転生者、メタリック魔術士になる   作:フユガスキ

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精霊とおはよう

 卒業まであと半月となった日の昼休憩中、教官長からある1枚の紙を配られた。1人1枚で、計121枚の紙には同様の文字が書かれている。希望任地とその理由、と題された調査書だった。

 私たちは、希望に沿えないこともあります、と注意書きに書かれた空欄を読んで、他にも注意書きがないのか紙の裏表を須く確認してから、班員と目配せをした。直感的には、この紙の意図するところは何だ?という内容で。

 

「その紙は、その題する通り、就きたい任務先を書いてもらうものだ。もちろん、任務先が提示する要望の通りに人数と戦力は分けなければならないから、全員丸ごと同じ任地とはいかないのだけど、運が良ければ希望した通りになることもある、程度に思って書いてほしい」

 

 教官長はそう説明すると、現在、国の騎士団の駐屯地のうち、魔術士団が設立されている支部が書かれた表を班員の前に置いた。

 

 私は特に希望する場所はないのだが、悪魔に何らかの恨みを持っている人は故郷の近くなどに配属されるよう希望しているのかもしれないので、そういう思いに応えようとしたものなのだろう。または、仲のいい人と同じ任地に赴きたいという人を視覚化し、応えるのかもしれない。

 私は、海の近くの任地だけ箇条書きで並べていって、理由は魔術具の仕様とした。希望しなくとも海の近くには配属されるだろうが。

 

 

 

 希望任地を書き終えて昼休憩が終わり、午後の訓練となった。私はいつも通り教官長との一対一をするため、中庭へと歩を進める。

 この訓練が始まって一ヶ月過ぎたが、始めの頃と変わらず、教官長は私に攻撃を与えた試しはない。私も教官長も互いの動きのパターンをある程度読めるようになったため、教官長は次第に惜しい攻撃ができるようになったものの、私としては躱せないことはない。

 

 私と教官長は規定の位置に立って勝負の開始を待つ。

 この一ヶ月で勝負のルールはだいぶ変わり、教官長にそこそこ有利なものになった。

 まず、魔術具は最大限使用するものとなった。勝負開始1日目にして、手加減の必要はないことがわかったらしい。

 1週間後、勝負の開始は教官長の攻撃を合図にすることになった。私がすべての攻撃を躱してしまうため、攻撃を当てることにシフトした結果、一番当てやすい可能性があるとして、そうなった。

 2週間後、私は攻撃魔法の使用を禁止された。実験的に取り入れたものの、それでも躱せるので、攻撃魔法は使えなくなった。

 3週間後、私が待ちに徹することを禁止された。今まで、カウンターの性能は直線攻撃と思われていたが、カウンターが追尾機能を持っていることが分かったので、躱すことは不可能と判断され、待ちの姿勢はなるべく取らないことになった。逆に言えば、カウンターで射出された水弾の豪速を見切り、直線上から体一つ分避けたということである。教官長が成長していることを気付かされた瞬間である。

 4週間後、私は目隠しをすることになった。これに関しては私から言い出したことなのだが、水中にいるとき、攻撃によってできた波形によって攻撃を感知することができるようになったのだ。これは、攻撃が水中の波の速度を超えない限り、私は攻撃を感知し、躱すことができるということだ。

 そして今日も、私と教官長の試合は始まる。

 

 始まりはいつもどおり教官長の攻撃からだった。空高く旋回している教官長が大量の羽を弾丸のように飛ばして攻撃してきた。だが、魔法で作り出した水の球に入った私にとっては、躱すのも容易な視える攻撃である。

 上下左右から逃げ場の無いように水の球を貫く羽を、揺ら揺らと踊るようにして避ける。

 

 しばらくして全ての羽を放ち終えたと思われる教官長に向かって、直線の水の柱を生成しながら疾走する。跳躍せずに水を次から次へと生成することによって、空中も地上も縦横無尽に駆け回ることが出来る便利な移動方法だ。また、人魚の聴力も活かせて一石二鳥である。

 ここまでは予定調和で、それを知っている教官長は縦横無尽に駆け回る私に突進をしてきた。私は目が見えないため、教官長からすると蛇行してフェイントをかける必要はなく、また私は魔法を常に使っているため、翼には魔法を使って対処ができない。教官長もそう踏んで最高速で突進してきたのであろう。

 

 しかしながら、水に教官長の翼が触れた時点である程度予想がついた私は右手での水の生成を止め、左手でその翼を受け止める。

 

――ギィィ!

 

 鋭く研がれた翼の先端には触れず、指先で摘むようにして翼を止めるが、勢いを殺すことは叶わず、水の外へと押し出された。

 空中では攻撃を感知できないので、完全に相手の土俵になる。そうなる前に左手を魔法で強化し、捻り潰そうと試みると、教官長は危険を察知したのか、翼を手から振り解き大空へと羽ばたいた。

 

 落下を続ける体を再び水中に潜らせ、勢いを殺し、来る攻撃に備える。すると、先程の二分の一の量の羽が私を襲った。

 数が少なくなればそれだけ避けやすくなるため、簡単に避けきるも、すぐに次の羽が飛んできた。おそらく、片方づつ羽をばらまき、波状攻撃を仕掛けているのだろう。たしかにこの状態は私の行動が制限されるため、攻勢にはなれない。

 続く第三波を避けながらも段々と横に進んでいく。切れ目を見て私が右に最高速で進めば、羽は私に追いつけず、私の一瞬前にいた位置を素通りするほかない。

 

(来た)

 

 右側が手薄になったときに勢いよく飛び出し、また教官長に向かって進む。近づくにつれ羽の精度も高くなっていくのだが、問題ない。私のほうが遥かに速い。

 羽の攻撃を頼りに教官長に近づくと、再び、羽が尽きたのか教官長は突進して、翼で斬り込んできた。今度は空中には追い出されず、水中のまま受け止め、左手を強化する。

 

――ガジュっ

 

 私の左手の中には潰れた羽の欠片が入り、右の翼は一つの攻撃手段を失った。残った左の翼は大きく振りかぶり、私に叩きつけるようにして振り払った。

 

(っまずい――)

 

 同時に至近距離で射出される羽の弾丸に私は水中での逃げ場を失い、大きく跳躍する。緊急脱出の手段として残していたが、まさか使うとは思わなかった。

 水の球を作り出し、跳躍の勢いをそのままに突っ込む。しかし、そうさせることこそが教官長の狙いで、誰にも追いつけないはずの跳躍に対し、最適解を残していた。

 

「ここッ!」

 

 私の跳躍の着地点を完璧に把握した上での攻撃である。

 右の鉤爪は私の左脇腹を抉り、教官町の下へと帰っていき装着された。左脇腹は精霊の加護によって守られているため、このダメージは魔術具へと転換され、大きなダメージを受ける。

 

「あ、当たった……!」

 

 教官長は信じられない物を見るような目で私と自身の鉤爪を交互に見る。その後、目隠しを外し水の魔法を解除した私を抱きかかえるようにして、喜びを表現した。

 

「え?僕当てたよね?よし、よし!いやぁ、嬉しいなぁ!」

 

「おめでとうございます」

 

 一ヶ月に渡る訓練で一番の笑顔を見た気がする。正直、負けたと落ち込むより、教官長の喜びを見るほうが気分が良かった。

 

「あの、最後のって……」

 

「あぁ、あれね。あれは」

 

 喜びに浸っている中申し訳ないが、確認せずにはいられなかった。一種のトラップ的攻撃は跳躍に対する最適解であると思うのだが、それでも鉤爪をいつ置いて、どうして教官長の下へと帰っていったのか不思議でならない。

 聞いてみると、"謎の力"によるものだと判明した。同じ肉体に別の魔術具を装着しようとすると反発し、無理に装着すると、どちらも弾け跳ぶ、あの謎の力である。

 逆にその謎の力は魔術具と肉体を結びつける力でもあり、いかにも戦闘中に外れそうなカチューシャやメガネを紐づける役割を持っている。

 

 そのため、跳躍前に引っかけた鉤爪が帰る力を使って、私の左横腹を引っ掻いたそうだ。なるほど、私の跳躍の速度には自分で追いつかせていたらしい。避けられないわけだ。

 

 

 

 勝負が決着したので魔術具を取り外す。思い返せば、最近は工廠にメンテナンス以外で魔術具を持っていくことはなかった。修理のために持っていくのは、実験で壊しまくったとき以来である。

 やった、やったと頻りに嬉しがる教官長に、工廠に行く旨を伝えて歩みを進める。

 

 工廠に到着し、普段魔術具が並べてある倉庫を抜け、奥にいる魔術士の近くに行く。耳ん劈くような音を響かせる魔術師の耳元で彼の名前を呼ぶと、音を止めてこちらに振り返った。

 

「……げっ、また実験してんの?」

 

「いえ、今回は訓練で……こちら、よろしくお願いします」

 

 溶接面を外し、胡乱げな目でこちらを睨むのは、ドワーフの魔術士である。この訓練所の全員分の魔術具の修理、保管、管理を一任される彼はいつも目元に隈を浮かべ、工廠に丸一日籠もりっきりである。私が実験と称して人魚の性能を調べていた際によくお世話になった。

 彼の周りにいる精霊にも挨拶をすると、任せろと言わんばかりにサムズアップをして返された。伝説上のドワーフを思わせる出で立ちをした精霊たちに混じり、私の魔術具から出た人魚を象った精霊にも挨拶をしてこの場を後にする。

 

 と、工廠は出ると偶然、竜人さんと出会した。私と同じく転生者または転移者だと思われる彼とは一度、事実確認の為に話しておきたいと思っていたのだ。

 しかし、日本人である確証を掴むには、ある程度私も日本人だとうち明かさなければ難しいだろう。秘密というものは近付くほど警戒されやすいものだ。

 だから、少しでも警戒されないよう、この場において自然な話をしなければならない。今は彼と私が偶然目があってしまったので、この場での自然な反応というのは、これだろう。

 

「こんにちは」

 

「えっ、あうん、ども」

 

 彼は怪訝な顔で私を見た。自然な反応じゃなかったのだろうか。

 

「人魚ですよね?どうしてこんなところに?」

 

「訓練で破損してしまった魔術具を修理に出しに来まして、丁度終わったところです」

 

 自分で言いながら失念していた。なるほど、今は訓練中なので、ここにいる理由を聞くほうが自然だろう。竜人さんは一見魔術具を身に着けていないし、魔術具を預けていたわけでもないため、ここにいる理由がないのだ。むしろ、訓練中なのだから、訓練に参加していなければならないだろう。

 

「あなたは?」

 

「俺はちょっと、こっちに用があって」

 

 そう言って彼は、工廠から見て左側に指をさす。あちらは訓練の場所とは逆方向なので、直線上にあるこの場所は通らざるを得ないだろう。

 

「重たいものとか運ぶなら、一緒に行きましょうか?」

 

 暇なので。

 提案してみたものの、用というのはそういう類ではなく、用を足しに行くものだったようだ。訓練所近くの手洗いが壊れただとかで、用を足しに行くついでに工廠に立ち寄って、直せるか聞きに来たそうだ。

 私は役に立ちそうになかったので、中庭に戻ることにした。竜人さんには本命の質問はできなかったものの、面識がある程度には印象を与えられたはずだ。小さな一歩だが、進展である。

 

 

 

 午後の訓練も終わり、いつも通り、食べて、ペンギンさんのマッサージをして、ダチョウさんに教官長との勝負結果や、私はトラップに弱いという情報を教え、蜘蛛さんの作った掲示板を覗いて、馬さんの作った本を読みながら寝落ちして、朝を迎えた。

 今日もいつも通りに、と思い立ったところ朝が早いテリミアさんから耳を疑う情報を聞いた。

 

「竜人が破壊されたらしくって、今、謹慎処分が下ってるんだって。身体に重症の怪我とかはないらしいんだけど、修復不可なほど壊されてるらしいよ」

 

 彼女は嘘をつくタイプでもなければ、根も葉もない話にしては無理がすぎる話であるので、信憑性は高い噂である。

 しかし、この訓練所においてTOP3、いや戦闘面だけを考えれば、私よりも破壊力に優れる彼が負けるというのも難しい話である。軽い傷をつけるのでさえも一苦労するだろう。

 

 そもそも、彼と戦う可能性があるのは悪魔しかおらず、ここは悪魔が出現しないと予想される場所である。悪魔と戦ったとは考え難い。だが、戦う相手は悪魔の他に何も……と思ったが、なにかが引っかかった。

 私の昨日の記憶で彼と対面したのは工廠の近くである。そこでは世間話をする程度で、重要な話はしていない。では、他になにか引っかかる箇所があるだろうか。そう綿密に精査していくと、一つ思い当たる節を見つけた。ドワーフの彼が放った、げっ、また……?である。

 竜人さんも私と同様、実験をしていたと仮定すれば全て説明がつく。私もダメージ測定のため人魚を何回か破壊したし、天使の加護の効果を調べるためにも魔術具を損傷させた。その一環と思えば怪しくはない。

 

 ただまぁ、これは仮定の話であり、本当のところは本人に聞かねばわからないだろう。ところが、謹慎処分を言い渡されているのなら訓練中に会うことはない。つまり、話す機会がないのである。

 そうなると本人に確認できなくなるため、情報を持っている人は自ずと限定されていく。おそらく、テリミアさんの耳に入る程度に噂になっているのならば、何かしらの説明が教官長よりあるだろう。そこで話される内容が私たちの知ることが出来る情報の限界だろう。何と戦っていたのかくらいは話してくれると良いのだが。

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