突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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実は、『頑張れ!キグルミ先生』という作品を書いてた時期がありました。キヴォトスの先生が猫のような、熊のような姿をしたキグルミで、シッテムの箱を使わないと、指揮はできるけど話せないという物語です。……誰か書きませんか?


それはそうとバードエフェクト

温泉開発部に流された情報が違う。

ゲマトリアが先生だけではなく、ヒドリ(認識の鳥)と便利屋68を見ている。


便利屋68、キレた!!

 合宿二日目の明朝。ヒドリはリビングでコーヒーを飲みながら、セキュリティの強度が異常なまでに高く設定されているスマホをいじる。そのスマホには多くの情報が入っていた。全て昨日、ミレニアムの知り合いである各務チヒロがヴェリタスと共に調べてくれた情報だ。

 

『ヒドリ、調べた内容は全部録音してるし、データにも送った。事務所に書類としても送ってある』

 

「はい、ありがとうございます」

 

『うん。結構トリニティのセキュリティが穴だらけだったのが驚きだけど……お陰で色々情報が手に入ったよ』

 

 徹夜明けでありながらと解説をしてくれるチヒロにありがたみを感じながら、ヒドリは話に耳を傾ける。

 

『まず一つ。エデン条約に乗じて何かを企む連中がいるみたい』

 

 一つ目の資料に記載されていたのは、トリニティからさらに派生した先で妙な波形を出していたサーバーから抜き取った情報。そこにはアリウスと記されており、ヒドリは首をかしげる。

 

「アリウス?」

 

『アリウスは結構前に無くなったトリニティの分校。インフラがまだ生きてるところがあるなんて驚いた』

 

「それで……アリウスについては?」

 

『妙に強いセキュリティだったから撤退せざるを得なかった。けど、エデン条約の調印式で何かするのは間違いないね』

 

 エデン条約が調印式された時、ヒドリの夢も叶う。トリニティも祭りの中に巻き込むという夢が。それを邪魔されるのは少々困る。

 

『次にティーパーティーなんだけど……今、三人全員が集まってないみたい』

 

「? 集まってない?」

 

『百合園セイアが消息を絶ってる。機密情報扱いだったけど、簡単に抜き取れた』

 

 ヴェリタスのクラッキングが凄まじいのか、トリニティのセキュリティがザルなのか。半日も使わずに引き抜いてきた機密情報の山にヒドリは苦笑していた。

 

『多分死んではいないと思う。ティーパーティーの一人を殺したっていう実績があれば、アリウスは攻勢に出てるはず。アリウスはトリニティを恨んで消えていったらしいから』

 

「ゲヘナの可能性はありませんか?」

 

『ないね。裏取りのためにゲヘナのサーバーからも情報を抜き取ったけど、それらしい情報はなかったよ』

 

 ゲヘナ学園のサーバーもわりとザルだったと話すチヒロ。自分の学校もザルかぁ、とヒドリは思いながら、次の質問を投げ掛ける。

 

「チヒロ先輩、ゲヘナ学園自治区の合宿場なんですけど……」

 

『調べてるよ。三つ目の資料を見て』

 

 タップして表示された資料と録音データ。そのデータから読み取れたのは、どうあっても補習授業部のメンバーを退学にしようとしているナギサの情報だ。その声から感じ取ったのは疑心暗鬼や、迷い、困惑、不安など。

 

『ヒドリなら分かると思うけど、今のティーパーティーは普通じゃない。張り詰め過ぎて今にも破裂しそうな状態だよ』

 

「ええ、凄いですね。凄い匂いですよ」

 

 チヒロはヒドリの正体について知っている。ブラックマーケットでヒドリの空腹に巻き込まれそうになった時、祝詞を聞いてしまったからだ。幸いなことに便利屋68が近くにいて、ヒドリは枷を付けられていたため喰われてはいないが。

 

『イレギュラーは間違いなく起こる。気を付けて』

 

「ありがとうございます、チヒロ先輩」

 

『……それと、ジャンクパーツのリストアップは済ませてる?』

 

「あ、はい。今送りますね」

 

 ヒドリが事務所の近くにある倉庫で保管しているジャンクパーツのデータをチヒロに送信すると、モニター越しに見えるチヒロの表情が少し輝いたように見えた。

 

『……相変わらず、掘り出し物を引き当てるのが上手いね』

 

「靴の作製に必要なので」

 

『なるほどね。エンジニア部を紹介しようか?』

 

「先生にも言われましたけど、大丈夫です」

 

『そう。……って、このラジエーター、二世代前の非売品!?』

 

 ヒドリの持っているジャンクパーツは、エンジニアやチヒロのような電子機器系の趣味を持っている人間にとって宝の山である。ブラックマーケットだけではなく、あちこちに廃棄されているジャンクパーツを集めて、無意識に選別するため、有用なものが多い。

 

 中にはチヒロが目を見開くような非売品や、再販が望まれるパーツなどもある。

 

「それ、貴重なんですか?」

 

 なお、靴の製作に必要ではないものにはあまり興味がないヒドリ。使えそうなパーツを集めて、使えないと分かると保管庫に押し込んでしまうのである。

 

『超が付くくらいレア物だよ。こんなところで見つけるなんて……』

 

「一つ目はそれでいいですか?」

 

『うん。あとは……うわ、限定モデルのPCパーツまである……』

 

 今回ヒドリがリストアップしたパーツは、チヒロが選んだラジエーター、旧世代ではあるが根強い人気がある限定モデルのPCパーツ、よく分からない機械のモーターらしきもの、オーバーテクノロジーの匂いのする小型スラスターやモジュール、データチップなどだ。

 

 例えミレニアムでなくとも、その価値を理解する者ならば言い値を払うほど貴重は品も含まれている。

 

『…………………………これと、これと……あとこれと、これかな』

 

 散々悩んだ末にチヒロが選んだのは、非売品となったラジエーター、電子機器機能拡張盤、旧世代PCパーツ、絶版されたドローン二種。エンジニア部が見たらヨダレを垂らすような品々ばかりだ。

 

「じゃあ、郵送しとくので、受け取りお願いしますね」

 

『うん、よろしく。……じゃあ、私はこれから寝るから……何かあったら後輩のハレに電話して』

 

「ハレ」

 

『うちの後輩。天才的なエンジニアだよ』

 

 エンジニア、と聞いてヒドリが思い浮かべたのは、昔読んだ本に登場した主人公の相棒。超常的な力を得た主人公のピンチを救うお助けキャラクターのイメージだ。持ち前の明るさは、ダークヒーローのような主人公の支えとなっていた。

 

「凄い人なんですね、その人」

 

『うん。ハレにも伝えておくから、何かあったらそっちにね』

 

「分かりました。ありがとうございます、チヒロ先輩」

 

 通話を終えた頃にはコーヒーを飲み終えており、ヒドリはグイグイと体を伸ばす。今日も補習授業部の合宿場で授業を行うのだ。一つ上のレベルでも問題なさそうなので、それを実行するつもりである。

 

「ヒドリ、何か掴めた?」

 

「あ、おはようございます、社長。ええ、掴めました。チヒロ先輩達に感謝ですね」

 

 アルが寝癖を直しながらリビングに現れる。その後ろにはまだ眠そうなムツキとハルカ、羽の調子を確認しているカヨコの姿が。

 

「大きなヤマになりそうですよ、この依頼」

 

「そう。その情報は先生にも共有しておきなさい。全員、いつ戦闘が起こってもいいように警戒は怠らないように」

 

 仕事の顔になったアルが指示を出せば、便利屋68はどれだけ眠かろうとしっかり切り替える。

 

「ヒドリ、今日は上空からの出勤にするわ。その時に要所要所を説明すること。いい?」

 

「分かりました」

 

「カヨコ、情報をまとめたら作戦を立てるわ。お願いね」

 

「うん、了解」

 

「ムツキ、ハルカ。あなた達は爆発物を可能な限り作っておきなさい。C4よりもEMPとかが望ましいわ」

 

「わ、分かりました……!」

 

「くふふっ、りょうか~い!」

 

 ヒドリはこういうアルしか知らないが、他の三人はアルが変わったことをよく知っていた。気が緩んでいる時などにはあの頃の姿を拝めるが、現在のような仕事中ではハードボイルドへと片足を踏み込んでいる。

 

 成長を感じるカヨコ、いつも通りに微笑むムツキ、目を輝かせるハルカは、アルの成長を感じ取っていた。そんな感慨深さに想いを馳せていた直後。

 

 

 

ドゴオオオオオオオンッッッ!!!!!! 

 

 

 

 爆発の衝撃が突き抜けた。地震かと思うほどの爆発は、いとも容易く便利屋68の事務所を廃墟にするような威力で────────

 

「よっしゃあ! 温泉が出たぞ!! 情報通りだ!!」

 

「民家も吹き飛んだけど温泉が出たからヨシ!!」

 

「何だかよく分からんがヨ────うわらばっ!!?」

 

 工事用ヘルメットを被っていたゲヘナ学園生徒が横にぶっ飛んだ。

 

「……潰す……」

 

 廃墟となった事務所からいち早く飛び出してきたヒドリの蹴りが、先程吹き飛んだゲヘナ学園生徒にもう一度炸裂する。胃袋を揺らすような蹴りを食らった彼女は吐瀉物に濡れながら気絶した。

 

「うちの事務所で、何してるのかなぁ……!?」

 

 続いて廃墟から出てきたのは、ガチギレしているムツキ。放っておくと目の前にいるもの全てを爆殺しかねないほどに怒っている。

 

「許さない……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……!」

 

「……はぁ……節操がないね」

 

 普段怒らないハルカとカヨコも、今回ばかりはキレていた。苦労して貯めたお金で購入した事務所を一瞬で廃墟にされたとなれば、怒るのも当然だ。

 

「宣戦布告、ってことでいいのよね……?」

 

 その中でも一番キレていたのは、便利屋68の社長であるアルだった。────────正直なところ、アルは、便利屋68のメンバーは、建物を壊されたことに怒ってはいない。怒っているのは、大事な……家族のような存在を傷付けかねない行為を平気で行ったことに対してである。警告もなしに行われた行為。便利屋68の堪忍袋の緒が完全に切れた。

 

「便利屋68各員戦闘開始! 誰に喧嘩を売ったのか……教えてあげなさい!!」

 

 ゲヘナ学園の部活の一つで、名前の通り各地で温泉を求めて開拓活動をしている温泉開発部。

 

 これだけ聞くと物珍しくもアウトドア系の真っ当そうな部活だが、問題なのは温泉開発のためならそこが市街地だろうが他校自治区だろうが首を突っ込んでは、それを口実とするかのような大規模な破壊活動を行う。

 

 その異常な熱意と、「実際温泉が見つかるかどうかや、開発の過程で周囲にもたらす被害など知ったこっちゃない」としか考えてないようなそれ以外への無頓着さ。

 

 そのせいで特に対立関係にあるトリニティの正義実現委員会からは美食研究会共々テロリストとまで言われており、風紀委員会を悩ませている。

 

 そんな部活の規模は凄まじいが、便利屋68は完全にキレていた。数など関係ない。今はただ、目の前にいる温泉開発部の部員と、そのリーダー達を叩き潰すことしか考えていなかった。

 

「あと、ヒフミに遅れると連絡しておくこと! 依頼を受けたんだから!」

 

「社長、食べてもいいですか」

 

「ダメよ。こんな連中、あなたが食べる価値もないわ」

 

「社長、ヒフミに……あと、先生にも連絡しておいたよ。事情を説明したら、倒したら建て直しもさせて、損害賠償も払わせるくらいやっていいって」

 

「あら、先生も成長してるようね! 聞いたわね!? 思う存分暴れなさい!!」

 

 その日、ゲヘナ学園は思い出した。便利屋68もゲヘナ学園の生徒であり、一人一人が間違いなく実力者であることを。空崎ヒナがいなければ、一夜にして風紀委員会を制圧できるほどの集団であることを。

 

 ゲヘナ学園は恐怖した。いつも比較的穏やかな者がキレるとどうなるのかを。

 

 情報を流した者は自分のやらかしに戦慄した。情報を流したことがバレたら、報復されるのは自分であると知って。便利屋68という存在を侮っていたのかもしれない。

 

「クックックッ……!! ああ、素晴らしい……!! 素晴らしいですよ、本当に……!!」

 

 遠くで認識の鳥を観察していた研究者は酷くおかしそうに、興味深そうに笑った。ヒドリは()()()()()()()()()ではなく、便利屋68から与えられた数々の愛により、独自の進化を遂げ始めていると知って。これからの認識の鳥と便利屋68の動向に目が離せないと笑った。

 

「ああ……素晴らしいインスピレーションが……! しかし、私の手元には鉛筆とノートのみ……!!」

 

 その隣にいた芸術家はインスピレーションに双頭を震わせた。ブラックマーケットで購入した羽根飾りもそうだったが、あの緋色の鳥と便利屋68は、自身に凄まじいインスピレーションを与えてくれる存在であると理解して。手元に鉛筆とノートしかないことを嘆いた。

 

「ペンが……ペンが止まらない……! 史上最高の傑作完成の予感がします……!!」

 

『そういうこった!!!!』

 

 モニター越しに見ていた文豪は心を踊らせて万年筆と原稿を掴んだ。家族愛、友愛、怒り、悲しみ────喜怒哀楽多くの感情が便利屋68を中心に吹き荒れる姿はまさに原稿を走らせるにふさわしいと。

 

 エデン条約調印式を目前にして、ゲヘナ学園自治区に便利屋68の怒りが降り注いだ。

 

 

 

 

 


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