突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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また詰め込みました。

バードエフェクト

ベアトリーチェが現場主義になっている。モニタリングだけでは終わらない。

アリウスのメンバーが頑丈になっている。

便利屋68の性能が上がっている。


破滅の大盤振る舞い

 驕っていた。慢心していた。襲い掛かったアリウス分校の生徒を殲滅したからといっても、いくらベアトリーチェが彼に手を出すなと言われていたとしても、あれだけ消耗しているのなら勝ちの目があると思っていた。

 

 怒りに身を任せる者の動きは読みやすい。そのはずだったというのに。

 

「……ッ! 効いてな────」

 

 包帯を巻いた少女────戒野ミサキのスティンガーミサイルが直撃しながらも、全くの無傷。ヘイローを破壊する爆弾と同じものを組み込んでいる特殊弾頭であったというのに、だ

 

「これ使うのに、どれだけ許可申請かかると思ってんの……!」

 

「知るか。そんなゴミに頼るお前らよりも駄菓子の方がまだ価値がある」

 

「がっ……!? ぎっ……!? やめ゛っ……!!」

 

 ミサキがヒドリに足を掴まれ、地面に叩き付けられている中、ガスマスクの少女、秤アツコはぶっ飛ばされたヒヨリの様子を確認する。ヒヨリの意識は覚醒しているようだが、身体が思うように動かせないでいる。医療ドローンやアンプルなどを動員して治療を施す間、アツコは動けない。それがいけなかった。

 

「あれ、何してるんだよ」

 

「……!?」

 

「ほら、受け止めろよ、仲間なんだろ?」

 

 ゴヂュッ、という人体から鳴ってはいけないような音を立てながら、アツコと人間ヌンチャクにされているミサキが激突する。自傷行為もしていたミサキの腕や足の包帯からは血が滲んでおり、振り回された影響で鼻血も流れている。

 

 対するアツコは自前の治癒能力とベアトリーチェのドローンによって何とか事なきを得ていた。しかし、アツコは確信を得る。治るということは────治らなくなるまで攻撃されることが確定したということを。

 

「頑丈だなぁ、お前。どこまで壊れても治るんだ?」

 

「ぎっ……ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!? 

 

 およそ、人間が出したとは思えない絶叫が戦場に響き渡る。腕を引き千切られたことにより発生したその絶叫は、皮肉にも戦闘を止めることに協力した。

 

「ぐっ……ぅぅぅぅ……!!」

 

「へぇ、治せるのか。ツルギ先輩みたい……じゃないな。周囲も治してるし、別系統か」

 

 ツルギがダメージを一気に回復させる爆発型だとすれば、アツコは神秘をドローンなどで共振させて継続的に回復を行う広域リジェネ型。呑気に神秘の考察を行うヒドリの後方から、声にならない叫びを上げながら突貫してくる影があった。錠前サオリだ。

 

 だが、それを読んでいないヒドリではない。サオリのナイフによる攻撃を漆黒の槍【夜叢】で受け止める。

 

「姫から離れろ、赤時ヒドリッッ!!」

 

「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ、テロリスト!!」

 

 アルの命令によって殺してはいけないため、手加減をしているヒドリの神秘が回復し始める。朱涅から神秘が返されてくる感覚を感じながら、ヒドリは夜叢の刃に右手を添えた。

 

「緋色の輝き、夢見の帳」

 

「何を────!?」

 

「昇りて煌々、原野を覆う」

 

 凄まじい冷気が夜叢と、ヒドリの右手を中心に吹き荒れる。先程使っていた朱涅とは全くの真逆の現象。それが収まった直後、右腕と右翼に纏わり付いた氷の結晶。

 

「昇れ、夜叢」

 

 ガントレットを装着してもなお、凄まじい冷気がヒドリの左腕を中心に、身体を凍えさせる。父の槍を目覚めさせたヒドリの口からは白い息が出ていた。

 

 夜叢は、解放された朱涅と真逆の性質を持っている。朱涅が炎────動の力であるなら、夜叢は氷────静の力を持っている。回復した神秘を全て持っていった槍を握りながら、ヒドリはサオリに向けて槍を振るった。

 

「これは……!?」

 

 直感に従って手放したサオリの銃は一瞬で凍り付いており、彼女の指先も少しだけ凍っている。先程、夜叢は朱涅と真逆と語ったが、二つが共通していることがある。()()()()()()、という性質だ。正確には、持ち主と敵対者の間にある距離、空間、物体など────持ち主が認知しているものをすり抜けて敵対者を攻撃できる性質である。無論、その力は神秘の量によって効果が強くなったり弱くなったりするが、ヒドリには関係のない話だ。

 

「どうせお前達は借り物の怒りと虚無感を自分のものだと思ってここまで来たんだろ? 匂いで分かるよ」

 

「何……?」

 

「テロリストさん、戦争だよ、これは」

 

 気絶していたヒヨリとミサキまでも飛び起きるほどの重圧。アリウススクワッドが感じ取ったのは、ヒドリから放たれる濃密な────今まで浴びたこともない殺意と怒り。アリウスの罰則で味わったあの事務的な敵意ではない、本物の敵意。

 

「ゲヘナも、トリニティも、アリウスも間違い続けてきた。今更修正なんて不可能だ。……この戦いは、正しさの押し付け合いだよ。正義だの悪だの、そんな大層なものじゃない」

 

 知らない。知らない。こんなものを、私達は知らない。こんなにも恐ろしい存在を、私達は知らない!! アリウススクワッドのメンバーが、アリウス分校の生徒が、ゲヘナの生徒が、トリニティの生徒が────────この戦いを中継で見ていた、ヒドリをよく知らないキヴォトスの人々が、心の奥底から湧き出る恐怖に硬直する。

 

 なお、ブラックマーケットに入り浸る不良達やジャブジャブヘルメット団などの関わりを持っている者達は、「赤時君ぶちギレてる……提出物やったっけ?」とか、「今度店に来た時、ちょっとサービスしてやるか……」などわりと呑気なことを考えていた。

 

「vanitas vanitatum et omnia vanitas.……」

 

「ん? ……ふふっ……」

 

 サオリが思わず呟いたその言葉に、ヒドリは嗤った。

 

「……何が、おかしい……?」

 

「ああ、いや? アズサさんが言ってたなって。……だが、それでも今、最善を尽くさない理由にはならないって続けてたけど」

 

 元アリウス分校の生徒白洲アズサは、ベアトリーチェに向けて己が至った答えを伝え、見事出ていった。彼女達が最後に見たアズサは、憑き物が落ちたような、どこか晴れやかな表情であった。

 

「答えを探しもせず、目の前のことだけ必死で、自分はこれだけ苦しみました。だからお前達も過去の人達の報いを受けろって? 甘いんだよ、テロリスト」

 

 スタートは間違いなく同じだったはずだ。なのにどうして、アズサと彼女達でこうも違うのか……それは恐らく、暗がりの広野の中で、嵐の中で光り続ける希望を捨てなかったか否かの差であっただろう。

 

 心のどこかで諦めていたアリウススクワッドと、それでもと足掻いたアズサ。その差を様々と見せつけられた気がして。

 

「なら、どうしたら良かったの……! あんたらみたいに恵まれたやつが! 私達からすれば奇跡みたいに恵まれたやつが! 訳知り顔でごちゃごちゃ言わないでよ……!!」

 

 ミサキが叫ぶが、ヒドリはどこ吹く風。ふっ、と微笑んで口を開いた。

 

「確かに僕は恵まれたんだと思う」

 

 懐かしそうに、寂しそうに、楽しそうに笑みを浮かべるヒドリは、この戦場で明らかに浮いている。

 

「ハルカさんと爆弾を作ったり」

 

 枷が、揺らぐ。

 

「ムツキ先輩と街を歩いたり」

 

 枷に封じ込められた化け物が、立ち上がる。

 

「カヨコ先輩とコーヒーを飲んだり」

 

 枷を填めたまま、化け物が────認識の鳥が、緋色の鳥が瞳を開く。

 

「アル社長と昼寝をしたり……色んな人達に会った……皆、必死に生きてきた。……なのに、お前達は」

 

 ビクッ、とアリウススクワッド達の身体が震える。

 

「自分を生きることすら諦めて、本当の自分も探そうともしない。過去の人達の憎悪を自分のものだと本気で思い込んで、死兵みたいに。馬鹿じゃないの」

 

「ッッッ!」

 

「そんなやつらのことなんて、知りたくもないね。────さて、長々と話したし、そろそろ死ぬ一歩手前までぶっ殺してや……る……?」

 

 ふと、ヒドリは自分の神秘膜が消えていることに気付く。それどころか、自分の左胸から突き出ている刃物のように鋭い腕にも────今、ようやく気付いた。

 

「ようやく、隙を見せましたね」

 

「……本丸がここに来て登場とは」

 

 念には念を、と言うべきなのか、ヒドリの胸を貫いたベアトリーチェは認識阻害を最大まで上げ、そこにいるのにそこにいない、という矛盾を作り出して潜伏していた。アリウススクワッドはベアトリーチェの潜伏を聞いてはいない。先程の問答も、ヒドリが怒りによってハイになっていたことで時間稼ぎになっていただけであり、本来であれば普通に気付かれていただろう。

 

「しかし、この程度では死なないのでしょう?」

 

「まぁ、そりゃあ死にませんよ」

 

「ですが、治すまでに時間がかかる。それに、治ったとしても、私達を追う気力はない。……違いますか?」

 

「……ええ、正解です」

 

 ズボッ、とベアトリーチェの腕が引き抜かれた瞬間、ヒドリを胸から大量の血液が噴き出す。通常のヒドリであれば、胸を貫かれたとしても数分で完治するはずだが、神秘の使いすぎによって消耗したヒドリは、身体の修復に時間がかかる。

 

「アリウススクワッドの命令違反は私自ら折檻します。あなたの出る幕はありませんよ、赤時ヒドリ」

 

「……さて、僕は……便利屋68はやられたらやり返すが基本ですよ。絶対に見つけ出してやる」

 

「ああ、それはとても恐ろしいことですね」

 

 その言葉を最後に、ベアトリーチェはアリウススクワッドのメンバーを含め、アリウス分校の生徒全員を何かの装置によって転移させて、自分も消える。各地の戦闘が終わったことが伝達される中、ヒドリは胸の穴を塞ぐことに注力した。

 

「……手酷くやられたな、ヒドリ」

 

「おや……ツルギ先輩。ようやく合流ですか?」

 

「青白いシスターフッドみたいな連中が中々厄介だった」

 

 ジュクジュクと音を立てながら再生するヒドリの胸を一瞥したツルギは、思い出したように口を開く。

 

「陸八魔アルが怒っていたぞ」

 

「そうですか」

 

「いたぶるのはお前らしくはない……だそうだ」

 

「休んでおけばいいのに……」

 

「愛されてるな、お前は」

 

 しばらくヒドリとツルギが会話をしていると、医療部隊の生徒が報告しにやってくる。負傷者はいるものの、死人は出ていない。あと、アルは意外とピンピンしている。そんな報告を聞いて、ようやくヒドリは警戒を解く。襲撃を死者なしで乗り切ることができたことに、ではなく、アルがわりとピンピンしていることを知って。

 

「……やるもんじゃないですね、慣れないことは」

 

「自覚があったのか」

 

「さすがに疲れました。……こいつら、使い勝手が悪すぎです」

 

 エデン条約調印式会場前戦闘結果────────ゲヘナ、トリニティ、軽傷者及び重傷者の合計100人。アリウス分校、130人。引き分け────以上の結果がそこにはあった。

 

 エデン条約の権限はアリウスに奪われ、先生は意識不明の重体。どちらかと言えば、アリウス分校の勝利で終わる。だが────────

 

「ところでツルギ先輩。アリウス分校の追跡についてご相談が」

 

「奇遇だな。私としてもそのつもりだった」

 

 ただ負けてやるなど、死んでも御免だ。

 

 

 

 


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