ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

81 / 88
第81話 拙者は女の胸になど、負けないでゴワス

 

 

 

 

 

 歓楽街で会ったヘルメスによって身元を周囲に暴露されたヘスティアファミリアの男衆三人組。

 男衆にとって歓楽街は土地勘の無い場所なので、群がってくる娼婦達から全速力で逃げ回っていれば現在地が分からなくなってしまう。

 

→迷った!

  あれだけいたならハーレムも夢じゃなかったのに……

 

「そんなに全力で言わなくても」

「まあ、実際迷っちまったもんな。我武者羅に走りすぎた」

 

 身なりを気にする余裕も無いほどに走り回ったヴェルフなどは乱れた着流しを直したところで、付けていた『インテリめがね』を落としてしまっていることに気が付いた。ベルも汗を掻いたのか、『バンダナ』を脱いで扇いでいる。

 『神の恩恵(ファルナ)』を有していない娼婦がベル達に比べれば『すばやさ』で大きく劣るヴェルフに追いつかんばかりの気勢を見せた。下に恐ろしきは、極上の獲物を見つけた娼婦達の執念か。

 

「本当にここはどこだろう……」

「歓楽街は抜けてないみたいだが、現在地はさっぱりだ」

 

 歓楽街では、あらゆる異国情調が溢れかえった世界中の様式の娼館が広がる街並みである。区画によって建築様式が変わっており、今いる場所は極東の建物が続いている。

 極東区画であることは分かっても、当のその区画が広大な歓楽街のどの場所にあるかまでは分からないので端的に言えば迷子だった。

 

「もうこの際だから『瞬間移動魔法(ルーラ)』で帰っちゃう?」

 

→帰って、また来よう

  え~、遊んでからで良くね?

 

「神様にバレたら怒られるから止めとこうよ」

 

 あれだけ娼婦達に追いかけ回されても恐れを抱いていないアルスに呆れるベル。

 

「あれだけ騒動になったんだ。もう噂になってるかもしれんぞ」

「追い回されたところまでセットで伝えるよ。途中までダフネさんと命さんがいたんだから証言をしてくれるはず」

 

 ベルの言葉にヴェルフは目をパチクリとさせる。

 

「なんだ、あの二人が来てたのか」

「ヘルメス様に会うまでぐらいはね。大した時間も経ってないし、最悪ヘルメス様に責任を負ってもらうことにしよう」

 

 気配を感知出来るギリギリのところにいたので、命はともかくとしてダフネは分かった上で行動していたのだろうと察しはついていた。

 

「実際、ヘルメス様の所為でエラい目に合ったもんな。下手に出歩けばまた追い回されかねん。アルスもいいよな?」

 

 致し方なし、と大きく頷いたアルスもヘルメスへの責任の押しつけは許されるだろうと認める。

 

「じゃあ、一度『竈火の館(ホーム)』に帰ろう。『瞬間移動魔法(ルーラ)』を人に見られるのはマズいからそこの脇道で――」

 

 天井の無い所なら『瞬間移動魔法(ルーラ)』を使えば一瞬で『竈火の館(ホーム)』まで帰れる。ベルが余所見をしながら脇道に行こうとした時、その脇道から同じように余所見をした女性が出てきた。

 

「おっと」

「あ」

 

 ぶつかりかけた二人は同じ方に避けかけ、ベルが一瞬早く動いて接触を回避する。

 

「す、すいません。大丈夫でしたか?」

 

 ぶつからなかったとはいえ、悪いのは余所見をした自分だと思ったベルが女性の方を振り返る。

 

「ああ、お陰様でね」

 

 『すばやさ』と『きようさ』はファミリア内で突出しているベルと近い動きをした女性は、ベルと変わらず『ぐるぐるメガネ』をつけたままのアルス、そして『インテリめがね』を落としているヴェルフを順に見ていく。

 

「『白兎の剣士(ラビット・ソード)』に『白兎の脚(ラビット・フット)』、それに『不冷(イグニス)』だったか。有名人が歓楽街に何の用だい?」

「え?」

「白髪赤目の兄弟で、私より素早いなんて他にいないだろ」

 

 言われてベルは掻いた汗を拭う為に『バンダナ』を外して手に持っていることに今更ながらに気づいた。

 特徴的な白髪赤目の姿が明らかになり、アルスは『ぐるぐるメガネ』をつけているが白髪と見えている顔の輪郭からベルと相似であることはよく見れば分かる。後はヴェルフの情報と照らし合わせれば、ベル達の正体に気づくのはそう難しいことではないと女性――――――アマゾネスのアイシャ・ベルカは断定する。

 

「バレちまったな」

「どどどど、どうしよう!? なんか怒ってるし、もしかして派閥を探りに来たとか思われて――」

 

 先程、散々に追い回されたので今更バレても仕方ないと開き直るヴェルフのようにはなれないベルが小声で話していると、アイシャが一歩踏み出す。

 

「コソコソするのは良いが、質問に答えてくれるかい」

「え、えーと」

 

→や、この前、ぶっ飛ばしたけど傷は治ったか?

 か、カエルはいないよな?

 

 更に一歩踏み出しかけたアイシャの足がアルスの言葉で止まる。

 

「…………何のことだい? 初対面のはず――」

 

 メレン、とアルスが言いかけたところでアイシャが現れた脇道から話し声が聞こえてきた。

 

「今日は不作だよー」

「だよねぇ。碌な男がいやしない」

「む、なんだか向こうから青い男の匂いがする!」

 

 複数人の話し声の主達は直ぐに現れ、アイシャと同じく布面積が少ない衣装を着たアマゾネスが四人。

 

「アイシャ、誰それー?」

 

 四人の内の一人が知り合いらしいアイシャに向かって、アルス達のことを問う。

 

「ヘスティアファミリアの男衆だよ。遊びに来たんだとさ」

 

 未だ歓楽街に来た目的を話していないが、普通に考えれば歓楽街に来た男たちの目的は一つ。実際、来た目的はベルの慰安なのだから間違ってもない。

 

「ヘスティアファミリアって、あの?」

「今、最も勢いのあるファミリア」

「その男衆が遊びに来たって?」

 

 アイシャの言葉を吟味したアマゾネスの一団が順繰りにベル・アルス・ヴェルフを見ていく。

 アマゾネスがどういう種族であるかをヘファイストスファミリア時代に娼館に連れてきた先輩から聞いていたヴェルフ。先程の会話から彼女たちが娼婦として働いていることを察して、この先の展開が未来予知の如く読めてしまい、アルスの後ろに回って、他の装備は外しても絶対にこれだけは外さなかった『どうぐぶくろ』を借りる。

 

「違うんです! 僕達は、そのっ、変な目的があって来たわけじゃなくて!?」

 

 ヘスティアファミリアの評判の為にベルは弁明しなければならなかった――――――――――その手に精力剤に持ったままなのを忘れて。

 

「精力剤持っといて?」

「しかも最高級品」

「ご、誤解なんです!?」

 

 客が精力剤を使うことがあるので良く知っているアイシャの冷静な指摘に、ベルは持ったままだった精力剤を背中の後ろに隠すが残念ながら説得力が無い。寧ろ遊ぶ気満々とすら言われても仕方の無い道具である。

 

「こっちは五人だから二人あぶれちゃうね。どうする?」

「不公平がないように向こうに選んでもらうとか」

 

  ヴェルフが目的の物を見つけて取り出し、『どうぐぶくろ』を返したところでアマゾネスの一団の密談が聞こえていたアイシャがアルスを自身の豊満な胸元に引き寄せる。

 

――――――――――アイシャは アルスに ぱふぱふを してあげた!

――――――――――アイシャ 「ぱふぱふ ぱふぱふ…………

――――――――――アルスは きもちが よさそうだ!

――――――――――アルスは うっとりしている……

 

「残念ながらアルス(こいつ)は私の獲物だよ。あんたもそれでいいよね?」

 

→えへへ、柔らかいからなんでもいいっす

  女の胸になど、拙者は負けないでゴワス

 

「っていうわけだ。指名が入ったんだからこっちは無理だよ。そっちは自由にしな」

 

 ヴェルフは目的の物である『漆黒兜(ハデス・ヘッド)』を装着した。

 

「ベル、後は任せた」

 

――――――――――ヴェルフは ハデスヘッドを そうびした!

――――――――――なんと ヴェルフが きえた!

――――――――――ヴェルフは にげだした!

 

 ヘルメスが18階層でモルド・ラトロー達をけしかけてベル達を襲わせた際に貸し出した、装備すると姿が見えなくなる『漆黒兜(ハデス・ヘッド)』をアルスが回収しており、『どうぐぶくろ』に入れっぱなしにしていることを知っていたヴェルフは、これ幸いとばかりに使って逃げ出した。

 高ランク冒険者ならば姿を消そうが気配を探れるが、逃げればいいのだと分かったベルも後を追おうとした。

 

「あ!? ずるい、僕も――!」

 

――――――――――ベルは にげだした!

――――――――――しかし アマゾネスたちに まわりこまれて しまった!

 

「これ以上は逃がさないよ!」

「アタシを選ぶんだよ!」

「そんなツルベタより私の方が!」

 

 四人のアマゾネス達は姿の見えないヴェルフを追うよりも確実にベルを捕まえることを優先した。

 抜群の連携でベルの機先を制して逃げ道を封じ、出足を抑え込むことを成功した仲間達を見ることなくアイシャはアルスを伴ってその場を離れた。

 

「さあ、落ち着ける場所に行くよ」

 

 アイシャに腕に抱き着かれて豊満な胸の感触を感じてデレッデレなアルスが連れて来られたのは布団が敷かれた部屋。

 一度、腕から離れたアイシャが棚から高そうな酒瓶とグラスを取り出している間、アルスは部屋を見渡して淡い灯りが灯された燭台の下に紙が挟まっているのに気づいた。

 

――――――――――アルスは レシピブック 『大自然のイヤリング』を 手に入れた!

――――――――――熱砂のイヤリングの レシピを 覚えた!

――――――――――吹雪のイヤリングの レシピを 覚えた!

――――――――――雷光のイヤリングの レシピを 覚えた!

 

「――――――酒は飲めるかい?」

 

 飲んだことは無い、とレシピを一瞬の内に『どうぐぶくろ』に入れたアルスは何も無かったかのように首を横に振って示す。

 

「イイ男ってのは酒飲みでもあるんだ。この機会に飲んでおきな」

 

 窓際のテーブルを挟んだ対面の椅子を勧められたアルスは座り、トクトクとグラスに注がれる無色透明の酒を見る。

 無言で自身のグラスにも酒を注いだアイシャがアルスの対面の椅子に座る。

 

「…………しかし、アンタも変わった奴だね。一度やり合った相手の誘いに乗るなんて」

 

→爺ちゃんから『イイ女に誘われたら、全て放り出してでも受けろ』って教わった

  パフパフの魔力には抗えなかったんだ……

 

「そうかい。じゃあ、再会を祝してといこうか」

 

 イイ女扱いされて悪い気にはならない。アイシャは気を取り直してグラスを掲げ、アルスと乾杯する。

 

「ゲゲゲゲゲ、上手く逃げるじゃあないかぁっ! 生きの良い獲物は嫌いじゃないよ!」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいっっっっ!?」

「さ」「せ」「る」「「「「「かあっ!!」」」」」

「この――不細工どもがぁああああああああああああああっ!! 邪魔するんじゃないよぉ! そのオスはアタイのもんだぁっ!」

 

 無言で一杯目を飲んでも無音とはいかず、外からはカエルの鳴き声のような声とベルの悲鳴、アマゾネス達の勇ましい声が続き、破壊音が散発して木霊する。

 

「あらら、フリュネまで参加してるのかい。こりゃあとんでもない騒動になるかもね」

 

 聞こえてきたカエル声から騒動が厄介事レベルにまで大きくなっているのを他人事のように呟いたアイシャは、残っていたグラスの酒を一気に飲み干す。

 

「フリュネに捕まると食い潰されて使い物にならなくされちまうよ。助けてやるべき――」

 

 品性下劣なカエルであっても、フリュネ・ジャミールは腐っても第一級冒険者。兄弟ならば手助けの一つでも必要ではないかと言おうと、アイシャが対面を見ると空っぽになったグラスがテーブルに置いてあるだけでアルスがいない。 

 少し顔を横に向ければ、顔を真っ赤にしたアルスが布団に寝っ転がって大口を開けて寝ていた。

 

「――――なんだい、もう寝ちゃったのか」

 

 初めて飲んだのが度数の高い酒だった所為であっという間に酔いが回ってしまったらしい。椅子で寝ずに布団にたどり着いているところは要領がいいのか器用なのか。

 

「こんな良い女がいるってのに手を出さないなんて、戦士としては上々でも男としてはまだまだだね」

 

 立ち上がり布団まで行き、屈んで寝ているアルスの鼻を摘まんでみれば、ふがっと変な声が上がった。

 

「そう言えば、まだ大人っていうには男っぽさが足りないか」

 

 間抜けともいえる声に小さく笑ったアイシャは良いことを思いついた。

 

「仕方ない。今日はこれで我慢してあげるよ」

 

 偶にはこんな夜があってもいいだろうと、外から聞こえる騒動を子守歌にしてアルスの横に寝転がって、密着状態で目を瞑る。

 

「待ちな、ウサギィッ! 絶対に逃がさないよ!!」

 

 夜が過ぎ去っていく。

 追い立てられた果て、ベルは金と出会う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオでバベルに次いで高さのあるイシュタルファミリアのホーム『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』の宮殿の最上階に朝日が差し込む。

 イシュタルファミリアは都市南東部に位置する第三区画で娼館街を営み、日毎夜毎叩き出される利益は、歓楽街全体収入の四割以上を占めるとまで言われている。商業の功績も含めて派閥の等級はA。オラリオの中でもイシュタルファミリアを明確に上回っている派閥は、等級がSのロキファミリア・フレイヤファミリア・ガネーシャファミリアの三つだけ。

 間違いなくオラリオにおいてもトップクラスと言っていい派閥の主神の自室は、本神の気質もあるだろうがそれはそれは豪華なものだった。

 高価な絵画に豪華なタペストリーに大輪を彷彿とさせる美しいカーペット、銀の燭台に黄金の鏡台。部屋にいるだけで金銭感覚を狂わせる調度品の数々。そして室内で最も目立つ天蓋付きの大きなベッドにはシクシクと泣く男神―――――ヘルメスが枕を濡らしていた。

 

「ベル・クラネルに、アルス・クラネルか」

 

 ヘルメスを泣かしたイシュタルは天鵞絨張りの長椅子に座って、それ一つだけで一般冒険者の一年分の稼ぎに匹敵するキセルから口を離し、薄白い煙を吐き出しながら呟く。

 

「オラリオを席巻する、ファミリア単位の成長促進スキルの保持者。噂には聞いていたが、あんなガキ共に夢中とはあの女の気がしれん」

 

 成長促進スキルに興味はあるがイシュタルは不確実性の高い物を信用しない。アポロンとの『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』はイシュタルも観戦したが、将来性はともかくあの時点では食指を動かされる存在はいなかった。

 強いて言えば、『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』後にフレイヤがヘスティアの肩を持ったことに物珍しさを感じた程度。どうせあの女神らしい気まぐれだろうと思っていたが、ヘルメスからあらゆる情報を強制的に根掘り葉掘り聞き出すと違うと分かった。

 

「いいだろう。大事の前に、あのガキ共を奪ってやる」

 

 既に計画は最終段階に近づいている。だが、その前に余興を挟むのも一興だろうとイシュタルは考えた。

 

「ファミリアを潰し、跪かせたあの女の前に私の虜にしたガキ共を見せたらどんな顔をするだろうねぇ。今から楽しみだ」

 

 来る未来に想いを馳せて残酷に笑っていたが、ヘルメスを帰した後に件のベルを追いかけまわしたフリュネが壊した被害に頭を抱えることになることを、この時のイシュタルは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。