突然変異緋色のゲヘナ学園生徒   作:エヴォルヴ

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イメージはイベストです。

ゲヘナ学園のスキル上げに使うアイテムとかたくさん手に入るイベントです。欲しい……私によこせ……(願望)


便利屋68とお祭り騒ぎ~ゲヘナ学園食事祭~

 ヒドリの朝は早い。アルがなぜか五人で眠れるくらいのベッドを買ったため、便利屋68全員が一緒に寝ているベッドで目が覚めたら、ヒドリの翼を握って眠っている便利屋68メンバーを起こさずに抜け出す。

 

「……」

 

 覚醒しかけている意識を動かして、事務所のキッチンに訪れる。冷凍庫に入れていたティーパック茶を取り出して、マグカップで飲む。その頃には意識が完全に覚醒して、いつものヒドリだ。

 

「おはよ、ヒドリ」

 

「あ、カヨコ先輩。おはようございます。お茶、飲みます?」

 

「ん、貰うよ」

 

 シャワーを浴びていたらしいカヨコが風呂場から出てくる。彼女がヒドリから受け取ったお茶は、給食部の食料輸送護衛の報酬で譲ってもらったハーブティーで、一つ一つパックで小分けにされている。毎日朝に飲むのがヒドリの楽しみなのだ。

 

 口の中に広がるハーブの香りを楽しみながら、カヨコはそういえば、と口を開く。

 

「ヒドリは色々食べるけど、記憶に残るくらい美味しかったものってあるの?」

 

「人間」

 

「それ以外は?」

 

「……給食部が作ってくれた料理と……あ、便利屋の皆で食べたものは何でも覚えてますよ」

 

 屈託のない笑みで答えたそれに、カヨコは小さく笑みを返した。その言葉に表裏はなく、純粋に美味しかった思い出を伝えてくれる。便利屋68の誰か────もしくは全員で食べたものは全て覚えていると言ったことは、カヨコにとって嬉しくあった。

 

「じゃあ、最初に食べたのは覚えてる?」

 

「皆でなら……水炊きでしたね。カヨコ先輩とは……キャラメルアイスでした」

 

「よく覚えてるね」

 

「全部覚えてますよ。カヨコ先輩にカビたパンを食べようとして怒られたのも覚えてます」

 

「ふふ、そんなこともあったね」

 

 まだ安定した食事や欲求のコントロールができていなかった頃、ヒドリは餓えから逃れるために、腐っていようがカビていようが食べようとすることがあった。その度にアル、ムツキ、カヨコ、ハルカの誰かに怒られて、矯正していったのである。

 

「あの頃から変わったね、ヒドリは」

 

「変わりましたかね?」

 

「うん、変わったよ」

 

 酷い時には、唸り声を上げながら自分の腕や翼を噛み千切ろうとしたこともあった。この仕事が安定するまでは────定期的に血を啜らないといけないほどに、ヒドリは不安定だった。それからだろうか……便利屋68も、ヒドリも変わり始めたのは。

 

「少なくとも……血を飲まなくてもお腹空かないでしょ?」

 

「はい。……あの時はありがとうございました」

 

 ヒドリのような異常を収容して実験しようとするような連中がこの話を聞けば、嬉々としてヒドリに血を与える実験を行うだろう。そして滅ぶ。諸行無常である。

 

「いいよ。今ヒドリがこうしてるから、私達も助かってる。……ところで、血にも味とかあるの?」

 

「ありますよ。カヨコ先輩はアフォガートで、ハルカさんはブドウ……ムツキ先輩は蜂蜜で、社長はココアです」

 

 何の躊躇いもなしに味を伝えてくる。今まで知らなかったヒドリが感じていた便利屋68の味。

 

「それはそうと、カヨコ先輩。今日の朝ごはんは少し少なくしましょう」

 

「? 別にいいけど、何かあった────って、ああ、そういうことね」

 

「はい、お祭りですよ」

 

 美味しいものを皆で食べよう────その思いからヒドリが一人で企画、人員集めを行ったイベント、ゲヘナ学園食事祭。数ヶ月に一度行われるそれのため、ゲヘナ学園生徒の中にはダイエットをしたりする者もいる。その開催初日が今日なのだ。

 

「牡丹肉ですよ、牡丹肉。僕もフウカさん達とメニューを監修したんです」

 

「確か、初日は揚げ物なんだっけ?」

 

「はい。二日目は焼き物で、最終日に鍋です」

 

 我こそがとゲヘナ学園だけではなく、各学園自治区から出店しに来る店もある。その中にはキヴォトス生徒やプロも含まれる。ゲヘナにはあの美食研究会がいるというのに、恐れを知らぬ猛者ばかりだ。

 

「ヒドリは店出すの? 揚げ物なんて、得意分野じゃん」

 

「テントは借りてますよ。ただ……連邦生徒会からの許可が降りませんでした……!」

 

「あー……残念だね」

 

 思い出すのは、おいしさやばげなスカーレット・フライドチキン騒動。連邦生徒会が禁止したあれがあるため、ヒドリはテントを借りられても、初日の出店は不可能なのだ。二日目は焼き物……ハンバーグやボロネーゼなど、焼いたり炒めたりするものをメインとする店が追加される。ヒドリが出店できるのはその日から。最終日は巨大な鍋を使った牡丹鍋のため、給食部が担当である。

 

「せっかくメンチカツとか、牡丹カツとか作ったんですけどね……」

 

「まぁ、次の機会があるよ、多分」

 

「はい。……というわけで、初日と最終日は皆さんで回りたいと考えてます」

 

 ヒドリの餓えを凌ぐ方法は大きく分けて三つ存在する。一つは祝詞を唱えた人間を赤い原野に招き入れて捕食すること。二つ目、友人と共に食事をすること。そして三つ目が……食事をするたくさんの人間の感情を少しずつ喰らうこと。述べた順に効率がいい。

 

「なら、皆を早く起こしてこないとね」

 

「そうですね。僕が起こしてきます。カヨコ先輩、ご飯の用意してもらえますか? 残り物ですけど」

 

「分かった」

 

「ところで、何か嫌な夢でも見ましたか?」

 

「……何でもないよ」

 

「そうですか」

 

 そう言ってヒドリは寝室に消えていく。いつものようにアル、ムツキ、ハルカを起こすのだろう。それを見送り、キッチンに立ったカヨコは、呟く。

 

「変な夢を見ただけだよ」

 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 

 祭り開催の合図となる昼間でも輝く花火が打ち上げられるゲヘナ学園自治区、広場。たくさんの店舗が立ち並ぶそこに、ヒドリ達便利屋68はいた。

 

「さぁさぁ、回りましょう。揚げ物メインとはいえ、他にも串焼きとかも売ってますよ」

 

「本当に大規模になったわね、このお祭り」

 

 最初は、ヒドリが餓えを凌ぐために一人で黙々と料理を作って振る舞うだけのイベントだった。そこに給食部が加わり、料理や出店に興味がある生徒が加わり、少しずつ大きくなって、遂にはゲヘナ学園全てを巻き込む祭りになったのである。

 

 第二回は給食部と便利屋68による合同巨大カレー。第三回はラーメン、第四回はゲヘナ学園創立記念寿司……その後も何度も何度も開かれて、今では定期的に開催される祭り。ちらほら見える、ゲヘナ学園以外の制服を着た少女達や一般人。何だか只者ではなさそうな狐集団がいたり、公園で暮らしていそうな兎集団がいたり、史上最強のペロキチがいたり……エデン条約が締結されていないはずだが、幾人かの黒い服を着ているトリニティ生徒もいる。

 

 規模が大拡張された祭りを初期から見ていたからこそ、感慨深く呟いたアルに、ヒドリは笑う。

 

「エデン条約が締結されたら、トリニティも巻き込みます」

 

「トリニティもですか……でも、いいんですか? あの学園の生徒は……」

 

「? 何かありましたっけ?」

 

「ヒドリ君、石投げられたことありましたよね……?」

 

 ハルカにそう言われて、ようやく思い出すヒドリ。トリニティ総合学園自治区をミラクル5000を買って喜びながら歩いていたヒドリは、気味が悪い、ミラクル5000を買ったという醜い嫉妬などの理由で石を投げられたことがあった。それをやった生徒は偶然通りかかったヴァルキューレの生徒に逮捕されたが。

 

 ヒドリは気付いていないが、言葉による攻撃もされている。たとえ聞いていたとしても、ヒドリは気にも止めないが。その辺に転がっている石を気にする人間はいないのだ。

 

「いいんですよ。それに、ヒフミ先輩とか、ツルギ先輩とかもいるんです。悪い人ばかりじゃないですよ、トリニティ」

 

「ツルギ……? どうしてヒドリ君が正義実現委員会の人と?」

 

「え? 屋根の上でぼんやりしてたら会いました。紅茶淹れるの上手なんですよ」

 

 妙なところで縁を広げてくるヒドリ。そんな彼は便利屋68を先導しながら、トンカツならぬシシカツ店のテントに訪れる。出店願いが来ていた時からマークしていた店だ。

 

「ヒレカツ5つください」

 

「あいよ! ヒレカツ5つ入りやしたー!!」

 

「「「ありがとうございます!!」」」

 

 気迫のある声が響き、衣が油で揚げられる音が耳を叩く。朝食を少なめにしていた便利屋68は、それだけで食欲が沸いてくるというものだ。五人で1000円ちょっと。低価格でプロの味を楽しめるのも、この祭りの醍醐味でもある。

 

 ちなみに、生徒が出している店は無料で料理を食べられる。無論、給食部が審査した選りすぐりなので、味も満足できる出来映えだ。

 

「はい、お待ち! 猪のヒレカツだ!」

 

「ありがとうございます」

 

「揚げ物は揚げたてが一番よね」

 

 食欲をそそらせるヒレカツをハフハフと噛れば、臭みのない深い赤身の旨味がやってくる。

 

 牡丹肉は本来クセも食べにくさもほとんどない、非常に旨味の濃い肉なのだ。

 

「あら、想像以上に美味しいわね、これ!」

 

「へぇ、猪ってこんな味なんだ。豚肉に似てるね」

 

 味わいは豚肉に似ているが、赤身は豚肉に比べてより濃厚で臭みがなく、もちもちとして押し返すような弾力がある。そして深い滋味、甘みを味わうことができる。

 

「しつこくもないから食べやすいね。このサルサソースも美味しい」

 

「ピリ辛で、さっぱり食べられます……!」

 

 更に驚くべき美味は脂身で、とろけるようでありながらしつこさ、脂っぽさを感じさせない。食感はサクサクしており、さっぱりとしたコクが舌に広がるのだ。

 

 迅速かつ丁寧に処理された猪の肉を料理人が調理する。美味しくならないわけがない。

 

「……うん、美味しい」

 

「ヒドリ君、口に衣が付いてるよ」

 

「え? ああ、すみません」

 

 口元を拭き取り、また食べ始めるヒドリ。そんな彼を便利屋68の面々は笑みを浮かべて見ていた。

 

 朝にカヨコが言った通り、ヒドリの不安定な時期を知っているからこその表情。彼女らが変わったのも、不安定なヒドリがいたからこそだろう。

 

 腐っていようが、カビていようが、餓えから逃れるために何でも食べようとしていたヒドリを知っている。留守番を任せていた頃、人間を、便利屋68を、友人を食べたくないと自分に言い聞かせて、自分の腕や翼を噛み千切ろうとしていたヒドリを見た。

 

 ヒドリが完全に壊れる前に変えなくては、変わらなくてはいけない。四人はその日からヒドリを連れて歩くようになり、多くの依頼をこなすようになった。

 

 ヒドリがいなければ便利屋68の印象は、仕事はやれるけどやらかすことが多い集団という認識だったかもしれない。だが、ヒドリが変えた。ヒドリの存在が便利屋68という組織の繋がりを強くしたのである。

 

「? 何ですか?」

 

「何でもないわ。……さ、次のお店に行くわよ! 私はこのシシメンチが気になるわね」

 

「うーん、私は口直しの飲み物が欲しいな! ほら、このレモネード美味しそうだよ?」

 

「私は……この揚げ餃子が気になります……」

 

「私も口直しが欲しいかな。今日は揚げ物メインみたいだし」

 

「かき氷とかも売ってますよ」

 

 さすがと言うべきなのか、ヒドリはこのイベントに出店している店の品物を全て記憶している。食べ終えたヒドリと便利屋68は、紙皿と割り箸を捨てて、次の店を目指すことに。

 

「ところで、美食研究会は?」

 

「え? ああ、あそこのモニュメントに。ほらあれ」

 

 ヒドリが指差す方向にあるのは、某ペロキチ自慢の力作、グルメペロロ様像(木製)に縛られている美食研究会の姿が。食料と飲み物は支給されているが、首にかけられた「私達はメイン食材をつまみ食いしようとしました」という木札によって白い目で見られているのは公然の秘密。もはや恒例行事である。

 

「正直、僕が作ったスカーレット・フライドチキンが売れなくなった理由の半分は、あの人達にあると思います」

 

「もしかして、私怨が混ざってる?」

 

「まさか。風紀委員会からもやれと言われたのでやっただけですよ」

 

 これに懲りたらちゃんとイベントを楽しんでほしいですね、と呟くヒドリと、懲りないだろうなぁと苦笑する便利屋68。途中で見つけた串カツを手にして歩くそんな五人の前に、見覚えのある人影が。

 

「やーやー、便利屋68の皆」

 

「あ、ホシノ先輩達と……先生。串カツ食べます?」

 

 祭りが、始まった。

 

 

 

 




カヨコが見た夢(声のみ一部抜粋)

「お腹空いたなぁ……」

「美味しくないなぁ……」

「どこにもいないなぁ……」

「…………………………寂しいなぁ……」

「…………………………………………もう、寝よう」

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