突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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詰め込みました。読みづらかったらごめんなさい。

ビジター、RaDのチャティ・スティックだ。ボス曰く、やはり報いは必要だろう、だそうだ。

用件はそれだけだ。じゃあな。


破滅が来たりて喇叭を鳴らす

 ジクジクとした痛みがヒドリを襲う。嫌いな感覚だ。熱くて、冷たくて、ガタガタとうるさい振動があって。ヒドリの身体を切り裂くブレードに、彼は苛立っていた。

 

(面倒な武器……)

 

 自分にどの程度ダメージが通るのかを確認するためにわざと受けた右腕、そこからドクドクと流れ続ける血液を一瞥しながら、ヒドリは自分を取り囲むミメシスをどうやって処理するかを考える。

 

(こいつらもズレてるせいで捉えられない……)

 

 祝詞を使えば簡単に終わる戦闘が、認識阻害によって終わらない。しかも、殴っても殴っても追加がどこからともなくやってくる。ほぼ無限ループ的な存在を相手にするのは中々にストレスを蓄積するのだ。

 

(しかも治りが遅い……本当に面倒……でもまぁ……)

 

「なーんか、知ってるんだよなぁ……その武器」

 

 血が流れ続けていた右腕の完治を確認したヒドリが翼を広げる。

 

「お前達と戦ったことなんて、一度もないのにさ」

 

「────!?」

 

「殺してやりたくて、仕方がないんだよ」

 

 ガスマスクを貫手でぶち抜き、口を縦に引き裂く。その勢いは凄まじいもので、喉から下も剥がれている。こうしてもまた増援が来るだけだが……ヒドリは賭けに出た。引き裂いたミメシスの臓物────心臓を消える前に丸呑みにしたのだ。

 

「……まっず」

 

 味を覚える。血を、繋がりを、縁を、見つける。見つけたそれらを掴み、捉える。認識のズレを捕食することで修正する。ちなみにヒドリの舌は便利屋68のメンバーの血を飲み続けたことで肥えてしまっており、わりかしグルメになっていた。

 

(……これで、捉えた。けど、祝詞は使えない、か)

 

 ベアトリーチェが使っていたドローンが飛んでいるかもしれない。報道のためのカメラやマイクが祝詞を通してしまうかもしれない。大規模なミーム汚染など笑えない状態になってしまう。

 

 そういったリスクを避けるため、ヒドリはさっきまで攻撃を防いでいたせいで壊れたガントレットとパイルバンカー、ヒートブレードをオフラインに。腰に吊るしていた深紅の剣【朱涅】を片手で構える。

 

「……これの使い方は、何となく知ってる。何でかは分からないけど……起こす方法を、知ってる」

 

 過去の記憶がないというのに、この剣と背負っている漆黒の槍の使い方を何となく知っていた。まるで何度もそれを見てきたかのように、朧気でありながら、鮮明に。はっきりとしていながら、ぼんやりと。

 

 矛盾を孕んだ認識の中で、ヒドリは左手を朱涅の刃に添えて……目覚めの祝詞を口ずさんだ。

 

「緋色の輝き、友焼け子焼け」

 

 ヒドリから────否、ヒドリの左手から滴る血液から、剣から炎が溢れる。

 

「沈みて業々、原野を照らす」

 

 炎が収まった瞬間、まるで意思を持った炎のように揺らめく結晶が出現し、ヒドリの左腕と左翼に纏わり付く。

 

「堕ちろ、【朱涅】」

 

 ヒドリの知らない、ヒドリの記憶。ヒドリの知らない、これから先も知ることはないであろう母が振るった一振の剣。今のキヴォトスでは再現できない力の一つが今、この瞬間解放された。

 

 迫り来るミメシスを、灼熱を纏う刃と敵を焼き尽くすまで消えない炎の結晶で迎え撃つ。再生しようが、その上から焼き尽くしていく様を見ながら、ヒドリは現在の状態を俯瞰していた。

 

(……思ったより辛い。神秘が持っていかれる。あと、熱い)

 

 圧倒的な力を発揮している状態のヒドリは内心、朱涅が吸い上げる神秘の量に冷や汗をかいていた。ヒドリの神秘は枷がある以上、44.4%しか使用することができない。それでもホシノ以上の神秘の総量があるはずのヒドリだが、現在、身体を循環する神秘は10%を下回っている。莫大な量を朱涅が吸い上げ続けているのだ。

 

 しかも、朱涅が凄まじい熱を放っているせいで、右手が嫌な音を立てて焼けている。人様に見せられない程の火傷を負っているのは間違いないだろう。

 

(甘く見積もって三分……枷がないことを前提とした武器なのかな……それか、僕の親が上手くやりくりしてたのかな?)

 

 いくら認識の鳥といえど、神秘の総量が減ると体力が消耗する。長くは持たないと理解したヒドリは、短期決戦に持ち込むことを決意する。

 

「まず一体」

 

 突っ込んできたミメシスを切り裂く。凄まじい火力によって焼き斬ることで傷口を塞ぎ、再生をさせずに殺す。

 

「二体目」

 

 後方から迫っていたミメシスを炎の結晶が纏わり付く右翼で薙ぐ。真上から奇襲を仕掛けてきた三体目は左腕で受け止め、剣を振るって対処する。

 

 その動きは少しずつ効率化していく。下手をすれば自分を殺しかねない武器を振るい、ミメシスを一体、また一体と着実に処理していくヒドリ。彼の表情は処刑台に立った罪人を裁く処刑人のように、何も感じていないかのように凪いでいた。

 

(これ、皆さんから久しぶりに血を貰わないといけないかも……)

 

 気を抜けばすぐに眠ってしまいそうな程、ヒドリは消耗していた。それでもミメシスを殲滅する手を休めることはなく、加速していく。増援が間に合わなくなる程の速度で殲滅して、ようやくミメシス達は全ていなくなる。

 

 灰が舞う上空で、朱涅の炎が消えたのを確認したヒドリは、治りの遅い重度の火傷を負った右手をしばらく見つめた後、下の状況を見た。

 

「……押されてる……けど、社長達のところは被害が少ないな」

 

 それだけ便利屋68の戦闘能力が高まっているというのもあるが、意図的に便利屋68との戦闘を避けようとしているようにも見える。その違和感の理由をすぐに察した彼は、疲労感を振り切って、赤い礼服を身に纏うアルの近くに降り立つ。

 

「状況は」

 

「最悪一歩手前かしらね。……先生が撃たれたわ」

 

「なるほど、それは最悪一歩手前です。それ以外は?」

 

「大半をやられたわね。だけど、殺されてない。……多分、あなたの地雷がどこにあるのかを正確に知らないんだわ」

 

 アルの銃はスナイパーライフルであるが、とんでもなく頑丈に作られている。整備の回数を節約するためでもあるが、近付かれた時、鈍器として扱えるようにするためだ。現に今、アルの近くには近接戦を仕掛けてきたアリウス分校の生徒の山がある。鈍器で殴る、ヒールで蹴るなどは当たり前。便利屋68のメンバーは全員がヒドリの体術訓練を履修ているのだ。

 

「ヒドリ、撤退するわよ。これ以上は徒に被害を生むだ────」

 

「────────社長?」

 

 ヒドリの目の前で、鮮血が舞う。暖かくて、美味しそうな、真っ赤な血がヒドリの目の前で。

 

「ぁ……!?」

 

 冷や汗と脂汗をかきながら脇腹を押さえているアルを抱き止め、ヒドリは目を見開く。

 

「油断したわ……! 撃ってこないと、思ってた……!」

 

 アルの脇腹を貫通していった、神秘を含んだ弾丸。それはスナイパーライフル────否、対物ライフルの弾丸。身体が吹き飛ばなかったのは、アルの山勘が当たったから。ヒドリとの訓練によって神秘の膜を限界まで強化していたからこそ、この程度の負傷で済んでいた。

 

「ヒドリ、聞いてるわね……!?」

 

「社長、血が……!」

 

「内臓はやられてないから大丈夫よ。安心しなさい」

 

 この戦場で最も消耗しているヒドリの思考判断力は低下しており、火傷の痛みがなければ小さな子供程の言語や行動しか取れなくなっていただろう。滅多にないアルの────恩人の負傷に混乱するヒドリを宥めるように、アルは彼の頬に手を添える。

 

「カヨコ、ムツキ、ハルカ……一番近いのは?」

 

「…………ハルカさん────いえ、皆さん向かってきてます」

 

「好都合ね……皆に私を運ばせなさい」

 

 負傷しようが冷静に指示を飛ばすアル。ヒドリはアルの落ち着きぶりと、添えられた手の温かさによって、何とか冷静さを保っていた。

 

「ヒドリは撤退……がいいんだけど、聞かないわよね」

 

「……ごめんなさい……」

 

「いいのよ。ヒドリ、全力で敵を足止めしなさい。私を助けたいなら」

 

 殺す必要はない。殲滅する必要もない。重傷を負いながらも、アルはヒドリの手を汚さないように指示を出す。下手人は彼の手を汚す程の価値はないと決めつけて。

 

「ア、アル様……!!」

 

「アルちゃん……!!」

 

「……ふぅっ……、ハルカ、ムツキ、運ぶよ。三人で、できるだけ揺らさないように」

 

 腸が煮えくり返りそうになりながらも、冷静さを欠かないように指示を出すカヨコと、同じく怒髪天を突いていながらも、渋々その指示に従うハルカとムツキ。彼女らが渋々ながらも指示に従う理由など一つだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

 別段、枷が外れかけているわけでもない。それどころか気を抜いたら身動きができないくらいに疲れているのに、身体が押し潰されそうな重圧と神秘を噴き出している。

 

「ヒドリ、いいわね? 絶対に殺さないこと。祝詞も使わないで」

 

「……」

 

「私が起きた時、始末書とか嫌だからね? お願いね、ヒドリ」

 

「……はい」

 

「いい子ね。……じゃあ、頼んだわよ」

 

 そう言って、アルはカヨコ達に運ばれていった。未だ戦闘が続く調印式会場跡、その一角で佇んでいたヒドリは、自分の前に現れた四人を前にして────────完全にキレた。

 

「え、えへへ……結構、消耗してるみた────ぶぎゅえっっっ!!?」

 

 その怒りの最初の被害に遭ったのは、アルの脇腹を撃ち抜いた水色髪の少女。反応できない速度で接近されたと思えば、顔面をガントレットを装着した拳で殴られたのだ。お陰で水色髪の少女────アリウススクワッドの槌永ヒヨリは吹き飛び、太い支柱に激突する。

 

「ヒヨ────ぐっ!?」

 

 ヒヨリがぶっ飛ばされたことに瞠目していたアリウススクワッドのメンバーの中で、最も早く意識を復帰させた錠前サオリに襲い掛かった交差した腕が砕けかねない威力の二重打撃。ベアトリーチェが用意していた防御装置がなければ腕が使い物にならなくなっていたであろう一撃を打ち込んだ張本人は、身体の底から湧き出てくる怒りを抑え込もうともしない。

 

「……ああ……お前達が……」

 

 それは、人間を学んだ認識の鳥が、緋色の鳥が、赤時ヒドリが、カイザーPMC理事を蹴り飛ばした時などに感じた怒りを通り越す……今までの自分が嘘だったと思える程に。

 

(今まで、僕が口にしたことは全部、嘘だったんじゃないかと思えるくらい────────()()()()()()()()()

 

「ぶっ殺してやる」

 

 夕焼け小宅、太陽沈んで夜が来る。破滅の喇叭が今、アリウススクワッドに向けて鳴り響いた。

 

 

 

 


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