希望を届け終わり、第61層《カルティエ》に転移する。この街は通称《音の街》と呼ばれている。そして、の街には特徴として大きく目立つ部分がある。
それは、NPCが楽器を持ち音楽を奏でること。月、日、曜日、天気、時間帯によって奏でられる曲が違い、毎日の慣習として聴きに来る人もいれば、宴の二次会の場所として来て、NPCの奏でる音楽に合わせ陽気に騒いだり、唄ったりする。その光景は希望に満ち溢れ、見てて心地良いものである。
そんな理由でも何でもない理由で私はここを幾つかあるホームの一つとして使ってる。 街の中心部に着き、瞼を閉じNPCの奏でる音色を全身で聴く。
疲れが癒されたのを感じると瞼を開け、遅めの夕食を摂ろうと行きつけのレストランへ歩き出す。
「久しぶりだなシャンテ。いや、夜の唄姫って呼んだ方がいいか?」
不意に聞き覚えがある声が私を引き止める。 声の主は振り向かずともすぐ分かった。
「そっちこそ久しぶりだねキリトさん。いや、黒の剣士さんって呼んだ方がいいのかな?」
軽口を言いながら、今や攻略の最前線でソロプレーヤー として戦い、その名をアインクラッド中に轟かせているプレイヤーを正面から見据える。
中性的な容姿に長めの黒髪。最前線で戦っているとは思えないような細い体。その体を漆黒の装備で覆っている。 だけど....。
「なんか変わったねキリトさん。前はそんなにピリピリした感じがなかったのに」
「そりゃあ変わるさ。ただのゲームがいきなりデスゲームに変わるんだ、いつも死と隣り合わせの毎日を過ごすと誰だって変わる。みんな、死にたくないからな。そういうシャンテは変わらないな」
「変わったよ。ただ目に見えないだけ、だって前までの私はこんなにも穢れてなかったから」
私の言葉を聞くとキリトさんは顔を曇らせる。同情とも哀れみともとれない、その表情は私の心を映し出しているかのようだった。
「キリトさんはどうやって私を見つけられたんですか?これでも、隠れるのは得意なんですけどね」
私のホームは片手では足りないほどある。 仮に全てのホームを特定されても、どこのホームを使うかはその日の気分などによって変えているから、出会える確率はかなり低い。
一つの街に絞ったとしても、何日も無駄にしてしまう。ただの興味本位の人ならともかく、攻略を何日も疎かにしてしまうのは、キリトさんにとっては痛手のはず。
「アルゴに聞いたんだ。その日、シャンテはどこのホームに来るんだ?ってな。散々からかわれた挙句、洒落にならない位のコルを要求されたよ。お陰でスッカラカンさ」
情報屋はこのアインクラッドで重宝されている存在。クエストやトレード、迷宮区まで幅広くに対応している人達。その中でもアルゴさんは《鼠のアルゴ》として、人気の情報屋で、売れる情報なら自分の習得スキルも教え、5分会話をするだけで100コル分の情報を引き抜くっていう生粋の情報屋。
私もアルゴさんと会って話す時は気をつけているけど、必ず何かしらの情報を引き抜かれている。
「さすがアルゴさん、白旗だよ。でも、そこまでして乙女の情報を得たいなんて変態なんですね」
「待て待て!誤解だ!俺はただシャンテに戻ってきて欲しいだけだ」
「戻ってきて欲しいって、攻略組にってこと?それなら断るよ。私はあの空間にはもう耐えられない。人が死ぬのをもう見たくないの」
あの日の出来事は私にとっては今の私を創った元凶。もし、攻略組に戻ったらきっと私は....。
「そう言うと思ってたよ。だけど、シャンテが戻らなければ、もっと人が死ぬぞ」
ここ何層かの迷宮区に出てくるモンスターのアルゴリズムにイレギュラーな動きが増えているらしい。ほんの一瞬の油断が死に繋がる状況。サポーターがいれば一瞬の油断が拭える。
キリトさんの言う通り、私がいれば助かる命が増える。
「知ってますよね。私がどんな扱いを受け、あなたたちに何をしたのかを」
自分の表情が氷のように冷たくなっていくのが分かる。
「知ってるよ。俺たちが君にしたことも、君が俺たちにしたことを鮮明に覚えてるよ」
「なら、私が戻ったらどうなるかくらい、分かるでしょ。また同じことをするかもしれない」
あの日の私を私は許せない。
「やっぱりダメなのか……………。分かった。今日はこの辺でお暇するよ」
「そうしてくれると助かるかな」
じゃあな、とキリトさんは転移門に向かって行った。 キリトさんが転移し、私はその場にしゃがみこむ。震える体を両手で抑え、漏れでる嗚咽を唇を噛み我慢する。 ちょっとした悪ふざけのつもりだった。その頃の私は、まだこのゲームがデスゲームだと信じたくなかった。だから罪を犯し、穢れて、開き直り、拭えきれない罪を償い続けている。
ようやく落ち着き、夕食を摂る気が失せた体を宿に向かわせた。
そして、ふっと思う。
なぜ、私はあんな子供みたいなことをしてしまったのか、と。
どうも、騎士見習いです。いですが、早く続きを投稿したいと思います。
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