転生者、メタリック魔術士になる   作:フユガスキ

1 / 6
魔法や剣の時代にも受験勉強はあります

「受験、なくならないかなぁ……」

 

 この冬、年始めに受験する私は、机の前で勉強する意志を見せながら、目は窓の外の暗闇に向けていた。

 

 この"私"が生まれたのも、冬空の下、乾いた風が家の隙間から吹き込む時期だった。

 所謂、異世界転生というものを果たした俺は、とにかく見目麗しい、と一言目にはその類語が飛び出す噂の私へと生まれ変わった。

 幼いうちは、子どもを可愛がるのはどこでも変わらないものなのだと思い、うっとおしさを感じながらも、平凡な幼子として過ごしていた。

 

 幼少期を両親に愛されながら平凡に過ごし、時は経ち、近所の同年代の子どもが悪知恵を働かせるような歳になったとき、違和感に気づいた。

 

(あれ、なんか私、飛んでね?)

 

 ここは、魔法のある世界だった。

 

 普通、十歳手前の子どもは、身体能力の強化を目的とした魔法を発現するらしい。私は偶然村の子どもの中ではその最初の一人だったわけだ。一日後、私の幼馴染みの足が少し速くなり、村の畑仕事が少々捗った。

 そうして十歳となった私は幼馴染みとともに学校に行き、2年ほど勉強をして魔法の制御というものを覚えた。

 車やスマホといった文明の利器もなしに、畑仕事を生業とする家庭に子どもを遊ばせる余裕があるのかと疑問に思っていたが、なるほど、刈るも植えるも魔法を使っていたらしい。ならば、人手を増やす必要はないだろう。

 

 その後、十五歳となった私は、幼馴染みと受験のために勉強に励んでいるのである。

 

「シナは受かるでしょ、たぶん」

 

「受かる受からないなら、テリミアさんだって問題ないじゃん?」

 

 姓はリリシャレン、名はシナ。これが私に与えられた名前である。幼馴染みであるネルカ・テリミアは、ここと他4つの村を治める領主の娘である。領主は気のいい人柄であり、こうして自身のご子息を村々に連れ出しては、子どもの中の交友関係を広げさせている。テリミアさんは私にとって村一番で仲が良いが、テリミアさんにとって私は各村々のこうして泊まって勉学に励むような仲の友人の一人なのだろう。

 そう思うと寂しいような気もするが、テリミアさんは容姿も生活の水準も近辺では群を抜いている。人気にならないほうが難しいだろう。腰まで長く垂らした薄い金髪も目立つ原因と考えられる。

 

「まぁね。ぁ、受験終わったらさぁ、また勝負しようよ」

 

「いいけど、今度はなに?」

 

 テリミアさんはよく私と遊んでくれる。そしてたまに、勝負という名で、互いの運動能力を競うこともある。前は山の頂上まで魔法を使わず競争した。その前は魔法を使って滞空時間の長さを競った。もっと前には……兎に角、今のところ私の全戦全勝である。

 

「今度は……どちらが高くまで飛べるか、これにしよう!」

 

「落ちないでよ?」

 

「大丈夫よ、たぶん。それに年始にはアレもやらなきゃいけないし」

 

 アレ、というのは日本でいうところの花火のことである。綺麗に咲かせるというよりは、より高く飛ばし、より大きな音をだすことを目的としている。

 普段は魔法を使って火薬の詰まった玉を飛ばすのだが、そこを人力でやろうとしているらしい。

 

「でも、受験のために会場に行かなきゃいけないから、年末には出立するでしょ?」

 

「ぁ、そうだった。あぁ、受験なくならないかなぁ」

 

 テリミアさんは全人類の夢を口にする。この世には魔法があって何でも便利になっているのに、受験だけは日本と変わらず存在する。せっかく、異世界に転生したのに、どうしてまた願ってしまうのか。

 

(きっと異世界行って、魔法があれば楽しいんだろうなぁ)

 

 全く持って同じ状況であるが、願わずにはいられない。そういう意味で私と俺の根底は同じ性質であるようだ。

 

「ねぇ、シナ。あれ見て」

 

 思い返せば、前世の俺の一生は、今の私の一回りほど多く生きて幕を閉じた気がする。死ぬ前後の記憶は曖昧だが、成人はしていて、就職もしていて……

 

「ねぇってば。あれ、光ってない?」

 

「流れ星なら3回唱えないと……お?」

 

 体を揺さぶられるのでテリミアさんの指先に目を凝らすと、窓の外に赤く煌めく点が見えた。その数は次第に数を増していき、夜空を覆い尽くさんばかりに増えると、大きな花火が咲いたようにして一つの大きな魔法陣が現れた。そして、その花の花弁の一枚一枚が必殺の威力をもった岩石となって降り注ぐ――……。

 

「ぁ、どうする?シナ?」

 

「取り敢えず、外に出よう」

 

 普段なら寝ているこの時間帯。村人も寝ているものがほとんどだろう。その時間帯に、目視で確認できる距離からの攻撃である。逃げ遅れるものがほとんどだろうか。いや、そもそも、岩石が降り注ぐだろう範囲はこの村だけじゃないように見える。

 つまり、逃げるという選択肢は存在しない。しかし、私には逃げる以外に身を守る方法はない。少なくとも、今すぐには思いつかない。ならば、最も村人を守れる可能性のある人物に頼る他ないだろう。

 

「テリミアさんは、領主様のところへ」

 

「シナは?」

 

「いや、私はここにいるよ。行っても意味ないし」

 

「ふーん。じゃ、行ってくる!」

 

 そう言うとテリミアさんは魔法で脚を強化して、猛スピードで屋敷へと向かっていった。私はというと、ただ待っているわけにもいかないので、生存確率を上げるためなにかできないかと考えてみる。

 もうあと3分もしないうちに降り注ぐであろう岩石たちは、先の大きな魔法陣によって作られたものだと思われる。魔法には物理的化学的干渉は効かず、空中に飛んで私が体で止めるといった行動は無意味に終わることが予想される。魔法に干渉できるのは魔法であるため、魔法で岩石の雨を止めるのが唯一の助かる道なのだが、あれを相殺、または軌道を反らすような魔法は持ち合わせていないため不可能である。

 故に村が助かる道は、領主がそのような魔法を使える、またはそのような魔法を使える人物が近くにいて助けてくれる、の二通りである。後者の可能性はほぼ無く、前者の可能性も低いだろう。

 

「まぁ、私だけが助かるなら避ければいいだけなんだけど」

 

 ぽつりと、やりはしないだろう行動を口にする。実際、私だけが助かるのなら、避けきる方が可能性が高い。しかし、まぁしないだろう。やるのならテリミアさんも誘っている。

 

 結局、思考の時間は徒労に終わり、あと三十秒もすれば落ちるという頃合いに、村全体を覆うようにドーム状の結界が張られた。これによりこの村全体が被害に合うことがなくなった。一つ、間に合わなかった岩石を除いて。

 

 頭上百数メートル。今尚、等速で落下する岩石に掌を向ける。結界の外側では数多落ちる岩石が爆発していることから、ある程度の衝撃で爆発四散することが分かる。

 

「ナム・スプルウォート」

 

 手のひらに乗るサイズの水の玉を発射し、弾丸のように飛ぶそれを追いかけるようにして私も跳び上がる。私の魔法である『ナム・スプルウォート』が岩石に命中するも、爆発する様子は見せず岩石は落下を続ける。私は水の玉が着弾した場所をめがけて、掌をかざす。

 今度は手のひらではなく、人ひとり分の大きさがあるこの岩石を用いて同じ魔法を発動させる。この魔法は手のひらサイズの水を生成して、それを弾くようにして飛ばすものだが、水を生成するのは飛ばす物体を指定しなかった場合である。飛ばす物体を岩石に指定すれば、岩石を飛ばすことが可能である。

 

 魔法を発動し、岩石は結界を抜け、村の外へ落ちていった。一個だけならばこのように飛ばすこともできなくはないが、数十個ともなると手数が足りなかっただろう。

 

「あれ、いまシナちゃんが飛んでなかった?」

 

「いや、流石に見間違いだろう」

 

 頭上の結界で岩石が爆発しまくってる音で村人たちが起きてしまったらしい。ちょうど、岩石を弾き飛ばしたところを見られたようだ。上から見て人気のなさそうなところに着地し、村人たちの方に駆け寄る。

 

「どうやら、領主様が結界を張って守ってくれているようです。ひとまず安心して大丈夫だと思います」

 

「あら、シナちゃん?飛んでたように見えたけど」

 

「やっぱり気のせいじゃないか。……そうだ。シナちゃん、ご両親は?」

 

「無事だと思います」

 

 話しかけたご夫婦は私の父方の弟、つまり叔父さんにあたる人とその奥さんである。騒動が収まり次第、私が飛んでいたという疑惑を両親に告げられては心配させてしまうので、誤解というふうにしておく。

 

 どうやら、私やテリミアさんは運動能力が秀でているようで、村では少々驚かれる程度には脚力や腕力、魔力があるらしい。学校では上位層という枠組みだったので、人間離れというほどではないが。

 兎も角、それで両親に危ないことをしていたと誤解を与えてしまうのも面倒なので、なかったことにするのが吉だと思う。

 

 

 

 私は叔父さんたちと別れ、帰路についた。騒動のことも村人の安否もすぐに領主様が確認してまわるだろう。安否確認の際、私が家にいないと消息不明となって両親が慌ててしまうだろうから、家にいたほうが良いだろう。途中で別れたテリミアさんに顔を見せに行きたいところだが、我慢である。

 家の前まで来ると、夜でも目立つ薄い金髪が見えた。

 

「ぁ、おつかれー」

 

 声をかけてくれたのはテリミアさんである。手を挙げて振ってくれているので、私も振りかぶって返す。私は黒髪なので、夜には少し大げさに動かなければ気づかれ難いのだ。顔が仔細にわかる程度に近づくと、テリミアさんはなぜここにいるのか語った。

 どうやら、領主様の計らいで仲のいい友人の顔合わせをできるようになったらしい。この村は屋敷の近くだったので、最初は私に会いに来てくれたそうだ。

 

「シナ、疲れたから泊まっていっていい?」

 

「良いけど、こんな騒ぎのあとなんだから、領主様心配するんじゃないの?」

 

「良いって言ってた」

 

 こういうところは抜け目がない。あっけらかんと言う彼女に嘆息しつつ家に入り、ただいまーに続いてお邪魔しまーすと挨拶をし、ココアを飲んでまったりとしている両親の傍を通り過ぎて、2階に上がり自室へと入り、枕替わりのクッションと予備の毛布を床に敷いた。

 

「じゃあ、参考書とか片付けて寝ようか」

 

「ぁ、参考書……」

 

 受験勉強用に広げていた参考書を一箇所に集め、二人が寝れるだけのスペースを作る。その他寝るための身支度をして、いざ横たわるとすぐに眠気が襲ってきた。

 テリミアさんも相当つかれたらしく、いつもランプの明かりを消してから小一時間は話し続ける彼女も今日はすぐに目を閉じていた。

 

「ねぇ、もしさ」

 

「ん?」

 

 いつの間にか止んだ岩石の雨により、いつもの静音――多少大人たちの声が聞こえるが、眠りの妨げになるほどではないほどの無音の中、細くぽつりとテリミアさんが言葉を漏らす。

 

「さっきので試験がなくなったりしないかな」

 

「……ないでしょ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。