さぁ、バードエフェクトだ!
マエストロの作品の一つが起動しない。人工天使?こちとら天使すら噛み砕く緋色の鳥じゃい。
ところで皆さん、『Blood Rage』とRe:Endの『The Over』って曲聴いたことあります?オヌヌメです(突然のステマ)
アリウス分校自治区へと至る道、カタコンベはヒドリ達の想像よりも広い。ヒドリが古代言語を読めていなければ、突撃部隊は同じ場所をひたすら歩くことになっていただろう。
「次はこっちですね。ランダムって言っても、パターン化してしまえるなら────」
『私達のサポートが可能だよ』
ミレニアムの最新機器によるナビゲートと、古代言語の読破によるルート構築。どれだけランダムに出口が生成されると言っても、所詮は数十個の出口。読み解き、パターン化してしまえばヴェリタスの領域だ。
ルートは問題ない。それよりも面倒なのは────
『『『────────』』』
「邪魔」
「退け」
度々現れる古代の遺物達の存在である。厄介なことに、妙に硬い。銃弾を集中放火で喰らっても倒れず、デストロイヤーやブラッド&ガンパウダーの弾丸をゼロ距離で喰らってようやく倒れるくらいには硬い。
「神秘を込めてこれか……」
「けど、敵が増えているということは、近付いてるってこと」
「“皆、油断しないようにね”」
何とか歩けるまでに復活した先生の声に頷く生徒達だったが、彼女達の視線は先生ではなく、最前線で機械をスクラップにしている便利屋68に集中していた。
「死んでください」
ハルカのショットガンから吐き出される神秘の込められた弾丸が、機械を怯ませる。
「方向、角度良し。誘導完了。ムツキ」
「くふふっ! そ~れっ!!」
そこにムツキの爆弾が投擲され、カヨコのハンドガンの弾丸が機械を貫通しながら爆弾に直撃。凄まじい爆発を以て機械を複数体消し飛ばす。残った機械達はというと、
「目を閉じても当たるわね、この距離なら」
『────!!』
「ヒドリ」
「はい」
アルの狙撃と、ヒドリの蹴りや拳によって粉砕された。全員が全員、一撃で機械達を殲滅してみせた。
(前より強くなってる……やっぱり、風紀委員に引き込めなかったのは悔やまれるわね。それにしても……)
(ヒドリの拳……インパクトの後に、もう一つのインパクトがあるな。それに……)
(あの時手加減されてたんだろうけど……私、よく生きてたなぁ……それはそうと……)
(((いつもと何か違うような……?)))
ヒナ、ツルギ、ホシノ────キヴォトスでも類を見ない実力者が感じ取った違和感。ヒドリの背後に、まるで寄り添うような気配が複数あるのだ。それに加えて、ヒドリの一挙手一投足が今までと少しだけ違う。機械達もヒドリを相手取る際、複数の人間を一度に相手しているような動きを見せていた。
「ヒドリ、調子は?」
「まずまず、ですね」
────いや、そもそもヒドリの姿が変わっている。エデン条約調印式の際にも着ていた礼服まではいい。だが、ヒドリの髪が膝下までの長さになっているのが凄まじい違和感だ。急激に伸びたと言うにはあまりにも長すぎる。
さらにはエンジニア部監修の下【NABERIUS-TYPE-Ⅱ】および、【PHENIX-TYPE-ⅩⅠ】の開発が行われた。どちらも頑丈さを向上強化と拡張パーツの取り付け程度ではあるが、機械を何度も殴りつけ、蹴り壊しておきながら全く壊れる気配を見せないのは流石と言うべきだろう。
さらには朱涅と夜叢による戦いも行っている。ヒドリとハルカが突っ込んだだけで粉々になる機械もいた程だ。
「神秘の調整は?」
「できてます。よく馴染んでますよ」
「ならいいわ」
違和感、と言えば便利屋68の四人もいつもと少し違う。いつもより動きにキレがあるのだ。まるで、握っていた手綱を手放したかのように。
「あなたの総量はキヴォトスで一番多いからね。調整しなくても別にいいでしょうけど……」
「メリットはありますよ。ブラフにも使える」
そう言って先を急ぐ便利屋68と、その後を追う先生と生徒達。進む中でガシュッ、とヒドリのガントレットからカートリッジが空の薬莢のように吐き出され、腰に吊るしてあるポーチから新たにカートリッジが捩じ込まれる。
「ヒドリ、それは……」
「僕の神秘を入れたカートリッジです。温存したいので事前に作っておきました」
ヒドリは朱涅と夜叢を使う際、思った以上に神秘が持っていかれることを理解し、学習した。故に作ったのがこのカートリッジ。自身の神秘をカートリッジに詰めておき、朱涅と夜叢を使う時にガントレットを通じて神秘を流し込む。そうすることで神秘の温存を可能としているのだ。
「ここまでに使ったカートリッジは五本。残りは三本ですけど……まぁ、問題ないですよ」
ちなみに、聖園ミカは桐藤ナギサと百合園セイアと共にお留守番。理由は簡単。作戦を立てたヒドリが邪魔であると考えたためである。隕石を落とす力は確かに強力だろうが、どう考えても集団戦向きではないし、精神的に安定していない彼女を運用できると考える程相手を楽観視している便利屋68ではないからだ。
あと、溜まっていた書類の処理に忙殺されている。どちらかと言えばこれが一番の理由。お労しやミカ上。
先生ありきで作戦を立てたとすれば、運用できるかもしれないが、先生が落ちた瞬間、その作戦が破綻してしまう。そもそも、ヒドリがそこまで先生を信じていないというのもあるが。
ちなみにだが、相手が生徒だからと手加減や手心を加える可能性が少しでもあるのなら、ヒドリは────便利屋68は、無慈悲なまでに先生を切り捨てる。どっち付かずの存在など作戦を遂行する上で邪魔者以外の何者でもないのだ。
進軍する便利屋68と生徒と先生。ヴェリタスが割り出した出口までもう少しで辿り着く────はずだったが、想定にない大きな広場が彼らを迎えた。
「……ここは?」
『予測に存在しない空間……改築されたのか?』
「ええ、突貫工事ではありましたが」
「“────ベアトリーチェ……!”」
「こんばんは、先生。そしてキヴォトスの生徒達」
音もなく現れたのは、赤い肌と複数の目を持ったドレスの女性。ゲマトリアのベアトリーチェ、そしてその後ろにいるのはアリウスの戦闘部隊、アリウス・スクワッドとアリウス生徒と、数体のミメシスが待機していた。
「こうして会うことは初めてでしたね。ゆっくり話をしたいところですが……」
「“そのつもりはないよ”」
「そのようですね。ですがこれは戦争……互いの思想をぶつけ合うこともまた、開戦前の儀式となります」
言外に思想をぶつけ合うまでは攻撃をしないと伝えてくる彼女に対して、先生は口を開く。
「“どうして子供を利用した?”」
「ふむ……利用ですか……利用した覚えはありませんが……そうですね……」
短く考える素振りを見せたベアトリーチェは、先生からの問いかけに対して回答する。
「私はきっかけです。アリウス生徒が抱いていた不満、不平、怒り、憎悪へ方向性を与えたのみ。私が干渉せずとも、この戦争は始まっていましたよ」
「“タラレバ論を聞くつもりはないよ”」
「答えを急くのは嫌われますよ。……私はただ、見たかったのです。子供が、虚しさを感じながらも、どこへ至るのかを」
嘘ではない。ベアトリーチェがアリウスを支配し、『vanitas vanitatum et omnia vanitas』という言葉を与えた理由も、そこが起因している。先生と問答を繰り返すベアトリーチェはふと、先生と共にやってきた生徒達の中に見覚えのある顔があることに気付く。
「白洲アズサ。アリウスを飛び出した強い子供」
「マダム……!」
アズサの隣にいたヒフミは、ベアトリーチェの視線に侮蔑などが含まれていないことに気付いた。含まれているのは、純粋な敬意と、好奇であると。
「もう一度聞かせてください。vanitas vanitatum et omnia vanitas────それに対しての答えを」
あの日、アリウスを飛び出した時と同じように。あなたはどこまで成長したのか、教えてほしい。まるで卒業した生徒が訪れたような眼差しを向けられる中、アズサは目に強い意思を宿して言葉を紡ぐ。
「私は……皆と一緒にいる中で、暗闇の中にいるべきだと思っていた」
それは、楽しかった思い出。補習授業部に入部して、ヒフミに、ハナコに、コハルに、たくさんのことを教えてもらった。便利屋68や、先生を交えての授業も楽しかった。それでも、心のどこかで自分はここにいてはいけないと思っていたのだ。
「でも、それでも……私がここにいていいと言ってくれた友達ができた!」
ヒドリが────緋色の鳥が強い感情を感じ取り、目を開ける。
「だから……だから、全てが虚しくても!」
その意思の強さはこの場にいる者、モニタリングしている者、その全てが気圧される程に強い力を宿していた。
「例え、空虚であったとしても、それは今日最善を尽くさない理由には────いや、友達のために最善を尽くさない理由にはならない!!」
その答えを聞いたアリウス生徒やアリウス・スクワッドは目を見開いた後、アズサだけに気圧された自分達を自覚して驚愕する。問いかけたベアトリーチェは、満足そうに頷き、アズサの隣にいる少女────ヒフミに目を向けた。
「あなたが白洲アズサを大きく成長させた理由の一人ですね。……あなたはどう考えますか?」
「難しいことは分かりません!」
断言。これには誰もがキョトンとするが、便利屋68の五人だけは笑みを浮かべている。
「私は平凡で、普通で、大したこともないです! だけど! 自分の好きなものについては絶対に譲れません!」
(((普通……?)))
ここまで進軍していく中で、多くの実力者達がヒフミが普通ではない実力を持っていると思っていたが、本人は普通だと思っているらしい。
「友情で苦難を乗り越え」
枷が、揺らぐ。
「努力がきちんと報われて」
ミメシスの体が、ゆっくりと揺らぎ始める。
「辛いことは慰めて。お友達と慰め合って……!」
最初に違和感に気付いたのは、誰であっただろうか? 少なくとも、先生でも、ベアトリーチェでもない。恐らく、それを作り出した存在が最も最初に気付いたであろう。ミメシスの形が少しずつ歪み始めているのだ。
「苦しいことがあっても、最後は誰もが笑顔になれるような! そんなハッピーエンドが! 私は好きなんです!!」
アズサの手を握ったヒフミが叫ぶ。アズサと同等か、それ以上の意思が込められた言葉。ヒドリが感じ取り、口にした感情は、凄まじいエネルギーを宿している。
「誰がなんと言おうと! 誰がどれだけ邪魔しても! 何度だって言い続けます!」
それは、
「私達の道は! 描くお話は! 私達が決めるんです!!」
涙が出るような、眩しい感情で────
「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!」
緋色の鳥が食べることを勿体無いと感じる程、尊く、美しい輝き。
「私達の物語! 私達の、
カタコンベが────教会の真下に作られた広場が、哭く。まるで、ヒフミの声に呼応して、新たな教義を生み出そうとしているかのように。
「これは……!」
「……先生、今です」
「“うん! ────ここに、宣言する。私達が、新たな
それは、連邦生徒会長が結ぶはずであった条約。だが、その生徒会長は不在。しかし、彼女が設立した超法規的機関シャーレの先生がいる。
それでも、完全に制御されたエデン条約の解釈を歪めることなど不可能。────先生と、異議を申し立てた生徒がいるだけならば。
「認識阻害。あれはいいインスピレーションになりました。父上も母上も面倒な真似をする……」
だが!
「……! まさか……!!」
だが! ここには! 例外がいる!!
「ええ。エデン条約だろうが僕の領域。認識を歪めさせてもらいました」
ベアトリーチェが────今もこの状況を見ているであろうゲマトリアが知らない、認識の鳥。認識の鳥、緋色の鳥、鈍色の鳥が人間としての肉体を得たことにより宿した力。
「そう来るか! 緋色の鳥!!」
「……」
枷が具現化する。四つの枷が、ヒドリを縛りつける四つの鎖が、ギチギチッ……と音を立てて軋んでいる。
「第一拘束具【紫紺の忠義】、解錠。我、紫紺により忠義を得る者」
バキリ、と紫色の鎖が砕け、右翼が解放される。
「第二拘束具【純白の明晰】、解錠。我、純白により学びを得る者」
純白の鎖が砕け、左翼が解放される。
「第三拘束具【白銀の友愛】、解錠。我、白銀により友愛を得る者」
白銀の鎖が砕け、脚の枷が消える。
そして、
「第四拘束具【深紅の恩寵】、解錠。我、深紅の王より恩寵を賜る者」
首にあった深紅の鎖が砕け散り、具現化していたヒドリの鎖が全て消えた。
鎖が消えた瞬間、ヒドリの体からあり得ない量の神秘が解き放たれる。可視化されるまでの密度とその奔流は、相応の実力者でなければ立っていられない程に凄まじいもので、先生もアロナのバリアがなければ立っていられなかっただろう。
「限定解除、実行」
ヒドリの中から溢れ続ける神秘が止まり、巻き戻されるかのようにヒドリの体の中に入っていき────ヒドリの体を守る鎧が構築されていく。
構築されていくのは、鈍く輝く灰色を基調とした機械的な鎧。流麗なデザインの鎧、ガントレットも取り込んだその指先は獣のように鋭く、武器が無くとも敵を引き裂くことができるだろう。
猛禽類────鷹や隼をモデルにしたような兜が顔を覆い隠す。長く伸びていた髪は粒子のように消え、翼があったはずの部分には翼を模したスラスターがある。
脚には腕と同じように取り込んだパイルバンカーとヒートブレードが取り付けられていた。
「なんでこの姿に? ……こんな鎧でしたかね、僕の鎧」
関節部分や、装甲の隙間などからブシュウウウウッ、と蒸気を吹き出し、スラスター部分からは赤黒い粒子が漏れ出している。
「ま、どうでもいいですが改めて自己紹介を」
限定解除に伴い、朱涅と夜叢も本来の力を解放している。焼けるような熱を放つ剣は夜叢の解放によって纏う氷によって冷却され、夜叢の放つ凍てつく冷気は朱涅の解放によって纏う炎によって温められており、全く問題がない。
「僕は赤時ヒドリ。便利屋68の社員兼、足係」
「────総員、戦闘体勢」
「翼ある一族、その生き残りにして、最強の騎士。最後の審判者」
「“皆、勝つよ!!”」
「偉大な父と母によって降り立ち、手を取ってくれた彼女達のために翼を広げる、緋色の騎士だ」
長いようで短い、エデン条約を巡る最後の戦いが今、始まった。
緋色の騎士の鎧は……まぁ、あれだ。俺は描けないから誰かに任せるよ。