包容力MAXのイギリス人が妹になったので一つ屋根の下で暮らします。   作:瓜生史郎

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15話 妹に看病された 前編

 俺は母親の事が好きだった。生前の母親はどこの誰よりも優しくてあまり怒らない性格で俺が友達と大喧嘩して帰ってきてもいつも優しく慰めてくれていた。

 

「また喧嘩したの……?」

「だって……アイツから先に手を出して来たら!! 俺は悪くない!!」

「もう……いつも言ってるでしょ? 手を出されたからって人を殴っちゃダメだって」

「だってぇ……」

 

 泣きじゃくる俺を母は優しく頭を撫でた。不思議な気分だ。母に頭を撫でられると気持ちがすっきりしていつの間にか泣き止んでいるのだ。

 

「スッキリした?」

「うん……」

「じゃあいつものあれ作ってあげようか?」

「本当?!」

 

 そういっていつも作ってもらってたのがミートスパゲティだった。待ちきれず俺はキッチンで作る所をずっと見つめていたのを今でも覚えている。

 

「できたよー」

「わーい! いただきまーす!」

 

 今でも忘れられない。俺が美味しそうに食べるのを見つめる母の顔を……。多分この時からだったと思う。自分の好みがミートスパゲティーとなったのは……。それくらい俺の中で思い入れがあるものになっていた。

 

 そんな優しい……いや優しすぎる母だが、過保護すぎる一面もあった。それは俺が風邪を引いた時だ。

 

「お母さん……風邪引いたー」

「嘘!?」

「ちょ……母さん!?」

「だ、大丈夫!? 本当に風邪だよね?」

 

 いつも母さんは大袈裟に驚いていた。風邪を引いたーなんて言った日には、男なのにお姫様抱っこされて布団へ運ばれる事はよくあった。今思えば俺の事を本当に大事にしてくれていたんだなと思う。

 

「母さん……別に大丈夫だって」

「だってぇ……」

「てか一緒の布団で寝ようとしないでくれ!!」

「私がいない間に苦しんだりしたら!!」

「だからただの風邪だってー!!!」

 

 こんな心配性すぎる母だったが、不思議といやではなかった。そういえば友達をたくさん作ったのも母を安心させるためだったな……。今となっては若気の至りだったなと思う。

 

 懐かしい……。風邪を引いたときはこうやっていつも一緒に傍で抱きしめながら寝てくれていた……。あたたかったな……。叶うならば、俺はもう一度この温もりを感じたい。だけどもうそれは……。

 

 

「う……ここは……」

 

 覚醒した俺は猛烈な倦怠感に襲われる。どうやら俺は今リビングのソファの上で寝ているようだった。そうか、俺は自分の部屋へ戻ろうと階段を登ろうとしたら……。

 

 まさかただの風邪で意識を失ってしまうとは思わなかった。やはり風邪も病気、馬鹿にはできないという事か……。

 

 気が付けば、おでこの上にはビニール袋に入った氷が乗せられており、さらにその下には熱さまシートも貼られているという二段構えとなっていた。これは意味あるのか?

 さらに毛布が被せられた上には……。

 

「クレア……!?」

「ん……友太君……?」

 

 俺の体を抱きしめるようにクレアが覆いかぶさっていた。驚いて咄嗟に起き上がるとクレアは涙を浮かべて俺を抱きしめた。

 

「目覚めてよかったよー!!」

「風邪くらいで大袈裟な……」

「だって……倒れるから……」

 

 そうかやっぱり俺は倒れてしまったのか。

 

 倒れた俺をここまで運んだのも、氷を乗せてくれたり熱さまシートを貼ってくれたのも全部クレアがやってくれたのか……。本当にクレアには悪いことをしてしまったと強く痛感する。

 

「とりあえず、ボルシチ風のおじやと梨スープ作るね……」

「わかった」

「その間に体温計で、今の体温を計って」

 

 差し出された体温計を脇に入れたのを見て、クレアは涙を拭きながらキッチンへ向かっていった。視線を机の上に向けると薬局の袋が置いてあった。中には風邪薬にビタミン剤、のど飴もある……。

 

 こんなに買ってくるか?普通と思いながら俺はのど飴を口に放り込む。でも義兄妹なのにここまでしてくれるのは嬉しいし、ありがたい。そんな事を思っていると脇に差していた体温計が鳴る。

 

「38度か……」

 

 相当俺は無理していたようだ。よくもまぁスーパーで買い物して家まで帰ってこれたなと自分を褒め称えたいほどだ。

 

「何度だった?」

「38度」

「結構高いね……ごめんね買い物付き合わせちゃって……」

「気にするな……俺の自業自得なんだから……」

 

 クレアの手には小さな土鍋と梨スープというデザートを載せたお盆を持っていた。それにしてもボルシチ風のおじやって何だろうか?

 

 机の上に置かれた土鍋を開けると、深紅のご飯に細かく刻まれた牛肉や野菜が入っておりとてもスパイシーな香りが部屋中をただよっていた。

 

「じゃあ、いただきます」

 

 いざ食べようとスプーンを持とうとすると、クレアは「ダメ」と言いながら俺の手を弾いた。

 

「なんでダメなんだよ?」

「だってー、また倒れちゃうから……」

「そんな大袈裟な……」

「だーめ。私が食べさせてあげるから友太君は大人しくしてて……」

 

 俺は渋々「わかった」と承諾する。まぁさすがスプーンを持っただけで倒れるやわな体ではないと思うけど、ここはもう心配をかけさせないためにも承諾しておくのが無難だろう。

 

 クレアはスプーンでおかゆをすくうとフーフーと優しく息を吹きかけて冷ました後「あーん」と言いながらこちらに差し出してきた。俺はこぼれないように大きく口を開けていると湯気が立った赤いおじやの乗ったスプーンが突っ込まれる。

 

「おいしい?」

「すごくおいしいよ、クレア」

 

 スパイシーなおじやで野菜も肉もご飯と同じようにやらかくなっていて、とても食べやすくなっていた。味が濃いけど体調が悪くても普通に食えるぞこれ……。

 

「嬉しい……。ほらまだあるからもっと食べて」

「おう」

 

 その後も同じようにおじやがなくなるまで、クレアに何度もあーんして食べさせてもらっていた。風邪を引いているとは言えまさか初あーんが義理の妹とは……。これ完全に俺はご奉仕されているよな?

 

 完食した後、小さな土鍋を片付けているクレアに改めてお礼を言う。

 

「ありがとうな」

「いいんだよ?」

「なんか甘えてばっかで悪いな」

「もっと甘えていいんだよ?」

 

 そう言って、クレアは笑顔で俺の頭を優しく撫でた。まるで俺を誘惑するかのような……。

 

 するとどうだろう、風邪で頭がこんがらかっていたのか次第に頭を撫でているクレアの顔が亡き母の顔に見えて来ていた。やばい……ダメ人間にされてしまいそうだ……。

 

 いやいや何を考えているんだ?相手は義理とはいえ妹だぞ?俺は顔を横に振りながら我を取り戻す。

 

「ほーらー友太君?次は梨スープですよー?」

 

 そう言いながらクレアは梨を突き刺したフォークを差し出してきていた。まずいこれで食べてしまったら本当に一線を超えてしまう気がする……。自分で食べると言え久野原友太!!

 

 だが悲しきかな誘惑には抗えず差し出された梨をそのままパクリと食べてしまったのだった。

 

「おいしいねー」

 

 そう言いながらクレアは俺の頭をまた撫でていた。その影響か風邪の影響かはわからないが俺の脳内はふにゃふにゃになっていた。

 

「うん……ママ……」

「ママ!?」

 

 クレアの驚いた声で我に返る。俺は今なんて言った?あろうことか妹の事をママと呼んでいたのだ。何たる失態……。

 

「ごめん……風邪でどうにかなってた……。気持ち悪かったよな?」

 

 俺は弁解しつつ必死に謝った。するとクレアはドン引きするどころかにっこりと笑って俺の顔を両手で包み込むように持った。

 

「え!? なに!?」

「いいんだよ? 私。友太君の妹でママでも……」

「いやいや!! それは!!!」

 

 流石にまずいと断る俺の前にクレアは、はにかんだ表情で顔を近づけてきた。

 

「まぁ冗談だけどね」

 

 絶対冗談じゃないだろう……?この表情……。

 

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