訓練所で魔術具の使い始めて数えること一月半。私も魔術士としての動き方が身についてきたと思う。
まず、人魚という以上、陸上での機動力は他の魔術士に劣り、真価を発揮する水中では、他を寄せ付けないほどの瞬発力、機動力を得るものの、悪魔との戦闘を考えると無意味に等しい。悪魔の出現場所はいつでも空中のため、浮くことができなければ、私からの攻撃は水面からの遠距離攻撃に限定されてしまう。まぁ、それは兎も角、水中で素早く動けるのは楽しいので、初めのうちは訓練時間の多くを泳ぎの練習に費やした。おかげで、手足の如く動かすことが可能である。
さて、問題の攻撃手段であるが、私のような水場の獣人は希少で、騎士団にも同じ訓練所にも似たような適性者は少なかった。実はそれが理由で、教官長の班に厄介払い的に編入されたらしい。そのため真似ることも、三人寄ればというのもできなかったので、攻撃手段を泳ぎながら考えてみたものの、一人の力では思いつかなかった。どうにもならず、半月ほどだった折に、ダメ元で精霊に聞いてみると、簡単な会話はできるようで、攻撃手段を教えてくれた。
なにやら、脚の接続を外すボタンは走行用に考えられたものではなく、攻撃手段のギミックだったらしい。
元の伝説の人魚を鑑みると、美しい歌声で魚たちを統べ、自身の鱗を狙う悪党には海の災害をもって報復とするらしい。そのため、海での聴力と、どちらかというとカウンター的攻撃機能が搭載されていることが分かり、その日から実験が始まった。
まず、自分の体に一定以上の衝撃が加わると魔術具の表面にできた無数の穴のどれか1つから水の弾が放出され、衝撃を与えた物体を貫く。これは、適当な道にある石ころを魔術具に落とすところから始め、およそ流血する程度の衝撃で作動することがわかった。また、魔法にも対応していて、火炎放射する魔法陣を藁人形に貼り付け、発動し魔術具に火炎が当たると同時に水の弾によって火は掻き消され、また藁人形も跡形もなく貫いた。
この受動的攻撃は脚を収納しているときにしか発動せず、脚を露出したときにはこの攻撃のための水補給が可能になる。
またどちらの形態でも作動する能力として、同じ水中にいる者との会話があるが、これは活用場所が限定的である。
まず、同じ水中というのは、陸や空気に阻まれること無く水が流動可能な範囲であり、会話するためには話し手も聴き手も同じ水に顔を浸けることが必須となる。また、私は水中でも空気中同じく会話及び呼吸できるが、他の魔術士は水中ではまともに話せないため、一方通行のやり取りとなる。このため、活用に難ありの能力である。
つまり、私には能動的攻撃手段はなく、悪魔が攻撃してからでないと攻撃できないということである。しかも、悪魔による被害には、洪水や噴火が挙げられ、どれに対しても"貫く"という攻撃は今ひとつ効果を見せない。これならば天使の力を身に着けて徒手空拳を敢行したほうが効果的のように思う。
他にも一月半で定期的に、訓練による成績評価があった。
成績には項目として攻撃の射程距離、威力、連射性、空中機動、陸上機動、があり、それぞれにおいて順位付けがなされた。
これに関して私は、射程距離はほぼ無限に近く、威力は計測不能である。鉄の人形がどれだけ壊された面積を測るものであるため。小さすぎる穴は計測不能らしい。続いて、連射性は相手の連射性に依存するため、上限を確認できなかったという意味で測定不能だった。
これらは訓練所内では2位を大きく引き離して1位だったのだが、空中機動、陸上機動、の項目では、光るものがなかった。ここではテリミアさんがトップに君臨している。
これらの項目において目立つ魔術士は、私、テリミアさん、竜人が一際強く、少し離れて、ダチョウ、熊、馬、山羊、獅子が入り、あとは得手不得手はあれど、上位に常駐している人はいない。なんかこう思うと、動物園感満載ね。
一月半の交流で分かったのはこのくらいである。そして今後はというと、より実践的な団体戦を学ぶらしい。ここで私は天使適性があるため、班員と別れ、隊の運用方法について学ぶことになった。
「というわけで、天使は数が少ないため訓練所にいないから、僕が教えるよ」
「よろしくお願いします、教官長」
教官長が言うには、天使の仕事は魔術士の管理と運用である。天使には、赤い光を無効化する加護を与える力があるものの、個人で魔術士適性を持っていないことのほうが多いので、魔術士の統率者として後方勤務になるらしい。ところが、私は両方の適性を持っているため、現場勤務で、本隊とは別に動く別働隊を指揮することになるらしい。よって、私はこれから、天使が現場で管理すべき項目を教わるようだ。
また、加護を与えられる人数が自ずと決まっており、魔術士を指揮できる人数も同数のため、まずその確認を行わなければならない。
幸い、訓練所には百名を超える魔術師が駐在しているため、上限を測るにはうってつけである。
と、意気揚々と測ってみると、どうやら私の限度は4人のようだった。今までは何十人と容量があったらしい。精霊に聞いてみるも、魔術具関係というわけではないため、会話は成立しなかった。そもそも、それー、これー、あれー、程度にしか話せないため、はいかいいえで答えられるものでないと、会話は成立しない。
現状、原因の究明は難しそうなので、その他の点では他の天使と共通するかを探ってみることにする。
次に行うのは魔術具の破壊の確認である。天使の加護を受けているとその魔術具が機能しなくなったとき、それがわかるらしい。魔術具が機能しない、イコール、精霊の加護がない、イコール、生身に傷を負う可能性がある、なので、死の確率が急激に高まることを意味する。
魔術具の修理は時間と材料が多くかかるため、1つだけ壊してみることにした。ついでに教官長との手合わせもできるとのことで、広い中庭へと移動する。
中庭には今訓練生がいないため、いつもの喧騒はなくガランとした雰囲気が漂っている。
私と教官長はともに自身の魔術具を身に着け、距離を取って向かい合わせに立つ。
「一応、実戦の場は何もない空だが、僕は悪魔じゃないので陸上での勝負としよう」
教官長は鷲で、私は人魚なので、互いのホームグラウンドではない場での戦いである。教官長の主要武器は大きな羽による打ち身と、鉤爪による蹴りである。教官長は体の何倍もある翼を広げ、地面すれすれの超低空を飛ぶ。
「用意、始めッ!」
翼によって推進力を得た教官長は一直線に私を狙って飛んできた。教官長は私のカウンター攻撃を知っているはずなので、何かしらの対処を考えているのだろう。ならば、受けの姿勢は分が悪い。
「セプ・ドルフベール」
魔法を発動し、私の身長程度の半径を持つ水の球を作り、この中に入ることで、擬似的な水中を作り出す。そして、教官長に向かって、一直線に飛び跳ねる。
「!」
これには教官長も驚いた様子で、減速して鉤爪を前に持ってきて臨戦態勢を取る。少ない水の量で水中から空中へ飛び跳ねる練習はしていたが、魔法で作るところは省いていたため、初見の動きだったのだろう。
鉤爪で対応しようとする教官長だが、この距離であれば私の物理攻撃範囲内である。魔術具を身に着けていれば、悪魔だろうが魔術士だろうが、物理攻撃も魔法攻撃も効くため、殴り合いをすることも可能である。
私の振り抜かれた右拳は片方の鉤爪を割るも、本体を逃し空へと逃がしてしまった。見上げると視界の右端に動く物体を捉え、そちらに振り向くと今度もまた教官長は突進してきた。
呼応するように私も先と同じ跳躍をして、今度は左の翼を狙って拳を構えると、教官長は翼を傾けて右に左に蛇行し始めた。私の跳躍は途中で軌道を変えられないため、不利の対面となる。
尾を地面に突き刺し減速をかけ、迎撃の構えを取る。もはや跳躍に対応されては、空中戦は不利なことこの上ないので、一撃で仕留め損なうと厳しい戦いになる。
『セム・ドルフベール』によって三度水の球を作り出し、八割カウンター、二割逃げの跳躍のつもりで教官長の攻撃を待つ。教官長は翼を広げて今までの最高速ともいえる速さで突貫してきた。疾風の如き翼は鋭利になっており、人魚の耐久値では一度耐えるのが限度だろうと思われる斬撃を繰り出せるように見える。
教官長の翼は水の球を水平に割り
その左の翼めがけて尾を回し、カウンター攻撃が炸裂した。尾から出た水弾は3つあり、どれも左翼を捉え、1弾付け根に命中したことで、翼は機能しなくなった。ここで、天使の加護が戦闘不能を伝えてきた。
「戦闘不能のようです」
「そのようだね」
カウンター攻撃には対策があると思っていたのだが、案外にもあっさりとあたっていた。教官長も避けれると思ったんだけどなぁ、と首を傾げている。
「まぁ、天使の加護は機能しているようだし、もう皆さんのところに戻っても良いんだけど、まぁなんというか、人魚だけ強すぎるんだよね」
やはり、教官長の目から見ても私はやりすぎているらしい。そもそも、亜人の能力が使いづらいからと殴りかかる人は私を除いて訓練所におらず、他の人が試してみても私ほどのダメージは見込めなかった。
「まぁ、ちょっとそこは語弊があって、人魚が強いというか、君が強いんだけど、このままだと団体の強みが消えてしまうんだよね」
個人の力が度を越すと連携というものは上手くいかなくなるらしい。ソシャゲでもインフレで古いキャラは使われなくなることは往々にしてあるので、似たようなものなのだろう。
「なので、君は僕と一月半後の卒業までタイマンを張ることになるんだけど、いいかな?」
「はい、問題ないです」
「それは良かった。負けっぱなしというのも教官長として威厳がないからね」
本音はそこだろう。というツッコミは飲み込んで、私は一対一を受けることにした。団体戦がどういうものなのかは知らないが、人魚の能力上、サポートを必要としないし、逆にすることもできないため、一対一の経験を積んだほうが強くなれると思ったからだ。