ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第70話 見ざる聞かざる言わざる知らぬ存ぜぬ!

 

 

 

 

 まだ日も開けたばかりの時間にアルテミスの『冒険者依頼(クエスト)』でオラリオの遥か離れた大陸の果て大樹海の秘境に存在する『エルソスの遺跡』に向かったベル・クラネル、リリルカ・アーデ、カサンドラ・イリオンと主神のヘスティア。

 離脱組を見送った後の昼頃、大半の冒険者は未だダンジョンに潜っている時間帯にヘスティアファミリア残存組三人がギルドから出てきた。

 

「まさか一ヶ月足らずで13階層が物足らなくなるとは思わなかった」

「Lv.4にもなれば当然そうなるよ」

 

 暴れたりないとばかりに『まほうのよろい』に覆われた肩を回すヴェルフ・クロッゾに、Lv.は下ながらもランクアップ目前のダフネ・ラウロスは内心で同意する。

 

「下層とまではいかなくても、アルスがLv.5なんだから安全階層である18階層までぐらいなら行っても大丈夫じゃないか?」

 

 ヴェルフは二人の前を歩く自分と同じ全身鎧を装備しているアルス・クラネルがフラフラと通りの露店を覗くのを眺めながら提案する。

 

「リリルカとの取り決めで14階層の海エリアが危険すぎるから、このメンバーだけならば進んでも13階層までって言ったでしょ」

 

 10日間はオラリオを離れる団長・副団長の二人と相談し、以前に14階層の海エリアで『怪物の宴(モンスター・パーティー)』の経験から人数的に安全な階層は13階層までと決めていた。

 

「確かに前の頃よりも俺達も強くなってるが、この面子だと火力に欠けるもんな」

「正直、そこら辺もアルスがいるからなんとかなるかもしれないけど、進んで面倒な事態になるのもの考え物だしね」

 

 特に最大火力のリリルカがいない点を重視しつつも、Lv.が上がったアルスならば十分にカバー出来ると思いながらも、ダフネは危険な橋を望んで渡るような気質ではない。ヴェルフもダフネと同様の意見なので反論はない。

 

「みんなが帰ってくる二週間前後の間は小遣い稼ぎと休暇と思って過ごしたらいいんじゃない」

「だな。毎日ダンジョンに潜って戦わせてたらアルスも満足するし、昼前には帰って来れるから自由時間も多い。俺は大体、『竈火の館(ホーム)』で鍛冶に勤しむつもりだけど二人はどうするんだ?」

「ウチは普通にダラけるかな。後はブラブラと買い物でもするか。アルスは?」

 

→この機会に、ダイダロス通りを探検してくる

  この機会に、『大賭博場区域(カジノ・エリア)』に忍び込む

 

「物好きだな、おい」

 

 ダイダロス通りとはオラリオ内にある度重なる区画整理で秩序が狂った広域住宅街で、一度迷い込んだら最後、二度と出てこられないとまで言われている場所を好き好んで探検しようとしているアルスに呆れるヴェルフ。

 アルスの場合、迷子になっても天井の無い場所なら『瞬間移動魔法(ルーラ)』が使えるので帰還の心配はなかった。

 

「まあ、一人でダンジョンに潜るよりかは安心できるからなんもいいや。良い時間だし、どこかで昼食を取る?」

 

→豊穣の女主人で

  火鉢亭で

 

「あそこはちょっと高くないか?」

 

 味は抜群ながらも、アポロンファミリアの『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』の祝勝記念の3割引きで周辺の酒場と同じぐらいの値段設定の豊穣の女主人を思い出し、アルスの希望にヴェルフは渋い顔になった。

 

「昼間は一般人向けのメニューと金額らしいからそうでもないよ」

「そうなのかって、話してる間に目の前じゃねぇか」

「タイミングも良いし、ここにしようか」

 

 歩いている間に北西のメインストリートから北のメインストリートに移り、周辺の建物よりも立派な三階建ての豊穣の女主人が見えていたのでダフネは即決した。

 率先して店に入って行こうとするアルスに、仕方ねぇなと兄貴風を吹かせたヴェルフも続き、クスクスと笑うダフネの三人が開かれている店の入り口を通って店内に入った。

 夕刻以降と違って冒険者が殆どいない所為か店内は和やかな空気が流れていてヴェルフは感心したのか、「ほー」と声を出していた。

 

「いらっしゃいませー! あ、アルスさん達じゃないですか」

 

 店内をパタパタと走り回っていたシル・フローヴァが三人に気づいて駆け寄ってくる。

 先頭のアルスの前までやってきて、何時もは全員勢揃いで来るのにいる人がいないことに首を傾げた。

 

「ベルさんはいないんですか?」

「ちょっと別用でね。席は空いてる?」

「大丈夫ですよ。お客様3名様入りまーす!」

 

 シルに空いている席に案内され、それぞれが椅子に座ったところでヴェルフが店内を見渡す。

 

「本当に夜とは客層が違うんだな。なんか忙しそうなのはその所為か?」

 

 冒険者もいないではないが比率的には一般人の方が多い。ウエイトレスであるシルやアーニャ・フローメルの二人が店内をパタパタと動き回っているので目についた。

 

「ウエイトレスが少ないからじゃない? リューやクロエともう一人がいないし」

「あ、そうだな。どうかしたのかね」

 

 リュー・リオン、クロエ・ロロ、ルノア・ファウストの三人の姿が見えず、客層に関係なくウエイトレスが少ないから忙しそうなのだと分かったヴェルフが思ったことを口にした言葉を、偶々近くを通ったアーニャが耳にしてしまった。

 

「何を呑気に…………ミャー達が忙しいのはお前らの所為ニャ!」

「ちょっとアーニャ……」

 

 今にも持っているお盆を投げそうな雰囲気で指差すアーニャを宥めるシル。

 

「ウチらの所為って、心当たりがないんだけど」

 

 思い当たることがなく首を傾げるダフネに、アーニャはしらばっくれるなとばかりに怒りを顕わにする。

 

「リューは中層から帰ってきたら直ぐにどっかに行くし、クロエもメレンから帰って来てからルノアと一緒に母ちゃんに休みを頼み込んでどっかに行って帰って来ないニャ! これでも関係なんて言わせないニャ!」

 

→ふっふっふっ、バレたのなら仕方ない。そう、真犯人はそこにシルだ!

  いや、知らんがな

 

「やりたくてやったんではないんです。ヴェルフさんに脅されて仕方なく……」

 

 アルスに指差しをされたシルは目元をハンカチで覆いながらヴェルフを指差す。

 

「ニャ、ニャんだって!?」

 

 二転三転する真実にアーニャが驚いているのを見ながら、真犯人のたらい回しをされたヴェルフは考え込むように腕を組む。

 

「なんつう風評被害。つうか、この寸劇に俺も付き合った方がいいのか?」

「何を食べようかな……」

 

 アルスとシルの芝居に参加すべきかと悩むヴェルフに問いを向けられたダフネは巻き込まれるのが嫌でメニュー表を見ていた。

 

「はっ!? 騙されるとこだったニャ! しらばっくれても無駄ニャ! ミャーは全て丸っとお見通しニャ!」

 

 アルスとシルの二人がニヨニヨとしているのを見て、まんまと騙されたと確信したアーニャが何故かヴェルフを指差しながら告げる。

 

「ダフネ、頼むから突っ込んでくれ。話が何一つ進まん」

「えー」

「本当に頼む」

 

 ヴェルフの割と本気の懇願に、折れたダフネは事態の進行に嫌々ながら務めることにした。

 

「はあ、で、3人がウチらと関わった後にどこかに行ったって話だっけ?」

 

 本当に嫌そうながらも仲間の救援に応え、話の進行を促したダフネにアーニャは我が意を得たりとばかりに頷く。

 

「そうニャ! 知っていることを吐くニャ!」

「ウチらに聞くよりもそっち(シル)に聞いたら? 絶対に知ってるでしょ」

「そうニャ?」

 

 アーニャがシルに話を振ると、先程までの演技モードから何時もの状態に戻った彼女は大きく頷いた。

 

「えっと、リューはヘルメス様の依頼で、クロエとルノアは自分達の偽物がいるって噂を確かめる為にお母さんに休みを貰ったんだよ」

「ヘルメス様の依頼って、もしかしてアルテミス様関係か?」

 

 直近でヘスティアファミリアはヘルメス経由でアルテミスから『冒険者依頼(クエスト)』を受けたばかりなのでリューも同じ依頼を受けたのかと想起するのは自然の帰結だった。

 

「さあ、詳しいことまでは…………ベルさんがいないのはそのアルテミス様に関係があるんですか?」

「ウチら以外の面々で『冒険者依頼(クエスト)』で都市外に行ってるよ。しかし、偽物か。クロエが聞いたっていう噂ってニョルズ様から聞いたのかもしれないね。ニョルズ様と何か話したら直ぐに帰っちゃったし」

 

 先日のオラリオ近郊にある港町メレンに慰安旅行に行った際、道案内役として便乗して同行したクロエは漁業系ファミリアの主神であるニョルズと会った後にオラリオに戻っている。メレンから戻って直ぐに休みを頼み込んだというのならばニョルズとの会話で自分達の偽物がいるという噂を聞いたと考えられた。

 リューがいないのもヘルメスの依頼ならば、三人が働けない理由にヘスティアファミリアは多少の関わりがあっても原因とはとても言えない。

 

「…………もしかして、ミャーの早とちりニャ?」

「もしかしなくても早とちりだよ」

 

 冷静にシルが返すと、アーニャは顔を赤くしてプルプルと震えだした。

 ヴェルフは申し訳なくも笑いを堪えるのに必死になっていたが、二人の目があるので必死に堪えていた。

 

「ご、ごめんニャ!」

 

 アーニャが深々と頭を下げて謝罪すると彼女の猫人(キャットピープル)としての耳も萎れるように垂れており、アルスが触りたそうにウズウズとしている。

 

「別にいいけどさ。三人も抜けたら大変だろうに何時までもここにいていいの?」

 

 ここでアルスに手を出されると面倒この上ないので、ダフネは問題が解決したのならばさっさと仕事に戻るべきではないだろうかと提案する。実際、厨房の方で先程から女主人であるミア・グランドから発せられる圧が増している。爆発は時間の問題でしかない。

 

「マズいニャ!」

 

 慌てて仕事に戻ったアーニャだったが、一連の騒動の原因だからかミアに物凄く痛そうな拳骨を貰って呻いている。

 

「誰か手伝ってくれませんかね?」

 

 シルも仕事に戻る前にチラチラと言いながらアルスを見る。

 手伝いを求められたアルスの脳裏に二つの選択肢が浮かび上がる。

 

→ここは俺達の女装の出番だぞ、ヴェルフ

  やってみせろよ、ダフネ

 

「死んでも御免だ」

 

 まさかの提案をされて一瞬でもウエイトレス姿の自分を想像でもしたのか、吐き捨てるように言ったヴェルフとアルスの会話をシルも〆る為にやってきたミアも聞いていて顔を顰める。

 

「うちを変な店にしないでおくれ。そういう趣味があるならそっちに行きな」

「あ、お母さん……」

「シル、いい加減に注文を取りな。アンタらも飯を食う気がないなら帰るんだね」

「食べるって、もうウチが選ぶよ?」

「任せる」

 

 ダフネが値段とボリュームを見ながらパッパッと料理を選び、シルに注文する。

 昼食を食べに来たのに注文すらしていない状況は終わり、シルとミアもそれぞれ仕事に戻って三人だけの場になったところでヴェルフはクロエとルノアの二人がいない理由を気にしていた。

 

「しかし、偽物か。穏やかな話じゃないぞ」

 

 ヴェルフでも自分の偽物を名乗る者がいたら心中穏やかではいられなくなる。休みを取ってでも噂の真贋を確かめるかどうかはその時にならなければ分からないが、好ましい事態で無いことは間違いない。

 

「有名冒険者なら良くある話だけど、まさかあの二人を騙るなんて勇気のあることで」

 

 ダフネも二人が相当の手練れであることは分かるが敢えて正体を探るようなことはしなかった。何らかの事情があって豊穣の女主人で働いているであろうことは想像に難くなく、どんな裏があるのか分からないのだから自分から詮索して藪から蛇を出すような真似はしない。

 

「だな。今でもあの二人に狙われたら生きた心地しないぞ、俺は。今更、ここを魔境って言ったアルスの気持ちが良く分かるなんて――」

「――――いた! いました、タケミカヅチ様!」

 

 ヴェルフがそう口にした直後、聞き覚えのある声が入り口の方から聞こえた。

 入り口に背を向ける席に座っていたアルスが振り返るのと、声の主たちが店内に入ってくるのは同時だった。

 

「おお、ヘスティアの子達! 探したぞ!」

 

 入ってきたのはヴェルフを超える身長と体格を持った大男と、前者と比べれば華奢とも言える男が店内にいるアルス達を見つけて破顔する。

 

「タケミカヅチ様と大男?」

 

 ヘスティアの神友であるという神タケミカヅチとその眷属であるカシマ・桜花の二人が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「無礼を承知で頼む! 命と千草を助けてくれ!」

「ご注文の品でーす。追加の注文の受け付けてますよー」

 

 その勢いのまま滑り込むように床で深々と土下座をした桜花の横から料理を持ってきたシルが全く気にせずにテーブルに並べながら聞く。

 桜花が土下座をしているのに気にしていないシルの動じなさに呆れるやら感心するやら、表情の選択に困っているヴェルフが小さく手を振る。

 

「追加はいい。取り敢えず話は飯を食べながらでもいいか?」

 

 まあ座れよと、ヴェルフが追加注文を断りながら近くの空いている椅子を引き寄せつつのヴェルフの発言に、桜花がバッと土下座の姿勢のまま顔を上げる。

 

「こちらは急ぎ――」

「桜花、こちらは頼む立場にある。礼を逸してはならん」

「…………はい」

 

 激発しかけて腰を上げた桜花の肩をタケミカヅチが抑える。

 タケミカヅチによって頭を冷やされたのか桜花が大人しく席に座ったのを確認してからダフネが口を開く。

 

「で、二人を助けてほしいって話だけど何があったの?」

 

 アルスは気にせずに食べるだろうからヴェルフはああ言ったが、重要そうな話なのでヴェルフとダフネは食事には手を付けずに用件を尋ねる。

 

「行方不明の知り合いが『大賭博場区域(カジノ・エリア)』にいるという情報があって向かった二人が一晩経っても戻ってこない」

「ちょっと待って。『大賭博場区域(カジノ・エリア)』は金持ちじゃないと入ることすら出来ない場所。まさか忍び込もうとしたんじゃないでしょうね」

 

 『大賭博場区域(カジノ・エリア)』は過去、世界の中心としまで言われるようになったオラリオの欠けていた娯楽施設を求めた当時の神々の要望に応える形でギルドは名だたる各国と大都市の協力を誘致し、繁華街に築かれた内の一つ。

 出資した各国と都市を上回るほどの目まぐるしい発展を遂げ、今やギルドでさえ蔑ろに出来ない経緯もあり、あくまで運営を主導するのは外資を投資した他国の施設側である。それ故、オラリオの中で唯一治外法権と比喩されることもある。

 この『大賭博場区域(カジノ・エリア)』に足を運ぶ、特に都市外の大富豪に何かがあればオラリオの威信と風評に関わることから認められた者以外は入ることすら許されない。

 

「以前にどこかの強盗団(ファミリア)が失敗して警備が厳重になっていると聞いていたから、流石に俺達もそこまで馬鹿じゃない。運良くウエイトレス兼用心棒の募集が無ければ俺達も行動のしようがなかったんだが……」

「いやいや、情報と依頼のタイミングが良過ぎて怪し過ぎるだろ」

 

 情報が届いたタイミングで都合良く中に入れる理由が用意されるなど、作為を感じずにはいられない状況にヴェルフがツッコミを入れる。

 

「不用意とは分かっていた。だが、命には真偽を確かめずにはいられない事情があった」

 

 この様子からして桜花は止める側だっただろうことは予測がつき、中層で一件で仲間の安全が確保できれば危険な場所に一人で戻ったヤマト・命の猪突猛進的な性格を知るだけにダフネは擁護の言葉を持てない。

 

「危険と分かっていて、ノコノコと行って捕まりでもしたって? 馬鹿のやることじゃん」

「言い訳のつもりはないが、命だけで行かせたのではなく千草も同行して安全を図ったが、結果がこれでは何も言えん」

 

 沈痛な面持ちの桜花は命を止めても何時かは暴発することは目に見えていたのでストッパーとしてヒタチ・千草を同行させたが、結果的に二人とも帰って来ないという事態を招いてしまったことに深い悔恨を滲ませている。

 

「最初から目的は命と千草の二人ってことか。依頼主の方は?」

「二人は来ていない、自分達は何も知らないの一点張りだ。無礼を承知で頼む! 二人を助けるのに協力してほしい!」

 

 テーブルに手をついて頭をぶつけそうなぐらい下げる桜花にヴェルフは困ったように赤毛の頭を掻く。

 

「俺達よりもギルドやガネーシャファミリアに頼んだらどうだ?」

「頼みに行ったが、ギルドは『大賭博場区域(カジノ・エリア)』には消極的だ。調査をするとは言ってくれたが、どれだけ踏み込めるか」

「騒動になったら外交問題に発展するからね。踏み込めない気持ちは良く分かるよ」

 

 『大賭博場区域(カジノ・エリア)』はギルドに協力を取り付け、ガネーシャファミリアの守衛を施設に張り巡らせている。明確な証拠があるならば別だが、立場的に疑いの段階では強権を振るうことは出来ないだろうとダフネは推測する。

 頼りたい相手が頼りにならない状況なのだから藁にも縋る気持ちで知己であるヘスティアを頼ろうとしたのだろう。

 

「命とは知らない仲ではないから出来るなら助けてやりたいが、『大賭博場区域(カジノ・エリア)』はな……」

「あそこはオラリオにありながら治外法権みたいな場所だからね」

「なんとかならないか? 俺達が用意できる最大限の報酬は用意した」

 

 そう言ってタケミカヅチが背中に背負っていた大剣を手に持ち、鞘から刀身を少しだけ見せる。『斬夜の太刀』と銘打たれている極東式の真っ黒な刀身をした両手剣を見たヴェルフは右目を眇める。

 

「…………極東の大太刀か。売れば60万ヴァリス。買えば120万ヴァリスってところだな」

「この前、ロキファミリアに貰った『大獄剣』とどっちが上?」

「『大獄剣』の方が圧倒的に上だ」

「ふむ……どうする、アルス?」

 

→暇だし、いいんじゃね?

  欲しい!

 

 武器の性能という観点で報酬に対する魅力を感じなかったダフネはアルスに選択権を委ねると、悲壮とも言える決意で頼みに来たであろう桜花と比べて軽かった。どうしようもないほどに軽い。

 実際、ベル達が戻るまでの10日間と少しの間は確実に空いているから暇だというのも事実。

 

「アルスもこう言ってるし、知らない仲でもないしな」

「助けるって確約は出来ないけど出来る限りならいいか」

 

 ただでさえ急成長して味方が少ないのだから友好的でいてくれるファミリアには優しくしておこうという、ダフネの隠れた思惑も知らずに捜索依頼を受けてくれると分かったタケミカヅチは肩に入っていた力を抜いた。

 

「ありがとう。受け取ってくれ」

 

――――――――――アルスは 『斬夜の太刀』を 手に入れた!

 

 『斬夜の太刀』を受け取ってうひょーと喜ぶアルスを尻目に、感極まったのか桜花が深々と頭を下げる。

 

「すまん、恩に着る。この借り続けている借りは何時か必ず返す」

 

 一件落着ではないが上手い落としどころに話が着地したところでパチパチと店内に拍手の嵐が起こった。

 土下座なんて目立つ行為や、オラリオでは大して珍しくないとはいっても男神がいるのだから注目されないはずがない。具体的な内容までは聞き取れなかっただろうが、助けを求めた男神側の願いをヘスティアファミリアが受け入れたことぐらいは分かったのだろう。

 似たような事件が毎日のように溢れている弱者にはどこまで優しくないことを知るオラリオの住民だけに、一斉に店内の客達が拍手と歓声を沸き起こした。流石にこれにはタケミカヅチも桜花も困惑しているところで、この状況が面白くない者も店内にいた。

 

「いいよな、こっちは娘を攫われたってのに冒険者様は助けてくれる同業者がいて!」

 

 アルス達から少し離れた席の方から聞こえた怒声に、ヴェルフが首を巡らせる。

 

「あん?」

「娘が攫われたって、あっちも穏やかな話じゃないね」

 

 二人掛けのテーブルで向き合うヒューマンの、恐らく夫婦であろう中年二人の姿を目に入れる。

 どうにも今日は厄介事に巻き込まれる日だとダフネは嘆息したくなったが、ヘスティアファミリアに関わってから毎回似たようなものだと思い出して内心で凹んだ。

 

「このおっちゃんが賭博で娘を掛け金にして奪われた馬鹿野郎なだけニャ」

「アーニャ、言い方」

「本当のことニャ」

 

 シルが仕方ないなとばかりの表情を浮かべている。

 どうやらアルス達がタケミカヅチファミリアの問題の話をしている間に、アーニャとシルの方でも中年夫婦の話を聞いていたらしい。

 

「仕方なかったんだ……じゃなきゃ俺だって好き好んで自慢の娘を賭けるもんか!」

「何が仕方ないもんか! 元はと言えばあんたが火遊びをしていたのがいけないんじゃないか! ああ、あんな可愛い娘、きっと今に歓楽街に売られちゃう。あの子が何をしたっていうんだ!」

 

 亜麻色の髪を後頭部で束ねた女性が両手で顔を覆い、おいおいと泣き出してしまった。それを見た男は罰が悪そうに俯いている。

 

「アルスさん、どうにか出来ませんか?」

 

 声を上げて泣き崩れる女を哀れに思ったのか、傍に寄ってきたシルがアルスに小声で頼む。

 

→全て俺に任せろ! 全員助けてやる! 調べるのは任せた、ダフネ

  見ざる聞かざる言わざる知らぬ存ぜぬ!

 

「請け負っておいて人に投げるんかい」

 

 重く頷いてからの人頼みのアルスにツッコミを入れざるをえなかったダフネ。

 

「まあ、アルスらしいだろ」

「そうだけどさ。はあ、『最大賭博場(グラン・カジノ)』と合わせて調べるとなるとアポロンファミリア時代の情報網はまだ使えるかね」

 

 ダフネはアポロンファミリア時代、外部の情報取得の為に独自の情報網を構築していた。ファミリアを移籍してからまだ二週間程度しか経っていないが、アルスは直感的に調査をするならばダフネに頼るのが良いと感じ取ったのだろう。

 状況的にもう断ると外聞が悪くなるので何とかするしかないダフネだった。

 

「うちの娘を、アンナを、助けてくれるのか?」

鉄砲玉(アルス)がやる気になってるから動きはするが、タケミカヅチファミリア(こっち)にも言ってるように必ず助けるって保証は出来ないぞ」

「そうそう、ついでで調べはするけど、言っとくけど無償で助ける気はないからね」

 

 見ず知らずの他人の救済をするのに見返りを求めないなどありえないと凄むダフネに、金があるならばそもそもガネーシャファミリアに非公式の『冒険者依頼(クエスト)』を出している夫婦は鼻白んだ。

 

「うちに冒険者様を満足させるようなお金は――」

「金に限らず価値のあるものならなんでもいいよ。最悪、そこの旦那が賭博を止めて一生働いて返してもらってもいいしね」

「い、一生……!?」

「大事な娘なら自分の一生を賭けるぐらいのことはしてみせな」

「わ、分かった……!」

 

 当然のダフネの要求に男は重く頷き、再度の歓喜の拍手が店内に響き渡った。

 

 

 

 

 






アルテミス編改め、ファミリアクロニクルepisodeリュー(肝心のリューはいませんが)開始です。


2024/12/29 斬夜の太刀』の売値と買値を一桁間違いに気づいて修正しました。
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