ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第75話 なんなら命を嫁にもらってやるぞ

 

 

 

『グォオオオオオオオオオ!』

 

 一行の中でも大きいカシマ・桜花やヴェルフ・クロッゾでさえ、大人と子供ほどの体格差のあるモンスターが咆哮する。

 

「おおっ!」

 

――――――――――桜花の こうげき!

 

 アルス・クラネルより借りている『ドラゴンバスター』を構えた桜花がヒタチ・千草の援護を受けながら接近し、パーティーの攻撃によって『ストーンマン』がボロボロと欠けた体から岩石を零れ落としながら回避しようとするも果たせず、その胸元に振るわれた両手剣が叩きつけられた。

 

――――――――――ストーンマンに ダメージ!

――――――――――ストーンマンを たおした!

 

 『ドラゴンバスター』の一撃に、石巨人は仰向けに倒れてそのまま魔石を残して消え去った。

 

――――――――――まもののむれを やっつけた!

――――――――――アルスたちは 445ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――まもののむれは 魔石を 落としていった!

――――――――――イビルビーストは するどいつめを 落としていった!

――――――――――アンデッドマンは はがねのかぶとを 落としていった!

 

「よしっ! 戦闘終了!」

「周辺にモンスターの姿は無し。命、そっちは?」

 

 早々に武器を収めたヴェルフと違って、魔石やドロップアイテムを回収しているアルスを見ながらダフネ・ラウロスは、モンスター探知系のスキルを持つヤマト・命に尋ねる。

 

「…………探知には引っかかりません。この階層で初見のモンスターがいなければですが」

「ギルドの情報では、この数日でこの階層にいるモンスターとは出会ってる。階層移動するようなモンスターがいなければ信用していいと思うよ」

 

 眉間に皺を寄せた命の返答を信用して、ダフネは『イビルビースト』を打ち据えた『あくまのむち』を仕舞う。

 

「ところで、その会ったことのあるモンスターを探知するスキル『八咫黒鳥』って強化種ってどういう判定になるの?」

「強化種に会ったことが無いのでちょっと……む!? モンスターが来ます!」

 

――――――――――まもののむれが あらわれた!

 

「…………ドラゴンは厄介だね。アルス、ドラゴンを。千草はモンスター達が何かしそうなら牽制して」

 

 現れたモンスターは『ドラゴン』を先頭に、『トマトマーレ』に『メイジキメラ』が少し遅れてこちらに向かってくる。

 『ドラゴン』の単体能力は桜花達Lv.2以下に任せるには不安が大きい。ダフネはドラゴン系に大して特攻スキルを持つアルスに相手を任せ、残る二体は状態異常や魔法を使うので弓を持つ千草に機先を制するように指示する。

 

「はっ!」

 

――――――――――アルスは つるぎのまいを おどった!

――――――――――ドラゴンに ダメージ!

――――――――――ドラゴンを たおした!

 

 先行する『ドラゴン』に向かったアルスの軽やかな足取りからの峻烈な斬撃。四連続の鋭い切先で縦横に切り刻まれると、『ドラゴン斬り』のスキル効果と、右手に持ち替えた『ドラゴンキラー』の相乗効果で『ドラゴン』が魔石とドロップアイテムを残して消滅する。

 

「えいやっ!」

 

――――――――――命は なぎはらった!

――――――――――まもののむれに ダメージ!

 

 『ドラゴン』への攻撃を行ったアルスの横を抜けた命が『雷神のやり』を振るい、モンスターの足を止める。

 

「バイシオン!」

 

――――――――――ダフネは バイシオンを となえた!

――――――――――桜花の こうげき力が すこし あがった!

 

「おらぁっ!」

 

――――――――――ヴェルフは 無心で きりはらった!

――――――――――トマトマーレに ダメージ!

――――――――――トマトマーレを たおした!

 

「っ!」

 

――――――――――千草の こうげき!

――――――――――メイジキメラに ダメージ!

 

 『治癒魔法(ベホイミ)』を使おうとした『メイジキメラ』に千草の矢が放たれ、羽を掠めて行動が中断される。そこへダフネの『攻撃力上昇魔法(バイシオン)』を受けて黄金の光を纏った桜花が『ドラゴンバスター』を振り被る。

 

「おぉっ!」

 

――――――――――桜花の こうげき!

――――――――――メイジキメラに ダメージ!

――――――――――メイジキメラを たおした!

――――――――――まもののむれを やっつけた!

――――――――――アルスたちは 922ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――まもののむれは 魔石を 落としていった!

――――――――――トマトマーレは シルク草を 落としていった!

 

「良い攻撃だったぜ、大男」

「ダフネの魔法と借りている武器のお蔭だ。俺の実力ではない」

 

 モンスターごと地面を粉砕した『ドラゴンバスター』を背中の鞘に直す桜花の肩をダフネが軽く叩いて歩き出す。

 

「元が良くなくちゃ、魔法で上乗せしても意味はないよ。認められる時に認めないと、後が辛くなるよ」

「桜花……」

「…………分かっている、千草。肝に銘じよう」

 

 名前を呼ぶだけで言いたいことがあると分かる千草を一度見て、ダフネの言うように卑下ばかりしていてはいけないと桜花も自らを律する。

 

「だが、こうも上手くいってしまうと勘違いしてしまいそうになるのは怖い。お前達の助けがあってこそだ。礼を言わせてくれ」

「相変わらず固いぜ」

「これが桜花ですから」

 

 何度目かも分からないと呆れるヴェルフに、こういう桜花が好きな千草はとても嬉しそうに言った。

 

「なんにしても、あんなことがあったのにみんな無事でまた冒険が出来るんだから良かったんじゃないの?」

 

 捕まったり、操られたりしていた二人を見てのダフネの言葉に、まだ払拭できていない命と千草の頭が下がる。

 

「その節はみなさんにはとてもご迷惑をかけて申し訳なく――」

「それを言ったら私なんて、捕まって何も出来ずに気が付いたら全部終わっていて――」

「俺なんて眠らされて役立たずに――」

「そこの三人衆、もう謝罪合戦はいいから。無事で何よりってやつだろ。あの偽物経営者(オーナー)は無事じゃないが」

 

 この事案を穿り返すとタケミカヅチファミリアがドツボに嵌ってしまい、ダフネがマズいことを言ったとばかりの顔になり、一週間は経つのに全然変わらない彼らにヴェルフは溜息を吐きながら話題を次へと動かす。

 

「本物の経営者(オーナー)が事故死したのをいいことに身分を乗っ取って大分悪いことをしていたらしいからね。因果応報ってやつだよ」

 

 ヴェルフの話題進展にダフネも合わせる。

 

「喋り始めたのもフレイヤ様が面会した後からだろ? フレイヤファミリアを敵に回すと怖いな」

 

 ガネーシャファミリアによって拘束された経営者(オーナー)テッドはギルドの独房に投獄され、当初は用意された証拠に対しても黙秘を貫いていたがフレイヤとの面会後に一変した。

 果たして彼女が何を言ったのかはアルス達には分からないが、都市最大派閥の片方を敵に回すことの意味を思い知った。

 

「敵に回すと怖いと言えば、改めて豊穣の女主人は怒らせないと方が良いと思ったな」

「ああ、偽物の『黒拳』と『黒猫』のアレか」

 

 桜花の重苦しい言葉にヴェルフも同調する。

 

「男として、素っ裸で吊るされるのは御免被る」

「身包み剥がされて、家中の物もすっからかんになっていたらしいしな。誰だって嫌だろ」

「あれはあれで因果応報ってことだろうね」

 

 何時の間にか偽物二人が姿を消したと騒ぎになっていたら、『エルドラド・リゾート』の外壁に素っ裸で縄で吊るされて股間に『私は偽物です』と張り紙をされていた。その光景を思い出したダフネは女でも嫌だと思いながら頷いていると、命が顔を上げる。

 

彼女(アンナ・クレーズ)は、まだヘスティアファミリアに?」

「一度ああいうことがあったから、また同じようなことが起こるかもしれないからって、ウチらのホーム(竈火の館)で働かせてくれって頼み込まれてね。取り敢えずヘスティア様が帰ったら判断してもらうことにしてる」

 

 他の美姫達はギルドと娯楽都市(サントリオ・ベガ)の手厚い保証と共に元いた場所に帰って行き、それはアンナ・クレーズも同様だったが彼女だけは今はヘスティアファミリアのホームである竈火の館で働いている。

 一度自宅に戻ったが、一度標的になった以上は今後も同様のケースが起こりうることは考えられ、本人と娘の今後を心配した両親の強い望みの結果だった。

 

「当座として家政婦(メイド)として働いてもらってるが料理は美味いし、気立てもいい。正直、飯を作ってもらえるだけでも助かる。俺達だけだと店に食いに行く一択になるからな」

 

 アルスは食べる専門、ヴェルフは焼くだけ、ダフネは正直微妙という塩梅。

 料理長カサンドラ・イリオンに全任せしていたので、いない間は外食一択だったのでアンナが料理を作ってくれ、尚且つ掃除・洗濯までやってくれるので鍛冶に没頭したいヴェルフとしては今後もいてもらっても構わない派だった。

 

「悪かったね、料理できなくて」

「別に責めてねぇって」

「ふんっ」

 

 女だてらに料理も作れないのかだなんて微塵も思ってもないヴェルフに鼻を鳴らしてそっぽを向くダフネ。

 

「あの、料理なら私が作りましょうか?」

 

 おずおずと命が手を上げる。

 

「作れるの?」

「命の料理は美味しいですよ。作った事がない料理でも一度食べてレシピさえあれば美味しく作れますから」

 

 幼馴染として自慢げな千草に嘘ではないだろうと分かり、少し感心するダフネ。その近くで桜花がガックリと肩を落とす。

 

「これから命の料理なしで俺達は生きて行かないといかないのか……!」

「ほう、そりゃあ楽しみだ」

 

 ヴェルフが顎を摩っている後ろで、桜花の本気の嘆きに千草がちょっとショックを受けていた。

 

「興味はあるけど、そっちもヘスティア様が帰って来てからだね。でも、本当に良かったの? ヘスティアファミリア(うち)改宗(コンバーション)するなんて、後でどんな問題がふっかかるか分からないのに」

「今回のことは私の身勝手な行動が発端です。二度も皆さんに助けられ、その強さを身近で学びたいとタケミカヅチ様に相談し改宗(コンバーション)を希望しました。ヘスティア様が受け入れてくれるかは分かりませんが、強くなれるのならどんな苦難も覚悟の上です!」

 

 命は自分が勝手な行動に出た所為で今回の一件を起こしてしまったと強く反省した。弱い自分を変えたいと、タケミカヅチと相談してヘスティアファミリアへの『改宗(コンバージョン)』を希望したのだ。

 

「アンタらはいいの?」

「心情としては引き止めたいが、そうせざるをえない理由もある」

 

――――――――――ごろつきとオークが あらわれた!

 

 15階層でも強い方のモンスターが2体、進行方向から現れたのを見てやる気満々の命が『雷神のやり』を持って先頭に立ち、胸の前で両手を交差させる。

 

「私が行きます!」

 

――――――――――命の デビルモード!

――――――――――命は こうげき力など さまざまな能力が すこし あがった!

――――――――――命は わるい効果に かかりにくくなった!

 

「…………」

 

――――――――――アルスは ようすを うかがっている。

 

 赤黒いオーラを発して肌が青白くなった命を横目に見ながらアルスは油断なく構える。

 考えなしに敵に特攻してしましまうと一人で全てを倒してしまうので、突発的に危険な状態になるか、ダフネから指示が無い限りはアルスは戦闘に殆ど参加しないことになっていた。

 

「バギマ!」

 

――――――――――ダフネは バギマを となえた!

――――――――――まもののむれに ダメージ!

 

「おらぁっ!」

 

――――――――――ヴェルフの はやぶさのごとき 高速の 2回こうげき!

――――――――――オークに ダメージ!

――――――――――オークを たおした!

 

 ダフネが放った『真空魔法(バギマ)』を耐える為に足を止めたモンスターの片割れにヴェルフが突貫し、『キングアックス』による二連撃がイノシシ顔をしたモンスターを斜め十字に切り裂いた。

 

「おおっ!」

 

――――――――――桜花の こうげき!

――――――――――ごろつきに ダメージ!

 

 既に『攻撃力上昇魔法(バイシオン)』の効果を失っている桜花の一撃が『ごろつき』を打ち据え、片膝をついたところに踏み込んだ命がモンスターを前にして振り返る。

 

「えいやっ!」

 

――――――――――命の ヒップアタック!

――――――――――ごろつきに ダメージ!

――――――――――ごろつきを たおした!

――――――――――まもののむれを やっつけた!

――――――――――アルスたちは 301ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――まもののむれは 魔石を 落としていった!

――――――――――ごろつきは レザーマントを 落としていった!

 

 『ヒップアタック』による衝撃波で壁に叩きつけられて魔石化した『ごろつき』からドロップした『レザーアイテム』をアルスが回収している間、ダフネは難しい顔をしていた。

 

「これで、ランクアップした(Lv,2になった)のは桜花の方が先なんだっけ?」

「はい、二ヶ月ほど先に」

「武器を見ても桜花の方が攻撃力は高いはずなのに威力的には少し上回ってない?」

 

 ランクアップは桜花の方が早く、両手剣を使っている桜花の方が攻撃力は高いはずだが、武器無しの命の『ヒップアタック』の方が確実に攻撃力が高い。

 

「上回っているだろうな。感覚的に分かる」

 

 と、桜花が言っている間に、命の肌が青から元の色へと戻る。

 

「『デビルモード』というんだったか。『妖魔のバニースーツ』にまさかこんな副作用があるとは」

 

 気合を入れると能力をアップする状態になるが、その肌色は青く目も赤くなるのを見たタケミカヅチが思わず『デビルモード』と口したことでそう名付けられた。このモードになれるのは『妖魔のバニースーツ』を着た後のことで、他に習得の理由が思い足らなかったので洗脳効果による副作用と考えられた。

 

「洗脳状態で信じられない力を発揮していたが、今までの装備者はこんなことはなかったのか?」

「生憎、聞いたこともない。寧ろ命の特性かと聞きたいぐらいだ」

「私にそんな特性はありません!」

 

 ヴェルフによって変な特性をつけられそうになった命が全力で否定する。

 

「理屈は分からないけど、半ばランクアップ染みた能力アップを自分で出来るんだから冒険者としてはありがたい能力だよ」

「この状態でも普通にダフネさんにボコボコにされたような……」

「そりゃあ、ウチもLv.4に限りなく近いLv.3だからね。Lv.2に成り立てがランクアップするほどの能力アップしても負けるはずがない」

 

 ダフネの方が戦闘の経験値は多い。命も高い戦闘技術を持っているので割と危ない場面もあったりしたが、ステータスの差はまだ大きいので最終的にはダフネの大勝だった。

 

「とはいえ、ヒヤリとする場面は何度もあったよ。命は単純なステイタスによらない戦闘センス的なものは十二分に高いから、ウチの感覚では同じ装備のカサンドラとなら『デビルモード』を使った状態なら現状でも良い勝負になると思う」

 

 命は治癒師のカサンドラと互角と聞いて喜んで良いのか微妙な顔になってしまった。

 

「もっと高いLv.のアルスやヴェルフにも、あの『おいろけ』の技を使えば倒すことは十分に可能。謂わば、疑似ランクアップするスキルでデメリットなしで使えるなんて、神々に知られたらマズいでしょう」

 

 洗脳状態で使っていたダフネ曰く『おいろけ』系の技能は、Lv,が上のアルスとヴェルフで検証した結果、異性相手ならば関係なく抜群の威力を発揮することが分かった。『デビルモード』以外の時は本人が恥ずかしがって使おうとしないが。

 

「『妖魔のバニースーツ』は燃やしちまったから他の奴にも同様のスキルが目覚めるか、検証の手段がないもんな」

 

 洗脳効果を『呪いの装備(カースウェポン)』である『妖魔のバニースーツ』は、カジノでの戦闘後に命が脱いだ後にギルドもガネーシャファミリアも処遇に困り、最終的にアルスの『火炎魔法(メラゾーマ)』で焼却処分された。アルスは物凄く不本意そうだった。

 

「私としては、あまりああいう(おいろけ)系統は使いたくないのですが……」

「弱いんだから使える物は有効に使いなさい。ただでさえ、今は『デビルモード』を使える時間が短いんだから」

 

 今は『デビルモード』は短時間しか使えず、一度使えば長いインターバルが必要になる。

 

「他の目がある時は『デビルモード』は使用禁止。周りの介入を抑えられるようになるまでは出来るだけ使わない方が良い。下手をしたら、アンタ目当てで戦争遊戯を仕掛けてくる可能性もあるんだから」

「…………気を付けます」

「すまん、俺達に力があれば」

「だから、ヘスティアファミリア(うち)に来るってことになったんだから気にしないで良いさ」

「知らぬ仲でもないしね」

 

 若年でのランクアップ、汎用性が高い魔法(フツノミタマ)、高い戦闘技術…………経営者(テッド)の先見の明は正しく、更にデメリットなく能力アップできる『デビルモード』まで習得したことで命の冒険者としての有用性はかなり高い。

 リリルカ・アーデの能力を知って欲したアポロンファミリアのヒュアキントス・クリオのように、現段階で他所のファミリアが命の有用性を知って無理矢理にも奪い取ろうとした時、タケミカヅチファミリアには撥ね退ける力が足りない。

 これらはあくまで可能性の段階に過ぎないが、自らを変えて強くなりたいという彼女自身の気持ちもあって『改宗(コンバージョン)』は帰還するヘスティアの決断待ちという状態になっていた。

 

「命が抜ける戦力を埋める為のレベリングも上手くいっているし、もう良い時間だろうか野営地(13階層)に戻ろうか」

 

 ヘスティアが『改宗(コンバージョン)』に同意した場合、主力である命が抜けることでタケミカヅチファミリアの戦力ダウンは致命的だった。欠ける戦力分の向上を目指して共同でダンジョン探索を行い、タケミカヅチファミリア内のメンバーを入れ替えながら主にダフネが教導している。

 中層でのモンスターの対処の仕方、主なダンジョンギミック、ダンジョンでの夜の過ごし方等々、教えていることは多岐に渡る。

 

「もう夜だからモンスターの襲撃に気を付けて――」

 

――――――――――マーマンのむれが あらわれた!

 

 14階層に上がり、相変わらずの海に足を濡らしながら少し進んだところで魚人のモンスターが群れで前方から向かってくる。

 

「ライデイン」

 

――――――――――アルスは ライデインを となえた!

 

 十を軽く超える『マーマン』の群れを確認したアルスが手を天に掲げ、『電撃魔法(ライデイン)』を放つと無数の閃光の乱舞が起こった。闇を灼き裂き階層を揺るがすほどの衝撃を生み出しす。

 

――――――――――マーマンのむれに ダメージ!

――――――――――マーマンのむれを やっつけた!

――――――――――マーマンのむれは にげだした!

 

 『電撃魔法(ライデイン)』の効果範囲にいた『マーマン』の悉くが焼け爛れ、運良く範囲外にいたり全身が海中にあったことで被害を逃れることが出来た個体達は泡を食ったように逃げ出していった。

 

――――――――――アルスたちは 1320ポイントの経験値を かくとく!

――――――――――マーマンのむれは 魔石を 落としていった!

――――――――――マーマンのむれは ブラックパールを 落としていった!

 

 プカプカと海面に浮かぶ魔石とドロップアイテムを回収しながら、先の電撃の雨を思い出したヴェルフがブルりと身震いする。

 

「アルスの『電撃魔法(ライデイン)』怖ぇ…………耐え切ることは出来ても体が痺れて少しの間、動けなくなるんだよな」

「少しで済むだけでヴェルフも大概に異常だって」

「俺が受けたら一撃で死にそうだ」

 

 防御力では間違いなくヘスティアファミリア一のヴェルフにダフネは呆れ、死にきれずにいた『マーマン』にトドメを刺して介錯している命を見ながら桜花は遠い目をする。

 

「にしても、いくら夜だからってこんなにモンスターが襲ってくるなんて……」

 

 アルスとヴェルフと違って自分は常識枠だと思っているダフネの呟きは寄せては返すの波の音に掻き消された。

 最後の魔石とドロップアイテムを回収した千草がアルスを困ったように見る。

 

「出来れば水に浸かっている時に電撃魔法は止めてほしいです。私達まで攻撃の巻き添えになってしまいます」

「その辺りはアルス殿も考えているでしょう。現に私達にまで影響は来ていない」

「こう見えてアルスは抜かりが無いぞ。何も考えていないようで意外に考えている」

「おい、鍛冶師。それは褒めているのか貶しているのか、どっちだ?」

 

 アルスは考えているのか考えていないのか、タケミカヅチファミリアの三人の意見が纏まらない中、ダフネはさっさと纏めることにした。

 

「なんにしろアルスの魔法で14階層は何の問題も無いことは証明された」

 

 モンスターを易々と追い払えるのは今の戦闘で証明された。

 

「アルスの魔法で一蹴出来るのならリリ助ならもっと楽だろうな」

「リリルカ・アーデの魔法はもっと凄いのか?」

 

 今目にしただけにアルスの『電撃魔法(ライデイン)』を超える威力を中々に想像できない桜花の疑問に、中層でのヘスティアファミリアの冒険を間近で見ていた命が胸を張る。

 

「前の中層での冒険では、同じ魔法ならアルス殿の倍の威力が出てました」

「えっ、怖い」

 

 千草の脳裏にはリリルカが今の『電撃魔法(ライデイン)』を放って倍以上の威力を発揮している光景で、素直な感情が口をついて出た。

 

「ははは、戦ったら恐ろしいのはアルスだけど敵に回したくないのはリリルカだからね。特に優秀な前衛がいたら手に負えなくなる」

 

 『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』で散々に掻き回された側であったダフネは重い実感と共に笑う。

 

「俺からしたらパーティーバランスが良くて、個々人が強過ぎてヘスティアファミリアを絶対に敵に回したくない」

 

 異常な成長速度で前衛・中衛・後衛がバランス良く配置されていて、タケミカヅチファミリアで主力でありながら指示も出す立ち位置にある桜花としては羨まして仕方ない。

 

「そんな中に入って、私やっていけるでしょうか」

「速度重視の前衛系が入ってくれれば助かるよ。そうすればアルスが前衛と中衛で自由に動けるようになるから、結果的にパーティー全体の攻撃力が上がる。それも命がもう少しランクアップしてからだけど」

「はは、今のままでは碌に戦力になれませんからね」

「成長促進スキルが芽生えるかは未知数だ。気負わずに待つしかないさ」

 

 不安だ、とから笑いをしながらも顔に出ている命を見た桜花がいきなり頭を下げる。

 

「お前達には本当に助かる」

「いきなりどうした?」

 

 桜花の突然の行動にヴェルフはまたかよという顔をする。

 

「俺達にはダンジョンでのことを教えてくれる先達や知り合いがいないから何もかも手探りだ。教え導いてくれたことは、仮に命が抜けることになったとしても失った分を補って余りある。俺達は迷惑をかけたのに、貰ってばかりで何も返せていない」

「真面目か」

「協力にメリットがあったからしている。そこまで気負う必要はないよ」

「だが……」

 

→そこまで気にするのなら後進達に同じことをしてやればいい

  なんなら命を嫁にもらってやるぞ

 

「アルスの言う通り。何時かはアンタ達も先人になる。その時に後進達に――」

 

 その時、突如としてダンジョンが哭いた。

 壁からモンスターが産まれる亀裂が生まれる振動ではない。『安全階層(セーフティポイント)』である18階層に現れるはずの無いゴライアス(階層主)が出現する前に起こった突き上げるような揺れとも違う。まるでダンジョンが何かに怯えるように体を震わせるような横揺れに四肢や膝をつく。

 アルス達は知らない。

 遠く離れた大陸の果てにある大樹海の秘境にある『エルソスの遺跡』の上空の夜空に巨大な光の矢(アルテミスの矢)が出現したことを。

 ベル・クラネル達がアルテミスの真実を知り、神を取り込んだアンタレスと対峙していることを。

 数日前からダンジョンに泊まり込んでいるアルス達は知らない。1つ上の13階層でロキファミリアやガネーシャファミリアが暴走を始めたモンスター達の地上進出を防ぐべく展開していることを。

 

「…………収まった?」

「なんだったんだ、一体?」

 

 下界を滅ぼして余りある天界最高の矢が生まれようとしていることなど知る由もないアルス達は辺りを見渡すなどして原因を探ろうするも、ダンジョン内では分かるはずもない。

 ダンジョンは自らを怯えさせる力に対する反応として、ありえない選択肢を取った。

 特別なモンスター(階層主)を動かすことに決めた、より地上に近い特別なモンスター(階層主)を。だが、ゴライアスは倒されたばかりで、新たに産み出すには時間がかかり過ぎる。それはアイズ・ヴァレンシュタインによって倒されているウダイオスも同様で、深層にいるバロールでは地上に遠すぎる。

 故にこそ、その特別なモンスター(階層主)が海が広がる14階層に現れるのは必然だった。

 14階層で生まれたクラーゴンが22階層に移動したように、各階層には何らかの繋がりがある。22階層と、特別なモンスター(階層主)が縄張りとしている階層と繋がっていても何の不思議もない。

 そしてその特別なモンスター(階層主)は27階層から29階層を階層移動出来る特性がある。

 

→構えろ!

 おお、神よ……!

 

 直後、アルス達から離れた場所で海面が爆発した。

 凄まじい水飛沫が14階層の天井にまで跳ね上がり、行き場を失った水飛沫が直ぐに猛烈な降雨となって落ちてくる。

 

「まさか……」

「冗談だろ、おい!」

 

 海面をぶち上げて現れた特別なモンスター(階層主)は、自ら作り出した降雨を浴びながら傲然と二つ首を擡げた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』 

 

――――――――――アンフィス・バエナが あらわれた!

 

 

 

 

 

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