突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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アビドスはここで締めます!ビナーは色彩シナリオまで待ってろ!! 多分食べに行くから!


ゲヘナの怪鳥ヒドリ君

 遺骨を届けてから三日。今日もアビドスへと赴いて復興の手伝いをする予定の便利屋68は、弁当箱に料理を詰めていた。今日の弁当は卵焼き、青菜のごま和え、唐揚げ、ひじき煮、茹でたブロッコリーに握り飯である。給食部にデリバリーしてもいいのだが、某美食探求者の妨害が考えられるためやめた。

 

「……何ですって?」

 

 そんな弁当を詰めて、いざアビドスへ────というところで緊急連絡による電話が鳴る。その電話を取ったアルが、目を細めた。こういう時の内容は、間違いなく面倒事の類いだ。

 

「ええ……ええ……なるほど。……ええ、分かったわ。じゃあ、あとでね」

 

 ガチャン、と受話器を置いたアルは、集まる視線に向けて口を開く。

 

「小鳥遊ホシノが失踪したわ」

 

「? 家出ですか?」

 

「失踪よ。家出じゃないわ」

 

 シャーレの先生から伝えられたことは一つ。小鳥遊ホシノが今朝からいなくなっているということだけだ。残されていたのは一通の手紙だけ。

 

 その手紙には、自分がいなくなった理由と、アビドスのこれからのこと、謝罪。そして、便利屋68へのお礼が綴られていたという。

 

「モモトークに送られてきたわ。確認しなさい」

 

 

……それから便利屋68の皆には、本当に感謝してもしきれないくらいの恩ができたよ。おじさん達がどれだけ探しても見つからなかった、大切なものを見つけてきてくれたんだから。ありがとう、私の大事なものを見つけてきてくれて。……それと、お祭り……できれば行きたかったけど、ちょーっと難しそう。ごめんね。

 

 

 短い……本当に短い文章。その中に込められた感謝の思いは、実物を見ていない便利屋68も────そしてヒドリにも伝わっていた。

 

(……ああ、そっか)

 

「間違っていなかったんだ」

 

 遺骨を届けたことは、間違いじゃなかった。無駄ではなかったのだと、ヒドリは理解する。その直後、ヒドリは────緋色の鳥は、認識の鳥は、えもいわれぬ満足感と熱を感じた。便利屋68のメンバーや、給食部、友人と食事をした後のような、空腹が満たされる感覚。餓えが遠ざかる気配。あの時、寒い冬の日、便利屋68に拾われた時のような冷たさが消えて、多幸感で視界が広がる感覚だ。

 

「社長、ごめんなさい。わがままを言ってもいいですか」

 

「何かしら?」

 

「便利屋68以外のために、翼を広げることを、許してください」

 

 手に入れた繋がり。与えられたものを返したいと思う気持ち。それがヒドリを突き動かした。便利屋68のためではなく、新しくできた友人のために、緋色の翼を広げたいと願ったのだ。それをわがままなどヒドリは言ったが、便利屋68は────陸八魔アルは、それをわがままとは言わない。

 

「もっと簡単に言いなさい。あなたはどうしたいの?」

 

「ホシノ先輩に会いに行きます。後悔しないように」

 

「それは誰の後悔?」

 

「分かりません。けど、多分僕だと思います。……だから────」

 

「ダメよ」

 

 有無を言わせぬ厳しい言葉を投げるアルに少しの驚きを見せるヒドリ。何か反論しようと口を開く直前、ムツキが吹き出した。

 

「くふふっ、アルちゃんってばこういう時に限って不器用~!」

 

「な、何よ!? せっかく格好付けようとしてたのに!?」

 

 厳格なボスのイメージが崩れ落ち、ムツキを非難するアル。パチパチと瞬きをするヒドリに、ハルカが声をかける。

 

「ヒドリ君、多分一人で行こうとしてたんですよね……?」

 

「はい」

 

「アル様は……それが嫌だったんだと思います」

 

 陸八魔アルという少女は、社員を、身内を蔑ろにする行為を許さない。便利屋68の誰かが傷付くかもしれない場所に、一人で行かせることをよしとはしない。それが、どれだけ頑丈で人間ではない存在であったとしても。

 

「そもそも依頼が来てるの。勝手な行動は許さないわよ」

 

「社長、依頼って?」

 

「作戦名【ホルスの帰還】、その参加よ」

 

 つまりは、小鳥遊ホシノ救出作戦への参加要請。ヒドリの進言がなくとも、アルは助けに行くつもりだったのだ。

 

「作戦の決行は今日の深夜2時。……あの先生がゲヘナとトリニティに土下座までして行われる作戦。失敗は許されないわ」

 

 あのいつも半目で疲れ目のメガネをかけた先生が土下座。少しシュールな光景ではあるが、一人の生徒のためにそれだけの覚悟を見せた先生に対して、アルは大人の強さを見出だしていたようだ。

 

「行くわよ、便利屋68。アビドスへ!」

 

「皆で行くよ、ヒドリ。武器の整備はしてる?」

 

「……はい。ありがとうございます、皆さん」

 

「あら、何のことかしら。とにかく行くわよ」

 

 不敵な笑みを浮かべて事務所を後にするアルの背中についていく四人。

 

 ────────便利屋68、ホシノ救出作戦への参加、決定。緋色の鳥の手綱を握る悪魔達が今、牙を剥いた。

 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 

 かつてアビドスの本校があった、砂漠の廃墟。今となってはカイザーの手中にあるそこで、アビドス高等学校廃校対策委員会の生徒四人は、カイザーPMCに挑んでいた。全ては連れ去られた小鳥遊ホシノを助けに行くために。

 

 アビドスの最高戦力たるシロコ、セリカ、ノノミ、アヤネは、先生の指揮を受けながら、ホシノが監禁されているというアビドス本校跡地まで攻め込んだ。

 

 その襲撃に対して、カイザーPMCは、動きを読んでいたかのように兵力を集め、数の暴力でアビドスに襲いかかる。

 

 シロコ達が獅子奮迅の活躍を見せても、先生の全力の指揮があったとしても、あまりにも圧倒的な戦力差。戦いは数であると言わんばかりの兵力だ。誰が見ても絶望的。だが。

 

「なぜだ」

 

 だが。

 

「なぜだ……!」

 

 だが。

 

「なぜ諦めない……! アビドス!!」

 

 アビドスは、先生は折れない。

 

「ノノミ! 一斉に薙ぎ払え!!」

 

「覚悟してくださいね~!」

 

 彼らは……彼女らは……諦めるという言葉を知らない。先生は知っている。ホシノがどんな気持ちでカイザーへと向かったのか。ノノミは知っている。大切な先輩を失ったホシノがどれだけ頑張ってきたのかを。

 

「シロコ先輩、合わせて!!」

 

「ん、出力最大。援護する」

 

 止まろうとも、引き返そうともしない。セリカは知っている。いつも昼寝をしているようなのんびりしたホシノが、誰よりも頼りになることを。シロコは知っている。ホシノがどんな人よりも優しい先輩であることを。

 

「後方支援、投下! 各自回復と補給を!」

 

 どれだけ遅くとも、一歩、また一歩と進んでいく。アヤネは知っている。ホシノがどれだけアビドスを愛していて、自分達後輩を可愛がっていたのかを。

 

「補給部隊! どうなっている!?」

 

 

 

『こ、こちら補給部隊! 現在ゲヘナ学園風紀────ギャア!?』

 

『補給部隊を行かせるな! 風紀委員会の意地を見せてやれ!!』

 

『イオリ、皆を下がらせて。一掃する』

 

『キキキッ! イロハ! 砲弾装填急げ! 風紀委員会ばかりにいい顔をさせるな!』

 

『ならあなたも敵を潰してください』

 

『当然ッ! イブキも見ているしな!!』

 

 

 

「風紀委員会と万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)……!? ゲヘナ学園が動いただと!? 二番隊はどうなっている!!」

 

 

 

『HQ! HQ! こちら第二補給部隊! トリニティの砲撃による妨害を受けています!!?』

 

『撃ち続けてください! 砲身が焼け落ちるくらい!』

 

『第三、第四、第五砲撃部隊! 一斉掃射!! ゲヘナの連中に目にもの見せてやれ!!』

 

『Yes Ma'am!!』

 

 

 

「ええい、なぜだ!? なぜたった一人! たった一人のためだけにゲヘナもトリニティもまでが動く!?」

 

「理事! このままでは部隊の補給物資が尽きま────カハッ!?」

 

 カイザーPMC理事に報告をしていた部隊の人間が、赤い閃光と共に先生達がいる方向にぶっ飛ぶ。それと同時に、後方から響く爆発音と銃撃の音。カイザーの大部隊が混乱に飲まれる中、アビドスのメンバーと先生は笑みを浮かべた。

 

「すみません、遅くなりました」

 

「“いいや、ナイスタイミングだよ。便利屋68!!”」

 

 バジュウウウウウウッ!! と排熱機構を全開にしている靴でカイザーPMCの人間を踏んでいる赤い翼の少年に、先生は喝采の声を上げる。

 

「聞くまでもないでしょうが……一応聞きますね、皆さん。まだ戦えますか?」

 

「「「「「“もちろん!!”」」」」」

 

「それは良かった」

 

 小さく笑みを浮かべたヒドリは、大きく息を吸って、前を向く。

 

「僕は鳥。四人を連れて飛び続ける。赤き原野を飛ぶ緋色の鳥────」

 

 真紅の瞳がカイザーPMC部隊を捉え、巨大な翼が風を起こす。歩兵だけでなく、重装甲兵、ドローン、戦車に装甲車、数々の兵力が揃うカイザーPMC大部隊に対して、ヒドリはアルのように不敵に笑った。

 

「便利屋68社員兼足係赤時ヒドリ。小鳥遊ホシノ先輩、アビドス高等学校の友人として……お前達を食い荒らす……ゲヘナの怪鳥だ」

 

 ヒドリが羽ばたき、上空からの落下攻撃を仕掛ける。撃ち落とそうにも、ヒドリを見ればアビドスの攻撃が届く。かといって放っておけば大きな被害は免れない。

 

 シロコのドローンが、セリカのアサルトライフルが、ノノミのマシンガンが火を噴く。

 

 さらに爆発音と轟音によって混乱に飲まれていくカイザーPMC。ショットガンとスナイパーライフルによる攻撃でねずみ算の如く減っていく兵力。カイザーPMCは限界に近付きつつあった。

 

 あれだけいた兵も、一人、また一人と倒れていく。その光景を見ていたカイザーPMC理事は叫んだ。

 

「なぜだ!?」

 

 最後の一人が倒れ、グラニテも再起不能。カイザーPMC理事だけになっても、彼は叫ぶ。

 

「なぜ、もう希望など潰え、衰え切った絶望しかない学校に! いつまでも、いつまでも、縋り続けるのだ!?」

 

「……」

 

「あれほど、あれほど痛めつけた! 進む先に光など無いはずなのに!!」

 

「…………」

 

「金で! 人間で! あらゆるものを使い、苦しめた! 徹底的に苦しめたはずだ! 二人だ! たった二人だったはずなのだ!!」

 

「………………」

 

「だが、どうだ!? 三人! 四人! 五人! 増えていく!!」

 

「……………………」

 

「なぜ増える!? なぜ留まる!? なぜ、あんなにも! 希望などないはずなのに! 毎日毎日楽しそうに笑う!? 貴様らは異常者────ひでぶッ!?」

 

 気付けばヒドリの拳が、カイザーPMC理事の顔面に炸裂し、壁に激突する。ヒドリは苛立っていた。意味のないであろう拳を振るうほどに、苛立ちを覚えていた。この苛立ちは、昔便利屋68を馬鹿にされた時にも感じたものだ。

 

「“ヒドリ?”」

 

「……アビドス高等学校は、希望で繋がっていた」

 

 ヒドリが口を開く。

 

「希望は潰えていない。夢を、希望を、託され、繋がってきた」

 

 力強く、地面を踏み締めながら、カイザーPMC理事に近付いていく。

 

「衰えてなんかいない。眩しいくらいに輝いていた」

 

 誰もが、言葉を失った。息を飲んだ。不気味なあの死のイメージではない、どこまでも美しく、高潔な光のような雰囲気と怒りを纏う彼に。

 

「どれだけ痛めつけられても、叩き潰されそうになっても。光に向かって(もが)いて、足掻いてきた」

 

 ヒドリはアビドス高等学校廃校対策委員会がどれだけ頑張ってきたのかを、よく知らない。

 

 だが、砂漠の中、一等星にすら負けない強い輝きを────どんなに辛くて、苦しくても、日々を楽しく笑おうと歩みを止めなかった彼女らの生命の輝きを、涙が出るほどに食べることを躊躇うほどに美しい生命の輝きを、便利屋68に見出だした輝きに似たものを見たのだ。あの遺骨にも、それを見た。

 

「借金、僕達みたいな何でも屋や傭兵、全部、跳ね返してきた」

 

 胸倉を掴み、真っ赤な瞳でカイザーPMC理事を睨む。

 

「たった二人────いや、たった一人から、一人、また一人と希望を、夢を繋いできたんだ」

 

 ヒドリの鼻に漂ってきた、遺骨と同じ希望や夢の匂い。それはアビドス高等学校廃校対策委員会全員が纏う匂いである。

 

「私利私欲のためにアビドスを潰そうとしたお前が、それを消せるわけがないだろ」

 

 カイザーPMC理事の巨体を放り投げて、回し蹴りを叩き込んだヒドリは食べる価値もないと吐き捨てて、息を整えた。

 

「……すみません。いいところ、全部持っていってしまって」

 

「うへ、気にしないで。言いたいこと全部言ってくれてありがとね」

 

「……やっぱり脱出してましたか、ホシノ先輩」

 

 瓦礫の下にあった地下室への道、そこに立っていたのは、いつも通りの笑みを浮かべる小鳥遊ホシノだった。

 

「いやぁ、ごめんごめん。意外と地下室の見張りが多くてさぁ」

 

 武器もない状態では、見張りを制圧するには時間がかかったとぼやくホシノ。そんな彼女はどこかスッキリしたような表情を浮かべている。

 

「おじさん、もう少し頑張ってみるよ」

 

「そうですか」

 

「うん。これでもアビドスの先輩だし。それに……託されたからね」

 

「……なら、その先輩としての責任を果たしてあげてください」

 

 ヒドリの視線の先には、それぞれの笑顔を浮かべてこちらに向かってくるアビドス高等学校廃校対策委員会と先生────そして便利屋68。

 

「「「「ホシノ先輩!」」」」

 

「うへぇ~!?」

 

 もみくちゃにされて悲鳴を上げるホシノを一瞥して、ヒドリは便利屋68に合流する。

 

「“助かったよ、ありがとう”」

 

「仕事をこなしたまでよ。また何かあったら言ってちょうだい」

 

「ヒドリ君ってば、さっき凄く怒ってたねー?」

 

「あれだけ怒ってるヒドリは久しぶりに見た」

 

「そう、ですね……確かに……」

 

「はい。何か気に入らなかったので」

 

「うんうん、ちゃんと成長してるね。偉い偉い!」

 

 話をしながら、しっかり帰りの準備をしている便利屋68。やはりどこから取り出したのか分からない頑丈な籠を組み立てて、ヒドリは先生に声をかける。

 

「それでは先生。僕達はこれで」

 

「“皆と話さなくていいの?”」

 

「いいんです。僕はアビドスではありません。僕は便利屋68の社員兼足係ですから」

 

「“……そっか”」

 

「はい。……それでは」

 

 翼を広げ、天高く羽ばたく。アビドスの砂漠の先で、昇ってくる朝日を浴びて、便利屋68はアビドスの大地を後にした。

 

 

 

 

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