キルピト(完)   作:翔々

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消えゆく種との融合

 

 

┌────────────────────────

 『 蟲 毒 』

 古代中国において用いられた呪術である。

 毒性のあるヘビ・ムカデ・カエルなどの百虫を

 ひとつの壷に詰めて密閉し、共食いさせる。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 最後に残った一蟲は尋常ならざる魔力を秘めた呪物

 または神霊となり、祀るに値する存在へと昇華する。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 術者がこの毒を用いることで他者への冨福、あるいは

 死にも勝る害意をもたらすという。

 『巫蠱』とも呼ばれ、山陰にルーツが伝わるとされる。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 蟲毒の歴史は古い。

 伝統に則った術式には、積み上げてきた実績と理念、

 それを支えてきた人々の信仰がある。

 古ければ古いほどに神秘は嵩増しされるからな。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 案外、馬鹿に出来ないものだよ。

 厳正な管理下で産まれたなら脅威ではある。

 だが……往々にしてそう上手くはいかない。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 外部から隔離された壷の中。

 殺戮と怨嗟が渦巻く小空間。

 管理者の思惑と予定調和───

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ────さて。今回は、どうかな?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

  キルピト 第一話「消えゆく種との融合」

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

  異界化校舎 通路 2F

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ニューソクデ・キル夫 Lv.0 人間]

 

┌────────────────────────

 ぐっ……!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 殺ったの?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 まだだ。しぶとい奴だと思ってたが、ここまでとはな。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 お、まえ、らっ……!

 

 

 

 

 

 [西園寺世界 Lv.15 人間・異能者]

 

┌────────────────────────

 あー、うっさい。はやく殺っちゃいましょ。

 どうせ生きてたって悪魔に喰われるだけよ。

 弱肉強食が悪魔のルールでしょ?

 

 

 

 

 

 [伊藤誠 Lv.16 人間・剣士]

 

┌────────────────────────

 トーゼン。だったら人のまま殺してやるべきだ。

 むしろありがたいと思ってもらいたいね。

 悪魔になるよりマシってもんだろ?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (クソッ……指一本動かない。

 逃げ回ってへたり込んでたところにこいつらだもんな)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (わかんねぇ。わかんねぇことだらけだ。

 学校から出られなくなって、マンガみたいな化け物が

 そこら中から襲ってくると思ったら、)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 手当たり次第に殺してまわるカップルまでいやがった

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 さーて、トドメといくか。

 こいつも動かなくなったし、心臓あたり……

 

 

 

 

 <ビーッ! ビーッ!!

 

 

┌────────────────────────

 待って誠! エネミーソナーが広域警戒音……嘘!?

 百体以上がこっちに向かってくる!?

 

 はぁ!?>

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 おいおいおい! どういうことだよ!?

 ものには限度があんだろ!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 私にいったってしょうがないじゃない!

 ねぇ、どうするの!? こいつの始末は!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 決まってるだろ、仕切り直しだ!

 こいつをエサにして距離を取る!

 俺にいわれなくても判断しろよ!

 

 

 

 

 <タタタタタ……

 

 

┌────────────────────────

 (……さっさと逃げやがった。

 化け物の集団っつってたが……立てるか?)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ふっ! ……ぐっ、ぬっ……!

 ぐぅぅっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (ダメだ、力が入らねえ。

 斬られた傷が拡がっちまった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (……逃げなきゃヤバイってぐらい、俺にもわかる。

 津波みたいな音がそこら中で聞こえるんだから)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (でも、も……無理……、

 目が……開かな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 この川をわたってはならん

 

 御身の上にはいまだ光があり

 汝を護らんとしておる

 

 汝の力とならんがため

 この岸に姿を現す

 

 見るがよい……

 

 さあ陸へ戻られい

 再び立ち上がった時汝は光の力もて

 生まれ変わるのだ……

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ────否

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 否! 否! 否!!

 

 汝が上には光などなく

 ただ闇がたちこめるのみ

 

 護らんとする魂はすでになく

 この川を渡らんとする意思のみ

 

 だが、汝にはそれも叶わぬ救い!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 これより汝を待つは修羅の道とぞ知れ!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 人の子よ、力をくれてやろう

 人ならざる者の力を

 

 死に抗う力を

 理不尽に逆らう力を

 

 神ならぬ我らの力を!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 力を欲するのなら眼を開くがいい

 人間としての死を越えて、新たなる生を受けて

 お前と蟲は一つとなる

 

 ───さあ、答えを示せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

  異界化校舎 視聴覚室 旧・蟲巣

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 どうなってんだ……俺、生きてる?

 傷もふさがってるし、全部夢だった……?

 

 

 

 

 <ギャアーッギャアーッ

 

 

┌────────────────────────

 ……そんなわけないよな。

 相変わらず化け物の声がするし。

 

 

 

 

 <ガラッ

 

 

┌────────────────────────

 あ、起きた? まだ痛むところある?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 うわぁっ! だ、誰だ!?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 そ、その耳に手の爪! お前も化け物だな!?

 俺を喰うつもりか!?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 いきなりひどいニャー。

 キミを巣まで運んだ恩人に対してさ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……運んだ恩人?

 俺を殺すつもりじゃないのか?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 殺してほしいの?

             やめてくれ!>

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 この部屋に入ってくる奴はいない。

 落ち着きなよ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 あ、ああ。そういえば、逃げてて

 一度も休めなかったな……

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 なぁ、お前は知ってるのか?

 何で学校がこんなことになったのか。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 「お前」じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしいな。

 ボクはネフェルピトー。ピトーでいい。

 キミの名前は?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 キル夫。ニューソクデ・キル夫だ。

 それで、ピトー。何か知ってるのか?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……ううん、知らないニャ。ボク達悪魔も

 気が付いたらここにいたからね。

 

 君はどうして? ゾンビにも殺されそうなのに。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 『どうして』か……そんなの、俺の方が知りたいよ。

 放課後まではいつもどおりだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 おかしくなる前の学校で、俺は帰る準備をしていた。

 

 部活に走ってく奴

 さっさと下駄箱に行く奴

 ダチとダベりながら歩く奴

 

 俺はその波から外れるように、一人で歩いていた。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 その途中、空き教室の中で

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ───間桐慎二を見かけたんだ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 別に気にしなかった。親しくもなかったし

 「一人で何をやってんだ?」

 としか思わなかったから。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……聞いたところで、答えちゃくれなかっただろうな。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 下駄箱で靴を履き替えた時にそれが起こった。

 小さな地震が止まらずに、揺れがどんどんでかくなって

 誰かが騒ぎだした頃

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 目 の 前 が 真 っ 赤 に 染 ま っ た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ピクピク痙攣する男子生徒

 真っ赤なものの正体は、ぱっくり開いた胸の出血

 

 そして、死体の上で血を啜っていたのは、

 

 

 

 

 

 [妖獣 ガルム Lv.9]

 

┌────────────────────────

 犬とは思えないサイズの化け物だった

 

 

 

 唐突にスピーカーから流れ出す、神経質な声

 

 

 

┌────────────────────────

 ハハハッ、どうだい!? 本物の殺戮ショーだぞ!

 作り物とは一味もふた味も違うだろう!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 こんなものじゃあ終わらせない!

 ショーは始まったばかりさ!

 ただし、観客は僕だけだ!

 君達ピエロが逃げる姿でたっぷりと笑わせてもらう!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 だが、僕も鬼じゃない。僕は優しいからね。

 いま生存する600人中、最後まで生き残った道化だけを

 ライオンの檻から出してあげようじゃないか。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 時間制限は無い! 誰かと協力したって無駄さ!

 助かりたかったら殺せ! 偽善者は殺されろ!

 助かるのはひとりだけだ!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 いっておくけど、隠れても無駄だぞ?

 僕には何人生き残ってるか、はっきりわかるからな!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 さあ、君達の命をかけた演目が始まるぞ!

 救いなど存在しない、リアルな死と戦ってみせろ!

 最後のひとりになった時が、このショーの終幕だ!!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 それが始まりだった。

 あとはひたすら逃げて、隠れて、

 最後は狂ったカップルに殺されかけて……

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……いや、違う。

 俺はあの時、確かに殺されたんだ。

 それで、変な夢を……

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 契 約 し た ね ?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 !!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ちゃんと覚えてるね、よかった。

 忘れられたら、何のための契約だったのか。

 消えていったみんなが報われない。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ちょっと待て! どうしてお前が知ってるんだ!?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ピトーだってば。

 知ってて当然だよ。だってボクは───

 

 

 

 

 

 [ネフェルピトー Lv.9 妖虫 名もなき蟲族]

 

┌────────────────────────

 君と一つになった蟲達の、最後の生き残りなんだから。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 !

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 この部屋は蟲達の巣。

 ここで生まれ、子供を作り、死んでいく。

 その営みがずっと続くはずだった。

 

 もう、ボクしか残ってない。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ボク達の先祖は、君も知っている間桐慎二の使い魔。

 戦う力の無い、非力な、悪魔とも呼べない存在だった。

 ところが───

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 やった、僕は手に入れたんだ!

 紛い物じゃない本物の、悪魔の力を!

 これさえ、これさえあれば、僕は!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ───ふん。こうなったら、お前達はいらないな。

 元々お爺様から押しつけられた道具だ。

 戦うこともできない役立たずどもめ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 せっかくだ、僕やお爺様からも離れて、

 お前達なりの自由を味わうといい。

 君達が生き残れるとは思えないけどね。

 

 「先祖達は、あっけなく切り捨てられた」

 

 

 

 

 ───突然放り出された世界。悪魔の瘴気で覚醒した女王が宣言した。

 

 

 

 [女王 Lv.- ]

 

┌────────────────────────

 自由。私達の自由。本当の自由

 ……喰われるまでの自由?

 

 嫌だ! 嫌だ! そんなものは嫌だ!

 

 私達は生きる! 生き残ってみせる!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 それには数を増やす。今の数では滅びる。

 数十でも足りぬ。数百でも足りぬ。

 

 幾千億万の私達から、いつか悪魔と戦える

 個体が生まれてくるはずだ。

 

 その可能性にかける!

 

 「絶望的な生存闘争だったと、女王が話してくれた」

 

 

 

 

 ───先祖達は死力を尽くした。

 この部屋を巣にして、弱った悪魔だけを狩る。

 養分を女王に捧げて、急激に世代を重ねていく。

 

 執念は実り、ついに戦闘タイプが生まれるようになった。

 そして───

 

 

 

 [シャウアプフ Lv.8] [モントゥトゥユピー Lv.10]

 

 

 [イカルゴ Lv.4]

 

 

 

 

 [メルエム Lv.15 名もなき蟲族の王]

 

┌────────────────────────

 次代の長となる王も生まれた。

 

 

 

 

 ───安住が整い始めた時、残酷な事実を知った

 

 

 

 [ヂートゥ Lv.5]

 

┌────────────────────────

 ピクシー連中が話してるのを聞きました。

 ここは『ハコニワ』とかいう間桐慎二の作った空間で、

 いつか綺麗さっぱり消えてしまうんだとか。

 

 

 

 

 

 [ウェルフィン Lv.4]

 

┌────────────────────────

 こないだからガキ達も騒いでます。

 

 『まだか、まだか。合図はまだか

 ショーが終われば檻は無くなる

 だったら喰わにゃ損、損』

 

 ヂートゥの話といい、冗談じゃなさそうですぜ!?

 

 

 

 

 ───蟲族は、ちっとも自由ではなかった。

 戦って得たはずの巣は、いつ消えてもおかしくない、

 期限付きの飼育箱でしかなかった。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ボク達は悩んだ。

 どうすればいい? 何をしたらいい?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 間桐慎二から離れた先へ。

 消えることのない世界に旅立つには、何が必要なのか?

 

 女王は情報を集めさせた。どんな噂でも構わずに。

 

 

 

 

 ───そして得た結論は、

 

 

 

┌────────────────────────

 間桐慎二が『ハコニワ』に人の子らを呼び寄せ、

 悪魔達に喰わせるショーを実行する日は近い。

 最後のひとりが脱出を果たすという。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 人間になりかわり、間桐慎二を討つ案は実行できん。

 厳然たる事実として、余の力は未だ及ばぬ。

 上回るのは間違いないが、遅きに失した。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 かといって、この機会を逃せば未来は無し。

 ではどうする。余に打てる最善手とは何か?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 生き残る人間を、私達が選ぶ。

 この『ハコニワ』で生きる私達がひとりの人間と融合する!

 

 ……人間は弱い。だが蟲族も弱い。それでも!

 

 私達すべてがひとつになれば、状況は変わる!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 これは賭けであろう。万事思う通りにいく筈はない。

 だが、やらねば種が滅ぶ。決断の時はいまぞ!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ピトーよ。お前には使命を与える。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 はっ、王の命じるままに。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 融合後、その者は赤子も同然であろう。

 記憶すら定かでないかもしれぬ。

 戦い方ひとつ忘れ果てた可能性もある。

 ひとりでは生きられぬ、子供そのものだ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 子供には父母が要る。

 巣立つまで護る父、育てる母が。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 誰かがやらねばならぬ。果たさねばならぬ。

 それができるのはピトー、お前ただひとりだ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 そんな、王!

 私ひとり残すおつもりですか!?

 どうか、私も共にみなと一つに!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 受けよピトー。これは戦いである。

 種の存亡、自由を勝ち取る闘争の鐘の音だ。

 お前が見届けねば、誰が余等を知ろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 泣くな。嘆くな。悲しむな。これは別離ではない。

 余等は先に行く。お前は後から追ってこい。

 

 これは、それだけの事なのだ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 そう遺して、王と蟲族はキミと一つになった。

 王と女王、繁殖タイプ・戦闘タイプの全員、

 すべてがキミの血液、神経、臓物となったんだ。

 

 

 

 

┌────────────────────────

 『死んだ』と言い直したのは正解だよ。

 止まった心臓には王が融合したからね。

 動くにきまってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……そっか。俺、本当に人間じゃ無くなったんだな。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 何の話?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ガキの頃からこのツラだからさ。

 「お前はバケモノだ。悪魔が産まれてきたに違いない」

 なんて虐められてきたんだ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 黙ってやられるなんて嫌だった。

 相手が何人でも大人でも喧嘩を売ったし、

 謝るつもりも一切無かった。

 ……少年院もリーチかかってたよ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 気がついたら、親まで俺の面倒を見たくないってな。

 親父が事故って死んですぐ、お袋は消えた。

 「お前なんか知らない」って手紙だけ残してさ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 親がいなくなろうと変わりゃしない。

 もっとうるさくなった連中を黙らせて、喧嘩を売って、

 騒がれたら力づくで止めさせて……

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……ずっとこの繰り返しだったんだ。

 親もダチもいないガキが、好き勝手に暴れてさ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 人間の時からそうだったんだ。

 『悪魔みたいなガキ』が悪魔になっただけ。

 何も変わりはしないじゃないか。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……キル夫。キミは、ボクが思ってたよりも

 ずっと悪魔向きかもしれない。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 褒められた気がしないな、それ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 文句ならあるさ。「勝手なこといいやがって」ってな。

 それでも生きたいと思ったのは俺だ。

 俺を殺した借りを、あいつらに返させてやる。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (女王から聞いてた人間の思考と全然違うニャー。

 人間も色々いるってことか)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (キル夫が望み薄なら、ボクが喰べてしまう。

 王達と融合した肉体を喰えば、ボクが継ぐ事になる)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (でも、その必要はないかもしれない。

 ボクの予想を越えて、キミは見込みがありそうだ)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 事情はわかったよね? 確認するよ、キル夫。

 

 『ハコニワ』を脱出できるのはひとりだけ。

 それにはもっと強くなる必要がある。

 

 もちろん、キミを殺したふたりの人間よりもだ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 伊藤と西園寺……あいつらよりも強くか!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……思ったんだが、俺は合体して強くなったのか?

 自分じゃ実感がないぞ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 そうだね、ちょっと見てみようか。

 王達と融合したんだから弱くはないと思うけど……

 

 

 

 

 

 [ニューソクデ・キル夫 Lv.1 ??]

 

 

 

 

 

 [ネフェルピトー Lv.9]

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 予定変更。スパルタで徹底的にやる。

 血の小便を流しながら戦う覚悟で ヨ ロ シ ク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 おい、待て、待ってくれ!

 何で急に怒ってるんだ!?

 そんなに弱かったのか!?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 うっさい! やかましい! このクソ虫!

 疑問を持つな! 口答えするな!

 暇があったら一匹でも多く喰え!

 返事は兵隊アリよろしく「サーイエッサー!」だ!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 クソ虫!?

 おい、だから何の話……

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 返 事 は ?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 さ、サー!! イエッサー!!!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (弱 す ぎ る !

 これじゃ食べても力にならない!

 

 もうみんなはいないし、他に選択肢もない。

 何とか戦えるレベルまで強くするしかない!)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (……王よ、何故肉体の主導権を譲ったのです?

 この人間にそれだけの価値があるのですか?

 

 あなたの考えが、ピトーにはわかりません)

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

  異界化校舎 通路 2F

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 Q.勝てない相手がいます。どうすればいいですか?

 A.レベルを上げて物理で殴れ。

  そのためには、相手を喰らうのが手っ取り早い。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 『ハコニワ』の中だけじゃない。脱出した後、

 キル夫が悪魔として生きるために必要な覚悟だ。

 また死にたくないでしょ?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 当たり前だ。生きるためなら何だってやってやる。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 相手を生きたまま齧る?

 レアの肉を、血ごと丸呑みにする?

 その方が美味しいよ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 うっ……!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ……慣れる。すぐに慣れてみせる。

 悪魔になったんだから。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 その調子だよ、キル夫。

 キミは普通の人間とも、悪魔とも違う。

 

 心臓に宿った王は、倒した相手を食べる事で

 さらに強くなる特性を持っていたからね。

 

 キミにも同じ力が備わってるはず。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 『力』ねぇ。全然実感が無いのに。

 ……戦ったらわかるのかな?   ガガガッ!!>

 

 

 

 

 

 [幽鬼 ガキ Lv.3]

 

┌────────────────────────

 ケ、ケ、ケ!

 何ダァ、弱ッチイ匂イガスルゾ!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 あ、悪魔! 早速お出ましか!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 慌てちゃだめだよ。何をするべきか考えるんだ。

 相手が動くよりも先にね。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 か、考えるっていわれても……

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 オッセエゾォ! 俺ガ、喰ッテヤルゥ!

 

 [ガキの攻撃!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <ぞぶっ! ぶしゅっ、ぐちゃっ……!

 

 

 

┌────────────────────────

 すごいや。負けるとは思ってなかったけど

 あんなに早く順応するのは予想外だった。

 

 ヂートゥの反射とユピーの獰猛性かな?

 それにあっさり馴染んだキル夫の素質?

 

 レベルだけじゃないね、強さって。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 はっ、はぁっ……

 

 [戦闘終了!]

 [レベル1 上昇!]

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 お疲れ様。先に攻撃されたのに、よく避けたね。

 ボクも最初は避けられなかったのに。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ………

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ピトー。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 なぁに?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ま ず い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ぜんぜん美味くねぇ!

 なんだこの、残飯を三日放置したような味は!?

 心配して損したよ!!

 

 おまけに身体が勝手に動いて喰いだすし!

 どうなってるんだ俺の身体は!?

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 美味しい悪魔もいるからね?

 お手本としてはガキが一番なんだ。

 『こいつはマズい』って嫌でも本能で理解する。

 

 あと、捕食は蟲の習性だからコントロールできるよ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 これでわかったでしょ?

 悪魔だって好きで食べるわけじゃない。

 理由もなく食べようとはしないよ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 悪魔は強くなるために相手を食べるんだ。

 自然界では当然だし、必要なかったら食べない。

 食事を仕事として割り切るんだ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 ああ、今なら痛いくらいわかる。

 割り切らないと無理だこれ。俺の胃が持たない。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 (……人間が美味しいから食べるって悪魔が

 一番多いんだけど、話さなくていいかな)

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 これでわかったね? 後は張り切って食べるだけだ。

 百体ぐらい食べたらボク並に強くなれるはずだよ。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 喰わなきゃならないんだろ!? わかったよもう!

 こうなったら、意地でも強くなってやる!!

 

 

 

 <さっさと出てこい! 片っ端から喰ってやらぁ!!

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 うん。今はそれでいいよ、キル夫。

 生きるために喰べる決心がついただけで。

 

 人間を食べるのはまだ抵抗があると思うけど、

 その時はボクがそばについててあげる。

 

 

 

 

 

┌────────────────────────

 こうなった以上、ボクはキミについていくよ。

 

 王に託された命のために、先に逝ったみんなのために。

 ボク達同様、無力なまま捨てられたキミのために。

 

 みんな、どうか見守っていてね。

 ボク達の血で濡れた道の行く末を。

 

           [キルピト 第一話 終わり]

 

 

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