ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第71話 なにやってんの、ルノア?

 

 

 

 

 

 オラリオの南側に位置する繁華街の一角に存在する『大賭博場区域(カジノ・エリア)』は一般人の立ち入りを制限している。

 入り口には巨大なアーチ門があり、『大賭博場区域(カジノ・エリア)』に出資している諸外国や都市より派遣された人員やギルド職員、更にはガネーシャファミリア所属の警備員が行き来を審査している。

 財産家でもなければ審査を受けることすら出来ない巨大アーチ門で、四人のスーツを着た人物が正装姿のヒューマンと向かい合っていた。

 審査係であるヒューマンは財産家にはとても見えない四人の男達の一人から受け取った金色に輝く金属製の悪趣味なカードを確認し、本物であると認めて返却する。

 

「拝見致しました。モルド・ラトロー様、ガイル・インディア様、スコット・オールズ様、そしてご紹介のアルス・クラネル様。ようこそ、『大賭博場区域(カジノ・エリア)』へ。お客様に必ずや満足して頂ける遊戯を完備していますので、どうぞお楽しみ下さいませ」

「おう、ご苦労さん」

 

 上客にのみ発行される『大賭博場区域(カジノ・エリア)』を自由に出入りできる第一等級許可証(ゴールドカード)を受け取ったモルド・ラトローが答え、後ろの三人と共に巨大アーチ門を潜る。

 主に財産家が利用者なだけあって大半は馬車などでの移動が殆どを占めている。モルド達のように徒歩での入場は珍しく、彼ら以外の者はメインストリート沿いの重要施設の随所に配置されているギルド職員やガネーシャファミリアの構成員がいるのみ。だからこそ、モルド達に変身しているヴェルフ・クロッゾ達には喋る余裕があった。

 

「…………上手く潜り込めたね」

「ああ、案外バレないもんだな」

 

 スコット・オールズに変身しているダフネ・ラウロスの言葉に、モルド・ラトローに変身しているヴェルフは肩から力を抜く。

 

他人に完全に変身出来る魔法(モシャス)など想定していないのだろう。しかも一人だけではなく複数人ともなれば想像の埒外だ」

 

 ガイル・インディアに変身しているカシマ・桜花はヴェルフの『変身魔法(モシャス)』の恐ろしさに心底から身震いする。

 

「つっても、姿形だけが変わるだけで、リリ助の魔法(シンダー・エラ)みたいに獣人に変身したら五感が強化されるとかは無いからな。意外に使い道が無い」

「そういうのは自慢げな顔をせずに言ってほしいね」

「俺は魔法で活躍する機会が少ないからな。役に立てるのが嬉しいんだよ」

 

 アルスやリリルカ・アーデの『瞬間移動魔法(ルーラ)』を始めとして、各人の魔法にはその者のみしか使えない特殊で有用性の高い物がある中で、ヴェルフが『改宗(コンバージョン)』前から使えた『ウィル・オ・ウィスプ』は相手の魔法の発動際に『魔力暴発(イグニス・ファトゥス)』を引き起こすので活躍の場は少なかった。

 水場で足場を形成することが出来る『足場構築魔法(トラマナ)』も習得しているが使用機会は限定的で、他の魔法は他の団員も使える物が殆ど。

 活躍の場が生まれると、どうしても顔が綻んでしまうヴェルフだった――――顔はモルドの物だが。

 

「まあ、何にしても無事に潜入出来て何よりだ。まさかあの三人に助けられることになるとはな」

 

 ちょっと照れ臭そうに人差し指で鼻の下を擦るモルド(ヴェルフ)第一等級許可証(ゴールドカード)を借り受けた時のことを思い出す。

 

『探したぜ、ヘスティアファミリア!』

 

 二日前、タケミカヅチファミリアとクレーズ夫妻から別々に行方不明の探索を請け負ったアルス達が豊穣の女主人から帰ろうとしたところでモルド達がやってきた。

 

『お前ら18階層の……』

 

 プチ遠征前に豊穣の女主人で絡んできて、18階層でベル・クラネルを集団で襲ったモルド達のことを忘れていなかったヴェルフはまたぞろ因縁でも付ける気かと構えたところで、近づいてきた三人が深々と頭を下げた。

 

『あの時は迷惑をかけた。詫びとして良い話を持ってきてやったぜ』

『いい話、ね。今、ウチらは忙しいから――』

『あの「大賭博場区域(カジノ・エリア)」で、どの大賭博場(カジノ)にも自由に入場できるゴールドカードがあるって聞いてもか?』

 

 第三級冒険者の基準で良い話など第一級冒険者になったアルスにとって大したレベルではないと、これから忙しくなるダフネが断ろうとしたところで第一等級許可証(ゴールドカード)を差し出された。

 

『これを持っている第三級冒険者は俺達ぐらいしかいねぇ。俺達の紹介ならお前らも大賭博場(カジノ)に入れるぜ』

 

 『大賭博場区域(カジノ・エリア)』で行方不明となったヤマト・命とヒタチ・千草の件であまりにもタイムリーな提案に、ヴェルフとダフネは思わず顔を見合わせる。

 

『…………このタイミングの良さ。まさか俺達も狙われてるのか?』

『今までのが全部仕込みなら壮大過ぎるでしょ。どうするアルス?』

 

→面白い。乗ってやろうじゃないか

  力尽くでカードだけ奪い取ってカジノで遊ぼう

 

『言うと思った』

『同じく』

『おい、俺の話を――』

 

 その後、なんやかんやあってモルド達から第一等級許可証(ゴールドカード)を借り受けたアルス達。

 

「これで大男が同行したいなんて言い出さなければアルスも変身させられたんだがな」

 

 本来ならばアルスをガイル・インディアに変身させてヘスティアファミリアであることを隠して潜入出来たのだが、潜入の手段があることを知った桜花が強硬に同行を申し出たので一人だけ変身なしで紹介という形で来ることになった。

 

「無理を言ってすまない」

「気持ちが分かるからいいけど、行動中はウチらの指示に従ってもらうよ」

「なんか機嫌悪くないか、ダフネ?」

「一人が変身せずに紹介って形で潜り込もうと思ったら知名度的にアルスが適任とは分かってはいるんだ。ただ、男の格好しないといけないことに複雑なだけだから」

 

 女なのに『プリンスコート』を装備した一件もあって男装自体は必要ならば受け入れることもできるが、なまじ半端に選択肢があって周りの貴婦人がドレスで着飾っているのを見ると思うところがあった。

 

「見えたよ。あれが目的の場所、『エルドラド・リゾート』だ」

 

 微妙な心境で歩くダフネの視線の先、一際目を引く建物が見えてきた。

 娯楽都市サントリオ・ベガが投資・建設したオラリオ随一の賭博施設の入り口には男神と女神の彫像が設置されており、魔石灯の輝きを放つ看板には黄金卿を示す共通語が綴られている。

 

「でっけぇな……」

 

 ラキア王国で貴族の地位を得ていたクロッゾであるヴェルフですら感嘆するほどの建物の大きさと絢爛さ。

 

「あそこに命と千草が……」

「アンナ・クレーズはともかく、二人に関しては恐らくとしか言いようがないけどね」

「だが、テリー・セルバンティスが命に興味を示していたのは事実なんだろう?」

「そういう噂があるという程度だよ」

 

 ダフネがアポロンファミリア時代の情報網で調べた結果、別々だった行方不明事件は一人の自分に収束した。

 命に依頼を出した依頼主であり、秘密裏に人身売買を行う交易所に連れて行かれたアンナ・クレーズを買い取った男こそが、オラリオ随一の『最大賭博場(グラン・カジノ)』を経営するドワーフのテリー・セルバンティス。

 

「二人はまだ帰って来ない。今はどんなに低い可能性にでも賭けたい」

「どの道、内部に入り込めば分かるんだ。モタモタしてるとアルスが一人で行っちまうぜ」

 

 ガイル・インディアの姿で決意を固める桜花の止まった背を押したヴェルフが先を行くアルスに追いついたところで、『エルドラド・リゾート』の入り口に辿り着く。

 

「ウェルカム、トゥ、『最大賭博場(グラン・カジノ)』! カジノはロマンよ! 回さなくちゃ当たるものも当たらない! スロット、ポーカー、マジスロ………色とりどりの遊戯があなたを待っているわ! 紳士淑女が集う、こちらのカジノでは俗世のイヤなことを全部忘れて、バンバン遊んで行って下さいね! さあ、この先へ行って夢の世界へゴー!」

 

 バニーガールの衣装を着た兎人(ヒュームバニー)に促されるまま開け放たれている玄関を経て巨大なホールに出たところで、アルス達は支配人の出迎えを受ける。

 

「ようこそ、『エルドラド・リゾート』へ。ここではコインしか使えません。コインの持ち出しも出来ませんので、カウンターでコインをご購入下さいませ」

 

 モルド達から『大賭博場区域(カジノ・エリア)』のことを一通り聞いていたので、支配人の言うことに従ってカウンターに向かう。

 カウンターにいた執事服を着た亜人(デミ・ヒューマン)の女性がやってきたアルス達に恭しく一礼する。

 

「いらっしゃいませ。ここはコイン売り場です。コインは1枚1万ヴァリスとなっています。何枚お求めになりますか?」

「100枚で」

「100枚ですね。100万ヴァリスになりますが、よろしいですか?」

「ああ、頼む」

「――――どうも、ありがとうございました。幸運を、お祈りしていますわ」

 

 ヴェルフが型通りのやり取りをして、換金を済ませたアルス達は桜花が100枚のコインを持ちながら大絨毯の上を歩く。

 

「聞いてたが、本当にこんなコイン1枚で1万ヴァリスもするのか」

 

 様々なゲームが行われている間を歩きながら、ヴェルフは桜花の手の中にあるコインを一枚を手に取って世の無常を実感する。

 

「流石は金持ちが集まる『大賭博場区域(カジノ・エリア)』の中でも『最大賭博場(グラン・カジノ)』と呼ばれてるだけあって、相場(レート)も段違いだ。こんな所に一般人が入りでもしたら一瞬で全財産を失うよ」

「1万、1万、1万…………俺達の(タケミカヅチ)ファミリアなら、このコイン一枚で一週間は余裕で暮らしていけるぞ」

 

 ファミリア立ち上げ当初は桜花達タケミカヅチファミリアと似たような立場だったことを思い出したアルスも同意するように深く頷く。

 

「貧乏ファミリアならそんなもんだろ。いらない武具や素材やアイテムを売って作った100枚だ。大事に行きたいところだが……」

 

 不要な物を売って絞り出した100万ヴァリスの100コインが軍資金。本来ならばヘスティアファミリアには何の関係もない事件で損害を追うわけにはいかないので、安全策を取るべきなのだが急ぐべき事情があった。

 

「好色だって噂の経営者(オーナー)に手を出される前に助け出したいから、あまり悠長にはしていられないよ」

 

 アンナや命と同じ女としては日数をかけることは身の安全を考えれば拙速が必要な時だとダフネは語る。

 

「その為にはあの貴賓室(ビップルーム)に入らなきゃならんが」

 

 モルドから聞いた話の中に、経営者(オーナー)貴賓室(ビップルーム)で囲っている愛人達に客に見せびらかしているという噂があった。

 アンナは男神に求婚されるほどの美貌があり、条件が当てはまることからテリー・セルバンティスに買い取られた彼女が貴賓室(ビップルーム)にいる可能性はかなり高い。そしてもしも命達が行方踏めないなことに経営者(オーナー)が絡んでいるのならばアンナと同じく貴賓室(ビップルーム)にいることも考えられる。

 第三級冒険者の命が虜囚に身に甘んじるとは思えないが、用心棒として雇われる冒険者の中には金に釣られた第三級や第二級冒険者がいてその者達によって千草が人質に取られて動きを封じられている推測も立てることが出来る。

 

「上客になって招き入れられないと無理、か」

モルド達(アイツら)の話を信じるならな」

「ウチらに対する罠でも無ければ、アイツらに嘘を付く理由はないよ。何か問題があってもタケミカヅチファミリアが責任を引き受けてくれるんでしょ?」

「話を持ち込んだのは俺とタケミカヅチ様だ。そこは責任を持つ」

 

 何かあれば外交問題に発展するので、正体が露見すればヘスティアファミリアにだけリスクがあり過ぎる。主神と団長・副団長がオラリオにいないアルス達に、タケミカヅチファミリアは問題が発生して責任問題になれば全て自ら請け負うと宣言した。

 弱小ファミリアに過ぎない団長の桜花だけが責任を持つと言っても、中堅を超えようとしているヘスティアファミリアとの力関係から考えれば断るだけだが、神が請け負うともなれば話は変わってくる。それでも全く責任を負わなくても良いという話にはならないが、神が責任を持ってくれるならばとアルス達は行動に出た。

 

「後は上客になって招き入れられるようにする為に金が必要なんだけど、ウチらの軍資金なんてここにいる者達にとっては端金のようなもの。賭博(ゲーム)に勝ち続けるしかないけど……」

「そんなに簡単に行くか? 俺もやったことがある程度で賭博(ゲーム)系は得意じゃないぞ」

「…………俺はこういう賭博(ゲーム)自体やったことがない」

「ウチも遊び程度で、勝ち続けるなんて無理無理」

「いきなり八方塞がりかよって、アルスはどこ行った?」

 

 賭博(ゲーム)で勝ち続けるのは現実的ではない。無事に『エルドラド・リゾート』には潜入出来ても、ここからの良策はないので方策が見つかるまでの偵察のつもりだった。

 しかし、さっきまで傍にいたはずのアルスの姿が無いことに気づいたヴェルフが顔を巡らせると近くのルーレット台に移動していた。

 アルスは如何にも成金っぽい風体の小さな小太りの男に近づいている。

 

「おや?このベシム様に頼み事ですか?」

 

貴賓室(ビップルーム)に入れるようにしてくれ

  なんでもない

 

「ブホホホホホ!成程、あの貴賓室(ビップルーム)に行きたいと。このベシムに率直に言って来たのは面白いですねぇ」

 

 独特の笑い方をしたベシムはアルスの風体を遠慮なくジロジロと見る。

 

「そういうことならボクチンとゲームをしませんかねぇ? チミがゲームに勝てばボクチンが経営者(オーナー)に言って貴賓室(ビップルーム)に入れるようにしましょう! 但し、負ければ分かっていますねぇ?」

 

→受けて立つ

 断る!

 

「ブホホッ、とても良いお返事ですねぇ。ではルールをご説明いたしましょう。ルールはとても簡単です! このフロアのルーレット台でジャックポットを当てたらアナタの勝ち! ジャックポットを当てるルーレット台はどれであろうと構いません。好きな台を選ぶがいいですねぇ!」

 

ルーレットのジャックポットは1点賭けかつ、ルーレットの上部の矢印で止まって当たりを出す必要があった。1点賭けでも確率の上では36分の1なのに、上部矢印で止まるとなれば確率は更に下がる。

 

「但し、毎日ここに通ってるボクチンでもジャックポットにはお目にかかれていません。それだけ当てるのは難しいってことですねぇ! 挑戦するも良し、諦めて逃げるも良し…………アナタの自由です」

 

 選択肢を示したベシムはアルスに引く気が無いと分かると、破顔してフィンガースナップする。

 

「それではゲームを始めましょう! 奇跡的にジャックポットを当てられたらボクチンも約束を果たしましょうねぇ!」

 

――――――――――クエスト『成金ベシムの挑戦状』を引き受けました。

 

「おいおい、アルス。何を勝手に話を進めてんだ」

 

 財産家というのは得てして無駄にプライドだけは高いと、鍛冶貴族としての育ちから知っているヴェルフは話に割って入ることも出来ず、むざむざ挑戦状を受けてしまったアルスに詰め寄る。

 

「しかし、ルーレットでジャックポットを当てさえすれば貴賓室(ビップルーム)に行けるようになったのは大きいぞ」

「あの成金野郎が言ってたように、今まで見たことがないって難しさなんだ。そんな簡単な物じゃないよ」

「一縷の望みに賭けるか。正しくギャンブルだな」

 

 良策が無かった中で、確率が低いとはいえ貴賓室(ビップルーム)に入れる方策が出たことは喜ばしいことだと、先走った形のアルスの行動を擁護した桜花と違って、結局は無いよりかはマシ程度の可能性なことにダフネとヴェルフの二人は溜息を漏らす。

 ルーレットのジャックポットに望みを託すにしても、ゲームに参加するには最低でも1コインが必要な以上、一度も的中できなければ最低で100回しかチャンスが無い。

 可能性に賭けるべきか、他に方策を探すべきかと三人が悩む中、アルスはホール内を見渡して見知った顔を見つけた。グラスを運んでいた片目が隠れるロング髪のウェイターはアルスと目を合わせるとニヤリと笑って歩み寄る。

 

「ハ~イ、お兄さん。聞いてたよ。ルーレットでジャックポットを当てないといけないんだってね」

 

見知らぬ(・・・・)ウェイターさん、何か用?

 なにやってんの、ルノア?

 

 初対面を装っているのに気づいて即座に合わせたアルスの返答に、変装しているルノア・ファウストはクスリと笑うと、内緒話をするように顔を寄せる。

 

「ふふ、良いことを教えてあげる。本当ならタダで教えるなんてことはないんだけど、目的の一致ってやつかな」

 

 周りに不審に思われないようにルノアは直ぐにアルスから顔を離す。

 

「ジャックポットが出やすくなる時があって、さっきビビッと来たから今なら高確率でジャックポット当選者が出そうな、そんな予感がするわね。じゃあ、頑張って」

 

 離れ際に言いながら一瞬だけ指差した先にはルーレット台があり、進行役(ディーラー)猫人(キャットピープル)は髪と耳の色が違う上に眼鏡を付けているので大分印象が違うが、ルノアと同じ豊穣の女主人で働いているクロエ・ロロその人に間違いない。 なにせ、アルスの姿を見て一瞬だけウインクをしたのだから。

 

「…………あの二人、カジノにいるとは思ってたけど」

「ま、お蔭で光明が見えてきたんだ。良しとしようぜ」

 

 一連の流れをアルスから聞いて、進行役(ディーラー)をやっているクロエの姿を見て納得したダフネとヴェルフはこの奇貨を使わぬ手はないと、彼女がいるルーレット台に足を運ぶ。

 

「ハンサムなお兄さん、あなたもルーレットに挑戦なさるの? 女はね、何時だって何かに挑戦しているアツい男の姿に惹かれるモノよ。ボウヤにはちょっと早すぎるかしら」

 

→挑戦する

 挑戦しない

 

「あら、意外と勝負師なのね…………そういう男の人、嫌いじゃないわよ、ウフフ」

 

 席に座ったアルスに、こちらも初対面で通すつもりらしい変装クロエが艶やかに微笑む。

 

「それではベットしたい場所にチップを置いて下さい。後は運に身を任せるだけですわ」

 

→赤の32番に100枚

  黒の31番に100枚

 

「あら、剛毅ですわね。他に参加者はいませんので、始めます」

 

 100枚のコインで1点賭けという、一件無謀とも思えるアルスの挑戦に近くを通りがかった亜人(デミ・ヒューマン)の富豪の集団が足を止める。流石にアルスが全コインを賭ける(ベット)するとは思わなかったのか、一瞬目を見開いたクロエは直ぐに動揺を抑え込む。

 見物する他の者達を含めてコインの追加や変更が無いのを受け、クロエは賭けの打ち切りを宣言。そして慣れた手つきで回転盤(ホイール)を回転させる。

 

――――――――――――スピンスタート!!

 

 続いて磨き上げられた紅玉を投げ入れ、回転する回転盤(ホイール)の上をグルグルと回る。

 回転盤(ホイール)は徐々に回転数を墜としていき、紅玉は最後はカタンッと音を立てて一つのポケットへと転がり込んだ。

 

――――――――――――赤の32番にボールが止まりました!

 

 まさか仕組まれたとは知らない亜人(デミ・ヒューマン)の富豪集団が湧き上がる。

 

「な、何なんですあのテーブル!?」

「勝ったのはどなたです!?」

「おお、あの白髪に赤目のヒューマンは間違いない!」

「ランクアップの最速記録を更新し続けているヘスティアファミリアの『白兎の剣士(ラビット・ソード)』!」

 

 上がった歓声に引かれて他の客が注目している間に、駆けつけたウェイター達にジャックポットが出たことを報告していたクロエが周りにピースサインを振り撒いているアルスに向き直る。

 

「おめでとうございます!ジャックポットですので賞金の100万枚と、1点数字賭けですので配当36倍を合わせた3600枚のコインを合わせてお受け取り下さい!」

 

 合わせて100万3600枚のコインが複数の台車に乗せて運ばれてきた。

 コインが1枚1万ヴァリスなので、100億3600万ヴァリスというとんでもない金額にダフネの脳裏に、このまま捜索依頼など忘れて換金してトンズラするべきではないかと思考が過る。

 

「ブホホホホ!見ていましたよぉ!まさか本当にジャックポットを、しかも初手で当てるとはボクチン思ってもみませんでしたねぇ!」

 

 集まった客達を掻き分けて現れたベシムは興奮してハゲた頭頂部まで真っ赤にしながら言い募る。

 アルスはあまりにも注目を集め過ぎており、もう後には引けなくなっていることにダフネは気づいて退避を選択肢から外さざるをえなかった。

 

「いやぁ、負けて悔いなし。最高に興奮しました。まずはボクチンからのご褒美を受け取るがいいですねぇ!」

 

――――――――――――アルスは『ラッキーベスト』を受け取った

 

「貴賓室のことも心配は無用。既に経営者(オーナー)へ使いの者を出しました。ボクチン、約束は守るタイプですからねぇ」

 

――――――――――――クエスト『成金ベシムの挑戦状』をクリアしました

 

 良い物が見れたと機嫌良さげに去って行ったベシムと入れ替わるように、仕立ての良い黒服に身を包んだ年配のヒューマンと彼の部下らしい仮面を付けた紳士服が数人がやってくる。

 

「――――お客様方」

 

 今だジャックポットの興奮も露わな雰囲気の中、片目にモノクルを付けた老紳士は見た目に相応しい落ち着いた口調でアルスに語りかけてきた。その老紳士の後ろに隠されるようにして変装したクロエが紳士服の一人に連れられ、ルーレット台から離れていく。

 

「ジャックポット、誠におめでとうございます。つきましては、経営者(オーナー)のセルバンティスが是非ともお客様方とお話をしたいと申しておりまして、貴賓室(ビップルーム)までご同行願えませんでしょうか?」

「おう、わざわざ悪いね。この大量のコインはどうしたらいい?」

「係の者に運ばせます」

「よろしく頼むぜ」

「では、こちらへ」

 

 アルスに任せるとボロが出そうなのでヴェルフが対応する。

 老紳士に先導されるがままに屈強な門番が立つ樫の大扉の方へと向かい、きつく閉ざされていた両扉が開かれて貴賓室(ビップルーム)に足を踏み入れる。

 扉を潜ると、騒がしいホールとは打って変わって魔石で動く蓄音機から流れる音楽が厳かに流れ、照明もやや薄暗く灯されていることもあってまるで別空間に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えそうになる。

 

「…………噂からもっと騒がしい所かと思ってたが、まるで社交室(サロン)のようだな」

 

 野卑たモルドの姿からは似合わない単語(社交室)に老紳士が人差し指の先を一瞬だけピクリと動かした。しかし、それ以上の反応は見せず、老紳士は貴賓室(ビップルーム)の奥の高そうなソファで最も偉そうな態度を取っている一人のドワーフの下へアルス達を誘導した。

 

経営者(オーナー)、お連れ致しました」

 

 華麗なドレスに身を包んだ美女達から酌をされながら招待客(ゲスト)と話していた経営者(オーナー)と呼ばれたドワーフが徐に立ち上がる。その身長は世間一般が認知するドワーフそのままの体型でアルスよりも目線は大分低い。

 

「おお、私はテリー・セルバンティス。この『大賭博場(カジノ)』の経営者(オーナー)を努めておる者です」

 

 老紳士を下がらせ、強面ながらも蓄えた髭の下で笑みを浮かべながら挨拶をするテリーに卒はない。

 一瞬で距離感を掴んだのか、必要以上に踏み込まず、しかし距離を開け過ぎない適切な場所で足を止めたテリーはヴェルフ達の後ろで複数の台車を持っている紳士服の給仕達に一度目を移す。

 

「ベシム殿よりお聞きしたところ、皆様方はジャックポットを引き当てたとか。本日相当にツイているご様子。そこで提案なのですが、この貴賓室(ビップルーム)で一勝負して頂けませんかな?」

「へえ、面白そうだな」

 

 貴賓室(ビップルーム)内にはアンナらしき人物と命と千草の姿はない。ここにいないのか、どこかに隠されているのか判断がつかないのでヴェルフは話を合わせるしかなかった。

 

経営者(オーナー)!」

 

 やり手そうな経営者(オーナー)相手にどこまでボロを出さないでいられるかとヴェルフが神経を張り詰めさせていると、先程辞した片目にモノクルを付けた老紳士が慌てた様子で戻ってきた。

 

「何事だ、騒々しい。お客様方の前だぞ」

 

 場にそぐわない慌ただしい行動をする老紳士に一瞬不快気に表情を歪めた経営者(オーナー)は一瞬で仮面を取り繕う。

 

「急ぎ、お耳に入れたいことが――」

 

 注意された老紳士はそれどころではないと経営者(オーナー)に近づき、何事かを耳打ちする。

 

「――何!? それは本当か!?」

「はい、今入り口の所に」

「直ぐに行く! お客様方、申し訳ありませんが暫し席を外させて頂きます」

 

 耳打ちを受けた経営者(オーナー)は血相を変えると慌しく老紳士を連れて貴賓室(ビップルーム)を出て行った。突然の出来事に取り残される形となったアルス達はお互いに顔を見合わせるしかない。

 

「何だったんだ、一体?」

 

 困惑するしかないアルス達に素早く見目麗しい美女と美少女がそれぞれグラスを持ってやってくる。

 

「どうぞ」

 

 アルス達にグラスを渡して感情の無い微笑みと共に女達は去って行く。

 

「彼女たちは?」

 

 ダフネが揃って様々な色の首飾(チョーカー)を付けた女達を見ながら、偶々近くにいたボンボンそうな肥満体の男に尋ねる。

 

「ああ、経営者(オーナー)の愛人達ですよ。いやぁ、本当に羨ましい! せめて一日私の相手をしてほしいものだ!」

 

 能天気に答える肥満体の男にダフネは反吐が出そうな思いだった。

 感情の無い微笑みを浮かべていた彼女達が望んで愛人をやっているようには思えず、経営者(オーナー)が財力に物を言わせてあらゆる手段を講じて強引に手に入れた収集品(コレクション)であることは想像に難くない。

 モルドの話では、この貴賓室(ビップルーム)にはギルド職員やガネーシャファミリアも入れないとの事なので、本当の治外法権の中で傲岸な経営者(オーナー)を咎める者もいなければ、招待客(ゲスト)もまた収集品(コレクション)を楽しみ、褒め称えて甘い蜜を啜ろうとしていると直感する。

 彼女達が物のように扱われていることに同じ女としてダフネが怒りを覚えていると、静かな貴賓室(ビップルーム)が騒がしくなっていた。

 

「おや、なにやら向こう(入り口)側が騒がしいような……」

 

 肥満体の男が音の発生源である入り口の方に目をやると、樫の扉が向こう側から開けられた。

 光量の差で逆光になって入り口に立つ者の姿が影となったが、冒険者であるアルス達は即座に適応したが現れた人物達を見て状況も忘れて目を剥く。

 

『は?』

 

 遅れて目が慣れた貴賓室(ビップルーム)にいる者達も同様に目を剥いた、招待客(ゲスト)も女達も賭博場(カジノ)側の者も含めて誰一人例外なく。

 

「ふ、フレイヤ様……!?」

「猛者オッタル……!?」

 

 誰かが現れた二人の名を驚愕と共に呟く。

 女神にすら匹敵しそうな美姫達すら霞んでしまう美貌を持つ銀髪の女神が巨身の獣人を従え、コツコツと靴を鳴らして貴賓室(ビップルーム)に足を踏み入れる。

 

「初めまして、お邪魔させてもらうわ」

 

 都市最強の冒険者(オッタル)を従え、ロキファミリアと並ぶ最強派閥であるフレイヤファミリアの主神フレイヤが艶然と一笑する。

 

――――――――――フレイヤとオッタルが あらわれた!

 

 

 

 

 






色々と準備をしていたのに来てくれなかったので自分から推しの活躍を最前列で見に行くことにした美の女神と巻き込まれた都市最強です。

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