ダンまち×ドラクエ   作:スターゲイザー

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第二章
第9話 アルスは 私は蝶になりたいを 手に入れた!


 

 

 

 

 

 夕方のギルド本部にある談話室。

 昨日の怪物祭(モンスターフィリア)での一件をヘスティア・ファミリアから聴取を行っていたエイナ・チュールは全てを聞き終え、ソファに座ったまますぅっと大きく息を吸い込んだ。

 

「この――」

 

 エイナの胸が息を吸い込むことで、大きくなるのを見逃さなかったアルスが座ったままバッと手で両耳を塞ぐ。

 

「――――お馬鹿ぁっ!!」

 

 机を挟んで放たれた大喝が向けられたのは、仰け反るベルと、何度もされて割と慣れていて対処できたアルスの二人。

 ふぅ、と一息をついたエイナはグラングランと頭を揺らしているベルと、彼を支えているアルスを見ながら話を続ける。

 

「インプの強化種と中層のイビルビーストに駆け出し冒険者だけで挑むなんて自殺行為、アドバイザーとして私は教えた覚えはないよ」

 

 ようやく回復したベルは、アルスに礼を言いながらエイナを見て困ったように眉を寄せる。

 

「そうは言ってもあの状況じゃあ、どうにも出来ませんよ」

「戦ったことを責めているわけじゃないよ。話を聞いた限りだと、助けが来るのを待つよりも倒すことを目的としていなかった?」

 

 ベル達も望んで戦ったわけではない。『いたずらデビル』には最初から狙われ、『イビルビースト』にはヘスティアが攫われ、両方とも戦わざるをえない状況にあったから戦ったに過ぎない。

 

「結果的にそうなっただけで、僕達も助けが来るのを待ってました」

「防衛よりも攻勢に重きを置いていなかったと言える?」

 

 問われてベルは返す言葉を持たなかった。

 

「神ヘスティアが攫われた対イビルビースト戦は別にして、対強化インプ戦なら例えば防衛に専念して、可能なら退避することは速攻魔法があるアルス君の力を有効的に使えればできたんじゃない?」

「…………出来たかもしれませんけど」

「まだ駆け出しのベル君達に多くを求めるのは間違っていると私も分かっているよ。でも、冒険者は冒険しちゃいけない」

 

 命は誰にだって一つしかないのだから、と続けられると実際に死にそうな目にあっただけに抗弁の言葉を持てない。

 ベルは気まずげに頭を掻き、アルスは壁を見てボーッとしていてしっかりと話を聞いていないのをエイナは見逃さない。

 

「アルス君はロキ・ファミリアとの一件で武器を貰ってから大剣ばっかり使ってるよね」

「ええ、はい。それが何か?」

「それって攻撃力が高いから、じゃないよね」

 

 今度は問いではなく半ば断定に近い確信に、いつの間にか殆ど片手剣を使わなくなったことを思い出したベルがアルスを見る。当の本人は下手糞な口笛で誤魔化そうとしていて、その顔には冷汗が浮かんでいた。

 

「ベル君は身軽さを活かした戦闘姿勢(バトルスタイル)だから仕方ないけど、アルス君はもっと防御に重きを置いた方が良いと思う」

 

 具体的に言うなら盾を持つべき、と纏めたエイナにベルは少し考える。

 

(盾を持つとなると大剣じゃなくて片手剣が主武器になるわけで、主戦力のアルスの攻撃力が下がるのは痛い)

 

 現実問題としてサポーターのリリルカ・アーデは殆ど戦闘に関わらないので、ベルとアルスの二人組(ツーマンセル)で戦っている中で主戦力の攻撃力低下の影響はかなり多い。

 

(けど、治癒魔法を使えるアルスが行動不能になると色々と困るのは事実なんだよね)

 

 実際、イビルビースト戦でもアルスがダウンしたことでかなり追い詰められた。ヘスティアによるステータス更新によるランクアップで傷が回復なんて奇跡がなければベルは負けていただろう。

 

(僕が攪乱して攻撃力の高いアルスが仕留めるってパターンが多かったけど、アルスが盾を持つことで違うパターンも作れる。悪くない選択かも)

 

 生存能力を高めることの重要性を思い知っただけに、エイナの提案を前向きに受け止めたベルが顔を上げる。

 

「分かりました。アルスには盾を持ってもらうことにします」

 

 え、とばかりにアルスがベルを見る。

 

「盾を持つことで僕達の戦いの幅が広がると思うんだ。騙されたと思って一度試してみようよ」

 

 エイナに続くベルの口添えにアルスは腕を組んで天井を見る。

 アルスの揺れる心情を読み取ったエイナは天秤を傾けるべく切り札を切る。

 

「ギルドとしては、此度の一件で貴ファミリアが負った損害などを賠償する用意があります――――――具体的に言うなら、壊れた防具や使用した回復薬とかの補填費用をギルドが負担するってこと。そのお金で盾を買ってみたらどうかな」

「え、そんな……」

 

 言いかけたベルはファミリアの財政事情と、ボロボロになって使い物にならなくなって廃棄した『皮のよろい』の代わりを買わなければならないことを思い出した。使ったポーションも買い直さなければならず、更にアルス用に今のレベルに合った盾も買うとなれば相応の資金が必要になる。

 『いたずらデビル』と『イビルビースト』の魔石はガネーシャファミリアによって回収されて、今回の一件でベル達の儲けはゼロ。幾らかギルドに出してもらえるのであれば願ったり叶ったりと結論付けた。

 

「ありがとうございます! 甘えさせてもらいます!」

「じゃあ、この後に買いに行こうか」 

「いいんですか? お仕事中じゃあ」

「領収書を切らないと費用は出ないからね。これも仕事の内だから。構わないかな?」

「はい、今日は静養の為にダンジョンに潜ってないので特に予定もありませんし。あ、そうだ。エイナさんに一つお願いが」

 

 聴取を纏めた資料をトントンと机で整えていたエイナに頼みたいことがあったのを思い出した。

 

「何かな?」

「まだリリとは話してないんですけど、明日から5階層に潜ろうかと思って。エイナさんに許可を貰おうと」

 

 つい一週間前、無断で5階層まで潜ってミノタウロスに襲われたこともあってエイナから4階層までしか探索の許可が出ていなかった。アルスがLv.2にランクアップしたので、この機会に5階層以降の探索許可も取っておこうと今朝の内に話していたのだ。

 

「はぁ、キミは本当に私が言ったこと分かってる? 一週間とちょっと前にミノタウロスに殺されかけたのは一体、誰だったかな」

「ぼ、僕達ですけど、中層のモンスターにも勝ったんですよ。もう大丈夫だと思うんですけど……」

 

 流石にまだ中層に進出するのは流石のベルも時期尚早と分かっている。

 中層のモンスター数体だけではベルはレベルアップしなかったが、ランクアップしたアルスがいれば5階層以降にチャレンジしても大丈夫でないかと考えていた。

 

「私としてはインプは強化種になってもそれほど強くなかったか、イビルビーストは弱っていたんじゃないかって思ってるんだ。じゃなければ冒険者になって半月程度の未熟な新米に倒せるはずがないもの」

「いやいや、物凄く強かったですよ」

「アビリティ評価Hの冒険者の基準で言われてもね」

「評価H?」

「半月の時間幅(スパン)で到達する能力ラインがアビリティ評価Hなんだ。それでもかなり腕の良い人に限るんだけど」

「?」

 

 言っててもベルの顔に浮かんでいる疑問符に、エイナは以前からの謎が再び頭をもたげた。

 

(武器が変わったにしても、一週間前から急に伸びたモンスターの撃破数と探索スピード。サポーターが参加したことで戦闘に専念できたとしてもあまりにも早すぎる)

 

 他にも理由はあった。

 

(魔導士じゃないにも関わらず、早すぎるアルス君の魔法の目覚め)

 

 しかも一つではなく、攻勢と治癒という本来ならば相反する魔法に同時に目覚めた前例はエイナが知る限りでは存在しない。それが駆け出し冒険者ともなれば、まず存在しないだろうと確信があった。

 これが冒険者になる前に魔導士と治癒術師に教えを受けているのならば同時に目覚める可能性が無いわけではないが、ベルから聞いた話では少年達は元農民である。しかし、現実としてアルスは攻勢・治癒魔法を使っている。

 

「…………ねえ、ベル君。5階層以降潜っていいか判断する為に、キミ達のステータスを見せてもらえないかな?」

「えっ!? で、でも冒険者のステータスは一番バラしちゃいけない情報ですよね」

 

 Lv.は各個人のランク付けやファミリアの強さとしての指標としてギルドに報告をする義務があるが、ステータスに関しては希少なスキルや特殊な魔法を持っている者もいるのでギルドどころから同じファミリア間でも共有されないこともある。

 

「うん、そこを曲げてお願いしたいの。アドバイザーとしてキミ達の現状を正確に把握する為で、見たものは絶対に口外しないと約束する。もしも二人のステータスが明るみになることがあればキミ達に絶対服従を誓うよ」

 

 妙齢の女性がするには問題がある対価にエイナの本気度を感じたベル。

 

(神様には絶対に人に見せるなって言われてるけど……)

 

 ヘスティアが何度も念押しするステータスになっていることはベルも分かっている。

 しかし、ベル達が初めての眷属であるヘスティアと違って、ギルド職員として何人もの冒険者と関わってきたであろうエイナに意見を貰える機会はもうないかもしれない。

 

「…………分かりました。僕のは絶対に人に見せたらいけないと言われているのでアルスのなら」

「どうしてベル君のはダメなの?」

「さあ、神様もそこだけは教えてくれないんです」

「ん、分かった。アルス君のを見せてもらえる?」

「はい、アルス」

 

 頷いたアルスが立ち上がり、シャツの裾を持ってポッと頬を赤くする。

 

「あんまりジロジロみないでねって言い方!」

 

 冗談冗談、と怒るエイナに笑いながらバッとシャツを脱いだアルスが後ろを向いてステータスを見せる。

 エイナは眼鏡の位置を調整して、アルスのステータスを確認する。

 

「…………………………なぁに、こぉれ?」

 

 アルスのステータスを見たエイナは自分の目がイカれているのかと思った。

 

【アルス・クラネル Lv.2(レベル10)

 HP:56

 MP:29

 ちから:27

 みのまもり:13

 すばやさ:32

 きようさ:20

 こうげき魔力:28

 かいふく魔力:30

 みりょく:24

《魔法》

 【メラ】     ・火炎系魔法(小)

 【ホイミ】   ・治癒系魔法(小)

 【ギラ】     ・閃光系魔法(小)

 【イオ】    ・爆発系魔法(小)

《技能》

 【かえん斬り】     ・武器に炎を纏わせることが出来る

 【ぶんまわし】     ・武器を振り回すことで範囲攻撃が可能

 【渾身斬り】       ・敵一体に大ダメージ

《スキル》

 【ドラゴン斬り】     ・ドラゴン種に対しての斬撃強化

 【聖竜の祝福(ドラゴンクエスト)】   ・■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

《次のレベルまで:509》】

 

 まずステータス表記が違う上に、見たことも聞いたこともない技能が存在していて、未発見のスキルもあった。だが、真の衝撃はLv.を見た時の比ではない。

 

「…………」

 

 真に人が混乱の頂点に到達した時、感情は爆発するのではなく無になるのだとエイナは知った。

 

「やっぱりおかしいですよね、僕達のステータス」

 

 止まっているエイナの姿を半ば予想していたベルは、アルスに声をかけて服を着させてソファに座り直す。

 

「…………どういうこと、これは」

「ミノタウロスの一件の後にステイタスを更新したらアルスのステータス表記がこっちに代わって、僕もその二日後にこっちに代わりました。後、アルスがLv.2になったのは昨日の戦闘中です」

「戦っている途中にステータス更新した時?」

「はい。そのお陰でイビルビーストにも勝てたんです」

 

 ステータス表記変化の時期と、急に到達階層とモンスター撃破数の増加の時期は合致する。Lv.2にランクアップしたのなら中層モンスター撃破も納得できてしまった。

 

「ステータス表記が変わった原因に心当たりはあるの?」 

「それが全くないんです。先に代わったアルスの時も、それこそミノタウロスの一件ぐらいしか変わったことはありませんでしたから」

 

 駆け出しがミノタウロスに襲われるのは特別なことかもしれないが、ステータス表記が変わるほどのこととも思えない。数多くの冒険者を見てきたエイナでもありえないと思えるほどの成長性の大本の理由が分からない。

 

「半月足らずでランクアップ…………申請は、するの?」

「神様と相談して、ギリギリまで遅らせるつもりです」

「あまりにも早すぎるものね。ヴァレンシュタイン氏の一年でも凄いことなのに、たった半月でだなんて異質過ぎる」

 

 トップ派閥の幹部が出した駆け出し(ルーキー)の頃に打ち出した最短記録を、新興ファミリアの無名の駆け出しが大幅に縮めるなど悪目立ちするのは確実。出来るだけ期間を稼ぎたいというのがヘスティアとベルの意志だった。

 

「本当ならランクアップは喜ばしいことなのに」

「まあ、本人は気にしていないので大丈夫です」

「そこは救いなんだけどね……」

 

 話題の張本人はソファから立ち上がり、盾を持った時の戦いをイメージしていて聞いていない始末。

 

「原因が分からないことには新規団員獲得も慎重にならざるをえないけど、周囲に知られた時の他所のファミリアの干渉を避ける為には勢力を大きくしておかなければいけないから難しいところだね」

「はい、そこでリリ――――雇っているサポーターに改宗の提案をしてみました。僕達と一緒に冒険して異質さは知ってくれていますから」

「ソーマファミリアの団員、か」

 

 明らかに含みのある言い方にベルは引っ掛かりを覚えた。

 

「リリはお金にそれほど執着していませんでしたよ。物凄く良い子です」

 

 まだそれほど付き合いが深いわけではないが、当初は『ソーマファミリア=金にがめつい』という先入観さえ無くせば仲間として信用における相手だと確信できていた。

 

「ん? あ、ああ、サポーターのことじゃなくてファミリアの方でちょっと言いたいことがあってね」

「ファミリアのことですか?」

 

 うん、と頷いたエイナが眼鏡の位置を直す。

 

「昨日の怪物祭(モンスターフィリア)の件で助力していただいたロキファミリアのホームに窺った時に神ロキからソーマファミリアのことを聞けてね」

「待って下さい…………どうしてロキファミリアが?」

「逃げ出したモンスターは強化種インプとイビルビーストだけじゃなくて他にも数体いて、それらに居合わせたアイズ・ヴァレンシュタイン氏が対処してくれたの…………待ってたら救援が来たはずって言った意味、ようやく分かってくれた?」

「はい……」

 

 Lv.5が対処に動いていたのならば確かに救援を待った方が良かったのかもしれない。反対にまた(・・)助けられる前に倒すことが出来て良かった気もしてベルは複雑だった。

 

(ロキファミリアには出向いて、僕らは呼び出しか。まあ、ファミリアの規模を考えればあっちはトップ派閥でこっちは零細だし仕方ないか)

 

 ギルドのある意味で露骨ともいえる対応の違いに思うところはあれど納得することにした。

 

「それで、ソーマファミリアがどうしたんですか?」

 

 この話題は色々と複雑なので話を進める。

 

「神ロキは神ソーマのことを、純粋に趣味に生きる趣味神と仰っていたの」

「趣味というと、確かお酒を販売してたからお酒を造るとかですか?」

「うん、そう。その為にファミリアを作ったって」

 

 だから酒を販売する商業系も兼ねているのかと納得する。

 

「だけど、市場に出回っている酒は失敗作なんだって。それでも60000ヴァリスもするんだよ。凄いよね」

「60000!? 失敗作で!?」

 

 自分たちの食事代が何人分になるのか、そもそもその金額で出回っている物が『失敗作』であることにまず驚く。

 

「流石に私も手が出せなかったけど、失敗作でも神ロキが運命の出会いと豪語するほどだから余程美味しいんだろうね」

 

 失敗作ですら寿命のない神が運命の出会いとまで称するならば、本物ならばどれほどなのかと少し興味がそそられる。

 

「お酒を造るにはお金がかかるけど、ソーマファミリアはファミリアとしては所属団員は多いけど規模としては中堅以下で稼ぎは決して多いとは言えない。そこで神ソーマはこの完成品の神酒(ソーマ)を褒美としたって」

 

 なんとなく展開が読めてきたベルは嫌な予感を覚える。

 

「まさかソーマファミリアがお金に執着するのって。でも、たかが(・・・)お酒にそんなに」

「そのたかが(・・・)お酒の為にって姿をベル君も見てるよね?」

 

 ギルドの換金所で足に縋り付きそうなほど金を求めていた思い出し、二の句が告げなくなった。

 

「ギルドには今のソーマファミリアに出来ることは何もないんだ。出来るならベル君達もあまり関わり合いにならない方がいいと思うけど、気持ちは変わらない?」

「はい。明日、もう一度勧誘するつもりです」

「ちゃんと話はするんだよ」

 

 ベルの目にはリリルカが酒に溺れているようには見えず、しっかりと正気を保っている筈。

 一度決めたことを変える気はないので深く頷く。

 

「5階層へのアタックだけど、アルス君がLv.2になっているのなら到達階層を増やすのを止める理由はないね。けど、一足飛びに潜るんじゃなくてしっかりと各階層を攻略してから進むように」

「そこは分かっているつもりです」

「攻略したって分かるように地図作成(マッピング)して提出すること。じゃないとまた禁止します。後、5階層以下に潜るなら、この機会にLv.やステータスに見合うように防具ももうワンランク上の物にしてもいいんじゃないかな」

「…………そうですね。先を見据えて良い物を選びたいんですけど、僕達はあまり武器の良し悪しの判断に自信が無くて」

「じゃあ、丁度いいから盾と一緒に私が見繕ってあげる」

「助かります!」

「準備してくるから受付前で待っててもらっていいかな」

「はい」

 

 話が纏まった頃、途中から完全に存在感を消していたアルスは二人が話に熱中している間に席を外し、談話室の中をコッソリと探検していた。

 

――――――――――アルスは レシピブック 『私は蝶になりたい』を 手に入れた!

――――――――――バタフライダガーの レシピを 覚えた!

――――――――――バタフライマスクの レシピを 覚えた!

 

 

 

 

 

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