突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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こちら、ボールペンのみ下書き無しヒドリ君になります。

【挿絵表示】


(ゲヘナモブ×アル×ムツキ×ハルカ×カヨコ÷ネル先輩)÷私の画力=上記の絵。

ちょっとメスガキっぽいというか……一部方面によっては分からせたい感じになってしまった感は否めないが、これがヒドリ君です。ちなみに前の回においしさやばげペロロ様もいます。


ヒドリ君は分からない

 小鳥遊ホシノと十六夜ノノミは知っている。他のアビドス高等学校廃校対策委員会が知らない先輩の存在を。

 

 彼女らは覚えている。手足が千切れ、凄惨な死体として見つかった先輩の姿を。

 

 何度も探した。彼女の千切れた手足を。探して、探して、探し続けて……遂に見つからなかった、頼りなくて、穏やかな先輩の手足。それが今────

 

「ぅぁ……」

 

「……うそ」

 

 なぜか夜に会おうと連絡してきた便利屋68の社長、陸八魔アルの腕の中に、大事そうに抱えられていたのだ。

 

 二人はその骨が直感的に、自分の先輩であった少女の骨であることを感じ取り、喉が干上がる感覚を味わっていた。

 

「これ……どこで」

 

「遠くの渓谷、その底に眠っていたわ。……やっぱり、知り合いだったのね」

 

 柔らかい布に包まれ、大事に抱えられていた骨を、アルがホシノに手渡すと、まるで壊れ物や宝物を触るかのように優しく……震える手で骨を抱き締める。

 

「ぁ……ああ……そん、なところに……」

 

「ユメ先輩……」

 

 この場にいるのは、便利屋68全員とホシノとノノミのみ。アルの勘が冴え渡った結果のメンバーである。

 

「その人、何か後悔があったみたいですよ」

 

「何で……分かるの……」

 

「僕が僕だからです。……寂しい、会いたかったって、そういう後悔の匂いでした。今は匂いませんけど」

 

 そういう匂いはしなくなったと呟くヒドリを尻目に、ホシノとノノミはその骨を大事に大事に抱き締めていた。余程大事な人物だったらしい。

 

「届け物は終わったし……僕達はこれで────」

 

「待って」

 

 去ろうとしたヒドリを引き留めたホシノは、震える声で恐る恐る問う。

 

「ユメ先輩────この骨は……他に、何か言ってた?」

 

「え? 声は分かりませんが…………希望。さっきより強く匂います」

 

 まるで、夢を託した、信じていると言わんばかりに放たれる強い希望と期待、信頼の匂い。今までは小さくしか感じなかった強い匂いは、化け物のヒドリには眩しすぎるほどに輝いていた。

 

「その人……喜んでます。まるで、夢を託したみたいに」

 

 ヒドリの言葉にブワッ、とホシノとノノミの瞳から涙が溢れる。溜め込んでいたものが一気に溢れたように、止まらない涙は、二人の視界をぐちゃぐちゃに歪めていた。

 

「僕は……その人を知りません。けど……えーと……二人が頑張ってたのを、多分、その人は知ってたと思います。だから……自分を許してあげても、いいんじゃないですかね」

 

 怪物に言えることはたったそれだけだ。それだけ伝えて、ヒドリはいつの間にか遠くにいなくなっていた便利屋68のメンバーに追い付き、帰路を歩む。

 

「社長」

 

「何かしら」

 

「僕達の行動は……間違っていたのでしょうか」

 

 ヒドリは困惑していた。遺品を届けて、お礼を言われるなどとは思っていなかったが、彼女達が泣き出してしまったことに。本質的に化け物であるヒドリには分からない。どうしてあの二人が泣いていたのか、全く分からない。

 

「あれがあの二人にとって正しい選択なのかは分からないわ。傷付けてしまったかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 

「……?」

 

「でもね、私達は届けると決めた。なら、その行動が間違いだと疑ってはダメよ。少なくとも私達はね」

 

 首をかしげ続けるヒドリの背を叩き、アルは不敵に微笑んだ。

 

「自分の行動は必ず返ってくるの。この行動が正解か不正解かは……その時分かるはずよ」

 

 人の行動って、そういうものよ。

 

 そう言ったアルにハルカは目を輝かせ、ムツキとカヨコは微笑む。言葉を与えられたヒドリは、分からないなりにその言葉を解釈しようと頭をこねくり回す。

 

「とりあえず、帰って寝るわよ。ヒドリ、まだ飛べる?」

 

「え? あ、はい」

 

「ならお願いできるかしら?」

 

 本日三回目、籠に乗り込む便利屋68。ヒドリは籠を掴んで飛び上がる。雲一つない夜空には輝く星達。振り向けば、どこまでも広がる砂漠────間違いなく絶景だろう。

 

「綺麗……」

 

「でもちょっと寒いかなぁ」

 

「ムツキ、毛布あるから使って」

 

 取り出された赤い毛布……こちらも察しの通り、ヒドリの羽が使われている。作るために大量の羽を使ったが、それはそれ。熱を逃がさない毛布による寒さ対策により、便利屋68は寒さが堪える夜のアビドスを越える。

 

 事務所に帰ってきた時には10時を回っており、便利屋68全員の頭に眠気がやってきていた。

 

「お風呂入れてきますね。入浴剤も」

 

 ソファに倒れ込むようにして座ったアル達を一瞥してから、ヒドリは風呂場の準備を始める。現在の便利屋68の事務所は、まぁまぁ広い。

 

 ヒドリという移動手段もあるため、アクセスはそこまで考えていないが、それでもある程度のアクセスは確保されており、防音対策もしっかりされている。さらに、風呂場も大きい。自給自足もできるように、屋上には畑も存在するのだ。

 

 こんなにも良い物件だが────諸々の管理費含めて、総額月々六万円。不動産屋としても、早々に手放したかったという事故物件だったらしいが、ヒドリという呪いなどというオカルトですら認識すれば喰らう化け物がいたため、問題なし。

 

 大きな湯船にお湯張りをしながら、ヒドリは渓谷の底で見た痕跡について考えていた。

 

(あんな大きな生き物……砂地で生活はできないよね)

 

 ベルクマンの法則、という法則が存在する。これは、恒温動物において、同じ種でも寒冷な地域に生息する個体ほど体重が大きく、近縁種についても大型の種ほど寒冷な地域に生息する……という法則だ。去年の秋、ヒドリが便利屋68のメンバーやスナイパーライフル使い達と共に狩った巨大猪についても、その類いであろう。

 

 また、逆ベルクマンの法則というものも存在する。こちらについては変温動物や昆虫などのサイズが暖かい場所であれば巨大化しやすいというものだと考えていい。

 

 その法則に当てはめれば、巨大な蛇が存在してもおかしくはないが、キヴォトスに訪れてからアルに渡された図鑑を読み漁っていたヒドリは、砂漠に生きる生物がどのような進化を遂げているのかを学んでいた。確かに、砂漠にも蛇は存在するが、そこまで巨大化しない。しない方がいいのだ。

 

(アビドスには餌がない……)

 

 巨体のエネルギーを賄うための餌が、アビドスには存在しないのだ。ならば、あの巨大な生物の痕跡は何なのか。ヒドリは何となく当たりを付ける。

 

(ロボット……それも、環境を滅茶苦茶にするような)

 

 あれだけの巨体が地中を突き進めば、地脈を滅茶苦茶にすることで自然環境を破壊する。ニュースにもなっていた砂嵐、その原因がそのロボットにあるとすれば、辻褄が合うものもある。

 

(でも……誰がそれを作ったんだろ……分からないなぁ)

 

 最近購入したヒノキボールを湯船に放り込み、考えを断ち切る。情報不足で分からないことは、あとで考える方がいいとカヨコに教えられたからだ。思考を打ち切った頃には、風呂場の準備が完了していた。

 

「皆さん、お風呂準備できましたよー」

 

「あら? ヒドリが先に入るんじゃないの?」

 

「え?」

 

「え? だって、今日一番動いてるのはヒドリじゃない」

 

「え?」

 

「え?」

 

 漫才のようなやり取りが起こり、その後すぐに譲り合いが発生する。また始まったと肩をすくめるカヨコは、いつも思っていることを口にした。

 

「面倒だし、全員で入っちゃえば? 仕切りあったよね?」

 

「ありますよ。……でも、いいんですかね、それ」

 

「掃除大変だし……効率的じゃないかな」

 

 便利屋68のメンバーにとって、ヒドリは男性ではなく、背丈が高いだけの幼さがある弟である。しかも、ヒドリは女性の体を見て興奮するような存在でもない。それはからかいついでにムツキとカヨコが実証済みである。わちゃわちゃと脱衣場で騒いでいた時、ボディソープを切らしていたと普通に入ってきて、ムツキをあしらいながらそのまま詰め替えて去っていったのだ。

 

「それと、羽。洗うの大変でしょ?」

 

「え? ああ……まぁ……大変、ですね」

 

 これについては大きな翼、小さな翼、羽を持つ生徒の悩みであろう。友人に洗うのを手伝ってもらう者が多いが、ヒドリは常に一人で洗っていた。あれだけ大きな翼と尾羽、洗うのにも多くの時間を要してしまう。

 

「わ、私も手伝います……! ヒドリ君は、いつも頑張ってますし……」

 

「節約にもなるしね。いいんじゃない? ね、アルちゃん?」

 

(い、いいのかしら? でもヒドリだし……うーん……)

 

 心の中の数人の小さなアルが会議を行う。全員で入った場合のメリット、デメリット、入らなかった時のメリットとデメリット。秤に掛けて────アルは決定する。

 

「諸々の節約にもなるし、皆で入りましょうか」

 

「いいんですかね、それで?」

 

「一応水着を着用することにするわ。ほぼ家族みたいなものとはいえ、一応、男女だしね」

 

 結果、全員で入ることになった。大浴場並みに広い風呂場で水死体が発見されたこの事故物件だが、本当に風呂場が大きいのだ。全員で入っても空きがあるくらいには。

 

「あ、じゃあその前に布団敷いてきますね」

 

「ヒドリ君、それ、私がやっちゃいました……」

 

「あ、ありがとうございます、ハルカさん。……明日のご飯どうしましょう? お弁当作りますか?」

 

「それは皆でやろう。明日も早いよ」

 

「賛成! ヒドリ君ばっかりにやらせてたら悪いしね」

 

 見つけた仕事のことごとくが終わっているか、皆でやることになっていく。そして、この後水着を着用した便利屋68全員で風呂に入り、今後のアビドスとの連携についてや、巨大な蛇のような痕跡について話すことに。だが、どれだけ話しても仮説の域を出ないため、会議が終わる。

 

「そういえば、アビドスにはリゾート地がありましたね」

 

 湯船に浸かりながら、ヒドリがふと思い出したように呟く。今となっては整備されていないであろうリゾート地にはなってしまうが、ヒドリは笑みを浮かべた。

 

「海の上を飛んだことはあるけど、泳いだことはないなぁ」

 

「そもそもヒドリ君って泳げるの?」

 

「どうでしょう? 泳いだことがないのでなんとも」

 

 ムツキの問いかけに翼を動かしながら答えるヒドリ。ちなみに彼の呟きは水着を見たから、着たから思い出したことだ。大した理由はない。

 

「リゾート地……楽しそうなイメージですよね」

 

「そこのところ、どうなんでしょうか、カヨコ先輩」

 

「私に聞かれても分からないかな……」

 

「リゾート地じゃなくても、大きなプールに行ってみるのもいいかもしれないわね」

 

 依頼が終わった後に待っている夏の予定を話し始める便利屋68の面々。それは部活や会社仲間というよりも、まさに家族のようであった。

 

 

 

 

 


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