ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第86話 アルスたちは ぜんめつした!

 

 

 

 

 

 ベル・クラネルの『迷宮脱出魔法(リレミト)』で『人造迷宮(クノッソス)』を脱出したヘスティアファミリアパーティー。

 ロキファミリアの団員を保護してしまったことで『迷宮脱出魔法(リレミト)』で地上に戻る選択を取れず、一先ずリヴィラの街の天然の洞窟を利用した『ヴィリーの宿』に彼らを運び込んだ。

 2ヶ月前に起こった殺人事件の影響を脱しつつある『ヴィリーの宿』で大部屋を取り、意識が戻らないロキファミリアの団員の様子をカサンドラ・イリオンが見ている。

 

「ただいま戻りました」

 

 街の顔役であるボールス・エルダーの下へ行っていたリリルカ・アーデとヴェルフ・クロッゾが大部屋の隣の部屋に戻ってきた。

 

「お疲れ、二人とも」

「それで首尾は?」

 

 帰ってきた二人を出迎え労るベルと違い、ダフネ・ラウロスは早速成果を問い質す。

 慣れっこになっているヴェルフは気にした風も無く、チラリと部屋の隅で床に三角座りをして『インフェルノソード+3』を抱えて寝ているアルスを見る。

 

「ボールスが地上に人をやってロキファミリアに知らせてくれるってよ」

 

 当初の目的を達成したにも関わらず、ヴェルフの顔は晴れない。

 

「今はその為の人選をしていますが難航しそうです」

「どうしてですか?」

「ロキファミリアに伝えるだけで褒美を得られるかもしれないって希望者が殺到したんだよ。あれは時間がかかるぞ」

 

 嘆息するリリルカの伝えた内容に疑問を覚えたヤマト・命。リヴィラの街の住人達が我こそはと手を上げる姿を思い出したヴェルフが呆れる。

 

「労せずして功だけ得ようという腹です。そういう人達だからこそ、このリヴィラの街で暮らせるのかもしれませんが」

「あははは……」

 

 18階層ではモンスターは生まれないとしても、上下の階層から侵入してくることはままある。何百回と破壊される度に再生を繰り返す『リヴィラの街』に暮らそうと思える住人達が最小のリスクで大きなリターンを得ようとする姿勢に感心するやら呆れるやらのリリルカに乾いた笑いを漏らすベル。

 

「もう、さっさとベルの『迷宮脱出魔法(リレミト)』で地上に戻るべきじゃないか?」

 

 その方が圧倒的に早い上に手間も無いと、街中では鍛冶が出来ないストレスで色々と面倒になってきたヴェルフが提案する。

 

「僕もそうする方がいいと思う。ロキファミリアの人達もきっと探しているだろうし……」

「私達だけならともかく、ロキファミリアの方と一緒となるとベル殿の『迷宮脱出魔法(リレミト)』では移動方法がおかしいと気づかれてしまいます。彼らを抱えて移動していれば目立つはずだから」

 

 安否が分からない状態では強い不安を感じるだろうから、ロキファミリアの者達の為にも一刻も早く無事を伝えたいと完全な善意のベルに命が待ったをかける。

 

「命の言う通り。今の段階でも結構危ない橋を渡ってる」

「こうしてボールス(顔役)にロキファミリアへの連絡を頼んだのも面倒ではあるが、手順を踏んでおいた方が怪しまれないものです」

 

 『開錠魔法(アバカム)』を使って鍵が無ければ開かない扉を開き、『人造迷宮(クノッソス)』内部から『迷宮脱出魔法(リレミト)』で一瞬で脱出するなど他の冒険者には絶対に出来ない。扉に関しては最初から開いていたと嘘の言い訳は出来るが、六人もの意識不明者を抱えての脱出はかなりの負担となるはず。

 『どうぐぶくろ』や『ふしぎな鍛冶台』等々、探られたら面倒な物を抱えているのに、露見するリスクを抱えてまで他派閥の者を助けているのが現状である。

 

「少なくとも彼らに命の危険はないのよね?」

「カサンドラ殿の話では全員完治していると。ただ、呪詛を受けたことによるダメージと出血多量であったこと、急速な回復の反動で意識が戻らないようです」

 

 面倒を見ているカサンドラとの連絡役を任された命は一度彼らがいる大部屋を見てダフネの質問に答える。

 

「となると、自分達の足で地上に戻ってもらうのは難しい。まあ、助けたのだから向こうが多少の心配をするのは勘弁してもらうしかないよ。リヴィラの街の誰かが伝えに行くのを待つべきだと思う」

 

 最も面倒が無いのは、リーネ・アルシェ他五名が意識を取り戻し、自分の足でロキファミリアの下へと帰ってもらうことであるが目覚める兆しは未だ無い。

 

「でも。当初の予定ではもう『竈火の館(ホーム)』に戻ってもおかしくはない時間帯です。神様が心配しているかもしれません」

「あ、その点に関しては思い至らなかったな」

「前は心配してダンジョンまで探しに来ましたね。流石にもうないとは思いますけど」

「その節は大変ご迷惑を……」

 

 『サタンヘルム』を外しているヴェルフがピシャリと額を叩き、神がダンジョンに入ることは禁止されているにも関わらず前歴を作ったヘスティアの行動を思い出したリリルカが頭を抱える。そしてその原因となったタケミカヅチファミリアに所属していた命が深々と頭を下げる姿にダフネも呆れる。

 

「あの時とは状況が違うでしょ。命も終わったことなんだから一々卑屈にならない」

 

 命の性格的に難しいとは思いつつ、注意すると流石に何度も言われていることもあってまだ少し罰が悪そうではあるが彼女も直ぐに顔を上げる。

 

「…………ベル、アルスと『迷宮脱出魔法(リレミト)』で地上に戻ってヘスティア様に事情を説明してきてくれる? 」

 

 ヘスティアには前歴があり、ベルに対する溺愛具合を見るに無いと思いたいが絶対に無いとは言い切れない悲しい信頼があった。ヘスティアに事情を説明しに『竈火の館(ホーム)』に帰るだけならば何の問題も無い。

 メンバーの選定理由としては、『迷宮脱出魔法(リレミト)』が使えるベルと、またダンジョンに戻ってきてもらう必要があるので『瞬間移動魔法(ルーラ)』を使えるアルスかリリルカのどちらかになる。リリルカではないのは、リーネ達が目覚めるかロキファミリアが迎えに来るまで護衛の必要があるので身動きが取れないことにアルスが退屈を感じていたから。

 退屈が過ぎて妙な行動を起こされるよりかは、こちらで行動を制限してしまった方が安全と判断した。

 

「分かりました。神様に事情を伝えたら『瞬間移動魔法(ルーラ)』で戻ってくればいいんですよね。どうせならロキファミリアに説明しに行っときますか?」

「『迷宮脱出魔法(リレミト)』を知ってるヘスティア様はともかく、ロキファミリアは異常に気づくかもしれないぞ」

 

 ベルとしては純粋な善意で心配しているであろうロキファミリアにリーネ達の無事を伝えてあげたいと思ったが、ヴェルフの指摘も尤もなので悩んでしまう。そこにリリルカが折衷案を提案することにした。

 

「周りが見ている中でダフネ様に『速度上昇魔法(ビオラ)』をかけてもらって速度を上げて17階層に行く姿を見せ、ほどほどの所で『迷宮脱出魔法(リレミト)』で地上に戻ってから『竈火の館(ホーム)』で少し時間を潰せば多少の時間差は分からなくなるはずです」

 

 物凄い早さで走り去れば、『速度上昇魔法(ビオラ)』の持続時間など他の者に分かるはずなどないのだから多少の時間の誤差は誤魔化せる。後は適当な時間を『竈火の館(ホーム)』で潰せば言い訳も付く。

 ボールスはまだ地上に向かう人選の段階なので、先に地上に向かう姿を見せてしまったら手を挙げていた者達も諦めるかもしれないが。

 

「仲間の安否が気になるロキファミリアにより恩を売れるか」

「出来れば功績を分散させたかったんですけどね。まさかリヴィラの街の連中があそこまでとは思いませんでした」

 

 ヘスティアファミリア単体で功績を独占するよりも、リヴィラの街の住人に少しでも功績を分けた方が注目されずにすむという思惑があったが、人員選定に時間がかかるのは想定外であった。

 

「行くのは良いけど時間はかけるようにね。ダンジョンから直接ロキファミリアのホームに向かったという体を取ることも忘れないように」

 

 下手に時間をかけすぎて、またヘスティアがダンジョンに入ってこられては困る。リヴィラの街の住人が当てにならないのならば、もう功績を分けることは止めてベル達の地上行きを認めたダフネも注意は忘れない。

 

「分かりました。行こうか、アルス」

 

 頷いたベルが声をかけると、アルスは大きな欠伸をして抱えていた『インフェルノソード+3』を支えにして立ち上がると、寝ている間に被りが浅くなっていた『プラチナヘッド』が零れ落ちる。

 地面を転がった『プラチナヘッド』をヴェルフが拾い上げる。

 

「早さが大事ってなら、アルスの装備を速度優先に変えるか」

 

 ベルの軽装備と違ってアルスの全身鎧は守備力は高いが、やはり見た目的に早いという印象は抱けない。早過ぎると奇異に目に映るだろう。

 ステータスの『すばやさ』でも数値ではベルがかなり上で、装備の『すばやさ』関連も同様なので、その差を埋めておいた方が良いだろうというヴェルフの提案を断る理由は無い。

  

「『プラチナヘッド』は…………ベル、『しっぷうのバンダナ』を借りれるか? 二人の速度差を考えると、代わりに前に使ってた『大盗賊のターバン』を使ってもらった方が数値差を埋めれる」

「分かった」

 

 アルスから『どうぐぶくろ』を借りたヴェルフが思案しながら『大盗賊のターバン』を取り出して差し出したのを受け取ったベルは自身が被っていた『しっぷうのバンダナ』をアルスに渡す。

 二人のサイズは殆ど無いのでアルスも『しっぷうのバンダナ』を装備する。

 

「『あつでのよろい』は『おしゃれなベスト』に。アクセサリーは『天使のサンダル』と『はやてのリング』に代えて、武器は中層だから『インフェルノソード+3』と『プラチナトレイ』があれば十分だろう。これで少しは速度差が埋まるはずだ」

 

 インナーである回復効果がある『やすらぎのローブ』はそのままに、全身鎧から軽装備へと代わり、アクセサリーも『すばやさ』を上げる物に変更。武器と盾に関しては変えていないが、普段が全身鎧なだけに軽装備になったことでかなり身軽になって見えると命が内心で考えていた。

 身軽になったとその場でジャンプして天井に頭をぶつけて蹲るアルスの姿にリリルカは不安になる。ヴェルフに『治癒魔法(ホイミ)』をかけてもらっているアルスがベルに負けじと走ることに熱中してしまい、『どうぐぶくろ』を落としたら目も当てられない。

 

「アルス様、念の為、『どうぐぶくろ』は預かっておきましょうか? 落としでもしたらヘスティファミリアの財政に大きく関わるので」

 

→任せた、リリルカ

  落とさないって

 

 自分が熱中し過ぎる気質であることを理解しているアルスがあっさりとリリルカに『どうぐぶくろ』を渡す。

 

「大事に預からせてもらいます」

 

 恭しく受け取ったリリルカは任されたことに内心でヒャッハーしていたが、格好つけて身に着けたところでアルスとの体格差が違うことを忘れていて紐の長さ調整をするのは直ぐ後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――ゴライアスが あらわれた!

――――――――――アルスたちは にげだした!

 

 アルスとベルがダフネに『速度上昇魔法(ビオラ)』をそれぞれかけてもらい、リヴィラの街を出発して爆速で17階層に到達したところで丁度二週間のインターバルを経た『迷宮の孤王(モンスターレックス)』ゴライアスが出現したので脱兎の如く逃げている頃。

 一つの上の山あり谷ありの起伏の激しい16階層の中で、正規ルートから外れた山の一つに褐色のアマゾネスが多い集団がいた。

 

「――――首尾は?」

「準備できてるってさ。ヘスティアファミリアがイシュタル様が言ってたように18階層にいるんなら何時でも動けるぜ」

 

 無骨な大朴刀・ザーガと踊り子のような衣装という一見してミスマッチな組み合わせを違和感なく着こなすアイシャ・ベルカの問いに、下着と同面積しかない衣装を着ているサミラが答える。

 

「しっかし、獲物が動かなきゃ何日もダンジョンに籠もり続けるのか? 嫌だぜ、オレは」

 

 どこか男らしい気性のサミラは先の見えない状況のままダンジョンに籠もることに不満を漏らす。

 

「18階層にいるのは間違いないんだ。地上に戻るなら必ずこの16階層を通る。ヘスティアファミリアは長いことダンジョンに籠もるファミリアじゃない。そう時間はかからないはずさ」

 

 アイシャとて長期間ダンジョンに籠るのは嫌だが、イシュタル張本神がヘスティアファミリアが18階層にいると情報を伝えてきたのだから長丁場になる見込みは低い。

 まさかヘスティアファミリアに道をショートカット出来る『瞬間移動魔法(ルーラ)』と『迷宮脱出魔法(リレミト)』があるとは知る由もないのだから、アイシャの考えは間違っていない。

 

「この為に普段の行動パターンからギルドへの『冒険者依頼(クエスト)』受注状況まで下調べをしたんだ。いい加減に終わりにしたいもんだよ」

 

 ヘスティアファミリアの下調べから始まり、襲撃場所の選定にその用意などやることは多岐に渡り、他所に知られるわけにはいかないから普段通りの仕事も熟しながらと、実質的なファミリア内のNo.3の仕事をしているアイシャの負担は大きい。

 

「――――――アイシャ、狼煙が上がったよ! 青が凄い早さで向かってくる!」

 

 壁をよじ登って天井付近で監視役を任されていたレナ・タリーが声を張り上げる。

 目的の人物達が16階層に上がってきたら上層階への入り口側に陣取っているアイシャ達に分かるように狼煙が上がることになっており、彼女の目には等間隔配置された監視役が打ち上げた狼煙が次々と上がっていることから信じられない速さでこちらへと向かってきていることを伝えてくれている。

 そして狼煙の色が青の時は向かってくるのが目標の二人であることを示している。

 

「よし、モンスターの追い立てを始めな! 所定の場所に目標を追い込む!」

 

 アイシャの指示に従い、伝達役が走り出して各所にいる者達へと伝えに行く。

 しかし、ここは中層。ギルドの公式記録ではヘスティアファミリアはアポロンファミリアとの『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』時には何人もLv.4に至っている。16階層のモンスター単体をけしかけても鎧袖一触で蹴散らされるのみ。『怪物進呈(パス・パレード)』を仕掛けても恐らく行動を制限するのが精々。

 

「春姫、アンタも準備しな」

「…………冒険者様を襲われるのですか?」

「そうさ」

 

 物資運搬用のカーゴに歩み寄って鍵を開けて檻を開くと、頭から膝まで隠す外套を纏った春姫が出てきて恐る恐る問う。

 春姫がダンジョンに連れてこられる時は、イシュタルファミリアに害を為したり、為すと予想される冒険者、またはファミリアへの襲撃が行われる時が多い。例外として、イシュタルファミリアの総力を尽くしても被害が出かねない下層の『迷宮の孤王(モンスターレックス)』アンフィス・バエナとの戦いに駆り出されたことはある。

 例外でダンジョンに連れて来られる際は事前に要件を伝えられ、逆に伝えられない時は冒険者を襲う時と春姫も分かっていた。

 

「お相手、は?」

「お前は知らなくていい」

 

 ピシャリと切り捨てられる。何時ものように知らなくていいと、つまりはそういう事なのだろうと春姫は納得せざるを得ない。

 

「ゲゲゲ、人目を忍んで男を襲うならやっぱりダンジョンさ」

 

 遠くで潜んでいるのに普段と変わらない大きな声を出しているフリュネ・ジャミールの声が聞こえた。

 

「分かり、ました。魔法はフリュネ様にかければよろしいですか?」

「いや、上位陣全員にだ」

 

 春姫が魔法を使う時は大抵の場合において、イシュタルファミリアの最大戦力であるフリュネに使用されることが多い。今回もそうなるのだろうと春姫が確認しようとしたところで、イシュタルファミリアでは珍しい男の声が遮った。

 声のした方を振り向くと、普段はイシュタルの傍に侍って離れない副団長タンムズ・ベリリが立っている。

 

「タンムズ……」

 

 アイシャもヘスティアファミリアが18階層にいると16階層で待機していたアイシャ達に伝えに来たのがタンムズなのだから、まだイシュタルの下に戻っていないことに驚いたわけではない。

 タンムズが春姫に魔法をかける対象を複数と言ったことにある。

 

「その為にイシュタル様はリスクを承知の上で春姫、お前に『魔導書(グリモア)』を与えたのだ。使い熟せ」

 

 港町メレンでアイシャがアルスと戦闘をし、圧倒されたことは既に報告されていた。

 アイシャの目算では、アルスのLv.は最低でも『5』と見ている。ベルも先の歓楽街で追うフリュネから逃げ切ったことからLv.5か限りなく近い『4』と見られる。ヘスティアファミリアがファミリア単位の成長促進スキルがあることは有名なのだから最悪、同Lv.の全戦力と戦うことになれば激戦は必至。

 イシュタルは必勝を期して、現状で元から春姫が有している魔法を最大限高められる方法を模索し、再びヘルメスを呼び出して魅了にかけて情報を吐かせ、彼のファミリアが所有していた『魔導書(グリモア)』から新たな魔法を習得させた。

 下手をすれば大望にすら影響を与えかねない危険をイシュタルは冒したのだから、至上の女神の求めに応えろとタンムズは言外に告げていた。

 

「は、い……」

 

 女神の手を煩わせる者への怒りを隠そうともしないタンムズに威圧されながら、春姫には思うところがあろうと元より頷く以外の行動は許されていない。

 

「お前も抜かるなよ、アイシャ。イシュタル様は二度目を許すほど寛容なお方ではない」

「分かってるよ」

 

 タンムズの念押しに分かっていると煩わしげに答えるアイシャ。

 

「アイシャ、目標二人が来たよ!」

 

 壁から降りてきたレナが報告してくる。

 一度、目を閉じたアイシャが再び瞼を開いた時、もうそこにいるのには『戦闘娼婦(バーベラ)』の一人。

 

「…………お前達、行くよ。計画通り進めな。春姫!」

 

 各々の武器を持って動き出した『戦闘娼婦(バーベラ)』達を見送ることなく、春姫は口を開く。

 

「『ココノエ』」

 

 新たに習得した魔法は魔法名の宣言から始まる。

 

「愛しき雪。愛しき深紅。愛しき白光。どうか側にいさせて欲しい。二千夜の末に見つけし其の恋願。我が名は狐妖、かつての破滅。我が名は古謡、かつての想望。鳥のごとく羽ばたく御身のために、この身、九妖を宿す。響け金歌、玉藻の召詩。白面金毛、九尾の王。全てを喰らい、全てを叶えし、瑞獣の尾――」

 

 詠唱を続けると、体から放出された光が彼女の臀部付近に集まり、やがて春姫の髪の色と同じ金色の光る五本の巨大な尻尾を形成していく。

 

「大きくなれ」

 

 詠唱が連結される。

 

「其の力にその器。数多の財に数多の願い。鐘の音が告げるその時まで、どうか栄華と幻想を。大きくなれ、神饌を食らいしこの体。神に賜いしこの金光。槌へと至り土へと還り、どうか貴方へ祝福を――大きくなぁれ」

 

 イシュタルが春姫を見つけ、その魔法の存在を知った時、自らが勝利する運命にあると思うほど。そして春姫が習得した新たな魔法はその魔法の有用性を更に高めるもの。でなければ、如何な自信家のイシュタルといえどもヘスティアファミリアの戦力分析で想定以上の強さであると分かった時点で手を引く選択を視野に入れたかもしれない、

 

「『ウチデノコヅチ』!」

 

 神時代始まって以来の他人に『階位昇華(レベルブースト)』を行うことが出来る魔法と、詠唱連結型の付与魔法《エンチャント》の効果によって複数の人間を同時にランクアップ出来るようになる。

 

――――――――――春姫は ココノエとウチデノコヅチを となえた!

――――――――――フリュネ アイシャ タンムズ サミラの 力 耐久 器用 敏捷 魔力が すごく あがった!

 

 短時間ながらもLv.5のフリュネ、Lv.4のアイシャとタンムズ、Lv.3のサミラが『階位昇華(レベルブースト)』された。

 Lv.1の春姫の目には留まらない速さで彼らはあっという間にいなくなった。

 

――――――――――ヘスティアファミリアが あらわれた!

――――――――――しかし ヘスティアファミリアは まだ こちらに きづいていない!

――――――――――シャレイは まふうじのうたを うたった!

――――――――――アルスたちは、呪文を ふうじられた!

――――――――――フリュネは 高くジャンプ! 斧を 叩きつけてきた! 

――――――――――アルスに ダメージ!

――――――――――サミラは ばくれつけんを はなった!

――――――――――ベルに ダメージ!

 

 アイシャ達の姿が見えなくなって数十秒後、階層全体を揺らすほどの衝撃が地面を揺らし、恐らく人体を打ったのであろう鈍い音が連続して響く。

 

「――っ!?」

 

 戦うことに関しては素人同然の春姫ですら分かる戦闘が開始したと分かる音と衝撃に、自ら授けた『力』が使われて誰かが傷ついてるのだと嫌でも分からされる。

 

――――――――――アルスは イオラを となえた!

――――――――――ミス! 呪文を ふうじられている!

――――――――――アマゾネスたちは ゆみをひきしぼり やを はなった!

――――――――――アルスたちは すばやく みをかわした!

 

 せめて耳を塞がず、目を閉じないことだけが今も傷ついているであろう冒険者に対する春姫のせめてもの行動だが、所詮は偽善にも劣る行為であると自覚している。

 

――――――――――アイシャは しっぷうのごとく きりつけた

――――――――――ベルに ダメージ!

 

 だが、せめてそれぐらいはしなければ春姫は罪悪感に圧し潰されそうになる。ああ、結局は自分を守る為の言い訳でしかないのだ。

 

――――――――――タンムズの こうげき!

――――――――――つうこんの いちげき!

――――――――――アルスに ダメージ!

 

 目を伏せ、まるで祈るように両手を握る。

 どれだけの時をそうしていただろうか。

 春姫にとっては長い時間のように感じたが、現実の時間は一時間にも満たない間に戦闘は終わった。

 

――――――――――アルスたちは ぜんめつした!

 

「ゲゲゲ、楽勝な狩りだったね」

 

 大きな傷を負うことなく戻ってきたフリュネが抱えているのは目標だという二人の少年。

 抱えられた二人とも傷だらけで意識がないのか、ぐったりとしたまま動かない。二人は兄弟か双子のようにそっくりで、フリュネによって投げ出された内の片方の少年を春姫は知っていた。

 

「アイシャさん…………私達の標的は、この方達だったのですか?」

「ああ、そうさ。イシュタル様の命令だよ」

 

 撤収の準備に入ったアマゾネス達。

 気絶している二人が目を覚まさないように2階層の『おばけきのこ』がドロップする『ゆめみの花』を粉末状にして染み込ませた布を嗅がせ続けるように指示を出していたアイシャに肯定され、春姫は膝から崩れ落ちた。

 

――――――――――アルスたちは ねむっている

 

「よくやった、春姫。奇襲を行い、魔法を封じたにも関わらず、少なからず被害が出た。お前の階位昇華と詠唱連結型の付与魔法が無ければ、もっと被害は大きくなっただろう」

「ヒヒヒ、駄目な奴かと思ったが最後の最期で役に立ったじゃないかぁ、春姫」

 

 タンムズとフリュネの賞賛は、どうして自分は不幸を齎す事しか出来ないのかと嘆いて顔を覆う春姫には届かなかった。

 

 

 

 

 

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