西住みほの追憶   作:なかた

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後編

次の朝、頭痛がよりひどくなり、体のだるさも増していました。熱を測ってみたら微熱もありました。覚えていませんが、悪い夢も見たような気がします。

 

(うう、頭痛い。なんか熱っぽいし、動きたくない。けど、行かなきゃ)

 

私はだるい体を押して服を着替え、荷物をまとめて部屋を出ました。

 

(みんな怒ってるのかな。当然だよね。西住流の名前を汚したんだ。きっと黒森峰の皆よりももっと冷たい目をして私をみてくるんだろうなあ。それを私は耐えられるんだろうか)

 

「おい、みほ」

「え!?あ、お姉ちゃん。おはよう」

 

急にお姉ちゃんの声が聞こえたので、私はびっくりしてしまいました。

 

「何度も呼んだぞ。どうしたんだボーっとして。なんだか少し顔色も悪いな。大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよ。それじゃあ行こう」

 

私は無理に笑顔を作って、お姉ちゃんに顔を向けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ。まほお嬢様、みほお嬢様。お疲れでしょう」

「ああ、ただいま、菊代さん」

「ただいま」

 

出迎えてくれたのは、長年西住家の使用人をしてくれている、菊代さんでした。いつも優しくて、周りのことに気を配れる人です。私も悩みがあった時に、よく相談に乗ってもらっていました。そんな菊代さんの顔を見ると、私は少しホッとしました。

 

「奥様はもうお部屋でお待ちです」

 

 

 

 

 

「あ、ど、どうも」

 

途中で門下生とすれ違いました。その挨拶はどこかぎこちなく、その反応は中学時代クラスメイトに勇気をふりしぼって挨拶をしてみたのに「あ、う、うん、お、おはよー」と言う微妙な反応を返され時と酷似していました。あの時何がいけなかったのかな?声が上擦っちゃったからびっくりしちゃったのかなあ。いやそれとも挨拶をすること自体が急すぎたのかも。挨拶したらびっくりされるってどうなの………………

 

ま、まあそれはいいとして、私は門下生とすれ違う度に腫れ物を見るような目を向けられ、あらためて私は西住流にもよく思われていないと言うことが分かりました。そしてお母さんと会うことがまた怖くなったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奥様、まほお嬢様とみほお嬢様が来られました」

「入りなさい」

 

開いた襖の先に見えたのは、もの凄く怖い顔で私達を睨んでいるお母さんでした。その顔は今でもたまに夢に出てくるくらい怖くて私の中にトラウマのようなものとして残っています。

 

「さて、どこから話せばいいかしらね…………まずはまほ」

「はい」

「いろいろ言いたいことはありますがまずはあの決勝戦はなにを考えていたの試合に臨んだのですか。決勝戦、ほぼ相手のペースで試合が進んでいましたね」

 

鋭い目から容赦のない質問が飛んでいます。けれどお姉ちゃんは全く動じず、冷静に答えました。

 

「あの試合、プラウダ高校は本当に私達の動きをよく研究して来ていました。隊長はそれを駆使し、的確に私達の弱点をついてきて、すこし混乱をしてしまいました。IS-2の砲手もなかなかの腕利きで」

「言い訳はよろしい。まったくその前の試合もあなたらしくない指揮がありましたね。おそらくプレッシャーにでもやられたのでしょう。西住流の後継者たる者が、まったく恥ずかしい限りです」

「申し訳ございません」

「はあ……まあ詳しい事は後にして、問題はあなたです、みほ」

 

トラウマの顔が私の方を向きました。

 

「決勝戦のあの行動、一体何を考えていたのです。フラッグ車を離れるなどと言う自滅行為、私は恥ずかしいです」

「そ、それは」

 

私はお母さんの鋭い目に威圧されてまともに答えることができません。そういえばお母さんの笑った顔って見たことないな。いつも汚物を見るような目をしてるけど。今度菊代さんやお父さんに聞いてみよう。

 

「あなたも西住流の名前を継ぐ者なのよ。西住流は何があっても前に進む流派。強きこと、勝つことを尊ぶのが伝統」

「で、でもお母さん」

「犠牲なくして、大き勝利を得ることはできないのです」

「あ、………………」

 

まるでこれから私の言いたいことを見透かしているかのように言いました。けど、それは明らかにおかしい。少なくとも、私はそんな戦車道を認めたくない。そんな想いで私は、

 

「そ、それはおかしいよ。お母さん」

 

あろうことか、あのお母さんに反論していたのです。

 

「勝つために犠牲を払っていいだなんて、そんなの絶対おかしい!戦車道は戦争じゃないんだよ。私が小さい時に見た戦車道は、みんな一緒になって勝利を目指して」

「もうよろしい。下がりなさい」

 

お母さんは呆れたような顔で私を見ていました。

 

「そのようなことを言い出すなんて、家元として悲しいです。私は、そんな風に育てたつもりはないのだけど。まあ疲れているのでしょう。少し頭を冷やしなさい。あなたとはまた後で話をしましょう。下がりなさい」

「けど、私は!!」

「下がりなさい」

「っ、わかりました」

 

結局私はお母さんのプレッシャーに押されて自分の意見を言うことはできませんでした。私は襖を開け、外に出ました。

 

 

 

 

 

 

(犠牲を払っていいだなんておかしい。そう思ってるのになんで私はそれを言うことができないのかな?それに、西住流って結局なんなのかな?危険な仲間がいてもそれを見捨てるのが西住流?そんなのおかしい、おかしいよ。だけど…………)

 

その頃の私は、自分の考えに自信を持つことができませんでした。ずっと西住流にしか触れていなかったので本当に自分の考えが正しいのかどうか、分からなかったのです。西住流がおかしいと思っているのに自分の思い描く戦車道に自信が持てない。矛盾していますが、日々を過ごすのに精一杯だった私には戦車道について考えることができていませんでした。私の戦車道の時計は、小学生の時から止まったままでした。

 

「みほお嬢様」

 

声のした方を見るとそこには菊代さんが立っていました。

 

「奥様とのお話は終わったのですか?」

「う、うん。けど、お姉ちゃんはまだ」

「そうですか、お嬢様?ちょっとお顔が赤いですね。顔色も悪いですし。お風邪でございますか?」

 

気付いていませんでしたが、いつの間にか私はまた倒れそうになるくらい気分が悪くなっていました。それでも心配はかけまいと、明るくふるまおうとしました。

 

「う、うんちょっとだけ。でも、大丈夫、だいじょう…………あれ?」

「お、お嬢様!!まあ、凄い熱」

 

体の方は正直だったようで、私はまた眩暈がして倒れそうになった所を菊代さんに支えられました。

 

「どうしてこうなるまで無理をしていたのです!!」

「ごめんなさい。菊代さんは、私のこと、心配してくれるんだね」

「当たり前です。お嬢様は私にとっては娘も同然ですもの」

 

菊代さんはちょっと怒ったような顔でそう言ってくれました。この時、私は余裕がなかったせいでこの時に返事をできませんでした。だから私は今度会った時にこう言います。

 

______私も、菊代さんのことは、もう一人のお母さんだと思っています______、と。

 

「ありがと。ちょっと、寝てていいかな」

「どうぞ。後のことは私にお任せください」

 

その言葉に安心して、私は眠りにつきました。最近みていなかった、安らかな夢を見ていたような気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うーん」

 

倒れてから数時間くらいたった頃でしょうか、私は目を覚ましました。体はちょっと楽になっていました。

 

「起きられましたか。お嬢様」

「菊代さん」

「お医者様にも来て頂きましたが、ただの風邪だそうですよ。二、三日安静にしていればよくなるそうです。まほお嬢様は本当に後悔されていました。昨日も倒れていて、今日も顔色が悪かったのに、どうして連れて来てしまったのだろうと」

「お姉ちゃんが…………」

「これまでのことは、まほお嬢様が話してくださいました。本当に苦労なされたのですね」

「お姉ちゃんの方が、私なんかよりずっと苦労してるよ。全部背負い込んで頑張って、けど優勝できなかったから色んな人にいろいろ言われてる。全部わたしのせいだよ」

 

私は自己嫌悪に陥っていました。お姉ちゃんが背負っていた物を知っていたのに、自分の重荷を背負うのに精一杯で、お姉ちゃんの背負っていた物を無視していました。それどころかお姉ちゃんの足を引っ張ってすらいました。

 

「そんなに無理をしなくてもよいのではないですか?」

「え?」

 

その声はとても優しくて、ついあまえたくなってしまう声でした。

 

「まほお嬢様の重荷とみほお嬢様の重荷、どちらが重かったかなんて、私には分かりません。と言うより、どうでもいいのです」

 

その顔は小学校の頃、同じように自分の戦車道について悩んで相談に乗ってもらった時と同じで、安心感を与えてくれました。

 

「なぜなら、どちらも相当重い荷物ですもの。どちらの方が重いかなんて関係ありません。ですので、

 

私にも、その荷物を背負わせて下さい」

 

そう笑顔で言われて、私は思いを吐き出してしまいそうになりました。しかし、菊代さんに迷惑をかけられません。

 

「け、けど私は」

「今日だけは、私は西住家の使用人ではなく、みほお嬢様の使用人です。ですので、私は西住流の人間ではなく、お嬢様の味方ですよ。それとも、私ではお嬢様の相談役とはなれませんか?」

 

その姿は、すべての人が敵ばかりのように見えた中で、唯一見つけた、私の味方でした。

 

「うう、う、う、うわあああああああああああああああああああああああ」

 

そして私は菊代さんに飛びついて、今まで溜め込んでいた物を全て吐き出してしまいました。

 

「川に落ちた仲間をたすけて何が悪いの!?

 すぐには戦車に水は入らないしすぐに運営が助けに行けてたって?

 知ってるよそんなこと!!けど、安全は100パーセントじゃないし、トラウマにでもなって戦車に乗れなくなったら、その子はすごくつらいだろうし!!

 勝つのって、それより大事なことなの?

 私はまちがったことはしてない!!してない!!してないのに!!どうしてみんな分かってくれないの?

助けた子達はみんな私を庇ってくれないし!!これじゃあ助け損だよ!!

 お姉ちゃんもそうだよ!あんな足場の悪い所に行くように指示して、完全に向こうのペースでは試合を運ばれてたよ!!あんなんじゃいつかはやられてたよ!!準決勝もお姉ちゃんのせいで負けそうになったんだから!!

 自分がフラッグ車の時もいっつも前に出たがって、私の心臓がどれだけ止まりそうになったか…………

 それから私が指示するのをよく思ってなかった先輩達、そんなにいやなら自分で冷静に判断してよ!!

 想定外のことが起こったらいっつも私に指示を出されるまで凍り付いてたクセに試合が終わった後はえらそうに指示について文句言ってくるんだよ?文句言いたいのはこっちだよ!?

 お母さんも碌に試合を見に来なかったのに知った風にお姉ちゃんや私を非難して、知った風な口を叩かないでよ!!それにそんな風に育てた覚えはないって、ずっとかまってくれなかったクセに、私だってお母さんに育てられたつもりはないよ!!

 そもそもお母さんの言う西住流ってなんなの?…………………………」

 

 

 

私は随分長い間わめくようにこれまでの苦労を吐き出していました。できればこの時のことはもう忘れたくてたまりません。私の汚い部分と言うか…………そう言うのがでていました。菊代さんは少しも嫌そうな顔をせず、時折相槌をうちながら話を聞いてくれました。

 

「ごめんなさい、こんな話を聞いても、楽しくないよね」

「いえ、お嬢様がどのようなことを思われて過ごしていたのか、知れただけで充分楽しかったです」

「ありがとう。分かってるんだ。黒森峰の副隊長としては、あんな事はしちゃいけなかったってこと。そのほかにも副隊長としてダメだった所もいっぱいあった。お姉ちゃんはずっとプレッシャーがかかってて、支えなきゃいけないのは私なのに、自分の受けているプレッシャーを言い訳にして、見ないふりしてた。ほかにも」

「もうよいのです。お嬢様はよく副隊長を務められました」

「けど…………」

「過ぎたことはもうよいのです。確かに、お嬢様は副隊長としてはやってはならないことをしたのかもしれません。西住流の人間としても、あまり好ましい行為ではありません。しかし、”戦車道は戦車の技術を磨くだけでなく、人としての在り方を磨いていく”ものなのですよ」

「あっ」

 

その言葉は、私が小学校五年生の時に聞いた大切な言葉でした。その言葉がなければ、私はお別れする友達にさよならも言えずに、戦車道をやめていました。

 

「あの行動は、人としてはまさに百点満点でした。あの場面で迷わず川に飛び込むなど、私にはできません」

 

 

「私もまちがってないって思いたいけど、あれはまちがってるって皆に言われて。私、どうしたらいいか分からない」

 

私が話を終えたのを見ると、菊代さんは優しい声でこう言ってくれました。

 

「さ、まずは御夕食に致しましょう。食べなければ、お風邪は治りませんよ。いろいろ考える事はあると思いますが、まずはお腹に何かいれませんと」

「うん、そうだね」

「では、今準備をしてまいりますので」

「うん、ありがとう、菊代さん」

「お安い御用ですよ」

 

そう言って、菊代さんは出て行きました。私は本当に菊代さんには迷惑をかけてしまいました。いつか何か恩返しができたらいいなと私は思っています。

 

 

 

 

 

しばらくして、また襖が開いて、誰かがきました。

 

「起きたか、みほ」

「お姉ちゃん。どうして」

「菊代さんから、みほが起きたと聞いて、帰るまでに少し話がしたいと思ってな」

「帰るって?」

「ああ、私は今日には学園艦に戻る。明日からまた優勝旗奪還に向けて、頑張らないといけないのでな。みほは、風邪が治るまでここに居るといい」

「そうなんだ。それで、話って?」

「これからのことだ」

 

これからのことと聞いて、私は気持ちが暗くなりました。黒森峰に戻って私がどんな風になるか、想像するだけで恐ろしかった。

 

「正直、お前に黒森峰やこの西住流のスタイルは合ってないと思う」

「うん」

「けど、お前は凄いよ。私も含めて皆が焦って混乱している時も、お前だけは常に冷静だった。私よりも隊長に向いてるかもな」

「そんなことない。私も冷静なんかじゃなかったよ。お姉ちゃんの方がみんなに不安を見せずに、頑張ってたよ」

 

今思えばお姉ちゃんについて菊代さんにはあんなことを言っておいてよくこんなお姉ちゃんを褒めるようなことを言えたなと思います。いや、もちろん私はお姉ちゃんを尊敬してますよ?人間って誰でも心の奥底で思ってることってあるじゃないですか。

 

「そうかな。どっちにしても私達はまだまだ未熟だ。私は黒森峰にもどって、自分の戦車道を磨く。どんなことがあっても前に進む。それが西住流だからな」

 

(西住流…………か)

 

「お前はどうする?みほ」

「私、私は……」

「まあ、ゆっくり考えるといいだろう。だが、黒森峰に戻ってくるなら相当な覚悟をして戻って来い。お前にとってはつらく険しい道になるだろうからな」

「う、うん」

 

そこまで言うと、お姉ちゃんは昔のような優しい顔に戻って言いました。

 

「ただ、私はまたお前と一緒に戦車道がしたい」

「え?」

「今回は私達の未熟さのせいで、あんなことになってしまった。だが、私は夢を見ているんだ。西住の名を持つ二人で、優勝旗を掲げる所をな」

「お姉ちゃん……」

 

憧れのお姉ちゃんにそんなことを言われて私は嬉しかったです。

 

「まあ、それはお前が決めることだ。どんな決断をしようが、私は反対しないよ。黒森峰を離れることが最善だと判断したら胸を張ってそうすればいい。では、そろそろ私は帰る」

「うん、ありがとう、お姉ちゃん」

「ああ、またな」

 

そう言って、お姉ちゃんは帰っていきました。

 

 

 

 

それからは、夕食を食べて、これからどうするかを考えました。けど、一向に考えがまとまりません。

 

戦車道が嫌いになったらやめてもいい、けどもし戦車道を続けるのであれば自分だけの戦車道を見つけなさい。

 

 

昔、お姉ちゃんは私にそう言いました。私は戦車道を続けて、いろんな戦車道を見て、そこで感じたものが私の戦車道になるのだと考えていました。けど、黒森峰に来て感じたことは、苦しさしかありませんでした。

 

先輩からは妬まれ、時には手や足を飛ばされて、同級生からは距離を取られ、教官からは無駄に期待されてプレッシャーをかけられる。さらに高校の大会では十連覇がかかった大会でいろんな人から期待された。黒森峰で過ごした四年間は間違いなく私の17年の人生の中で一番辛い時期でした。そんな状況で自分だけの戦車道など見つけられるはずがありませんでした。

 

「菊代さん」

「なんでしょうか」

「私、戦車道を続けていけば、自分だけの戦車道が見つかると思ってた。けど、そんなの全然見つからない。菊代さん、言ってたよね。戦車の技術を磨くだけの物じゃない。人としての在り方磨いていくものだって」

「はい」

「けど、黒森峰はそんなんじゃなかった。皆必死になって大会に出るために練習してるの。私みたいに自分の戦車道を見つけたいだなんて思ってる人なんて全然いなかった。皆必死に技術を磨いてるんだよ。ライバルを無理矢理蹴落とすことも厭わない。そんな恐ろしい所だった。なんでそんなに必死になれるのかな?」

 

私の質問に、菊代さんは少し考えて答えました。

 

「それは、一概には言えませんが黒森峰の皆さんはもう自分の信じる戦車道があるのでしょうね」

「自分の信じる戦車道?」

「そうです。ですから迷いはありませんし、どんな辛いことがあっても必死になれるのでしょう」

 

(そうか、皆もうお姉ちゃんの言う”自分だけの戦車道”を見つけてるんだ。見つけてないのは私だけか)

 

「じゃあそんなのを持ってない私は黒森峰にいちゃいけないのかな?」

「そんなことはありませんよ。自分のペースでゆっくりと見つけていけばいいのです。それに、先程も申し上げましたが、お嬢様はそのような環境の中でも立派に副隊長を務められました。何も恥じることはないのですよ」

「けど、私は決勝戦であんなことを…………もうあそこに居る資格はないよ」

「あら?間違ったことはしてないんじゃありませんでした?」

「さ、さっきのことはもう忘れてよ!!確かに、私は正しいことをしたと思ってたけど、みんな私を責めてくるし、もう正しかったのかどうか分かんないよ」

 

私は今回の決勝戦で同じようなことをしましたが、その時に助けたウサギさんチームが効果的に働いてくれたことが優勝の一因でもあります。だから今回の私の行動は正しかったことになるのですが、去年は同じことをして結果的に優勝を逃してしまう原因になってしまいました。つまりは結果論です。同じ行動でも結果によってみんなの態度が違う。なんだか少しややこしい。まあそんなわけで今もあの時の私の行動が正しいのかどうかは分からないのです。

 

「さあ、お嬢様はご病気なのです。難しい話はまた明日、ご病気を直されてからにいたしましょう。そういえば、明日は旦那様も帰ってこられるようですよ」

「え?お父さんが?珍しいね」

 

私のお父さんは自動車整備士をやっていてなかなか家には帰ってこない人です。何でもお父さんと二人だとあのお母さんがお父さんに甘えまくると言う噂が門下生の中で広がっているのですが真偽は分かりません。

それと、少し私とお姉ちゃんに甘いです。

 

「ええ、『みほが帰ってるなら俺も帰らねば』、なんて言ってたようですよ」

「ははは…………相変わらずだね」

「そうでございますね。……お嬢様」

「なに?」

「私は結局は、お嬢様がどうしたいか、だと思います。黒森峰にいる資格だとか、そう言うことは気にせず、自分のやりたいことをよく考えてみて下さい。きっと胸の内にはどうしたいかすでに決まってると思いますよ」

「私の、やりたいこと…………うん、分かった。今日はありがとうございます。菊代さん。おかげで、すこし楽になったよ」

「もったいないお言葉でございます。では」

 

 

 

菊代さんがいなくなった後の部屋は、真っ暗だけど、黒森峰の寮と違って窓からわずかな月光が差し込んでいて、ほんのちょっとだけ照らされていました。ほんのちょっとなんだけど、それが私の気持ちを少しだけ楽にさせてくれました。そして、これから自分のやりたいことを考えてみました。

 

(黒森峰に居る間、本当に辛いことばかりだった?ちがう。嬉しかったこともあった)

 

(例えば、お姉ちゃんに副隊長に指名された時。憧れのお姉ちゃんに認められたみたいで嬉しかった)

 

(例えば、戦車道の試合で勝った時。私の指揮がチームを勝たせたと思うと、本当に嬉しかった。けど、これは最初だけで、大会が進んでいくと、逆にこのまま勝たなきゃって言う気持ちの方が大きくなった)

 

(確かに嬉しかったこともあるけど、辛いことは本当にたくさんあった。毎日の訓練もきつかったし、ちょっと失敗したら厳しく言われるし、暴力を振るわれたり…………もう思い出すのはやめよう)

 

確かに嬉しいこともあったけど、辛いことの方が多かった。黒森峰に居たら、そんな日々がこれからも続くことが容易に想像できました。そして、それが分かっていて黒森峰に居たいかと言うと、答えは一つしかありませんでした。けど、同時にわいてくる気持ちもあります。

 

(私にとっての戦車道ってこんな一回の失敗で投げ出してしまうくらい、軽いものだったのかな)

 

私は私なりに、戦車道を本気で取り組んできたつもりでした。小さい頃から憧れていたものだったし、黒森峰に入った時はそれなりの覚悟をして入学しました。だから厳しい訓練にも耐えることができて、副隊長にもなれました。けど、私はたった一回の失敗でそれを投げ出そうとしている。それはあまり良くないことではないのかと思えてなりませんでした。

 

(そういえば…………)

 

私はこの二日間の間、携帯を見ていないことに気付きました。まあほとんど連絡なんて来なかったと言うこともあるんだけど…………。そして確認してみると、珍しいことにメールが二件も届いていました。

 

名前を確認してみると、本当にもの凄く懐かしい名前が出てきました。

 

from 柚本 瞳

title かっこよかった~

久しぶりみほちゃん(>∀<)ノ 

テレビ見たよ~そしたらみほちゃん写ってた(ー△ー;)

すっごくかっこよかったよ~

じゃあ、今度また会おうね~バイバイ☆(^∀^)ノ~~

 

P.S いつか戦車道で私の学校と戦おうね~。私達、負けないから。

 

 

from 遊佐 千紘

title 久しぶり!!

みほちゃん久しぶり。

テレビ見たらみほちゃんが写っててびっくりしたよ。しかも副隊長なんてやっててさ。

やっぱりみほちゃんはすごいよ。私も負けられないな~。

今度は私の試合をみほちゃんに見てもらうから。

みほちゃんみたいにかっこいい所見せられるといいな。

 

 

 

読み終えると私はつい口元がほころんでしまいました。純粋な気持ちで笑ったのは随分久しぶりのことで、下手すると小学校以来だったかもしれません。

 

(懐かしいなあ)

 

二人共、私の小学校の時の友達で、二人と後もう一人中須賀エミちゃんと言う女の子と私は戦車に乗っていたことがあります。今の私のスタイルも、その頃に培いました。今年も決勝戦の直後に二人はまたメールをしてきて、今度会う約束もしました、楽しみだなあ。

 

それはそうとして、メールの文面を見るに、二人は気を使ってくれたのか、結果については一言も書いていませんでした。そんな少しの気遣いが嬉しかったです。

 

メールを返して、安心してしまったのか、小学校の頃の思いでに浸りながら、私は眠ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、私は大分遅くまで寝ていたようです。着替えて外に出てみると既に門下生が訓練を始めていました。

 

(体、大分楽になったなあ。寝ちゃったから全然どうしたらいいか考えなかったけど)

 

歩いていると、砲撃の音が聞こえてきました。どうやら門下生同士で模擬戦をしているようです。

(そういえば、あの戦車はまだあるのかな?)

 

私は戦車が収納されているガレージに向かいました。そこには、私の思い出に深く刻まれている戦車がありました。

 

(まだ、あったんだ、Ⅳ号。私が始めて戦車戦をした戦車。懐かしいなあ)

 

このⅣ号戦車は私がエミちゃん、瞳ちゃん、千紘ちゃんとはじめて戦車戦をした時の戦車です。その頃に比べたら錆が多くなっていますが、まだまだ動きそうでした。

 

「お嬢様、ここにおられたのですか」

「菊代さん。まだあったんだね。この戦車」

「そうですね。もういい加減に古くなってまいりましたが、まだまだ現役ですよ」

「懐かしいなあ。あの頃はまだ、かっこいいお姉ちゃんに、ただ憧れてた。私もこれから戦車に乗るのかと思うと、ワクワクしてた。けど、西住流は私の思い描いてた戦車道とは全然違って、続けていけば何か分かるのかと思ってた。けど、やっぱり今でも西住流が何なのか分からない。ついていけないよ」

 

菊代さんはそれを聞いてただ「そうですか」、とだけ呟いていました。私にはその声が少し悲しそうに聞こえました。

 

「ご、ごめんなさい。菊代さんは西住流の人なのに、こんなこと言われたら気分悪いよね。昨日も迷惑かけたのに、また私は」

「ああ、いえ。そんなことはないですよ。人によって戦車道の価値観は千差万別ですよ。その流派が理解できないこともあります。ですから、何も気にする必要はありません」

「…………うん、ありがとう。菊代さん」

「ああ、そういえば、旦那様が戻ってこられましたよ。今お嬢様を探して「おお、みほ、ここにいたか!!」

来られましたよ」

 

声のした方を見ると、中学生の時を最後に見ていなかったお父さんの姿が見えました。

 

「おお、ちょっと女らしくなったか?元気……じゃあなかったんだよな」

「うん」

「そうか、まあなに?お父さんが愚痴でもなんでも聞いてやるぞ?」

「うん、ありがとう。けど、大丈夫だよ」

「おお、そうか…………っておい!?菊代さんの胸には飛び込んだのに俺の胸には飛び込まねえのかよ!?」

 

ホントになに言ってんだろこのおっさん。言い方は悪いけど、本気でそう思いました。だってもう50歳に近づいているような男の人に飛びつくなんて、ちょっと無理だもん。うん、無理。

 

「いや、そりゃ菊代さんはいいけど、お父さんは、ちょっと……」

「ええ!?お父さんちょっとへこむよ?昔は俺が帰って来るたびに喜んで迎えてくれたのに。菊代さん、これが噂に聞く、反抗期ってヤツなんですかね?」

「いや、別に普通の反応かと…………」

「ええ!?菊代さんも酷い!!俺の男心が傷ついちゃったよ?」

「男心って…………」

「ま、そう言う反応が出来るってことは、ちょっとは吹っ切れたみたいだな。安心したぞ」

「うん、ちょっとは……ね」

 

たまになに言ってるのか分からなくなったり、ちょっと親ばかなのが玉に瑕だけど、失敗をして戻ってきた私を気遣って、こんな声の掛け方をしてくれる、かっこいいのか悪いのかよく分からない、私はそんなお父さんが大好きです。

 

「俺は戦車道のことはよく分からんし、あれが正しかったか、間違ってたかは分からん。けど、俺はずっとお前を応援するぞ。それが親ってもんだからな。だから、お前が黒森峰をやめたいって思うなら俺は止めないし、転校先も探してやる。お前は、どうしたい?」

「私は、私は」

 

戦車道なんてもうしたくない。そう言いたいはずなのに、なぜだかその声が出ませんでした。これまでずっと戦車道をやってきたのに、一回の失敗で投げ出すのはよくないことなのではないか、そんなことを前日の夜にも考えていました。

 

しかし、それは建前で、私はただささやかな意地を張っていただけでした。自分は西住流の家元の娘で、一年から黒森峰の副隊長をしていたと言う自尊心の元に、このまま馬鹿にされたまま終わると言うのが悔しくて、逃げると言う選択肢を敗北のように感じて、プレッシャーに押しつぶされ、チームメイトからもズタボロにされ、ボロボロになっていた本当にささやかな意地を張っていただけでした。

 

「俺はな。こんなこと言ったら母さんに怒られそうだけど、逃げることは別に悪いことじゃないと思うんだよな。むしろ、逃げることができるのも強さだと思ってる」

「え?」

 

逃げることが強さ、そんなの聞いたことがありませんでした。

 

「そりゃあ逃げないといけないような状況が一つも無いのが一番いいんだが、逃げないといけない時に逃げるって言う冷静な判断を下せるってのも強さだと思うんだよ」

「どういうこと?」

「分かりやすく戦車で言うとだな、一両で移動しなくちゃいけない時に、複数の戦車に遭遇しちまった。そんな時にみほはわざわざ戦うか?」

「ううん、味方の車両に連絡して、退却して援軍を待つ……かな?」

「そうだ。当たり前のことだろ。一人で戦うより逃げることによって状況を逆転させるんだ。それと一緒だ。状況は悪いなら逃げたっていいんだよ。むしろそれで楽になるならその方がいいに決まってる。それでみほ、もう一回聞くぞ。お前は、どうしたい?」

 

お父さんは私がささやかな意地を張っていたことを分かっていたのかもしれません。戦車を例えに出していますが、もちろん戦車とこの一件のことはまた別の話です。反論しようとするならいくらでもできます。お父さんは私が逃げたいと思っていることを察知して、まだ意地を張っている私を後押ししてくれたのです。お父さんにも感謝してもしきれません。お父さんが後押ししてくれなかったら、私は意地を張ったまま、大洗には行っていなかったかもしれません。そして、意を決して私はいいました。

 

「私は、私は、もう戦車道をしたくない。黒森峰をやめたい。普通の女子高生に、なりたい」

 

情けないことに涙が出てしまいました。ずっと心に思っていたことがやっと言えて、緊張の糸が切れたか、それとも西住の呪縛から解放された開放感なのか、それは分かりませんが、私の目から涙が止まりませんでした。

 

「ふっ、よし!!良い答えだ!!母さんや転校先のことは気にすんな。父さんがなんとかしてやる」

「あり、が、とう」

「はっはっ泣くな泣くな…………はっ菊代さん、さっきの逃げ云々の話は、母さんには黙っといてくんない?もしばれたら殺されるかも」

「はい、かしこまりました」

 

あんなにかっこいいことを言っておきながらその直後に情けなくなるあたり、やっぱりお父さんはかっこいいいのか悪いのか、よく分かりません。

 

 

 

 

 

 

その日の内にお父さんはまた自動車整備の旅に出て、私も次の日には風邪が治って一旦黒森峰に帰ることとなりました。港までは菊代さんが送ってくれました。

 

「お嬢様、お体に気をつけて」

「うん、ありがとう。菊代さん、私はまだ、自分だけの戦車道を見つけてない。見つけないで、逃げちゃった。もう自分だけの戦車道は見つからないのかもしれない。それでも、自分が成長できたと感じたら、また帰って来るから」

「ええ、いつまでもお待ちしております」

 

ここではそんなことを言ってたのに、転校先でもうやるつもりのなかった戦車道を強制的にやらされ、一年後には自分だけの戦車道を見つけることができたのは、また別のお話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは、とんとん拍子に物事が進みました。お父さんが戦車道の無い学校を探してくれ、編入手続きも済み、そして、私が黒森峰の制服を着る、最後の日となりました。

 

 

 

授業も終わり、教室を出て、階段に向かうと、そこにはお姉ちゃんが待っていました。

 

「今日で最後か」

「うん」

「そうか。残念だが、お前が決めたことならしょうがない。ま、達者でな」

「うん、お姉ちゃんも」

 

そう言って、私は決して振り返らず、学園を去ろうとしました。こんなトラウマだらけの学園、速く出て行きたくてたまりませんでした。出口まで来たところで、私はだれかに呼び止められました。

 

「みほさん、待ってください、みほさん!!」

 

その声は決勝戦の時に私が助けた戦車に乗っていた、赤星さんでした。

 

「みほさんが転校するって聞いて、その、お礼を言いたくて、あの時助けてくれてありがとうございます」

 

私は振り返りませんでした。本人を目の前に見てしまうと、つい余計なことを言ってしまいそうになってしまいそうだったからです。けど、赤星さんはあの後自分達が迷惑をかけたのではないかと気になっていたと言っていました。なら、洗いざらい全部ぶちまけた方がよかったのかもしれません。

 

「転校先でも、戦車道、続けますよね?」

 

私が俯いてだまっていると、悪い意味で受け取ったのか、慌てて彼女は言いました。

 

「やめちゃダメですよ。やめちゃダメです!!みほさんは戦車道をやるべき人です!!私、試合の時緊張してうまく指示とか出せなくて、先輩達には怒られてばっかで、けど、みほさんは私達に優しく的確な指示をくれました。だから、その、とにかくやめちゃダメです」

 

赤星さんは優しい人です。その日で学園を出て行く人をわざわざ追いかけて自分の想いを素直に言ってくれました。けど、それなら、そう思ってるならなぜ決勝戦の直後に言ってくれなかったのか、なぜ私を庇ってくれなかったのかと、そう言う気持ちも沸いてきました。私は、声を上げたい気持ちを抑えて、彼女の方を振り返らず、まっすぐ歩きました。あの時もっと話しておけばよかった、後からそう思えてきて、私はずっと後悔していました。だから、決勝戦前にまた話せて、本当によかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは、転校先の学校で強制的に戦車道をやらされて、本当にいやだったけど、大好きな友達と一緒だったから頑張れて、そして戦車道を楽しむと言うことを覚えて、自分だけの戦車道を見つけられた。

 

それも全部、大洗に来て出会った 沙織さん

                華さん

                優花里さん

                麻子さん

 

こんな私にはもったいないような本当に世界一と言ってもいいような友達ができたおかげです。私は生涯この四人の友達に対する感謝の気持ちを絶対に忘れません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえみぽりん、みぽりんてば」

「え?あ、どうしたの?沙織さん」

「どうしたのってそれはこっちのセリフだよ。どうしたの?ボーっとして」

「やはり、お体の調子が悪いのですか?」

 

皆が心配して私の方を見ています。

 

「なんでもないよ。ただ、私はこんな世界一の友達ができてよかったって思ってただけだよ」

 

うんうん本当にそうだ。あれ?なんかみんな驚いてる?

 

「に、西住殿にまた告られました~」

「ちょっと大袈裟じゃないのか?」

「そんなことないよ。皆世界一の友達だよ」

「なんて言うか、今更そんなこと言うあたり、みぽりんてやっぱりちょっとズレてるよね」

「ふふ、そう言うところもみほさんですね」

「えー二人共なんかひどいよー」

 

 

 

 

 

あの行動が正しかったのかは今も分かりません。

きっとこれからも分からないのではないかと思います。

 

分かるのはその行動は、西住流においては許されないことで、十連覇を期待していた人の行為を裏切る行動だったと言う事です。

 

けど、私は同じようなことがもう一度起こっても、迷わず同じ行動を取ります。

 

 

なぜなら、それが私の戦車道だからです。

みんなで戦ってみんなで勝つ、それが私の戦車道だからです。

 

それが私が小学五年生から高校二年生の間にじっくりと時間をかけて見つけた、私の戦車道です。




ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
OVAを見る前に復習として本編を見直してみたらそういえば黒森峰時代については詳しく書かれていないなと思ったのが本作を書くきっかけで、書いていくうちにどんどん妄想が膨らんでしまって、結構長くなってしまいました。
最初はみほの回想と言う形ではなかったのですが、どん底に陥っていたみほの心理描写が難しく、また書いていて気分が悪くなったのでこのような回想形式となりました。

拙い文章でしたが、ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
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