〜浮遊城アインクラッド 第1層はじまりの街〜
時刻は夜8時55分。いつもの開始時刻5分前。
さすがにこの時刻のはじまりの街は人が多くもないし少なくもない、そんな絶妙な人数がいる。思い出の鐘がある高台に登り一息つく。
この街には希望よりも絶望の色が濃く滲み出ている。日々の生活が苦しい者、いつ訪れるかわからない死に震え怯える者、仲間が死に悲しみに暮れる者。逆に苦しくも子供たちに囲まれ幸せに暮らす者がいる。
「そんな者たちに捧げます。私が生み出せる希望を……」
時刻は夜9時ちょうど。
街頭に照らされている街々を見渡しながら、お腹から声を出し、その声を唄に変える。
鐘よりも響く唄声を聴いた者たちが高台の近くに集まり、耳を傾け安らぎの表情を見せる。その光景に満足しながら私は限界である30分間唄い続けた。
☆
歌は好きか?と聞かれたら好きと答える。唄うのが好きか?と聞かれたら嫌いと答える。流行りの曲は抑えるし、好きな歌手もいる。ていうか、音楽なら全部好き。アニソンからK・JPOP、ジャズ、バ
ラード、ロック、ゲームソング、クラッシックなどなど、音楽好きの女子高生である私。天野 奏。
だけど、好きってだけじゃダメということは知っている。だって、音楽の成績は1と絶望的。生まれつき、リズム感はなく音痴と唄えば笑われてしまう始末、だから唄うのは嫌い。
音楽好きの私は今でも思う。私が縁もゆかりも無い、大人気VRMMORPG《ソードアート・オンライン》通称《SAO》をプレイしたことを。
始まりは、好きなアイドル雑誌から始まった。読み進めていると、景品の応募用紙があり、景品一覧には豪華な物があった。大型テレビや大人気歌手のサイン、コンサートチケットと喉から手がでるほど欲しい物があった。でも、そんなものに希望を寄せるほど子供じゃない私はおふざけ半分で抽選1名のナーブギアSAO付きを応募した。
それから数日後。神様は何を間違えたのかふざけて応募した私のところにナーブギアが届いてしまったのである。ちまたで有名なナーブギアを手にして嬉しくないはずもない私は正式サービスまでに説明書を繰り返し繰り返し読み、公式サイトにアクセスし予習をし終え、正式サービスの日になった。
定刻までに用意を済ませてお気に入りの曲を部屋に流しながらナーブギアを被る。思った以上に頭にフィットし安堵しつつ、時間を待つ。2曲聴き終わる頃にあらかじめセットしておいた時計が時間を知らせる。時計を止め、ちょっとの不安を感じつつ、現実からゲームの世界に行く言葉を発する。
『リンクスタート!』
☆
目を開くとまぶしい太陽が顔を見せていた。ゲームの世界というのが可笑しな気分だが、周りを見渡す。街の中は活気に溢れ、岩造りの建物や木造建築の宿、簡易な店と飽きないところだった。私と同じような装備の色違いを着ている人がたくさん見え、軽く人に酔いつつ人だかりを抜けて、折角と思いフィールドに出る。
本当にゲームの世界とは思えないほどの再現度で吹いてくる風、風に揺れる草、木の葉。現実とまったく変わらない世界に戸惑いつつも野原に座る。
近くで何やらソードスキルの練習をしている人と教えている人の2人がいた。
《ソードスキル》というのはこのSAO内での必殺技みたいなものであると説明書に書いてあった。
美男子同士が仲良くしているのは年頃の女性には少し刺激が強いかもしんない。街の中も同じだが、このSAOには美男美女がたくさんいる。わざわざアバターを自分に近づける人なんていないんだろうけど。そういう私は現実に近くしている。(もちろん可愛く補正していますよ)
「ねぇ、君」
肩に手を置かれ、警戒しながら後ろを振り向くとさっきの美男子2人のうちの『受け』であろう人がいた。
「え〜と、なんですか?」
「いきなり驚かせて悪い。見た感じビギナーだと思うんだけど違う?」
「はい。VRMMO自体初めてです。はい。」
「俺今、ソードスキルをあそこにいる奴にレクチャーしてるんだけどさ、よかったら君も一緒にどう?」
ゲームの世界とはいえ、イケメンに微笑みながら誘われたら答えは一つしかない。キリトという中性的なイケメンプレイヤーとレクチャーを受けているクラインという男気のあるイケメンと一緒に遊ぶことになってしまった。
「そういえば名前聞いてなかったな。名前は?」
「シャンテって言います。よかったんですか?私も教えてもらっちゃって」
「いいってことよ!人数が多い方が楽しいからな!」
元気よく答えてくれるクラインさん。見た感じいい人たちに会えてよかった。
それからは覚えやすいご指導のおかけでソードスキルをマスターしつつ、キリトさん、クラインさんとフレンド登録をする。この広大な世界での初めての友達に嬉しく感じる。
「おっと、いけね。もうこんな時間かピザ頼んであるんだよな」
クラインさんの発言を聞き、空中で右手を下にスクロールしてメニュー画面を表示させる。
時刻は5時30分を過ぎていた。
「あっ、私も晩御飯食べなきゃいけないからこの辺でログアウトします」
「じゃあ、また夜に会おう」
キリトさんの言葉に頷きながらログアウトボタンを探す、探す。……探す?
「えっ〜と。ログアウトボタンって存在しますよね」
バカなこと聞いてるな〜と思いつつ、クラインさんもキリトさんも同様にスクロールしてログアウトボタンを探していた。
「えっ!?ほんとにない!どういうことだ!おい!」
慌てているクラインさんとは逆にキリトさんは落ち着いた声音で
「とりあえず、管理者側に連絡しとこう。何らかの不具合かもしれないし」
俺のピザ〜と叫んでいるクラインさんを無視しつつ、夕方6時に鳴るはじまりの街の鐘の音が聴こえた
のと同時に変な浮遊感に襲われる。
気がつくとはじまりの街の中央広場に集められていた。それも私だけでなく、おそらくSAOプレイヤー全員であろう人数がいた。
周りの人々は管理者の謝罪やらイベントの前触れやらと各々の意見を言う者たちで溢れていた。
「シャンテ!」
名前を呼ばれ振り向くとキリトさんとクラインさんがいた。2人と合流するのと同時に広場の中央に巨大なアバターが赤いローブを身に包み、いや赤いローブが浮いていると言った方が正しいのかもしれない。
「なんじゃありゃ?」
クラインさんはほんとに素直に口に出すタイプらしく。この場全員の気持ちを代弁していた。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
巨大なアバターから淡々と放たれる言葉
『私の名は茅場 晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
茅場って確か、このゲームの開発者である天才ゲームデザイナーにして量子物理学者という私にとっては雲の上の存在である。
そこからはあまり理解できなかった。
この世界の死は現実での死であるということ。脱出するにはこのアインクラッド第100層まで攻略しなければならない。それ以外は頭に入らなかった。
現実でのやりたいことはたくさんある。楽しみにしてた新曲もあるし、行きたいコンサートだって山積み。何がなんだかわからなくなった。
『それでは、最後に私から諸君らにプレゼントを用意した。各自アイテムストレージを確認してくれたまえ』
見ないわけにもいかず、アイテムストレージのプレゼントを確認する。
「………て、手鏡?」
手鏡を取り出すと広場にいるプレイヤー全員の体が発光し始めた。
目を開けると、周りは美男美女の山ではなく、フツメンや女性と偽っていた男性キャラが多く現れた。
「おい……。お前らキリトとシャンテか?」
聞き覚えのある声と顔がまったく一致しない現状。
「クラインさんですか?」
あの男気のあるイケメンは無精髭を生やした人だった。
てことは、私も……。
まだ、使ってなかった手鏡で自分の顔を見る。
「……戻ってる?」
そこには毎日見ている顔が写っていた。
「どうなってるんだ?」
キリトさんは中性的な顔立ちがより強くなっていて女装させると似合いそうな顔だった。
周りも私たちと同じくざわめき会い、お互いを確認していた。
『………以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。
プレイヤー諸君のーー健闘を祈る』
茅場 晶彦の巨大なアバターはその場から何事もなかったように消えていった。
それからは見てられなかった。ほとんどのプレイヤーは死の絶望に襲われ膝を折る者などがいて、さっきまでの楽しい空間が一瞬で壊された。
「2人ともちょっと来い!」
キリトさんに腕を掴まれ、人がいない裏通りに連れて来られた。
「いいか、よく聞いてくれ「言わなくてもいい。分かってる」
キリトさんの言葉を途中で遮るクラインさん。
「お前はベータテスターとして、攻略しに行くんだろ?」
「ああ。いち早く次の街に行かなければならない。だから、一緒に来ないか?」
キリトさんのお願いを
「お前の気持ちはすげ〜嬉しいけどよ。リアルのダチ公がここにいるからよ、置いてけねぇんだわ。すまねぇなキリト」
申し訳ないと思うクラインさん。
「じゃあ、シャンテは?」
「一ついい?キリトさん」
「どうしたんだ?」
「キリトさんのスキルスロット何を入れてるか教えて欲しいんだけど……ダメかな?」
上目遣いを使ってみる。
「ほんとはダメなんだが……まぁいいか。俺は片手剣と索敵を入れてある」
「ありがとキリトさん」
私の質問に答えてくれたのを感謝しつつ
「キリトさんのお誘いは嬉しいけど、すいません私にはやるべきことがあるので」
「そうか……分かった。じゃあな2人とも」
そう言って走り出したキリトさんにクラインさんが
「キリト!おめぇ、今の顔の方がずっと可愛いじゃねぇか。結構好みだぜ!無愛想な面ばっかりして
んじゃねえぞ。空元気だろうが笑ってりゃそのうち良いことだってあるさ!」
「クラインもその野武士面のほうが10倍似合ってるよ。それとな、男に可愛いは褒め言葉じゃねぇ!」
この会話がいけなく聞こえるのは私だけかな?と思いつつも慌てながら頑張れ!と一言キリトさんに声をかける。そして、キリトさんは走りながら拳を上に突き上げるかっこいい仕草で走り去って行った。
「なぁ、シャンテのやるべきことってなんだ?」
「クラインさん。女の子には秘密が多いんですよ。だから秘密です」
私には似合わない小悪魔めいた仕草と口調で答える。
「そうかい。おめぇも何か困ったら相談しろよな」
男気の多さに尊敬しつつ、クラインさんにお礼を言い少し離れた宿に入る。
「ひっぐ、うっ、うう、うああぁぁん!!帰りたい帰りたいよー!」
強がっていた。閉じ込められたと知った時から、泣くのを我慢した。でも、無理。やっぱりできないよ。
*
どれくらい経ったんだろう。泣き疲れて寝てしまった。
時刻は夜8時。ずっと宿にいると何もできなくなると思い外に出る。人はいなかった。ログインしたばかりと違い、活気に溢れていた街は閑散とした荒廃した街となっていた。
何も考えず歩いてたら鐘のある高台が目の前にあった。どうやら、登れるらしく岩造りの建物の階段を登りながらスキルスロットを確認する。
《短剣》
《歌唱》
短剣は誰でも使えるスキルというのは分かった。でも、この《歌唱》というのは多分私だけのスキルだと思う。説明書にあったユニークスキル。たった1人にしか与えられないスキル。
能力的にはサポートスキルらしく、歌っている間ステータスを全体的に上げるらしい。
ようやく高台の頂上に着き、街を眺める。とても綺麗。その一言だった。でも、この景色とは逆に人々の心は暗く、苦しいはず。
私にできること。このスキルを与えられた意味………。分からないでも、少なくとも私が絶望してたら多分………。
「……唄を……聞く……」
それができるのは私しかいない。だから。
「響いて、この唄よ」
唄った。唄い続けた。スキルの熟練度が低いせいかほとんど現実の私と変わらない唄声だった。
あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤に染めてしまう。
「恥ずかし恥ずかし恥ずかし」
1人悶えていると下から小さな拍手が聞こえてきた。圏内だけど高いところから下を見るのは怖いけど、拍手の正体が知りたく覗くと。
「お姉さん!上手だったよ!」
子供だった。その近くに親と見られる女性と男性がいた。
「ありがとーー!!」
正直嬉しかった。唄で褒められることなんてまったくない私には最高の賛美だった。
多分私はあの家族に希望を与え与えられた。
「決めた。私はこのスキルを極めて、絶望した人に希望を与える唄を唄うぞ!おーー!」
これが私の始まり。
この時の時刻夜9時。
☆
「懐かしいな」
唄い終え、そうつぶやく。
下にいるプレイヤーたちの拍手を受けつつ、転移結晶を手に取り
「転移───」
体が発光し私はこの街から消える。
私の名前はシャンテ。フランス語で歌を唄う。
そして、この浮遊城アインクラッドで私はこう呼ばれている。
ノッテ・シャンテ・プランセス
〜夜の唄姫〜と。
こんにちわ騎士見習いです。
SAOと女オリ主を書くのは初めてですけどどうでしょうか?よろしかったら感想・評価よろしくお願いします。