死んでも死ねない命の塊   作:ミステイク

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第一話を幾つか修正しました。


第一話・342万4867+53万6329と約5000万

 なんだこれはと、自分の身体から流れていく赤黒い水に疑問を憶える。

 

 意識が遠のく、ことはない。

 手足に力が入らない、わけではない。

 

 名前も思い出もない感覚とは別の、自らの肉体に対する違和感に仰向けになって困惑し続けていた。

 

 自分には記憶がない、それどころか何故此処に居るのかも全く分からない。

 何も分からないのに、もうすぐ自分は死んでしまうのだ。

 

「ど、どうす……ま、まさか死んでしまうなんて……こんな事がバレたら私は!」

 

 中年風のスーツの男、らしき頭部が機械で出来た奇怪な容姿の大人が、顔や腹から流血して倒れる自分を見て狼狽えている。

 血だまりを広げて動かない自分の傷は銃弾が貫通して作られたもの。

 

 原因は大人の傍にある銃火器が装備された何らかの射撃装置の機械。

 

 銃弾に撃たれればこうなるのは当たり前ではないのか、それとも自分の身体はそんなにも脆いのか。

 認識の違いを考えるよりも前に違和感に気付いていた自分は起き上がる。

 

「死んではいない……」

 

「な!?」

 

「いきなり、人の事を撃つなんて……どうかしてると思うぞ」

 

「ひいっ! 化け物ーー!」

 

「あ、おい」

 

 穴だらけになった身体を起こすと、大人は悲鳴を上げて走り去っていった。

 

 勝手に撃ち殺してくれた、死んだのかは分からないが人を一方的に攻撃して化け物と言って逃げられるとなんとも言い難い。

 

 だが少なくとも、千切れた手や穴の開いた身体が勝手に治るのは異常だというのは客観的に知ることが出来た。

 それで、許してあげるとしよう。

 

「……なぜ、生きてるんだ?」

 

 記憶のないこの肉体だが、頭を肉片に変えられれば死ぬという常識くらいはある。

 

 妙な機械の大人も変だが、一番変なのは自分の身体。

 頭を撃たれて、いや頭以外にも弾丸が貫いていたが、吐き出すように弾丸が自分の身体の内から飛び出ては治っている。

 

 彼の言う通り、自分の身体は化け物のようだ。

 

 ならば彼、というかここは何処なのだろうかと、この頭上の空高くにある光輪を見上げて思う。

 透き通るような青空の上に広がっている、奇妙な輪っか。

 

「気分が悪い」

 

 内側に感じる無数の気配に不快感を覚えながら言う。

 

 おそらく、人間ではないたくさんの命を持っただけの死体。

 それが今の、自分の身分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の気配のない空き家の中で、壁を背にして意識を集中する。

 

 自分の身体の中には二つの力がある。

 正確には、二種類のエネルギーとでも言えるもの。片方は錬金術と呼ばれるものだと、何の記憶もないのにずっと前から知っていたかのようにあった知識がそう答えた。

 

 等価交換の性質から、魔法陣のような円形と図を描くことで様々な化学反応を起こす異能。

 自分はその中でも等価交換の原則を無視した賢者の石と呼ばれる、魂をエネルギー化させた物質を体内に内包した状態だと気づくのに時間は掛からなかった。

 

 自分の内側に意識を強くすると感じられる、悲鳴や怨嗟の声。

 人間の姿をした賢者の石、とでも呼ぶべき状態。

 

 なのだが、それはどうでもいい。

 

 気になるのはもう片方の力の方。

 数えて、342万4867。賢者の石と同じく魂のエネルギーと似た何かを感じるが、それよりももっと悍ましいものを感じる。

 不定形に変化する肉体と血液に対する妙な飢餓感。その他、特殊な異能力。

 

 吸血鬼になったとでも言うのか、試しに銀のフォークを錬成すると触れた箇所が酸でも触れたのかと思うほどに醜く焼け爛れた。

 爛れるだけで再生能力が上回って指が取れたりするようなことはないが、ちょっと痛い。

 

「銀アレルギーだと思うことにしよう」

 

 しかし一方で日光に対して特に影響はない。

 本当に銀にアレルギーがあるだけなのかもしれないが、自分の中にある外付けされたような知識にこの身体の異常に対する答えはない。

 

 内側の不快感も気にはなる。

 身体の内がを渦巻く数千万以上の命を解き放とうと思えばできない事はないかもしれないが、恐ろしい事態が起きる予感があったので止めた。

 

「……」

 

 これから、どうするべきなのだろうか。

 

 この身体の状態をもう少し調べたい気持ちはあるが、今の自分には住居すらない。

 せめて休める場所、寝床と食料を確保したいところだ。

 

 その前に此処に人は住んでいるのだろうか、人工的な建物や建造物はあれど別種の異種族の手の物の可能性もあるだろう。

 先のロボットの男の後を追いかけて事情を聴くのだったと今更ながら反省する。

 

 残った情報があるとすれば、この機械だけ。電源のスイッチを入れると空中を浮く薄型ロボット掃除機のような形状のそれは、先端に銃火器が取り付けられている。

 

「にしてもアイツ、なぜ私の事を突然撃った?」

 

 死んだように見えた時に動揺していた癖に、躊躇なく発砲してきた男に次々と疑問が湧いてくる。

 他の事に気を取られてその事を考える余裕がなかった。

 

 この程度の攻撃では死なないと思ったのなら、自分以外の人間はかなり頑丈なのだろうか。

 だが人という存在を知っていなければしない反応をした。

 頭を撃たれて起き上がった自分を見て怯えたのを見るに自分の不死性はイレギュラーな存在だと考えられる。

 

「こんな事、考えても日が暮れるか」

 

 ずっと考えても無駄だと、自分は空き家から出る。

 男を追いかける訳ではないが、幾らかの情報が欲しい。

 

 せめて此処が何処なのかくらいは理解しなければ。

 

「居たぞ! 撃て!」

 

 火薬の爆ぜる音と共に、自分の側頭部に衝撃が走った。

 

 そして自分はまた死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血を流し倒れる子供に向かって、銃を撃ち続ける。

 撃ち込まれた弾丸が当たった箇所からら血飛沫を噴き出して砕けていく子供の姿。

 

 雇われたカイザーPMCの兵士も溜息を吐きたくなる光景だった。

 

「弾の無駄遣いじゃないか? 本当に殺す必要があったのか?」

 

「良いから肉片になるまで撃ち続けろ! そいつは頭を撃っても生き返った!!」

 

「何をバカな……」

 

 明らかにおかしくなっているとしか思えない契約者の男だが、雇われたからには働く必要がある。

 それも全て金儲けの為であるが、人を殺していい気分になることはない。

 

 幾ら金の為とはいえ、人殺しまでするのはリスクがあるが、それほどまでのリターンがある仕事だ。

 

「あったぞ、やっぱりコイツが持っていた」

 

「おお! 良かった、早くそいつを持って行くぞ」

 

 空き家を調べていた仲間の一人が落ちていたドローンを片手に言う。

 

 曰く、ミレニアムが開発した最新式のAIが搭載されたドローンらしいが兵士には分からない。自分は今日も金儲けの為に仕事をするだけだと、その場を離れようとする。

 

「じゃあな、人気の少ない場所に足を踏み入れた不注意を呪え」

 

 もう既に息がない以前に、原型を留めていない子供に背を向けて言う。

 

「し、死んだのか? 本当に?」

 

「此処までして生きてると思いますか? 仕方ねぇ」

 

 契約者の男が不安そうな顔をしたので、懐の手榴弾を手に取り放り投げる。

 投げられた手榴弾は無惨な死体の上で破裂し、血潮を周囲へと拡散させた。

 

 残酷だが、男の不安を解消してさっさと仕事を終わらせる為の仕方ない処置だ。

 

「これで安心でしょう、早く理事のところへ戻りましょう」

 

「あ、ああ」

 

「そら、お前もドローンを持って……? どうした?」

 

 早く戻りたいと思っていた兵士は、ドローンを持っていたもう一人の兵士が蹲っているのを見て困惑する。

 

 いや、良く注視してみると蹲っているのではない。

 完全に脱力して銃器からも手を離していた。

 

 そのまま兵士はゆっくりとその場に倒れてしまう。

 

「おいどうした!?」

 

「ひ、ひいい!?」

 

 近づいて様子を見るが、兵士は直感からそれの中身がない事に気付いた。

 そう、外傷などない。しかし命だけがそこにないことを。

 

「━━━━。お前達が、人工的に造られた機械なのか、遠隔操作されたロボットで生身の人間が居るのかは知らないけど……石に出来るところを見るに、生きてはいるようだな」

 

「なっ!? がっ!?」

 

「お、おおおごごご!?」

 

 兵士と契約した男がその場に蹲って苦しむ。

 呼吸が出来ないかのように、胸の辺りを掻きむしる動作をしていた。

 

「ちょうどいい実験が出来た……ありがとう」

 

 その声を最後に、兵士と男の意識は消失し。

 

 次に目覚めた所は━━━━怨嗟の暴風雨の中だった。

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