包容力MAXのイギリス人が妹になったので一つ屋根の下で暮らします。 作:瓜生史郎
少し家でスマホを触りながらくつろぎ、8時前になると家を出てバイト先へ歩き出す。
家からバイト先までは30分以上になるのでちょうどいい時間帯だ。
それにしても本当にストーカーなんて居るんだろうか?
不審者に厳しい時代なのにストーカーとは相当肝が据わったやつだなと思う。
もし、会ったら一発で警察に差し出してやろう……。
30分後、ようやくバイト先のレストランにつく。
ここへ来たのは中原の店へバイトに行っていた時に、一緒に行ったきりで相当久しぶりだ。
中を覗くとまだクレアが働いていた。どうやら少し早かったみたいである。
「うわっ。妹の事を覗き見てるやつがいる」
振り返るとレストランから中原が出て来ていた。
「違うよ……」
「あはは……冗談よ」
腹を抱えて馬鹿にするように中原は笑う。
耐えろ、耐えろ俺。殺意を押さえろ……。
「で久野原君は、今日はレストランで晩御飯?」
「いいや、クレアを迎えに来ただけ」
「妹をお迎えなんて、珍しいわね」
「まぁちょっとな……」
含みのある言い方をすると、中原は疑惑の目を向けて来る。
「何か、怪しいわね」
「別に何もないって……」
「本当に?」
そう言いながらじりじりと俺に近づいていた。
このままだと、言うまで詰められそうだ。そう思っていた時だった。
「あれー?久野原君じゃーん久しぶりー」
後ろ振り向くと姉の花瑠香が、笑顔でこちらに近づく。
「ど、どうも」
「何?奈津希……。久野原といちゃついてたのー?」
ニヤついた表情で、俺をからかってくる。
「ち、違うって……お姉ちゃん……」
「早く告らないと、優奈ちゃんに取られちゃうよー」
「もう!!久野原君!!またね!!」
慌てた表情で中原は花瑠香の手を握ると、その場から逃げるように立ち去った。
……気にしないでおこう……。
中原姉妹が去ってから、待つこと10分。
ようやくバイト終わりのクレアが店の裏から出て来る。
「友太君……来てくれたんだ」
「あぁ、可愛い妹を守るために来てやったぜ」
サムズアップをして白い歯を見せて笑う。
我ながら気障なことを言ったな心の中で恥ずかしくなる。おそらく今のセリフを中原に聞かれていたらドン引きされていただろう。
帰った後で良かった。
「じゃあ友太君、ボディガードよろしくね」
嬉しそうにクレアは俺の背中に隠れるように、歩き始めた。
「お、おい歩きにくいんだけど……」
「今日は、私のボディガードなんでしょ?」
「そうだけどさ……」
「だったら、ちゃんと守ってね♡」
「分かったよ」
いつものようにくっつくクレアに呆れながら俺達は歩き始める。
「なぁ……お前何処で襲われそうになったんだ?」
「うん、もうちょっと進んだ先だよ」
当たりを見渡すと、かなり薄暗くなっていた。
これは不審者がいてもおかしくはない。
それにしても、ストーカーに襲われそうになったというのにクレアの子の落ち着きようは不思議である。
「お前、怖くないのか?」
「なんで?」
「だって、ストーカーに襲われそうになったんだろ?普通の女の子だと気が気でないと思うんだけど……」
今のクレアは見ていると、普通に楽しそうな表情だ。
肝が据わりすぎている気がする。
「うーん……昔から天然だからかな……?」
「天然って……そんなんじゃないと思うけど……」
「そうかな……?」
何食わぬ表情をするクレアの後ろに俺は違和感を覚えた。
足音が1つ多く聞こえたのだ。俺とクレア、あともう1人の足音が聞こえる。
振り向くと、暗闇でわからないが、でも誰かがいるかもしれない。
「友太君どうしたの……?」
不思議そうにクレアが後ろを振り向いた時だった。
突如として、暗闇から人がこちらに向かって走ってきていたのだ。
「危ない!!」
俺はクレアを守るために覆いかぶさる。
「な、何……?」
顔を真っ赤にして困惑するクレアを気にせずストーカーから守る。
「お前何者だ……」
顔を上げると、そこにはクレアが昨日言った通りの黒いフードに黒いズボンの怪しい人が立っていた。
「ッ!!」
ギロっと睨みつけると、怖気づいたのかその場から逃げて行ってしまった。
「怖かった……」
正直ナイフで刺されたらどうしようかと思っていたので何事もなく済んでほっと一息つく。
「ゆ、友太君……。そろそろどけてくれる助かるな……」
「あ……」
クレアが顔を真っ赤にしているのも無理はない。
何せ俺達は道の真ん中で馬乗り状態になっているからだ。
「ご、ごめん!」
急いで俺はクレアの上からどけた。
「き、気にしないで……」
とても気まずかった。守るためとはいえ、こんな道の真ん中で馬乗りになってしまうとは……。
しかも妹に……。まあクレアの事だから何も気にしてないと思うけど。
「それにしても、さっきの人すごく怖いお面付けてた……」
「お面……?」
「なんか歴史の教科書に出てくるような……」
お面と言うワードで頭の中に電流が走るような感覚に襲われる。
すかさずスマホを取り出して、頭の中に沸いたワードで画像検索をした。
「クレア、これじゃなかったか?」
「う、うん間違いないこれだよ」
「やっぱりか……」
1つの点と点がもう少しでつながりそうな気がする。
これでようやく犯人が分かったかもしれない……。
「ゆ、友太君……?」
「いや、何でもない……」
「そ、そっかじゃあ家に帰ろうか」
何事もなく歩いて帰って行こうとするが、先ほどとは様子が違う。
さっきのようにくっついてもこないし、顔ももう馬乗りの状態じゃないのに未だに顔が真っ赤だったからだ。
「な、なぁ……大丈夫か?さっきから顔赤いけど……」
「へ!?だ、大丈夫だよ!!」
そう指摘されて、飛び跳ねるよう驚いた。
まさか不審者で気がまいった?いやいや誘拐されても平気へっちゃらなクレアがそんな……?じゃあなんだろう?風邪でも引いてるのかな……?
俺は、クレアの前に立ちおでこ手を当てる。
「ゆ、ゆ、ゆ……友太君!!!???」
「うん……大丈夫そう……」
「あ……あわわわわわわ……ごめん友太君!!!」
慌てふためいたクレアは、そのまま走り去って行ってしまった。
「え……なんで……?」
走り去って行ったクレアの背中を俺はただ呆然と見ているだけだった。