ティンカーベルの子   作:宵月颯

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壁越

 

ハークラーに続き、フェアリーが所属部隊へ帰還した。

 

賑やかだった拠点も随分と静かになったとウォルターが言っていた。

 

 

『…』

 

 

ボナ・テア砂丘より帰還後、アーキバス社よりメッセージが入っていた。

 

レイヴンはメッセージを開いて内容を確認した。

 

 

『独立傭兵レイヴン、ストライダーの破壊お見事でした。』

 

 

何時もの依頼担当を請け負っているアーキバス社の人員からである。

 

 

『依頼を発行した私としては喜ばしい限りです。』

 

 

彼は依頼達成のお礼と共に自身の正体を明かした。

 

 

『申し遅れました、私はアーキバスグループ傭兵起用担当…ヴェスパー8のペイターと申します。以後お見知りおきを。』

 

 

依頼担当がまさかのナンバーズであった事はレイヴンも内心驚いていた。

 

 

『最後に一つ、フェアリーを保護してくださり有難うございます。』

 

 

彼の言葉から察するにフェアリーは無事にアーキバス社と合流を果たせた様だ。

 

 

『彼女からの推薦もあり、貴方にはアーキバス社から次の作戦の参画の許可が下りました。』

 

 

予定していた壁越えの作戦に参加出来そうである。

 

共にメッセージを聞いていたウォルターもフェアリーに感謝していた。

 

 

『詳細は後日追ってお伝えさせて頂きますので、ご検討をお願いします。』

 

 

そこでメッセージは終了した。

 

 

******

 

 

ボナ・テア砂丘の戦闘から一週間後。

 

予告通り、アーキバス社より直々の依頼通信が入って来た。

 

ウォルターからの説明もあり『壁越え』の作戦に該当する協力要請の依頼である。

 

 

『ヴェスパー第2隊長のスネイルです、これより作戦内容を伝達します。』

 

 

相手はウォルターに対して嫌味を言ってたスネイルというヴェスパー部隊のナンバーズの一人だ。

 

 

『私が立案した作戦行動に臨めることを光栄に思いなさい。』

 

 

今回の通信でも他者を見下した態度である事が声で伝わってくる。

 

 

『ルビコン解放戦線が拠点化した交易上の要衝、通称「壁」を攻略します。』

 

 

モニターに映し出される防衛拠点の映像。

 

 

『敵は多数の砲台とMT部隊により防衛ラインを形成している。』

 

 

元々貿易の要だった場所の為に市街には多数のMT部隊とビルの上に砲台が設置されている。

 

 

『まずはそれを突破し壁上に到達しなさい。』

 

 

ルートから察するに壁に取り付くには要所に設置された砲台を潰す必要があるだろう。

 

 

『そこに配備された重装機動砲台「ジャガーノート」の撃破が、依頼の達成条件です。』

 

 

前回のストライダー程ではないが、手強い強敵である事は間違いない。

 

 

『本作戦においては我がヴェスパーの第4隊長と新人であるヴェスパー10も別ルートから侵攻しますが、先走り壁越えを果たそうとしたベイラム部隊は…ものの見事に敗走しています。』

 

 

次に映し出された映像には敗走したベイラム部隊の姿、その破壊されたACの中に知り合いのACが無かった事は幸いである。

 

 

『せいぜい犬死しないように気を付ける事です。』

 

 

依頼内容を伝えたスネイルの通信は終了した。

 

 

『…』

 

 

飼い犬と駄犬の次は犬死。

 

飼い犬には当然の扱いか…とレイヴンはため息を付いた。

 

依頼内容の確認後、出撃準備中にウォルターに告げられた。

 

 

『ルビコン解放戦線の防衛拠点、通称「壁」を落とす。』

 

 

621は俺の本来の呼び名、レイヴンは通り名だ。

 

ウォルターと二人きりの時は621の名称で呼ばれる。

 

俺が再び戦場に戻る為に契約した番号である事は確かだ。

 

 

『621、お前の価値を示してこい。』

 

 

 

~解放戦線の防衛拠点「壁」周辺に到着後~

 

 

 

『まずは障害物を利用し壁に接近しろ。』

 

 

ウォルターの指示で周辺の障害物を利用し防衛拠点へと距離を詰めるレイヴン。

 

防衛拠点の手前の隙間を利用し市街へ潜入。

 

手前に設置された砲台二基を破壊、続けて壁に向かい点在する敵MT部隊を蹴散らしていく。

 

 

「…」

 

 

壁に設置された数基の砲台を破壊しそれらを防衛する砲撃兵装のMTを破壊したレイヴン。

 

ウォルターの解析で壁内部へと潜入。

 

道中の搬入路でも敵MT部隊が潜んでおり、レイヴンは弾薬を節約しつつ各個撃破。

 

この戦闘と同時に別ルートから潜入したアーキバス社の者から通信が入った。

 

 

『聞こえるか、こちらヴェスパー4のラスティ。』

『…』

『早いな、どうやら話に聞くより出来るらしい。』

『レイヴン、また、会えたね。』

『ヴェスパー10のフェアリーが世話になったと聞いた。礼を言いたい。』

 

 

ラスティと共に通信を行うフェアリー。

 

 

『レイヴンと、壁越える、一緒に。』

『フェアリーの言う通り、こちらもスピードを上げて行く。』

『レイヴン、私達が行く、そっちで待ってて。』

 

 

援軍に向かうと告げる二人の通信はそのまま途絶えた。

 

 

『ヴェスパー部隊の番号付きとフェアリーか。』

 

 

ウォルターもフェアリーとの早い再会には少し喜んでいる様な感じに聞こえた。

 

 

『だが、ここはベイラム部隊も退けた「壁」だ…余り当てにするな。』

『…』

 

 

レイヴンは独立傭兵としてここに来ている。

 

協力関係であっても当てには出来ない。

 

レイヴンは壁内部に潜入後、敵MT部隊を殲滅しつつリフトを利用して壁の上層へと移動した。

 

 

『レイヴン、補給シェルパを手配した。補給しろ。』

 

 

リフトで上層へ移動後、ウォルターが手配した補給シェルパと合流しACの補給を済ませた。

 

壁突入で節約していた弾薬が底を尽きかける手前だった事もあり有難いとレイヴンは思う。

 

補給完了後、壁上へ繋がるシャッターを開閉し目的の場所へと向かった。

 

既にジャガーノートとの戦闘は開始しており、フェアリーのACとラスティのと思われるACが交戦していた。

 

 

『お兄ちゃん、レイヴン、来た。』

『君がレイヴンか?』

 

 

二人もまたレイヴンのACを確認し通信を送って来た。

 

 

『あのハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな。』 

 

 

二機を追って来たと思われるジャガーノートらしき大型兵器も出現。

 

 

『これも巡り合わせだ。』

 

 

ラスティの合図と同時にレイヴンも武器を構えた。

 

 

『共に壁越えと行こうじゃないか?』

 

 

ジャガーノートに対して迎撃態勢を整えた三機はラスティの指示で行動を開始した。

 

 

『重装機動砲台ジャガーノート、正面から攻めるのは得策じゃない。』

『ティンカーベルは上空からミサイルを迎撃、私のスティールヘイズのスピードで攪乱する、君は背後から叩いてくれ。』

『…』

『フェアリーもそれで頼む。』

『ん、分かった。』

 

 

フェアリーは上空からジャガーノートのミサイル弾幕を妨害しミサイル兵装への攻撃を開始。

 

ラスティが高機動を駆使しジャガーノートを攪乱。

 

レイヴンは手薄となった背後に距離を詰めて攻撃を加えた。

 

行動中もジャガーノートは突撃攻撃や砲台からの砲撃を繰り返す。

 

対応出来るACが居る分、ジャガーノートは次第に劣勢に追い込まれていた。

 

 

『済まない、本隊からの連絡でこちらに解放戦線の部隊が接近中との事だ。』

 

 

ジャガーノートとの交戦中。

 

ラスティは通信でスネイルからの指示によりフェアリーを連れて接近中の部隊に対応しろと指示が下った。

 

 

『フェアリー、私達はそちらに回れと言われている…この場はレイヴンに。』

『大丈夫、レイヴンは、強い。』

『!?』

 

 

フェアリーの言葉通り、レイヴンのACはジャガーノートのメインジェネレーターにありったけの弾薬を打ち込みパルスブレードで切り裂いた。

 

そう、ラスティらが本隊からの命令で離脱する前に既に殲滅していたのだ。

 

 

『…』

『レイヴン、うん、ありがとう。』

『フェアリー?』

『次の痛い痛いに、レイヴンが、手伝う。』

『判った。レイヴン…いや、戦友の助力を願おう。』

 

 

ジャガーノート殲滅後、レイヴンはラスティらと共に解放戦線の増援部隊の撃破に向かった。

 

 

~壁の掌握後~

 

 

レイヴンの介入により解放戦線の防衛拠点である壁はアーキバス社の手に堕ちた。

 

独立傭兵として第一関門である壁越えを果たした。

 

俺も名を刻む事が出来ただろう。

 

 

「…」

 

 

防衛拠点の各所に上がる煙はまだ収まりそうにない。

 

レイヴンはジャガーノートが沈黙した壁上の広場にACを着地させ、回収ヘリが来るまで待機していた。

 

 

「レイヴン?」

 

 

コンコンと自身のACの装甲を叩くフェアリーがモニターに映っていた。

 

どうやら近くにACを着陸させてからこちらに来たのだろう。

 

 

「ラスティ、お兄ちゃんが、お礼を言いたいって?」

「…」

 

 

モニターから周囲の映像を拡大させると手を振って合図するラスティと思わしき青年の姿があった。

 

レイヴンはコックピットから出て外の様子に眼を向ける。

 

防衛拠点周辺にはアーキバス社が設置した汚染物用の浄化装置が稼働している。

 

これにより人体への汚染物質の影響はない。

 

だが、視覚補助デバイスであるバイザーを外せないので直に景色を見る事は出来ない。

 

そもそもバイザーを付けていなければ、視覚も何もないが…

 

 

「今回の作戦への協力に感謝する。」

 

 

ラスティと対面し彼から礼を告げられるレイヴン。

 

声帯補助のデバイスから会話をする際は驚かれたが、フェアリーが説明していたのだろう。

 

自身の状態をあっさりと受け入れていた。

 

 

「ボナ・テア砂丘の掌握までフェアリーが世話になった、彼女を救ってくれて感謝する。」

「…」

「いや、君が連れて来てくれなければ…彼女はそのまま撃ち落とされていただろう。」

 

 

右も左も分からない状態のフェアリー。

 

あの場所でレイヴンに出会わなければ、裏稼業の者に連れ去られてヒューマンショップにでも売られていただろう。

 

それにフェアリーは儚さを残した美少女の部類に入る見目だ。

 

最悪…下種な人種の餌食になっていたかもしれない。

 

 

「レイヴン、あげる。」

 

 

フェアリーはレイヴンに包みに入ったキャンディを手渡した。

 

糖分やビタミン類などの栄養補給の為に造られた人工物の塊の様なもの。

 

企業本社のある星で製造されている高価な天然物とは程遠い代物だ。

 

だが、甘いものが好きなフェアリーは気に入っているらしい。

 

 

「これ、私も、好き。」

 

 

フェアリーが好んで食べているのはフルーツ風味のキャンディ。

 

部隊の資産管理担当でもあるヴェスパー7のスウィンバーンがフェアリーに数学を教える過程で渡したものだ。

 

今では在庫管理の練習を兼ねて学んでいる。

 

元々金銭の意味も知らなかった事もあるのでスウィンバーンも教え甲斐があっただろう。

 

 

「…」

「レイヴン、キャンディ大丈夫?」

「…」

「良かった。」

 

 

レイヴンは第四世代型の強化人間、過去の負傷で現在の姿になり…

 

その肉体の多くは人工臓器に置き換わっていると聞いた。

 

フェアリーの渡したキャンディを味わう事は出来ない。

 

…恐らく味覚すらも失っているだろう。

 

だが、彼はフェアリーの気持ちを察して受け取ってくれた。

 

今は補助デバイスでフェアリーと会話を続けている。

 

 

「レイヴンと、約束の、壁越え、出来た。」

「…」

「レイヴンは、これから、どうするの?」

「…」

「次の依頼を、受ける?」

「…」

「仕事が、いっぱい、だね。」

 

 

独立傭兵である彼は壁越えを果たした。

 

今回の事で彼の腕前は証明された。

 

多くの依頼が入るだろう。

 

味方になれば、敵にもなるだろう。

 

出来る事なら共闘関係を続けたいと思っている。

 

 

「レイヴンの、迎えのヘリ、来た。」

 

 

壁上から目視出来る範囲にウォルターの寄越した回収ヘリが向かって来ていた。

 

壁越えの依頼を遂行した彼との別れの時でもある。

 

レイヴンとの別れを寂しそうにするフェアリーもそれを理解していた。

 

私は彼にアーキバス社が暗躍していた事を教えた。

 

 

「レイヴン、アーキバス社は…君達、独立傭兵を囮として露払いさせヴェスパー部隊で壁越えをする予定だった。」

「…」

「私達にとってもそれは不可抗力だ、君と壁越えを成功出来た事を誇りに思う。」

「…」

「また会おう、戦友。」

 

 

レイヴンは去り際にラスティにハンド合図を送るとACに搭乗し回収ヘリとドッキング後、撤退した。

 

去って行くレイヴンの回収ヘリを見送るラスティとフェアリー。

 

フェアリーはラスティに質問した。

 

 

「また会える、かな?」

「この地に居る以上は会う事もあるだろう、だが…彼は独立傭兵だ。」

 

 

依頼次第で敵にも味方にもなる。

 

ここが戦場である以上は…

 

 

「フェアリー、任務次第で彼と戦う事もある事は覚悟して置くんだ。」

「…うん。」

 

 

私は寂しそうな表情を見せるフェアリーに寄り添った。

 

 

=続=






※フェアリーのキャンディ


補助的な栄養補給や嗜好品の一環で支給されている。

未成年者の嗜好品として煙草や酒類を支給する事が出来ないフェアリー用の支給物の一つ。

コーラル由来の人工物であり、天然とはかけ離れた人工栄養素に甘味料と香料で作られた代物。

今の所、支給される嗜好品は菓子類やフリーズドライにされたフルーツバーが多い。


※ヴェスパー10

ボナ・テア砂丘より帰還したフェアリーに与えられたコールサイン。
ヴェスパー部隊のナンバーズとして認められた証だが、隊長職は与えられていない。
空からの攪乱戦術を必要とする時や各隊長の援護を兼ねている為の措置である。
主に第4部隊のラスティと組む事が多い。

スネイルからは『ナンバーズになった以上は敬語を使う様に。』と言われている為、作戦会議やスネイル達の前では不慣れながらも敬語を使用している。

ウォルターの元で学んだ甲斐もあり、ある程度の戦況は理解出来る様になった。
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