突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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バードエフェクト

ベアトリーチェがゲマトリアしてる。

あとブルア廻戦してる。


素敵だ、ご友人!ええ、とても素敵ですよ、ご友人。ああ、カーラ(とばっちり)あなたはいつも新しい性癖の開拓をしてくれる……

それはそれとして。ヒドリ君の得物の紹介だ!!

【PHENIX-TYPE-Ⅹ】
ミレニアムの技術を使ったパイルバンカーとヒートブレード搭載靴。排熱性能が更に向上した。なお、エンジニア部は教えるだけで手を付けていない。ヴェリタスに縛られながら口出ししていた。可哀想にねぇ……

【NABERIUS-TYPE-Ⅰ】
機能モリモリ盛るペコガントレット。

朱涅(あかね)
夕焼けのように真っ赤な剣。よく斬れる。ヒドリが拾われた時に大事そうに抱き締めていた。所々にオーパーツのような幾何学文様がある。

柄の部分には古代の言葉で『やがて夜がやってくる』と刻まれている。

夜叢(やぐさ)
夜の帳ように真っ黒な槍。よく斬れる。ヒドリが拾われた時に大事そうに抱き締めていた。所々にオーパーツのような幾何学文様がある。

柄の部分には古代の言葉で『そして朝がやってくる』と刻まれている。


宣戦布告とヒドリ君

『ごめんね、ヒドリ……』

 

『ごめんなぁ……ごめんなぁ……!』

 

 誰かが、泣いている。傷付いた少年を抱き抱えた夫婦が、全身を真っ赤に染めた夫婦が、少年を抱き締めて、泣いている。

 

『もっと一緒に……もっと、愛してあげたかった……!』

 

『お前の力を、お前の存在を、やつらから隠す……それくらいしか……してやれない父さん達を許さないでくれ』

 

 周囲から聞こえてくる、罵声、絶叫、怒号。多くの者が、少年を殺すために集まっているらしい。深い眠りの中にいる灰色の少年はそれに気付かず、夫婦は続ける。

 

『……色んなものを見て、知って、たくさんのことを学びなさい』

 

『たくさん食べて、よく寝て……』

 

『色んな人と、会って、話して……友達を作れよな……父さんは、苦手だったけど……』

 

『大事な人を見つけて……一緒にいなさい……父さんと母さんの子供だもの。きっとモテモテよ』

 

 変わる。変わる。変わっていく。灰色が、赤色に。鈍色の翼が、緋色の翼に変わっていく。命が循環していくかのように、少しずつ、色が、命が、変化していった。

 

『お風呂にもしっかり入って……趣味も見つけなさいね……』

 

『あとは……まぁ……お前が幸せになれるなら、何でもいい……ああ、あと、女王に会ったら、色々謝っておいてくれ』

 

 少年の体が透き通り、揺らいでいく。ここではない、遠い場所へ────────時間を越えた、どこか遠くに送るために。

 

『────お前の記憶は多分……俺達がお前を捨てたと認識するだろう……それでいい。それでいいんだ……!』

 

『生きなさい、ヒドリ。生きて、生きて、生き続けて……幸せになりなさい……! こんな私達なんて、忘れて……!』

 

 いつか、どこかで、少年を大事にしてくれる人が、愛してくれる人が現れる。そう信じて、夫婦は少年を送り出す。

 

『貴様ら……! あの忌み者をどこへやった!?』

 

『理解できぬ……理解できぬ……! なぜ、あんなものを守ろうとするのか、理解できぬ!!』

 

『驕るなよ、ただの騎士風情が────!』

 

『……はっ。教えてやるかよヴァアアアアカッッッ!!』

 

『親が子供を守るのに、理由がいるのかよ!!』

 

 司祭を前にして、剣と槍を構える夫婦。そこで、視界が暗転する。

 

 これは、記憶だ。少年が────ヒドリが覚えていない記憶。朧気にしか知らない、霞がかかった記憶。親に捨てられたと認識している認識の鳥が知らない、遠い記憶。

 

 ────そして。

 

『あら……!? な、何でこんなところに人がいるの!?』

 

『アルちゃん、この子怪我してるよ?』

 

『ぅ……ぁ……だ、れ……』

 

『酷い怪我……こんなになるまで、何をされたんだろ』

 

『と、とにかく手当……ですよね……!?』

 

 出会った四人の記憶。忘れることのない、ヒドリの記憶。今でも鮮明に覚えている、大切な記憶だ。

 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 

 ヒドリが便利屋68に拾われた時、彼が大事そうに抱えていたものがある。祝詞の書かれた頑丈な紙と、赤い剣と灰色の槍だ。錆び付いた形跡もない、よく手入れされた美しい二振りのそれは、便利屋68の事務所の中で大事に保管されている。

 

「……」

 

 そんな二振りを、ヒドリは定期的に手入れしている。研いでみたり、油を塗ってみたり。丁寧に、丁寧に、大事に手入れをしていた。

 

「ヒドリ、あなた機嫌悪い?」

 

 本日の便利屋68は先生からの依頼を終えた休息日。全員が思い思いの休日を過ごしている。カヨコはヒドリと見つけた猫カフェに向かい、ムツキはブラックマーケットに爆弾を収集しに。ハルカは雑草探しと爆薬探しへ向かっている。アルはヒドリと共に留守番────ではなく、手入れが終わり次第買い物に行くつもりだ。

 

「……かもしれません」

 

「そう」

 

 沈黙が広がる。ヒドリが不機嫌になったとして、変わることは特にない。あったとしても、武器の手入れの時間がいつもより長くなるのみ。理由は分からないが剣と槍を手入れしている時、心が落ち着くのだ。

 

「その剣と槍……いつ見ても綺麗ね」

 

「はい。……誰のものかは知りませんが……」

 

 手入れを終えた赤い剣【朱涅(あかね)】と黒い槍【夜叢(やぐさ)】を握り、ヒドリは笑う。

 

「これを触っていると、なぜか懐かしい感じがするんです」

 

「懐かしい、ね……」

 

「もしかしたら、僕が捨てられる前、両親が持っていたのかもしれませんね」

 

 ヒドリは両親に捨てられた。真相がどうかはヒドリが気にしていないため、便利屋68も調べようともしないし、彼自身が嫌がるだろうと考えて調べていない。

 

「どうして捨てられたのか、なんて僕がこれだからでしょうけど」

 

 彼自身、自分が緋色の鳥となる前を知らない。生まれた時から認識の鳥なのか、生まれる前は普通の人間だったのか。はたまた生まれたから認識の鳥となったのか。それとも、鈍色の鳥が眠ったから緋色の鳥となったのか。ヒドリは何も知らないのだ。

 

「それはそれとして……いつまでそこにいるおつもりで?」

 

「………………気付かれていましたか。流石は認識の鳥、でしょうか」

 

「────いつの間に」

 

 いつの間にか、長身で、長い黒髪に赤い肌、白いドレスを身に纏う貴婦人が立っていた。目がついている翼で埋め尽くされた毛玉の様な頭部を持つ女性で、口の中は乱杭歯となっており、禍々しい雰囲気を放っている。

 

「申し訳ありません。あなた方に危害を加えるつもりは、まだありません」

 

「まだ、ね……」

 

「ええ、まだです。時期尚早ですから」

 

 この貴婦人めいた存在こそ、ゲマトリア所属ベアトリーチェ。アリウス分校の理事長を務めている崇高への道を模索する存在の一人だ。

 

「まずは自己紹介を。私はベアトリーチェ。ゲマトリア所属、アリウス分校の理事長を務めております。……ああ、こちら名刺と菓子折です。社員の皆様とお食べください」

 

「便利屋68社長陸八魔アル。ありがたく頂戴するわ。ヒドリ、お茶を淹れてくれる?」

 

「便利屋68社員の赤時ヒドリです。ベアトリーチェさん、お茶、紅茶、コーヒー、どれがよろしいですか?」

 

「ではコーヒーを」

 

 やはり名刺交換から始まる。ビジネスの始まりは名刺交換から始まるのだ。

 

 コーヒーを淹れながら、ヒドリは現れたゲマトリア所属の大人に対して妙な感覚を覚えていた。見えない────というよりも、どこかズレているような感覚がある。そこにいるはずなのに、そこにいない……のではなく、電波はあるのにチャンネルがズレているために聞こえないラジオやテレビのような感覚があるのだ。

 

 コーヒーを配膳し、ソファに座った三人。三人の会話の口火を切ったのはベアトリーチェ。

 

「まずは先日の件について謝罪を。赤時ヒドリさん、あなたへの攻撃を謝罪いたします」

 

「……あなたの指示ではなかったんですか?」

 

「私は可能であれば連れてきてほしいと指示したのみ。その後拒否されたのであれば退け……そう言ったのですが」

 

「恐怖だけじゃ人は完璧に指示を受けませんよ」

 

「耳の痛いご指摘ですね」

 

 恐怖政治だけでは完璧な行動を人は取れない。成功例だけを指標にして、失敗を過度に恐れる。そうなってしまえばヒドリを襲ったあのアリウス分校の生徒達のようなことになるのだ。

 

「それで、ヒドリはどうするの?」

 

「謝罪は受け取ります。……これだけが用件ではないのでしょう?」

 

「ええ、もちろん。本題はここからです」

 

 ベアトリーチェの雰囲気が変わったのを期に、アルとヒドリも姿勢を改める。目の前の存在は、キヴォトスで見てきたどの大人よりも手強く、強かな存在であることを認識し直すためだ。

 

 ヒドリを認識の鳥として理解しておきながら、ヒドリの五感による認識をズラすことができる力────または技術は、祭りによく現れる黒服も使っていた。ならば、彼と同等の能力があってもおかしくない。

 

 アルは社員の安全を守るために兜の緒を締め直す。

 

「認識の鳥、緋色の鳥。あなたのその力をゲマトリアにて使うつもりは?」

 

「ありません。僕は便利屋68と共にいると決めました」

 

「そうですか。……ああ、これは断られると理解した上での問いかけですので、お気になさらず」

 

 そう言ったベアトリーチェは、唐突に高性能ビデオカメラを搭載したドローンを展開する。録画────ではなく、ネットワークの波に配信という形で何かを残そうとしているらしい。

 

(きた)るエデン条約調印式の日。私達アリウス分校はゲヘナ、トリニティに対して攻撃を仕掛けます」

 

「……何ですって?」

 

 ベアトリーチェの放った言葉にアルが目を細め、ヒドリは沈黙を保つ。あの言葉を期に、配信の視聴者数も上がっていく。

 

「アリウスはトリニティから排斥され、ゲヘナからも被害を受けた。その報いを戦争という形で受けてもらいます」

 

 それは長きに続く怨嗟の声。過去の行いによって自分達が貧困に喘いでいる生徒の憤怒、それでもなおトリニティは手を差し伸べることもせず、放置していることへの殺意と憎悪……ヒドリはベアトリーチェを通して、あの襲撃者達とはどこか違う、虚無と負の感情を感じ取った。

 

「ゲヘナ学園とトリニティ総合学園……そしてシャーレ……有力者達を我々は叩き潰す」

 

 ヤバい。目の前の大人は、アリウスは間違いなく本気でゲヘナとトリニティ、そしてシャーレを叩き潰すつもりだ。そう感じ取ったアルはヒドリへの捕食許可を出す。

 

「ヒドリ……!」

 

「無理です。ズレてます」

 

「あなたを……あなた方を前にして対策をしないわけがないでしょう?」

 

 本来であれば、認識がズレていようが関係なく捕食できるはずだ。しかし、ヒドリには枷がある。祝詞を読み上げねば食うことはできず、認識しても食らうことはできない。さらにドローンを利用した戦術も、ヒドリに対して恐ろしく面倒で……それでいて効果的に機能していた。こんな状態で祝詞を読み上げれば、キヴォトスに多大なミーム汚染が発生するだろう。

 

「地獄絵図を作りたくなければ、死力を尽くして戦いに挑みなさい」

 

 そしてようやく気付く。これは便利屋68という多くの学園との交流がある団体を利用した宣戦布告。便利屋68を利用したメッセージであると。

 

 ベアトリーチェが知る中で、最も厄介な存在を封じ込めた状態での宣戦布告は成功した。彼女はその結果を得て満足げに笑みを浮かべ────

 

「思う存分、潰し合いましょう」

 

 そう言ってドローンと共に、まるで結び目がほどけるように消え去った。部屋に充満していた凄まじいプレッシャーも消え、アルは全身から冷や汗を吹き出しながらソファに深く腰掛ける。

 

「……カイザーなんか目じゃないくらいの大人ね、ゲマトリアの大人は……」

 

「ええ。……それに、何か秘策もあるんでしょう、あの感じだと」

 

 アリウス分校がどこにあるかは、チヒロ経由で手に入れた情報によって知っている。しかし、チヒロやヴェリタスの力を持ってしてもカタコンベのルートを全く特定できなかった。他の情報は簡単に引き出せたのに、だ。

 

「奇襲……から始まるでしょうが……ちょっと心配ですね」

 

「ええ……ゲヘナもトリニティも今ピリピリしてる……この張り詰めた緊張がエデン条約調印式の宣戦布告によってさらに……」

 

 調印式の日、何時に行われるのかが分からない襲撃への警戒。それには恐ろしいほどの緊張があるだろう。

 

 元々ピリピリしている今、宣戦布告が成された。間違いなくゲヘナもトリニティも完全なパフォーマンスを発揮できないであろうことは明白である。

 

「……ヒドリ」

 

「はい」

 

「とりあえず買い物に行くわよ!」

 

「そう言うと思いました」

 

 便利屋68の全員が得意ものは、意識の切り替えだ。公私を分けることができるその切り替えは、今の状態でも変わらず使える。現実逃避かもしれないが、考えすぎてパフォーマンスが低下すれば目も当てられない。まずは今日の予定を果たすとしよう。アルはそう決めて立ち上がる。

 

「礼服も用意しないとね」

 

「礼服……? 制服でいいんじゃないんですか?」

 

「うちの社員、全員改造制服じゃない。礼服も改造はするけど、ちゃんとした服は必要よ」

 

 エデン条約の調印式には便利屋68も呼ばれている。ドレスコードがある場所への潜入も行ったことがある便利屋68は、ドレスも持っているが、調印式の場には相応しくないだろう。

 

「ヒドリの礼服もちょっと丈が短くなってたしね」

 

「あれ? 皆さんのサイズは大丈夫なんですか?」

 

「事前にスリーサイズも計ってるわ。メモもしてあるし、行くわよ」

 

 そう言って歩き出すアルと、それを追うヒドリ。二人が扉を開いた瞬間────

 

「クロノス新聞の者です! 取材をさせていただいてもよろしいでしょうか!?」

 

「日刊キヴォトスの者です! こちらも取材をお願いしたく!」

 

「週刊ミレニアムの────」

 

「アポを取りなさい。常識ないの?」

 

「「「ごもっともです!!」」」

 

 中々休まらない休日を過ごすことになりそうだと、二人は溜め息を溢した。

 

 

 

 

 


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