ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第72話 オーナー、彼女を一日貸してくれ!

 

 

 

 

 

 『大賭博場区域(カジノ・エリア)』にある『最大賭博場(グラン・カジノ)』と呼ばれる『エルドラド・リゾート』の貴賓室(ビップルーム)は恐らく作られてから最も騒然としていた。

 

「フレイヤ様――」

 

 恐らくロキと並んで世界で最も有名な神であるフレイヤの、正しくこの世のものとは思えない美貌に波のようなさざめきが起こったかと思うと、一転して時が止まったかのように静まり返る。

 老若男女、立場などに関係なく女神の美に誰もが支配される中、筋肉でパツンパツンになって今にも破れそうな燕尾服を着たオッタルを従えたフレイヤは煩わし気に手を振る。

 

「遊びに来ただけだから何時ものように過ごしなさい」

 

 美の女神の言葉に聴衆達は時止めから解放されたように動き出した。

 魅入られた招待客達は何時ものようにと言われてもゲームに興じたり次元違いに劣る下界の女達に興味を示すことなくフレイヤに群がっていく。その流れに逆らうように経営者(オーナー)が他と違って動かない招待客達と共にいるアルス達がいるテーブルへと戻ってきた。

 

「突然の退室、無作法で申し訳ありませんでしたな、皆様」

「仕方ありませんよ、経営者(オーナー)

「フレイヤ様が来店されたとなれば他の何よりも優先せざるをえますまい」

「寧ろ我々の所へ戻ってきて良かったのですかな?」

 

 謝罪する経営者(オーナー)に残った招待客達はチラチラと囲まれて殆ど姿が見えないフレイヤがいる方を見ながら尋ねた。少なくとも群がる招待客達より頭二つ以上は優に高いオッタルがいるので、姿が見えなくてもフレイヤがまだそこにいると分かる。

 

「挨拶は既に済ましておりますし、私が独占してしまっては皆様方の不評を買いましょう」

 

 貴賓室(ビップルーム)への入室を認める代わりに後でじっくりと話す言質を取ったことは噫にも出さない経営者(オーナー)に、招待客達は感嘆の息を漏らす。

 

「オラリオに住んでいてもフレイヤ様を目にする機会は中々ありません。経営者(オーナー)の人徳と懐の深さがきっとフレイヤ様をこのカジノに招いたのでしょうな」

「いえいえ、そんな……」

 

 謙遜する経営者(オーナー)は内心で鼻高々だった。

 

「しかし、流石は言わずと知れた美の女神。あれだけ見目麗しい女性達に見慣れていたはずなのに、比べることすら烏滸がましいほどにお美しい」

 

 招待客の一人が姿は見えなくとも一度見てしまえば脳裏に焼き付いて離れないフレイヤという、容姿端麗な神々においても随一の美貌を思い起こしながら零す。

 

「美しいと言えば、経営者(オーナー)は最近女神に迫る美貌を持つ傾国の美女を手に入れられたとか」

「おおっ、私も聞きましたぞ。何でも遠い異国の地から娶ったのだとか」

「ほう、是非我々にも見せて頂きたいものですな」

「皆さんも耳が早い。ええ、新しい愛人として迎えたのです。折角ですので、紹介しましょう」

 

 フレイヤが登場した後ではインパクトに欠けるが、請われたのならば応えないわけにはいかないという(てい)経営者(オーナー)は近くで待機していた青年給仕に合図する。

 合図を受けた青年給仕は恭しく礼をして一度貴賓室(ビップルーム)を離れ、戻ってきた時には白いドレスを着た少女を連れていた。

 

「初め、まして…………アンナと申します」

 

 ドレスのスカートの裾を持ち上げ、名乗る少女の可憐さに招待客達だけではなくアルス達も見惚れる。

 

「これはまた器量良い……」

「フレイヤ様には及ばずとも、正しく女神にも迫る美しさ」

「よく見つけてきましたね、経営者(オーナー)

「実は異国の地で巡り合いましてな。きっと神々の御導きだったのでしょう。この愛らしさと美しさに私めも直ぐに虜になってしまったのです」

 

 諦念に支配されたアンナを傍に侍らせた経営者(オーナー)に、あわよくば自分達もお零れに預かりたいという欲望を隠しもしない招待客(ゲスト)達。

 

(下衆共が……)

 

 アンナと同じ女としてダフネ・ラウロスはスコット・オールズの姿で嫌悪が顔に出ないようにしなければならなかった。

 正体が露見しないように注意しなければならないのは、モルド・ラトローに変化しているヴェルフ・クロッゾとガイル・インディアに変化しているカシマ・桜花も同じだが、唯一素の顔をしているアルス・クラネルはジロジロとアンナを見る。

 いっそ不躾ともいえるが招待客達とは違う種類の視線にアンナと経営者(オーナー)が気づく。

 

「『白兎の剣士(ラビット・ソード)』、随分と熱心に私の愛人(アンナ)を見ておられますが気に入りましたかな?」

 

→同じ名の娘が親の借金のかたに売られたと聞いた。これは偶然か?

  オーナー、彼女を一日貸してくれ!

 

「ふ、ふふ、子を売るなど酷い話もあったのものです。ところで、偶然で無ければどうなるのでしょうか?」

 

 明らかに事情を知っているアルスの踏み込みに、一瞬頬がヒクつく経営者(オーナー)

 

→非道を看過することは出来ない。きっと天罰が下ることだろう

  何言ってんの? 馬鹿なの? 処すに決まってるじゃん

 

「私に有りもしない因縁をつけるほど『白兎の剣士(ラビット・ソード)』はこのアンナに相当ご執心の様子。天罰が下るかどうか、ゲームで試してみませんか」

 

 アルスにこれ以上の話をさせないようにすかさず論点をすり替える。

 

「勝者は敗者に願いを聞き入れてもらうのです。そして勝者は求めるモノを手に入れることが出来る。『白兎の剣士(ラビット・ソード)』が勝った暁には、この娘(アンナ)には暇を出すことにしましょう」

 

 そう言った経営者(オーナー)はアンナを呼んだ時のように青年給仕に合図をする。

 先程と同じように一度辞した青年給仕が戻ってきた時にはカートを押しており、乗せられた籠にはホールの物とは別の色をしたコインが大量に入っていた。

 

「ゲームに用いるのは全てこちらの1枚1000万ヴァリスの最高額のコイン。失礼ながらお手持ちのコインはこちらに交換させて頂きました。この相場(レート)で、これほどの数は中々見れませんぞ」

 

 テーブルに乗せられるアルスの持ち分である1001枚のコイン。その間にもテーブルの周りには10人を超える、明らかに堅気とは思えない雰囲気を持った男達が周囲を固めていた。

 一応、燕尾服を着てはいるが背中や懐に異様な膨らみがある者も多く、アルス達を逃がさないようにしている用心棒であることは明らかだった。

 

「まさか『白兎の剣士(ラビット・ソード)』ともあろう御方が勝負から逃げ出すなど言うまい」

「脅しのつもりか」

第二級冒険者(Lv.4)を脅すなど、とてもとても」

 

 周辺を囲むように配置された者達をチラリと見たモルド(ヴェルフ)の唸りに、両手を上げた経営者(オーナー)はアルスだけに注力しながら答える。

 

「日々、ダンジョンに潜る冒険者である貴方達には及ばないまでも、富や地位、名声も勝ち得た私達が真に欲するのは命懸けの緊張感。このゲームに乗りますかな?」

 

 頷くアルス。

 

「皆様もどうですかな? ここは『最大賭博場(グラン・カジノ)』。私と『白兎の剣士(ラビット・ソード)』の一騎打ちでは実に味気がない。条件は皆一緒です。勝者の願いは私が叶えましょう…………流石にお前の命が欲しいなどと物騒な望みは御免被りますがな!」

「ええ、では我らも是非」

「おお、流石は皆様方。『白兎の剣士(ラビット・ソード)』、この人数ですのでゲームはポーカーで良いですかな?」

 

→ドローポーカーならいい

  フレイヤ様、お助けを!

 

「分かりました。では勝敗は、元手でのコインが全て無くなった時点で、その者は敗者となります」

 

 そうしてゲームは開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――おや、この老いぼれが勝ってしまいましたなぁ」

 

 数ゲームの後、獣人の老紳士が勝利し、多くないとはいえアルスがベットしたコインが引き上げられていく。

 勝ち続ける経営者(オーナー)や他の招待客とは反対に、負け続けるアルスはゲーム開始当初には1001枚あった持ちコインが半減していた。

 

「一度も上がれないとは…………どうやら運はジャックポットを引き当てた時に使い切ったようですな」

 

 余裕綽綽のオーナーにダフネは舌打ちを漏らしそうになった。

 

「コインが随分と減ってしまった様子ですが、大丈夫ですかな?」

「良く言うぜ。お前ら、共謀者(グル)だろ」

 

 ダフネと同じくアスカのコインだけが減り続ける原因に思い至っているヴェルフが吐き捨てた。

 

「おかしなことを仰る。証拠があるのですかな?」

「ここまでアルスだけ(・・)が勝てないのは、どう考えてもおかしい」

 

 経営者(オーナー)の問いかけにヴェルフは渋面を作って答える。

 文句を言うだけで証拠を示せないアルス達に経営者(オーナー)は両手を広げて薄く笑う。

 

「言ったでしょう、運を使い切ったのだと。そういえば、ジャックポットを引き当てた時の進行役(ディーラー)はまだ当店で働き出したばかり。一度目のゲームで引き当てるなど、あまりにも偶然が過ぎる」

「…………何が言いたい?」

 

 そこそこの年齢(モルドの顔)ながら腹芸の一つも熟せないヴェルフを内心で嘲笑いながら、しかし顔は『最大賭博場(グラン・カジノ)』の経営者(オーナー)らしく柔和な仮面を被って続ける。

 

「いえ、何も。ただ馬脚が現れたというだけです。直に真実も明らかとなるでしょう。ああそう、まだ私が勝った時の願いを言ってませんでしたな。私が勝った暁には、あなたが所属する『ヘスティアファミリア』には私の物となってもらいましょうか」

「それはどういう意味でだ?」

「新進気鋭のヘスティアファミリアは今後、ますます大きくなっていくことでしょう。なあに、邪魔などは致しませんとも。少しばかりのお零れに預かれれば、それで十分」

「労せず利益だけ掠め取ろうってかい」

「商売人ですからな。最小の労力で、最大の利益を追求しているだけです」

 

 今まで黙っていたスコット(ダフネ)の反応からアルス達に逆転の秘策など無いと確信した経営者(オーナー)は自身の長い髭を撫でつける。 

 

「生意気な者や欲に目が眩んだ者、後はあなたのように正義感に目が眩んだ者…………私は全て食い物にしてやりましたよ」

 

 次はお前達だと、副音声が聞こえそうな顔で嗤う経営者(オーナー)。しかし、直ぐにその顔が引き攣ることになった。

 

「面白い話をしているわね」

「ふ、フレイヤ様!?」

 

 余裕を持っていた経営者(オーナー)は背後から多数の招待客(ゲスト)達に囲まれていたはずのフレイヤがオッタルを従えて現れ、驚き顔で振り返った。

 フレイヤは一度テーブルに付いている者達を見渡し、経営者(オーナー)を見る。

 

「このゲームは、敗者が勝者の願いを叶えてくれると聞いたのだけれど本当かしら?」

 

 フレイヤの問いかけに我を取り戻した経営者(オーナー)は美に魅入られて我知らずに前のめりになりかけていた姿勢を戻す。

 

「正確には私めに勝てば、限度はありますが願いを叶えるというものです」

「そう…………私も参加させてもらってもいいかしら?」

「い、いえ、しかし……」

 

 まさかの要求に然しもの経営者(オーナー)も答えに窮する。

 

「正確には私の代理としてオッタルを。それなら構わないわね」

 

 決定事項として告げるフレイヤに経営者(オーナー)は逆らえない。

 神であるフレイヤには下界の者の嘘を見抜く能力がある。心理戦であるポーカーは基本的に神は神同士で行うのが鉄則なので、フレイヤの参加を断る理由になるのだが冒険者のオッタルを代理とするならば彼我の権力差から断れない。

 

「わ、分かりました」

「ありがとう。そこのあなた、オッタルと席を変わってくれるかしら」

「は、はい、喜んで!」

 

 フレイヤに指名されたアルスの隣に座っていた顎髭のヒューマンは急いで席から離れて、すたこらさっさとばかりに遠巻きにこちらのテーブルのチラチラと様子を伺っている招待客(ゲスト)達の中に紛れ込む。

 空いた席に巨体に比べれば小さな椅子に窮屈そうにオッタルが座る。その斜め後ろ、アルスに近い側にフレイヤが立つ。

 経営者(オーナー)は示し合わせて最も強い手札を持つ者でアルスを負かす不正(イカサマ)をしている都合上、席を変わるのではなく増やす方法で行きたかったがフレイヤの行動の方が早かった。

 

「仕方ありませんな。ところで、オッタル(猛者)殿が勝ったらフレイヤ様は私に何を望みますか?」

 

 過去に拘って耽溺しても意味はないと一瞬で気持ちを切り替えた経営者(オーナー)は話の流れ的に訊ねなければならなかった。

 

「そうね。じゃあ、あなたと同じにするわ」

「は?」

「私が勝ったら『ヘスティアファミリア』を貰い受けるわ。代わりに私が負けたら、そうね…………一つだけどんなことでも勝者の言うことを聞いてあげる」

「っ!? そ、それはどのような願いであってもですか?」

「ええ、フレイヤファミリアが欲しいというならその通りに、他には私の体が欲しいというのなら好きにするといいわ」

「…………例えば、例えばですが、一晩だけ私の愛人になって頂くというのが願いであっても?」

 

 愛人、と経営者(オーナー)が口にした瞬間、オッタルから覇気とも殺気とも判別できないオーラが一瞬だけ撒き散らされたが、フレイヤの手が肩に乗せられると霧散する。

 あまりにも一瞬過ぎて冒険者ではない者達には悪寒としか感じられなかったが、ヴェルフ達はオラリオ最強の威圧に我知らず一歩下がっていた。そんな中、アルスの目はただカードを見つめていた。

 

「勝負ですもの。私の雷名()の名に賭けて、必ず約束を履行すると宣言するわ。オッタルや他の眷属にも口を挟ませない。いいわね、オッタル?」

「御心のままに」

 

 物凄く不服そうに頷いたオッタルの肩からフレイヤは手を離す。

 

「これでいいかしら?」

「…………ふ、ふふふっ、ははははは!! ええ! ええ! その条件で構いませんとも! ならば、私めに言うことはありません。よろしいですかな、皆様方!」

 

 真っ先に構わないと頷いたアルスに続いて、どうなっても自分達が不利益を被ることは無いので招待客(ゲスト)達も承諾する。

 

「おい、アルス――」

 

→心配するな、モルド(ヴェルフ)。大体分かった。もう負けない

  フレイヤ様を好きに出来る…………ゴクリ

 

「ありがとう。ところで、後ろで見ているだけというのも味気ないから私に進行役(ディラー)をさせてもらってもいいかしら?」

 

 経営者(オーナー)は妙な提案だと思ったが、女神の道楽ならばゲームに関わりたいという無碍にはし難い。勝った場合、一晩愛人になれという要求も、オッタルの反応から考えるとフレイヤファミリアの不評を買いかねないので、フレイヤが進行役(ディラー)となって不正なりをしてオッタルを勝たせてくれた方が後腐れがなくていい。

 ヘスティアファミリアの実権を譲り渡すことになるが、仮にフレイヤに負けても経営者(オーナー)側に損はない。寧ろ共謀したことでフレイヤに良い印象を持ってもらえば経営者(オーナー)としては万々歳。

 

「…………いいでしょう。しかし、進行役(ディーラー)のご経験は?」

「仲間内で良くしていたから慣れているわ」

「分かりました」

 

 脳内で皮算用を立てた経営者(オーナー)の指示で下がった進行役(ディラー)の場所にフレイヤが移動する。

 

「では、ゲームを始めましょう!」

 

 ちょっと楽しそうなフレイヤに招待客(ゲスト)達が魅了されながらカードが配られる。

 各々が裏返されて渡された手札を確認し、カードを交換(ドロー)するか、勝負するかを判断する中、アルスは頬杖を付いたまま動かない。

 

(カードを見ない? 勝てないと悟って勝負を捨てたか)

 

 アルスの不可解な行動に不審を覚えつつも、経営者(オーナー)は自らの手札を確認する。

 

「ああ、君。アルテナワインの三十年物を頼む」

 

 獣人の老紳士が給仕を呼び止めて言った言葉に、経営者(オーナー)は自らの手札を見て勝負から下りることを決めた。

 

下りる(フォールド)

 

 符丁から獣人の老紳士の手札は同カード三枚上位のフルハウス。組み合わせ(ハンド)の中でもかなり上位の手札ならば、まず負けは無いと判断したのは経営者(オーナー)だけではない。

 符丁を知る招待客(共謀者)達はチェック(パス)賭け(ベット)手札交換(ドロー)を行い、最終的に残ったのは三人だけ。

 

「おや、どうやらこの老いぼれと冒険者の方々の勝負のようですが、どうなさいますか猛者、『白兎の剣士(ラビット・ソード)』?」

「…………チェック(パス)

 

 オッタルは余程手札が良いのか、一拍置いて次のアルスの出方を見てから勝負するかを決めることにしたようだった。

 

全額賭け(オールイン)

  上乗せ(レイズ)

 

「「「「「はぁっ!? 」」」」」

 

 突然のアルスの全額賭け(オールイン)にフレイヤとオッタルを除いた全員が驚愕する。

 

(ここに来て、いきなり全額賭け(オールイン)だと!? 手札を一切見ることなく……?)

 

 全額賭け(オールイン)をして負ければ、その時点でアルスの敗北が決定する。

 

(欺瞞(ブラフ)か? しかし、だとしても全額賭け(オールイン)危険(リスク)があまりにも高過ぎる)

 

 アルスの表情は動かない。目に動揺はなく、感情の色は見受けられない。

 

(それほどに自信がある? だが、手札を見ることなく自信など持てるはずがない。まさか透視などのスキルを持っているのか?)

 

 Lv.4ともなれば何らかのスキルや発展アビリティに目覚めているはずで、カードを透かして何の手札か分かったのならば強気になれると分かるが、そうなると今までの一人負けする理由がない。

 欺瞞(ブラフ)か、そうでないか。アルス以外には判断できない。

 

「は、ははは、よろしい。では勝負といきましょう」

 

 フルハウスならば早々負けるはずがないと、老紳士は表情を引き攣らせながらも引かなかった。

 オッタルも引き下がらず、ベット(賭け)するとなり、勝負は三人に限られた。

 

「三人とも、手札の開示を」

 

 フレイヤの指示に三人が手札を公開する。

 

「俺はストレートだ」

「私はフルハウスです」

 

 まず真っ先に出されたのは、オッタルの様々な絵柄の4から8の数字が並んだストレート。そして獣人の老紳士が出したのはオッタルより上位の手札(ハンド)であるスライムの絵柄の10が2枚と王冠の絵柄のJの3枚のフルハウス。

 この時点でオッタルの敗北は決定しており、初戦での予想外のオッタルの引きの強さに流石はオラリオ最強の冒険者と感心した経営者(オーナー)は、少し遅れて出されたアルスの『ベビーサタン』が描かれたジョーカーと、盾の絵柄の6を抜いた3から5と7のストレートフラッシュの手札に瞠目する。

 

「……っ!? こ、これは一本取られましたな」

 

 獣人の老紳士のフルハウスを超えるアルスのストレートフラッシュの手札(ハンド)。アルスの勝利が確定し、コインが移動する。

 勝利したというのにアルスは特段の反応を見せず、手札を回収して慣れた手付きでカードシャッフルを行っているフレイヤの手元に注視している。

 まるで自分のことなど興味もない言われているようで、獣人の老紳士が屈辱に燃えている間に次のゲームが始まろうとした瞬間、アルスは下りる(フォールド)を宣言して勝負を下りた。

 

(手札を見ることなく、今度は勝負すらしないだと? どういうことだ……?)

 

 理屈に合わない。理由が分からない。

 経営者(オーナー)招待客(ゲスト)達が答えに辿り着けないままゲームは続く。

 

 

 

 

 

 




過去情報

①ベルは生まれ持っての幸運持ち

②祖父はベルほどではないが運命力を持ち、かつ負けず嫌いなのでイカサマ上等なタイプ

③アルスは祖父以下の幸運力。幼い頃はほぼ一人負けの状態(気を遣った祖父が代わりに負ける)。だが、アルスはこのことに直ぐに気づいた。負けず嫌いなので、こと勝負事に関する記憶力はずば抜けており、上級冒険者になって更に効果は上がっており、一般人には目視出来ないカードの細かな傷を覚えて把握してしまう。
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