包容力MAXのイギリス人が妹になったので一つ屋根の下で暮らします。   作:Y0324

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77話 用具班になった

「結構人いるね」

「まぁ2年の全クラスから選ばれているからな」

 

 視聴覚室に入ると、広い講堂のような場所に溢れんばかりの大勢の生徒が集まっていた。

 

 この学園では、体育祭の実行委員をやるのは2年生と決まっているのだが、それでもこの人数である。

 

 流石マンモス校と言うべきなのか。

 

「友太?」

 

 聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、優奈がこちらに向かって歩み寄って来ていた。

 

「お前も実行委員なのか?」

「うん、そうだよ。友太が実行委員なんて珍しいね」

「ちょっといろいろあって……な」

 

 そう言いながら俺は明後日の方向を向きながら暗い顔をする。

 

 するとそれを見た優奈が察したのか、苦笑いをした。

 

「で、クレアさんはなんで?」

「友太君が可哀そうだったので……」

「へ、へぇ……」

 

 少し引きつった顔で優奈はそう答える。

 

 いやいや俺の妹に嫉妬してどうするんだよ……。

 

「久野原君!」

 

 今度は今来たらまずい声がした気がする……。

 

「久野原君も体育祭実行委員だったんだね」

 

 やはり予想通り松原がいつの間にか近くに立っていた。

 

「う、うん……」

「あら、転校生のクレアさんもいるんだね」

「は、初めまして……」

 

 初対面の人間に話しかけられて、緊張しながらクレアは挨拶を返した。

 

「私もいるけど?」

 

 不機嫌そうな顔で優奈が俺の隣に並び立つ。

 

「げ……植野もいたんだ……」

「げって何よ」

「そのままの意味だけど……」

 

 お互い火花が散るような距離でにらみ合いを続ける二人。

 

 まずいこのままだと一触即発が起きそうだ……。

 

「2人ともそこまでに……」

「わかった。友太がそう言うなら」

「私も久野原君がそう言うなら」

 

 2人は素直に俺の言葉を受け入れて喧嘩をやめた。

 

 俺が言わなきゃこの2人は言う事を聞かないのかよ……。

 

「皆さん、こちらの机に集まってください」

 

 1人の女子生徒がマイクを持ち、他の生徒を誘導する。

 

「友太君、あの人誰?」

「生徒会長だよ、3年の井谷有栖って娘だよ」

「へ、へぇ……」

 

 井谷有栖。現生徒会長の女子で3年生。成績は学年トップで信頼も厚く、この学校史上最強の生徒会長何て大袈裟に言われている。

 

「俺も本人を見るのは初めてだな……」

 

 俺達は並んで椅子に座ると、まずは生徒会長が自己紹介をし、立候補した生徒達を労う。

 

 その後生徒会メンバーが中心となってプロジェクターで今年の目標や種目を映し出し、説明を始める。

 

「結構大掛かりなんだね」

「なんか毎年、毎年大掛かりになってる気がする……」

 

 少しあきれながら優奈はそう言う。

 

 確かに、前まで障害物リレーなんてなかった気がする。しかもよく見れば某有名な体育系番組のようなセットも用意するらしく、今年の体育祭はかなり大きな予算を使うようだ。

 

 この学校変なところに予算を使うよなぁ……。

 

「という事で、班を決めたいと思います。まずは用具班をやりたい方」

 

 生徒会長が挙手を促すが、誰も手を上げようとしない。

 

 それもそうだ。用具班は用具の点検や体育祭で用具準備したりする一番面倒な役だからだ。

 

「はぁ……」

 

 何時まで経っても手を上げない生徒達を見て、呆れてため息をついた生徒会長はどうしようかと他の役員と話し合いを始める。

 

 用具班だけは俺も一番なりたくない班だなぁ。

 

 ん?いやいや待てよ?面倒ではあるが用具委員になれば、本番で使う用具に細工とかされるのを阻止できるのでは?

 

 そうなれば、もしこの中にいるかもしれないばらまこうとしている犯人に対してもけん制にもなる。

 

 生徒会長がもう一度こちらを見たところで俺は静かに手を上げる。

 

「えっと……、お名前は?」

「久野原です」

「じゃあ久野原君ね。後3人くらいいればいいんだけど……」

 

 ほころんだ顔でもう一度挙手を促すと、隣にいた3人も手を上げる。

 

「植野もやります」

「クレアもやります」

「松原もやります」

「じゃあそこの4人で決まり」

 

 決定すると、俺の方を向いてふふんと3人は同時にサムズアップする。

 

 こいつら仲良いなあと思っている内に、他の班の生徒が続々と決まっていった。

 

 やっぱり皆、用具班だけはやりたくなかったんだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく会合が終わって、俺達は視聴覚室から出る。

 

「やっと終わったぁぁ……」

「友太が、用具委員に立候補するなんて珍しいね」

「まぁいろいろあってな……」

「その色々を知りたいんだけど……」

 

 訝しんだ表情で優奈がそう言うと、松原もクレアも「うんうん」と頷く。

 

「松原早く帰ったら?」

「やだ!まだいたい、貴方こそ帰りなさいよ」

 

 口争う二人を宥めつつ、俺は3人に言い添える。

 

「そろそろ俺も、表舞台に出ようと思ってな」

 

 もちろん嘘であるが、脅されているなんて言えるはずもない。

 

「友太も変わったって事だね」

「まぁそうだね」

 

 嬉しそうに言う優奈に俺は申し訳なさそうなか気持ちになっていた。

 

「あ、久野原君」

 

 仲良く3人で談話していると、丁度、片づけを終えた生徒会長が視聴覚室から出て来る。

 

「あ、会長さんどうも」

 

 俺と3人は頭を下げて生徒会長に丁寧にお辞儀をする。

 

「そんな堅苦しい呼び方じゃなくて、親しく有栖でいいよ」

 

 ニコっと笑いながらそう言われたので「有栖先輩」と呼ぶと優奈と松原は少し機嫌が悪そうに見つめるが華麗に俺はスルーした。

 

「うんうん。あ、そうだ4人とも時間ある?」

「ま、まぁ……」

 

 振り向いて確認すると他の3人も頷く。

 

「申し訳ないんだけど今から4人で体育館と外にある倉庫の用具見に行ってもらえる?」

「今からですか?」

「うん、先生から今日中にお願いできないかって頼まれたんだけど……生徒会メンバーは皆忙しくてね。だから用具班の4人に頼めないかなって……」

 

 正直断って帰りたいんだよなぁ……。時間かかるのは目に見えてるし。

 

「ダメかな……」

 

 キラキラと目を輝かせながら、俺を一点に見つめる。

 

 この人、俺がこうやってお願いされるのを分かって……。

 

「わ、わかりました」

 

 渋々俺は承諾した。いやしてしまったが正しいか。

 

 周りからは、とげのように痛い視線が体に刺さる。

 

 もう次からは屈しないようにしよう……。

 

「良かったー。じゃあお願いね?久野原君」

 

 軽くウインクをしながら、俺達の前から有栖は去って行った。

 

 何今の……マジでめっちゃ可愛いんだけど……。ウインクを見た俺は超絶ドキドキしていた。

 

「「「じー」」」

「ち、違うから!!」

 

 後ろからは3人のナイフのように痛い視線が飛んできていた。

 

「ち、違うから!!」

「どうだか……」

「と、とにかく、手分けして2人ずつに分かれて早く終わらせよう」

 

 俺がそう発破をかけると、優奈と松原が唐突に睨み合いを始める。

 

「友太と組むのは私だから」

「いいえ、私です!!」

 

 2人とも俺を巡って争わないで!!なんて格好を付けて言おうとしたが、そんな事を言えるような雰囲気でもなく。

 

 どうしようか、おどおどしているとクレアが2人の入った。

 

「じゃんけんで決めませんか?」

 

 クレアの提案に、納得した様子の二人はお互い睨み合いながらじゃんけんを始める。

 

 そうして勝ったのは……。

 

「ふふん……」

「きィィィ!!」

 

 優奈だった。松原は心底悔しそうにしていた。

 

「じゃ、じゃあ俺達は外へ行ってくるから、クレアと松原は体育館を頼むよ」

「はーい、松原さん行きましょう」

「うん、クレアさんよろしくね……」

 

 この世の終わりのような顔をしながら、クレアと一緒に体育館へと向かって行った。

 

 そんなに俺と一緒に居るのが、良いのかな……?

 

「じゃあ俺達はグラウンドの倉庫だな」

「早く行こ?友太」

 

 手をぎゅッと握って、グラウンドの方へと引っ張る。

 

「手を繋いで行くのか?」

「いやなの?」

 

 ぎろりと優奈は睨みつける。

 

「いやじゃないです……」

 

 怯えながらそう返すと、優奈の顔は笑顔に戻った。

 

「ならよし」

 

 仲良く手を繋いだまま、俺と優奈はグラウンドへ向かったのだった。


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