遅れてヘスティアが今にも心臓が口から飛び出そうな様相で到着した。
「5階層に出現するインプの強化種です。モンスターを別の生物に一時的に変化させる怪光線を放ち見栄えがいいので、毎年の
笑う『いたずらデビル』の首には首輪と途中で切れている鎖が胸にぶらりと垂れ下がっている。
「あれって荷車だよね。もしかして馬を犬に?」
「恐らく」
荷車に繋がれたまま暴れ狂う『
ビタリ、とその目が荒れた息を整えようと膝に手をついている女神で視線を止めた。
「ヒャーッ!」
「――メラ!」
――――――――――いたずらデビルは 怪光線を はなった!
――――――――――アルスは メラを となえた!
――――――――――怪光線と メラは 相殺された!
頭の二つの触覚からヘスティアに向かって怪光線が放たれたが、射線に入ったアルスのメラが相殺する。
「アイツ、神様を――っ!」
主神を襲われて激発しかけたベルはアルスが『どうの大剣』を抜き放ったのを見て、思考を戦闘に切り替えて自分も剣帯から『ブロンズナイフ』を取った。
「ヒャヒャーッ!!」
アルス達を邪魔者と見た『いたずらデビル』が一気呵成に距離を詰めてきた。
――――――――――いたずらデビルが あらわれた!
「はっ!」
――――――――――アルスの こうげき!
――――――――――いたずらデビルに ダメージ!
『どうの大剣』による薙ぎ払いを受けたにも関わらず、『いたずらデビル』に大きなダメージを負った様子はない。
精々が若干打たれた部分を痛そうに抑えている程度で、今の強さになってからほぼ全てのモンスターを一撃で仕留めてきただけにベルは驚きで目を見張った。
「気を付けてください! 上層に現れるモンスターも強化種となれば、中層レベルの強さを得ている可能性があります!」
リリルカの注意喚起の声に気を引かれた様子の『いたずらデビル』に、ベルが素早く踏み込む。
「やっ!」
――――――――――ベルの こうげき!
――――――――――いたずらデビルに ダメージ!
隙をついたにも関わらず『ブロンズナイフ』での斬りつけは『いたずらデビル』に大きなダメージを与えることは出来ていない。
寧ろ怒らせたようで、標的をアルスとベルに切り替えて右手の人差し指を向けた。
「ヒャヒャッ!」
――――――――――いたずらデビルは ギラを となえた!
――――――――――アルスに ダメージ!
――――――――――ベルに ダメージ!
「二人ともっ!?」
『いたずらデビル』より放たれた閃光がクラネル兄弟を襲い、ヘスティアの目には二人の無事は確認できないほどに巻き上がった砂埃が姿を隠す。
「はっ!」
――――――――――アルスの こうげき!
――――――――――いたずらデビルに ダメージ!
「かえん斬り!」
――――――――――ベルの こうげき!
――――――――――いたずらデビルに ダメージ!
「ビャッ!?」
砂埃を目くらましに近づいたアルスと、武器をより攻撃力の高い『せいどうの剣』に切り替えたベルのかえん斬りを連続で受けて、流石に『いたずらデビル』も負ったダメージが大きくフラついた。
「畳み掛ける!」
絶好の好機と見たベルが踏み込もうとした。
「アビャッ!」
――――――――――いたずらデビルは ホイミを となえた!
――――――――――いたずらデビルの キズが 回復した!
「いっ!?」
自らの傷を治癒魔法で癒した『いたずらデビル』が崩れた姿勢を瞬く間に整えたことで、逆にベルが隙を晒すことになった。
――――――――――ベルの こうげき!
――――――――――カウンター!
――――――――――いたずらデビルの こうげき!
――――――――――ベルに ダメージ!
「うわっ!?」
振るわれた爪を受け止めた『せいどうの剣』ごと弾き飛ばされたベルは石畳を転がりながら跳ね起きるが、先程の攻撃魔法のダメージも合わさって負傷度合いはかなり大きくガクリと片膝をついてしまう。
「メラ」
――――――――――アルスは メラを となえた!
――――――――――いたずらデビルは ひらりと みをかわした!
ベルへの追撃はアルスが魔法を放って邪魔をしたことで、『いたずらデビル』もダメージを負うのを嫌って回避を選択してバックステップで躱した。
二人と一体の距離がまた開き、戦闘の場に一呼吸する間が生まれた。
「ホイミ」
――――――――――アルスは ホイミを となえた!
――――――――――ベルの キズが 回復した!
アルスが放った治癒魔法の光がベルの体を覆い、閃光魔法によって焼かれた皮膚やカウンターによって負った裂傷が瞬く間に癒えていく。
「ありがとう、助かった」
傷を負う前の全開状態になった体にホッと息を吐いて立ち上がったのも束の間、未だ戦意を隠そうともしない『いたずらデビル』を油断のない眼差しで見据える。
「…………避難は順調。だけど、救援の冒険者が来る気配がない。モンスターが脱走したのはこいつだけじゃないのか?」
残っているのはアルス達が戦っているから心配したヘスティアと、付き合いもあって彼女に付き添う形となってしまったリリルカの二人だけ。その二人にしても近くの建物の影に隠れてこちらを窺っているだけで、良くも悪くも荒事に慣れているオラリオの市民達は見える範囲から姿を消していた。
それだけの時間がありながらも、いい加減に騒動を聞きつけた他の冒険者か、最低でも
「ここで、僕達が倒すしかない」
モンスターを街中に放置することはできない。
いくら
「タイミングを合わせて仕掛けよう――――シャドウアタックだ」
コクリ、と頷いたアルスが『どうの大剣』を『いたずらデビル』に向かって投げた。
「ヒャヒャッ!」
横回転しながら飛んでくる『どうの大剣』を見た『いたずらデビル』は、最も強い敵が自ら武器を手放したことを嘲笑う。
――――――――――いたずらデビルは ひらりと みをかわした!
「ヒャッ!?」
しかし、『どうの大剣』を投げた後、ベルから『せいどうの剣』を受け取ったアルスが目の前に同じ高さに跳んで振りかぶっていた。
「はっ!」
「やっ!」
上から叩き落とすような斬撃が『いたずらデビル』を切り裂き、その無防備な背後へと回り込んだベルが振り返りざまに『ブロンズナイフ』を切り上げた。
「ビャッ!?」
――――――――――いたずらデビルに 大きなダメージ!
――――――――――いたずらデビルを たおした!
――――――――――アルスたちは 102ポイントの経験値を かくとく!
――――――――――いたずらデビルは 魔石を 落としていった!
断末魔の叫びと魔石を残して消えていく『いたずらデビル』を確認し、ベルはアルスが投げて石畳に転がっていた『どうの大剣』を拾う。
「やったね、二人とも!」
「凄いです。中層のモンスターをLv.1の冒険者が倒すなんて」
モンスターの消滅を確認したヘスティアとリリルカ、が隠れていた建物の影から出てきて二人の元へと駆け寄ってきた。
「結構、ボロボロですけど」
「ホイミ」
「ありがとう、アルス」
興奮した二人に対応していたベルにアルスが治癒呪文をかけてもらい、傷も癒えたことで固まっていた肩の筋肉から力が抜けて緊張感が解けた。
突如として日陰に入ったかのように暗くなったと思うよりも早く、アルスがベルから受け取った『どうの大剣』を振り上げていた。
「ギアァッ!!」
アルスが巻き起こした風を切り裂くように空から現れる
――――――――――イビルビーストたちは こちらが みがまえるまえに おそいかかってきた!
いたずらデビルは、DQ11に登場する最初のボスモンスター。
そしてイビルビーストは、DQ11に登場する次のボスモンスター。
連続ボス登場、連戦となります。