ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第80話 ま、まさかそれは伝説の――!?

 

 

 

 

 

 29階層を冒険後、ベル・クラネルの『迷宮脱出魔法(リレミト)』で地上に一瞬で帰還し、アルス・クラネルの『瞬間移動魔法(ルーラ)』で『竈火の館(ホーム)』へ一瞬で移動するという、世の冒険者が知れば剣を持って襲いかかること間違いなしなので、人に見られないようにひっそりと行動した。

 家政婦アンナ・クレーズが作り置いてくれた夕食を食べた後、ヴェルフ・クロッゾの主導でヘスティアファミリアの男衆でコソコソと『竈火の館(ホーム)』を抜け出してやって来たのが歓楽街だった。

 

→やってきました、歓楽街!

  ワンナイトフィーバー!

 

「なんで?」

「なんでって、男が気を紛らわすなら酒か女らしいぞ」

 

 黒い着流しを纏ったヴェルフがベルの疑問に答えつつ、歓楽街の大通りを見回す。

 

「ベルはまだ酒を飲んだことがないんだろ? なら、女ってことで歓楽街だ。元々、オラリオにはハーレムを作りに来たのなら本望だろ?」

「ハーレムはお爺ちゃんが男に生まれたら目指さなきゃいけないって言ってたから……」

 

 ヴェルフの言葉にベルは困ったような顔をする。

 本来ならば吹聴しない動機もアルスによってあっさりと明かされてしまうので、半ば諦めている。神々で言うところの黒歴史を何時までも穿り返されているようで、この話を続けるのは気持ちの良いものではない。

 

「それにしても、歓楽街(こういう場所)があるってことは知ってたけど」

「なんだ、知ってたのか」

「オラリオに来て少しした時にアルスが、ね」

「ああ……」

 

 ハーレム云々と言う割には純情なベルが歓楽街の存在を知悉していたことに驚くも、アルスの名前が挙がって納得するヴェルフ。

 

「前来た時は日中だったから扉も窓も閉まってて通りも閑散としてて、その話を神様にしたら怒って近づくのも禁止されたんだ」

 

 まだオラリオに来たばかりで右も左も分からなかった時に好奇心で近くまで来た時があまりにも閑散としていたから引き返したことを伝えると、貞潔を司る処女神であるヘスティアは血相を変えて怒り出した。

 

「ヘスティア様なら言いそうだ。けど、アルスなら気にせず来そうな気がするが」

「歓楽街が開く時間は晩ご飯時からだから、帰って来ないとご飯抜きになるから」

「色気よりも食い気が勝ったか」

 

 禁止されたら逆にしたくなるタイプのアルスも食い気には勝てなかった。

 

「今と違って買い食いする金銭的余裕も無かったから、一食でも抜くとお腹が空くのは割と切実だったんだよ」

 

 アルスが【聖竜の祝福(スキル)】に目覚めるまでは、主食がヘスティアがバイト先から貰ってくる『ジャガ丸くん』でギリギリ空腹を感じない量。当然ながら食べ盛りの年齢であるクラネル兄弟は物足りない。

 食い溜めも出来ないので夕食抜きになると、本気で空腹で夜眠れなくなる。

 

「アルスも余裕が出来た頃にはダンジョンに潜るのが楽しくなったみたいで、歓楽街のことは忘れてたんじゃないかな」

「気持ちは分かるな。俺も鍛冶が上手くいくのが続けば熱中して他のことは頭から吹っ飛ぶもんだ」

 

 分野は違うとしてもアルスの理由に大いに共感できたヴェルフは何度も頷く。

 ベルはオドオドとして落ち着かない自分やキョロキョロと興味深そうに周りを見ているアルスと違って、泰然自若としたヴェルフの姿にとある事実に気づいて戦慄した。

 

「う゛ぇ、ヴェルフは歓楽街(こういう所)に来たことあるの?」

 

 声が裏返ってしまうのも構わず聞くベル。

 

「ヘファイストス様の下にいた時、同僚連中に連れられてことはあったが、利用したことは無いぞ」

「へ?」

 

 慣れすら感じさせる態度に常連なのかと邪推したベルの思惑は裏切られた。

 当のヴェルフはベルの邪推に気づいた様子も無く眉間に皺を寄せている。

 

「匂いが、どうしてもな。後、ここの空気はどうにも肌に合わない。俺には鍛冶場が性に合ってる」

 

 甘い笑みを浮かべて寄って来ようとする娼婦達を辟易とした仕草で追い払うヴェルフのらしい理由に納得する。

 娼婦の呼び込みにフラフラと引き寄せられかけたアルスを引き留めるベルを見たヴェルフは歓楽街に来たのならば必要な物を渡しておこうと懐に手を入れる。

 

「ところで、歓楽街(こういう所)だから念の為に魅了耐性付ける為に『不惑のネックレス』を装備しておくか?」

「念の為ってどういう為?」

 

 渡された『不惑のネックレス』を受け取ったベルはアルスの襟元を掴んだままで首を傾げる。

 

「この第三区画は歓楽街であるとの同時に美の女神イシュタル様のファミリアの勢力圏だ。無いとは思うが派閥に探りを入れてると思われた時用にってことで」

「装備も外して、変装もしてるから大丈夫じゃないかな」

 

 ヘスティアファミリアは飛ぶ鳥を落とす勢いがあると言われるほど有名ファミリアである。歓楽街に来たことで難癖を付けられないように三人とも変装していた。

 まずベルは、自身の特徴的な白髪を隠す為に、頭に『バンダナ』を被っている。

 アルスは赤目を隠す為に『ぐるぐるメガネ』をかけ、ヴェルフはかけているだけで頭が良さそうに見える『インテリめがね』をつけていた。

 白髪赤目の双子の兄弟という特徴を無くせば、年若い冒険者のヒューマンということで直接の知り合いでも無ければ意外に正体はバレない。

 

「言っただろ、念の為って。自分で言うのもなんだが、俺は魅了系に耐性があんまりないらしい」

 

 『最大賭博場(グラン・カジノ)』で闇堕ちしたヤマト・命に魅了された経験からヴェルフは自身の魅了への耐性の無さを実感していた。

 抗おうとしても蕩けさせられそうになる自分の経験からすると、対策を取っていないとどうなるか分からないので、鍛冶師としてある程度装備を整えておくのは当たり前。それが無くても魅了されて仲間の足を引っ張るのは避けたい事態だ。

 

「ヴェルフがそこまで言うなら――」

 

 実体験が籠もった言葉の重みに押されたベルが『不惑のネックレス』を装備している姿を遠くから見る二つの影。

 

「――――――――ふ、不潔です!? このような場所(歓楽街)に来るなど!」

 

 見つめる影の一人、闇落ちを自らの力に変えて『デビルモード』を習得した命は歓楽街特有のピンク色の雰囲気に顔を真っ赤にしていた。

 

「しっ! 命、声が大きい。向こうに聞かれる」

 

 もう一つの影の主であるダフネ・ラウロスは大きな声を上げた命を諫める。

 

「す、すみません。ですが、三人はどうしてこのような場所に……」

「大方の予想はつくよ。命だって分かってるんじゃない?」

 

 夕食後にコソコソと『竈火の館(ホーム)』を抜け出した三人を追ってきたが、諫められた命も予想がつかないわけではない。

 

「…………やはりベル殿の為に、ですか」

「ショック療法な感じもするけどね。ダンジョンで改善が見られないなら、有り寄りの有りだと思う」

「にしても、他にやりようがあるような……」

 

 命も歓楽街がどういう場所であるかをタケミカヅチから教えられている。ダフネの意見も理解は出来るのだが、あやうくテリー・セルバンティスの手に落ちかけた経験があるだけに、歓楽街に来るような方法に若干の嫌悪感を覚えざるをえない。

 

「駄目で元々。有名ファミリアが歓楽街(こういう場所)に出入りすると噂が立つから良くないんだけど仲間内では避けたいし。変に拗れるようなことがあったらお互いに気まずいだけだからね。関係が発展した上でのことなら文句はないんだけど」

 

 ダフネが以前所属していたアポロンファミリアには百人を超える眷属がいた。アポロン至上主義ではあったが、男女がいれば惚れた腫れたの話は必ず出てくる。

 人間関係の話なのだから必ずしも円満に進むとは限らず、痴情のもつれが起こったことは一度や二度ではない。姉御肌な性格故に様々な相談や解決を行ったことは数知れないダフネは実感の籠った溜息を漏らす。

 ヘスティアファミリアのような少数人数のファミリアだと、たった二人でもギスギスとした関係になると即全体の空気まで悪くなることを危惧しなければならないのが姉御肌の辛いところ。

 

タケミカヅチファミリア(前のファミリア)ではそういうことはなかったの?」

「私達は小さい頃から一緒でしたから。相手をそういう目で見ることは少なかったので、あるとしてもやはり避けているところもありました」

「まあ、そうだよね。かといって、別ファミリアの相手ともなると派閥間の問題とかもあるし、何時どちらかが死ぬかも分かりませんから結構、冒険者同士ってのは意外に多くない。だから、歓楽街(こういう場所)で欲を発散するんだろうね」

 

 別派閥同士で子供が出来たとすると、どちらのファミリアに所属するのかという問題もある。

 ダンジョンという命の保証がされない場所でプレッシャーに晒され、反動で三大欲求の食欲と性欲が爆発するケースは良くあることで、歓楽街が繁盛しているのもそこら辺にも理由がある。

 

「まだ付き合いは短いですが、ベル殿の気質的に上手くいくとは思えませんが」

 

 ヴェルフに背を押されて進みながら、露出の多い娼婦達が近くを通りかかったりするだけでアワアワしている。

 

「駄目で元々って言ったでしょ。男なんて単純なんだから女を知れば変わるかもよ。歓楽街には男娼もいるし、なんなら命も経験してみる?」

「だ、男娼!? わ、わたしははじめてはすきなあいてと、その」

「はいはい。ま、ベルのことも上手くいくとは思わないけど。少しでも気が紛れればと思っただけだからね」

 

 あの様子ならヴェルフが上手くやるだろうと纏められると、別案を出せない命にはそれ以上の文句を出せない。

 

「そ、そうですか……ところで、ダフネ殿は随分と詳しいようですが既にそういう経験を……?」

 

 それはそれとして、自分とは違って歓楽街に知悉しているダフネにちょっとドキドキしながら聞く。

 

「え、何? 興味があるの?」

「あ、いや、その……」

「そういう年頃だもんね。やっぱり男娼のいる所に行っとく?」

 

 ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべたダフネは命の純情さにクスクス笑いながら、からかう。

 

「リリルカ殿の特訓を手伝いに戻りましょう!」

「え~、手伝いはカサンドラだけで十分だって」

 

 冒険中に起こった不可思議な現象の検証を行う為に残ったリリルカ・アーデと、怪我する危険があるかもしれないと手伝いを名乗り出たカサンドラ・イリオンの二人。手伝いを建前として命はダフネを促して踵を返す。

 

「早く帰りますよ!」

「はいは~い」

 

 からかって十分に満足したダフネは念を押してくる命と帰路につくのだった。

 

「あれ、もしかしてベル君かい?」

 

 二人が完全に歓楽街から出て少しした頃、特に目的地もなく大通りをアワアワとしながら進んでいたベルは突然名前を呼ばれて立ち止まった。

 

「ヘルメス様?」

 

 声をかけてきた橙黄色の髪をした旅人風の優男は数日前で行動を共にしていた男神であった。

 

「ああ、やっぱり良かった。三人とも変装しているから良く似た他人の空似かと思った」

「僕達はオラリオでは有名人なので、騒動を避ける為に。知り合いでなければ意外と気づかれないんですよ」

「然もありなんだな。大変だな、有名人は」

「もう慣れました」

 

 呼び込みに付いて行きそうになっているアルスを引き留めているヴェルフを視界の端に収めながら話していると、そちらをチラリと見たヘルメスは何時も通りの胡散臭そうな笑みを浮かべる。

 

「しかし、意外だ。ベル君が歓楽街に来てるなんて」

「ぼ、僕はヴェルフに場所も知らずに連れて来られただけで、こんな場所だって知ってたら来てません!」

 

 心外だとベルは全力で否定する。

 歓楽街に訪れることになったのも、ヴェルフに連れて来られたからであり、自分の本意ではないことを主張しておきたかった。

 

「はは、分かってるよ。ヘスティアが知ってたら絶対に止めてただろうしね」

 

 ヘルメスもベルが本当に自分から進んで歓楽街に来るようなタイプでは無いことは十分に察していたので、本気で言っていたわけでは無い。

 

「でも、ヘルメス様。まだ十日も経っていないのに、どうやってオラリオに?」

 

 飛竜による空路で十日以上かかる距離がある『エルソスの遺跡』。『瞬間移動魔法(ルーラ)』という反則的な方法で帰還したベル達を例外とすればまだ四日しか経っていないのに、ヘルメスは今目の前にいる。

 アルスを回収したヴェルフが他にも移動手段があったのかと訝しむ。

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれた! オレがこんなにも早くオラリオに戻れたのはコレ(・・)のお陰なんだ!」

 

 そう言ってヘルメスが懐から取り出したのは、鳥の羽根を集めて羽の形に加工したような見た目の装飾品。

 

「それは……?」

 

→ヴェルフ、分かるか?

 ま、まさかそれは伝説の――!?

 

「見たことは無い。魔道具の類いではあるのは間違いないと思うが」

「正解だよ、ヴェルフ君」

 

 顎に手を当てたヴェルフにヘルメスは頷いて答える。

  『インテリめがね』をかけているので、ヴェルフがとても賢く見えてアルスは別方向に感心して、次の変装ではアレを使おうと心に決める。

 

「これはうちのアスフィが作った…………発見した?…………『キメラのつばさ』と言ってね。恐らくアルス君やリリルカ君の魔法と似たような機能を持っている」

 

 途中で首を傾げつつ言ったヘルメスに、聞き逃せない言葉があったベルは目を瞬かせる。

 

「二人の魔法と似たような機能、ですか?」

「ああ、アポロンとの『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』でアルス君が使った移動系の魔法と、リリルカ君が『エルソスの遺跡』で使った魔法は同じものとオレは見た」

 

 ベル君達が既にオラリオにいて、オレも同じようにオラリオにいることがその証明だと続けたヘルメスの推測にヴェルフは考える。

 

「ということは、その『キメラのつばさ』を使えば、『瞬間移動魔法(ルーラ)』みたいに行ったことのある場所にどこにでも行けると?」

「へえ、君達の魔法は便利だね。羨ましい限りだ」

 

 まずいことを言ってしまったと、ヴェルフは内心で舌打ちする。

 同じ結果に至っているからと、『瞬間移動魔法(ルーラ)』と同系統・同タイプだとしても全く同じ効果を発揮するとは限らない。

 

「残念ながら『キメラのつばさ』はそこまで便利な魔道具じゃない。これで移動できるのは、アスフィ曰く『道程(ルート)をイメージ出来る最後に訪れた場所』のみなんだそうだ」

 

 詳しい理屈はオレにも分からんがね、と纏めたヘルメス。

 

「それでも十分便利なような……」

「重宝はしてるさ。ただ、作成方法が面倒らしくてあんまり量産出来ないらしい。だから、このことは秘密にしておいてくれ」

 

 『キメラ』が雷に撃たれて死ぬと、その翼だけは神秘的な飛行能力を秘めたままドロップアイテムとして残る。稀代の魔道具作製者(アイテムメーカー)であるアスフィ・アル・アンドロメダだけが気づき、現在も秘匿して独占している。

 

「あれ、その『キメラのつばさ』があれば十日も旅をしなくても良かったんじゃ無いですか」

 

 ヘルメスが最後に訪れた場所が『エルソスの遺跡』とは限らなかったが、『キメラのつばさ』を使えば旅の必要性も無かったとヴェルフが気づいた。

 

「あの旅が必要だったのさ。ベル君もそう思うだろ?」

「…………ええ、まあ」

 

 女神を殺すだけならば、十日も時間は必要なかった。泣いている女の子を救う為には、お互いを知る為には、時間は短くともあの旅は必要だったとベルも思う。

 それでも未だジクジクと痛む心の傷にベルは俯いてしまう。

 

「………………折角、歓楽街にいて、こんなにも良い夜なんだ。罪滅ぼしじゃないが、受け取ってくれ。オレからの餞別だ」

 

 選ばれたのはベルであっても、アルテミスと出会わせて全て分かった上で導いたヘルメスは懐から小さな小瓶を取り出した、

 

「何ですか、これは?」

 

 自身に差し出された赤い溶液が入った小瓶を受け取ったベルは中身を問う。

 

「夜のお供、精力剤さ♪」

「せっ!?」

 

 精力剤の意味が分からないほどベルも子供ではない。

 盛大に噴き出したベルに笑みを浮かべたヘルメスがすうっと大きく息を吸う。

 

「ヘスティアファミリアの男衆が変装して歓楽街に来てるぞ! 早い者勝ちだ! 出合え! 出合え!」

 

 ヘルメスが大声を張り上げると、辺りにいた相手がいない娼婦達が一斉にベル達を見る。

 

「ちょ、ヘルメス様何を!?」

 

 視線に物理的な力さえ宿っていそうな圧力にベル達の足が一歩下がる。

 

「マズいぞ、ベル。これは――」

 

 ジリジリと包囲網を狭めてくる娼婦達。

 

「君達に出来る(オレ)が出来る精一杯のお節介だ。楽しんで行ってくれ」

 

 片手を上げて楽しげに言うヘルメスが行ったことを、人は余計なお節介という。

 

→逃げるぞ!

  迎撃だ!

 

 アルスの叫びと同時に娼婦達が躍りかかった。

 大通りを喧噪が支配する中から抜け出したヘルメスは、希少な『キメラのつばさ』を使ってでも急いでオラリオに戻ってきた理由である小鞄に入っている密封された黒檀の箱の輪郭を指でなぞりながら、思考は先程まで会っていたヘスティアファミリアの面々のことにあった。

 

「ドロップアイテムである『キメラのつばさ』とアルス君達の魔法は似ている点がある。アポロンとの『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』で放ったリリルカ君の魔法は、よくよく考えればモンスターが使う魔法に似ていた。この類似は本当にただの偶然なのか?」

 

 

 

 

 

 

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