「あはは…それなりに楽しかったですよ、ナギサ様とのお友達ごっこ」が、「あはは…ティーパーティーって覚悟が足りないですよね。私の友達と違って」「何かを奪えるのは、奪われる覚悟がある人だけですよ」になっている。この世界のヒフミはわりとはっちゃけてるヒフミなので、普通に言った。お労しやナギ上……ちなみにこの後のアリウス&ミカでも「どいてください!!! 私は補習授業部ですよ!!!」と言った。ペロロデコイは超キレッキレに踊った。もはや誰も彼女を止められない。
アリウス分校の教義が教義であり、課題となっている。バニバニに対する答えを見つけること。解答者はこれまで一人しかいない。
イラスト描けたら色々やれんだろうが……厳しいですねぇ……腹の底から出た本音ヒドリ君とか描きたいけど……無理。ただでさえ緋色の騎士描いて挫折してんのに!!
一応、ヒドリ君にも弱点はあります。超高温+超低温+高周波の攻撃を与えると纏っている神秘がある程度剥がれます。
ゲヘナ学園自治区にある道場で、少女────便利屋68の社員伊草ハルカが畳に叩き付けられていた。ハルカを投げ、叩き付けたのは慣らしのために礼服を着たヒドリである。
「うーん……何がダメなんでしょうか……?」
「うーん……?」
お互いに首をかしげながら畳に座る二人。二人がやっているのは受け身の訓練────ではなく、体術訓練────でもなく、ヒドリの感覚を利用した神秘の活用方法の模索だ。
「ハルカさんは間違いなく神秘を流せてますよ」
「でも……ピンポイントではできてない、ですよね……?」
ヒドリの目は、神秘の流れを見ることができる。キヴォトスのヘイローを持った生徒達が宿す神秘……それが常に彼女達の体表を覆っているのを認識しているのだ。この膜────仮称として神秘膜は、ダメージを受けた瞬間に膨れ上がる。HP弾を喰らっても貫通せず、気絶や痕が残る程度なのはこれが影響しているのだろう。
この神秘膜の放出量や質や性質は、人によって差がある。例えばヒナとツルギ。ヒナが機関銃を設置した軽戦車だとすると、ツルギは自動修理機能が備えられた装甲車であろうか。
「はい。でも、常に50%は循環してます」
「それは……どうなんですか?」
「素晴らしいことです。便利屋68の皆さんの中で一番使えていると言えますよ」
ハルカの体を包む神秘は、常に総量の50%を放出及び循環させている。これは大抵の生徒のように無意識ではなく、意識的に流しているため、効率的に循環させることができている。
「ち、ちなみにヒドリ君は……?」
「僕ですか? 大体44.4%くらいですね。残りは枷で回せないので」
「……ということは……元々の神秘の総量と肉体強度が高い……?」
「そうですね。ある程度の力比べなら負けませんよ」
面倒なのでやりませんが、と呟くヒドリをハルカは苦笑する。そもそもの話、ヒドリと真正面から力比べをするなど自殺行為にも等しい。
「……さて、ちょっと休憩にしましょうか」
「あ、はい。……そういえば、あの大会は……まだやってるんでしょうか……?」
「さぁ……やってる人はやってるんじゃないですか?」
ゲヘナ学園の一部生徒間で流行中の壁ドン大会────その優勝者兼殿堂入りはヒドリである。ルールは簡単で、壁ドンされたらそれをカッコよく返すだけ。ちなみにポイント審査制。面白がってムツキがヒドリを参加させたことがあり、当時の相手はこう語る────────
『ヒドリ君の壁ドン? ……あれね、凄いよ』
『私も自信あったのに、小さく笑いながら手を掴まれてさ』
『そのままグルンって壁側に移動させられたと思ったら、足でドンッッッ!!!! だもん』
『びっくりしたけど、何か、こう……扉が開きかけた感じがする。あ、私この人に壊されるって思ったというか……ね?』
ちなみにこの取材はアルが行った。まるで過保護な姉が弟が粗相をしなかったか確認しているようだったと、当時のことをムツキは笑っていた。なお、取材相手が雌の顔になった瞬間からアルとムツキの目が笑わなくなった。姉を認めさせられるような生徒はいるのだろうか。
「壁ドン、あれ結構有効な攻撃手段ですよね」
「攻撃手段にするのは、ヒドリ君だけだと思いますよ……?」
ヒドリのイメージする壁ドンは敵の顔を掴んで壁に叩き付けるというもの。もはや壁ドンでもなんでもないただの暴力になっている。
それはそれとして、と話を切り替えるヒドリは立ち上がり、ガントレットを装着した。
「ハルカさんには────いえ、便利屋68の皆さんにはこれくらいはできてほしいんです。でないとちょっと危ないので」
そう言って的の前に立った彼の瞳孔は細まり、神秘が溢れる。
本来であればハルカは神秘を知覚できない。だが、神秘を認識するヒドリの神秘をほんの少しだけ流し込まれた、今この瞬間という状況のみ、ハルカの目はヒドリの体から溢れる神秘を知覚していた。
ヒドリの神秘は、外側が夜のように黒く、内側は夕焼けのように赤い。そんな神秘を纏った拳が的に激突した瞬間────────空間が歪み、赤黒い神秘が弾けた。
「……凄い」
「外から入ってきた漫画からインスピレーションを得ました。これができるようになれば、ハルカさんは────便利屋68はもっと強くなります」
神秘をドンピシャで攻撃に乗せる技術。ヒドリが便利屋68の四人に身に付けてほしい技術である。これができるようになれば、神秘の精密操作が可能になり、エデン条約の調印式で傷付く可能性が少なくなるだろうから。
「……ま、もう少し時間もありますし、間に合うと思います。さて、続けますか?」
「続けたい……ですけど、そろそろ時間ですよ」
「……あ、本当ですね。じゃあ今日はここまでにしましょうか」
今日の体術訓練をここまでにして、ヒドリとハルカは道場を後にする。帰りはもちろんヒドリが飛ぶ。ハルカはヒドリが持ってきていた一人用の籠に入って空の旅へと臨む。
「そういえば……ヒドリ君と最初に食べたものって────」
「お好み焼きですね。キャベツ多めの……豚玉です。それがどうかしましたか?」
「その……あそこのお店、無くなるそうなんです……」
「え、そうなんですか?」
「は、はい……店長夫妻がもう隠居するんだとか……」
ゲヘナ学園自治区にある、安くて美味いお好み焼きの店。入り組んだ路地裏に居を構えたそのお店は、ヒドリとハルカが初めて二人で食べた場所であった。お好み焼き店でありながら、なぜかピザやら、まぜそばやらも食べることができた店の味をヒドリは寸分違わず覚えており、喫茶店の思い出と同じくらい記憶に残っていた。
「残念ですけど、あのお二人が決めたことですしね。……寄りますか?」
「い、いいんでしょうか……?」
「テイクアウトもしましょう。皆さんも喜びます」
進路を変更し、思い出のお好み焼き店へと向かう二人。時刻は昼時13時。少し遅めの昼食となる。
ヒドリがその店の前に降り立った直後、お好み焼き店の扉が開き、暖簾を持った店主の女将と共に店内の熱気が二人を襲った。
「……おや、ヒドリ君とハルカちゃんじゃないか!」
「ご無沙汰してます、女将さん」
「こ、こんにちは……女将さん……」
ヒドリとハルカが頭を下げると、女将は快活に笑いながら二人の背中を叩く。
「こんな婆に畏まってんじゃあないよ! ほら、入んな! あんた! ヒドリ君とハルカちゃんが来たよ!」
「ん? おお、ヒドリ君とハルカちゃん! 随分と久しぶりだ!」
カウンター席の前で鉄板に油を引いていた熊のようにふくよかな男性は、彫りの深い顔を嬉しそうに歪めて笑う。女将も熊の大将も御歳75ではあるが、まだまだ若い者には負けていない。
「お店を閉じると聞いて……来ちゃいました……」
「はっはっはっ! 嬉しいねぇ。ちょっと前にもカヤちゃんが来てくれたよ。あの狐っ子達と兎っ子達を連れてね」
「「兎?」」
「何でも直属の部下なんだと。美味しいものを食べさせるのも────って、うんたら言ってたよ」
三週間ぶりに手に入れたせっかくの休日すら部下のために使うようになってしまったワーカーホリック、防衛室長不知火カヤ。どうやら彼女は直属の部下と、その後輩にこのお好み焼きを奢っていたようだ。
不知火カヤの優雅な休日は相棒の深煎りエスプレッソを片手に
「ま、とりあえず食ってきな。何にする?」
「豚玉を」
「じゃあ、私も同じものを……」
「あいよ。豚玉二丁ね」
カウンター席の前に敷かれた巨大な鉄板の上で、特製の生地が焼かれていく。生地は粉よりも卵やキャベツなどの比率が多いそれは、高温の鉄板の上でソースとマヨネーズ、鰹節をかけられて完成した。
「そら、熱いうちに食いな!」
「「いただきます」」
エデン条約のこともあるが、便利屋68のメンバーはそこまで気にしていない。目の前に現れた障害を叩き潰すなど、いつもやっていることであったし、ヒドリの教える技術は必ず獲得して使えるようにするつもりだったから。例え相手が強大な力を持った大人だったとしても。
「あ、持ち帰りで豚玉五つお願いします」
「あいよ。……店仕舞いする前に二人が来てくれて良かったよ。隠居前に、いい思い出ができた」
常連客が名残惜しそうにしながらこのお好み焼きを食べに来ると、笑いながら話す夫婦にヒドリとハルカも笑う。エデン条約調印式まで、残り二ヶ月……便利屋68は体術訓練以外、特に変わらない生活を過ごすことになる。
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カタコンベを抜けた先。アリウス分校の自治区────その中で最も真新しい建物の一室で、数名の生徒と大人────ベアトリーチェが睨み合っていた。
「……どういうことですか、マダム」
「言葉の通りですよ、サオリ。便利屋68のメンバー……特に赤時ヒドリとの戦闘は極力避けなさい」
声を荒上げるのは、黒く長い髪の少女。錠前サオリその人だ。その後ろには気弱そうな水色の少女と、包帯を巻いた少女、そしてフルフェイスタイプのガスマスクを装着した少女がいる。
彼女達こそ、アリウス分校最高戦力たるアリウススクワッドのメンバーである。
「それをした場合、あなた方が生きている保証がない。それだけのことです」
「私達の実力が信用できないってこと?」
「いいえ。あなた方が強いことは百も承知していますよ。しかし、彼は【指向性のある世界崩壊兵器】です」
「………………?」
フルフェイスタイプのガスマスクを装着した少女が、手話で問いかける。するとベアトリーチェは少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
「詳細は話せません。ただ言えるのは、『アレ』は……あなた方には荷が重い存在です」
「な、なら……どうやってエデン条約の調印式を襲撃するんですか……?」
「そのための巡航ミサイルと、知り合いからいただいた『ミメシス』……そして、特殊兵器です。それらを活用し、彼を抑え込む」
診療所の病床────そのほぼ半分を埋め尽くすのは、あの夜ヒドリに潰されたアリウス分校の生徒達。ベアトリーチェへの恐怖と崇拝の念がごちゃ混ぜになっていた彼女達は現在、中々治らない傷と消えない痛みに呻き声や泣き声を上げながら入院中である。
「彼女達の仇を、と思うのも分かります。しかし、サオリ……その感情を剥き出しにしたあなたが、果たして彼と、生徒……そしてシャーレに勝てますか?」
「……ッ」
「vanitas vanitatum et omnia vanitas.……」
全ては虚しい。どこまで行っても、全ては虚しいものだ。ベアトリーチェがアリウス分校を支配した時、彼女達に教えた教義であり、課題の一つ。課題の達成者は、ベアトリーチェが知る限り一名のみ。
「この言葉に対する答えすらまともに出せないのであれば……あなた方は白洲アズサにすら勝てずに終わるでしょう」
「なっ────────!!」
それだけを言い残して、ベアトリーチェは部屋を去っていく。アリウススクワッドを病室に残したまま。
「中々手厳しいことだ、ベアトリーチェ」
「……マエストロ、ミメシスの調整は?」
「69%と言ったところだ。認識阻害をかけると、ミメシス側の形が保てなくなる」
「そうですか」
誰もいない廊下を歩く異形の二人。ベアトリーチェの隣にいるのは二つ首の木製のデッサン人形────のような存在。ゲマトリアのマエストロである。
「認識の鳥……名もなき神々の時代にいたという、翼ある一族の中で信仰された存在」
「ではなぜ、彼が認識の鳥となったのかは疑問が尽きませんね。依り代でもない。あれは本物です」
「信仰がそれを生み出したのか、それとも何かを染め上げて生まれたのか。そもそも作られた存在なのか。……はたまたイレギュラーとして産み落とされた存在なのか……」
疑問は尽きない。だが、考察をする時ではない。残り二ヶ月……戦いの時は刻一刻と近付いてきていた。