ソードオラトリア7巻編に突入です。
本当なら次の話と合わせて一話にしたかったんですが思いの外、長くなってしまいまして……。
18階層中央に広がる大森林を抜けて東端の壁際。無数の石材を用いられた大型の横穴に人為的に作られた少ない階段を下った先にある扉。
左右に悪魔を象った彫像が据えられた門は『
「――――アバカム!」
――――――――――カサンドラは アバカムを となえた!
カサンドラ・イリオンが『
扉が開いていくと同時に、隠されていた向こう側が徐々に見えてきた。
薄闇が蔓延る通路が明らかになり、両壁上部に埋め込まれた青い燐光を放つ魔石灯が等間隔に配置され、石板で覆われた床・壁・天井を薄らと照らしていた。魔石灯がまるで不気味な陰火のように揺らめいて奥へと続いている。
「ダンジョンとは違う明らかな人工物、『
不意に扉が閉まっても内部に閉じ込められないように注意しながら、内部を覗き込んだダフネ・ラウロスは嘆息する。
「やはり『
「寧ろ逆に拠点でなければ、誰がダンジョン内にこのような施設を作るのでしょうか」
通路の先に何があるのかと目を窄めているヤマト・命の確認に、『らいていの杖』先をユラユラとさせたリリルカ・アーデは『
「なあ、それよりもこの扉をどうにかして持って帰れないか!」
通路向こうを気にしているメンバーの中でただ一人、開けられた扉にこそ熱中しているヴェルフ・クロッゾが喜々として聞く。
「『
「ベル! 敵の気配は! 罠とかあるか!」
「…………周囲に誰もいないし、見る限りでは罠はないと思う」
『
「だそうだ、ダフネ! いいか、いいよな、良いに決まってるよな!!」
「良いけど、『
『
「どこまでにせよ、壁との接合部分か、壁の全てにまで『
扉片方だけでも数Mはあるが、『どうぐぶくろ』の出し入れに物の大きさはあまり関係ない。限度はあるだろうが、テントを出し入れが出来るのだから扉も問題ないだろう。
「貴重な『
「ああ、そうだったね。じゃあ、ベル。頼んだよ」
「分かりました」
ベルが開いた扉の中心に移動し、他の者も各々の立ち位置に動く。
アルスとヴェルフが左右の扉の前に移動し、不意に閉まってきても抑えられるように準備。カサンドラは変わらず『
リリルカと命は別場所から襲撃を警戒したところでベルが一歩を踏み出し、もう何歩か通路を進んだ所で立ち止まる。
「リレミト」
――――――――――ベルは リレミトを となえた!
ベルが『
緊張が解け、各々が力を抜く。
「『
パーティーの指揮官であるダフネは『
「上手くいったことは好材料です。これで閉じ込められても脱出出来る可能性は高くなりました」
「ここに現れたということは、扉向こうはダンジョンとは違う空間の扱いになっているってことなのかな」
『
どこかの部屋で『
「ウチとしては進んで『
「ロキファミリアにこの通路のことを伝えれば報酬も期待できるはずです。選択肢としては悪くないかと」
「少し勿体ないのでは? 我々ならばリスクを最小に出来るので内部の情報があれば、より大きな報酬を手にすることが出来るはずです」
「命さんの言うことも分かります。危険だと分かればベルさんの魔法で脱出も出来ますし……」
「俺としては、この扉の『
団員達それぞれの意見を聞いたベルは最後にアルスを見る。
→力を付けるには、こういう時に冒険することも必要だ
リスクを取る必要は無い。ここは撤退だ
「…………進もう。この先に何があるのか確かめたい。『
「分かったよ、ベル。じゃあ皆もそれで異論はないね?」
ダフネの問いかけに対して反対意見は出なかったが、ヴェルフがビッと右手を上げる。
「進む前に『
「ああ、はいはい」
「アルス様、お願い出来ますか」
頷いたアルスは背中の鞘から『インフェルノソード+3』をスラリと抜き放ちながら、どうやるかと考える。
接合部分に剣先を入れるぐらいならば可能だが、『全身全霊斬り』を振るえるほどの隙間はない。となれば、残る方法は一つ。
「はっ!」
『インフェルノソード+3』の剣先を扉と壁の隙間に差し込み、大きく息を吸い込むとアルスの体にゾッとするほどの力が集まる。
――――――――――アルスは、ビッグバンを ひきおこした!
アルスの持つ手から『インフェルノソード+3』の剣先へと至った光が爆発した。
扉と壁の隙間で起こった大爆発は後ろに立っていた面々の髪の毛を大きく靡かせるほどの衝撃波を起こす。
アルスがダンジョン側に動くと、壁側が大きく抉れた扉が反対側の扉の方へと倒れていく。ズゥン、と大きな音を立てて扉同士が接触する。
「――――流石は『
真っ先にヴェルフが飛んだ扉に駆け寄り、見聞するとホゥと感心する溜息を漏らしている後ろでカサンドラが抉れた壁を見る。
アルスの『ビックバン』によって抉れた壁は石板が消失し、金色に輝く金属が露わになっていた。
「ヴェルフさん、この金属は?」
「『きんのこうせき』にしては輝きが違いますし……」
流石にそちらは『
「これは『きんかい』だな」
56階層のモンスターが良くドロップする金属素材であると気づいたヴェルフが答えるとベルが瞠目する。
「まさかこの壁全部に『きんかい』が埋め込まれてる?」
「ありえないと言いたいな。
「あの、それはつまり……」
「…………ここを作った奴はとんでもない浪費家ってことだろう」
『きんのこうせき』ならば運が良ければ上層で手に入れられるので、『きんかい』と比較すると同量ならば50倍の価格差がある。
抉れた部分に『きんかい』があったとするならば、目算で2000万ヴァリス以上はある。見える範囲の通路全てに『きんかい』が使われているとするならば正気とは思えない。通路全てに『きんかい』が埋め込まれていると仮定して、その全てを市場に出せば一生遊んでくらせるほどヴァリスを得られるだろうが、その前に素材市場を激変させるだろう。
「アルスならともかく、ウチやカサンドラ、命の力だと破壊することは難しいか」
「多分、僕やヴェルフでも無理だと思いますよ。リリは?」
「どうでしょうね。最大威力なら或いは、とは思いますが、勿体なさ過ぎて試す気にもなりません」
「確かに」
ベルならば『グランドクルス』、ヴェルフだと『鉄甲斬』などで傷をつけるぐらいは出来るかもしれない。リリルカの場合は出来たとしても染みついた貧乏根性では歯止めがかかってしまう。
貧乏事情では零細だったヘスティアファミリアよりマシとはいえ、仕送りをして余裕の無かったタケミカヅチファミリアの所属だった命はよく分かると何度も頷く。
「さあ、行くよ。何が出てくるか分からないんだから十分注意してね。カサンドラ、『
しっかりともう片方の扉も『ビックバン』で回収して、扉が両方無くなって閉じ込められる心配が無くなった一行は通路に踏み入った。
最初は一本道だったが直ぐに分かれ道にぶち当たり、二股道どころか片手の指の本数ほどの分かれ道があった場所もあった。
「完全にダンジョンですね、ここは」
分かれ道の度に石壁に傷をつけて目印を作りながら進み、『
床や壁の石板の所々に罅があり、上に上がるほど増えていくことから、作成者が上から下へとこの迷路を造っているのは分かる。同時にそれは罅が起こるほどの年月の経過を意味していた。
「これでモンスターがいればダンジョンそのものです。あの彫像といい、悪趣味ですが」
早々に上に上がる階段を見つけたので取り敢えず上を目指すことにした一行だったが、困るのは迷宮構造だけで今のところダンジョンと違ってモンスターは現れていない。
「同感。カサンドラとかビクついたし」
「び、ビクついてないもん……」
「いいや、ビクついてたね」
「まあまあ、いきなりあんな物を見たら誰でもビックリするよ」
ダフネやヴェルフの揶揄いに、頬を膨らませるカサンドラを宥めるベル。
壁に等間隔に埋め込まれている魔石灯よりも頻度は少ないが、まるで通る者を見張るように配置された怪物を象った彫像の一つにカサンドラが大きく反応をしてしまったのだ。足音と動くことで発生する装備の音が響くぐらいの静寂の中で上がったカサンドラの声に全員が敵襲かと身構えたものである。
「しかし、誰が造ったんだろう、このダンジョン」
正しい道が分からないのでアルスが勘で選んだ道を進んでいくと何故か上層階へと続く階段に行き当たり、上りながらベルが呟く。
→ダイダロスとか
俺はアルゴノゥトが造った説を押すね!
「ダイダロス通りを造った奇人か」
度重なる区画整理のせいで複雑な迷路構造となり、オラリオに住人からはもう一つの迷宮と称される通りを作り奇人と呼ばれたのが名工ダイダロス。どこか似たような迷宮構造にヴェルフも絶対に違うとは思えない。
「ここまで登ってきた階段から計算すると、現在地はダンジョン12階層ってところか」
「モンスターも出ませんし、このまま地上まで繋がっていて正しい通路さえ分かっていれば、普通の冒険者にとっては大分助かりますが」
「だからこそ、『
階段を上りきると、また下の階と同じような通路が広がっていて、カサンドラが変わり映えのしない光景にうんざりしたような顔になった。
「拠点にするにしても、こんな迷宮構造にする必要はないだろ」
「侵入者を迷わせる為だとかじゃないの?」
「にしても、極端過ぎるんじゃ……」
「だよね。拠点にするにしても迷宮構造にする意味が分からない」
アルスの勘が冴え渡り、今のところ道を引き返したりすることはないが普通なら迷ってもおかしくない迷宮である。まるで何かの目的があってこの迷宮を造ったように思えてならなかった。
「そこは奇人とまで言われた人の趣味とか、『
「流石に個人でここまで作れるとは思えないから、その可能性はあるか」
資金は『
この迷宮が地上に繋がっているかどうか、それによってこの迷宮の価値が激変する。
「――――何か来ます!」
――――――――――
遠くから近づいてくる気配にベルが『きせきのつるぎ』と『サザンクロス』を手に取ったところで、分かれ道の一つから大量のモンスターが向かってくる。
水蜘蛛のようなフォルムに長い足、成人ヒューマンの腰ほどの高さ、体躯の胴体部分には魔石とは異なる赤い結晶が上部に生えている。十体ほどのモンスターは床のみならず壁や天井を走って向かってきていた。
「ひゃあっ!?」
「新種!?」
ギルドに記録されている下層までのモンスターを網羅しているダフネも知らぬモンスターの接近に、生理的嫌悪を感じさせる見た目にカサンドラが思わず悲鳴を上げる。
「下がってください!」
複数のモンスターの出現に、『らいていの杖』の先に炎を纏わせるのを見たベル達がリリルカの後ろに下がる。
「ベギラマ!」
――――――――――リリルカは ベギラマを となえた!
『らいていの杖』から閃光が放たれ、通路全体に広がる熱光線が迫る『
――――――――――
――――――――――
――――――――――アルスたちは 1000ポイントの経験値を かくとく!
――――――――――
十体ほどの水蜘蛛型のモンスターはリリルカの『
リリルカの『
「メレンの『
「リリの魔法の威力が上がっているとしても、実感として今のモンスターの方が強くはないと思います」
――――――――――
ゴゥン、とどこかの扉が開いたかのような音がして少しして別の分かれ道から新たな『
「弱い代わりに数だけは多いってパターンか。 命、あのモンスターの探知は出来てる?」
「はい、別方向からも続々とこちらに向かってきています!」
命には周囲の遭遇経験のあるモンスターを探知する事ができるスキルがある。既に接敵したことで命には『
「アルス、先導を! リリルカは何時でも魔法を放てるように! 殿はヴェルフとベルで行くよ!」
この迷宮内でアルスの勘は信用出来る。
先導を任せたダフネの指示に従い、先頭に躍り出たアルスは武器をよりリーチに長けた『大獄剣』に切り替えて振りかぶった。
――――――――――アルスは 剣を ぶんまわした!
未完でありながらダンジョン中層域にまで匹敵する広大な『
今、その『目』が見ている光景を映し出す台座の水膜の大半に、数時間前から『
「どうしてヘスティアファミリアが『
台座を操作していたバルカ・ペルディクスがヘスティアファミリアを見つけたのは偶然だった。移動するロキファミリアの面々を追いかけ、『目』を切り替えている途中で偶々映り込んだのだ。
タナトスが気になることがあって護衛もつけずに出かけ、ロキファミリアのレフィーヤ・ウィリディスとディオニュソスファミリアのフィルヴィス・シャリアと少しばかり話をした後、とある神と出会って監視場所に戻ってきたのもその瞬間だった。
「知らない」
数時間も前からバルカかタナトスが監視場所に詰めているのだから『鍵』を使って扉を開けたのならば分かる。
こちらが招いたロキファミリアとは違う。『
「『鍵』が流出したのではないか?」
タナトスと共にやってきた女神は彼らから協力関係を築く上で渡された『鍵』を使ったのではないかと普通の疑問を口にする。
「無いとは言い切れないんだよね。最近、一つ紛失してるし」
「ならば、それを使ったのだろうよ。ヘスティアファミリアが18階層にいたという情報がある。あそこにもこの『
「うん、まあ、可能性としてはあるね」
ロキファミリアが18階層の『
入ってきたのは18階層からだとしても、やはり反応もなしに入れた理由にはならない。
(ロキファミリアが入る前から『
監視は常時出来ているわけではない。バルカは『
気づいた時にはロキファミリアに大分近い階層まで上がってきている。予期せぬ侵入者は『
「『
「アポロンとの『
「となると、『
虎の子のレヴィスは
このまま消耗戦を仕掛けることも出来るが、ロキファミリアと合流されたら目も当てられない。
「信じられん……」
タナトスがどうするかと思考を巡らせていると、バルカが呆然と呟いた。
「風? 風だと? たった一人の小娘の魔法が始祖の傑作に…………我らが血族と千年の執念に一矢報いるというのか……?」
台座の水膜に映し出される光景にバルカは言葉を失っていた。
レヴィスと対峙しているアイズ・ヴァレンシュタインが風の魔法を全方位に放ち、その『風』を辿ってロキファミリアが集結していく。
「報告します!」
白いローブにフードを被った人物が監視場所に駆け込んできてタナトスの前に跪く。
「『天の牡牛』が暴走して 拘束具が次々と破られています!」
「『風』に反応しちゃったのかな。予備の拘束具を使って」
「了解しました!」
レヴィスからアイズの『風』が精霊由来の物と知っているタナトスは抜け出されてしまっては叶わないと指示を出すと、ローブ姿の眷属は踵を返して走り去った。
「あ、『天の牡牛』を使えば――」
「出資者としては承服できんな」
『風』を求めるなら『天の牡牛』をロキファミリアにぶつけることが出来る。そうすれば戦力に余裕も出来るのでヘスティアファミリアを排除できると、丁度良いタイミングで思い出したタナトスが去った眷属を呼び戻させようとしたところで女神が待ったをかけた。
「『天の牡牛』は私が貰い受ける物だ。勝手に使うことは許さん」
なによりヘスティアファミリアの戦力は、来たるフレイヤファミリアとの戦いの前に取り込む予定なのだ。ここで消されては困るという事情もあった。
「出資者様には逆らえないね」
タナトスとしては『
「集合してしまった時点で、これ以上の分断は出来そうに無い。『
ロキファミリアも相当に疲弊しているので援軍を送ることを決める。
「『
この為のアバカムでした。
アバカムが無法すぎる…………。
ダンジョン系でルーラとリレミトはもっと無法ですが。
『