突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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低評価で心にダメージが来る、低い評価が悪口に見えてしまう……そう思ってしまう方々を応援するために、私の兄の名言をここに置いておきます。

「低評価はお前の作品を貶めるためのものではない」

「『自分の方が面白く書ける、面白い作品を生み出せる』という宣言なのだ」

「ゆえに、折れることはない。低評価の数だけ、面白い作品が生まれるのだから」

「低い評価を付けている者は皆、それだけの『覚悟』と『執筆意欲』を持って評価しているのだ」

「無論、高評価してくれる者は、純粋に面白いと思ってくれた者だ。感謝しないといけない」

「そして高評価を付けてくれた者にも、『この作品よりも面白い作品を書いてやる』……という思いを持ってくれる人がいるかもしれない」

「だからこそ、俺達は書くべきなんだ。エタるのも、その作品への熱意が再燃するまで辛抱すればいい。だから、自分が面白いと思ったものを書け」


うちの兄、たまにはいいこと言うんです。

ちなみにこれは、ヒドリ君デフォルメの姿。おいしさやばげペロロ様

【挿絵表示】



僕は僕で、僕は僕で、僕は僕。匂いを辿るよヒドリ君

「……大体の事情は分かった。ヒドリ、まずはお礼。エデン条約の前に、大きな問題が生まれないようにしてくれてありがとう」

 

 事情聴取を終えたゲヘナ学園風紀委員会委員長空崎ヒナが、ヒドリに頭を下げる。

 

「あ、はい。……お疲れ様です。スパドリ飲みますか? 自信作です」

 

「……ゲヘナの購買に売ってたものと同じだ」

 

「僕特製のスパイスドリンクです!」

 

 ヒドリの手にはクケーッ、と鳴いているデフォルメされた赤い鳥の絵が印字されたドリンクが握られていた。ヒドリのスカーレット・フライドチキンの副産物、スパイスドリンクである。

 

「カフェインは入っていませんが、各種スパイスと柑橘系フルーツによるデトックスドリンクです。寝る前とか、休憩中に飲むのがおすすめです。あ、皆さんもどうぞ」

 

「“さらっと商品を布教してる……”」

 

 配合されているのは、ターメリック、フェンネル、シナモン、サフラン、コリアンダー、そしてレモンとオレンジ、生姜である。

 

 ターメリックは消化器系の強壮作用や、肝臓と胆嚢を刺激する作用があることで知られており、ニンニク同様にコレステロール値を下げる効果があるとされ血液の凝固も防ぐ。

 

 フェンネルはむくみを予防し、豊富な食物繊維が消化不良や便秘の解消にもいい。

 

 シナモンは代謝を促進させて、毛細血管を若返らせる。

 

 サフランは消化不良や排尿不全を改善する他、ホルモンバランスを整える効果があることが知られている。

 

 そして最後にコリアンダー。パクチーとも呼ばれるそれは、胃腸を整えたり、美肌効果も期待できるスパイスの一種だ。

 

 飲みやすいように調整されたドリンクは、ゲヘナ学園の購買で販売されており、食堂でも購入可能だ。ミレニアムのとある少女が取り寄せているとか、いないとか。

 

「正式な文書はあとで送るとして……この場で謝罪させてもらう」

 

 ヒナが頭を下げることがどういうことか、その意味を知らない人間はこの場にいない。風紀委員会の代表、ゲヘナ学園最強のトップが自身の組織の非を認めたのだ。

 

「今後、許可なく風紀委員会がアビドスの自治区に踏み込むことはない。……帰るよ。回復したら撤収作業開始」

 

 有無を言わせない圧を感じさせながら与えられた指示に対して、風紀委員会のメンバーは全員動き出す。統率の取れた動きで撤収作業を行う風紀委員会を横目に、ヒナはホシノに目を向ける。

 

「小鳥遊ホシノ……一年生の時から本当に変わった」

 

「うへ、おじさんのこと知ってるの?」

 

「会ったことはないけど、知ってる。要注意人物として登録されていたから」

 

 その会話を聞いていたヒドリは、自分が見たことがある情報を思い出す。ヒドリが知っているホシノの写真は髪が短く、鋭い目付きをしていたのだ。ヒドリは人間の成長が分からない。二年で人はこうも変わるのかも、ヒドリにとっては分からない。ヒドリはどこまで行っても怪物である。怪物に、人間の変化は分からないのだ。

 

 理解できないことにモヤモヤはしない。所詮自分は怪物であると知っている。それでもいいと受け入れてくれた人達がいる。それだけで十分ではないか。

 

「……それと、ヒドリ」

 

「はい?」

 

「枷が緩んでる。……それだけ」

 

 それだけ言い残して、ヒナは風紀委員会を率いて去っていく。

 

「“……ヒドリ?”」

 

「……緩んでる……? ………………ああ、確かに……美味しそうに見える」

 

「ヒドリ、落ち着きなさい」

 

「あたっ……」

 

 アルに叩かれる直前、ボソボソと呟いたヒドリの顔に貼り付いていたのは、恐ろしい笑みだった。三日月のようにつり上がった口元から覗く鋭い牙、ギョロッ、ギョロッと動く瞳、ザワザワと蠢く髪。

 

 一部とはいえ、セリカが読んだ祝詞がトリガーとなり、ヒドリの本性が一部飛び出そうとしていたのだ。

 

 ヒドリ本来の姿を知っている便利屋68のメンバー以外が感じ取ったのは、濃厚な死のイメージ。忘却と死が同時に襲ってくるような、おかしなイメージである。

 

「……」

 

 祝詞が書き記された紙を見て、昂りを抑えたヒドリは、紙を懐に仕舞い、ペコリと頭を下げる。

 

「ごめんなさい、怖がらせてしまいました」

 

「“今のは……? いや、それよりも君は一体……”」

 

「僕は僕です。僕は赤時ヒドリ()。僕は■■■■()。僕は■■■■()。どこまでも飛ぶ鳥です」

 

「えっと……何て言ったんですか?」

 

「■■■■ですよ。……あ、聞こえませんよね、すみません」

 

 頭を抱えたアビドスの面々と先生、そしてモニター越しにヒドリを見ていたアロナ。ヒドリの言葉は、便利屋68のメンバーにしか伝わらなかった。

 

「知らなくてもいいことって、世の中にはたくさんあると思うんです」

 

「“それは、ハルカが止めた祝詞が関係してるの?”」

 

「まぁ、そうですね。はい、関係してますよ。教えませんけど」

 

 教えて何か僕に利があるんですか? と首をかしげるヒドリを見て、先生は驚愕した。秘密を隠すでもなく、あると肯定して拒絶する。しかもメリットがないのなら教えないと言い切ったのだ。

 

「“私が今、それを声に出すと言ったら?”」

 

「どうぞ? おすすめはしませんが。お腹も減ってきましたし、食べます」

 

 食べる。その言葉は比喩表現ではない。この場にいる全員がそれを理解し、便利屋68のメンバー以外の全員の空気が張り詰めていく。

 

 誰かがその空気に耐えきれなくなる、その寸前でアルが口を開いた。

 

「……ヒドリ、ダメよ。約束は守りなさい」

 

「……分かってますよ」

 

 今まで纏っていた重々しい空気は何だったのかと思うほど、ヒドリの纏う空気が変わる。朗らかな笑みを浮かべたヒドリは、冷や汗と脂汗を流し続けている先生に頭を下げた。

 

「僕のことは、いつか……そうですねぇ……気が向いたらお話ししますよ。皆さんにはまだ……抱えている問題があるでしょう?」

 

 それが終わるまでは、話すつもりはない。終わったとしても話すか分からない。ヒドリにとって優先順位は便利屋68>友達>食事>>>>知り合い>>>>>>仕事────なのだ。アビドスと先生は知り合いと仕事の関係。ぶっちゃけると『仕事だから関わってるけど、別にどこで死んでもどうでもいい』という考えである。人間は、どうでもいいものに関心を持つだろうか? 

 

 ちなみに、ヒドリの知り合いから友達へとジョブチェンジするには、そこまでハードルが高いわけではない。彼を本当の意味で知る覚悟を持つだけで友人へとジョブチェンジできる。だが、今の先生とアビドスにその覚悟があるかと聞かれると難しい。言ってしまえば現在の彼ら彼女らは、興味や疑問の解消のためにヒドリの秘密を知ろうとしている状態である。それを覚悟を持つとは言えないだろう。

 

「うへ……隠したいことは誰でもあるよねぇ。皆、とりあえずいいんじゃないかな」

 

「“ホシノ?”」

 

「だって、ヒドリ君、多分守ろうとしてくれてるんでしょ?」

 

「?」

 

「あり? 自覚無し? 教育者が優秀なんだね」

 

 ホシノだからこそ────キヴォトス最大の神秘を持つからこそ感じ取ったヒドリの無意識の気遣い。本人は特に考えていないが、己の異常性をできる限り抑えながらの言葉だったのだ。それが分かる者がキヴォトスにどれだけいるか。

 

「おじさん達の問題が解決した後、落ち着いたら話してよ。ちゃんとしとくからさ」

 

「はい、いいですよ。約束は守ります」

 

 約束のための指切りをして、ヒドリはホシノに一枚の羽を渡す。

 

「約束の証明です。お守り代わりにどうぞ」

 

「おー、立派な羽だ」

 

「……あ、皆さんもどうぞ。数枚程度すぐに生えてくるので」

 

 先生とアビドスの面々に羽を配るヒドリは知らないが、ブラックマーケットにヒドリの抜け落ちた羽を使った羽根飾りが売られていたこともある。それほどまでにヒドリの羽は美しい緋色なのだ。その羽根飾りは通りすがりの芸術家が購入していったそうだ。お値段まさかの三万円中々に高額である。

 

「あ、ちょっと見に行きたいものがあるので、僕達は行きますね。何かあったら社長のモモトークにお願いします」

 

 どこからともなく引っ張ってきた頑丈な籠に乗り込んだ便利屋68は、ヒドリの羽ばたきによってアビドス砂漠が広がる方向へと飛び立つ。再び始まった空の旅で、カヨコが声をかけた。

 

「ヒドリ、どこに向かってるの?」

 

「ずっと気になってたところです。……とっても美味しそうな匂いがするんです」

 

 それだけでアルは白目を向き、ハルカは顔を青くし、ムツキは微笑み、カヨコは呆れる。ヒドリのこういう発言は、間違いなく面倒事か、脂の乗った猛獣がいるか、本当に美味しいお店があるかの三択だからだ。

 

 三番目の選択肢は間違いなくないため、ほぼ二択────否、一択。ヒドリは面倒事の匂いに引き寄せられている。

 

「一応聞いておくけど、どんな匂い?」

 

「んー……表面は焦げてるけど希望に満ちてて……それでいて、後悔がたっぷり乗せられた……」

 

(死体よね!?)

 

(死体だね、これ)

 

(死体かぁ……)

 

(死体……ですよね……?)

 

 そうこうしている間にやって来たのはアビドス砂漠の端。渓谷の下に降り立った便利屋68は、あり得ない痕跡を発見することになった。

 

「……何、これ」

 

「巨大な……蛇でしょうか……?」

 

 明らかに生物とは思えない何かが這いずり回った形跡。あちこちが焦げ、削れた渓谷の底。凄まじい光量を持つヘッドライトで周囲を照らすヒドリは、漂ってきた匂いの主をいとも容易く見つける。

 

「……あれ? 腕と足だけだ」

 

 発見されたのは、白骨化した腕と足。人間の骨格がどうとか、そういった専門的なことをヒドリは説明できないが、若い女性の腕であることを直感的に感じ取っていた。

 

「……それが匂いの本人?」

 

「はい。……でもこれ……よく嗅いだら知ってる匂いですね……」

 

 クンクンと骨の匂いを嗅ぐヒドリは、嗅いだことのある匂いであることに気付く。

 

「これ、ホシノ先輩の匂いです」

 

「小鳥遊ホシノの匂いですって?」

 

「で、でもヒドリ君……生きてましたよね、あの人」

 

「あ、いえ……えーと……ホシノ先輩がこの人に寄せてるみたいです。こっちの方が匂いが濃い」

 

 この骨がアビドス高等学校の関係者であることを理解した便利屋68は、その骨の処遇をどうするかを目配せだけで決めた。

 

「届けましょう」

 

「届けるべきだね」

 

「届けましょう」

 

「届けよう」

 

「さすがに食べられませんね、これ」

 

 赤の他人なら食べたかもしれないが、クライアントの知り合いを食べるわけにはいかない。できるだけ形が崩れないように柔らかい布で骨を包んだヒドリは、一番近くにいたアルにそれを渡す。

 

「いつ渡します?」

 

「すぐによ。もしかしたら、行方不明になっていた人かもしれないわ。遺族の方も、探しているかもしれない」

 

「分かりました」

 

 善は急げ。便利屋68はハードボイルドでアウトローを目指しているが、やはり社長の根が善性の塊なのだ。それを知っているからこそ、この場にいる誰もがアルについていこうと思う。ヒドリが今、怪物として羽ばたかないのも、アルが一番の理由なのかもしれない。

 

 

 

 

 

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