キヴォトスの歴史(捏造)
温泉開発部にドでかい被害。
それはそうと、AC6楽しいですね。実家にPS4置いてきたので、今はやれてないですが。
「遅くなりました。……はぁ」
便利屋68が合宿場に訪れた時、時計は午後1時を回っていた。所々焦げ付いた服を着たヒドリは、小さく溜め息を吐く。
「あはは……お疲れ様です、ヒドリ君」
「ニュースになってたわよ、あなた達」
便利屋68の攻撃により、ゲヘナ学園自治区は一部が焼け野原と化した。その全てが温泉開発部が堀り当てた温泉と温泉施設があった場所である。温泉開発部の誰もが泣き叫び、ムンクの叫びのような顔をして、真っ白に燃え尽きていたがそれはそれ。シャーレの先生の許可と風紀委員会からの黙認があったため、便利屋68は全く遠慮しなかった。
現在温泉開発部は事務所の建て直しを休みなしで行っている。その監視をゲヘナ学園風紀委員会に任せているため、しっかり遂行するだろう。建て直しが完了するまでは安いホテルに部屋を取るつもりである。
「さて……温泉開発部は置いておいて……模擬試験はどうでしたか?」
「えーと……これが結果ですね」
提出されたテストの結果を確認して、便利屋68の五人は目を細めた。
浦和ハナコ28点。
下江コハル32点。
白洲アズサ58点。
阿慈谷ヒフミ79点。
「いいですね」
「紙一重届かなかった……」
「でも、全員成績が伸びてるわね! これは大きな進歩よ!」
アルの称賛に頷く面々。授業の成果はしっかり出ているようだった。
「さて……これを踏まえて授業────の前に。お伝えすることがあります」
「あら、何でしょう?」
「補習授業部、このままでは退学の危機です」
隠すこともなく、真面目な顔でヒドリは補習授業部の面々に告げる。突然の通達に誰もが驚く中、便利屋68のブレインたるカヨコがデータを表示した。
「この補習授業部が設立された理由は不穏分子の排除。その証拠に……次のテストの会場はここ」
「ここって……ブラックマーケット!?」
「この部活を設立した人は、どうしても合格を阻止したいみたいだね」
ブラックマーケット、それも奥地に会場を設けるという露骨な対応。創設されてから間もないというのに、形振り構わない対応に対して、補習授業部のメンバーは目を見開く。これではまるで、自分達を退学させたいと言っているようなものだからだ。
「何それ……私達が何したって言うの!?」
「さぁ……そこは何とも。ただ、トリニティで何か起こってるみたいですね。でも、僕達がやることは変わりませんよ」
「ええ、簡単なことよ。全員で合格して、逆境をはね除けてやるのよ!」
やられたことは必ずはね除ける。ゲヘナ学園の生徒は力こそが正義である。
「というわけで、ギアを上げるよ」
「えっ」
「だ、大丈夫ですよ……密度が上がるのが精々なので……」
三十分で脳をショートさせた授業の密度が上がる。それを聞いた補習授業部全員の口元がひきつった。しかし、それを考慮していては策略に嵌まって終わってしまう。温泉開発部を相手にした後の便利屋68は、策略を叩き潰すことを最優先事項として設定していた。
「まぁ、基礎は固まってますし、何とかなるでしょう」
「うんうん、何とかなりそうだよね!」
鞄から取り出されたのは、予想されるテスト範囲全てを網羅した問題集。厚さはそこまでではないが、密度が恐ろしいことになっていることが窺える。
「……では、早速授業を始めます。今日は面白い授業になると自負してますよ」
目の負担を下げるための眼鏡をかけたヒドリは、問題集を配ってからすぐに授業を開始した。
「今回の題材は食文化です」
「しょ、食文化……?」
「はい。今ではスーパーで色々と購入できていますが、昔はそこまでインフラ整備ができていません」
ゆえに、古語の中には過去の食文化が残っていたりする。例えばアビドスならば、砂漠地帯特有の食文化が、百鬼夜行ならば今も残る和食の文化が……と言ったように。
「食文化を読み解くと、歴史も読み解けます。逆もまた然り、ですね」
例えばトリニティ総合学園やゲヘナ学園が所持する無人島。そこには多くのレモンやライムが自生している。しかし、自然と生えてきたものではない。
「さてここで問題です。問1……この古語、何を伝えているのでしょうか?」
「えーと……接続詞の前後だから……航海中、船員、顔色悪い、船酔い違う、貧血、出血……?」
「壊血病……ですよね、ヒドリ君」
「正解です、ハナコ先輩」
コハルが読んだそれを和訳すると、『航海中、船員の顔色が悪い。症状は船酔いではない。船員の中には貧血や皮膚、粘膜からの出血を伴う者もいる』────である。
壊血病……ビタミンCの欠乏によって生じる病気だ。ビタミンCは体内のタンパク質を構成するアミノ酸の一つの合成に必須であり、欠乏すると組織間をつなぐコラーゲンや象牙質、骨の間充組織の生成と保持に障害を受ける。これがさらに血管等への損傷に繋がることが原因である。
「この古語が書かれた頃、船には柑橘類などのビタミンCを取れるものは積んでいなかったようですね」
治療のためにはビタミンCを多く摂取した後、栄養価の高い食事が必須となるのだが、当時はそれを発見するまでに時間がかかった。
「さて、続きの和訳ですが……アズサさん、できますか?」
「……ああ、うん。────戻った時、レモン、飲ませる、食事と安静……改善。船員にレモン果汁を飲ませた後、食事をさせて安静にしたら治った……だろうか?」
「お見事。正解です」
この時の医者が優秀だったようで、早い段階でレモンなどのビタミンCを取り込めるものを用意して症状を改善させたのだ。そこから、船や港……そして開拓中の無人島にレモンやライムを植えた……というわけである。
「ですので、現在も港にはビタミン補給用のドリンクサーバーが設置されていたり、船にビタミン剤などを積むようにしているんですよ」
「へぇ……!」
「まぁ、今は船に冷蔵庫があるので、簡単にビタミンCを摂取できますし、何日も海に出るということもあまりありませんが」
この知識については、ヒドリがゲヘナ学園自治区の港にいるベテラン漁師や、ヘルメット団の一派『ジャブジャブヘルメット団』に話を聞いたことも混ぜ合わせている。
「もし自治区管理下にある無人島に行く機会があれば、想いを馳せてみるのも面白いかと」
「ねぇ、ヒドリ。他には何かあるの?」
「ありますよ。問6を見てください。こちらは挿し絵から読み取るアビドスの食文化です」
そこに描かれているのは、何かの植物。黒い粒や、赤くて細長いもの、八角形のものなど、様々描かれている。
「あ、もしかしてこれって……スパイスですか?」
「はい。昔のアビドスには欠かせない品々です」
暑さの厳しい場所では、唐辛子を始め、スパイスを多用した料理が多く食べられていた。
その理由の一つに、辛い料理の発汗作用がある。辛いものを食べて一時的に暑くなって汗が多く噴き出すことで、汗が体温を奪いつつ蒸発することで、涼しくなるというわけだ。
また、香辛料の香りや辛みといった風味には、食欲増進や消化促進といった効果もあり、保存性を高めるのにも役立つ。体力を消耗しやすい気候の中で、しっかり食べられる工夫として、昔から受け継がれてきた文化であろう。とはいえ、元々辛いものを食べ慣れてる人ならともかく、そうでない人が無理に食べると、かえって胃腸を痛めかねないのだが。
「辛いラーメンなんかもアビドス経由で多く出てますね。柴関ラーメンが一番ですが。……はい、こんな感じで、古語は食文化が多く記されたりもしています」
「教典だけじゃないのね……」
「実は教典の方がマイナーだったりしますよ? 物語やこういったものが多く出土してますし」
そんな豆知識を披露しながらも、ヒドリの授業は進む。三十分の短い授業だったが、それでも補習授業部の全員の中に刻まれるような授業であった。
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時は流れて夜。郵送ドローンがあの爆破によって破損したため、自分で報酬を持っていく羽目になったヒドリは、便利屋68の四人に先生への報告などを任せてミレニアムサイエンススクールに訪れていた。
「えーと……ヴェリタスってどこにあるんだろう……」
便利屋68の四人は現在、合宿場に向かっている先生の警護も兼ねているため不在。ミレニアムに訪れる機会が少ないヒドリは完全に迷子になっていた。
「ん? ……………………ここは違────────」
「おや、何か探し物かな?」
そしてヒドリは出会う。出会ってしまう。出会ってしまった。
「部屋を探しているんです。ヴェリタスの」
「ゲヘナ学園の生徒の君がかい?」
「各務チヒロ先輩に届け物があるんですよ」
「なるほどね。チーちゃんが言っていた客人か」
長い紫色の髪を揺らす少女は、穏やかに微笑む。
「緋色の髪に、緋色の瞳……そして大きな緋色の翼。なるほど、君が赤時ヒドリ君だね?」
「確かに赤時ヒドリですが、あなたは?」
「ああ、すまない。私は白石ウタハ。エンジニア部所属のマイスターさ」
「エンジニア部……」
「チーちゃんがいるところまで案内しよう。君とは是非一度話してみたいと思っていたんだ」
有無を言わせずヒドリの背中を押して、案内を開始するウタハ。少しの警戒があったが、ヴェリタスの部室がどこにあるのか知らないのもまた事実……ヒドリは案内を受けることにした。
「ところでマイスターとは?」
「機械製作や修理、ハードウェア・ソフトウェアなどにおいて極めて優秀な成績を修めた者が名乗れる称号さ」
「へぇ……ウタハ先輩は凄い人なんですね」
皮肉でも何でもない、純粋な称賛にウタハは笑う。
「部員の皆も優秀だよ。……君もミレニアムに入ればすぐになれると思うよ」
「? 僕はゲヘナですよ」
「例えばの話だよ。その靴、君のオリジナルだろう?」
キラキラした目でヒドリの【PHENIX-TYPE-Ⅷ】を見てくるウタハ。ヒドリの靴の七代目は役目を終えて、八代目へと受け継がれた。
ヒートブレードの出力は拾った小型ジェネレーターによって向上。さらにパイルバンカーの出力はバネ式と炸薬式を組み合わせることで、威力が格段に上がっていた。排熱に時間が掛かるが、許容範囲に収まっている。
「独学かい?」
「銃が使えないので、ジャンクパーツをかき集めて武器を作るしかなかったんですよ」
「へぇ?」
「撃つよりも蹴った方が早いですし、何より便利屋68の皆さんの方が銃の扱いが上手いですから」
ヒドリは小型コンテナを引きながらウタハの横を歩く。ヒドリの装備は、ウタハにとって────否、エンジニア部にとって酷く興味をそそられるものだ。先生やチヒロから話を聞いた時から、エンジニア部はヒドリと仲良くできそうな予感があった。
「ヒドリ君、今度ぜひエンジニア部に寄ってくれ。君のお眼鏡に叶うようなものを用意しよう」
「ええ、機会があれば」
「頼んだよ。さて、ここにチーちゃんがいるはずだけど……彼女に届け物とは、何を持ってきたんだい?」
「ジャンクパーツですよ。集めたはいいけどいらないやつです」
そう言ってタイヤ付きの小型コンテナの中身を伝えるヒドリに対して、ウタハの目の色が変わる。
「ヒドリ君、このパーツをいくつかエンジニア部に────」
「ウタハ、それは私のだよ」
「……冗談だよ、チーちゃん」
仮眠室から出てきたジト目のチヒロに肩をすくめるウタハだったが、ヒドリはウタハが結構本気で言っていたことに気付いていた。
「チヒロ先輩、こんばんは。届け物です」
「うん、ありがとう。……災難だったね」
「まぁ、損害は全部温泉開発部に持たせることができてるので、とりあえずはいいです」
「そっか。……うん、中身は全部大丈夫そうだね」
中身を軽く確認したチヒロはそう言って頷く。その時中身を見たウタハはやはり物欲しそうにしていた。
「チーちゃん、折り入って相談があるんだけど」
「ダメ」
「まだ何も言ってないじゃないか」
エンジニア部────のちのヒドリの武装である【PHENIX-TYPE-Ⅹ】を作ることになるとは、今はまだ誰も知らない話である。